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水産業支援のための漁獲位置記録システム

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デジタルプラクティス Vol.9 No.1 (Jan. 2018)

水産業支援のための漁獲位置記録シ

ステム

高 博昭 和田雅昭 公立はこだて未来大学 日本の水産業は厳しい状況が続いており,持続可能な水産業を実現 するためには,水産資源管理を行う必要がある.本稿では,操業実 態の把握と水産資源管理の高度化を目的として,漁獲位置記録シス テムを開発し,その運用を行った結果について報告する.開発した システムはサーバ,Armadillo‑IoTを活用した防水押ボタン,我々が 過去に開発した漁船位置情報送信装置の3つで構成されている.本稿 では,システムの概要とタコいさり樽流し漁を行う漁業者2名を対象 として,システムの運用実験を行った結果について述べる.漁業者 はタコを引き揚げた際に,引き揚げたタコの重量に対応するボタン を押下することによって情報を送信する.通信性能に関する評価で は,生存確認メッセージの受信率は98%以上,遅延時間は30秒以内 であることを確認した.また,漁獲分布図に関する評価では,従来 の漁獲分布図の作成手法の問題点が解決できることを確認した.

1.はじめに

現在,日本の水産業は漁獲量の減少傾向が続いている.水産庁が 公表する平成27年度水産白書[1]によると,船舶技術や漁撈技術の発 展により漁業生産量は1980年代にかけて増加傾向であり,1984年に は1,282万トンの漁獲量を記録していた.しかし,排他的経済水域の 導入による漁場の縮小や,オイルショックに起因する操業コストの増 一般投稿論文 1 1 1

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で減少している.そのため,水産白書では,日本沿岸で水産資源を 適切に管理し,持続可能な水産業を実現することの重要性が述べら れている. 漁獲量減少の一因として,地球温暖化に起因した海水温の上昇も 挙げられている.気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の第5次 報告書[2]によれば,1880~2012年の間に平均大気気温は0.85℃上 昇している.また,同報告書では,水深700mまでの海洋上部の水温 は,1971~2010年の間に上昇したことはほぼ確実であるとされてい る.同様に,気象庁は日本近海における海域平均海面水温の上昇率 は+1.07℃/100年であるとのデータを公表している[3].海水温の上 昇は,水産資源の分布や資源量の変動を引き起こすと考えられてい る.たとえば,これまでイカが主要な魚種であった北海道道南地方 の函館市では,ここ数年イカの不漁が続いており,一方でブリの漁 獲量の増加が目立っている.同様に,道東地方の羅臼町では,これ まで漁獲量が少なかったイカの豊漁が続いている. 海洋環境と水産資源状況が変化する中で,海洋環境の観測のみで はなく操業実態を把握し,より高精度な水産資源管理を実現するこ とが必要である.水産資源管理の一例として,漁獲分布図の作成が 挙げられる.漁獲分布図とは,海域を複数の領域(グリッド)に分 割し,グリッドごとの漁獲量を可視化した図である.漁獲分布図を 一定期間ごとに作成すれば,海域の使用状況の時間的・空間的な変 化を把握できるとともに,漁業者が操業場所を決定する際の判断材 料ともなる.漁獲分布図は,漁船の位置情報から漁場を抽出し,各 グリッドの操業時間に応じて日ごとの漁獲量を割り当てることで作 成する.しかし,この手法では,漁船の位置情報のみを用いてお り,実際に漁獲がなかった海域も漁場として抽出される.そのた め,漁場の面積を過大評価してしまう問題がある.さらに,滞在時 間の短い海域に対しても漁獲量を割り当てるため,数グラム程度の タコの重量としては不適切な漁獲量が割り当てられる問題もある. 我々は,前述の問題を解決するため,また操業の実態を把握する ために漁獲位置記録システムを開発した.マリンネット北海道で提

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魚種である.そのため,今回ミズダコを漁獲する樽流し漁を対象と した.本稿では,開発したシステムの構成と,実際にシステムを運 用したプラクティスについて述べる.

2.樽流し漁の概要

本章では,今回対象とした樽流し漁について説明する.図1に,樽 流し漁の概要を示す.文献[5]によると,樽流し漁には針とポリエチ レン製の樽が用いられ,針と樽は糸で結ばれている.漁場に到着 後,漁業者は潮流の方向を確認し,潮上より樽と針を順次海へ投入 する.潮流や風の影響によって樽が漂流することによって,樽と糸 で結ばれている針は海底を引きずるように移動する.このとき,タ コがかかると樽の動きが止まる,もしくは他の樽と比べて動きが変 化することから,漁業者は目視で樽の動きを確認し,タコがかかっ た針と樽を引き揚げる.針からタコを外した後,再度海に投入する ことを繰り返す.実際の操業では,樽と針のセットは複数(15個前 後)用いられており,漁業者が1人で実施している場合が多い. 図1 樽流し漁の原理

3.関連研究

これまで,ICTを活用して水産業支援を目指した研究が多数行われ ている.特に多いのは,IoTやセンサネットワークなどの技術を活用 した環境モニタリングシステムに関する研究である.水温や塩分濃

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した海洋観測ブイが多数開発されている[6],[7],[8],[9].文献[6],[7] ではセンサによる観測値をZigbeeを用いて送信する観測ブイシステ ムが開発されている.文献[8]では,複数ブイ間でセンサネットワー クを構築しており,GPRS(General Packet Radio Service; GSM方 式の携帯電話回線網を活用したデータ伝送技術)モジュールを搭載 するマスタに相当するブイが,他のブイからのデータや自ブイのデー タを送信するシステムを開発している.筆者らは,同一地点で異な る複数の水深の水温を計測するための,3G通信モジュール搭載型多 層観測ブイを開発している[9].J. M. Del Rosarioらは,フィリピン のPalakpakin湖で,養殖業のための無線センサネットワークの研究 を行っている[10].この研究では,湖岸設置用の固定フィールドサー バと,湖中央部の観測を行うための移動フィールドサーバを用い て,水温,溶存酸素,映像などの情報を取得している.岸野らは, 絶滅危惧種に指定されているニッポンバラタナゴの生息環境の調査 を目的として,環境情報を取得するためのセンサネットワークを構 築した.さらに,センサネットワークで取得した情報を解析し,照 度がニッポンバラタナゴの産卵に影響を与えていることを明らかに した[11]. 環境情報のみではなく,漁船の位置情報の取得・活用に関する研 究 も 行 わ れ て い る . J. Lee ら は , VMS ( Vessel Monitoring System)のデータを解析することで,漁撈努力分布(海域ごとの操 業時間の分布)を推定する研究を行っている[12].この研究では,漁 船が低速で航行しているときを操業中と定義し,漁法ごとの漁撈努 力分布の推定に取り組んでいる.P. Breenらは,VMSによる漁撈努 力分布の推定を補助するために,漁船の目撃情報を活用した手法を 提案している[13].K. Rakeshらは,操業中の漁業者の安全を確保す る目的で,漁船の位置情報を可視化するための研究を行っている [14].筆者らも船舶が多く非常に混雑した海域である大阪湾を対象と して,漁船の安全操業を支援するために,漁船の位置情報を取得・ 提供するシステムを実現した[15].また,マナマコ漁を対象として, 漁船の位置情報を取得するシステムと漁獲量を記録するためのiPad アプリケーションを開発し,水産資源管理を実現した[16].本研究で

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を明らかにした研究[17]や,水産資源管理を目的として,漁船の位置 情報を利用して漁場を抽出し,漁獲量を割り当てることで漁獲分布 図の作成を行う研究などが行われている[18]. 文献[12],[16],[18]の手法では,漁船の位置情報から漁場を抽出し ている.通常,場所によって漁獲量の差異があるはずであるが,場所 ごとの漁獲量の情報は取得できていないため,漁船の位置情報から 求めた漁場に対して漁獲量を割り当てざるを得ない.そのため,実 際漁獲がない海域も漁場として抽出し,漁場面積を過大評価してし まう問題がある.本研究は主にこの問題を解決することを解決する ことを目的としており,漁船の位置情報の取得・活用に関する研究 に分類される.

4.漁獲位置記録システム

図2にシステムの概要を示す.このシステムでは,漁船の位置情報 と漁獲時刻から,ミズダコの漁獲された位置を明らかにし,漁業者 の操業実態の把握を行う. 図2 システムの概要

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漁船の位置情報の取得には,筆者らが開発したマイクロキューブ [16]を利用した.これは,漁船に搭載されているGPSプロッタ(船 上で自船舶の位置を視覚的に確認できる装置)から,GPSが出力す るGPRMCセンテンスを取得し,3G回線経由でサーバまで送信する ための装置である.これにより,10秒ごとの緯度,経度,速度,針 路の情報を取得することができる. 漁獲時刻の記録には,Armadillo‑IoT(型番:AG421‑D00Z)[19] と防水押ボタンを用いた.Armadillo‑IoTは3G回線でインターネッ トに接続できるため,NTP(Network Time Protocol)により時刻 を取得している.本システムに用いた防水押ボタンを図3に示す.漁 獲時刻を記録するために,文献[16]の手法を拡張してタブレット端末 もしくはスマートフォンを用いて,正確なミズタコの漁獲位置や漁 獲量を記録する手法も考えられる.しかし,樽流し漁は複数の樽を 扱うため漁業者にはタブレット端末などを操作する時間的な余裕が ない,漁業者全員が情報通信端末の利用に慣れているわけではな い,漁業者は操業中濡れた手で作業を行うなどの理由から,容易に 操作可能で防水性が担保された装置を用いることが望ましい.そこ で今回,我々はイカ釣り漁で用いられるイカ釣りロボットの防水押 ボタンを用いた.このボタンは本来屋外での利用が想定されている ため,十分な防水性や対候性を有している.予備実験の結果,この ボタンはIPX7相当の防水性能を有していることを確認した.また, 情報の入力方法も単にボタンを押下するのみなので,誰でも簡単に 扱うことができる. 4.1 ハードウェア構成

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図3 本システムに用いた防水押ボタン 提案システムでは,漁獲時刻と合わせて漁獲したミズダコの重量 区分も取得する.今回用いた防水押ボタンには計3つのボタンがあ り,漁業者へのヒアリングをもとに,各ボタンとタコの重量を対応 づけた.対応づけは,上のボタンから順に「10kg以上」,「2.5~ 10kg」,「2.5kg未満(資源保護の観点から,漁協で出荷禁止とさ れている重量)」とした(以降,本稿ではそれぞれのボタンをBT1, BT2,BT3とする).漁業者は,タコを引き揚げた際に,タコの重量 に対応したボタンを押下する. 情報を集約するサーバは,さくらインターネット(株)の「さく らのVPS(メモリ1GB,CPU仮想2core,HDD100G)」を利用して 構築した.サーバでは,マイクロキューブとArmadillo‑IoTから送信 された情報の蓄積・解析を行う. なお,今回は漁船の位置情報を取得するためのマイクロキューブ と,Armadillo‑IoTを用いた防水押ボタンはそれぞれ異なる3G回線 を用いている.これは,漁船位置と漁獲位置を同時に送信する装置 を新たに開発するにはコストがかかることと,すでに漁船には別の

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取り組みでマイクロキューブが搭載されていたため,それに拡張す る形で漁獲時刻を記録するArmadillo‑IoTと防水押ボタンを搭載した ためである.技術的には両者を統合することに問題はない. 4.2 ソフトウェア構成 Armadillo‑IoTでは,以下の3つのスレッドが動作している. (1)ボタン押下情報取得スレッド 押下されたボタンの種別,ボタン押下時刻をボタン押下情報とし て取得し,送信待ちキューに挿入する. (2)ボタン押下情報送信スレッド キューに保存されているボタン押下情報を取り出し,3G回線経由 でサーバに送信する.送信時にはサーバからのACKによって情報が サーバまで到達しているかどうかを確認する.サーバに情報が到達 していない場合は再送を行う.なお,送信はTCPを用いている.ペ イロードのサイズは29バイトであり,携帯電話番号,タイムスタン プ,押下したボタンの種別に関する情報が含まれる. (3)生存確認情報送信スレッド サーバでArmadillo‑IoTの稼働状況を確認するために,サーバに対 して5分間隔で生存確認メッセージを送信する.ボタン押下情報送信 スレッドと同じくTCPを用いており,ペイロードのサイズは30バイ トである.ペイロードには携帯電話番号,タイムスタンプ,生存確認 メッセージであることを示す識別子が含まれる. サーバでは,マイクロキューブによる位置情報と,Armadillo‑IoT から送信されたボタンの押下情報から,ミズダコの漁獲位置を計算 する.マイクロキューブにより得られた時刻t の座標を点P (x , y ),時刻t の座標を点P (x ,y ),ボタンの押下時刻をt(t <t< t )とする.t からt の間は船速が一定であると仮定し,点P とP を 結ぶ線分をt-t :t -tで内分する点をミズタコの漁獲位置とする. 1 1 1 1 2 2 2 2 1 2 1 2 1 2 1 2

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今回,北海道留萌市で樽流し漁を行う漁業者2名(2隻)を対象と して,開発した漁獲位置記録システムの運用実験を行った.システ ムの運用期間は,2016年6月8日から7月27日までである.本章で は,Armadillo‑IoTからデータを送信する際の通信性能の評価,ボタ ンの押下場所を可視化した結果,提案システムと従来手法により作 成した漁獲分布図の比較を行った結果について述べる.なお,シス テム導入の際には著者も実際に操業に同行し,スイッチの押下状況 や操業の様子を観察した. 5.1 通信性能評価 開発したシステムが,海上でも問題なく動作すること,また目的と する水産資源管理に利用できることを確認するため,生存確認メッ セージの受信率および遅延時間について評価した. 表1に2隻の漁船ごとの生存確認メッセージ受信率と,2隻合計の生 存確認メッセージ受信率を求めた結果を示す.表1から,98%以上の 高い受信率を達成していることが分かる.北海道留萌市では,樽流 し漁はおおむね海岸線から5km以内の範囲で行われているため,携 帯電話のサービスエリア内であることから,高い受信率を達成して いると考えられる.さらに,ボタンの押下情報についてはアプリケ ーションレベルで再送処理を行っているため,より確実にボタン押 下情報をサーバに送信することができると考えられる. 表1 サーバでの生存確認メッセージ受信率

5.システム評価

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セージ送信後27秒以内に,99%以上のメッセージがサーバへ到達し ていることを確認した.本システムでは遅延時間に対する要求は厳 しくないため,水産資源管理において十分実用的な遅延時間であっ たと考えられる.また,準リアルタイムに漁獲に関する情報を取得 できるため,流通・加工業者にもリアルタイムに漁獲に関する情報 を配信することができれば,水産業におけるサプライ・チェーン・ マネジメントを実現できる可能性がある.たとえば,流通業者では トラック,発泡スチロールや木箱等の漁獲した水産物を保存するため の箱,氷の量の最適化が期待される.また,加工業者では,作業に あたる人員数の見積もりや,加工に使用する原材料の量の最適化が期 待される. 5.2 ボタン押下場所の可視化 図4に,漁業者の操業実態を明らかにするために,提案したシステ ムによってボタン押下場所を可視化した結果を示す.この図では,ボ タ ン ご と に マ ー カ の 形 状 を 変 更 し て い る . 図 4 か ら , お お よ そ (2,500 ,4,000) ~(4,000 ,5,500) の範囲と,(2,000,2,000) ~ (4,000,4,000)の範囲の2カ所でボタンの押下が集中しているこ と,つまり,漁業者は期間中,特定の範囲で集中して操業を行って いたことが推測される.また,10kg以上の大型のタコに対応する BT1は,主に(3,000,5,000)付近と(2,000,2,500)付近で集中的に 押下されていることが分かる.表2に,期間中のボタンごとの押下数 と,3つのボタンの総押下数を示す.ミズダコの漁獲数の8割以上が 2.5~10kgの重量であることが分かる. また,遅延時間に関する評価も実施した.遅延時間は,生存確認 メッセージ(前述の生存確認情報送信スレッドが送信したメッセー ジ)がサーバに届くまでの時間と定義し,サーバでの生存確認メッ セージ受信時刻から,生存確認メッセージに含まれる送信時刻を引 くことによって求めた.評価の結果,生存確認メッセージが 秒以内5 にサーバへ到達した割合は94.9%であった.同様に,生存確認メッ

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表2 ボタン押下数 5.3 漁獲分布図の作成 提案手法の有効性を確認するために,従来手法で作成した漁獲分 布図と,提案システムで作成した漁獲分布図の比較を行った.今 回,漁協から漁獲量のデータが入手できた2016年6月8日から7月8日 までの期間で漁獲分布図を作成した.開発したシステムでは,漁業 者の負担を考慮して3つのボタンのみを押下する方式のため,ボタン の押下情報からタコの正確な重量を把握することはできない.その ため,ボタン押下時の重量の期待値を漁協から入手したデータをも とに算出し,漁獲分布図を作成した. ボタン押下時の重量の期待値の算出方法は次の通りである.まず, 表2から,両船ともに10kg以上のミズダコの漁獲数は,2.5~10kgの ミズダコの漁獲数に対して少ないため,BT1が押下されたときのミズ ダコの重量を10kgとした.次に,漁船ごとにBT2が押下されたとき のタコの重量の期待値を求めた.期待値は,実験期間全体の漁獲量 からBT1の押下回数分の漁獲量を差し引いた上で,BT2の押下回数で 除することによって求めた.数式では以下の式で表される.ここ で,E(C )とE(C )はボタンBT1とBT2押下時の重量の期待値, C は総漁獲量,N とN はそれぞれボタンBT1とBT2の押下回数 である. BT1 BT2 all BT1 BT2

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期待値を導出した結果,BT2押下時のタコの重量の期待値は,漁船A は7.11kg,漁船Bは5.26kgであった.なお,BT3押下時はタコの重 量が出荷可能な重量である2.5kgに達していない.そのため,BT3の 押下情報は漁獲分布図の作成には使用しない. 従来手法での漁獲分布図の作成手順は,文献[12]を参考とした.具 体的には漁港の範囲外かつ船速が4ノット以下の場合を操業中である と定義した.まず海域を正方形のグリッドに分割し,漁船が各グリ ッドに滞在した時間を求める.各グリッドでの漁獲量は各グリッド での滞在時間に比例すると仮定し,漁獲量をグリッドの滞在時間に 応じて割り当てることによって漁獲分布図を作成した. 提案システムを利用して漁獲分布図を作成した結果を図5,従来手 法に基づき作成した漁獲分布図を図6に示す.これらの図では,海域 を100m四方のグリッドに分割し,今回の実験対象の漁船がタコを漁 獲したグリッド(漁獲グリッド)を,漁獲量に応じて10kgごとに色 分けした結果である.図5と図6を比較すると,提案手法では従来手 法に比べて漁獲グリッドが少ないことが分かる.漁獲グリッド数を 比較したところ,図5は214グリッドであるのに対して,図6は640 グリッドであった.グリッドサイズが100mの場合,提案手法による 漁獲グリッド数は,従来手法に比べて約67%削減されている.表3 に,操業グリッド数(漁船の過去の航跡データから,樽流し漁の漁 場になり得るグリッド)をN ,提案手法による漁獲グリッド数を C ,従来手法による漁獲グリッド数をC ,提案手法と従来手法 による漁獲グリッド数の比率C /C をグリッドサイズごとにま とめた結果を示す.今回の実験では,C /C は17.3~66.7%と なり.いずれのグリッドサイズにおいても,提案方式による漁獲グ リッド数は,従来方式による漁獲グリッド数を下回っていることが 分かる.従来手法では,漁船の速度を用いているためミズダコの漁 獲がない海域も漁場として抽出しており,漁獲グリッド数が過剰と F prop conv prop conv prop conv なる.一方,提案システムでは,ボタン押下によって漁場とミズダ コの漁獲位置を正確に取得し漁獲グリッド数をより正確に把握する ことができたため,表3の結果になったと考えられる.

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図6 従来手法によって作成した漁獲分布図

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表4に,図5,図6で10kg未満の漁獲量が割り当てられたグリッド に関する統計的指標を示す.表4から,提案手法では2.5kg未満の漁 獲量が割り当てられたグリッドは存在しないが,従来手法では597個 中401個のグリッドに対して2.5kg未満の漁獲量が割り当てられてい る.また,グリッドに割り当てられた最少漁獲量および平均漁獲量 に着目すると,提案手法は2.5kg以上であるのに対して,従来手法で は最少漁獲量は0.02kgとなり,平均漁獲量も2.5kg未満となってい る.従来手法では,各グリッドごとに,漁船の位置情報をもとに滞 在時間を求めており,滞在時間に応じて漁獲量の割り当てを行う. そのため,極端に滞在時間の短いグリッドにも漁獲量を割り当てて しまうために,本来は出荷不可な重量である2.5kg未満の漁獲量が割 り当てられてしまうグリッドが発生する. 表4 10kg未満の漁獲量が割り当てられたグリッドに関する統計指標 図7に,従来手法で作成した漁獲分布図から,2.5kg未満のグリッ ドを削除した結果を示す.図5と図7と比較した結果,また,すでに 表4でも示しているとおり,2.5kg未満の漁獲量が割り当てられたグ リッドを削除したとしても,漁場面積の過大評価の問題を解決でき ていないと考えられる. 以上のことから,提案システムによりミズダコの漁獲位置を取得 できるようになったため,従来手法の問題点であった漁場面積の過 大評価と,不適切な漁獲量が割り当てられる問題を解決し,より現

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図7 従来手法によって作成した漁獲分布図(2.5kg未満のグリッドを除 外) 5.4 ヒアリング システムを利用した漁業者に対して,システムの利用感について のヒアリングを実施した.その結果,システムによって漁獲位置を 操業終了後に確認できるのは有用であるとのコメントをいただい た.また,操作方法についても,単にスイッチを押すだけなので, 大きな負担はないとのことであった.

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一方で,スイッチを正しく押下できたかどうかを確認する方法が ないため,表示灯などで押下したスイッチを可視化してほしいとの 要望があった.また,繁忙時(複数の樽にミズダコがかかっている とき)には漁業者はミズダコの引き上げ作業に忙しく,スイッチの 押し忘れがあることなどが判明した.

6.まとめと今後の展望

本稿では,漁獲位置記録システムとその運用結果について報告し た.開発したシステムでは,漁業者の利便性を第一に考え,ボタン を押下することによって情報を送信するシンプルな構成とした.シ ステムの性能評価に関する実験では,Armadillo‑IoTの生存確認メッ セージの受信率,遅延時間ともに,本研究の目的である水産資源管 理に対して十分な性能を有していることを示した.また,システム によって得られた情報から漁獲分布図を作成し,漁業者の操業実態 の可視化や従来手法における漁獲分布図作成時の問題点を解決する ことができた. 今後の展望としては,より漁業者に負担をかけない形で情報を取 得する方法を検討する必要がある.実際に漁業者にヒアリングを実 施したところ,繁忙時(複数の樽にミズダコがかかっているとき) には少なからずスイッチの押し忘れがあることが判明した.樽の引 き上げ作業は特徴的な動作のため,漁業者に加速度センサ等を装着 させ,腕の動きからミズダコの漁獲を自動検出するシステムを開発 すれば,より正確なデータを取得することが可能となる. 謝辞 本研究では,実験を新星マリン漁業協同組合所属の漁業者2 名の協力により実施した.また,同漁業協同組合から漁獲量データ の提供を受けた.関係者諸氏に深く感謝する. 参考文献 1)水産庁:平成27年度水産白書,水産庁, http://www.jfa.maff.go.jp/j/kikaku/wpaper/(2016年9月1日現

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18)山崎礼華,和田雅昭,佐野 稔,高 博昭:航跡情報を活用し た漁場抽出アルゴリズムについて─たこいさり樽流し漁の事例─, 日本航海学会論文集,Vol.130, pp.62‑68, http://ci.nii.ac.jp/naid/130004623018/ (2014). 19)(株)アットマークテクノ:Armadillo‑IoT ゲートウェイ製品 マニュアル,(株)アットマークテクノ,http://armadillo.atmark‑ techno.com/files/downloads/armadillo‑iot/document/armadillo‑ iotg‑std_product_manual_ja‑2.8.0.pdf(2016年5月1日現在) 投稿受付:2017年5月1日 採録決定:2017年9月6日 高 博昭(非会員)[email protected] 1984年生.2007年豊橋技術科学大学工学部情報工学課程卒 業,2009年同大学院修士課程情報工学専攻修了.2012年同大 学院博士後期課程電子・情報工学専攻修了.同年公立はこだて 未来大学特任研究員,2015年同大助教.博士(工学).水産・ 海洋分野を対象としたセンサネットワークに関する研究等に従 事.2012年度電子情報通信学会東海支部学生研究奨励賞.電子 情報通信学会,日本航海学会各会員. 和田 雅昭(正会員)[email protected] 1993年北海道大学水産学部漁業学科卒業.同年(株)東和電 機製作所入社.2004年北海道大学大学院水産科学研究科環境 生物資源科学専攻博士後期課程(社会人特別選抜)修了. 2005年公立はこだて未来大学講師.2006年同大助教授のち准 教授.2012年同大教授.マリンIT・ラボ所長.ICT漁業の研究 に従事.2012年度北海道科学技術賞,2013年度喜安記念業 績,2014年度北海道総合通信局長表彰,2016年度ドコモ・モ バイル・サイエンス賞受賞.博士(水産科学).日本航海学 会,電子情報通信学会,IEEE各会員. 編集担当:竹内郁雄

参照

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