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淡水二枚貝を用いた水質浄化方法の検討(予報) 利用統計を見る

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1.概要  現在,全国的に池や湖沼の水質悪化や透明度の低下が懸念されている。自然環境保全地域や自然公 園,観光地では,大規模な浄化施設は池や湖沼の景観を損なうため,生物学的浄化法の一つである二 枚貝による浄化法が有効であると思われる。二枚貝は濾過摂食を行うことで水中の懸濁微粒子を取り 除くため,水質浄化に貢献していると考えられるが,二枚貝の浄化能力に関する基礎的な研究は乏し い。本研究では,二枚貝による水質浄化法の有効性を検討するため,第1段階で小型水槽を用いて, 第2段階で大型の水槽やプールを用いて室内実験によって,濁度変化を指標として二枚貝の濾過能力 を検討し,第3段階では試験的に二枚貝を自然水系に移植して浄化能力を検討することを計画した。 ここでは,第1段階の実験結果と第3段階の実験経過を報告する。小型水槽実験では,粒径の明らか な鉱物粒子を用いて粒径毎に実験を行い,温度条件を変えて二枚貝の種による濾過能力の差異を調べ た。また,二枚貝が常食としない鉱物粒子のかわりに緑藻類のクロレラを用いて濾過能力を調べた。 その結果,今回使用した6種類の二枚貝のすべてに浄化能力があり,このうち濾過能力が総合的に高 く,希少種ではなく入手が比較的容易なタテボシガイ(Unio douglasiae biwae)を用いることが,現 段階では水質浄化を行う上で最も有効であることが明らかとなった。実際に遊亀公園内の池にタテボ シガイを移植して成長量を調べたところ,殻長と殻高は1年間増加し,殻幅と湿重量は4月から7月 を除いて増加した。殻幅と湿重量が増加しなかった時期は繁殖期であり,濾過摂食により得たエネル ギーが生殖に使われたと思われる。したがって,自然水系に二枚貝を移植する際には,タテボシガイ の場合成熟に達していない若い個体を用いる方法,もしくは若い個体が得られない場合,繁殖期を避 け,9月に設置して3月に回収する方法が水質浄化を行う上で妥当であることが示された。 2.序論  現在,全国的に池や湖沼の水質悪化や透明度の低下が懸念されている。環境省の平成22年度公共用 水域水質測定結果によると,生物学的酸素要求量(%2')または化学的酸素要求量(&2')の環境基 準達成率は,川925%,海域783%,湖沼532%と,湖沼が最も低い。湖沼では,富栄養化により水 質の悪化が引き起こされている。特に,富栄養化によるアオコ(ミクロキスティスやアナベナなど) の大量発生は透明度を下げるだけでなく,毒素の流出及び急激な酸欠状態によって,水域に棲む生物 山梨大学大学院教育学研究科  山梨大学教育人間科学部  山梨県衛生環境研究所

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の大量死や人間の生活用水の水質汚染に繋がっている。  池や湖沼は自然環境保全地域や自然公園などの自然保護区に指定されていたり,観光資源としての 価値が高いものが多い。そのため,水質悪化や透明度の低下は環境および観光資源の保全の視点から 問題視されている。一般的には,浄化施設を構築することで池や湖沼の水質を改善することができる。 しかし,大規模な浄化施設を構築することは,人工物によって景観が損なわれるので,観光資源とし ての池や湖沼の価値を下げることになってしまう。それゆえ,自然保護区の池や湖沼での水質浄化を 行うためには生物学的な浄化法が有効である。生物学的浄化法として,納豆菌をセメントブロックに 入れてヘドロを分解する方法や植物を植えて栄養塩類を除去する方法が知られているが,本研究では 山梨県内の池や湖沼の浄化を目指して,二枚貝を使用して透明度を上げる手法の確立を目指す。  日本では,イシガイ目のすべてとマルスダレガイ目の一部の二枚貝が淡水域に生息している。二 枚貝は,靭帯によって繋がれた2枚の殻の内側に外套膜もち,さらにその内側にある鰓によって,入 水管から取り入れた水中の懸濁微粒子を濾し取って食べる濾過摂食を行う。二枚貝の摂食により池 や湖沼内の懸濁微粒子が取り除かれることは,水質浄化に繋がると考えられている。さらに,懸濁微 粒子が除去され,池や湖沼内の透明度が上昇することで,日光が湖内に侵入し,水草の生育が促進 され,水草による窒素やリンの固定が行われるため,湖水の水質がさらに改善されると考えられる。 <RNR\DPD(2002)はラン藻類のミクロキスティスが生成する毒素ミクロキスチンの二枚貝への蓄積 メカニズムを解明するために,二枚貝内のミクロキスチン濃度を測定し,その蓄積と摂食との関係に ついて言及した。カラスガイ(Cristaria plicata plicata)は生殖時期にミクロキスティスを選択的に 大量に摂食し,イシガイ(Unio dougalasiae nipponensis)は非選択的にミクロキスティスを摂食し ており,水系の有害毒素を取り除くことができる。このように二枚貝を用いることで,水系の透明度 を高めるとともに,水生生物や人間の生活水への影響のある毒素を取り除くことができるため,二枚 貝の利用は水質浄化のための手法として注目されている。現在,国内では道頓堀川などでイケチョウ

ガイ(Hyriopsis schlegeli)を使用した水質改善運動が実地されている。しかし,水質浄化における

二枚貝の有効性に関する基礎研究は国内では乏しい。

 桑谷(1965)は,海産のアコヤガイ(Pinctada fucata martensii)に炭素粒子を与え,胃腔内容物 を観察した結果,取り込まれた炭素粒子は175μP以下であったと報告した。.UXJHUDQG5LLVJnUG(1988) は緑藻類であるクロレラを用いて6種の二枚貝の濾過能力を検討し,炭素粒子を用いた場合よりも緑 藻類を用いた方が濾過効率は良くなることを明らかにし,ゼブラガイ(Dreissena polymorpha)にお いては1μP未満の微粒子は鰓に引っかからず,体内に取り込まれなかったことを報告した。6SUXQJ DQG5RVH(1988)はゼブラガイが濾過できる藻類(藍藻類と緑藻類)の粒径,濃度を調べ,直径07μP ∼35μPの藻類を濾過していること,粒径5μPの藻類を最も効率良く濾過していることを明らかに した。このように二枚貝が取り込むことができる懸濁微粒子の粒径は二枚貝の種類によって異なる。 また,1HJLVKLDQG.D\DED(2010)はマツカサガイ(Pronodularia japanensis)の年間の成長率と水温 と成長パターンの関係を調べ,小さな個体ほど成長率が大きく,成長し始める温度は低いこと(殻長 25PP未満の個体で10℃,25∼35PPの個体で15℃,35PPより大きな個体で18℃)を明らかにした。 成長し始める温度が異なるということは,摂食にも温度が影響していることを示している。  日本産の淡水二枚貝を用いた研究は少ないが,基礎研究によって裏付けられた方法によって実際に 二枚貝を自然水系へ導入することが望ましい。そこで本研究では,日本に生息する淡水二枚貝の濾過 能力を種間で比較した。これまでの研究では,摂食した藻類の細胞数,クロロフィルa濃度を二枚貝 の濾過能力の指標として用いることが多かったが,本研究では粒径が明らかな鉱物粒子であるカオリ ンを用いて粒径毎に実験を行って,これまでに用いられなかった濁度に基づいて二枚貝の濾過能力を 調べた。また,温度によって効率が変わる可能性があるので,温度条件を変えて濾過能力を調べた。

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これらの結果を総合的に考慮して,二枚貝を用いた水質浄化法の有効性を検討した。 3.材料と方法 (1)使用した淡水二枚貝  本研究では,まず小型水槽を用いて,次により容積の大きな水槽やプールなどを用いて,実験室で 二枚貝の水質浄化能力を調べ,最終的には二枚貝を実際に池や湖沼に導入して水質浄化に有効である かを検討することを計画している。二枚貝を移植する場合,産地や種名を記録に残す必要がある。そ こで,今回の実験においては,産地や種名が明確である二枚貝を使用した。使用した二枚貝の産地, 使用個体数,平均殻長,平均湿重量,実験条件を表1に示す。なお,ヌマガイは同じ産地から採集し た12個体のうち2個体が他のものより明らかにサイズが大きかったため,それら2個体と残りの10個 体を別のグループとして実験を行った。 (2)水槽実験  水質浄化により有効な種を検討するため,水質浄化の基準として濁度に注目し,人工的に濁度を上 表1 実験に使用した二枚貝と実験条件

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げた水槽内で二枚貝を入れた場合と,対照実験として二枚貝を入れない場合で濁度の変化を36時間比 較した。自然環境に生物を移植する際,その環境に適した生物を選ぶことが重要である。そこで,以 下のように条件を変えて実験を行った。 ① 室温条件における濾過能力の検証  室温条件(春季∼秋季約22℃,冬季10∼18℃)において,35/水槽(縦295PP,横450PP,高さ 300PP)に24/の水を入れ,粒径4μP,2μP,02μPの珪酸塩鉱物カオリン($O26L225(2+)4)を それぞれ08J,08J,05J使用して人工的に濁度を30∼40)78 まで上げた。実験は粒径毎に行い,二 枚貝の種間で濾過能力を比較した。また,濁度の可視的な変化を,実験開始時,24時間後,36時間後 に水槽正面から写真を撮影することによって比較した。 ② 低水温条件における濾過能力の検証  冬季に低水温となる水域(例えば山梨県の山中湖)の水質浄化に適した二枚貝を調べるため,低水 温条件において二枚貝の種間で濾過能力を比較した。マイラボクロマトグラフ$&2070($772株式 会社)を10℃に設定し,水槽を設置して,二枚貝を低水温条件に24時間馴化させてから,水温以外を 上記①と同様に設定して実験を行った。 ③ 高水温条件における濾過能力の検証  夏季に高水温となる水深の浅い池や沼(例えば山梨県舞鶴城公園内の堀)の水質浄化に適した二 枚貝を調べるため,高水温条件において二枚貝の種間で濾過能力を比較した。,& サーモスタット ';003(ジェックス株式会社)及びセフティキープ)- デミオートブラックヒーター100(ジェック ス株式会社)を用いて水温を30℃に設定し,二枚貝を高水温条件に24時間馴化させて,水温以外を上 記①と同様に設定して実験を行った。 ④ クロレラを用いた場合の濾過能力の検証  カオリンは珪酸塩鉱物であるので,二枚貝はこれをエネルギー源として利用できない。そこで,二 枚貝が餌として摂食する可能性のある有機物の一つとしてクロレラ(直径約2μP)を用いて,二枚 貝の種間で濾過能力を比較した。生クロレラ−912(クロレラ工業)を用いて濁度を約10)78まで上げ, カオリンの代わりにクロレラを用いた以外は上記①と同様に設定して実験を行った。クロレラは光合 成によって増殖し濁度を上げる可能性があるため,遮光した場合としない場合で実験を行った。  実験①∼④では,カオリンやクロレラが沈殿することを防ぐために空気量が調節できるエアポンプ $''−;101(有限会社アデックス)を用いて水を常時撹拌した。実験①では実験開始から3時間毎 に24時間後まで,並びに36時間後に10POの水を採り,濁度計+,93703%(+$11$社)を使用して濁 度を測定した。実験②∼④では実験開始から1時間毎に36時間後まで濁度チェッカー7&100(237(; 社)を使用して自動的に濁度を測定した。実験は再現性を得るために3回行った。二枚貝を入れた場 合と入れない場合(対照実験)との濁度低下の差をグラフ化した。また,二枚貝による濾過効率)5(% J) を次のような式を用いて比較した。 )5 {(7LQLW−7ILQ)7LQLW−(WLQLW−WILQ)WLQLW}*×100 (7ILQ,実験終了後の濁度()78);7LQLW,実験開始時の濁度()78);WILQ,対照実験終了時の濁度()78); WLQLW,対照実験開始時の濁度()78);*,実験に使用した二枚貝の総湿重量(J)) (3)二枚貝の公園内の池への設置及び成長量の測定  自然環境において二枚貝が水質浄化に有効かどうか調べるため,二枚貝を山梨県内の遊亀公園内の 池に設置した。比較的容易に多くの個体を手に入れやすい滋賀県琵琶湖産のタテボシガイを使用した。 移植前にタテボシガイの殻長,殻高,殻幅,湿重量を測定し,個体識別できるようマーキングを施し た。90×45FPのステンレス製の柵1つに対して18のポケットができるようにポリエチレン製のネッ トを張り,ポケット1つ当たり2∼3個体ずつタテボシガイを入れ,3つのステンレス製の柵を三角

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形になるように組み立て,これにブイを取り付け,2011年7月4日に計140個体を設置した。その後, 2011年10月14日,2012年1月11日,2011年4月12日,2012年7月20日(約3カ月毎)にタテボシガイ の殻長,殻高,殻幅,湿重量を測定した。なお,2011年10月14日の調査で,おそらく池に生息するカ メによって設置器具が破壊され,多くのタテボシガイが捕食されたことが認められたので,タテボシ ガイを入れたネットを覆うようにステンレス製の柵を新たに装着した。 図1 室温条件における濁度変化 3回の実験の平均を示す。

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4.結果 (1)水槽実験 ① 室温条件における濾過能力の検証  カオリンの粒径に関係なく二枚貝のどの種を用いても対照実験よりも濁度の低下がみられた(図1)。  3回の実験の平均で,粒径4μPのカオリンを用いた場合に濁度低下が大きかったもの(最も大き なものから3番目まで)は,ヨコハマシジラガイ,ヌマガイ10個体,山中湖タテボシガイであった。 粒径2μPのカオリンを用いた場合には,山中湖タテボシガイ,河口湖タテボシガイ,河口湖カラス ガイであり,粒径02μPのカオリンを用いた場合には,山中湖タテボシガイ,ヌマガイ10個体,ヨコ ハマシジラガイであった。  実験開始時,24時間後,36時間後の水槽の写真(3回の実験のうち1回の結果)を図2に示す。い ずれの場合にも36時間後には二枚貝の濾過によって透明度が向上しているが,粒径4μPのカオリン を用いた場合にはヌマガイ10個体,イケチョウガイ,河口湖タテボシガイ,山中湖タテボシガイで, 粒径2μPのカオリンを用いた場合には山中湖カラスガイ,イケチョウガイ,河口湖タテボシガイ, 山中湖タテボシガイで,透明度の変化が顕著であった。粒径02μPのカオリンを用いた場合には,粒 径4μP,2μPのカオリンを用いた場合ほど透明度の変化は大きくなかった。 図2 室温条件において粒径4,2,0.2μmのカオリンを使用した場合の実験開始時,24時間後,36 時間後の透明度

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② 低水温条件における濾過能力の検証  粒径4μPのカオリンを用いた場合には,山中湖カラスガイ,山中湖タテボシガイで濁度低下がみ られた(図3)。これらの二枚貝では,実験開始から8時間後まで濁度が大きく減少し,その後は濁 度低下がみられなかった。これは,実験開始8時間まで濾過を盛んに行ったが,その後濾過を行わな くなったか,濾過効率が大きく低下したためであると考えられる。粒径2μP,02μPのカオリンを 用いた場合には,山中湖タテボシガイ,山中湖カラスガイで濁度低下がみられた(図3)。 図3 低水温条件における濁度変化 3回の実験の平均を示す。

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③ 高水温条件における濾過能力の検証  カオリンの粒径に関係なく二枚貝のどの種を用いても対照実験よりも濁度低下がみられた(図4)。 粒径4μPのカオリンを用いた場合には,山中湖カラスガイ,山中湖タテボシガイでヨコハマシジラ ガイよりも大きな濁度低下がみられた。粒径2μP,02μPのカオリンを用いた場合には,種による 濾過能力の大きな相違はみられなかった。 図4 高水温条件における濁度変化 3回の実験の平均を示す。

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④ クロレラを用いた場合の濾過能力の検証  遮光した場合としなかった場合で大きな差はみられなかった(図5)。山中湖タテボシガイ,ヨコ ハマシジラガイで濁度低下がみられたが,山中湖タテボシガイでは遮光した場合は実験開始から26時 間まで,遮光しなかった場合は実験開始から20時間まで濁度が大きく減少し,その後は濁度低下はみ られなかった。これは実験②の粒径4μPのカオリンを用いた場合と同様に,遮光した場合は26時間 まで,遮光しなかった場合は20時間まで濾過を盛んに行ったが,その後濾過を行わなくなったか,濾 過効率が大きく低下したためであると考えられる。 図5 クロレラを使用した室温条件における濁度変化 3回の実験の平均を示す。

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 表2に実験条件毎の湿重量当たりの二枚貝の濾過効率)5を示す。室温条件ではヌマガイ(2個体, 10個体),ヨコハマシジラガイ,タテボシガイ(河口湖,山中湖)の濾過効率が高かった。また,山 中湖タテボシガイは高水温条件,クロレラを用いた場合においても濾過効率が高かった。 (2) 二枚貝の設置及び成長量の測定  遊亀公園の池に7月に設置したタテボシガイ140個体のうち生存していた21個体の殻長,殻高,殻幅, 湿重量を示す(図6)。多くの個体がおそらく池に生息するカメによって捕食された。平均殻長は設 置期間(2011年7月から2012年7月)にわたって増加したが,特に2012年1月から7月にかけて増 加した。平均殻高も設置期間にわたって増加したが,特に2011年10月から2012年4月にかけて増加し た。平均殻幅は2011年7月から2012年4月まで増加したが,2012年4月から7月にかけて減少した。 平均湿重量は2012年7月から2012年4月まで増加したが,2012年4月から7月にかけて減少した。 表2 湿重量当たりの二枚貝の濾過効率FR(橙色は0.10∼0.19% /g,赤は0.20% /g以上を示す。) 3回の実験の平均と標準誤差を示す。 図6 遊亀公園に設置したタテボシガイの殻長,殻高,殻幅,湿重量の推移(バーは標準誤差を示す。)

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5.考察 (1) 二枚貝の濾過能力の種間の比較  室温実験で使用した二枚貝のうち,ヌマガイ,ヨコハマシジラガイ,タテボシガイは濾過能力が高く, 水質浄化に有効であると考えられる。ヌマガイでは大型個体と小型個体を用いたが,両者の濾過効率 に有意な差はなかった。また,タテボシガイでは河口湖産のものと山中湖産のものを用いたが,粒径02 μPのカオリンを使用した場合(S 009)を除いて両者の濾過効率に有意な差はなかった。それゆえ, 同じ種であれば濾過効率はサイズや産地に関係なく比較的安定していると言える。ただし,河口湖と 山中湖のタテボシガイは在来のものではなく,おそらく琵琶湖より移植され,各々の湖で繁殖してき たと思われ,各々の湖の環境条件(例えば平成21年度山梨県公共用水域水質結果によると,湖心の年 平均水温は約2℃異なる)に適応したため,濾過効率の若干の相違がみられた可能性がある。  実験①では6種の二枚貝を用いたが,実際に自然水系に移植する二枚貝を選定する際には同定の信 頼性や二枚貝の希少性(入手のしやすさ)を考慮しなければならない。イケチョウガイ(Hyriopsis

schlegeli)については,近縁なヒレイケチョウガイ(Hyriopsis cumingii)が中国から日本の茨城県

霞ケ浦と滋賀県琵琶湖に移植されており(6KLUDL.RQGRDQG.DMLWD2010),両者を形態学的に区別する ことは困難である。移植によって外来種であるヒレイケチョウガイの分布を拡大させてしまうことが 危惧されるので,水質浄化にイケチョウガイを用いることは難しいと思われる。また,カラスガイ, イケチョウガイ,カワシンジュガイは,それぞれ準絶滅危惧,絶滅危惧Ⅰ類,絶滅危惧Ⅱ類に指定さ れており,保護すべき対象であるので,二枚貝を用いた大規模な水質浄化を行う際には適していない。 実際に本研究では,実験②,③でカラスガイを使用することができたが,その後採集できなかったた め,実験④では用いなかった。カラスガイ,イケチョウガイ,カワシンジュガイなどの大型の二枚貝 のほうが,ヨコハマシジラガイやタテボシガイなどの小型の二枚貝よりも水質浄化に有効であると当 初は考えていたが,表2より比較的小型な二枚貝のほうが濾過効率は高いことが明らかとなった。そ れゆえ,二枚貝による自然水系の大規模な水質浄化を行う際には,湿重量当たりの濾過効率の高い小 型の二枚貝を移植するほうが運搬費用,水質浄化の面から考えて適切であると考えられる。今回実験 で使用したヨコハマシジラガイ,タテボシガイは比較的容易に入手できる小型の二枚貝である。この 2種は有機物(クロレラ)を用いた場合でも高い濾過効率を示しており,自然水系においても有機物 を濾過摂食し,水質浄化に貢献すると思われる。また,タテボシガイは低水温条件下では効率が落ち るものの,懸濁微粒子を濾過しており,高水温条件下でも濾過効率が高い。そのため,冬季に低温と なる山中湖や夏季に高温となる公園の池などでも水質浄化を行うのに用いることができると考えられ る。ヨコハマシジラガイは準絶滅危惧に指定されており(それにもかかわらず比較的入手しやすい), 大規模な水質浄化を行う際には個体数を減少させないよう配慮する必要がある。室温で濾過効率の高 かったヌマガイについては低水温,高水温条件,クロレラを用いた実験を行っておらず,今後これら の条件下で実験を行い,濾過効率を検討する必要がある。また,ヨコハマシジラガイでも低水温条件 下で濾過効率を検討する必要がある。以上より,現段階としては自然水系の水質浄化を行う上でタテ ボシガイが最も有効であると考えられる。 (2) 二枚貝の移植について  柵に取り付けたネットに二枚貝を入れて設置したのは,二枚貝をある程度成長させてから回収する 必要があるからである。移植して成長させた後に回収することで,自然水系から有機物を除去し,水 質浄化を適切に行うことができる。定期的に回収しなければ,単に水質悪化の原因となる有機物を投 入したことになってしまう。本来二枚貝は砂泥に潜って底生生活を行うので,ネットを使った場合死 亡率が高くなる可能性があり,今後さらに設置法を工夫する必要がある。遊亀公園のように二枚貝を 捕食する生物が生息する水域では,防御用の柵が必要である。移植に先立って二枚貝を捕食する生物 が生息しているか否か調査し,生息する場合には防御用の柵で二枚貝が捕食されないよう対処しなけ ればならない。  移植する時期にも配慮する必要がある。自然水系内の懸濁物質を取り除くには,成長率の高い時期 に二枚貝を移植するのが効果的であると思われる。本研究で遊亀公園に移植したタテボシガイの平均 殻長は1月から7月に増加傾向にあった(図6)。近藤(1992)は京都市内の水路おいて,タテボシ ガイ(Unio douglasiae biwae)の亜種のイシガイ(Unio doglasiae nipponensis)の殻長の季節的変 化を明らかにした。イシガイの殻長の平均的な成長は,1987年7月から10月まで094PP,10月から

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11月まで058PP,11月から1988年2月まで013PP,2月から3月まで005PP,3月から5月まで 006PP,5月から7月まで013PP,7月から9月まで013PPであり,1987年と1988年のほぼ同じ 時期で異なるようにみえる。また,本研究で用いたタテボシガイとも成長時期が異なる。これは,得 たエネルギーを生殖に用いる時期と成長に用いる時期が,地域で,また年によって異なる可能性を示 している。一方,二枚貝の成長を判断する上では湿重量に注目する方が妥当であると思われる。本研 究で遊亀公園に移植したタテボシガイの平均湿重量は2011年7月から2012年4月に増加したが,2012 年4月から7月は減少した。近藤(1987)は祇園川において,淡水二枚貝の幼生であるグロキディウ ムが付着する魚類を採集し,イシガイ類7種のグロキディウムの放出時期を明らかにした。これによ るとイシガイでは4∼8月であった。それゆえ,繁殖期はそれより少し前から始まると思われる。繁 殖期がタテボシガイでも同様であるとすれば,本研究でタテボシガイの湿重量が増加しなかった春季 から夏季は繁殖期であり,この時期には濾過摂食により得たエネルギーが生殖に使われたと考えられ る。それゆえ,その時期を避けてタテボシガイを移植するのが効果的である。また,生殖を行わない 若い個体を用いることで,時期に関係なく二枚貝を移植することができる。1HJLVKLDQG.D\DED(2010) はイシガイ科のマツカサガイ(Pronodularia japanensis)の成熟と成長率の関係について言及してお り,成熟していない個体の成長率が成熟した個体に比べ非常に大きいことを示した。タテボシガイに おいても,成熟していない個体を用いることで効果的に自然水系内の有機物を取り除くことができ ると思われる。近藤(1987)の調査では,イシガイの抱卵している雌の最小殻長は295PPであった。 本研究において使用したタテボシガイの多くは殻長が295PPを超えており,それよりも小さな個体 を入手することは困難であった。以上のことから,成熟に達していない若い個体を用いること,若い 個体が得られない場合,タテボシガイを9月に設置して3月に回収することが水質浄化を行う上で妥 当であると考えられる。  現在,より容積の大きな水槽を用いての実験ならびに山梨県内の玉諸公園内の池へタテボシガイを 設置する実験を行っており,これらの結果と,ヌマガイ,ヨコハマシジラガイを用いた実験の結果を 得ることによって,さらに二枚貝による水質浄化法を洗練されたものにしていきたいと考えている。 6.謝辞  本研究行うにあたり,研究用二枚貝を提供してくださった稲葉修氏(福島県南相馬博物館),カオ リンを提供してくださった株式会社イメリスミネラルズジャパン,クロレラを提供してくださった高 橋一孝氏(山梨県水産技術センター),道頓堀川へのイケチョウガイの移植などの二枚貝の水質浄化 法の情報を提供してくださった須知裕曠氏(日本水陸両用車協会),二枚貝の同定にご協力いただい た福原修一氏(梅花学園)に心より厚く御礼申し上げます。 7.参考文献 1) 環境省平成22年度公共用水域水質測定結果KWWSZZZHQYJRMSZDWHUVXLLNLK22IXOOSGI 2) <RNR\DPD$(2002)0HFKDQLVPDQG3UHGLFWLRQIRU&RQWDPLQDWLRQRI)UHVKZDWHU%LYDOYHV(8QLRQLGDH)ZLWKWKH &\DQREDFWHULDO7R[LQ0LFURF\VWLQLQ+\SHUHXWURSKLF/DNH6XZD-DSDQ(QYLURQPHQWDO7R[LFRORJ\17(5)423 433 3) 桑谷幸正(1965)炭素粒子投与によるアコヤガイの摂餌機構の解明日水誌31789798

4) 6SUXQJ 0 5RVH 8(1988),QIOXHQFH RI IRRG VL]H DQG IRRG TXDQWLW\ RQ WKH IHHGLQJ RI WKH PXVVHO'UHLVVHQD

SRO\PRUSKD2HFRORJLD77526532

5) .UXJHU-5LLVJnUG+8(1988))LOWUDWLRQUDWHFDSDFLWLHVLQ6VSHFLHVRI(XURSHDQIUHVKZDWHUELYDOYHV2HFRORJLD 773438

6) 1HJLVKL - 1 .D\DED <(2010)6L]HVSHFLILF JURZWK SDWWHUQV DQG HVWLPDWHG ORQJHYLW\ RI WKH XQLRQLG PXVVHO (3URQRGXODULDMDSDQHQVLV)(FRORJLFDOUHVHDUFK25403411 7) 山梨県平成21年度公共用水域水質測定結果  KWWSVZZZSUHI\DPDQDVKLMSWDLNLVXLGRFXPHQWVK21IXMLJRNRSGI 8) 6KLUDL$.RQGR7.DMLWD7(2010)0ROHFXODU0DUNHUV5HYHDO*HQHWLF&RQWDPLQDWLRQRI(QGDQJHUHG)UHVKZDWHU 3HDUO0XVVHOVLQ3HDUO&XOWXUH)DUPVLQ-DSDQ9(18668(34)151163 9) 近藤高貴(1992)イシガイとトンガリササノハガイの個体群密度と成長9(18651(3)219224 10) 近藤高貴(1987)イシガイ類7種の繁殖期9(18646(4)227236

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