• 検索結果がありません。

『伊勢物語古意』の改稿

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "『伊勢物語古意』の改稿"

Copied!
34
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

1

1

KobeShoinWomen'sUniversityRepository

Title 『伊 勢 物 語 古 意 』 の 改 稿 TheRevisingProcessoflsemonogatarikoi Author(s) 田 中 ま き(TANAKAMaki) αfafloη 文 林(BUNRIN),No38:19-51 lssueDate 2004 ResourceType BulletinPaper/紀 要 論 文 ResourceVersion URL Right AdditionalInformation

(2)

﹃伊

稿

『伊勢物語古意 』の改稿 一 賀 茂 真 淵 の ﹃ 伊 勢 物 語 ﹂ 注 釈 書 ﹃ 伊 勢 物 語 古 意 ﹄ は 、 上 田 秋 成 に よ っ て 、 寛 政 五 年 ( 一 七 九 三 ) 、 版 本 が 上 梓 さ れ た 。 秋 成 は そ の 版 本 に 付 し た 序 文 に 、 次 の よ う に 記 し て い る 。 こ た び 伊 勢 物 語 の い に し へ な る こ \ ろ を と き あ か せ し ふ み 、 あ が た 居 の 翁 の し る し お か れ し を 世 に 推 広 む と て 、 昔 我 静 舎 の う し よ リ 写 つ た へ し を 心 は し ら と し て 、 宮 古 に あ づ ま に 、 千 代 の 古 道 お な じ た ど り す る 人 々 の 蔵 め た ま へ る を も か り つ ど へ つ 、 、 ひ と 言 を だ も た が へ じ と 物 せ し を 、 な ほ い か ば か り の あ や ま ち を や し い で つ ら む 、 読 見 む 人 こ そ た す け 正 し た ま へ 。 秋 成 は ﹁ 静 舎 の う し ﹂ す な わ ち 師 の 加 藤 宇 万 伎 (河 津 美 樹 ) の 所 持 本 を 書 写 し た 本 を 中 心 に 、 そ の 他 、 都 に 江 戸 に 同 門 の 人 々 か ら 所 蔵 本 を 借 り 、 本 文 を 校 合 し て 刊 行 し た と い う 。 こ の よ う に 版 本 は 、 秋 成 に よ る 校 訂 本 と い う 性 格 を 有

(3)

文林 三十八号 す る 本 な の で あ る 。 そ れ に も 拘 わ ら ず 、 こ れ ま で 、 ﹃ 伊 勢 物 語 古 意 ﹄ と い え ば 、 こ の 版 本 が ひ た す ら 読 ま れ 、 写 本 が 顧 み ら れ る こ と は ほ と ん ど な か っ た 。 し か し 、 実 際 に 写 本 と 版 本 を 比 較 し て み る と 、 両 者 に は か な り の 相 違 が あ る 。 ま た 、 現 存 す る 写 本 間 に も 様 々 な 異 同 が あ る の で あ る 。 そ こ で 、 本 稿 で は 、 鶴 見 大 学 図 書 館 蔵 本 と 加 藤 千 蔭 筆 本 の 二 つ の 写 本 を 中 心 に 取 り 上 げ 、 ﹃ 伊 勢 物 語 古 意 ﹄ の 改 稿 の 様 相 を 明 ら か に し 、 さ ら に は 、 そ の 成 立 過 程 に つ い て の 従 来 の 説 を 見 直 し た い 。 二 ま ず 初 め に ﹃ 伊 勢 物 語 古 意 ﹄ ( 以 下 、 ﹃ 古 意 ﹄ と 記 す ) の 成 立 や 写 本 に つ い て 、 従 来 、 ど の よ う に 述 べ ら れ て き た か す コ 簡 単 に 記 し て お き た い 。 そ も そ も 賀 茂 真 淵 ( 一 六 九 七 ∼ 一 七 六 九 年 ) は 、 ﹃ 伊 勢 物 語 童 子 問 ﹄ の 著 者 で あ る 荷 田 春 満 に 師 事 し 、 春 満 に 入 門 し た 三 十 歳 台 か ら 、 ﹃ 伊 勢 物 語 ﹄ の 研 究 を 重 ね て い た よ う で 、 ﹃ 伊 勢 物 語 童 子 問 ﹂ に は 真 淵 の 書 入 れ や ﹁ 春 満 先 生 門 下 遠 江 賀 茂 真 淵 、 先 生 の ま へ に あ り て 、 筆 を は し ら せ て 、 か り に し る す ﹂ と い う 奥 書 の あ る 本 も ら   み そ の や 存 在 す る 。 ま た 、 ﹃ 古 意 ﹄ に 先 行 す る 論 と 見 ら れ る ﹃ 勢 語 七 考 ﹄ の ﹃ 三 十 副 ﹄ 所 収 本 の 奥 書 に 、 享 保 元 年 ( 一 七 一 六 ) は ヨ と あ っ て 、 ﹃ 伊 勢 物 語 ﹄ の 講 釈 を 行 な っ た こ と が 記 さ れ て い る 。 た だ し 、 こ れ で は 、 真 淵 が 二 十 歳 頃 と な る の で 、 井 な   上 豊 氏 は 寛 保 ( 一 七 四 一 ) 、 真 淵 四 十 五 歳 の 時 の 誤 り で あ ろ う と 推 定 さ れ て い る 。 い ず れ に し て も 、 ﹃ 古 意 ﹄ に 先 立 っ て 、 ﹃ 伊 勢 物 語 ﹄ の 総 論 を ま と め た ﹃ 勢 語 七 考 ﹄ が 書 か れ 、 本 文 に つ い て の 注 釈 も 進 め ら れ て い た も の と 見 ら れ て い る の で あ る 。 一20一

(4)

『伊勢物語古意』 の改稿 宝 暦 八 年 ( 一 七 五 八 ) 成 立 の ﹃ 源 氏 物 語 新 釈 ﹄ に ﹁ 伊 勢 物 語 六 巻 を 書 て 委 く 論 た り ﹂ の こ と ば が 見 え 、 ま た 、 そ れ に 先 立 つ 宝 暦 二 年 ( 一 七 五 二 ) 十 二 月 二 十 八 日 と 推 定 さ れ る 真 淵 の 実 子 、 市 左 衛 門 宛 書 簡 に も ﹁ 御 表 様 の 御 用 に て 、 当 春 い せ 物 語 註 を 被 仰 付 候 而 、 少 々 書 候 内 、 又 別 に 思 召 有 之 、 万 葉 中 之 短 歌 百 首 撰 出 し 候 て 上 候 上 、 其 註 を 先 可 仕 由 だ ヨ に 而 、 秋 以 来 宿 に て か \ り 、 此 節 漸 草 稿 畢 、 清 書 に か \ り 申 候 ﹂ と あ り 、 ﹁ 御 表 様 の 御 用 ﹂ す な わ ち 和 学 御 用 を 勤 め る 田 安 宗 武 の 依 頼 に よ っ て 、 ﹃ 万 葉 集 ﹄ の 短 歌 百 首 を 撰 出 し 注 釈 を 付 し た ﹃ 万 葉 新 採 百 首 解 ﹄ の 執 筆 、 清 書 で 後 回 し に な っ た も の の 、 ﹃ 古 意 ﹄ の 執 筆 に も 既 に 着 手 し て い た こ と が 窺 え る 。 こ の ﹃ 古 意 ﹂ の 稿 本 と さ れ る 穂 積 家 蔵 本 ( 現 、 鶴 見 大 学 図 書 館 蔵 ) が 大 津 有 一 氏 に よ っ て 、 昭 和 八 年 ( 一 九 三 三 ) 、 ﹁ 文 学 ﹂ ( 第 一 巻 第 四 号 ) に ﹁ 真 淵 自 筆 ﹁ 伊 勢 物 語 古 意 ﹂ の 出 現 ﹂ と 題 し て 紹 介 さ れ た 。 こ の 本 に つ い て は 、 本 稿 で 取 り 上 げ 、 詳 し く 論 じ る が 、 大 津 氏 は 二 枚 の 写 真 を 掲 載 し て 、 真 淵 が 朱 や 胡 粉 も 使 っ て 、 一 再 な ら ず 補 訂 の 筆 を 執 っ て い る 様 子 を 報 告 さ れ 、 そ の 本 と 寛 政 五 年 版 本 の 比 較 を 通 し て 、 ﹃ 古 意 ﹄ の 改 稿 の 様 相 を 具 体 的 に 示 さ れ た 。 次 に 、 昭 和 三 十 年 ( 一 九 五 五 ) 、 吉 川 理 吉 氏 は 龍 谷 大 学 国 文 学 研 究 室 蔵 ( 現 、 龍 谷 大 学 学 術 情 報 セ ン タ ー 蔵 ) の ぼ   ﹃ 古 意 ﹄ の 写 本 に ﹁ 宝 暦 元 年 十 月 し る す 賀 茂 真 淵 判 ﹂ と い う 奥 書 の あ る こ と を 紹 介 さ れ 、 龍 谷 大 学 本 が ﹁ 本 著 初 期 の 稿 本 の 様 を 示 す 。 そ の 成 る の が こ の 奥 書 の 宝 暦 元 年 ( 一 七 五 一 ) 十 月 ﹂ で 、 そ の 後 、 宗 武 の 依 頼 に よ っ て 、 真 淵 自 身 が ﹁ 再 び 推 敲 の た め に 旧 稿 を 写 し 之 に 加 筆 し た 、 そ の 修 訂 の 草 稿 が 穂 積 本 ﹂ で あ ろ う と 述 べ 、 こ の 龍 谷 大 学 本 に つ い て は ﹁ 建 部 綾 足 補 註 の 本 を 伴 苦 同 瞑 が 写 し 伝 へ て 是 に さ ら に 補 註 し た 本 ﹂ と し て い る 。 は ア ま た 、 尾 崎 知 光 氏 は ﹃ 賀 茂 真 淵 全 集 ﹂ 会 報 に 、 氏 の 所 蔵 本 の 河 北 景 禎 書 入 本 に つ い て 簡 単 に 紹 介 さ れ た が 、 そ の 本 一21一

(5)

文林 三十八号 に も 龍 谷 大 学 本 と 同 じ ﹁ 宝 暦 元 年 十 月 し る す 賀 茂 真 淵 判 ﹂ と い う 奥 書 と 、 ほ か の 本 に は 見 ら れ な い ﹁ 真 淵 手 澤 の 稿 本 に い は く 明 和 二 年 二 月 再 校 了 ﹂ と い う 奥 書 が 記 さ れ て い る と い う 。 氏 は こ の 本 を ﹁ 宝 暦 元 年 に 起 筆 し 、 明 和 二 年 に 再 校 し た 書 の 写 本 で あ り 、 そ れ に 景 槙 が 書 き 入 れ を 施 し た も の ﹂ と し て い る 。 こ の 奥 書 に も ﹁ 宝 暦 元 年 十 月 し る す ﹂ の 記 述 が 見 え る の は 、 や は り ﹃ 古 意 ﹄ が こ の 時 に は 一 応 の 完 成 を 見 て い た こ と を 示 し て い よ う 。 こ の よ う な 写 本 の 状 況 か ら 、 ﹃ 古 意 ﹄ は 、 宝 暦 元 年 十 月 ま で に 初 稿 が 成 り 、 同 二 年 春 、 田 安 宗 武 の 依 頼 を 受 け 、 真 淵 自 身 に よ っ て 改 稿 が な さ れ 、 同 三 、 四 年 頃 に 完 成 し て 、 清 書 の う え 、 宗 武 に 贈 ら れ た と 考 え ら れ て い る 。 そ し て 、 鶴 見 大 学 図 書 館 本 ( 穂 積 家 旧 蔵 本 ) を 、 宗 武 へ 納 め た 本 の 草 稿 と 捉 え 、 東 京 大 学 附 属 図 書 館 本 、 内 閣 文 庫 本 、 神 宮 文 な け 庫 本 な ど の 写 本 は こ の 草 稿 本 に 拠 っ た 清 書 本 の 書 写 本 と さ れ て い る の で あ る が 、 果 た し て そ の よ う に 考 え て よ い の だ ろ う か 。 ま た 、 井 上 豊 氏 が ﹃ 加 茂 真 淵 全 集 ﹄ の ﹃ 古 意 ﹄ の 解 説 に ﹁ 写 本 と 古 版 本 と の 関 係 は ま だ 明 ら か に さ れ て い な い ﹂ と 述 べ て お ら れ る 通 り 、 そ の 関 係 も 判 然 と し な い 。 そ こ で 、 こ れ ら の 点 に つ い て も 検 討 し た い 。 一22一 三 右 に 触 れ た よ う に 、 ﹃ 古 意 ﹂ に は 真 淵 の 稿 本 と さ れ る 写 本 が 伝 わ っ て い る が 、 直 接 の 調 査 は 大 津 氏 以 来 な さ れ て い な い 。 氏 の 報 告 に い さ さ か 追 加 訂 正 し た い こ と も あ る の で 、 こ こ で 改 め て 書 誌 的 な こ と も 含 め て 述 べ る こ と と す る 。 該 本 は 、 御 歌 所 寄 人 で 国 文 学 者 で あ っ た 中 邨 秋 香 の 形 見 と し て 、 明 治 四 十 三 年 ( 一 九 一 〇 ) に 、 歌 の 弟 子 で あ っ た 穂 積 歌 子 氏 へ 贈 ら れ 、 平 成 七 年 ( 一 九 九 五 ) 、 穂 積 家 息 女 の 岩 佐 美 代 子 鶴 見 大 学 名 誉 教 授 の 仲 介 に よ り 、 穂 積 家 か ら

(6)

『伊勢物語古意』 の改稿 鶴 見 大 学 へ 寄 贈 さ れ た 本 で あ る 。 さ て 、 該 本 の 書 誌 を 記 す と 、 縦 二 十 七 、 一 糎 、 横 十 九 糎 の 全 六 冊 。 表 紙 は 藍 色 の 染 紙 で 、 各 冊 の 左 上 に 題 簸 が 付 さ れ 、 ﹁ 伊 勢 物 語 古 意 飛 ﹂ 以 下 ﹁ 布 ﹂ ﹁ 美 ﹂ ﹁ 與 ﹂ ﹁ 逸 ﹂ ﹁ 無 ﹂ と い う よ う に 巻 数 が 記 さ れ て い る が 、 ﹁ 飛 ﹂ の 右 に 朱 で ﹁ 一 ﹂ の 書 き 入 れ が あ り 、 以 下 、 そ れ ぞ れ ﹁ 二 ﹂ ﹁ 三 ﹂ ﹁ 四 ﹂ ﹁ 五 ﹂ ﹁ 六 ﹂ の 書 入 れ が あ る 。 中 は 楮 紙 の 袋 綴 じ で 、 第 一 冊 の 一 丁 表 か ら 九 丁 裏 ま で に 総 論 が 十 一 行 で 記 さ れ 、 そ れ 以 降 、 ﹃ 伊 勢 物 語 ﹄ 本 文 の 注 釈 に 入 る が 、 十 丁 表 か ら 二 十 九 丁 裏 ま で は 、 総 論 部 分 と 同 じ く 十 一 行 書 き だ が 、 そ の 次 の 三 十 丁 か ら 第 一 冊 最 終 の 六 十 九 丁 ま で は 九 行 書 き に 変 わ っ て い る 。 筆 跡 は 同 じ だ が 、 頭 注 の 位 置 も 異 な り 、 別 の 機 会 に 写 し た 本 を 取 り 合 わ せ た こ と を 窺 わ せ る 。 筆 跡 に つ い て 、 大 津 有 一 氏 は 第 三 冊 に ﹁ 筆 意 梢 異 る ﹂ 、 ﹁ 第 四 冊 よ り 肉 細 く 書 か れ ﹂ と 記 し て お ら れ る が 、 実 際 に は 、 本 に よ っ て 書 写 者 が 異 な る よ う で 、 し か も 、 第 六 冊 は 二 人 の 手 に な る よ う で あ る 。 そ の 第 六 冊 の 筆 の 変 わ り 目 は 、 前 者 が 四 丁 裏 の 途 中 七 行 目 ﹁ か の 男 は 天 之 逆 手 乎 打 而 な ん ⋮ ⋮ ﹂ の 項 目 か ら で あ り 、 後 者 が 五 十 二 丁 (本 論 末 尾 掲 載 の 写 真 ① の 左 ) の 初 め か ら で 、 注 釈 本 文 と し て は 途 中 で あ る 。 両 者 の 前 後 は と も に 一 面 九 行 書 き で 、 本 文 と 頭 注 の 高 さ (位 置 ) も 変 化 は 見 ら れ ず 、 ほ と ん ど 違 和 感 な く ス ム ー ズ に 続 い て い る 。 し た が っ て 、 別 の 本 を 取 り 合 わ せ た の で は な く 、 交 替 し て 書 い た こ と が 窺 わ れ る 。 ま た 、 そ の 第 六 冊 の 最 初 と 最 後 の 筆 跡 は 、 第 四 冊 と 同 筆 と 見 ら れ る 。 以 下 、 各 冊 の 丁 数 と 一 面 の 行 数 、 さ ら に は 、 筆 跡 の 別 を ア ル フ ァ ベ ッ ト で 掲 げ る と 、 次 の 通 り で あ る 。 な お 、 第 一 冊 に は 最 初 に 総 論 が あ り 、 そ の 後 に 続 く 各 章 段 の 注 釈 に は 章 段 番 号 は 付 さ れ て い な い が 、 定 家 本 系 統 に 当 て は め て 、 各 冊 の 収 載 章 段 も 合 わ せ て 記 す 。 巻 と 収 載 章 段 の 関 係 は ﹃ 古 意 ﹄ の 写 本 と 版 本 の い ず れ の 本 に も 共 通 す る も の で あ る 。 一23一

(7)

文林 三十八号 第 一 冊 、 総 論 と 巻 一 ( 第 一 段 ∼ 第 十 五 段 ) 、 六 十 九 丁 、 一 面 十 ↓ 行 ( 冒 頭 ∼ 二 十 九 丁 裏 ) 、 一 面 九 行 ( 以 下 、 最 後 ま で ) 。 A 第 二 冊 、 巻 二 (第 十 六 段 ∼ 第 三 十 二 段 ) 、 四 十 九 丁 、 一 面 九 行 。 遊 紙 一 丁 。 B 第 三 冊 、 巻 三 ( 第 三 士 二 段 ∼ 第 五 十 八 段 )、 四 十 四 丁 、 一 面 十 行 。 C 第 四 冊 、 巻 四 ( 第 五 十 九 段 ∼ 第 七 十 六 段 )、 五 十 二 丁 、 一 面 九 行 。 D 第 五 冊 、 巻 五 ( 第 七 十 七 段 ∼ 第 九 十 五 段 )、 六 十 丁 、 一 面 九 行 。 E 第 六 冊 、 巻 六 (第 九 十 六 段 ∼ 第 百 二 十 五 段 ) 、 六 十 五 丁 、 一 面 九 行 。 D ( 冒 頭 ∼ 四 丁 裏 六 行 目 ) ・ F ( 四 丁 裏 七 行 目 ∼ 五 十 一 丁 裏 ) ・ D ( 五 十 二 丁 表 ∼ 最 後 ) 第 一 冊 の 見 返 し に 中 邨 秋 香 の 筆 で ﹁ 加 茂 真 淵 翁 自 筆 勢 語 古 意 草 稿 本 ﹂ と あ る が 、 右 に 記 し た よ う に 複 数 の 筆 跡 が 認 め ら れ る 。 こ の 実 態 に よ り 鶴 見 大 学 図 書 館 で は ﹁ 中 村 秋 香 は 本 書 を 賀 茂 真 淵 自 筆 草 稿 と 認 定 し 、 こ れ に 同 意 す る 先 学 の 論 文 ( 大 津 有 一 ﹁ 真 淵 自 筆 ﹁ 伊 勢 物 語 古 意 ﹂ の 出 現 ﹂ ﹃ 文 学 ﹄ 1 巻 4 号 ) も あ る が 、 全 体 は 数 人 の 寄 合 書 で あ り 、 筆 跡 ・ 内 容 と も に 再 検 討 を 要 す る ﹂ と い う 見 解 を 示 し て お ら れ る が 、 第 四 冊 と 第 六 冊 の 最 初 と 最 後 の 筆 跡 ( D 、 本 論 末 尾 掲 載 の 写 真 ① の 左 ・ ④ ) 、 さ ら に 各 冊 の 訂 正 や 補 入 の 筆 跡 は 、 真 淵 自 身 の も の と 見 て 間 違 い な い よ う に 思 う の で あ サ リ   り る 。 ま た 、 第 六 冊 中 間 部 の 筆 跡 ( F 、 写 真 ① の 右 ・ ② ) は 真 淵 の 高 弟 、 加 藤 (橘 ) 千 蔭 の 筆 跡 と 認 め ら れ る 。 し た が っ て 、 該 本 は 全 冊 が 真 淵 自 筆 の 写 本 と い う わ け で は な い が 、 千 蔭 を 始 め と す る お そ ら く 弟 子 た ち に も 書 写 さ せ た 本 に 、 真 淵 自 身 が 補 訂 を 書 き 込 ん で い っ た 稿 本 と 断 じ る こ と が で き る と 思 う の で あ る 。 一24一

(8)

『伊勢物語古意』 の改稿 大 津 氏 に よ り 、 鶴 見 大 学 本 の 補 訂 後 の 本 文 が 寛 政 五 年 版 本 の 本 文 と 一 致 す る こ と は 既 に 明 ら か に さ れ て い る が 、 そ こ で 、 取 り 上 げ ら れ た 三 箇 所 の 例 は す べ て 第 四 冊 の 例 で あ る の で 、 こ こ で は 、 ほ か の 巻 か ら 例 を 挙 げ る こ と に す る 。 鶴 見 大 学 本 に は 胡 粉 を 塗 っ て 抹 消 し て あ る 箇 所 が 多 数 見 ら れ る が 、 そ の 箇 所 を 網 掛 け に し て 示 し 、 そ の 上 に 書 か れ た 文 字 が あ る 場 合 は 網 掛 け の 上 に 記 し た 。 見 せ 消 ち に は 傍 線 を 引 き 、 訂 正 な ど の 書 き 入 れ は ( ) に 入 れ て 示 し た 。 ま た 、 削 除 の 印 と し て 書 か れ た 枠 も 写 本 通 り に [ ] で 囲 ん で 示 し た 。 な お 、 本 文 の 引 用 に 当 た っ て は 、 読 解 の 便 を は か り 、 句 読 点 を 付 し た が 、 仮 名 遣 い や 清 濁 は 本 の ま ま に し た 。 鶴 見 大 学 本 と 版 本 の 間 の 異 同 が 明 確 に な る よ う 、 異 同 の あ る 箇 所 は ゴ シ ッ ク 体 で 示 し た が 、 漢 字 と 仮 名 の 別 や 送 り 仮 名 の 有 無 な ど に つ い て は 異 同 と み な さ な か っ た 。 ま た 、 漢 字 は 基 本 的 に 通 行 の 字 体 に 改 め た 。 み ち ま か か ま ず 、 写 真 ② の 第 六 冊 ﹁ 伊 勢 物 語 ﹄ 第 九 十 七 段 ﹁ 桜 花 散 か ひ く も れ 老 ら く の こ ん と い ふ な る 道 迷 ふ 欺 に ﹂ の 注 釈 箇 な   所 を 版 本 と 対 照 さ せ て 挙 げ る 。 ︿鶴 見 大 学 本 V よ ほ   と し 今 四 十 年 に な れ ば 老 の 来 ら ん と い ふ 也 。 桜 花 の 散 あ ひ つ 、 、 そ の 来 ん 道 を ま ど は し て よ 。 さ ら ば 、 こ 、 に 来 ず か も あ ら ん に と ウ ピ 也 。 古 今 集 に 、 老 ら く の こ 来 ん と し り せ ば 門 さ し て な し と こ た へ て あ は ざ ら ま し を 。 ま れ し な ら ん 。 (老 を 人 の 如 く い ふ に 、 を さ な く て を か し き 味 あ り ) 是 は い と 古 寄 な れ は 、 と り て 業 平 は よ ち り ○ 散 か ひ は 、 散 か ふ 也 。 万 葉 に ゆ き か ひ と い ふ を 往 反 と 書 た る に 依 は 、 散 ち が ひ と も 解 べ け れ ど 、 山 の 鵬 鶴 か ひ な ど い ふ 時 は 山 の 間 待 つ 間 の 事 也 。 是 ら を む か ふ る に 、 猶 ち り 合 と 解 も か な ふ べ し 。 (な る に よ る べ し 。 ) さ て 、 い と 散 み だ れ あ へ ば 、 く

(9)

文林 三十八号 一 て ○ も 専 老 る ら ら 故 い く に ふ 1ち な の り ら ら か ん く ひ o の く A 反 も 下 は れ

留 る な と は れ い は ふ o 一   は × 老 る と い ふ を 延 て 老 ら く と は い へ り o 飛 し 」 さ れ と 、 い と 古 へ は あ ら ず 。 今 の 京 と な り ︿寛 政 五 年 版 本 ﹀ 古 き ん 集 に 、 老 ら く の こ ん と し り せ ば 門 さ し て な し と こ た へ て あ は ざ ら ま し を 。 こ は い と 古 冨 な れ ば 、 と り て 業 平 は よ ま れ し な ら ん 。 老 を ば 人 の 如 く 云 に 、 を さ な く て を か し き 味 あ り 。 ○ 散 か ひ は 散 ち が ふ 也 。 萬 葉 に ゆ き か ひ と 云 を 往 反 と 書 た る に 依 べ し 。 ○ 老 ら く は 、 老 る と い ふ を 延 て 老 ら く と い ふ 也 。 (下 略 ) 鶴 見 大 学 本 は 激 し い 補 訂 が な さ れ て い る 。 口 の 印 は 朱 で 書 か れ て お り 、 そ の う ち の 何 箇 所 か に は 墨 で 斜 線 も 入 れ よ そ ち の と し ら れ 、 削 除 の 意 図 が 読 み 取 れ る 。 例 え ば 、 鶴 見 大 学 本 の 冒 頭 の 口 に 入 っ た ﹁ 今 四 十 年 に な れ ば ﹂ 以 下 の 文 章 を 削 ち り 除 し 、 そ れ を 書 き 直 せ ば 、 版 本 の 本 文 に な る の で あ る 。 鶴 見 大 学 本 の 網 掛 け で 示 し た 胡 粉 塗 布 の 箇 所 は ﹁ 散 か ふ 也 ﹂ と あ る の が 、 版 本 で は ﹁ 散 ち が ふ 也 ﹂ と あ っ て 、 完 全 に 一 致 し て い る と い う わ け で は な い が 、 概 し て 版 本 の 注 釈 は 鶴 見 大 学 本 の 補 訂 後 の 注 釈 と 一 致 す る の で あ る 。 そ の 次 の 箇 所 も 口 で 囲 ん だ 部 分 を 削 除 し 、 ﹁ べ し ﹂ を 補 う と 、 や は り 版 本 の 注 釈 と 一 致 す る が 、 そ こ に 到 達 す る ま で に は 、 ﹁ 也 。 是 ら を む か ふ る に 、 猶 ち り 合 と 解 も か な ふ べ し ﹂ を 見 せ 消 ち に し て ﹁ な る に よ る べ し ﹂ と 修 正 し た 段 階 が あ る こ と が わ か る 。 つ ま り こ う い う 補 訂 が 一 再 な ら ず 行 わ れ て い た こ と が 窺 え る の で あ る 。 と を か さ 次 に 第 三 冊 か ら 例 を 挙 げ る と 、 第 五 十 段 の ﹁ 烏 の 子 を 十 づ \ 十 は 重 ぬ と も 思 は ぬ 人 を お も ふ も の か は ﹂ の 歌 の 注 釈 一26一

(10)

『伊 勢物語古意』 の改稿 は 次 の よ う に あ る 。 ︿鶴 見 大 学 本 ﹀ こ は 六 帖 に 、 鳥 の こ を 十 つ ㌧ 十 を 重 ぬ と も 思 は ぬ 人 を 何 か お も は ん と 、 友 則 の よ み た る を 少 し か へ て 用 ゐ た り 。 卵 を 百 も 重 る 事 は な り が た き 極 み な が ら 、 も し そ は 重 ぬ る わ さ の 有 も し つ べ き を 、 わ れ を お も は ぬ 人 を 恋 る は 何 の た の め も か ひ も な け れ ば お も は じ た の め じ と 也 。 鶏 子 を 畳 ぬ る た と へ は か ら に 有 し を と れ り し に や 。 △ ( 蜻 蛉 日 記 に 、 糸 も て と り の 子 を 十 か さ ね た る 事 有 。 右 の 歌 を お も へ る か 。 さ ら で も こ と わ ざ に い ふ 事 あ り て せ し か 。 ) ○ ま た 六 帖 に 同 じ 。 友 則 の 女 を は な れ て よ め る と て 、 瀧 つ 瀬 に 浮 草 の 根 は と め つ と も 人 の 心 を い か で 頼 ま ん ︿寛 政 五 年 版 本 ﹀ こ は 六 帖 に 、 鳥 の 子 を 十 づ ∼ 十 は か さ ぬ と も 思 は ぬ 人 を 何 か お も は ん と 、 友 則 の よ み た る を 少 し か へ て 用 ゐ た り 。 卵 を 百 も か さ ぬ る 事 は 成 が た き 極 み な が ら 、 も し そ は か さ ぬ る わ ざ の 有 も し つ べ し 。 我 を 思 は ぬ 人 を 恋 る は 何 の た の め も か ひ も な け れ ば お も は じ た の め じ と 也 。 鶏 子 を か さ ぬ る た と へ は か ら 国 に 有 し を と れ る に や 。 蜻 蛉 日 記 に 、 糸 も て 鳥 の 子 を 十 か さ ね た る 事 あ り 。 右 の 寄 を 思 へ る か 。 さ ら で も 諺 に い ふ 事 あ り て せ し 欺 。 ○ 又 六 帖 に 同 じ 。 友 則 女 を は な れ て よ め る と て 、 瀧 つ せ に 浮 草 の 根 は と め つ と も 人 の 心 を い か で た の ま ん 。 鶴 見 大 学 本 の 胡 粉 を 塗 布 し た 訂 正 箇 所 ﹁ も し そ は 重 ぬ る わ さ ﹂ は 、 版 本 で そ の 訂 正 本 文 と 一 致 し て い る 。 ま た 、 鶴 見 大 学 本 の △ 印 は 、 写 本 の 本 文 中 に こ の 印 が 書 か れ 、 上 の 余 白 に も 同 じ 印 を 付 し て ﹁ 蜻 蛉 日 記 に 糸 も て ﹂ 以 下 の 文 章 が 記 さ れ て お り 、 こ の 補 入 の 指 示 通 り 、 版 本 の 本 文 は ﹁ 蜻 蛉 日 記 に 糸 も て ﹂ 以 下 の 文 章 が 入 っ た 注 釈 に な っ て い る 。 こ の よ う に 、 大 津 氏 が か つ て 述 べ ら れ た よ う に 鶴 見 大 学 本 の 補 訂 後 の 本 文 と 版 本 の 本 文 が ほ ぼ 一 致 す る の で あ る 。

(11)

文林 三十 八号 た だ し 、 改 稿 の 様 相 は 巻 に よ っ て 違 い が あ り 、 第 三 ∼ 六 冊 に は 多 く の 書 き 入 れ や 削 除 の あ と が 見 ら れ る が 、 そ れ ら に 比 べ て 第 一 ・ 二 冊 に は ほ と ん ど 補 訂 の 筆 が 入 っ て い な い 。 こ れ は 第 一 ・ 二 冊 だ け が 改 稿 さ れ て い な い と い う こ と な の だ ろ う か 。 し か も 、 そ の 注 釈 本 文 に 補 訂 が 加 え ら れ て い な い に も 拘 わ ら ず 、 既 に 寛 政 版 本 と ほ と ん ど 一 致 す る の で あ る 。 こ れ は 、 右 に 示 し た 該 本 の 第 三 ∼ 六 冊 の 様 相 と は 大 き く 異 な る も の で あ り 、 こ の 本 が 一 様 に 説 明 で き な い 本 で あ る こ と を 示 し て い る 。 何 故 こ の よ う な 様 相 を 示 す の か に つ い て は 、 こ こ で は ひ と ま ず 保 留 し て 、 次 に こ の 疑 問 を 解 く 鍵 と な る 写 本 に つ い て 取 り 上 げ た い 。 四 一 28 前 章 で 取 り 上 げ た 鶴 見 大 学 本 は ﹃ 古 意 ﹄ の 改 稿 の 様 相 が 現 れ た 本 で あ っ た が 、 次 に 挙 げ る 本 も ま た そ れ を 明 ら か に す る の に 有 効 な 写 本 で あ る 。 そ の 本 は 片 桐 洋 一 氏 所 蔵 の 一 本 で 、 最 終 冊 の 第 六 冊 末 尾 に ﹁ 宝 暦 と い ふ 己 卯 の と し 千 蔭 う つ す ﹂ と い う 識 語 を 持 つ 本 で あ る 。 該 本 は ﹃ 弘 文 荘 待 費 古 書 目 ﹄ 第 二 十 八 号 (昭 和 31 年 12 月 ) に 掲 載 さ れ 、 そ の こ と が ﹃ 増 訂 版 伊 勢 物 語 古 注 釈 の 研 究 ﹄ に 紹 介 さ れ た だ け で 、 こ れ ま で 詳 し く 報 告 さ れ る こ と の な か っ た 写 本 で あ る 。 え ﹁ 千 蔭 ﹂ と あ る の は 、 賀 茂 真 淵 の 高 弟 、 加 藤 ( 橘 ) 千 蔭 の こ と で あ る 。 父 枝 直 が 真 淵 と 親 交 が あ り 、 千 蔭 は 若 く し て 真 淵 に 師 事 し 、 真 淵 の 学 を 継 い で ﹃ 万 葉 集 略 解 ﹄ を 著 し た こ と は 有 名 で あ る 。 そ の 千 蔭 が ﹁ 宝 暦 と い ふ 己 卯 の と し ﹂ す な わ ち 宝 暦 九 年 ( 一 七 五 九 ) 、 千 蔭 二 十 五 歳 の 時 に 、 こ れ を 書 写 し て い る の で あ る 。 当 時 、 真 淵 は 六 十 二 歳 。 既 に ﹃ 冠 辞 考 ﹄ や ﹃ 源 氏 物 語 新 釈 ﹄ も 完 成 さ せ て い た 時 期 に 当 た る 。

(12)

『伊勢物語古意』の改稿 こ の 本 に つ い て も 、 書 誌 を 記 し て お こ う 。 縦 二 十 七 、 四 糎 、 横 十 八 、 三 糎 、 全 六 冊 。 表 紙 は 黄 櫨 色 の 染 紙 で 、 そ の 各 冊 の 中 央 に 題 簸 が 付 さ れ 、 ﹁ 伊 勢 物 語 古 意 一 ﹂ ﹁ 伊 勢 物 語 古 意 二 ﹂ と い う よ う に 巻 数 が 記 さ れ て い る 。 中 は 楮 紙 の 袋 綴 じ で 、 本 文 は 一 面 九 行 書 き だ が 、 割 書 き (細 字 双 行 ) や 頭 注 も 小 字 で 多 く 記 さ れ て い る 。 ま た 、 わ ず か で は あ る が 、 本 文 と 同 筆 の 墨 や 朱 の 書 入 れ も あ る 。 ま た 、 冒 頭 の 総 論 部 分 の 初 め 二 丁 あ ま り に 限 っ て 異 本 の 書 き 入 れ が あ り 、 ま た 、 第 一 冊 に は 虫 喰 い 箇 所 の 横 に 朱 の 書 入 れ が あ る が 、 こ れ ら は 当 然 、 後 人 の な せ る わ ざ で あ る 。 第 一 冊 一 丁 か ら 十 七 丁 表 が 総 論 部 分 に 当 た る が 、 十 八 丁 以 下 の ﹁ 伊 勢 物 語 ﹂ 各 章 段 の 注 解 部 分 と は 別 筆 で あ る 。 第 一 冊 の 十 八 丁 以 下 、 第 六 冊 ま で の ﹃ 伊 勢 物 語 ﹄ の 各 章 段 の 注 解 部 分 は す べ て 同 筆 で 、 識 語 に 記 さ れ て い る 通 り 、 千 蔭 の 筆 に 相 違 な い も の と 見 ら れ る 。 そ の 注 解 部 分 の 初 め に 当 た る 十 八 丁 表 に は ﹁ 伊 勢 物 語 古 意 巻 一 ﹂ と 端 作 り さ れ 、 以 下 、 各 冊 の 冒 頭 に ﹁ 伊 勢 物 語 古 意 巻 二 ﹂ ﹁ 伊 勢 物 語 古 意 巻 三 ﹂ と い う よ う に 端 作 り さ れ て い る 。 各 冊 の 丁 数 は 次 の 通 り で あ る 。 第 一 冊 、 八 十 九 丁 。 第 二 冊 、 五 十 八 丁 。 第 三 冊 、 六 十 一 丁 。 第 四 冊 、 六 十 二 丁 。 第 五 冊 、 ⊥ ハ 十 丁 。 第 六 冊 、 六 十 八 丁 。 で は 、 該 本 と 前 掲 の 鶴 見 大 学 本 を 比 較 し て 行 く こ と に す る 。 ま ず 、 第 六 冊 の 第 百 十 七 段 の 注 釈 を 挙 げ る 。 こ れ は 、 み か と す み の え に み ゆ き し ﹁ 昔 帝 佳 吉 ホ 行 幸 為 給 ひ た り け る に ﹂ の 本 文 に 対 す る 注 釈 で 、 写 真 ① ( 鶴 見 大 学 本 ) と ③ ( 千 蔭 筆 本 ) は こ の 引 用 の 途 中 か ら に 当 た る 。

(13)

文林 三 十八号 ︿ 千 蔭 筆 本 ﹀ か く て 此 左 の 寄 御 製 な ら は 、 行 幸 し 給 ひ て よ ま せ 給 ふ と か 、 又 再 の 次 に 、 と 、 よ ま せ 給 ふ け れ は な ど 書 へ き を 、 ロ ハ行 幸 為 給 ひ た り け る に と の み 有 は 、 さ る 時 に か の 男 の よ め る 意 と み ゆ 。 も し は 詞 の 落 た る 欺 。 例 に た か ひ て 聞 ゆ 。 ︿鶴 見 大 学 本 ﹀ か く て 此 左 の 冨 御 製 な ら ば 、 行 幸 し 給 ひ て よ ま せ 給 ふ と か 、 又 寄 の 次 に 、 と 、 よ ま せ 給 ふ げ れ は な ど 書 べ き を 、 ロ ハ 行 幸 為 給 ひ た り け る に と の み 有 は 、 そ の を り に か の 男 の よ め る 意 と み ゆ 。 鶴 見 大 学 本 は 胡 粉 を 塗 っ て 、 削 除 や 補 訂 を 加 え て い る が 、 そ の 胡 粉 を 塗 っ た 下 に は 、 お そ ら く 千 蔭 筆 本 の ﹁ さ る 時 ﹂ ﹁ も し は 詞 の ⋮ ⋮ ﹂ の 注 釈 が 書 か れ て い た も の と 思 わ れ る 。 な お 、 寛 政 五 年 版 本 は 、 後 者 の 箇 所 は 鶴 見 大 学 本 の 訂 正 通 り 、 ﹁ も し は 詞 の ⋮ ⋮ ﹂ の 注 釈 が 書 か れ て い な い 。 ま た 、 前 者 の 箇 所 は 版 本 に は ﹁ 其 時 ﹂ と あ っ て 、 鶴 見 大 学 本 の 補 訂 通 り で は な い が 、 そ れ は 、 秋 成 が い く つ か の 本 を 校 訂 し た ゆ え の こ と か と 思 わ れ る の で あ る 。 そ の ほ か 、 前 掲 の 鶴 見 大 学 本 と 寛 政 五 年 版 本 を 対 比 し た 箇 所 は 千 蔭 筆 本 に 次 の 通 り あ る 。 ︿ 千 蔭 筆 本 ﹀ 第 六 冊 (第 九 十 七 段 ) よ そ ち の と し 今 四 十 年 に な れ は 老 の 来 ら ん と い ふ 也 。 桜 花 の 散 あ ひ つ 、 、 そ の 来 ん 道 を ま ど は し て よ 。 さ ら ば 、 こ 、 に 来 ず か も あ ら ん に と こ か ど 也 。 古 今 集 に 、 老 ら く の 来 ん と し り せ ば 門 さ し て な し と こ た へ て あ は ざ ら ま し を 。 是 は い と 古 寄 な れ は 、 と り て 業 平 は よ ま れ し な ら ん 。 ち り あ ひ か ひ ま つ ○ 散 か ひ は 、 散 合 也 。 万 葉 に ゆ き か ひ と い ふ を 往 反 と 書 た る に 依 は 、 散 ち が ひ と も 解 べ け れ ど 、 山 の 峡 待 か ひ な と い ふ 時 は 山 の 間 待 つ 間 の 事 也 。 是 ら を む か ふ る に 、 猶 ち り 合 と 解 も か な ふ べ し 。 さ て 、 い と 散 み だ れ あ へ ば 、 く も る 故 に ち り か ひ く も れ 一30一

(14)

『伊勢物語古意』 の改稿 と は い ふ 。 る お ゆ ○ 老 ら く の ら く の 反 は 留 な れ ば 、 老 る と い ふ を 延 て 老 ら く と は い へ り 。 さ れ ど 、 い と 古 へ は あ ら ず 。 今 の 京 と な り て 専 ら い ふ な ら ん 。 ゴ シ ッ ク 体 で 示 し た の は 、 鶴 見 大 学 本 が 削 除 の 印 を 付 し て い た 箇 所 と 一 致 し 、 千 蔭 筆 本 の 本 文 は 鶴 見 大 学 本 の 補 訂 前 の 本 文 に 一 致 す る の で あ る 。 ︿ 千 蔭 筆 本 ﹀ 第 三 冊 ( 第 五 十 段 ) こ は 六 帖 に 、 鳥 の 子 を 十 つ 、 十 は 重 ぬ と も 思 は ぬ 人 を 何 か お も は ん と 、 友 則 の よ み た る を 少 し か へ て 用 ゐ た り 。 卵 を 百 も か さ ぬ る 事 は な り か た き 極 み な か ら 、 も し そ は 重 ぬ る 頼 の 有 も し つ べ き を 、 わ れ を お も は ぬ 人 を 恋 る は 何 の た の め も か ひ も な け れ ば お も は じ た の め じ と 也 。 鶏 子 を 畳 ぬ る た と へ は か ら に 有 し を と れ り し に や 。 ま た 六 帖 に 同 し 。 友 則 の 女 を は な れ て よ め る と て 、 瀧 つ 瀬 に 浮 草 の 根 は と め つ と も 人 の 心 を い か て た の ま む ゴ シ ッ ク 体 で 示 し た ﹁ 有 も し つ べ き を ﹂ ﹁ と れ り し に や ﹂ ﹁ 友 則 の 女 ﹂ は 鶴 見 大 学 本 と 一 致 す る が 、 ﹁ 頼 ﹂ の 箇 所 は 、 鶴 見 大 学 本 で は 胡 粉 が 塗 ら れ た 上 か ら ﹁ わ さ ﹂ と 書 か れ た 箇 所 で あ る 。 つ ま り 、 鶴 見 大 学 本 は も と も と 千 蔭 筆 本 の 本 文 の よ う に ﹁ 頼 ﹂ と あ っ た の を 消 し て 、 ﹁ わ さ ﹂ と 訂 正 し た も の と 思 わ れ る 。 ま た 、 千 蔭 筆 本 に は 鶴 見 大 学 本 が 書 き 入 れ て い た ﹁ 蜻 蛉 日 記 に 糸 も て ﹂ 以 下 の 文 章 は 入 っ て い な い 。 こ の よ う に 、 概 し て 鶴 見 大 学 本 の 補 訂 前 の 本 文 と 千 蔭 筆 本 の 本 文 が 一 致 し 、 鶴 見 大 学 本 の 補 訂 後 の 本 文 と 寛 政 五 年 版 本 の 本 文 が 一 致 す る こ と が 確 認 で き 、 千 蔭 筆 本 が 鶴 見 大 学 本 に 先 行 す る 注 釈 で あ る こ と が 知 ら れ る の で あ る 。

(15)

文林 三 十八号 と こ ろ で 、 こ こ で 、 前 章 の 最 後 に 保 留 し て お い た 鶴 見 大 学 本 の 第 一 ・ 二 冊 の 問 題 に 戻 り た い 。 鶴 見 大 学 本 の 第 三 冊 以 下 は 墨 や 朱 、 胡 粉 ま で 使 っ て 補 訂 の 筆 が 縦 横 に 入 っ て い る 箇 所 が 多 い の に 比 し 、 第 一 ・ 二 冊 は 補 訂 の 筆 が あ ま り 入 っ て お ら ず 、 あ っ て も 誤 写 の 訂 正 の 類 が ほ と ん ど で あ る 。 で は 、 こ れ に 補 訂 の 跡 が ほ と ん ど な い と い う こ と は 、 千 蔭 筆 本 と 同 様 に 古 い 本 文 を 残 し て い る の で あ ろ う か 。 こ れ を 確 認 す る た め に 、 ﹃ 伊 勢 物 語 ﹄ 第 九 段 の ﹁ 八 橋 ﹂ の 注 解 部 分 を 掲 げ る こ と に す る が 、 か な り 長 い 引 用 に な る の で 、 省 略 し つ つ 挙 げ る 。 ま た 、 対 照 し や す い よ う 、 適 宜 改 行 し 、 異 同 の あ る 箇 所 は ゴ シ ッ ク 体 に し た 。 ︿ 千 蔭 筆 本 V そ ら 八 橋 の 事 、 さ ま ぐ の 説 あ れ ど 暗 に お も ひ た る 物 也 。 今 、 古 本 を み る に 、 水 堰 河 の 蛛 手 な れ ば と 書 り 。 依 て お も ふ に 、 今 本 も も と は 、 水 せ く 川 と 有 つ ら ん を 、 せ く を ゆ く に 誤 れ る な る べ し 。 ( 中 略 ) 或 問 。 右 の 如 き は 溝 の 八 つ 有 を 蛛 手 と い ふ は 聞 え づ 。 さ る を 、 橋 に も 灯 台 に も 蛛 手 の 名 あ り 。 後 撰 集 に 、 打 わ た し 長 き 心 は 八 橋 の 蛛 手 に お も ふ 事 は た え ︿ 鶴 見 大 学 本 V 八 橋 の 事 、 古 今 歌 集 に 、 三 河 の 国 八 橋 と い ふ 所 に 至 り て 、 と の み 有 を も て 、 此 文 に は そ の 橋 の 八 つ あ る さ ま を よ く い ひ し ら せ た る 物 也 。 さ て 、 い ま 、 此 文 、 古 本 を 見 る に 、 水 せ く 堰 河 の 蜘 手 な れ は と 書 り 。 (是 に ) 依 て 、 今 本 も も と は 川 と (有 ) つ ら ん を 、 せ く を ゆ く に 誤 れ る な る へ し 。 ( 中 略 ) 或 問 。 右 の 溝 の 八 つ 有 を 蛛 手 と い ふ は 聞 え つ 。 さ る を 、 橋 に も 灯 台 に も 蛛 手 の 名 あ る か 、 打 わ た し 長 き 心 は 八 橋 の 蜘 手 に お も ふ 事 は た え せ じ ( 中 略 ) 後 ︿ 寛 政 五 年 版 本 ﹀ 八 橋 の 事 、 古 今 歌 集 に は 、 三 河 の 国 八 橋 と い ふ 所 に い た り て 、 と の み 有 を も さ ま て 、 此 文 に は 其 橋 の 八 つ 有 形 を よ く い ひ し ら せ た る も の 也 。 さ て 、 今 、 此 文 の 古 本 を 見 る に 、 水 堰 河 の 蜘 手 な れ ば と 書 り 。 是 に 依 に 、 今 本 も も と は 、 水 せ く 河 と 有 つ ら ん を 、 後 に 、 せ く を ゆ く に あ や ま れ る な る べ し 。 ( 中 略 ) 或 人 間 。 右 の 溝 の 八 つ 有 を 蛛 手 と 云 は と う だ い 聞 え つ る を 、 橋 に も 燈 台 に も 蛛 手 の 名 あ る が 、 後 撰 に 、 打 わ た し な か き 心 は や つ は し の く も で に 思 ふ 事 は た え せ じ 一32一

(16)

『伊勢物語古意 』の改稿 せ じ ﹂ (中 略 ) 後 撰 は 長 き 心 と し も い ひ た れ ば 、 一 つ の は し の 長 き を い ふ 様 に も 聞 ゆ 。 こ れ ら い か に と 。 こ た ふ 。 灯 台 の 蛛 手 と い ふ は 、 古 き 鏡 台 の 図 を 見 る に 、 上 の 鏡 か く る 所 に 今 わ ら び 手 て ふ 如 き も の 八 つ あ リ 。 下 の 土 居 に も し か り 。 そ の さ ま ま こ と に 蛛 手 と 名 つ く べ し 。 灯 台 も か く 作 る べ き 物 な れ は 、 右 と 同 し 心 の 名 な る 事 明 ら け し 。 こ れ に 准 る に 、 橋 柱 の 末 に 八 つ け た の 横 木 を 出 し て 桁 な と を 持 し め ん 料 と せ る を 橋 の 蛛 手 と い は ん に や 。 然 れ と も 、 古 し へ の 歌 に は 、 惣 て の は し に く も で と よ め る 事 み え ず 。 ロ ハ 八 橋 の み に あ る 詞 な れ は 、 柱 の く も で と い ふ は 推 量 の さ た に て 、 か の 水 せ く 川 の く も で な る に よ る 詞 な る を 、 そ こ の 橋 な れ は 、 し か つ ゴ け た る 也 け り 。 さ ら は 、 右 の 二 首 も 疑 ふ へ か ら す 。 そ れ か 中 に 、 長 き て ふ 詞 あ る は 、 恐 ら く 八 橋 の 八 つ ゴ き て あ り と の み お も ひ て よ め る か 。 (下 略 ) 撰 は 長 き 心 と し も い ひ た れ ば 、 一 つ の は し の 長 き を い ふ 様 に も 聞 ゆ る は 、 い か に と 。 ○ こ た ふ 。 灯 台 の 蜘 手 と い ふ は 、 古 き く み て 物 に 見 ゆ る 事 な し 。 是 は 俗 に 組 手 と い ふ を 、 八 つ 橋 の 蜘 手 を 意 得 違 ひ て 、 橋 け た 柱 の 末 に も 八 つ の 横 木 を お き て 、 桁 な ど 持 し め ん 料 と せ る を 組 手 と は い ふ べ し 。 橋 の 蜘 手 と い ふ と 思 ひ ま か ひ て 、 後 世 の 歌 に は 多 く よ め り 。 古 し へ の 歌 に も 何 に も 、 惣 て の は し に く も て と い へ る 事 見 え ず 。 ロ ハ八 橋 に の み い ふ な れ ば 、 か の 水 せ く 川 の 蛛 手 な る に よ る 語 な る を 、 そ こ の 橋 な れ は 、 後 撰 に も 、 し か つ \ け な せ し の み に て 、 右 の 二 首 も 疑 ふ べ か ら ぬ も の 也 。 そ れ か 中 に 、 長 き と つ ぜ け た る は 、 田 舎 の 様 し ら ぬ 人 の お し は か り に 、 橋 の 八 つ つ ゴ き て あ り と の み 思 ひ 誤 れ る 成 べ し 。 (下 略 ) (中 略 ) 後 撰 の は 長 き 心 と し も い ひ た れ ば 、 一 つ の 橋 の 長 き を 云 さ ま に も 聞 ゆ る は 、 い か に と 。 答 。 灯 だ い の 蜘 手 と 云 は 、 古 き 物 に み く み で ゆ る 事 な し 。 是 は 俗 に 組 手 と 云 を 、 彼 八 橋 の 蜘 手 を 意 得 た か ひ て 、 是 を も 蜘 手 と い ひ よ せ た り と 聞 ゆ 。 橋 柱 の 末 に よ こ ぎ け た も 八 つ の 横 木 を お き て 、 桁 な ど 持 し め ん 料 と せ る を 組 手 と は 云 べ し 。 そ れ を 橋 の 蜘 手 と 思 ひ ま が ひ て 、 後 世 の 歌 に は 多 く よ め り 。 い に し へ の 物 に も 何 に も 、 す べ て 橋 に く も 手 と い へ る 事 見 え ず 。 た ゴ 八 橋 に の み い ふ な れ ば 、 か の 水 せ く 河 の 蛛 手 に よ る 語 な る を 、 そ こ の 橋 な れ ば 、 後 撰 に も 、 し か つ ゴ け な せ し の み に て 、 右 の 二 首 も う た か ふ べ か ら ぬ も の 也 。 そ れ が 中 に 、 長 き と つ ご け た る は 、 田 舎 の さ ま を し ら ぬ 人 の お し は か り に 、 橋 の 八 つ ゴ き て あ り と の み 思 ひ あ や ま れ る な る べ し 。 (下 略 )

(17)

文林 三十八号 鶴 見 大 学 本 第 一 冊 と 版 本 は 傍 線 部 が わ ず か に 対 立 す る も の の 、 ほ ぼ 一 致 す る 本 文 を 持 つ が 、 千 蔭 筆 本 と は か な り の 異 同 が あ る 。 例 え ば 、 鶴 見 大 学 本 と 版 本 は 冒 頭 に 千 蔭 筆 本 に は 引 か れ て い な い ﹃ 古 今 集 ﹂ の 詞 書 を 挙 げ 、 ﹃ 伊 勢 物 語 ﹄ の 本 文 の 方 が 橋 の 八 つ あ る 形 を よ く 言 い 表 し て い る と 述 べ る 。 ま た 、 後 半 部 の ﹁ 蜘 蛛 手 ﹂ と は 何 か と い う 答 と し て 、 千 蔭 筆 本 で は 、 鏡 台 や 灯 台 を 掛 け る 所 に あ る わ ら び 手 の よ う な も の を そ う 称 す る こ と に 関 連 さ せ る 説 を 紹 介 す る の に 対 し 、 ほ か の 二 本 は ﹁ 灯 だ い の 蜘 手 と 云 は 古 き 物 に み ゆ る 事 な し ﹂ と 述 べ て 、 こ の 説 を 完 全 に 否 定 し て い る 。 こ の よ う に 鶴 見 大 学 本 の 第 一 冊 の ﹁ 八 橋 ﹂ に 関 す る 注 釈 は ほ と ん ど 補 訂 の 筆 が 入 っ て い な い の に 、 既 に 版 本 と 近 い 本 文 を 持 っ て い る の で あ る 。 こ の ほ か の 部 分 を 見 て も 、 鶴 見 大 学 本 の 第 一 ・ 二 冊 は 、 第 三 冊 以 下 と 異 な り 、 既 に 改 稿 さ れ 書 き 直 さ れ て い る と 見 ら れ る の で あ る 。 そ れ ゆ え に 補 訂 の 跡 が ほ と ん ど な く 、 本 文 は 寛 政 版 本 と 一 致 す る こ と が 多 い の で あ る 。 し た が っ て 、 鶴 見 大 学 本 は 真 淵 の 自 筆 稿 本 で あ る こ と は ま ち が い な い が 、 そ の 改 稿 の 段 階 は 第 ] ・ 二 冊 と 第 三 冊 以 降 で は 異 な っ て い る の で あ る 。 た だ し 、 そ の よ う な 鶴 見 大 学 本 の 第 一 冊 に 次 の よ う な 書 き 入 れ が あ る こ と は 注 目 さ れ る 。 そ れ は 、 第 一 冊 六 十 二 丁 あ ら ず 裏 の 第 十 四 段 ﹁ 中 ノ \ に 恋 に 不 死 者 く は こ に ぞ ﹂ の 歌 に 関 す る 注 釈 で ﹁ ○ 万 葉 に 不 有 て ふ 語 に 二 つ あ り 。 一 つ は 右 の ひ と と あ ら ず は あ ら ず 人 跡 不 在 者 と い ひ 、 ( 中 略 ) 其 か ひ の 非 な り な ば て ふ 意 也 。 此 体 多 し 。 照 し み る べ し ﹂ と あ る 七 行 を 鉤 括 弧 で 括 っ て 、 最 初 の 行 の 傍 ら に 真 淵 自 身 と 見 ら れ る 筆 跡 で ﹁ 此 下 七 行 は 上 の 段 書 也 ﹂ と 書 か れ て い る 。 こ の 同 じ 箇 所 が 千 蔭 筆 本 で は 本 行 中 に 書 か れ 、 鶴 見 大 学 本 の も と の 書 き 方 に 一 致 し て い る の に 対 し 、 版 本 で は 、 こ れ が 頭 注 の 位 置 に 書 か れ 、 鶴 見 大 学 本 の 書 入 れ の 指 示 通 り に な っ て い る 。 こ れ は 注 釈 内 容 の 改 稿 で は な い が 、 こ の よ う に 真 淵 は 弟 子 に 清 書 さ せ た 一34一

(18)

『伊勢物 語古 意』の改稿 本 に 、 さ ら に 手 を 入 れ 、 し か も 、 こ の よ う な 注 釈 の 位 置 を 指 示 す る 書 き 入 れ が あ る の は 、 再 び 清 書 す る 折 の た め の 指 示 で あ り 、 さ ら に は 、 ﹃ 万 葉 考 ﹄ や ﹃ 冠 字 考 ﹄ の よ う に 、 い ず れ 刊 行 す る こ と を 想 定 し 、 そ の 折 の た め の 指 示 で も あ っ た の か も し れ な い 。 こ の よ う に 、 真 淵 は 長 年 に 亙 っ て 、 ﹃ 古 意 ﹄ の 改 稿 を 繰 り 返 し 、 手 沢 の 本 に 墨 や 朱 、 胡 粉 を 使 っ て 補 訂 を 加 え 、 そ れ を 弟 子 た ち に 写 さ せ 、 そ の 新 し い 手 沢 本 に さ ら な る 補 訂 を 加 え て い っ た と 見 ら れ る の で あ る 。 ﹃ 万 葉 考 ﹄ や ﹃ 続 萬 な の 葉 論 ﹄ の 真 淵 自 筆 稿 本 に も 朱 や 胡 粉 を 使 っ た 補 訂 が な さ れ て い る が 、 ﹃ 古 意 ﹄ の 稿 本 に お い て も 同 様 な こ と が 行 な わ れ て い た の で あ る 。 真 淵 は ﹃ 万 葉 集 ﹄ や ﹃ 古 今 和 歌 集 ﹄ な ど だ け で な く 、 ﹃ 伊 勢 物 語 ﹄ 研 究 に 対 す る 熱 意 も な み な み な ら ぬ の も の を 持 っ て い た こ と が 窺 え る の で あ る 。 五 こ の よ う な 鶴 見 大 学 本 に 対 し 、 千 蔭 筆 本 は ﹃ 古 意 ﹄ の 古 い 本 文 を 留 め て い る こ と が 確 か で あ る と 思 わ れ る が 、 前 述 の 通 り 、 千 蔭 筆 本 第 一 冊 冒 頭 の 総 論 部 分 は 千 蔭 と は 別 筆 で あ る 。 し た が っ て 、 こ の 部 分 も 千 蔭 筆 の 章 段 注 解 部 分 と 同 様 に 古 い 内 容 を 持 つ 写 本 か ど う か を 確 認 し て お か ね ば な ら な い 。 な お 、 こ の 部 分 を 千 蔭 筆 本 と 呼 ぶ の は 正 確 で は な い が 、 千 蔭 筆 の 本 と 合 冊 さ れ て 伝 え ら れ て い る の で 、 ひ と ま ず 、 こ の 部 分 を 千 蔭 筆 本 (総 論 ) と 呼 ん で 論 じ て 行 き た い 。 該 本 は 第 一 冊 冒 頭 に ﹁ 伊 勢 物 語 古 意 賀 茂 真 淵 著 ﹂ と 端 作 り し 、 改 行 し て 一 字 下 げ て ﹁ す へ あ け つ ろ 論 ふ こ と 八 つ ﹂ と 記 し て い る が 、 そ の 冒 頭 部 分 を 鶴 見 大 学 本 と 比 較 す る と 、 次 の 通 り で あ る

(19)

文林 三 十八号 ︿ 千 蔭 筆 本 ﹀ ( 総 論 ) 伊 勢 物 語 古 意 賀 茂 真 淵 著 あ け つ ろ す へ 論 ふ こ と 八 つ ま こ と ふ み か 、 る ふ み を 物 語 と 名 つ け た る こ と は 、 実 の 録 の こ と に は あ ら て 、 世 の 人 の か た り 伝 へ こ し こ と を 、 ま こ と そ ら こ と を も と ひ わ き ま へ ず 、 其 か た る か ま に く 書 つ め た る て ふ 意 に て 、 今 い ふ む か し く の あ と な し は な し に お な し 。 さ る を 、 文 よ く 書 た れ は こ よ な き お も ひ や り く さ と そ な れ り け る 。 然 る を 、 後 の 世 の 人 、 此 物 語 て ふ 名 を い か に 意 得 つ ら ん 。 こ と に も そ ら こ と 、 い ひ な し つ る 此 伊 勢 物 語 を ば 、 中 く に 実 の 録 の 如 い ふ ら ん 、 い ふ か し ー ¥ 。 ︿鶴 見 大 学 本 ﹀ 伊 勢 物 語 古 意 惣 論 賀 茂 真 淵 記 あ け つ ろ す べ 論 ふ 事 八 つ も の か た り は ま こ と ふ み か 、 る ふ み を 物 か た り と 名 づ け た る 事 は 、 実 の 録 の 如 く は あ ら で 、 世 の 人 の か た り 伝 へ こ し 事 を 、 真 言 そ ら 言 を 問 ず 、 そ の あ と 語 る が ま に く 書 集 た る て ふ 意 に て 、 今 い ふ む か し く の 例 な し 物 語 に 同 じ 。 し か は あ れ ど 、 文 よ く 書 た れ は 、 こ よ な き 心 や り ぐ さ と そ な れ り け る 。 し か る を 、 後 の 世 の 人 、 物 か た り て ふ 名 を い か に 意 得 つ ら ん 。 こ と に そ ら ご と を い ひ な し つ る 此 伊 勢 物 か た り を ば 、 ま こ と の ふ み の ご と 思 へ る こ そ い ぶ か し か り け れ 。 両 者 は 様 々 に 異 な る 部 分 を 有 し て い る 。 そ の 異 同 は 単 に 言 い 回 し を 滑 ら か に し た よ う な 些 細 な 字 句 の 違 い も あ る が 、 内 容 が 大 き く 異 な る 箇 所 も あ る 。 例 え ば 、 冒 頭 の 端 作 り は 、 千 蔭 筆 本 で は ﹁ 伊 勢 物 語 古 意 ﹂ と し か 書 か れ て い な い の 一36一

(20)

に 対 し 、 鶴 見 大 学 本 で は ﹁ 伊 勢 物 語 古 意 惣 論 ﹂ と あ り 、 前 者 に ﹁ 賀 茂 真 淵 著 ﹂ と あ る の に 対 し 、 後 者 に は ﹁ 賀 茂 真 淵 あ げ つ ろ 記 ﹂ と あ っ て 相 違 し て い る 。 ま た 、 鶴 見 大 学 本 で は 、 ﹁ す べ 論 ふ 事 八 つ ﹂ と し て 、 そ の 第 一 項 の ﹁ も の か た り は ﹂ あ げ つ ろ の 見 出 し が 掲 出 さ れ て い る の に 対 し 、 千 蔭 筆 本 で は 、 ﹁ す へ 論 ふ こ と 八 つ ﹂ と 記 し な が ら 、 第 一 項 の 見 出 し が な い 。 な お 、 寛 政 五 年 版 本 は 端 作 り に ﹁ 伊 勢 物 語 古 意 総 論 ﹂ ﹁ 賀 茂 真 淵 記 ﹂ と あ り 、 ﹁ 物 か た り は ﹂ の 見 出 し も あ る 。 そ の ほ か 、 漢 字 の 当 て 方 や 漢 字 と 仮 名 の 別 な ど は あ る も の の 、 ほ と ん ど 鶴 見 大 学 本 と 一 致 す る 本 文 で あ る 。 こ の よ う に 千 蔭 筆 本 の 総 論 部 分 は 鶴 見 大 学 本 ・ 寛 政 五 年 版 本 と 異 な り 、 こ の 異 同 も お そ ら く 千 蔭 筆 本 の 方 が 古 い 本 文 を 留 め て い る の で あ ろ う 。 そ れ は 、 千 蔭 筆 本 が 、 鶴 見 大 学 本 の 第 七 項 め の ﹁ 古 の 本 今 の 本 ま た 作 れ る 人 は ﹂ の 見 出 し を 持 た な い こ と か ら も 窺 え る の で あ る 。 次 に 、 こ の こ と に つ い て 論 じ た い 。 そ の 見 出 し 部 分 だ け を 挙 げ る と 、 次 の 通 り で あ る 。 『伊勢物語古意』の改稿 ︿ 千 蔭 筆 本 ﹀ (総 論 ) あ げ つ ろ す へ 論 ふ こ と 八 つ (見 出 し な し ) 伊 勢 物 語 と 名 つ け た る は 業 平 朝 臣 の み つ か ら の 記 な ら ぬ 伊 勢 の 御 の 書 た し ( ら ) ぬ は 時 世 の 違 へ る は ︿ 鶴 見 大 学 本 ﹀ あ げ つ ろ す べ 論 ふ 事 八 つ も の が た り は い せ 物 か た り と な づ け た る は 業 平 朝 臣 の み つ か ら の 記 な ら ぬ は 伊 勢 の 御 の 書 た ら ぬ は と き よ 時 世 の た か へ る は

(21)

文林 三十八号 作 れ る 時 世 は ( 見 出 し な し ) む か し 男 て ふ は と き よ つ く れ る 時 代 は 古 の 本 今 の 本 ま た 作 れ る 人 は む か し 男 て ふ は あ げ つ ろ 千 蔭 筆 本 が ﹁ す へ 論 ふ こ と 八 つ ﹂ と し な が ら 、 見 出 し が 六 つ し か な い こ と に は 問 題 が あ る が 、 前 々 頁 に 掲 げ た 通 り 、 総 論 部 の 冒 頭 に ﹁ 物 か た り は ﹂ の 見 出 し は な く て も 、 ﹁ か \ る ふ み を 物 語 と 名 つ け た る こ と は ﹂ 以 下 、 そ の 内 容 は 存 在 す る 。 鶴 見 大 学 本 の 第 七 項 の 見 出 し ﹁ 古 の 本 今 の 本 ま た 作 れ る 人 は ﹂ も 千 蔭 筆 本 に は な い が 、 ﹁ こ れ に 古 本 あ り 。 を   皆 真 字 に て 書 た り ﹂ と 始 ま り 、 鶴 見 大 学 本 と ほ ぼ 同 内 容 の 、 古 本 す な わ ち 真 名 本 に 関 す る 論 が 展 開 さ れ て い る 。 ﹁ 八 つ ﹂ と し な が ら 、 六 項 目 の 見 出 し し か 挙 げ な い こ と に は 不 備 が あ る と い わ ざ る を え な い が 、 第 一 項 の ﹁ 物 か た り は ﹂ の 見 出 し が な い 写 本 は 、 千 蔭 筆 本 に 限 ら な い の で あ る 。 例 え ば 、 内 閣 文 庫 本 や 神 宮 文 庫 本 に も 最 初 の ﹁ 物 か た り は ﹂ と い う 見 出 し が 存 在 し な い の で あ る 。 し か も 、 端 作 り も ﹁ 伊 勢 物 語 古 意 賀 茂 真 淵 著 ﹂ と あ る 点 も 一 致 す る の で あ る 。 た だ し 、 こ れ ら の 本 で は 後 者 の ﹁ 古 の 本 今 の 本 ま た 作 れ る 人 は ﹂ の 見 出 し は 存 在 す る の で 、 こ ち ら の 方 は 千 蔭 筆 本 だ け が 脱 し た 可 能 性 も 考 え ら れ る が 、 こ こ で 注 目 さ れ る の は 、 ﹃ 古 意 ﹄ に 先 行 す る 論 と 見 ら れ て い る ﹃ 勢 語 七 考 ﹄ の 記 載 で あ る 。 そ こ に 挙 が る 七 項 目 の 見 出 し は 次 の 通 り で あ る 。 物 語 と い ふ 事 い せ の 物 か た り と 名 付 た る 事 一38一

(22)

『伊勢物語古意』 の改稿 伊 勢 の 御 の 書 た る と い ふ 事 な り 平 の 自 記 な ら ん か と い ふ 事 時 世 の た が へ る 事 作 れ る 時 世 の 事 む か し 男 と い へ る 事 こ の よ う に 、 や は り ﹁ 古 の 本 今 の 本 ま た 作 れ る 人 は ﹂ に 当 た る 見 出 し が な い 。 し か し 、 こ れ も 千 蔭 筆 本 の 総 論 部 分 同 は ハ 様 、 見 出 し の な い ま ま 、 前 の 項 に 続 け て 、 コ 、 こ れ に 古 本 侍 り 。 俗 に 真 ぢ い せ 物 か た り と い へ り ﹂ と し て 、 そ の 内 容 が 述 べ ら れ て お り 、 ﹃ 勢 語 七 考 ﹂ と 千 蔭 筆 本 ﹃ 古 意 ﹄ の 総 論 部 分 の 関 係 の 深 さ が 窺 え 、 前 者 が 後 者 の 前 段 階 の 論 で ﹁ あ る こ と が こ う い う 面 か ら も 窺 え る の で あ る 。 39 こ う し て 見 る と 、 千 蔭 筆 本 の 総 論 部 分 は 千 蔭 と は 別 筆 で は あ る が 、 章 段 注 解 部 分 と 同 様 、 古 い 本 文 を 留 め た 本 と 言 え る の で あ る 。 こ の 部 分 も 早 い 時 期 に 、 お そ ら く 真 淵 か 千 蔭 の 弟 子 が 写 し た も の で あ っ て 、 後 に 後 人 が 取 り 合 わ せ た の で は な く 、 も と も と 、 あ と の 注 釈 部 分 と 共 に あ っ た も の と 考 え ら れ る 。 こ の よ う に 千 蔭 筆 本 は 、 別 筆 の 総 論 部 分 も 含 め て 、 全 体 と し て 、 古 態 を 留 め た 本 で あ る こ と が 確 認 で き た が 、 そ の 千 蔭 筆 本 が 写 さ れ た の は 、 奥 書 に あ る よ う に 宝 暦 九 年 ( 一 七 五 九 ) の こ と で あ る 。 し た が っ て 、 鶴 見 大 学 本 は 、 宝 暦 九 年 よ り も 後 に 改 稿 さ れ た と 考 え ら れ る の で あ る 。 真 淵 と 千 蔭 の 関 係 か ら 考 え て も 、 千 蔭 が 書 写 し た 元 の 本 は 、 真 淵 の 最 新 の 稿 本 で あ っ た と 思 わ れ る 。 決 し て 何 年 も 前 に 書 い た 本 を 宝 暦 九 年 に な っ て 写 し た と は 思 え な い 。 万 が 一 、 そ

(23)

文林 三十八号 れ が ず っ と 以 前 の 稿 の 写 し だ っ た と し て も 、 鶴 見 大 学 本 が 改 稿 さ れ た の は 宝 暦 九 年 よ り 後 の こ と と 思 わ れ る 。 そ れ は 次 の 例 か ら も 窺 え る の で あ る 。 第 一 冊 の 第 四 段 ﹁ む 月 の 十 日 ば か り に 外 に 隠 れ に け り ﹂ の ﹁ む 月 ﹂ の 注 は 次 の よ う に あ る 。 ︿千 蔭 筆 本 ﹀ ○ む 月 は 、 古 本 に 親 月 と 書 た リ 。 然 れ は 、 年 立 と て 、 氏 か ら 家 か ら を 初 め て さ ら ぬ 人 に も む つ ま し う 相 あ ふ 月 て ふ 意 に て 、 む か し よ り い ひ な し け り 。 ︿鶴 見 大 学 本 ﹀ む 月 は 、 古 本 に 親 月 と 書 る は 、 此 月 は 君 臣 親 族 親 む こ と な れ ば 、 親 む 月 と も 云 に 似 た れ と 、 略 言 こ そ あ れ 。 本 言 を 皆 略 て 、 下 ム モ ト ツ モ ト ツ の 辞 の み い ふ 例 な け れ は と ら す 。 牟 月 と い ふ は 、 元 月 て ふ 言 な リ 。 毛 冬 筒 の 三 言 を つ 、 む れ は 、 む の 一 言 に な る ゆ へ に 、 む 月 と い へ り 。 一 年 の 月 の 始 な れ は 、 元 つ 月 と い へ る ほ と 、 日 の 始 を 元 つ 日 と い ふ に む か へ て お も へ 。 く わ し く は 万 葉 考 三 の 別 記 に い ふ 。 い ず れ も 古 本 す な わ ち 真 名 本 が ﹁ む つ き ﹂ に ﹁ 親 月 ﹂ の 字 を 用 い る 意 味 を 説 い て お り 、 そ の 書 き 出 し は 同 じ だ が 、 千 蔭 筆 本 の 注 釈 で は 、 年 始 に 家 中 親 族 、 そ れ 以 外 の 人 と も 睦 ま し く 会 う 月 の 意 味 と さ れ て い る の が 、 鶴 見 大 学 本 で は こ つ づ れ が 否 定 さ れ 、 ﹁ 元 つ 月 ﹂ の ﹁ も と つ ﹂ が ﹁ 約 ﹂ ま っ た も の と 考 え 、 約 言 説 を 採 っ て い る 。 そ し て 、 こ れ に は 、 最 後 に ﹁ く わ し く は 万 葉 考 三 の 別 記 に い ふ ﹂ と し て 、 真 淵 の 著 書 で あ る ﹃ 万 葉 考 ﹄ に 記 し て あ る と す る 記 述 が あ る 。 確 か は ほ に こ の ﹁ む 月 ﹂ に 関 す る 注 が ﹃ 万 葉 考 ﹄ 別 記 三 に 存 在 す る 。 そ こ で は ﹃ 古 意 ﹄ の 千 蔭 筆 本 に あ る ﹁ 親 し む 月 ﹂ の 説 が 40

(24)

『伊勢物 語古意 」の改稿 斥 け ら れ 、 約 言 説 が 採 ら れ て お り 、 鶴 見 大 学 本 の 注 釈 内 容 と ほ ぼ 一 致 す る 。 ﹃ 万 葉 考 ﹄ の 巻 一 ・ 二 ・ 同 別 記 が 刊 行 さ れ た の は 、 真 淵 が 没 す る 直 前 、 明 和 六 年 ( 一 七 六 九 ) 九 月 末 の こ と で あ る が 、 井 上 豊 氏 に よ れ ば 、 金 毘 羅 本 自 筆 書 入 ﹃ 万 葉 集 ﹄ 巻 二 十 の 奥 書 に ﹁ 宝 暦 九 年 閏 七 月 第 六 度 之 会 読 詑 ﹂ と あ り 、 つ づ け て 、 ﹁ 其 後 自 為 註 而 考 之 ﹂ と い っ て い る こ と や 巻 一 の 解 の 終 り に ﹁宝 暦 十 年 三 月 し る し ぬ ﹂ な ど と あ る こ と か ら は め 考 え 、 ﹃ 万 葉 考 ﹄ 執 筆 に 本 格 的 に 着 手 し た の は 、 宝 暦 九 年 前 後 で あ る と の こ と で あ る 。 真 淵 は 既 に 寛 延 二 年 ( 一 七 四 九 ) 五 十 三 歳 の 時 に ﹃ 万 葉 解 ﹂ を 著 し 、 そ れ よ り ず っ と 以 前 か ら 、 ﹃ 万 葉 集 ﹂ の 評 会 な ど に も 参 加 し て い た よ う で あ る が 、 ﹃ 万 葉 考 ﹄ に 限 定 す れ ば 、 や は り 井 上 氏 の 述 べ ら れ る 通 り 、 宝 暦 九 年 以 降 に 着 手 し た よ う だ 。 鶴 見 大 学 本 と 版 本 に ﹁ く わ し く は 万 葉 考 三 の 別 記 に い ふ ﹂ と い う よ う に あ る が 、 ﹁ 宝 暦 と い ふ 己 卯 の と し ﹂ つ ま り 宝 暦 九 年 に 写 さ れ た 千 蔭 筆 本 に は 、 ま だ こ の 研 究 の 成 果 が 反 映 さ れ て い な い の は 、 し た が っ て 当 然 の こ と で あ り 、 ま た 、 こ の こ と か ら 鶴 見 大 学 本 の 自 筆 稿 本 は 宝 暦 九 年 以 降 に 改 稿 が な さ れ た こ と が 知 ら れ る の で あ る 。 ま た 、 こ の 注 に 現 れ て い る よ う に 、 真 淵 は 他 の 研 究 に よ っ て 得 た 成 果 を 他 の 著 書 に も 積 極 的 に 取 り 入 れ て い た の で あ る 。 従 来 、 ﹃ 古 意 ﹄ は 宝 暦 元 年 ( 一 七 五 ご に 初 稿 が 完 成 し 、 同 二 年 、 田 安 宗 武 の 依 頼 に よ っ て 、 稿 本 す な わ ち 鶴 見 大 学 本 の 補 訂 が な さ れ た 後 、 清 書 さ れ 、 献 上 さ れ た と 考 え ら れ て き た 。 つ ま り 鶴 見 大 学 本 は 宗 武 に 献 上 さ れ た 本 の 草 稿 本 で あ る と 考 え ら れ て き た の で あ る 。 し か し 、 右 に 明 ら か に し た 通 り 、 鶴 見 大 学 本 は 宝 暦 九 年 書 写 の 千 蔭 筆 本 よ り も 改 稿 が 進 ん で い た 稿 本 と 見 ら れ る の で あ る 。 真 淵 は 宗 武 献 上 以 後 も 、 幾 度 も ﹃ 古 意 ﹄ の 改 稿 を 行 っ て い た よ う で あ る 。 井 上 豊 氏 が ﹃ 古 意 ﹂ に つ い て ﹁ 比 較 的 に 早 期 の 著 作 で あ り 、 他 か ら 委 嘱 さ れ て 筆 を と っ た も の だ け に 、 学 書 と し て の

(25)

文林 三十 八号 用 意 を 尽 し た と は 言 い が た く 、 欠 陥 も 少 な く な い ﹂ と 述 べ る な ど 、 先 学 は 、 早 く か ら ﹁ 勢 語 七 考 ﹄ が 書 か れ 、 ﹃ 古 意 ﹄ の 宗 武 へ の 献 上 が 宝 暦 三 、 四 年 頃 で あ っ た と い う こ と か ら 、 ﹃ 古 意 ﹄ が 比 較 的 早 く に 完 成 し 終 っ た も の だ と い う 誤 解 が あ っ た よ う に 思 わ れ る 。 し か し 、 右 に 述 べ た よ う に 、 宗 武 へ 提 出 し た 後 も 繰 り 返 し 補 訂 が 加 え ら れ 、 真 淵 の 改 稿 は 長 年 に 亙 っ た と 考 え れ る の で あ る 。 こ こ で 、 も う ] 点 、 確 認 し て お か ね ば な ら な い の は 、 鶴 見 大 学 本 の 補 訂 さ れ る 前 の 本 文 が 宗 武 へ 納 め ら れ た 段 階 の 注 釈 を 留 め て い る の で は な い か と い う 問 題 で あ る 。 鶴 見 大 学 本 の 書 き 直 し の な さ れ て い な い 巻 三 か ら 巻 六 の 補 訂 前 の 姿 は 宗 武 へ の 献 上 本 と 同 じ 段 階 の 本 文 だ っ た の で は な い か と い う こ と で あ る 。 つ ま り そ の 本 が 宗 武 へ 納 め ら れ た 時 に そ の 本 文 を 反 映 し て 書 き 直 さ れ た 本 そ の も の で あ る 可 能 性 を 考 え な け れ ば な ら な い だ ろ う 。 し か し 、 次 の 例 を 見 る 限 皿 42 り 、 こ れ に は 否 定 的 に な ら ざ る を え な い 。 と の も つ か さ 第 六 十 五 段 の ﹁ 主 殿 司 ﹂ に 関 す る 注 釈 は 鶴 見 大 学 本 巻 四 の 十 九 丁 表 ( 写 真 ④ ) で 、 次 の よ う に あ る 。 ︿ 鶴 見 大 学 本 V ( 上 略 ) 令 式 と も に 女 官 の 殿 司 は 右 に い ふ ご と く 少 き 也 。 (空 白 の 上 を 朱 線 ) 仕 女 と い ふ も 後 に は あ れ ど 、 (空 白 の 上 を 朱 線 ) 古 書 に み え す 。 (空 白 の 上 を 朱 線 ) 又 日 中 行 事 な と 云 、 後 世 の 物 に は 女 嬬 、 洒 掃 の 事 も あ れ ど 、 (空 白 の 上 を 墨 線 ) 此 文 な ど に は 後 世 の 定 め は か な ひ が た し 。 こ の 部 分 は 割 注 の 部 分 で あ る が 、 注 の 途 中 に 空 白 が あ り 、 そ の 空 白 の 上 に 朱 や 墨 で 線 が 引 か れ て い る の で あ る 。 こ の 線 は そ れ ぞ れ の 注 釈 を 繋 ぐ 印 で 、 空 白 の 間 を 詰 め る べ き こ と を 表 し た も の と 見 ら れ る 。 当 然 、 こ の 線 は 後 か ら 引 か れ

(26)

『伊勢物語古意」 の改稿 た も の だ ろ う が 、 で は 、 そ も そ も こ れ ら の 注 釈 を 空 白 を 空 け な が ら 書 い た の は 如 何 な る 意 味 が あ っ た の だ ろ う か 。 こ の 箇 所 を ほ か の 本 と 対 照 し て み る と 、 次 の よ う に あ る 。 ︿千 蔭 筆 本 ﹀ (上 略 ) 令 式 と も に 女 官 の 殿 司 は 尚 殿 一 人 典 殿 二 人 女 嬬 六 人 の み 也 。 右 に 仕 女 と い ふ は そ れ か 中 (下 ) に あ る 女 に て 女 嬬 に は あ ら し 。 か 、 る こ と は 古 書 に は 見 え す 。 後 に 有 こ と か 。 又 日 中 行 事 な と い ふ 、 後 世 の 物 に は 女 嬬 、 洒 掃 の 事 有 。 後 世 こ と か は れ る に や 。 此 文 な と に は 後 世 の 定 め は か な ひ か た し 。 ゴ シ ッ ク 体 に し た 箇 所 は 両 者 が 対 立 す る 箇 所 で あ る が 、 ほ か に も 内 閣 文 庫 本 や 龍 谷 大 学 本 な ど が 千 蔭 筆 本 と 一 致 す る の に 対 し 、 寛 政 版 本 は 鶴 見 大 学 本 に 一 致 す る の で あ る 。 次 に そ の 寛 政 版 本 の 本 文 を 挙 げ る と 、 ︿寛 政 五 年 版 本 > 43 (上 略 ) 令 式 共 に 女 官 の と の も 司 は 右 に 云 こ と く 人 少 き 也 。 仕 女 と 云 も 後 に は あ れ と 、 古 書 に み え す 。 又 日 中 行 事 な と 云 、 後 世 の 物 に は 女 嬬 、 洒 帯 の 事 な と も あ れ と 、 此 文 な と に は 後 世 の 定 は 叶 か た し 。 こ の よ う に 、 鶴 見 大 学 本 の 注 釈 を 繋 い だ 本 文 に な っ て い る 。 こ れ は お そ ら く 、 ま ず 千 蔭 筆 本 の 注 釈 が な さ れ 、 次 に 、 そ れ を 補 訂 し た 段 階 が あ っ て 、 そ の 補 訂 し た 本 文 を 空 白 を 入 れ な が ら 写 し て 行 っ た も の が 鶴 見 大 学 本 だ っ た の で は な い だ ろ う か 。 そ し て 、 そ れ を 詰 め て 写 し 直 し た 本 に 拠 っ た の が 寛 政 版 本 で あ ろ う 。 鶴 見 大 学 本 の こ の 箇 所 は 真 淵 自 身 の 筆 に な る 箇 所 で も あ り 、 不 可 解 で あ る が 、 真 淵 は こ の 注 釈 に 今 ひ と つ 確 信 が 持 て な か っ た た め 、 後 で 訂 正 が あ り う る と 思 い 、 空 白 を 作 り つ つ 写 し た の で は な い だ ろ う か 。 現 に 鶴 見 大 学 本 の 空 白 に な っ て い る 箇 所 は 、 そ の 前 段 階 と 思

(27)

文林 三十八 号 わ れ る 千 蔭 筆 本 の 本 文 に 対 応 し て の 空 白 が 多 い の で あ る 。 こ の よ う な 書 き 方 か ら 見 て も 、 鶴 見 大 学 本 の 補 訂 前 の 本 自 体 が 宝 暦 九 年 書 写 の 千 蔭 筆 本 よ り も 後 に 写 し 直 さ れ た も の と 見 ら れ 、 鶴 見 大 学 本 そ の も の が 宝 暦 三 、 四 年 頃 の 宗 武 へ の 献 上 の 際 の 稿 を 反 映 し た 本 と は 言 え な い の で あ る 。 な お 、 紙 幅 の 都 合 で 、 詳 細 は 後 日 を 期 し た い が 、 宗 武 へ の 献 上 の た め に 清 書 さ れ た 本 の 系 統 で あ る と さ れ て き た 東 京 大 学 附 属 図 書 館 本 も 、 鶴 見 大 学 本 の 補 訂 後 の 本 文 と 一 致 す る 場 合 が 多 く 、 こ の 本 が 宗 武 へ 納 め た 本 の 写 し で は な い こ と が 確 認 で き る 。 ま た 、 龍 谷 大 学 本 は 千 蔭 筆 本 に 近 い 箇 所 、 鶴 見 大 学 本 に 近 い 箇 所 、 さ ら に 両 者 と も 異 な る 箇 所 を 有 し 、 こ の 本 が 奥 書 に あ る よ う な 初 稿 そ の も の で は な く 、 様 々 な 段 階 の 本 の 校 合 本 で あ る こ と を 窺 わ せ る の で あ る 。 ま た 、 尾 崎 知 光 氏 所 蔵 の 景 槙 書 入 本 に つ い て 言 及 し て お き た い が 、 こ れ は 初 め に 述 べ た よ う に 、 ﹃ 賀 茂 真 淵 全 集 ﹄ 会 報 に 簡 単 に 紹 介 さ れ て い る だ け な の で 、 詳 細 は 不 明 だ が 、 龍 谷 大 学 本 と 同 じ ﹁ 宝 暦 元 年 十 月 し る す 賀 茂 真 淵 判 ﹂ の 奥 書 が あ る と い う 。 さ ら に 、 ﹁ 真 淵 手 沢 の 稿 本 に い は く 明 和 二 年 二 月 再 校 了 ﹂ と い う ほ か の 本 に は 見 ら れ な い 奥 書 も 記 さ れ て い る と い う 。 明 和 二 年 ( 一 七 六 五 ) に 再 度 の 校 合 を 終 え た と い う こ の 記 述 は 鶴 見 大 学 本 に は な い の で 、 こ の 本 の い う ﹁ 真 淵 手 沢 の 稿 本 ﹂ は 鶴 見 大 学 本 と は 別 の 稿 本 と 考 え な け れ ば な ら な い 。 こ の 記 述 を 信 じ れ ば 、 別 に ま た 書 き 直 さ れ た 稿 本 が あ っ た と い う こ と に な る の で あ る 。 こ れ ら の こ と を 総 合 す る と 、 鶴 見 大 学 本 は 、 千 蔭 筆 本 書 写 の 宝 暦 九 年 ( 一 七 五 九 ) 以 降 に 写 し 直 さ れ た 本 で 、 明 和 二 年 に 次 の 稿 本 が 仕 上 げ ら れ る ま で 用 い ら れ た 真 淵 の 手 沢 本 で あ っ た の だ ろ う と 思 わ れ る の で あ る 。 宝 暦 元 年 ( 一 七 五 一 ) に 初 稿 が 成 り 、 こ の 明 和 二 年 ( 一 七 六 五 ) ま で 十 五 年 あ ま り の 間 、 ﹃ 古 意 ﹄ の 改 稿 は 続 い て 一44一

(28)

い た と 考 え ら れ る の で あ る 。 そ し て 、 再 校 了 し た と あ る こ の 稿 本 で 、 一 応 最 終 的 な 完 成 を み た の だ ろ う 。 し か し 、 ﹃ 古 意 ﹄ の 改 稿 は こ れ で 終 っ た と は 限 ら な い 。 研 究 熱 心 な 真 淵 は 、 明 和 六 年 ( 一 七 六 九 ) に 没 す る ま で 、 ﹃ 古 意 ﹄ に も 執 着 を も っ て 手 を 入 れ て い た の か も し れ な い 。 『伊勢物語古意』の改稿 六 以 上 の 通 り 、 長 年 に 亙 っ て ﹃古 意 ﹄ の 改 稿 が 繰 り 返 さ れ て い た こ と が 明 ら か に な っ た が 、 版 本 だ け に 見 ら れ る 異 同 に つ い て も 、 同 様 に 真 淵 の 改 稿 の 跡 が 現 れ て い る と 見 て よ い の だ ろ う か 。 最 後 に こ の 点 を 検 討 し た い 。 版 本 と 鶴 見 大 は り 学 本 な ど の 写 本 が 異 な る 箇 所 は か な り 多 く 見 ら れ る の で あ る 。 中 に は 、 明 ら か に 版 本 が 誤 脱 し て い る 箇 所 が あ る が 、 そ れ は 別 と し て 、 特 に 目 立 つ 異 同 は 、 ﹃ 伊 勢 物 語 ﹄ の 本 文 の 掲 出 に あ た っ て 、 鶴 見 大 学 本 や 千 蔭 筆 本 ほ か の 写 本 で は 、 ﹃ 古 意 ﹄ が 尊 重 す る ﹁ 古 本 ﹂ す な わ ち 真 名 本 の 表 記 に 基 づ い て 漢 字 表 記 を 多 く 含 む の に 対 し て 、 版 本 で は 仮 名 書 き に な っ て い る 点 で あ る 。 あ く た が は わ れ に あ ふ み 例 え ば 、 千 蔭 筆 本 や 鶴 見 大 学 本 、 そ の 他 の 写 本 で も ﹁ 灰 汁 田 川 ﹂ (第 六 段 ) 、 ﹁ 是 や 此 吾 爾 近 江 乎 の が れ つ ∼ 年 月 ふ ま さ り が ほ な き ま ひ か く ろ ふ は ば や し う し れ ど 勝 面 奈 幾 ﹂ ( 第 六 十 二 段 ) 、 ﹁ き の ふ け ふ 雲 の た ち 舞 隠 呂 鋪 者 花 の 林 を 倦 と な る べ し ﹂ ( 第 六 十 七 段 ) と あ る の に 、 版 本 で は 、 ﹁ あ く た 河 ﹂ 、 ﹁ こ れ や 此 我 に あ ふ み を の が れ つ 、 年 月 ふ れ ど ま さ り が ほ な き ﹂ 、 ﹁ き の ふ け ふ 雲 の 立 ま ひ か く ろ ふ は 花 の は や し を う し と な る べ し ﹂ と い う よ う に 仮 名 で 書 か れ て い る 。 こ れ に 関 し て 、 井 上 豊 氏 は ﹁ 古 版 本 で は 、 真 名 本 に よ る 無 理 な 漢 字 用 語 が 減 っ て い る の は 、 真 淵 の 反 省 に よ る も の で あ ろ う か ﹂ と も 述 べ て い る が 、 こ れ ら も 果

参照

関連したドキュメント

The Mathematical Society of Japan (MSJ) inaugurated the Takagi Lectures as prestigious research survey lectures.. The Takagi Lectures are the first series of the MSJ official

[9] DiBenedetto, E.; Gianazza, U.; Vespri, V.; Harnack’s inequality for degenerate and singular parabolic equations, Springer Monographs in Mathematics, Springer, New York (2012),

I give a proof of the theorem over any separably closed field F using ℓ-adic perverse sheaves.. My proof is different from the one of Mirkovi´c

Although PM method has very similar smoothing results to the shock filter, their behavior has two differences: one is the PM method will not stop diffusion at corner while shock

Keywords: continuous time random walk, Brownian motion, collision time, skew Young tableaux, tandem queue.. AMS 2000 Subject Classification: Primary:

This paper presents an investigation into the mechanics of this specific problem and develops an analytical approach that accounts for the effects of geometrical and material data on

The object of this paper is the uniqueness for a d -dimensional Fokker-Planck type equation with inhomogeneous (possibly degenerated) measurable not necessarily bounded

In the paper we derive rational solutions for the lattice potential modified Korteweg–de Vries equation, and Q2, Q1(δ), H3(δ), H2 and H1 in the Adler–Bobenko–Suris list.. B¨