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1990年代の世代間再分配政策の変遷――世代会計を用いた分析

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Academic year: 2018

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1990 年代の世代間再分配政策の変遷

――世代会計を用いた分析

宮里尚三

要 旨

少子高齢化の進展は賦課方式を前提とした社会保障制度をもつ場合,世代 間の負担の格差を生み出すことは多く指摘されてきた.世代間の負担の格差 を定量的にとらえる場合,世代会計の手法は有益である.世代会計はもとも と,伝統的な財政赤字の指標は人々の行動に影響を与える政策の指標とは なっていないという問題意識から,Auerbach, Gokhale, and Kotlikoff[1991] によって開発されたものである.

(2)

推計結果から,90 年代の政策は 20 歳代を含めた現存世代の負担を軽くす る一方で,一貫して将来世代に負担を先送りする政策がとられていたことが わかった.具体的な数字を述べれば,1990 年における 20 歳代の世代と将来 世代の生涯負担額の差は 5.5%ポイント程度であったのが,98 年には 51.7%ポイント広がる結果となった.また,将来推計人口の下方修正は 7% 程度,将来世代の負担額を上昇させる方向に働いたという結果になった.し かしながら下方修正による将来世代の負担の上昇の程度は小さく,将来世代 の負担の増加は人口推計の下方修正だけが問題ではないこともわかった.

(3)

1

はじめに

わが国において早いスピードで少子高齢化が進んでいるのは周知のとおり である.全人口に占める高齢者の比率を表した高齢化率を見ると 1970 年で は 7.1%であったのが,1990 年には 12.1%となり,2005 年には 20.2%と なっている.また,将来推計人口では 2025 年では高齢化率は 30.5%,2050

年には 39.6%になると予想されている1)

少子高齢化の進展は賦課方式を前提とした社会保障制度をもつ場合,世代 間の負担の格差を生み出すことは多く指摘されてきた.世代間の負担の格差 を定量的にとらえる場合,世代会計の手法は有益である.世代会計はもとも と伝統的な財政赤字の指標は人々の行動に影響を与える政策の指標とはなっ ていないという問題意識から,Auerbach, Gokhale, and Kotlikoff[1991]に よって開発されたものである.

伝統的な財政赤字の指標は,収入と支出の定義によってその水準が変わり うる.公的年金を例にあげれば,保険料と給付を政府の収入と支出とするか, 逆に家計の政府に対する貸付と政府から家計への返済とするかで財政赤字の 水準が変わってくる.そのため,伝統的な財政赤字は適切な政策スタンスを 表しておらず,その代替的な指標として世代会計を提唱している.後に述べ るように世代会計にも問題点があるが,人々がライフサイクル的に行動し, また流動性制約などに直面していない場合,世代会計は有益な指標になりう る.

出生年齢別の各世代の生涯の政府からの純受益額の割引現在価値を計測す るのが世代会計の特徴であるため,世代間の負担の格差や世代間の再分配政 策を定量的にとらえようとする場合,非常に有益な情報を提供する.そのた

(4)

め,世代会計による世代間格差の推計はこれまで多くの国で行われてきた. しかし,多くの研究では基準年の政策を所与として現在世代と将来世代の負 担格差の推計に重点をおいており,その負担の格差が時系列的にどう変化し てきたかについて分析した研究はほとんどない.ここで,本稿では世代会計 の手法が得意とする世代間の再分配がどの程度発生しているかを考察するだ けではなく,どのように推移してきたかも同時に考察する.つまり,どのよ うな再分配政策がとられてきたかをバブル崩壊後の 90 年代に着目し考察す る.

本稿の構成は以下のとおりである.第 2 節で先行研究についてサーベイす る.第 3 節で世代会計の概略と問題点について述べる.第 4 節でデータや推 計結果について述べる.第 5 節で本稿のまとめを述べる.

2

先行研究

世代会計の研究は,米国において,コトリコフを中心にして始められた. 世代会計は現在の政府に対する支払いと受益の構造が変わらないとし,現在 世代と将来世代の政府に対する負担がどれくらいの大きさになるのかを明ら かにする分析手法である.Auerbach, Gokhale, and Kotlikoff[1991]の計算に よると,1989 年生まれの世代と比べると,その後の世代の負担は 17%から 24%も多いという推計結果が得られている.世代会計で得られる結果は後に 説明するが,ある世代から他の世代への政府によって行われる所得移転を表 す指標なのである.このことから,上述の推計結果により,米国の現在世代 が生涯のうち受け取る政府からのサービスの一部は,将来世代の負担による ことが明らかになった.その後もデータをアップデートしながら Auerbach, Gokhale, and Kotlikoff[1992,1994]で米国の世代間格差について分析してい る.一方,Cutler[1993]や Haveman[1994],Diamond[1996]では世代会計に ついての問題点を整理,指摘している.

(5)

は従来の財政赤字の指標が優れている等の指摘を行った.これに対し Auerbach, Gokhale, and Kotlikoff[1994]では,①教育以外の政府支出に関し て世代間配分を特定する適切な方法がない,②要素価格の変化はかなりゆっ くりと起こるので,世代会計の推計に与える影響は少ない,③割引率の選択 については改良するべきである,④利他的行動を支持しない研究が多くある, ⑤ Zeldes[1989]では多くの米国国民は流動性制約に直面していない,とい うことを述べている.

一方,Diamond[1996]では世代会計の手法は効用基準(Utility Basis)で 行われるのではなく,あくまで費用基準(Cost Basis)で行われるべきであ ると述べている.また,世代間の純負担の均衡が必ずしも最適であるとはか ぎらないと述べている.これに対し Kotlikoff[1997]では世代会計の手法が 効用基準ではなく費用基準で行われるべき点に賛同しているが,世代会計の 推計結果は一般均衡分析で得られた結果は,世代間の不均衡という観点から 見て同じような結果が得られているとも述べている.また,世代間の純負担 の均衡が必ずしも最適とはかぎらないという点に関しては,定常状態におけ る最適条件は純税率が一定であることであると述べている.

Cutler[1993]では,リカード中立的な状況では世代会計の指標はあまり有 効ではない,流動性制約に直面する家計や近視眼的家計を前提とする場合も 世代会計の指標は有効ではないと述べている.これに対し Kotlikoff[1997] ではリカード中立性を支持しない研究が多くあること,また米国において数 十兆ドルもの純資産が存在していることから流動性制約に直面している家計 や近視眼的な家計はあまりないということを述べている.

また,岩本・尾崎・前川[1996]では伝統的な財政赤字と世代会計の関係に ついて包括的なサーベイを行い世代会計の意義と限界を検討している.また, Boadway[2006]においても世代会計の意義や問題点について簡単に述べら れている.さらに吉田[2005]においても世代会計の研究について詳細なサー ベイを行っている.

日本における世代会計の手法を用いた推計は,経済企画庁[1995],日高 ほ か [1996],麻 生・吉 田 [1996],宮 里 [1998],Takayama, Kitamura, and Yoshida[1999],吉田[2005]などで行われている.

(6)

Auerbach, Gokhale, and Kotlikoff らがマイクロデータをもとに各世代の純受 給を推計した方法がとれずに,日本の研究では集計データをもとに各世代の 純受給を推計している.経済企画庁[1995],麻生・吉田[1996],宮里[1998] では『家計調査』を中心に各世代の純受給を推計しているため 10 歳刻みの 推計となっている.またそれらの研究はデータの制約により 20 歳以上の世 代を 10 歳刻みで推計している.

一方,日高ほか[1996]では『賃金構造基本調査』を中心に推計し 1 歳刻み で各世代の純受給を推計している.日高ほか[1996]の推計によると,将来世 代は現在世代よりも負担が 168.9%も多いという結果になっている.一方, 麻生・吉田[1996]では,将来世代は現在世代より負担が 54.2%多いとの結 果がそれぞれ得られている.また,経済企画庁[1995]では 51.0%,宮里 [1998]では 112.3%,現在世代より将来世代の負担が多いという結果になっ ている.Takayama, Kitamura, and Yoshida[1999],吉田[2005]では国際比 較が可能な形で日本における世代間格差を分析している.Takayama, Kita-mura, and Yoshida[1999]においては将来世代は現在世代よりも約 170%重い 負担となり,吉田[2005]においては約 220%重い負担となる推計結果となっ ている.

一方,Auerbach, Kotlikoff, and Leibfritz. eds.[1999]においては 10 カ国以 上において世代会計の手法を用いて各国の世代間の再分配についての分析を 行っている.各国の推計のなかでもっとも世代間格差が大きいのは日本と なっており,0 歳世代と将来世代の比較では将来世代は 169.3%重い負担を する結果となっている.ついで負担が重いのはイタリアで 131.8%,次はド イツで 92.0%重い負担をする結果になっている.逆に負担がもっとも軽い のはスウェーデンで 0 歳世代より将来世代は 22.2%軽い負担ですむ結果と なっている.またニュージーランドでも将来世代は 3.4%軽い負担ですむ推 計結果となっている.

(7)

育の効果を考慮して世代間格差について分析を行っている.彼らの研究では 米国における進学率の上昇を考慮して推計を行うとこれまでの世代間格差の 推計より楽観的な結果が得られるとしている.ただし,教育の効果を考慮し ても世代間のアンバランスは発生しており,それを解消するには 1.2%の税 率の上昇,もしくは 2.7%の給付の削減が必要であるとしている.

先にあげたこれまでの世代会計の分析は主に,ある一時点でどの程度の世 代間の再分配が発生しているかを分析している.また,政策変更を行った場 合,世代間格差がどの程度改善するかについてのシミュレーション分析が多 く行われている.それに対して本稿では一時点だけでなく時系列的に世代間 の再分配を把握する.そうすることで,回顧的な見方ができ,実際にどのよ うな世代間の再分配政策がとられてきたかを考察することができる.

3

世代会計の概略と問題点

3.1 世代会計の概略

(8)

の行動がライフサイクル仮説に基づく場合,世代会計は財政政策の影響をよ り適切にとらえる指標になる.さらに,世代会計は現在から将来にかけての 政府の収入と支出を世代別に分解して,生涯を通じた負担の割引現在価値を 世代別に算出したものであるから,負担の公平性について有用な情報を提供 するのである.

現在世代の将来純

負担の現在価値 +将来世代の将来純負担の現在価値 =将来の政府支出の現在価値−現在の政府の純資産

これを数式で表すと次のようになる.



N+∑



N=∑

G(1 +r)W

(8.1)

次の式はNの導出の仕方を表した式である.

N= ∑



TP(1 +r)

 (8.2)

ここで,変数の説明を行う.Nk年生まれ世代のt年の純負担の割引現

在価値,W

t年の政府純資産,Gs年の政府消費(政府支出),rは利

子率,Dは最大寿命,Tk年生まれ世代のs年の 1 人当たり純負担.

Pk年生まれ世代のs年における人口である.

(9)

補論 3 で述べる2)

実際の推計結果に移る前に,財政政策が民間部門にどのように影響を与え るかを見ておく.まず個人は生涯の予算制約式をもとに最適な消費計画を立

てるものとする.ここでk年に生まれた世代の生涯の予算制約式は次のと

おりになる.

(C+I)P(1 +r)

=W+∑

EP(1 +r)

N (8.3)

N= ∑



TP(1 +r)



Ck年生まれ世代のs年での消費,Ik年生まれ世代のs年での民

間純世代間移転,Ek年生まれ世代のs年での労働所得,Wk

生まれ世代のt年での純資産である.また,N年生まれ世代のt年の純負

担の割引現在価値である.

ここで個人の生涯の予算制約式(8.3)に影響を与える政策的な変数は,

Nで表される生涯における政府への純支払いの割引現在価値だけである.

伝統的な財政赤字の指標は一般的にはNの値とは異なることが予想され

るので,個人がライフサイクル的な行動をとる場合3),伝統的な財政赤字は

個人の行動への影響とは直接的な関係がなくなり,世代会計によって推計さ

れるNの値が個人の行動へ影響を与える政策スタンスとして適切なもの

となる.

3.2 世代会計の問題点

前節でも述べたように,世代会計は各世代の生涯にわたる政府からの純受 益(純負担)の割引現在価値を計算する.したがって,家計が流動性制約に 直面せずライフサイクル仮説に基づく行動をとる場合,世代会計は財政政策 の影響をより適切にとらえる指標になる.しかしながらそのような場合でも,

2) 宮里[1998]では政府消費を個人の受益に含めていたが,岩本・尾崎・前川[1996]で指摘されて いるように若干問題があるため,今回は政府消費を個人の受益には含めずに推計を行った. 3) もちろん,人々が流動性制約に直面している場合のほかにも,人々がリカード・バロー中立的

(10)

世 代 会 計 の 手 法 は Cutler [1993],Haveman [1994],Diamond [1996],岩 本・尾崎・前川[1996],Boadway[2006]などで指摘されているようにいく つかの問題点がある.世代会計の手法の問題点は主に以下のようにまとめる ことができる.

1.現存の世代については,残りの生涯の純負担額を算出する.したがっ て現存世代の生涯全体の純負担を把握しているわけではない.

2.公共資本や教育などから受ける便益を考慮していない.

3.世代間のバランスをとることが必ずしもよいとはいえないこともある. 経済状況の恵まれなかった世代には低い純負担率が望ましい.

4.将来の割引率の設定で純負担額が変わってくる. やや技術的な点でとしては以下の問題点もある.

5.基準となる年の財政収支構造をそのまま将来に引き伸ばすので,基準 年に一時的なショックがあった場合,その影響をずっと引きずることに なる.

上記のような問題点があるが,本稿では一時点での比較ではなく時系列的 に世代会計の手法で世代間の再分配を検証することで上記問題点のいくつか の改善を行う.まず,時系列的に世代会計の手法を用いることで,世代間格 差の改善(悪化)が一時的なのか恒常的なのか検証することができる.これ は 5.に対する改善となる.さらに,時系列的な分析を行うことで,どのよ うな世代間再分配政策がとられてきたかを検討することができる.これは, 現存世代の過去の負担を遡及することにもつながるので,1.に対する改善 につながる.その他に本稿では,将来世代の純負担の算出の際に旧人口推計, 新人口推計の両ケースで検討する.そうすることで,過大推計であった人口 推計が将来世代の純負担に与える影響を検討することができる.

4

推計結果

4.1 データについて

(11)

者実態調査』,『国勢調査』,『日本の将来推計人口』である.また,分析期間 は 1990 年から 1998 年とした.データについての注意点をあげておくと,ま ず『全国消費者実態調査』,『国勢調査』は毎年の調査ではないので調査がな い年については線形補間を行うことにした.次に,国民経済計算体系(Sys-tem of National Accounts)が 93SNA へと移行したことを受け 1999 年以降 の『国民経済計算年報』の項目はそれ以前と大きく異なる.したがって,今 回は 1999 年以降は分析しないことにした.さらに,『日本の将来推計人口』 は平成 4(1992)年推計以前は各歳ごとの詳細な予測値がないため,それよ り前の予測値を用いて将来負担を推計するのが難しい.したがって,今回は 1990 年以前は分析しないことにした.最後に,基準となるケースは経済成 長率を 2%,利子率を 4%と仮定して推計を行う.

4.2 結果

まず,世代別の負担額について見ることにする.推計結果は図表 8 1 のと

おりになった5).負担額の推移についての特徴としては,90 年代の負担額

は多くの年齢区分で一定で推移していたことが図から読みとれる.ただし, 40 歳代の世代では若干ながら負担額が減っている.具体的な数字をいえば, 1990 年における 40 歳代の負担は 3,905.6 万円であるのに対し 1998 年では 3,727.9 万円となっている.また 50 歳代も若干ながら負担が減っているが 負担額の変動がやや大きい.ここで,90 年代を通して多くの年齢区分で負 担額が一定で推移した理由を考えてみる.90 年代はバブル崩壊以後の景気 低迷によりとくに直接税の税収が減った時期である.直接税収の減少は家計 の側から見れば直接税の支払いが減ることであるため,結果的に直接税の家 計の負担は減ることになる.一方,年金保険料や医療保険料を中心に社会保 険料負担は 90 年代を通じてどの年齢区分でも年々上昇していった.結果的 に直接税の負担の減少と社会保険料負担の上昇が相殺されるかたちとなり, 90 年代の負担額の推移は多くの世代で一定で推移することになった.

4) 『家計調査』は『全国消費者実態調査』と異なり毎年家計の支出等について公表されるので, 家計の負担や受益の按分のデータとしては『家計調査』を主に用いることにする.

(12)

図表 8 2 は受益額の推移についてである.90 年代の受益額の特徴として は,60 歳以上の世代で受益額が大きく上昇してきたことがあげられる.そ の理由としては,年金制度の成熟化,つまり 1 人当たり年金給付額の増加が 原因と考えられる.具体的な受益額の数字をあげると 1990 年における 60 歳 代以上の世代は 3,591.1 万円であったのに対し 1998 年では 4,144.9 万円に 上昇している.それ以外の世代は金額で 60 歳以上の世代よりかなり少ない 額であるため,動きとしては見づらいが,50 歳代以外の世代では金額は若 干ながら上昇している.1990 年における 20 歳代の世代の受益額は 370.4 万 円,30 歳代では 419.8 万円,40 歳代では 421 万円,50 歳代では 641.8 万円 であったのに対し 1998 年では 20 歳代の世代で 450.4 万円,30 歳代で 542.5 万円,40 歳代で 588.7 万円,50 歳代で 532.5 万円となっている.これらの 多くの世代で受益額が上昇してきたのは補助金や社会保障給が若干ではある が 90 年代を通じて上昇したことが原因であると考えられる.

負担額と受益額の推計結果を用いて純負担額を計算したのが図表 8 3 であ

る.ここで,純負担額=負担額−受益額で計算を行っている.純負担額の特

徴としては,60 歳以上の世代では純便益を得ており,90 年代は純便益が大 きく増加したことが読みとれる.これは,先ほども述べたように社会保障制 度,とくに年金からの便益が年々増加してきたことが原因である.

一方,その他の年齢区分では多くの場合,純負担はほぼ一定で推移してき たことが読みとれる.40 歳代の区分では若干であるが純負担額は低下して いる.純負担額の推移から読みとれることは,60 歳以上の年齢区分の純負 担額はほとんど変わっていないにもかかわらず,60 歳以上の純便益が増え ていることであるが,これは現存世代の負担を引き上げて 60 歳以上の便益 増をまかなったのではなく,将来にその負担を先送りしたと考えられる.

図表 8 4 には生涯純負担額の推移が示されている.生涯純負担額の算出は 先ほどの年齢区分別の純負担額をもとに算出される.たとえば,1990 年で の生涯純負担額の算出は,1990 年におけるそれぞれの年齢区分ごとの純負 担額の構造を所与とし,成長率と利子率を設定し,それぞれの年齢区分ごと の純負担の割引現在価値を求め,寿命年齢まで足し合わせて生涯純負担額を 算出している.

(13)

50,000(千円) 45,000 40,000 35,000 30,000 25,000 20,000 15,000 10,000 5,000 0

1990 91 92 93 94 95 96 97 98(年)

29歳 30 39歳 40 49歳

50 59歳 60歳

図表 8 1 負担額の推移

45,000 40,000 35,000 30,000 25,000 20,000 15,000 10,000 5,000

(千円)

0

1990 91 92 93 94 95 96 97 98(年)

29歳 30 39歳 40 49歳

50 59歳 60歳

図表 8 2 受益額の推移

50,000(千円)

40,000 30,000 20,000 10,000 0 −10,000 −20,000 −30,000

1990 91 92 93 94 95 96 97 98(年)

29歳 30 39歳 40 49歳 50 59歳 60歳

図表 8 3 純負担額の推移

出所) 筆者推計.

出所) 筆者推計.

(14)

に求められる生涯純負担額を 1990 年から 1998 年まで毎年算出したのが図表 8 4 である.推計結果であるが,まず 1990 年における生涯純負担額は 20 歳 代で 7,405.2 万円に対し将来世代は 7,815.3 万円という結果になった.その 後,20 歳代の世代を含む現存世代の生涯純負担額が年々低下していく一方 で将来世代の純負担額は年々増加していったことが図から読みとれる.1998

200

150

100

50

0

−50

−100

1990 91 92 93 94 95 96 97 98

(%)

(年)

29歳 30 39歳 40 49歳 50 59歳 60歳

将来世代(92年推計) 将来世代(97年推計)

図表 8 5 生涯純負担の推移(20 歳代で基準化)

120(百万円) 100

80 60 40 20 0 −20 −40 −60

1990 91 92 93 94 95 96 97 98(年)

29歳 30 39歳 40 49歳 50 59歳 60歳 将来世代(92年推計) 将来世代(97年推計)

図表 8 4 生涯純負担額の推移

出所) 筆者推計.

(15)

年では 20 歳代は 6,369.7 万円に対し将来世代は 9,664.6 万円という結果に なっている.

これらの結果から,90 年代の政策は 20 歳代を含めた現存世代の負担を軽 くする一方で,一貫して将来世代に負担を先送りする政策がとられていたこ とがわかる.また,旧人口推計と新人口推計の両方を用いた分析から,将来 推計人口の下方修正は 7%程度,将来世代の負担額を上昇させる方向に働い たという結果になった.

図表 8 5 は図表 8 4 の結果をそれぞれ年について 20 歳代の生涯純負担額 で基準化したものである.図表 8 5 を見ると,1990 年においては 20 歳代の 世代と将来世代の生涯純負担はほとんど変わらなかったが,93 年,94 年ご ろから現存世代と将来世代の生涯純負担の乖離が顕著になり,その後もその 乖離は年々広がっていることがわかる.

1990 年における 20 歳代の世代と将来世代の生涯負担額の差は 5.5%ポイ ント程度であったのが,94 年には 38.2%ポイント,98 年には 51.7%ポイン ト広がる結果となっている.また,97 年にアップデートされた人口推計 (97 年推計)ではなく旧人口推計(92 年推計)を用いても 97 年,98 年の現 存世代と将来世代の生涯純負担の乖離は大きくは縮小しない.仮に旧人口推 計のまま人口が推移したとして,将来世代への負担が大きく縮小していると すれば,将来世代の負担を抑制する政策がとられたことになるが,実際には 将来世代と現存世代の生涯純負担の乖離は縮小しなかった.したがって,97 年,98 年における将来世代の負担の増加は人口推計の下方修正だけが問題 ではないことがわかる.

(16)

5

まとめ

本稿では 90 年代の世代間再分配政策を世代会計の手法を用いて分析を 行った.これまでの世代会計の研究では世代間の再分配がどの程度発生して いるか一時点での考察を行うことが多く,また,政策変更を行った場合,世 代間格差がどの程度改善するかについてのシミュレーション分析も多く行わ れてきた.これに対し本稿では一時点だけでなく時系列的に世代間の再分配 について分析を行った.世代会計の手法は現在の財政構造を所与とした場合, ど の よ う な 負 担 が 将 来 世 代 に 発 生 す る か と い っ た 先 見 的(forward-looking)な分析だったといえる.本稿ではこれまでの世代会計の手法を前 提としているが一時点での世代間再分配の分析ではなく,時系列的に世代間 再分配をとらえることで世代間再分配政策について回顧的(backward-looking)な分析を行った.そのような分析手法をとることで,実際にどの ような世代間の再分配政策がとられてきたかを考察することができた.

(17)

補論 1

生涯純負担の感度分析

図表 8 6 生涯純負担の推移:経済成長率 2%,利子率 4%

将来世代

(92年推計)(97年推計)将来世代 29歳 30 39歳 40 49歳 50 59歳 60歳 1990 78,152.8 78,152.8 74,051.5 65,627.0 49,064.6 17,321.1 −26,298.4 1991 81,572.9 81,572.9 75,688.8 66,947.1 50,218.8 17,675.4 −28,088.2 1992 86,227.9 86,227.9 73,522.8 64,072.9 46,327.8 13,363.1 −31,592.9 1993 87,480.3 87,480.3 67,277.0 58,300.6 40,877.5 9,205.1 −35,753.7

1994 85,653.1 85,653.1 61,991.0 53,772.0 36,533.2 5,567.1 −37,578.7 1995 90,418.3 90,418.3 64,080.7 55,504.6 36,507.7 5,308.2 −41,168.3 1996 90,901.8 90,901.8 65,138.1 57,219.7 38,065.2 6,761.0 −39,279.7 1997 89,622.3 95,406.8 66,700.2 57,814.4 40,028.5 10,030.7 −37,371.1 1998 90,431.9 96,646.4 63,697.0 54,405.1 36,361.3 6,056.0 −38,516.7 単位:千円,一世帯当たり(年間)

出所) 筆者推計(図表 8 11 まで同).

図表 8 7 生涯純負担の推移(20 歳代で基準化):経済成長率 2%,利子率 4%

将来世代

(92年推計)(97年推計)将来世代 29歳 30 39歳 40 49歳 50 59歳 60歳 1990 105.5% 105.5% 100.0% 88.6% 66.3% 23.4% −35.5%

1991 107.8% 107.8% 100.0% 88.5% 66.3% 23.4% −37.1% 1992 117.3% 117.3% 100.0% 87.1% 63.0% 18.2% −43.0% 1993 130.0% 130.0% 100.0% 86.7% 60.8% 13.7% −53.1%

1994 138.2% 138.2% 100.0% 86.7% 58.9% 9.0% −60.6%

1995 141.1% 141.1% 100.0% 86.6% 57.0% 8.3% −64.2%

1996 139.6% 139.6% 100.0% 87.8% 58.4% 10.4% −60.3% 1997 134.4% 143.0% 100.0% 86.7% 60.0% 15.0% −56.0%

1998 142.0% 151.7% 100.0% 85.4% 57.1% 9.5% −60.5%

図表 8 8 生涯純負担の推移:経済成長率 2%,利子率 5%

将来世代

(92年推計)(97年推計)将来世代 29歳 30 39歳 40 49歳 50 59歳 60歳 1990 69,488.7 69,488.7 66,695.7 62,467.0 49,846.0 20,146.2 −25,196.7

1991 72,698.3 72,698.3 68,231.2 63,785.4 51,116.2 20,692.7 −26,911.6 1992 78,031.2 78,031.2 66,842.3 61,661.0 47,834.2 16,757.0 −30,269.5 1993 80,361.0 80,361.0 61,705.7 56,787.8 43,033.5 13,045.9 −34,256.0 1994 79,506.6 79,506.6 57,245.9 52,905.5 39,112.5 9,603.9 −36,004.6 1995 84,419.2 84,419.2 59,374.6 54,868.2 39,393.7 9,730.7 −39,443.8 1996 84,725.8 84,725.8 60,068.0 56,269.7 40,689.4 10,980.6 −37,634.3 1997 83,378.4 87,843.3 61,250.8 56,415.6 42,250.8 14,045.3 −35,805.6 1998 85,345.9 90,175.4 58,934.2 53,579.7 38,978.2 10,193.6 −36,903.2

(18)

図表 8 9 生涯純負担の推移(20 歳代で基準化):経済成長率 2%,利子率 5%

将来世代

(92年推計)(97年推計)将来世代 29歳 30 39歳 40 49歳 50 59歳 60歳 1990 104.2% 104.2% 100.0% 93.7% 74.7% 30.2% −37.8% 1991 106.5% 106.5% 100.0% 93.5% 74.9% 30.3% −39.4% 1992 116.7% 116.7% 100.0% 92.2% 71.6% 25.1% −45.3% 1993 130.2% 130.2% 100.0% 92.0% 69.7% 21.1% −55.5% 1994 138.9% 138.9% 100.0% 92.4% 68.3% 16.8% −62.9% 1995 142.2% 142.2% 100.0% 92.4% 66.3% 16.4% −66.4% 1996 141.0% 141.0% 100.0% 93.7% 67.7% 18.3% −62.7% 1997 136.1% 143.4% 100.0% 92.1% 69.0% 22.9% −58.5% 1998 144.8% 153.0% 100.0% 90.9% 66.1% 17.3% −62.6%

図表 8 10 生涯純負担の推移:経済成長率 2%,利子率 3%

将来世代

(92年推計)(97年推計)将来世代 29歳 30 39歳 40 49歳 50 59歳 60歳 1990 87,679.9 87,679.9 82,122.8 68,385.3 47,508.0 13,976.5 −27,525.5 1991 91,241.6 91,241.6 83,816.8 69,644.1 48,486.2 14,103.1 −29,398.8 1992 94,711.8 94,711.8 80,476.6 65,742.5 43,825.4 9,345.1 −33,067.1

1993 94,272.3 94,272.3 72,639.4 58,753.9 37,542.9 4,658.0 −37,422.0 1994 91,055.1 91,055.1 66,209.2 53,386.4 32,679.5 787.8 −39,332.2 1995 95,411.3 95,411.3 68,087.3 54,722.8 32,218.7 72.4 −43,089.3 1996 96,203.6 96,203.6 69,689.6 56,878.6 34,117.0 1,765.4 −41,112.5 1997 95,206.7 103,193.6 71,860.8 58,090.4 36,577.8 5,277.9 −39,114.9 1998 94,469.3 102,910.0 67,901.3 53,944.6 32,441.1 1,157.5 −40,313.9 単位:千円,一世帯当たり(年間)

図表 8 11 生涯純負担の推移(20 歳代で基準化):経済成長率 2%,利子率 3%

将来世代

(92年推計)(97年推計)将来世代 29歳 30 39歳 40 49歳 50 59歳 60歳 1990 106.8% 106.8% 100.0% 83.3% 57.8% 17.0% −33.5% 1991 108.9% 108.9% 100.0% 83.1% 57.8% 16.8% −35.1% 1992 117.7% 117.7% 100.0% 81.7% 54.5% 11.6% −41.1%

1993 129.8% 129.8% 100.0% 80.9% 51.7% 6.4% −51.5%

1994 137.5% 137.5% 100.0% 80.6% 49.4% 1.2% −59.4%

1995 140.1% 140.1% 100.0% 80.4% 47.3% 0.1% −63.3%

1996 138.0% 138.0% 100.0% 81.6% 49.0% 2.5% −59.0%

1997 132.5% 143.6% 100.0% 80.8% 50.9% 7.3% −54.4%

(19)

補論 2

推計の諸前提

世代会計を行う際の諸前提は以下のとおりである. ⑴ 世代区分について

「家計調査」のデータの制約から,現存世代の世代区分は,29 歳以下, 30 39 歳,40 49 歳,50 59 歳,60 歳以上,という 5 段階とした.また人々 は 79 歳まで生き,80 歳で確実に死亡する前提で推計する.また,60 歳から 79 歳までは同じ額の負担と受益があると仮定した.

⑵ 現存世代の 1 世帯当たり負担の算出

a.「国民経済計算(SNA)」の「制度部門別所得支出勘定(一般政府)」に よる政府の受払額を,「家計調査」および「全国消費実態調査」の「勤労 者世帯の世帯主の年齢階級別収支」を用いて,各世代別に按分.さらに 「国勢調査」の世帯数に基づき年齢階級別 1 世帯当たり受益・支払い額を

推計.

b.上記の a で算出した現在世代の世代別 1 世帯当たり受益・支払い額に, 一定の経済成長率と利子率を仮定し,将来の受益・支払いの割引現在価値 を算出.

⑶ 将来の政府支出の算出

現在の年齢階級別 1 世帯当たりの受益・支払い額,厚生省の将来人口推計 (中位人口推計)から推計した年齢別世帯数,一定の経済成長率を基に,将

来の政府収支を推計.仮定した利子率により割引現在価値を算出. ⑷ 政府の純資産

「国民経済計算」の「貸借対照表勘定(一般政府)」における「金融資産−

負債」を使用. ⑸ 将来世代の負担

上述の⑶で算出した政府の赤字の割引現在価値と⑷の政府純資産の合計を, 将来世代への追加的負担額ととらえる.

⑹ 世帯データ

(20)

年齢階級ごとに把握できるサンプルは勤労者世帯に限られている.そのため, 勤労者世帯のデータを平均的な世帯のデータと見なして推計を行った.

補論 3

具体的な推計方法

具体的な推計方法は以下のとおりである.また[ ]内は利用統計を示す. ⑴ 現存各世代の現在における受益・支払いの確定

①政府の受け払いの確定

a.政府の受け取り・支払いを要約[SNA,一般政府の所得・支出勘定]. Ⅰ.政府の受け取りを,間接税,直接税(法人,家計),社会保障負担,

その他に整理.

Ⅱ.政府の支払いを,最終消費支出,補助金他(補助金,社会扶助金, 対民間非営利団体への経常移転),社会保障給付,その他,貯蓄に整 理.

b.政府消費の内訳を,教育費とその他に分類[SNA,一般政府の目的別 支出].

教育費の数値については年度ベースの数値しかないため,暦年と読み 替えて使用.

c.社会保障給付を,年金給付とその他給付(医療給付,その他)に分類 [SNA,一般政府から家計への移転の明細表].

年金給付額の数値も,年度ベースの数値しかないため,暦年と読み替 えて使用.

d.社会保障負担については,家計の社会保険料の内訳の比率を用いて, 公的年金保険料とその他に分類[全国消費実態調査].

e.勤労者世帯の租税負担額を修正[家計調査].

高齢者の場合,勤労者世帯の割合が低く,これを全世帯の平均的デー タと見なすととくに租税負担額については過大に推計される可能性が高 いため,「家計調査」の租税負担については,統計表の数値に(勤労世 帯数/全世帯数)をかけて修正.

(21)

布に比べて高齢者の世帯数が過小となる.この世帯数分布のバイアスを 軽減するため.「国勢調査」の年齢階級別世帯分布により,「家計調査」 のサンプル世帯数を割り振った.

②各世代への按分

a.間接税は,世代別の消費支出額で按分[家計調査]. b.家計直接税は,世代別租税負担額で按分[家計調査].

c.法人直接税は,最終的には賃金・配当・製品価格等を通じて,すべて 個人に転嫁されていると考え,以下の方法で個人部門に帰属される. Ⅰ.2 分の 1 は供給側の要素所得に転嫁されると仮定.

Ⅱ.2 分の 1 は需要側の製品価格に転嫁されると仮定.

Ⅰのうち 65%は賃金転嫁分として家計の雇用者所得で按分[家計調 査].35%は資本所得転嫁分として家計の保有金融資産割合で按分 [全国消費実態調査].

Ⅱについては家計の消費支出額で按分[家計調査].

d.社会保障負担は,家計の社会保険料負担により按分[家計調査]. e.補助金等(補助金,社会扶助金,対家計民間非営利団体への経常移転)

は,各世代の世帯数に加重平均して按分「国税調査」.

f.社会保障給付は,家計の社会保障給付により按分[家計調査]. うち年金については,家計の年金給付額で按分[全国消費実態調査]. 差引計算によりその他の社会保障給付を算出.

⑵ 現存世代の将来負担

⑴で求めた世代別 1 世帯当たりの受益・支払い構造が続くものとして現存 世代,将来世代の 1 世帯当たり将来負担を算出する.

⑶ 政府の将来のキャッシュフローの推計 ①将来世帯の推計

a.2100 年以降の世代別人口数は定常になるものとする[日本の将来推計 人口].

b.「国勢調査」の年齢階級別世帯数構成比率(年齢階級別世帯数/当該 国勢調査年齢人口)が続くと仮定し,各世代別に人口数から世帯数を算 出.

(22)

a.投資的支出額の推計[SNA,主要系列表 1].

公的総資本形成の支出額を基準に,その後の世帯数に比例して増減する (政府投資必要額は 1 人当たり均等)と仮定し,一定の経済成長率を掛

けて算出. b.政府支出の推計.

推計された将来世帯数と現在の 20 歳代から 60 79 歳にかけての受益 プロフィールに従い,政府消費支出,補助金等,社会保障支出,政府投 資の総計を計算し.一定の経済成長率を掛けて算出.

c.政府の将来収入の推計.

推計された将来世帯数,現在の 20 歳代から 60 79 歳にかけての政府 に対する租税支払いプロフィールに従い,直接・間接税収入,社会保障 関連収入を計算し.一定の経済成長率を掛けて算出.

d.a c で求めた「収入−支出」により将来キャッシュフローを算出し,

一定の利子率より割引現在価値を算出.

③政府純資産の計算[SNA,貸借対照表勘定(一般政府)].

一般政府の「金融資産−負債」を政府純資産とした.

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図表 8 9 生涯純負担の推移(20 歳代で基準化):経済成長率 2%,利子率 5% 将来世代 (92年推計) (97年推計)将来世代 29歳 30 39歳 40 49歳 50 59歳 60歳 1990 104.2% 104.2% 100.0% 93.7% 74.7% 30.2% − 37.8% 1991 106.5% 106.5% 100.0% 93.5% 74.9% 30.3% − 39.4% 1992 116.7% 116.7% 100.0% 92.2% 71.6% 25.1% − 45.3% 199

参照

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