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ミドルマネジメントの戦略への関与と役割の同時多重性

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(1)

ミドルマネジメントの戦略への関与と役割の同時多

重性

著者

森谷 周一

雑誌名

商学論究

65

3

ページ

21-41

発行年

2018-03-10

URL

http://hdl.handle.net/10236/00026885

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 はじめに

本稿は、 同時多重役割の文脈におけるミドルマネジメントの戦略的起案者 としての役割を検討するものである。 ミドルマネジメントは、 組織の中間層に位置し、 リエゾン (Mintzberg 1973) やリンキング・ピン (Likert 1961) と称されるように、 組織の紐帯と して縦横に対して様々な影響力をもつ。 そのような影響力の行使を通じて、 管理職層と現場を結びつけ組織全体に調和をもたらす役割が期待されるので 21

− 21 − 要 旨 本稿では企業におけるミドルマネジメントの戦略的役割についての考察 を行い、 戦略的変革の起案者としてのミドルマネジメントの機能が、 複雑 な役割期待の中でどのように発揮されるのかを検討した。 日本企業におけ るミドルマネジメントの現状が同時多重性によって特徴づけられることを 確認したうえで、 先行研究から戦略的変革の起案者としてミドルマネジメ ントがどのようにして組織内で影響力を行使するのか、 それに対して役割 の同時多重性がどのような影響力をもつのかを論じた。 考察の結果、 トッ プマネジメントからかかる役割期待のタイプに応じたミドルマネジメント の戦略的起案への関与の仕方がそれぞれ提示された。 キーワード:ミドルマネジメント (middle management)、 戦略への関与 (involvement in strategy)、 戦略的変革 (strategic change)、 役割期待 (role expectation)、 役割葛藤 (role conflict)

ミドルマネジメントの戦略への関与と

役割の同時多重性

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ある。 近年では、 企業の成長や競争優位の獲得においてミドルマネジメント が主要なアクターとなりうることが強調され、 組織や戦略の転換や再構築を 伴う戦略的変革を担う中心的主体として彼らが位置付けられた。 その一方で、 組織階層上の中間的な位置づけに由来して、 企業が彼らに多 様な役割を担うことを期待し、 その結果ミドルマネジメントが機能不全に陥 ることが指摘されている。 ミドルマネジメントがトップマネジメントと連携 をとりながら企業全体や部門の方針を現場で実践する過程で、 様々なタスク をこなす必要性から性質の異なる役割を同時にこなさなければいけない役割 構造は、 ミドルマネジメントを疲弊させるとともに、 組織全体の不協和音の 源泉となってしまう。 以上のような現状を考慮すると、 どのようにミドルマネジメントが戦略へ の関与を通じて組織の目標達成に貢献するのかを明らかにするためには、 同 時多重役割を背負うという文脈の中で検討することが、 現実に即したアプロー チであるように思える。 この点がミドルマネジメントの戦略的役割に関する 先行研究において不足している部分であり、 本稿の考察対象である。 後述す るように、 とりわけ日本企業において役割の同時多重性は喫緊の課題である。 以下においてはまず、 日本企業におけるミドルマネジメントの環境変化と 役割構造について述べる。 次に、 ミドルマネジメントが戦略的変革を主導す る主体としてどのような活動に従事するのかを、 先行研究に基づいて明らか にする。 最後に、 以上の議論を総合する形で同時多重役割を担うミドルマネ ジメントが、 どのようにして戦略的変革の起案者としての役割を発揮するの かを述べる。

 ミドルマネジメントが直面する環境変化

1. 役割の同時多重性 1980年代から90年代にかけての日本企業においてミドルマネジメントは、 企業に競争優位をもたらす源泉として認識され、 組織内での階層を横断する 形での情報共有や知識の創造において彼らは中心的な機能を果たすことが強

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調された。 ミドルマネジメントを戦略目標達成上、 主要かつ積極的な貢献を 果たす存在として認識することは、 ミドルアップダウン・マネジメント (Nonaka 1988) や変革型ミドル (金井 1991) などの提唱を通じて、 より深 く理論と実践に浸透したといえる。 戦略の策定および実行におけるミドルマ ネジメントの関与を肯定的に捉え、 事業創出や戦略上の核となるようなコン ピテンシーの開発、 職場管理など様々な場面で固有の役割を担うことが、 優 れたミドルマネジメントのあるべき姿として描かれたのである。 しかしながら、 近年の日本企業におけるミドルマネジメントの現状を記述 したデータや論考からは、 職務遂行上の様々な環境変化が読み取れる。 例え ば、 白石 (2008) は、 ミドルマネジメントの能力低下、 期待役割の変化、 能 力を発揮しづらい環境への変化などの複合的要因によって、 彼 (女) らの疲 弊や機能不全が生じていると指摘している。 また、 日本経済団体連合会が 2012年に発表した、 重要度が高くなったミドルの役割として、 「経営環境の 変化を踏まえた新しい事業や仕組みを自ら企画立案する」 と 「部下のキャリ ア・将来を見据えて必要な指導・育成をする」 の項目が上位に挙げられてい る。 その一方で、 それらの項目は 「現在、 自社のミドルが達成できていない」 と見なされているものとしても上位に並ぶ。 より近年の調査結果においても 同様の結果がうかがえる。 2016年版の人事白書によると、 10年前と比較して ミドルマネジャーに求められるようになった能力として部下の育成・マネジ メント (33.0%)、 変化への対応力 (29.5%)、 イノベーション・事業創出 (13.1%) などが挙げられる。 さらに、 マネージャーのプレーヤー化が日本企業のミドルマネジメントの 特質としてしばしば強調される (佐藤 2004)。 ミドルマネジメントのプレー ヤー化とは、 ミドルマネジメントが他部門や他社と連携しながら、 マネジメ ント業務のみならず実務 (プレーヤー) をも担うプレイングマネージャーと して職務に従事することを指す (Osterman 2008)。 例えば、 産業能率大学 (2016) の調査によると、 プレーヤーとしての仕事の割合が半分より多いと 答えた上場企業の課長は44.3%にものぼる。 ミドルマネジメントのプレーヤー

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化は、 リーダーシップの文脈でリーダーたるミドルマネジメントがフォロワー と目標や理念を共有しながら、 目標達成へのコミットメントを引き出すとい う点で、 リーダーシップ論の観点から肯定的に受け止められる向きもあるが (佐藤 2013)、 一方でミドルマネジメントにさらなる負担を強いる現状を顕 著に表す傾向であるとも解釈できる。 以上において確認されるように、 近年のミドルマネジメント1人が発揮す ることを期待される役割には、 量的にも増加し、 質的にも多様性が帯びる傾 向が看取される。 このような状況を、 本稿ではミドルマネジメントの役割の 「同時多重性」 と呼ぶこととする。 2. ミドルマネジメントの戦略への関与についての 「規範」 と 「現実」 役割の同時多重性を前提とするような、 日本企業のミドルマネジメントが 直面する現状に関するアンケートや論考を踏まえると、 かつて日本企業の強 みとされたようなミドルマネジメントの積極的かつ自律的な活動を通じた戦 略への関与が、 果たして可能なのかという疑問が生じてくる。 換言すれば、 ミドルマネジメントが自由闊達にアイデアを出しながら、 事業創出や戦略上 のイニシアチブを発揮するための、 時間的・体力的・精神的ゆとりが果たし て存在するのかということである。 役割の同時多重性とミドルマネジメント の負担増大が軌を一にすると仮定すれば、 役割期待の増大が、 ミドルマネジ メントによる戦略への関与を通じた貢献活動を規範的な位置づけに押しやっ てしまい、 現状とのギャップを生み出している可能性がある。 それでは、 規範と現実の狭間にあるミドルマネジメントはどのような存在 として捉えることができるのか。 本稿では同時多重的な役割を担うミドルマ ネジメントが、 その文脈でどのように戦略の起案者としての役割を発揮する のかについての、 詳細な考察を行うこととする。

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 ミドルマネジメントの戦略への関与

1. ミドルマネジメントの位置づけ 問題意識に対応する、 より詳細な検討に入る前にミドルマネジメントの基 本的な立ち位置を確認しておく必要がある。 なぜなら、 中間管理職を指す 「ミドルマネジメント」 とはどのような立場の人間なのか、 必ずしも統一的 な理解がされているわけではないからである。 例えば、 日本では課長・部長 クラスを指すことが多い一方で、 欧米では事業部長クラスを指すことが多い (沼上 2009)。 どこまでをミドルマネジメントとして考察対象に包含するの かという点に関し本稿では、 先行研究に倣い組織の上方および下方の両方に 2レベル以上の階層をもつ人物 (Currie and Procter 2005 ; Dutton and Ashford 1993 ; Wooldridge, Schmid and Floyd 2008) をミドルマネジメントとして想 定する。 2. 日本企業を取り上げたミドルマネジメントに関する先駆的研究 経営学の研究対象としてミドルマネジメントの役割に注目が集まった背景 には、 ミドルマネジメントが単に組織内でのパイプ役に留まらず、 戦略形成 やケイパビリティ構築の主要な存在として企業活動のコアな部分に関与する ことで、 企業の競争力の源として認識されるようになったことが挙げられる。 前述のように、 そのような認識の形成には、 日本企業を研究対象としてミド ルマネジメントの戦略的貢献を取り扱った研究群が寄与している。 例えば、 ミドルマネジメントと知識創造の関連を探索した Nonaka (1988) や Nonaka and Takeuchi (1995) らの著名な研究はその代表例である。 Nonaka (1988) では、 純粋なトップダウンでもなければボトムアップでもない、 ミドルアッ プダウン・マネジメントによる新製品のコンセプト形成がおこなわれたこと が示され、 その過程でプロジェクトリーダーたるミドルマネジメントが、 現 場とトップマネジメントがそれぞれ有する異なる知識や情報、 視点を統合す ることで、 知識創造の中核を担ったのである。 そのようなミドルマネジメン

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ト主導の知識創造の事例として日本企業が取り上げられた結果、 日本企業躍 進の要因としてミドルマネジメントや現場の力が注目された。 このような日本企業におけるミドルマネジメントの戦略的役割を描写する 流れは、 戦略的変革者としてのミドルマネジメントの役割に注目した金井 (1991) へと引き継がれる。 当該研究では、 リーダーシップ論および管理者 行動論に理論的基盤を置きながら、 これまで認識されてこなかった戦略・革 新志向の管理者行動を特定し、 戦略的課題の提示や革新的志向などを含む11 の行動次元を提示した。 この行動次元は現在でも日本企業におけるミドルマ ネジメントの役割を把握するために用いられており (例えば西村・西岡 2016)、 現在でもなおミドルマネジメントの行動様式を示す代表的指標であ ろう。 金井 (1991) では自部門から革新的企画を試行したりする際に、 組織 内外の直接的管轄下にない人々との関係づくりや信頼性の構築が重要である とし、 それはミドルマネジメントが必ずしもタスク遂行上必要な情報やパワー をもっているわけではないことに起因する。 このような状況は 「タスク依存 性」 と呼ばれ、 タスク依存性こそが変革型ミドルが直面する最重要のハード ルであると金井は主張した。 しかし、 ここ10年ほどで日本企業においてミドルマネジメントが戦略の策 定および実行に占める相対的地位に変化の兆しがみられる。 沼上ら (2007) は、 ミドルマネジメントは創発戦略を実現するうえでの中心的存在であった ものが、 組織の劣化現象によってその役割発揮が阻害されていることを、 「組織の重さ」 の概念を軸に明らかにしている。 彼らは、 組織内での相互作 用プロセスや調整プロセスを難しくし、 その結果創発戦略の形成を妨げるよ うな組織デザインの形について検討している。 そのような組織の劣化現象に 関する指摘は、 ミドルマネジメントが戦略へ関与することのプラスの効果が 失われつつあるという日本企業の現状に警鐘を鳴らすものであると解釈でき る。 以上のように、 数は多くないものの、 日本企業におけるミドルマネジメン トの特性を、 戦略上の主要なアクターとして評価する研究はすでに存在する。

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戦略上の重要課題を抽出し、 戦略上のアイデアとして提示するといったミド ルマネジメントの積極的な戦略への関与は、 日本企業のミドルマネジメント に当然のごとく求められる役割といって差し支えないだろう。 ただし、 欧米 ではすでに、 特定のコンテキストに依存しない、 より一般的なミドルマネジ メントの戦略的役割に関する類型化がなされており、 ミドルマネジメントの 戦略への関与を理解するための一助となろう。 それらを以下において確認す る。 3. ミドルマネジメントの戦略的役割 ミドルマネジメントが戦略の形成や実行に関与することを考察するための 理論的ルーツは、 Mintzberg に代表される、 創発戦略をベースにした戦略形 成プロセスに関する議論にある (Wooldridge, Schmid and Floyd 2008)。 戦略 策定の過程においては、 部分的無知や予見不可能性などの理由で、 経営者は 事前の情報収集や市場分析などを完全に行うことができるわけではなく、 そ の結果、 事前計画型の戦略構築の有効性には限界がある。 そのため、 戦略は 事前に策定されるというよりも、 むしろ事後的に見られる環境適応のための 行動パターンとして認識されるべきである、 というのが創発戦略論者の基本 的な視座である。 (Bower 1970 ; Mintzberg 1978 ; Schilit 1987 ; Kanter 1983 ; Burgelman 1983a ; 1983b)。

創発戦略の基本的視座は、 現場での経験や学習を重視した戦略形成を正当 化するため、 現場の責任者たるミドルマネジメントが、 戦略形成の主要なア クターとして認識することと親和的である。 その流れを受けてミドルマネジ メ ン ト の 戦 略 上 の 役 割 を 整 理 し た も の と し て は 、 Floyd and Wooldridge (1992 ; 1994 ; 1997) のフレームワークが著名である (図1)。

この分類によると、 ミドルマネジメントの戦略的役割は、 影響力の方向と 貢献の種類によって区別される。 前者は、 上方への影響力 (上司やトップマ ネジメントに対する働きかけ) と下方への影響力 (部下に対する働きかけ) の差異によるミドルの行動を、 後者は当初示された戦略の意図に沿うような

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行動と、 そのような事前の目的からは逸れるような行動に区別することで類 型化をおこなっている。 例えば、 チャンピオニングは上司やトップマネジメ ントに対して、 既存の戦略に対する代替案を提示する活動を指し、 反対に実 行はトップマネジメントによって熟考された戦略を現場で実現するための活 動を指す。 ただし、 ミドルマネジメントが担うそれらの戦略的役割の発揮の しやすさは、 組織階層上のポジション等に依存して変わってくる。 例えば、 4つの活動の中で戦略の実行が、 他の3つの役割と比してより一般的なもの であり、 特に上方への影響力 (情報の統合および代替案の支持) は、 ミドル マネジメントの中でもより低階層に位置する人間にとって発揮しづらいもの である (Floyd and Wooldridge 1992)。

以上のようなミドルマネジメントの戦略的役割についての伝統的役割モデ ルは、 組織の中間層に位置するミドルマネジメント固有の立場に基づく、 独 自の行動体系を記述したものとして、 示唆に富む。 ミドルマネジメントは、 単なる上意下達のパイプ役としての存在ではなく、 企業の大きな方針や道筋 に関わる戦略的な変革を提案したり、 トップから課された変革プランの現場 での実践を引き受けたりすることで、 その存在意義が担保されるのである。 このフレームワークを理論的基礎にしながらも、 その後の研究では、 戦略 的変革に関与する主体としてのミドルマネジメント像を探求する動きが活発 (図1) ミドルマネジメントの戦略的役割

出典:Floyd and Wooldridge (1992) p. 154.

チャンピオニング 統合 促進 実行 上方 下方 分散的 影 響 力 の 方 向 統合的 貢献の特徴

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に見られる。 本稿で着目するのはとりわけ、 組織の方向性を左右するような 変革の中心としてのミドルの役割であることから、 この戦略的変革を取り扱っ た先行研究を渉猟することとしたい。

 戦略的変革の執行と起案

1. 戦略的変革の執行 ミドルマネジメントが戦略的な変革に関わるといってもその関与の仕方は 様々である。 トップマネジメントから課された変革の内容を忠実に実践する 行動と、 自ら変革を先導し社内外に影響力を発揮するような行動では、 その 意味内容が異なるだろう。 ただし、 先行研究を概観すると戦略的変革に関与 するミドルの行動は大きくは2つの形に整理できることがわかる。 一つは戦 略的変革の執行を通じた関与であり、 いま一つは変革の提案を通じた関与で ある。 まず、 戦略的変革の執行に関し例えば Huy (2001) は、 感情マネジメント 活動 (emotion-management activities) の主体としてのミドルマネジメント 像を提示している。 感情マネジメント行動とは、 組織の変革によって生じた 混乱によって、 活動の継続性が脅かされるような感情を従業員が抱くことが 予期されるため、 ミドルマネジメントがそのような部下の感情に寄り添い、 運営上の継続性を保つ活動のことである。 Huy (2002) では組織変革を4つ の内容に区分し、 それぞれに介入するミドルマネジメントの姿を描写してい る。 すなわち、 比較的早いペースで進む組織構造および作業プロセスの変革 と、 継続的な変化として長時間を要する、 信条のシステムと社会的関係の変 革の4つから組織変革が把握され、 それぞれにアプローチすることを通じて ミドルマネジメントが変革の主体としての機能を果たすのである。 次に、 変革の実行者としてのミドルマネジメントの現場での行動をより詳 細に明らかにするための概念として、 近年ではミドルマネジメントのセンス メーキング (sensemaking) が提唱されている。 Balogun (2003) によると、 変革の実行には4つの側面が存在する。 すなわち、 ①個人で変革を実践する、

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②変化を通じて他者を助ける、 ③事業を継続する、 そして④部門レベルで変 革を展開する、 の4つである。 特に①は、 他の行動の出発点になるものであ り、 変革によってもたらされた新たな役割や責任を認識し、 それを実践する ことが想定される。 これらの行動における主要な側面は、 変革の解釈であり、 自身にどのような責任や役割が新たに課せられるのかを同僚や上司とのコミュ ニケーションの中で明らかにしていくことが、 変革の実行においての要諦で ある。 このような、 組織の変革がもたらす新たな意味を、 自身や他人が解釈 し、 行動に移すための一連の活動はセンスメーキングと呼ばれる。 ミドルマ ネジメントはセンスメーキングを通じて、 変革がもたらす職務上の曖昧性や 不確実性を取り除こうとするが、 それはミドルマネジメント間での相談や交 渉といった水平的な社会的プロセスによって可能となる。 (Balogun and Johnson 2004 ; 2005)。 さらに、 Rouleau (2005) はセンスメーキングのミク ロレベルでの実践に関して、 性別や年齢、 民族性といった社会的コンテキス トを考慮することの必要性を論じ、 ミドルマネジメントがそのような社会的 コンテキストに配慮するために、 暗黙知を用いて戦略的変革の解釈やその意 味の浸透を行うことを明らかにした。 それは、 組織の境界をまたく立場にな いミドルマネジメントが、 どのように変化を感じ取り、 そして外部の人間か らサポートを受けるのかを解明するうえで示唆に富むものである。 最後に、 職務上携わる組織内外の人間に対するセンスメーキングについて、 近年では Rouleau and Balogun (2011) に代表されるような、 他人に対するセ ンスメーキングを意味するセンスギビングに焦点を当てる動きがある。 当該 研究では、 センスギビングを行う能力としての推論的能力 (discursive com-petence) に着目し、 自身が置かれたコンテキストを考慮し、 特定の言説を その組織にとって受容される方法で用いることによって、 自身の立場や役割 に対する受容を引き出すミドルマネジメントの行動について明らかにした。 以上の議論を総合すると、 ミドルマネジメントは戦略や組織の変革に伴う 現場の混乱を収めつつ、 スムーズな組織の方向転換を実現するために、 自身 や他人の役割や必要とされる行動についての理解を促進する役目を担う。 そ

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のため、 様々な働きかけとしての社会的プロセスがミドルマネジメントの行 動において決定的に重要な役目を果たすのである。 2. 戦略的変革の起案 ミドルマネジメントが主にトップダウンで決定された変革の執行者である 一方で、 彼らは変革の起案者 (initiator) でもある。 ここでの起案とは例え ば新たな戦略上の課題の提示やその基礎となる実験的、 探索的活動を指す。 変 革 の 起 案 者 と し て の 役 割 を 示 す 概 念 と し て は 、 イ シ ュ ー セ リ ン グ (issue selling) が代表的である。 イシューセリングとはミドルマネジメント が注目すべきと考える問題に対してトップマネジメントに注目を促す活動で ある (Dutton and Ashford 1993 ; 2001)。 イシューセリングは単にトップマネ ジメントに特定の戦略的課題に対してどのようにイシューを売り込むのかと いうプロセスに注目する一方で、 解決策を含めたイシューセリングの重要性 が近年では主張されている (例えば Alt and Craig 2016)。

ただし、 ミドルマネジメントが戦略的変革の起案者として役割を発揮する ためには、 いくつかの条件が存在する。 例えば、 ミドルマネジメントのイニ シアチブに着目した Clercq, Castaner and Belausteguigoitia (2011) は、 起業 家的イニシアチブを売り込むエフォートの度合いを規定する要因として、 イ ニシアチブによる組織の便益が大きい、 イニシアチブが現在の組織での慣行 と一致している、 イニシアチブに対する報酬が大きいと認識されている、 現 在の組織状況に満足していることなどを挙げた。 さらに、 戦略的変革の起点 となりやすいミドルマネジメントは、 境界横断的なポジションに位置してい ることや (Floyd and Wooldridge 1994 ; 1997)、 インフォーマルな組織内外で のつながりでの量および質を指す、 ネットワーク中心性 (network central-ity) を有する (Paapas and Wooldridge 2007) ミドルマネジメントであり、 その影響力の高さはミドルマネジメントに対してどれだけの評価が抱かれて いるのかという社会的資本 (reputational social capital) に依存する (Ahearne, Lam and Kraus 2014)。 つまり、 ミドルマネジメントがシニア層やトップマ

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ネジメントに対して影響力を行使するためには、 自身の職務上接する組織内 外の人間との社会的な関係の質や量が主要な条件であり、 変革を起案する者 としてのミドルマネジメントの存在感が組織の上方への影響力として表面化 するためには、 フォーマルな境界をまたぐポジションと、 縦横かつ組織内外 のインフォーマルなつながりの両者が必要条件である。 3. 戦略的変革への抵抗感 ここまで、 戦略的変革へのミドルマネジメントの関与のあり方として、 戦 略的変革の執行と提案という二つの側面を概観してきた。 しかし、 必ずしも ミドルマネジメントがトップダウンで示された戦略的な変革や提示された戦 略の正当性に対して納得し続けるとは限らない。 それは、 ミドルマネジメン トの抵抗 (resistance) として把握されており、 受け手としてのミドルマネ ジメントに対して適切な相談がなかったり、 彼らの変革への関与が十分でな い場合に生じやすい (Giangreco and Peccei 2005)。 そのような抵抗感は、 低い職務満足や高い離職率 (Rush et al. 1995) やストレス (Rush et al. 1995 ; Wanberg and Banas 2000)、 低いコミットメント (Schweiger and Denishi 1991) に結びつく。 Fenton-O’Creevy (1998 ; 2001) では、 従業員の参画 (employee involvement) に関する組織変革を取り扱い、 従業員参画が管理 職としての職務喪失をもたらすことで自己の不利益につながると判断すれば、 ミドルマネジメントの反抗心が高まることを明らかにし、 従業員参画の成否 は、 その実践に関連するシニア層のサポートや訓練活動、 適切な権限付与な どの組織構造・組織コンテキストの整備の程度に依存する。 以上の内容を総合すると、 ミドルマネジメントが起案者として積極的なイ ニシアチブを発揮するためには、 その周辺に適切な社会的関係を生み出した り、 組織的なサポートを実施したりすることが必要となる。 そしてミドルマ ネジメントが起案者として役割を発揮できることは、 変革への深い関与を生 み出すため、 ミドルマネジメントの起案者としての役割を促進するのみなら ず、 トップダウンの戦略的変革に対するミドルマネジメントの反抗心を抑制

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する効果もある。 このように考えると、 矛盾するような言い方になるが、 トップダウンの変 革を成功させるためには、 ミドルマネジメントによる戦略的提案などの上方 への影響力を認めることが鍵となるのである。 その意味で、 ミドルマネジメ ントが戦略的変革の起案者となるもしくは、 そのきっかけとなるような役割 は、 現在でもその価値が認められているといってよいだろう。 そして、 ミド ルマネジメントが変革の起案者として積極的に戦略に関与することこそが、 かつて日本企業の強みの源泉と呼ばれたミドルマネジメントの姿でもある。

 同時多重役割の条件下でのミドルマネジメントの貢献

前節までにおいて、 日本企業における同時多重役割の現状と、 ミドルマネ ジメントの戦略的変革への関与に関する先行研究での発見事実を確認してき た。 ここからは、 それらの2つの議論を踏まえて、 同時多重的に役割を課さ れたミドルマネジメントが、 どのように戦略的変革の起案者として関与して いくのか、 という問題に接近していく。 同時多重役割を日本企業のコンテキストに当てはめると、 以下のような役 割が列挙できる。 すでに述べたミドルマネジメントに期待される役割等を参 照すると、 事業創出や戦略的課題の提示、 部下の育成、 現場の課題解決など に加え、 プレーヤーとしての役割も近年では主要な職務の一つとなっている。 そのような傾向を踏まえると、 本稿で注目する戦略的変革の起案者としての 役割は、 ミドルマネジメントに期待される役割のほんの一部であることが理 解できる。 戦略的変革の起案者としての役割を上述のように位置付けることは、 ミド ルマネジメントに対して複数の役割期待が同時に寄せられる中で、 どの程度 当該役割が重視されるのかということが、 個々人の状況に応じて変化するこ とを意味する。 すなわち、 同時多重役割を所与とすると、 戦略的変革の起案 者としての役割がどれほど期待されているのかは、 他の役割に対する期待と の関連の中で把握されるべきである。

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このような視点からミドルマネジメントの役割を検討することがことさら 重要である理由は、 人間の行動が他者からの期待によって特徴づけられるか らである (Biddle 1986 ; Katz and Kahn 1978)。 役割期待の有りようが、 ミド ルマネジメントの経験や行動の選択に対して影響を与えるのである。 言い換 えれば、 役割期待のパターンに応じて、 ミドルマネジメントの戦略的変革へ の関与パターンも異なるということである。 ミドルマネジメントの行動を役割期待という観点から把握することで、 こ れまでの先行研究では必ずしも把握されてこなかった、 同時多重役割の下で の戦略的変革者としてのミドルマネジメントの行動パターンが浮かび上がっ てくる。 本稿ではミドルマネジメントに寄せられる期待パターンを、 ①トッ プマネジメントが相対的に変革の起案者としての期待を寄せていない場合、 ②相対的に変革の起案者として強い期待を寄せている場合、 そして、 ③他の 期待と変革の起案者としての期待が両方強い場合、 の3つに区別し、 それぞ れのミドルマネジメントの行動を考察する。 ①起案者としてのミドルマネジメントの軽視と役割負担 まず、 変革の起案者としての役割がそれほど期待されていない状況では、 ミドルマネジメントに変革の起点となるような上方への影響力行使に対する 正当性が得られにくい。 そのため、 ミドルマネジメントには最も基本的な役 割である戦略の執行に従事することが期待されるだろう (Mantere 2008)。 しかし、 起案者として戦略計画への関与が認められないことは、 ミドルマネ ジメントに反抗心を抱かせるきっかけとなる (Giangreco and Peccei 2005)。 そのような中でも自身がイニシアチブを起こすことも不可能ではないが、 追 加的な労力が発生することでさらなる負担が強いられる。 例えば、 Conway and Monks (2011) は、 トップダウン型の変革によって、 ミドルマネジメン トが抵抗感を感じる一方で、 その変革によって達成したかった事柄を、 ミド ルマネジメント自身がイニシアチブを起こすことで解決に導くことを述べ、 その背後にはミドルマネジメントの追加的な労力が発生したことを明らかに

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している。 ②起案者としてのミドルマネジメント重視と相互の信頼感 次に、 ミドルマネジメントが積極的にイシューセリングなどを通じた戦略 的変革の起案者としての期待を寄せられている場合を検討する。 そのような 期待を感じ取ったミドルマネジメントはどのような行動を起こすのか。 ミドルマネジメントは、 既存の戦略を現場で実践するだけでなく、 現在の 戦略上の課題を解決するために、 長期的視点もしくは将来志向の新たなイニ シアチブ創出に向けた取り組みに従事する。 それを可能とするのは、 フォー マル・インフォーマルの両面において多様な立場や専門性を背景にもつ社内 外の人物と接触できることである。 ミドルマネジメントが有する社会的なつ ながりを駆使して、 様々な知識を探索し、 結合するような姿が規範となり、 トップマネジメントはミドルマネジメントに対する期待を組織的なサポート という形で提供する。 Nonaka (1988) で見せたような、 自律的なミドルマネ ジメントによる新製品開発の成功と、 様々な部門をまたいだ情報共有・知識 創造の実現がその好例である。 新たな事業創出のアイデアに向けた知識の探 索と深化ついては、 例えば Burgess et al. (2015) によって観察されており、 当該研究では March (1991) によって提唱された知識の探索 (exploration) と深化 (exploitation) の概念を基盤に、 知識の探索と深化をバランス良く達 成するような両利きのミドルマネジメント像を描写している。 Burgess et al. (2015) では、 組織内外のコンテキストと両利きを達成するミドルマネジメ ントの行動の関連を検討し、 ミドルマネジメントに課されたアジェンダの追 求やコンプライアンスの重視が探索活動を阻害する一方で、 訓練への参加な どを通じて得た社会的資本などが、 知の深化を促進する。 それは、 戦略的変 革を自ら起こすような行動をミドルマネジメントが期待される際、 トップマ ネジメントから課された職務に縛られることなく、 自律的に様々な知識を発 見・結合することで、 その期待を体現しようとするミドルマネジメント像を 表している。

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ただし、 ミドルマネジメントに対して一定の裁量や自由を職務の中で認め るということは、 トップマネジメントにとっては部下の行動が予見できない という意味でリスク要因にもなるため、 ミドルマネジメントとトップマネジ メントとの関係性を築くうえで、 成果を出すことへの信頼感がミドルマネジ メントを正当化する鍵となる (Raes et al. 2011)。 ③複数の役割期待とミドルマネジメントの役割葛藤 同時多重役割の下でミドルマネジメントが経験しうる役割期待の第三の形 は、 戦略的変革の起案者としての役割と、 その他の役割が同時にミドルマネ ジメントに期待される場合である。 これは例えば Currie and Procter (2005) に見られるように、 ミドルマネジメントが事務的 (administrative) な役割 と戦略的 (strategic) な役割の両方が、 ある一時点で期待される場合である。 同時に複数の役割期待を感じ取ったミドルマネジメントは、 どのようなこ とを経験するのであろうか。 ミドルマネジメントの組織内での位置づけを考 慮した際、 最も問題となるのは役割葛藤 (role conflict) であると考えられ る。 役割葛藤は、 「一人の人間に対して二つ以上の相容れない行動に対する 期待が同時に起こること」 (Biddle 1986, p. 82) を指す。 このような現象が 特にミドルマネジメントにおいて経験される所以は、 ミドルマネジメントを 通じて最も多くの情報が行き交い、 広範囲の相互作用によって彼 (女) らの 行動が特徴づけられるためである (Floyd and Lane 2000)。

日本企業におけるミドルマネジメントの戦略的役割、 そして同時多重役割 という文脈で役割葛藤の問題を具体的に検討すると、 例えば以下のような説 明が可能である。 同時多重役割を担うミドルマネジメントは、 短期的に業績 を達成するためにミドルマネジメントがプレーヤー業務に従事する傍らで、 長期的な事業創出に向けた知識の探索活動を行うことが期待されることが想 定される。 しかし、 創発戦略を実現するようなミドルマネジメントの試行錯 誤や学習に基づく事業創出が、 実際に成果として結実するまでには相対的に 長時間を要する (佐々木 2014)。 そのため、 短期もしくは長期というミドル

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マネジメントの活動における時間軸で、 役割葛藤が生じるのである。 役割葛藤を分析視角として採用すると、 先行研究においてミドルマネジメ ントが戦略的変革の起案者としての影響力を発揮する条件であった、 境界横 断的なポジションにミドルマネジメントが位置することの妥当性に疑問を呈 することになる。 というのも、 境界横断的な立場にある人間は、 多数の人物 や情報との相互作用の結果、 役割葛藤を招く要因となるからである (Fisher and Gitelson 1983)。 つまり、 境界横断的な立場にいるミドルマネジメント は、 役割葛藤を経験し、 戦略的変革に向けた活動が抑制される恐れがある (Flores 2016)。 したがって、 近すぎず、 また遠すぎない適切な距離感と相 互作用の量というものを、 ミドルマネジメントが認識することが求められる。

 おわりに

以上において考察されたように、 本稿では役割の同時多重性という文脈の 中での、 ミドルマネジメントの戦略的役割について議論した。 現代のミドル マネジメントに課された多様な役割期待は、 ミドルマネジメントに職務の多 様性を帯びることを促進する。 その結果、 戦略的変革の起案者としてのミド ルマネジメントの役割を発揮するための状況が、 自身に注がれる役割期待の 種類によって異なり、 その結果ミドルマネジメントの行動も役割期待に沿う 形でパターン化することを本稿では主張した。 既存の戦略的変革に関与する ミドルマネジメントの研究では役割の同時多重性が必ずしも考慮されておら ず、 その結果、 戦略的変革の起案者としてのミドルマネジメントが、 他の役 割期待との兼ね合いでどのようにしてその役割に従事するのかについての記 述が不足していた。 本稿による理論的貢献はこの点にある。 その一方で、 本稿ではトップマネジメントからの役割期待を3つのパター ンに単純化したが、 そのような単純化にどれほどの現実的妥当性が認められ るかについては、 さらなる吟味が重ねられる必要がある。 また、 今後は実証段階に移行し、 経験的なデータをもとに考察を行うこと で、 当該研究の進展が求められる。

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(筆者は関西学院大学商学部助教)

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参照

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