み―立場の違いに着目して―
著者
小林 大介, 萩臺 美紀, 高木 源, 坂本 一真, 二本
松 直人, 若島 孔文
雑誌名
東北大学大学院教育学研究科研究年報
巻
68
号
1
ページ
173-188
発行年
2019-12-26
URL
http://hdl.handle.net/10097/00126994
本研究の目的は,萩臺他(2018)により提案された海上保安庁ハラスメント・チェックリストにつ いて,加害者,被害者,傍観者という3つの立場から見たハラスメント行為について検討を行い,そ れぞれの尺度の信頼性を明らかにすることである。海上保安庁職員94名を対象に質問紙による調 査を行った。質問紙は,萩臺他(2018)が作成した海上保安庁ハラスメント行動尺度を,加害者用, 被害者用,傍観者用に修正したものを用いた。因子分析の結果,パワー・ハラスメントとセクシャル・ ハラスメントの尺度について,加害者,被害者,傍観者の立場の違いによって,それぞれの尺度の構 成概念が異なることが示された。また,信頼性を検討するため,それぞれの尺度についてα係数を 算出したところ,十分な値を示した。最後に,海上保安庁ハラスメント・チェックリストについて, 立場の違いによる尺度としての利用可能性と課題について考察を行った。 キーワード:ハラスメント 海上保安庁 加害者 被害者 傍観者
Ⅰ.問題と目的
現在,ハラスメントは深刻な社会問題となっているが,その対策に向けた取り組みについては十 分になされているとは言い難い。厚生労働省(2017)は,ハラスメントの予防・解決のための取り組 みを行っている企業は,全体の52.2% に過ぎず,中でも,規模の小さい企業においては,対策が行わ れていない傾向があることを報告している。また,職場におけるハラスメント対策については,「相 談窓口の設置」が主な取り組みであるが,職場でハラスメントを受けた人物の40.9% がその後の対 応として「何もしなかった」と回答していることが報告されており,その理由としては,「何をして も解決にならないと思ったから(68.5%)」という回答が最も多くあげられている(厚生労働省, 2017)。この点からも,ハラスメントの被害を受けたとしても,何も行動せずに我慢するという対処海上保安庁ハラスメント・チェックリスト開発の試み
―立場の違いに着目して―
小 林 大 介
*萩 臺 美 紀
*高 木 源
*坂 本 一 真
*二本松 直 人
*若 島 孔 文
** *教育学研究科 博士課程後期 **教育学研究科 准教授― ―174 が多くなされていることが考えられる。仮に相談を考えても,組織の中での不利益や,被害のエス カレートを想定すると,実際に窓口に相談を行うことには,大きな抵抗が伴うことが予想されるだ ろう。以上の点を踏まえると,ハラスメントの問題を改善するためには,「相談窓口の設置」のよう な被害者の相談を待つというパッシブな取り組みだけでなく,企業や外部機関が積極的に介入し, ハラスメントの状況を精査していくアクティブな取り組みによって,ハラスメントの状況を理解し, 改善していくことが求められる。 ハラスメント問題に対するアクティブな取り組みの一つとして開発されたのが海上保安庁ハラス メント・チェックリスト(萩臺・小林・坂本・高木・若島,2018)である。このチェックリストは,組 織におけるハラスメント行為を,「個人の不快感」と「組織における許容度」の観点から捉えている。 「個人の不快感」とは,被害そのものに対する被害者の不快な感情を示し,「組織における許容度」は, ある組織の中での行為が,業務上起こりうるものとして,どの程度受け入れられているかを示して いる(例えば,警察や消防,自衛隊,海上保安庁では,緊急時の暴言や身体接触はある程度許容され るだろう)。萩臺他(2018)では,チェックリストの項目作成にあたり,海上保安庁職員を対象にイ ンタビュー調査を行い,これまでに実際に受けたハラスメント行為,これまでに自身がした行為の 中でハラスメントに当たると思われる行為,これまでに見聞きしたハラスメント行為の3点の聞き 取りを行った。そして,これらのハラスメント行為について,不快感と組織における許容度を5段 階で評価してもらい,不快感が高く,組織において許容的でないものを抽出し,「ハラスメント行動 尺度」を作成し,信頼性と妥当性の検討を行った。その結果,「ハラスメント行動尺度」は一因子構 造であることと,信頼性と妥当性が確認された。 しかし,「ハラスメント行動尺度」には3点の課題が確認される。まず,a)ハラスメント行動尺度 では,個人がどの程度のハラスメントの被害を受けているかを測定する尺度のため,加害者側の視 点が測定できていないことがあげられる。DV 等の暴力に関する研究を踏まえても,加害行為を測 定する尺度を作成することは,加害者の心理的な背景を検討する上で重要な指標となる。次に,b) 「傍観者」の立場が検討されていないことがあげられる。萩臺他(2018)では,厚生労働省の職場環境 尺度と,「ハラスメント行動尺度」の比較から,回答者が「傍観者」の立場からハラスメントについて 回答を行う方が,職場で起こるハラスメント行為について評価を行いやすいことが示唆されている。 また,厚生労働省(2017)では,ハラスメントが職場や企業に与える影響として,「職場の雰囲気が 悪くなる(93.5%)」が最も多く回答されており,ハラスメントの存在が被害者のみならず,集団に被 害を及ぼしている可能性が示唆されている。この点からも,「傍観者」の立場による評価は重要であ ると言える。最後に,c)「パワー・ハラスメント」と「セクシャル・ハラスメント」について分類を行っ ているものの,それらの信頼性の検討が行われていないことがあげられる。「パワー・ハラスメント」 と「セクシャル・ハラスメント」は,ハラスメントの行為としては重なる部分もあるが,それぞれ分 類して測定することで,より具体的な検討が行えると考えられる。 以上の課題を踏まえ,本研究では,本邦におけるアクティブなハラスメント対策の取り組みであ る萩臺他(2018)の海上保安庁ハラスメント・チェックリストの課題点として,a)加害者側の立場が
検討されていないこと,b)傍観者の立場が検討されていないこと,c)パワー・ハラスメントとセク シャル・ハラスメントそれぞれの信頼性検討が行われていないことの3点を課題として掲げた。そ して,これらの課題の解決のために,海上保安庁ハラスメント・チェックリストの項目をパワー・ハ ラスメントと,セクシャル・ハラスメントに分類し,加害者・被害者・傍観者という3つの立場から 見たハラスメントについての検討を行い,それぞれの尺度の信頼性を明らかにすることを目的とす る。
Ⅱ.方法
1.調査対象者 海上保安庁職員103名を対象に質問紙調査を行った。回答に不備があった者9名を分析から除き, 最終的に94名(平均年齢39.50歳,SD=13.33)を分析の対象とした。最年長が65歳,最年少が20歳 であった。 2.調査票 (1)基本情報 年齢,勤続年数,所属部署,役職についてたずねた。 (2)海上保安庁ハラスメント加害尺度 萩臺他(2018)が作成した「海上保安庁ハラスメント行動尺 度」を,心理学を専攻する大学院生4名で加害者用に修正したものを使用した。パワー・ハラスメン トに該当する行動12項目,セクシャル・ハラスメントに該当する行動4項目,両方に該当する行動5 項目の計21項目で構成される。現在の職場におけるハラスメントの加害経験について,「1=全く ない」から「6=非常によくある」の6件法により回答を求めた。そのため,合計得点が高いほど,職 場でハラスメントの加害を行っていると評価される。なお,パワー・ハラスメント加害とセクシャル・ ハラスメント加害の合計得点を算出する際は,萩臺他(2018)に基づき,両方に該当する行動5項目 をパワー・ハラスメントに該当する行動とセクシャル・ハラスメントに該当する行動それぞれに加 算する。これをパワー・ハラスメント加害尺度(17項目),セクシャル・ハラスメント加害尺度(9項目) とした。 (3)海上保安庁ハラスメント被害尺度 萩臺他(2018)が作成した「海上保安庁ハラスメント行動尺 度」を使用した。パワー・ハラスメントに該当する行動12項目,セクシャル・ハラスメントに該当す る行動4項目,両方に該当する行動5項目の計21項目で構成される。現在の職場環境におけるハラ スメントの被害経験に関して「1=全くない」から「6=非常によくある」の6件法により回答を求め た。そのため,合計得点が高いほど,職場でハラスメントの被害に遭っていると評価される。なお, パワー・ハラスメント被害とセクシャル・ハラスメント被害の合計得点を算出する際は,萩臺他 (2018)に基づき,両方に該当する行動5項目をパワー・ハラスメントに該当する行動とセクシャル・ ハラスメントに該当する行動にそれぞれ加算する。これをパワー・ハラスメント被害尺度(17項目), セクシャル・ハラスメント被害尺度(9項目)とした。 (4)海上保安庁ハラスメント職場環境尺度 萩臺他(2018)が作成したハラスメント行動尺度を,心 理学を専攻する大学院生4名で,第三者の視点から測定できるものに修正したものを使用した。パ― ―176 ワー・ハラスメントに該当する行動12項目,セクシャル・ハラスメントに該当する行動4項目,両方 に該当する行動5項目の計21項目で構成される。現在の職場環境におけるハラスメントの雰囲気や 環境に関して「1=全くない」から「6=非常によくある」の6件法により回答を求めた。そのため, 合計得点が高いほど,職場でハラスメントを目撃していると評価される。なお,パワー・ハラスメ ント職場環境とセクシャル・ハラスメント職場環境の合計得点を算出する際は,萩臺他(2018)に基 づき,両方に該当する行動5項目をパワー・ハラスメントに該当する行動とセクシャル・ハラスメン トに該当する行動にそれぞれ加算する。これをパワー・ハラスメント職場環境尺度(17項目),セク シャル・ハラスメント職場環境尺度(9項目)とした。
Ⅲ.結果
1.調査対象者の特性 調査対象者の特性を見ると,勤続年数については,平均が18.37年(n=94,SD=13.36)で,最も長 くて45年,最も短くて1年であった。所属部署については,回答者94名中44名が陸員で,42名が船 員,8名が無回答であった。なお,海上保安庁ハラスメント被害尺度の回答の中で,萩臺他(2018)で 設定されたハラスメント被害チェックリストのカットオフ値を超えた者は,パワー・ハラスメント 被害尺度で中程度群4名(4.3%),重度群3名(3.2%),セクシャル・ハラスメント被害尺度で中程度群 11名(11.7%),重度群2名(2.1%)であった。 2.基礎的分析 (1).海上保安庁ハラスメント加害尺度 海上保安庁ハラスメント加害尺度の基礎統計を以下に示 した(Table1,Table2)。パワー・ハラスメント加害尺度,セクシャル・ハラスメント加害尺度の両 方において,約50% の人が全ての項目において,「1=全くない」に回答しており,歪んだ分布となっ ている。しかし,DV やストーキング,ハラスメントのような暴力に関連する研究においては共通 した分布であるため,分布の特徴としてとらえ,この点からの項目の削除は行わなかった。続いて, 海上保安庁ハラスメント加害尺度の「1= 全くない」を1,「2=ほとんどない」から「6= 非常によく ある」を2とすることで,ハラスメント加害を「1=ない」,「2=ある」の2値に変換し,各項目の経験 率を算出した(パワー・ハラスメント加害尺度合計:Max=34,mini=17,Mean=19.85,SD=4.08; セクシャル・ハラスメント加害尺度合計:Max=18,mini =9,Mean=10.38 ,SD=2.01;経験率を 算出するための一時的な変換のため,以降の分析では,継続して「1=全くない」から「6= 非常によ くある」による分析を行っている)。その結果,パワー・ハラスメント加害尺度で最も経験率が高かっ たのは,「報告・連絡・相談を過度に強要する」で94名中31名(33.0%),次に,「酒の席で説教する」 で94名中28名(29.8%)であった。セクシャル・ハラスメント加害尺度で最も経験率が高かったのは, 「性別を理由に業務を制限する」で94名中36名(38.3%),次に,「育児や出産を理由に仕事の内容を 制限する」で94名中18名(19.1%)であった。(2)海上保安庁ハラスメント被害尺度 海上保安庁ハラスメント被害尺度の基礎統計を以下に示し た(Table3,Table4)。パワー・ハラスメント被害尺度では約50%,セクシャル・ハラスメント被害 尺度では約60% の人が全ての項目において,「1=全くない」に回答しており,歪んだ分布となって いる。しかし,DV やストーキング,ハラスメントのような暴力に関連する研究においては共通し た分布であるため,分布の特徴としてとらえ,この点からの項目の削除は行わなかった。続いて, 海上保安庁ハラスメント被害尺度の「1= 全くない」を1,「2=ほとんどない」から「6= 非常によく Table1 海上保安庁パワー・ハラスメント加害尺度における基礎統計表(n=94) No 項目 Mean SD 経験率(%) Max=43,mini=17,Mean=20.76,SD=5.70 2 叱責しながら小突くなど,不必要な暴力を振るう 1.07 0.26 7.4 3 酒の席で説教する 1.37 0.67 29.8 4 緊急性を伴わず,安全確保されている状況にも関わらず,人前で暴言を浴びせる 1.23 0.52 19.1 5 飲酒を強要する 1.26 0.62 18.1 6 不必要に人前での謝罪を要求する 1.07 0.26 7.4 8 酒の席で,お酌や隣に座らせるなどのやりたくないことを強要する 1.16 0.40 14.9 9 プライベートな用事に執拗に誘う 1.11 0.34 9.6 10 自分では予防できないような病気でも,健康管理できていないと責める 1.19 0.49 16.0 11 上下関係といった立場の違いを利用し食事などに誘う 1.15 0.44 11.7 12 過度に仕事を他の人に頼むなど,業務上の責任について無責任な対応をする 1.38 0.83 24.5 13 報告・連絡・相談を過度に強要する 1.52 0.89 33.0 14 すべての指示をメールで行うなど,偏った方法で指示する 1.26 0.57 21.3 16 業務上の責任を過度に背負わせる 1.33 0.63 25.5 17 緊急でもないのに,業務時間外に仕事の連絡をする 1.31 0.73 19.1 18 誘いを断られると執拗に責める 1.10 0.33 8.5 19 長時間同じ仕事をさせる 1.20 0.52 16.0 21 長時間立たせて説教する 1.04 0.20 4.3 Table2 海上保安庁セクシャル・ハラスメント加害尺度における基礎統計表 (n=94) No 項目 Mean SD 経験率(%) Max=23,mini=9,Mean=10.96,SD=2.97 1 緊急性を伴わず,安全確保されている状況にも関わらず,不必要に体に触る 1.24 0.73 14.9 5 飲酒を強要する 1.26 0.62 18.1 7 性別を理由に仕事内容を制限する 1.61 0.91 38.3 8 酒の席で,お酌や隣に座らせるなどのやりたくないことを強要する 1.16 0.40 14.9 9 プライベートな用事に執拗に誘う 1.11 0.34 9.6 11 上下関係といった立場の違いを利用し食事などに誘う 1.15 0.44 11.7 15 育児や出産を理由に仕事の内容を制限する 1.29 0.71 19.1 18 誘いを断られると執拗に責める 1.10 0.33 8.5 20 体調が悪そうな人に「今日は生理?」や「更年期?」などの声をかける 1.03 0.18 3.2
― ―178 ある」を2とすることで,ハラスメント被害を「1=ない」,「2=ある」の2値に変換し,各項目の経験 率を算出した(パワー・ハラスメント被害尺度合計:Max=34,mini=17,Mean=20.39,SD=4.87; セクシャル・ハラスメント被害尺度合計:Max=18,mini =9,Mean=10.31,SD=2.15;経験率を算 出するための一時的な変換のため,以降の分析では,継続して「1=全くない」から「6= 非常によく ある」による分析を行っている)。その結果,パワー・ハラスメント被害尺度で最も経験率が高かっ たのは,「酒の席で説教される」で94名中33名(35.1%),次に,「報告・連絡・相談を過度に強要され る」で94名中28名(29.8%)であった。セクシャル・ハラスメント被害尺度で最も経験率が高かった のは,パワー・ハラスメント被害尺度との共通項目ではあるが,「酒の席で,お酌や隣に座らせるな どのやりたくないことを強要される」で94名中20名(21.3%),次に,「飲酒を強要される」で94名中 19名(19.1%)であった。 Table3 海上保安庁パワー・ハラスメント被害尺度における基礎統計表(n=94) No 項目 Mean SD 経験率(%) Max=43,mini=17,Mean=21.82,SD =7.16 2 叱責しながら小突くなど,不必要な暴力を振るわれる 1.14 0.40 11.7 3 酒の席で説教される 1.57 0.93 35.1 4 緊急性を伴わず,安全確保されている状況にもかかわらず,人前で暴言を浴びせられる 1.34 0.73 23.4 5 飲酒を強要される 1.28 0.63 20.2 6 不必要に人前での謝罪を要求される 1.19 0.55 13.8 8 酒の席で,お酌や隣に座らせるなどのやりたくないことを強要される 1.24 0.52 21.3 9 プライベートな用事に執拗に誘われる 1.17 0.46 14.9 10 自分では予防できないような病気でも,健康管理できていないと責められる 1.22 0.59 14.9 11 上下関係といった立場の違いを利用し食事などに誘われる 1.17 0.41 16.0 12 過度に仕事を人に頼むなど,業務上の責任について無責任な対応をされる 1.36 0.75 23.4 13 報告・連絡・相談を過度に強要される 1.47 0.84 29.8 14 すべての指示をメールで行うなど,偏った方法で指示される 1.29 0.65 21.3 16 業務上の責任を過度に背負わされる 1.45 0.97 26.6 17 緊急でもないのに,業務時間外に仕事の連絡が来る 1.39 0.82 25.5 18 誘いを断ると執拗に責められる 1.19 0.53 16.0 19 長時間同じ仕事をさせられる 1.30 0.64 21.3 21 長時間立たせて説教をされる 1.04 0.20 4.3
(3)海上保安庁ハラスメント職場環境尺度 海上保安庁ハラスメント職場環境尺度の基礎統計を以 下に示した(Table5,Table6)。パワー・ハラスメント職場環境尺度では約30%,セクシャル・ハラ スメント職場環境尺度では約40% の人が全ての項目において,「1=全くない」に回答しており,歪 んだ分布となっている。しかし,DV やストーキング,ハラスメントのような暴力に関連する研究 においては共通した分布であるため,分布の特徴としてとらえ,この点からの項目の削除は行わな かった。続いて,海上保安庁ハラスメント職場環境尺度の「1= 全くない」を1,「2=ほとんどない」 から「6= 非常によくある」を2とすることで,ハラスメント職場環境を「1=ない」,「2=ある」の2 値に変換し,各項目の経験率を算出した(パワー・ハラスメント職場環境尺度合計:Max=34, mini=17,Mean=22.00,SD=5.92;セクシャル・ハラスメント職場環境尺度合計:Max=18,mini = 9,Mean=11.35,SD=2.83;経験率を算出するための一時的な変換のため,以降の分析では,継続し て「1=全くない」から「6= 非常によくある」による分析を行っている)。その結果,パワー・ハラス メント職場環境尺度で最も経験率が高かったのは,「酒の席で説教する」で94名中40名(42.6%),次 に,「報告・連絡・相談を過度に強要する」で94名中39名(41.5%)であった。セクシャル・ハラスメ ント職場環境尺度で最も経験率が高かったのは,「性別を理由に仕事を制限する」で94名中42名 (44.7%),次に,「飲酒を強要する」で94名中32名(34.0%)であった。 Table4 海上保安庁セクシャル・ハラスメント被害尺度における基礎統計表(n=94) No 項目 Mean SD 経験率(%) Max=24,mini=9,Mean=10.69,SD=3.00 1 緊急性を伴わず,安全確保されている状況にもかかわらず,不必要に体に触られる 1.18 0.49 13.8 5 飲酒を強要される 1.28 0.63 20.2 7 性別を理由に仕事内容を制限される 1.30 0.84 14.9 8 酒の席で,お酌や隣に座らせるなどのやりたくないことを強要される 1.24 0.52 21.3 9 プライベートな用事に執拗に誘われる 1.17 0.46 14.9 11 上下関係といった立場の違いを利用し食事などに誘われる 1.17 0.41 16.0 15 育児や出産を理由に仕事の内容を制限される 1.13 0.42 10.6 18 誘いを断ると執拗に責められる 1.19 0.53 16.0 20 体調が悪いときに「今日は生理?」や「更年期?」などの声をかけられる 1.03 0.18 3.2
― ―180 3.構成概念と信頼性の検討 (1) 海上保安庁ハラスメント加害尺度 海上保安庁ハラスメント加害尺度の構成概念を確認するた め,因子分析を行った(Table7,Table8)。まず,パワー・ハラスメント加害尺度について,主因子 法プロマックス回転を用いた因子分析の結果,固有値と寄与率の減退率から3因子が抽出された。 その際,項目2「叱責しながら小突くなど,不必要な暴力を振るう」,項目3「酒の席で説教する」,項 目4「緊急性を伴わず,安全確保されている状況にも関わらず,人前で暴言を浴びせる」の3項目が因 子負荷量の点から除外された。第1因子の寄与率は43.229%,第2因子の寄与率は12.642%,第3因子 Table5 海上保安庁パワー・ハラスメント職場環境尺度における基礎統計表(n=94) No 項目 Mean SD 経験率(%) Max=66,mini=17,Mean=24.72,SD=10.67 2 叱責しながら小突くなど,不必要な暴力を振るう 1.26 0.53 22.3 3 酒の席で説教する 1.74 1.09 42.6 4 緊急性を伴わず,安全確保されている状況にもかかわらず,人前で暴言を浴びせる 1.55 0.99 30.9 5 飲酒を強要する 1.55 0.91 34.0 6 不必要に人前での謝罪を要求する 1.35 0.74 23.4 8 酒の席で,お酌や隣に座らせるなどのやりたくないことを強要する 1.48 1.03 33.0 9 プライベートな用事に執拗に誘う 1.33 0.71 23.4 10 自分では予防できないような病気でも,健康管理できていないと責める 1.39 0.77 27.7 11 上下関係といった立場の違いを利用し食事などに誘う 1.30 0.60 23.4 12 過度に仕事を他の人に頼むなど,業務上の責任について無責任な対応をする 1.61 0.94 38.3 13 報告・連絡・相談を過度に強要する 1.77 1.17 41.5 14 すべての指示をメールで行うなど,偏った方法で指示する 1.44 0.78 30.9 16 業務上の責任を過度に背負わせる 1.52 0.95 33.0 17 緊急でもないのに,業務時間外に仕事の連絡をする 1.60 0.90 39.4 18 誘いを断られると執拗に責める 1.24 0.62 18.1 19 長時間同じ仕事をさせる 1.41 0.78 26.6 21 長時間立たせて説教する 1.18 0.57 11.7 Table6 海上保安庁セクシャル・ハラスメント職場環境尺度における基礎統計表(n=94) No 項目 Mean SD 経験率(%) Max=34,mini=9,Mean=12.41,SD=4.66 1 緊急性を伴わず,安全確保されている状況にもかかわらず,不必要に体に触る 1.32 0.61 25.5 5 飲酒を強要する 1.55 0.91 34.0 7 性別を理由に仕事内容を制限する 1.73 1.03 44.7 8 酒の席で,お酌や隣に座らせるなどのやりたくないことを強要する 1.48 0.83 33.0 9 プライベートな用事に執拗に誘う 1.33 0.71 23.4 11 上下関係といった立場の違いを利用し食事などに誘う 1.30 0.60 23.4 15 育児や出産を理由に仕事の内容を制限する 1.43 0.80 29.8 18 誘いを断られると執拗に責める 1.24 0.62 18.1 20 体調が悪そうな人に「今日は生理?」や「更年期?」などの声をかける 1.03 0.18 3.2
の寄与率は11.065% であった。第1因子は「すべての指示をメールで行うなど,偏った方法で指示 する」,「過度に仕事を人に頼むなど,業務上の責任について無責任な対応をする」といった項目が 含まれることから「責任転嫁・過度な要求」,第2因子は「上下関係といった立場の違いを利用し食 事などに誘う」,「自分では予防できないような病気でも,健康管理できていないと責める」といっ た項目が含まれることから「理不尽なかかわり・指示」,第3因子は「不必要に人前での謝罪を要求 する」,「長時間立たせて説教する」といった項目が含まれることから「批難・強要」と名付けた。信 頼性係数は「全体」α =.896,「責任転嫁・過度な要求」α =.842,「理不尽なかかわり・指示」α =.839, 「批難・強要」α =.831であった。 次に,セクシャル・ハラスメント加害尺度について,主因子法プロマックス回転を用いた分析の 結果,固有値と寄与率の減退率から2因子が抽出された。その際,項目8「酒の席で,お酌や隣に座 らせるなどのやりたくないことを強要する」が因子負荷量の点から除外された。第1因子の寄与率 は46.137%,第2因子の寄与率は16.117% であった。第1因子は「上下関係といった立場の違いを利 用し食事などに誘う」,「誘いを断られると執拗に責める」といった項目が含まれることから「強要・ 性を意識したかかわり」,第2因子は「性別を理由に仕事内容を制限する」,「育児や出産を理由に仕 事の内容を制限する」の2項目で構成されることから「性別による制限」と名付けた。信頼性係数は 「全体」α =.825,「強要・性的な関心」α =.834,「性別による制限」α =.690であった。 Table7 海上保安庁パワー・ハラスメント加害尺度のプロマックス回転後の因子負荷量(n=94) No 項目 Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅰ . 責任転嫁・過度な要求α =.842 14 すべての指示をメールで行うなど,偏った方法で指示する 0.881 -0.052 -0.072 12 過度に仕事を人に頼むなど , 業務上の責任について無責任な対応をする 0.841 -0.082 0.064 16 業務上の責任を過度に背負わせる 0.773 -0.061 0.018 13 報告・連絡・相談を過度に強要する 0.660 0.253 -0.111 17 緊急でもないのに,業務時間外に仕事の連絡をする 0.426 0.132 0.062 Ⅱ.理不尽なかかわり・指示α =.839 11 上下関係といった立場の違いを利用し食事などに誘う 0.036 0.952 -0.048 10 自分では予防できないような病気でも,健康管理できていないと責める 0.017 0.840 -0.037 5 飲酒を強要する 0.073 0.780 -0.077 9 プライベートな用事に執拗に誘う -0.130 0.476 0.252 19 長時間同じ仕事をさせる -0.047 0.440 0.312 Ⅲ.批難・強要α =.831 6 不必要に人前での謝罪を要求する -0.057 0.024 0.916 21 長時間立たせて説教する 0.121 -0.194 0.871 8 酒の席で , お酌や隣に座らせるなどのやりたくないことを強要する -0.133 0.235 0.539 18 誘いを断られると執拗に責める 0.344 0.201 0.443 因子間相関Ⅱ 0.530 Ⅲ 0.452 0.454
― ―182 (2) 海上保安庁ハラスメント被害尺度 海上保安庁ハラスメント被害尺度の構成概念を確認するた め,因子分析を行った。まず,パワー・ハラスメント被害尺度について,主因子法プロマックス回転 を用いた因子分析の結果,固有値と寄与率の減退率から3因子が抽出された。その際,項目14「すべ ての指示をメールで行うなど,偏った方法で指示される」,項目21「長時間立たせて説教される」の2 項目が,因子負荷量の点から除外された。第1因子の寄与率は46.344%,第2因子の寄与率は 10.555%,第3因子の寄与率は8.733% であった。第1因子は「誘いを断ると執拗に責められる」,「飲 酒を強要される」のような項目が含まれることから「批難・強要」,第2因子は「業務上の責任を過度 に背負わされる」,「過度に仕事を人に頼むなど,業務上の責任について無責任な対応をされる」の ような項目が含まれることから「責任転嫁・過度な要求」,第3因子は,「自分では予防できないよう な病気でも,健康管理できていないと責められる」,「緊急性を伴わず,安全確保されている状況に もかかわらず,人前で暴言を浴びせられる」のような項目が含まれることから,「理不尽なかかわり」 と名付けた。信頼性係数は「全体」α =.907,「批難・強要」α =.873,「責任転嫁・過度な要求」α =.871, 「理不尽なかかわり」α =.792であった。 続いて,セクシャル・ハラスメント被害尺度について,主因子法プロマックス回転を用いた因子 分析の結果,固有値と寄与率の減退率から3因子が抽出された。第1因子の寄与率は44.188%,第2 因子の寄与率は15.144%,第3因子の寄与率は12.296% であった。第1因子は「誘いを断ると執拗に 責められる」,「飲酒を強要される」のような項目が含まれることから「強要」,第2因子は「上下関係 といった立場の違いを利用し食事などに誘われる」,「緊急性を伴わず,安全が確保されている状況 にもかかわらず,不必要に身体を触られる」のような項目が含まれていることから「性を意識したか かわり」,第3因子は,「性別を理由に仕事内容を制限される」,「育児や出産を理由に仕事の内容を 制限される」の2項目で構成されることから「性別による制限」と名付けた。信頼性係数は「全体」α =.835,「強要」α =.860,「性を意識したかかわり」α= .698,「性別による制限」α =.693であった。 Table8 海上保安庁セクシャル・ハラスメント加害尺度のプロマックス回転後の因子負荷量(n=94) No 項目 Ⅰ Ⅱ Ⅰ.強要・性を意識したかかわりα =.834 11 上下関係といった立場の違いを利用し食事などに誘う 0.936 -0.002 18 誘いを断られると執拗に責める 0.750 0.001 5 飲酒を強要する 0.718 -0.085 1 緊急性を伴わず,安全が確保されている状況にもかかわらず,不必要に身体を触る 0.569 -0.071 20 体調が悪そうな人に「今日は生理?」や「更年期?」などの声をかける 0.475 0.233 9 プライベートな用事に執拗に誘う 0.474 0.267 Ⅱ.性別による制限α =.690 7 性別を理由に仕事内容を制限する -0.169 0.987 15 育児や出産を理由に仕事の内容を制限する 0.232 0.495 因子間相関Ⅱ 0.399
Table9 海上保安庁パワー・ハラスメント被害尺度のプロマックス回転後の因子負荷量(n=94) No 項目 Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅰ.批難・強要α =.873 18 誘いを断ると執拗に責められる 0.996 -0.052 -0.084 9 プライベートな用事に執拗に誘われる 0.813 -0.169 0.166 5 飲酒を強要される 0.653 -0.013 0.155 8 酒の席で , お酌や隣に座らせるなどのやりたくないことを強要される 0.631 0.376 -0.294 6 不必要に人前での謝罪を要求される 0.607 -0.075 0.300 Ⅱ.責任転嫁・過度な要求α =.871 16 業務上の責任を過度に背負わされる -0.287 0.881 0.165 12 過度に仕事を人に頼むなど , 業務上の責任について無責任な対応をされる 0.223 0.758 -0.097 3 酒の席で説教される 0.213 0.622 0.017 13 報告・連絡・相談を過度に強要される 0.196 0.585 0.095 17 緊急でもないのに,業務時間外に仕事の連絡が来る -0.123 0.577 0.055 19 長時間同じ仕事をさせられる 0.172 0.511 0.102 Ⅲ.理不尽なかかわりα =.792 10 自分では予防できないような病気でも,健康管理できていないと責められる 0.035 -0.073 0.811 4 緊急性を伴わず , 安全確保されている状況にもかかわらず , 人前で暴言を浴びせられる -0.086 0.262 0.595 11 上下関係といった立場の違いを利用し食事などに誘われる 0.090 0.208 0.530 2 叱責しながら小突くなど,不必要な暴力を振るわれる 0.141 0.076 0.470 因子間相関Ⅱ 0.683 Ⅲ 0.432 0.517 Table10 海上保安庁セクシャル・ハラスメント被害尺度のプロマックス回転後の因子負荷量(n=94) No 項目 Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅰ.強要α =.860 18 誘いを断ると執拗に責められる 1.051 -0.188 0.031 9 プライベートな用事に執拗に誘われる 0.696 0.173 -0.029 5 飲酒を強要される 0.668 0.196 -0.188 8 酒の席で,お酌や隣に座らせるなどのやりたくないことを強要される 0.593 0.002 0.293 Ⅱ.性を意識したかかわりα =.698 11 上下関係といった立場の違いを利用し食事などに誘われる 0.131 0.709 -0.148 1 緊急性を伴わず,安全が確保されている状況にもかかわらず,不必要に身体を触られる -0.035 0.697 0.089 20 体調が悪いときに「今日は生理?」や「更年期?」などの声をかけられる -0.048 0.501 0.224 Ⅲ.性別による制限α =.693 7 性別を理由に仕事内容を制限される 0.033 0.092 0.787 15 育児や出産を理由に仕事の内容を制限される -0.055 -0.029 0.668 因子間相関Ⅱ 0.556 Ⅲ 0.400 0.377
― ―184 (3)海上保安庁ハラスメント職場環境尺度 海上保安庁ハラスメント職場環境尺度の構成概念を確認 するため,因子分析を行った(Tabel11,Table12)。まず,パワー・ハラスメント職場環境尺度について, 主因子法プロマックス回転を用いた因子分析の結果,固有値と寄与率の減退率から2因子が抽出された。 その際,項目2「叱責しながら小突くなど,不必要な暴力を振るう」,項目11「上下関係といった立場の違い を利用し食事などに誘う」の2項目が因子負荷量の点から除外された。第1因子の寄与率は59.925%,第2 因子の寄与率は10.042% であった。第1因子は「報告・連絡・相談を過度に強要する」,「すべての指示をメー ルで行うなど,偏った方法で指示する」のような項目が含まれることから「過度な要求・理不尽なかかわり」, 第2因子は「酒の席で,お酌や隣に座らせるなどのやりたくないことを強要する」,「誘いを断ると執拗に責 める」のような項目が含まれることから「批難・強要」と名付けた。信頼性係数は「全体」α =.951,「過度な 要求・理不尽なかかわり」α =.938,「批難・強要」α= .910であった。 続いて,セクシャル・ハラスメント職場環境尺度について,主因子法プロマックス回転を用いた因子分析 の結果,固有値と寄与率の減退率から2因子が抽出された。第1因子の寄与率は51.933%,第2因子の寄与 率は13.837% であった。第1因子は「性別を理由に仕事内容を制限する」,「育児や出産を理由に仕事の内 容を制限する」のような項目が含まれることから「性別による制限・強要」,第2因子は「緊急性を伴わず, 安全が確保されている状況にもかかわらず,不必要に身体に触る」,「上下関係といった立場の違いを利用 し食事などに誘う」のような項目が含まれることから「性を意識したかかわり」と名付けた。信頼性係数は 「全体」α =.874,「性別による制限・強要」α =.851,「性を意識したかかわり」α= .791であった。 Table11 海上保安庁パワー・ハラスメント職場環境尺度のプロマックス回転後の因子負荷量(n=94) No 項目 Ⅰ Ⅱ Ⅰ.過度な要求・理不尽なかかわりα =.938 13 報告・連絡・相談を過度に強要する 1.039 -0.189 14 すべての指示をメールで行うなど,偏った方法で指示する 0.893 -0.044 4 緊急性を伴わず , 安全確保されている状況にもかかわらず , 人前で暴言を浴びせる 0.794 0.102 21 長時間立たせて説教する 0.728 -0.152 16 業務上の責任を過度に背負わせる 0.698 0.232 10 自分では予防できないような病気でも,健康管理できていないと責める 0.659 0.011 12 過度に仕事を人に頼むなど , 業務上の責任について無責任な対応をする 0.576 0.349 6 不必要に人前での謝罪を要求する 0.541 0.375 17 緊急でもないのに,業務時間外に仕事の連絡をする 0.459 0.325 Ⅱ.批難・強要α =.910 8 酒の席で , お酌や隣に座らせるなどのやりたくないことを強要する -0.051 0.959 18 誘いを断られると執拗に責める -0.121 0.915 9 プライベートな用事に執拗に誘う -0.194 0.911 5 飲酒を強要する 0.130 0.689 3 酒の席で説教する 0.260 0.600 19 長時間同じ仕事をさせる 0.128 0.592 因子間相関Ⅱ 0.716
Ⅳ.考察
本研究では,本邦におけるアクティブなハラスメント対策の取り組みである萩臺他(2018)の海上保 安庁ハラスメント・チェックリストの課題点として,a)加害者側の立場が検討されていないこと,b) 傍観者の立場が検討されていないこと,c)パワー・ハラスメントとセクシャル・ハラスメントそれぞ れの信頼性検討が行われていないことの3点を課題として掲げ,海上保安庁ハラスメント・チェック リストの項目をパワー・ハラスメントと,セクシャル・ハラスメントに分類し,加害者・被害者・傍観 者という3つの立場から見たハラスメントについて検討を行った。 まず,各尺度について経験率を算出した結果,パワー・ハラスメント加害では,「報告・連絡・相談 を過度に強要する」や,「酒の席で説教する」のような行為が多く行われていた。解釈には慎重になる 必要があるが,暴力や言語的な攻撃と比較すると,業務の内容に関する強要や,飲酒が伴う場面での ハラスメントが多く経験されている印象である。セクシャル・ハラスメント加害では,「性別を理由に 業務を制限する」,「育児や出産を理由に仕事の内容を制限する」という行為が多く行われていた。こ の点については,補足的な記述を行う協力者もおり,緊急場面等で行われる業務では,体格などの性 差等を踏まえ,安全面を考慮した制限を行っているという指摘も見られた。海上保安庁という特殊な 業務の内容が関わってくるため,ハラスメントかどうかの検討は慎重に行うべきであろう。パワー・ ハラスメント被害では,「酒の席で説教される」,「報告・連絡・相談を過度に強要する」のような行為 の経験率が高かった。この点については,パワー・ハラスメント加害と似た特徴を示している。セクシャ ル・ハラスメント被害では,パワー・ハラスメント被害と共通する項目ではあるが,酒の席でお酌や隣 に座らせるなどのやりたくないことを強要される」,「飲酒を強要される」といった行動が多く経験さ れていた。これらの点からも,ハラスメントの被害については,主に飲酒が伴う場面で多く経験され ることが確認された。ハラスメント職場環境尺度は,記述統計的ではあるが,萩臺他(2018)の指摘で もあるように,ハラスメント加害,ハラスメント被害と比較して,経験率が全体的に高かった。加害・ Table12 海上保安庁セクシャル・ハラスメント職場環境尺度のプロマックス回転後の因子負荷量(n=94) No 項目 Ⅰ Ⅱ Ⅰ.性別による制限・強要α =.851 7 性別を理由に仕事内容を制限する 0.924 -0.312 15 育児や出産を理由に仕事の内容を制限する 0.895 -0.173 8 酒の席で,お酌や隣に座らせるなどのやりたくないことを強要する 0.751 0.175 5 飲酒を強要する 0.554 0.264 Ⅱ.性を意識したかかわりα =.791 1 緊急性を伴わず,安全が確保されている状況にもかかわらず,不必要に身体を触る -0.108 0.769 11 上下関係といった立場の違いを利用し食事などに誘う 0.059 0.698 9 プライベートな用事に執拗に誘う 0.267 0.634 20 体調が悪そうな人に「今日は生理?」や「更年期?」などの声をかける -0.245 0.521 18 誘いを断られると執拗に責める 0.372 0.445 因子間相関Ⅱ 0.715 1.000― ―186 被害が2者間の関係性で行われるものであるのに対し,職場環境は,職場全体の経験を示している点 からもこの結果は,妥当であると考えられる。パワー・ハラスメント職場環境では,「報告・連絡・相 談を過度に強要する」や,「酒の席で説教する」のような行為が多く,パワー・ハラスメント加害,パワー・ ハラスメント被害と同様の傾向を示している。セクシャル・ハラスメント職場環境では,「性別を理由 に仕事内容を制限する」,「飲酒を強要する」の順で多く経験されていた。セクシャル・ハラスメント 加害でも述べたが,業務の内容によっては,性別による制限をせざるをえないこと,そして,飲酒の伴 う場面では,ハラスメントが目撃されやすいことの証左でもあるだろう。 続いて,本研究では,各立場による項目のまとまりを確認するため,因子分析を行った。まず,ハラ スメント加害尺度について,因子分析を行った結果,パワー・ハラスメント加害尺度では,「責任転嫁・ 過度な要求」,「理不尽なかかわり・指示」,「批難・強要」の3因子が確認され,十分な信頼性が求めら れた。セクシャル・ハラスメント加害尺度では,「強要・性を意識したかかわり」,「性別による制限」 の2因子が確認され,「性別による制限」の信頼性に不安を残すものの,概ね十分な信頼性が求められ た。ハラスメント被害尺度について,因子分析を行った結果,パワー・ハラスメント被害尺度では,「批 難・強要」,「責任転嫁・過度な要求」,「理不尽なかかわり」の3因子が確認され,十分な信頼性が求め られた。セクシャル・ハラスメント被害尺度では,「強要」,「性を意識したかかわり」,「性別による制 限」の3因子が確認され,「性を意識したかかわり」,「性別による制限」の2因子の信頼性に不安を残す ものの,概ね十分な信頼性が求められた。ハラスメント職場環境尺度について,因子分析を行った結果, 「過度な要求・理不尽なかかわり」,「批難・強要」の2因子が確認され,十分な信頼性が求められた。 セクシャル・ハラスメント職場環境尺度では,「性別による制限・強要」,「性を意識したかかわり」の2 因子が確認され,十分な信頼性が求められた。因子分析を行った結果,因子のまとまりは非常に似通っ たものになったものの,各因子を構成する項目や,除外された項目については差異が見られた。一般 的に,DV やストーキングに関する研究では,加害者用尺度と被害者用尺度の項目は対応する形となっ て い る( 参 考 と し て,Langhinrichsen-Rohling, Palarea, Cohen & Rohling, 2000; Straus, Hamby, McCoy & Sugarman, 1996)。しかし,本研究の結果からも示唆されるように,同様の行為であっても, 加害者・被害者・傍観者の立場によって,感じ方は異なり,行為の質も変わってくることが予想される。 そのため,今後は,加害者・被害者・傍観者それぞれの立場に焦点を当てた研究が必要となってくるだ ろう。 本研究の課題としては,大きく4点あげられる。第1に,本研究では,妥当性検討が行えていない。 本尺度を運用する上でも,別の基準を持つ尺度との相関関係を検討する必要があるだろう。第2に, 性差の検討が行われていないことがあげられる。特に,本研究では,セクシャル・ハラスメントの検 討を行っている。セクシャル・ハラスメントに関しては,女性の被害が多いことが一貫して明らかに されており(Rotundo, Nguyen & Sackett,2001),第1の課題とも関連するが,性差の検討は尺度の妥 当性の精度を高めるためにも必要である。第3に,ハラスメントに伴う感情の測定が行えていないこ とがあげられる。海外の DV やストーキングの研究において,加害者用尺度では加害者の意図を,被 害者用尺度では被害に伴う感情をそれぞれ同時測定する尺度の開発が進められている。例えば,本研
究のセクシャル・ハラスメント加害尺度において使用した「性別を理由に業務を制限する」という項目 は,ハラスメントとも見受けられるが,行為を行った側の意図は,体格などを踏まえた上での「配慮」 の可能性も考えられる。この点からも,行動に付随する意図や感情を併せて測定することによって, より明確にハラスメントの状況を明らかにすることが可能となるだろう。第4に,改めてハラスメン トの内容を検討することも必要である。例えば,Rospenda & Richman(2004)は,職場で起こるハラ スメントを測定する尺度として, Generalized Workplace Harassment Questionnaire(以下,GWHQ とする)を開発している。GWHQ では,職場で起こるハラスメントとして,「あなたに怒鳴ったり,叫 んだりした」,「あなたの知性,能力,生産性について否定的なコメントをした」等の項目で構成される 『言語による敵意』,「あなた,またはあなたの仕事の貢献を無視した」,「重要な仕事や会議からあな たを外した」等の項目で構成される『隠れた敵意』,「あなたの職場で,他の人物をあなたに反対させ た」,「あなたを困らせることを意図したメモ,サイン,または他の資料を残した」等の項目で構成され る『操作』,「あなたを押したり,つかんだりした」,「あなたに何かを投げた」等の項目で構成される『身 体的な敵意』の4因子を確認している。本研究のパワー・ハラスメント尺度では,GWHQ で言及され ている『隠れた敵意』や『操作』のような行為の測定を行えていない。その一方で,本研究で明らかと なった飲酒の場面におけるハラスメントに関しては,GWHQ では測定できていない項目でもあり,今 後は,これらを踏まえた上で,本邦独自の尺度を新たに作成していく必要もあるだろう。 以上,立場の違いによる海上保安庁ハラスメント・チェックリストの今後の可能性と課題について 考察した。本邦においては,ハラスメントに関する研究は未だに少なく,課題も少なくない。今後は, チェックリストの内容をより精査し,質を向上させるとともに,他の職場における適用可能性も検討 することが必要である。 【引用文献】 萩臺美紀・小林大介・坂本一真・高木源・若島孔文(2018).海上保安庁ハラスメント・チェックリスト開発の試み 東 北大学大学院教育学研究科年報,67(1),189-201. 厚生労働省(2017).平成28年度厚生労働省委託事業 職場のパワーハラスメントに関する実態調査報告書(概要版) 厚 生 労 働 省 Retrieved from https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11200000-Roudoukijunkyoku/ 0000165751.pdf (2019年9月13日)
Langhinrichsen-Rohling, J., Palarea, R. E. Cohen, J., & Rohling, M. L. (2000).Breaking up is hard to do: Unwanted pursuit behavior following the dissolution of a romantic relationship. Violence and Victims, 15,73-90.
Rospenda, K. M. & Richman, J.M.(2004).The factor structure of generalized workplace harassment. Violence and Victims, 19, 221-238.
Rotundo, M., Ngunyen, D. & Sackett, P. R.(2001).A meta-analytic review of gender differences in perceptions of sexual harassment. Journal of Applied Psychology, 86, 914-922.
Straus, M. A., Hamby, S. L., McCoy, S. B., & Sugarman, D. B.(1996).The revised conflict tactics scales (CTS2). Development and preliminary psychometric date. Journal of Family Issues, 17(3), 283-316.
― ―188
The purpose of this study is to examine the harassment behavior from the three viewpoints of the perpetrator, victim, and bystander, and to clarify the reliability of each the harassment checklist of the Coast Guard(Hagidai et al, 2018). This questionnaire research was conducted with 94 Japan Coast Guard Staff members. The questionnaire classifies the Japan Coast Guard harassment behavior scale(Hagidai et al, 2018)modified for the perpetrators, victims, and bystanders. For each scale, Factor analysis was performed to examine the composition concept of each scale. As a result, it was shown that the composition concept of each scale of power harassment and sexual harassment varies depending on the position of the perpetrator, victim and bystander. In addition, In order to examine the reliability of each scale, the Cronbach's α coefficient was calculated and showed a sufficient value. Finally, the availability and issues of the Japan Coast Guard harassment checklist as a measure of from the three viewpoints of the perpetrator, victim, and bystander was discussed.
Keywords:harassment, Japan Coast Guard, perpetrator, victim, bystande
An Attempt to Prepare the Harassment Checklist
of the Japan Coast Guard:
Focus on the Difference in Position
Daisuke KOBAYASHI
(Graduate Student, Graduate School of Education, Tohoku University)
Miki HAGIDAI
(Graduate Student, Graduate School of Education, Tohoku University)
Gen TAKAGI
(Graduate Student, Graduate School of Education, Tohoku University)
Kazuma SAKAMOTO
(Graduate Student, Graduate School of Education, Tohoku University)
Naoto NIHONMATSU
(Graduate Student, Graduate School of Education, Tohoku University)