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土地税制と地価の変動

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土地税制と地価の変動

山崎福寿

要 旨

本稿では,地価バブルの検証作業についての議論を批判的に紹介したうえ で,固定資産税と土地譲渡所得税が地価の水準およびその変動にどのような 影響を及ぼすかに焦点を当てて,理論的かつ実証的に分析する.

固定資産税は地価の水準を低下させるとともに,地価の変動を低下させる 結果,地価の安定化に貢献する効果をもっていることが明らかになった.し かし,日本では事業用の固定資産税を除いた実効税率はきわめて低いために, これらの効果に大きな期待はできない.

第 2 に,土地譲渡所得税はその凍結効果のために,かえって地価を高める とともに,地価の変動を増幅する.現状では,地価の変動は土地譲渡所得税 が存在しない場合よりも,およそ 1.56 倍大きくなっている.また,買い換 え特例は,この土地譲渡所得税の効果を緩和する機能をもっている.

(2)

が明らかになった.

しかし,70 年代になると,このような売却インセンティブが失われる. とりわけ,75 年に農地に導入された長期営農継続農地制度は,農地の供給 価格に著しい影響を及ぼした.この制度は後に生産緑地制度となって継承さ れていくが,実質的に市街化区域内農地の相続税負担をゼロにした.その結 果,農地保有のメリットは飛躍的に上昇し,農地には顕著な売却阻害効果が 観察された.

このようなシミュレーション結果から,とくに,70 年代以降の地価の上 昇に対して,税制改正で所有者の負担を軽減するという政府の反応は,地価 の上昇や下落に対して無視できない影響を及ぼすと同時に,地価を不安定化 させる大きな原因の 1 つであると結論することができる.

(3)

1

はじめに

日本では,1980 年代の後半から 90 年代の初期にかけて地価の急激な上昇 が生じた.これは地価バブルと呼ばれているが,この時期の地価上昇が本当 にバブルであったかどうかについての議論は依然として,決着がついている とはいいがたい.その原因は第 1 に,地代や地価についての時系列データや 人々の期待についてのデータが十分に得られない点にある.第 2 に,従来の 研究が税制等の影響を十分に考慮していない点にある.

本稿では,まず第 2 節で従来の研究を概観することによって,地価バブル の検証がどのように進められているかを紹介しよう.従来の議論は定性的な 議論であり,相続税や土地譲渡所得税が,地価をどれだけ上昇させるか,あ るいは未実現のキャピタルゲイン税がどれだけ地価を下落させるかというこ とについて,定量的な観点から,これまで十分に分析されてこなかった.

また,これらの税制が地価の変動に対してどのような影響を及ぼすかにつ いてもこれまで議論されてこなかった.将来にわたる期待の変化が,地価に 影響を及ぼすときに,はたして土地税制は地価を不安定化させる要因となる のであろうか.

第 3 節では,現行の税率を前提にしたうえで,固定資産税や譲渡所得税の 凍結効果がどの程度発揮されているか,さらにそれらがどの程度地価の分散 (変動)に影響を及ぼすかについて理論的に検討してみよう.

ところで,固定資産税の税率は,商業用の不動産を除けば,土地譲渡所得 税や相続税等に比べると,無視できるほど低い.したがって,相続税と土地 譲渡所得税が土地価格にどのような影響を及ぼしているかを検証することの 方がむしろ重要であると思われる.

これまでにも,土地譲渡所得税や相続税が,土地利用や地価にどのような

(4)

地所有者の供給価格を求めるには,相続税制と土地譲渡所得税制を同時に考 慮しなければならない.なぜなら,大地主の典型である農家は,流動性制約 等の結果,相続税を支払うために,土地を売却するという行動がしばしば観 察され,その際に,土地譲渡所得税が課税されるからである.

第 4 節では,浅田・西村・山崎[2002]の分析を最新年次まで拡張して,譲 渡所得税制および相続税制のもとで,東京都の市街化区域に大規模な土地を 保有する農家と,比較的大きな宅地を保有する宅地需要者の供給価格が,市 場価格の何倍になっているかを計算してみよう.このような分析を通じて, 土地税制には地価を不安定化するメカニズムが潜んでいることを明らかにす るとともに,そうした不安定化作用を取り除くために望ましい税制のあり方 について議論したい.

2

地価バブルの検証

1980 年代の後半に生じた地価や株価の急激な上昇とその後の急速な下落 は「バブル」の発生と崩壊を多くの人々に印象づけた.バブルとは厳密には, 投機的バブルと呼ばれ,マーケット・ファンダメンタルズ(以下,MF と略 す)と区別されている.MF とは,市場の参加者が長期的な合理性を維持し 続けるときに得られる資産の価格であり,株式であれば株価の MF は,株 式を無限に保有するときに得られる価値,すなわち将来配当の割引現在価値 に等しい.同様に,地価の MF は将来地代の割引現在価値に等しい.

2.1 マーケット・ファンダメンタルズとバブル

いま,土地の MF を求めてみよう.今期の地価と地代,そして将来の予

想地価の間には次の関係が成立する.左辺は今期土地をPで売却して利子

rの金融資産で運用するときの期末価値である.右辺は土地を保有し続け

るときの期末価値(地代Rと来期の地価Pの合計)である.均衡では両

者は等しくなければならない.

(5)

(1 +r)P=R+P (2.1)

来期の地価についても同様の式が成立するから,地代の成長率をgとして

これを逐次代入すると,(2.2)式が得られる.(2.2)式は,いっさいの土地

税制が存在しない場合の地価P,すなわち MF の決定式である.よく知ら

れているように,地価の MF は地代の割引現在価値に等しくなる.このと

き,割引率は利子率rから地代(地価)の成長率gを差し引いたものに等し

くなる.

P=

R

rg (2.2)

現実の地価が MF と乖離するとき,バブルが存在するという.したがっ てバブルが本当に存在しているか否かを検証するためには,MF を計算に よって求めたうえで,現実の地価の値と比較すればよい.

しかし MF を求める際に次のような問題が生じる.それは,土地の所有

者が予想する将来の地代と,それを現在価値に割り引く際の割引率(rg

をどのように想定するかという問題である.たとえば,地代を 100,割引率 を 5%とすると,MF=100/0.05=2000 となる.ここで割引率の想定を 4%

に変更すると,MF=100/0.04=2500 に変化する.このように,1%の割引

率の変更が 25%もの MF の大幅な変化をもたらす.したがって,求められ た MF の水準は,地代に対する想定だけでなく,割引率をどの水準に想定 するかに大きく依存する.

いま述べたように,バブルは現実の地価と MF の差として定義される結 果,バブルが存在するか否かは,MF の水準を決定する要因,すなわち地代 や割引率の水準をどのような値に想定するかということに決定的に依存して いる.この意味で,80 年代の後半に生じた地価の急激な上昇を「バブル」 と認定するのは,非常にデリケートな問題を含んでいるといえる.

(6)

地価上昇のかなりの部分を説明しているということもできる.

もちろん,このような議論に対しては,「最近では金利が低下する中で資 産価格が下落しているため,資産価格の中にバブルが含まれていたことが誰 の目にも明らかになった(資産価値がファンダメンタルズで決まっているな ら,金利低下で上昇するはずである)」(伊藤・野口[1992]p. ii)という反論が 存在する.しかし,その後の経過を見ればわかるように,オフィスの賃料や 家賃は下落しており,将来の賃料の上昇率も下方に修正されたと考えれば,

金利の低下によって割引率(利子率−地代の成長率)が低下しているかどう

かは依然として議論の余地のある問題といえる.

日本の地価にバブルが含まれていることを最初に指摘したのは,野口 [1989]である.まず日本の各都市のオフィス用地と住宅用地について,将来 の賃貸料の上昇率をゼロと仮定したうえで,現在の賃貸料のデータから MF を計算し,理論地価を求めている.この理論地価と現実の地価を比較するこ とによって,都内の地価の約半分はバブルであると結論づけている.

また,理論地価を求めるのとは逆の計算を用いて,現実の地価や賃貸料を 維持するために必要な容積率を求めると,それが非現実的なまでに高くなる としている.したがって,仮に賃貸料が将来の容積率の上昇を見込んだもの であっても,容積率の増大は賃貸料の低下をもたらす結果,このように高い 地価は説明できないとしている.

しかし,将来の容積率の上昇以上の比率で賃貸料が低下しないならば,つ まりオフィス需要の価格弾力性が 1 以上であれば,単位土地面積当たりの賃 貸料収入は増加する結果,容積増大の限界費用が著しく上昇しないときに, 将来の容積率の上昇は地価を高めることになる.

この点に関連して,八田[1993]は将来の賃料の上昇率をゼロと仮定すると, MF を過小評価する結果,バブルの部分を過大評価することになると反論し ている.このように,将来の容積率の規制の緩和等によって生じる地代の上 昇率をどのように想定するかということが,バブルの存否を左右する決定的 な要因となる.

2.2 バブルの検証

(7)

での MF と現実の地価を等しいものと仮定して,MF の指数と現実の地価 指数を比較するという方法を用いている.その結果は,70 年以降のほとん どの期間で長期にわたってバブルが存在したと結論している.

西村[1990]は,1955 年から 1985 年にかけての地価の上昇と実質利子率と 実質地代の代理変数である実質国内総生産を比較したうえで,この期間の日 本の実質地価の動きはファンダメンタルズによって説明可能であるとしてい る.しかし,1985 1988 年までの地価上昇の特徴は,実質地代や実質利子率 の予想の大きな変化なしに起こっているとしている.この時期に,経済は低 成長状態にあり,1961 1971 年に至るような高い成長率は予想されていない. したがって,実質地代の予想に激的な修正が起こったとは考えにくいとして いる.つまり,1986 年以降の地価上昇はバブルによるものと結論づけてい る.

井出[1992]は,1956 年から 89 年までの日本の地価についてのマクロ・

データ(「全国市街地価格指数」日本不動産研究所)を用いて,恒常的にバブル

が存在したかどうかを検証した.恒常的なバブルが存在するかどうかを検証 する方法として,コーインテグレーション・テストを用いている.この方法 は,地価が MF で決定されるのであれば,地価を MF で説明した後の残差 (MF で説明できなかった部分)は定常的でなければならないというもので ある.MF の変数として,西村と同様に,地代の代理変数として実質 GNP, 実質利子率として全国銀行平均約定金利から GNP デフレータの変化率を引 いたものを用いている.

その結果,全期間にわたって恒常的に地価にバブルが発生したという証拠 は得られなかった.この点は経済白書の結論と対照的である.とりわけ,80 年代後半の地価の急激な上昇は,実質利子率の低下によってかなり説明でき るとしている.しかし,井出自身も指摘しているように,サンプル数が十分 でない点と,マイクロ・データを用いて,より精度の高い総計的検証が必要 であるように思われる.というのは,80 年代後半の地価急騰は主に 6 大都 市の都市部を中心に生じたものだからである.

(8)

している.

このように,1980 年代後半の地価の急激な上昇については,バブルであ るとする見方が支配的であるように思われるが,バブルの大きさがどの程度 であったかについては依然として議論は分かれているというのが現状である.

ところで,従来の議論では,必ずしも税制の効果が十分に考慮されてきた とはいいがたい.譲渡所得税や相続税といった税制の変更が地価に及ぼす影 響も無視することはできない.税制を十分に考慮したときに,80 年代後半 のバブルがどの程度のものであるかを検討するとともに,60 年代以降長期 にわたって,日本の地価にバブルが生じていたかどうかを検証する作業が残 されているように思われる.

そのような試みのひとつとして,Nishimura, [1999]や浅田ほか

[2002]がある.そこでは,相続税と土地譲渡所得税を考慮したうえで,日本 の地価に非定常な部分があるか否かを検証している.この点は第 4 節で詳細 に検討することにしよう.これらの税制を考慮すると,地価にバブルがあっ たとは結論できなくなる.

3

固定資産税と土地譲渡所得税が地価の変動に及ぼす影響

この節では,これまでの章では議論してこなかった税制である固定資産税 と土地譲渡所得税が,地価や土地利用にどのような影響を及ぼすかについて 説明しよう2)

3.1 固定資産税と地価

まず,土地保有税(固定資産税)の効果から始めよう.よく知られている

ように,固定資産税が存在する場合には,税率τのもとで,地価の決定式

は次式のように修正される.

P= R

rg+τ (2.3)

(9)

もし,ここで転用費用等が存在しないとすると,土地利用ごとの地価が等し くなる.したがって,土地利用ごとに利子率や成長率,税率等が異ならない かぎり,各土地利用の地代は均等化する.土地保有税は一般的な条件のもと で中立的であり,土地利用に影響を及ぼすことはない.これがリカードの土 地保有税についての中立性命題である.

現実には,1990 年まで長期営農継続農地制度が存在し,現在は生産緑地 制度によって代替されたが,これらの制度によって,市街化区域内の農地は 固定資産税と相続税の優遇措置を受けることができる.したがって,宅地に 比べて農地に対する土地保有税率が著しく低い場合には,税引き後の宅地の 地代曲線の方が農業地代曲線よりも大きく下方にシフトする結果,農地に対 する需要が過大になり,宅地の供給は抑制されることになる.この意味で, 効率的な土地利用を実現するためには,どのような土地利用についても税率 を同じにすべきである.これが農地の宅地並み課税の主旨である.

3.2 土地譲渡所得税と地価

次に,土地譲渡所得税制のもとでは,地価の決定式はどのように修正され

るだろうか.土地譲渡所得税率をτとすると,均衡では次式が成立しなけ

ればならない.

(1 +r)Pτ(PP)=R+P−τ(P−P) (2.4)

この土地保有者はn期前にPの地価で土地を取得したものとする.

(2.4)式の左辺は,今期の地価Pで土地を売却して,その代金を利子率r

の預金で運用した場合の今期末の価値である.右辺は,土地を今期は売却せ

ずに,来期Pの地価で売却する場合の今期末の資産価値である.均衡で

は,両者の価値は等しくなければならない.もし左辺の方が大きければ,土

地を今期売却した方が有利である.その結果,土地は売却されPは下落す

る.逆に,右辺の方が大きい場合には逆のことが生じる.このような調整が 生じることによって,均衡では両辺は均等化する.

来期と来来期の地価についても同様の式が成立するから,地代の成長率を

gとしてこれを逐次代入すると,(2.5)式が得られる.これは譲渡所得税が

(10)

P=

RτP

(1−τ) (rg) (2.5)

土地譲渡所得税のもとでは,土地の売却を遅らせる(凍結効果)ことに よって納税利子分を節約することが可能である.この延納利益のために,割 引率は譲渡所得税率分だけ小さくなっている.(2.2)式と(2.5)式を比べ れば明らかなように,(2.5)式の分母の方が,税率分だけ小さくなっている.

分子については,取得価格の項があるために,(2.5)式の方が(2.2)式 よりも小さくなっている.しかし,農地や都心に存在する古くから所有され ている土地については,この取得価格はきわめて小さいと考えられる.した がって,この取得価格の項は無視してもよいだろう.すると,土地譲渡所得 税は,凍結効果によって地価を上昇させる効果をもっていることになる.

3.3 税率の変化と譲渡益の変化

さきに仮定したように,税率の変更にともなって地代が変化しなければ3)

(2.5)式からわかるのは,税引き後の譲渡所得が税率の変更にともなって変 化しないことである.すなわち (1−τ)Pすなわち税引き後の譲渡所得は,

地代Rが変化しなければいっさい変化しない.つまり土地を売却する投資

家にとって,税率の変化は無差別である.税率τが下がれば,土地の価格も

同じ比率だけ低下する.

他方,税率が上昇するときには,同じ率で地価が上昇する結果,このよう なことが生じる.税率の変更にともなって,土地の売却者は利益を受けるこ とも,損失を被ることもない.

土地譲渡所得税制については,付録 1 と付表 1 を参照されたい.付表 1 か らすぐわかるのは,第 1 に,政府は土地譲渡所得税制を頻繁に変更している 点である.第 2 に,地価が上昇すると,総合課税化や税率の上昇を図ってき たのに対し,地価が鎮静化すると,分離課税制度を導入し,税率を低下させ た点である.こうした政府の対応を評価すると,土地譲渡所得税制の改正は, 地価の安定化とはまったく逆の手段が利用されてきたといえる.この点は,

(11)

同じ土地税制である固定資産税とまったく対照的である.

なぜ,このように土地譲渡所得税制は頻繁に変更されてきたのであろうか. この理由は,第 1 に,譲渡所得税の変更には政治的な反対が起こらなかった からである.いま述べたように,税率の変更は土地所有者の利益に長期的に は影響を及ぼさない.したがって,税率の変化は大きな政治的反対をもたら さなかったのである.この点は,土地の相続税評価の引き上げや,固定資産 税評価引き上げに強い抵抗がともなうことと際立った対照を示している.

第 2 に,課税当局が土地投機のメカニズムや土地税制の効果について十分 に理解していなかったからであると考えられる.そのために地価の上昇率が 大幅になると,地価の上昇を抑制するという目的のために,譲渡所得税率を 高め,地価が安定し土地の取引量が減ると,凍結効果を抑制するという目的 のために,税率を下げるということが繰り返されてきた.

もちろん,このような税制の変更は,地価をいっそう不安定化させた可能 性が高い.なぜなら,土地譲渡所得税率の上昇は,凍結効果を大きくする結 果,地価を上昇させる.逆に,税率の低下は地価を低下させる.その結果, 土地投機を抑制するために意図された税率の上昇は,その意図に反して,地 価をいっそう上昇させるという効果をもっている.また地価が低下している 局面で税率を低下させると,地価の低下にいっそうの拍車をかけることにな る.

3.4 固定資産税と地価の変動

将来の予想はさまざまな理由から大きく変動する.期待が期待を生み,地 価や株価は大きく変動することがしばしば観察される.ここでは,地代や将 来地価の予想に確率的変動を導入することによって,これまで得られた結果 を用いて,地価がどの程度変動するかについて各税制の下で考えてみよう. いま地代Rは期待値R と平均ゼロ,分散σの確率的撹乱項uの和で定

義できるものとしよう.すなわち,

R=R+u u~ (0,σ) (2.6)

である.

(12)

気の予想が支配的なときや弱気の予想によって市場が冷え込んでしまう場合 もある.ここで利子率や成長率は変化しないものと仮定する.(2.2)式より, 税制が存在しない場合の地価の分散は

Var(P) = σ

(rg) (2.7)

である.また固定資産税の存在を前提にすると,(2.3)式より地価の分散は

Var(P) = σ

(rg+τ) (2.8)

となる.これより,固定資産税は地価の安定化に貢献することがわかる.し かし,日本の固定資産の実効税率はきわめて低い.山崎・浅田[2008]の計算 によれば,近年上昇しているが,その率は 0.17%という水準である.この 数値を見れば,日本では,固定資産税が地価の変動に及ぼす影響は無視でき るほど小さいといえる.いい換えると,他の国に比較して,日本では固定資

産税に地価の安定化に果たす役割を期待することはできないことになる4)

3.5 土地譲渡所得税と地価の変動

同様に,土地譲渡所得税のもとでの地価の変動は,取得価格を無視できる ほど低いものと仮定すると,(2.5)式より

Var(P) = σ

(1−τ) (

rg) (2.9)

で表される.(2.7)式と(2.9)式の比を求めると

Var(P) Var(P)

= 1

(1−τ)

> 1 (2.10)

(13)

が得られる.

このことは,土地譲渡所得税制は地価の変動を増幅することを意味してい る.いまτ=0.20 とすると,土地譲渡所得税は税制が存在しない場合より

も,地価の変動を約 1.56 倍大きくしている.この原因は凍結効果に求める ことができる.すでに述べたように,地価の水準が高いときには,延納利益 も大きくなる結果,土地需要も大きくなる.これはいっそう地価を上昇させ ることになる.逆に地価が低下するときには延納利益も低下する結果,土地 需要は減少する.これは地価をいっそう低下させることになる.この意味で 土地譲渡所得税は地価の変動を大きくし,不安定化させる原因となっている.

3.6 買い換え特例の効果

1980 年代のバブルといわれている時期には,買い換え特例が存在したた めに,土地の保有者は都心の地価の高くなった土地を売って,郊外に地価の 低い土地を求めることができた.そのために都心の地価上昇が郊外や地方に 伝播していった.そのような理由から,買い換え特例に対する批判が生じ, その後廃止されることになった.

買い換え特例は,売却した土地の額以上の土地を同じ時点で購入する場合 には,土地譲渡所得税の延納を次の売却時点まで認める制度である.このも とでは,都心の地価上昇から生じたキャピタルゲインに対して譲渡税を支払 わずに,郊外の土地を取得できる.これはさきの意味で地価の上昇を郊外に 波及させる効果をもっている.

しかし,買い換え特例のもとでは,地価の上昇が生じた地域での土地が売 却されることによって,土地の供給量が増える結果,地価の上昇を抑制する ことができる.買い換え特例があると,凍結効果は生じないので,土地の供 給を抑制しない.他方,これによって地価上昇率の低い郊外や地方の地価を 高めることになる.したがって,買い換え特例は,地価の時間的変動と地域 的な変動を緩和する効果をもっている.

(14)

に対して,地価が低下するときには延納利益が減る結果,土地の供給が増え て地価がいっそう低下する可能性がある.土地譲渡所得税のもっている凍結 効果を防ぐためには,このような買い換え特例が必要である.

4

相続税と土地譲渡所得税が地価に及ぼす影響

日本では,固定資産税の税率は,土地譲渡所得税や相続税等に比べると, 無視できるほど低い.したがって,相続税と土地譲渡所得税に焦点を当てる ことによって,それらが土地価格にどのような影響を及ぼしているかを検証 することは重要である.

これまでにも,土地譲渡所得税や相続税が,土地利用や地価にどのような

影響を及ぼすかについて分析したものは,いくつか存在する5).しかし,土

地所有者の供給価格を求めるには,相続税制と土地譲渡所得税制を同時に考 慮しなければならない.なぜなら,相続税を支払うために,土地を売却する という行動がしばしば観察され,そのとき譲渡所得税が課税されるからであ る.

このような観点から,土地譲渡所得税と相続税の存在を前提にして,それ らが地価に及ぼす効果を分析したものは,金本[1994]である.これは,現在 の税制を前提にして,大規模な農地の所有者と宅地の所有者が,土地を相続 してゆくときに,土地所有者の供給価格が市場価格の何倍になっているかを 単純な計算から求めている.

Nishimura [1999]と浅田ほか[2002]は,金本の分析を,過去の税制 にさかのぼり,当時の税制のもとで,異なる土地面積を保有する代表的な土 地所有者が,どのような供給価格を有していたかを時系列的に調べ,それら が時間的にどのように推移してきたかについて拡張したものである.そのう えで,それらの変化がどのような制度変更に依存しているかについて分析し ている.

以下では,浅田ほか[2002]の分析を最新年次まで拡張して,譲渡所得税制 および相続税制のもとで,東京都の市街化区域に大規模な土地を保有する農

(15)

家と比較的大きな宅地を保有する宅地需要者の供給価格が,市場価格の何倍 になっているかを計算してみよう.すなわち,このような土地所有者に対し て市場価格の何倍の価格が提示されれば,土地を売却する意思をもつように なるかについて,税制の変化する年ごとに調べてみよう.これによって,過 去の税制の変化が,土地所有者の供給価格にどのような影響を及ぼしたかを トレースすることができる.

4.1 相続税制と土地譲渡所得税

土地と金融資産の選択において,土地譲渡所得税と相続税はきわめて対照 的である.日本では,金融資産を譲渡・売却する場合には,ほとんど税金が かからない仕組みになっている.これに対して,土地の譲渡には相対的に高 率の所得税が課されている.したがって,資産を転売しようとする人々に とって,土地は必ずしも有利な資産ではない.

これに対して,土地の相続税評価は金融資産よりも低く評価される結果, 金融資産よりも,土地で相続する方が相続税を節約することができる.この 意味で,相続税は土地の需要に対して強い誘因を与えている.土地譲渡所得 税が,土地の取得に対して負の影響を及ぼすのに対して,相続税は土地の取

得に対して正の影響を及ぼす.この意味で,両者は対照的である6).相続税

制が歴史的にどのような変遷をとげてきたかについては,付録 2 とその付表 2 を参照されたい.

4.2 土地の相続税評価

土地の相続税については,まず相続税課税に当たっての土地の評価額が問 題になる.土地の相続税評価方法は,市街地の宅地については路線価方式が 1956 年から採用されている.路線価は一連の宅地が面している標準的な路 線の単価を基準にして,各宅地の事情を加味して算出される.実際には,市 街化宅地については公示価格の 7 割程度といわれている.公示価格自体が時

(16)

価の 8 割程度といわれるので,結局,路線価は時価の 6 割程度ということに なる.ただし,92 年度からは,路線価は公示価格の 8 割に引き上げられた. 他方,農地やその他の宅地は,固定資産税評価額を基礎とした倍率方式に よって評価されている7)

なお,200m2以下の事業用宅地については 60%(1992 年度から 70%),

居住用宅地については 50%(92 年度から 60%)を相続税の課税評価額から 控除して,負担の軽減を図っている.現在では,土地の種類により 80%な いし,50%の減額措置がある.これもまた,金融資産の保有よりも,零細な 土地を事業用または居住用として保有することを有利にしている.

農地の相続については,1975 年に市街化区域内の農地を対象に長期営農 継続農地制度が導入され,農地を相続する際の納税額は,無視できるほど低 い額に軽減された.現在では,生産緑地制度にとって代わったが,依然とし て生産緑地を相続する際の相続税は,きわめて低くなっている.

実際の相続税額の計算は複雑なので,付録 3 としてまとめておいたので, そちらを参照されたい.

4.3 基本仮定

さて,東京都において大規模な土地を所有する家計の供給価格を求めるに は,いくつかの基本的仮定を置かなくてはならない.とりわけ,以下に述べ る相続人や相続資産,そして期待形成についての仮定は供給価格を求める際 に,決定的な役割を果たす.

相続人の仮定

相続税制を考えるに当たっては,家族構成や相続の過程を考えることが必 要になってくる.ここで考えられる家族は,父と母と 2 人の子供で構成され

るものとしよう.いま 25 年ごとに相続が生じるものとしよう8).父が死亡

し,その配偶者である母とその子供で遺産を相続したのちに,同じ年にその 母親が死亡し,母の遺産が子供に相続されるものと仮定する.

7) 林ほか[1989]参照.

(17)

さらに,長子がすべての財産を相続するものと仮定する.つまり,第 2 子 は法定相続分の権利を放棄するものと仮定する.したがって,この父と母の 2 度の相続によって,すべての財産が第 1 子に継承される.第 1 子がすべて の財産を継承した後,さらに 25 年後に,この第 1 子とその配偶者が死亡し,

孫の代がその遺産を相続するものと仮定する9)

相続資産の仮定

この家計は,当初x(>100)m2の土地以外のいっさいの金融資産は保有

していないものと仮定する.また銀行からの借入(負債)もないものとする10)

そのうえで,50 年後の総資産価値を調べてみよう.50 年後に孫の世代は, すべての土地を売却するものと仮定する.

この前提のもとに,現在の世代(父)の家計が,土地を売却するかどうか

を考えているものとしよう.ここでの限界的な土地の売却面積は,100m2

仮定する.つまりxm2の土地保有分のうち,初期に 100m2の土地を売却す

るためには,どのくらいの価格が提示されなければならないかというのが, ここでの分析課題である.

それを調べるために,次のように,初期に 100m2の土地を売却するケー

スと売却しないケースの 2 つのケースを想定する.いまいっさいの土地を売 却せずに,50 年にわたって,各世代が土地を相続する場合を考えてみよう. 25 年後に第 1 回目の相続が発生するが,次の世代は相続税を支払うために 土地を売却するものとする.

すでに仮定したように,負債の可能性を排除したために,家計は相続税の 支払いのために土地を売却しなければならない.もちろん,この土地の売却 には譲渡所得税が課税される.したがって,課税後の土地の売却収入で相続

9) 多くの農家の長男は農業継続の意思をもっており,農地のほとんどを相続するのが一般的であ る.非農家については限定的であるが,ほとんどの長男が家屋と土地を相続するのが一般的であ る.

(18)

税がちょうど支払われるように,土地を売却する必要がある.このとき土地 は無限に分割可能なものと仮定する.

さらに 25 年後には,もう 1 度の相続が発生する.そのときに孫の世代は, すべての土地を売却して,譲渡所得税と相続税を支払うものとする.この ポートフォリオの 50 年後の税引き後価値を割り引いて求めた現在価値を Wとしよう.

もう 1 つのポートフォリオでは,初期に限界的な土地 100m2を売却し,

譲渡所得税引き後の収入を金融資産で運用するものとする.もちろん,その 金融資産には利子が発生する.25 年後に 1 回目の相続がやってくる.その とき,家計は,まず金融資産を売却することによって,相続税を支払うもの とする.もしそれで相続税が支払いきれない場合には,土地を売却し,土地 譲渡所得税引き後の売却収入で残りの相続税を支払うものとする.さらに 25 年後の第 2 回目の相続後に,すべての土地と金融資産を売却して,土地 譲渡所得税と相続税を支払う.その税引き後の価値を 50 年間の割引率で現

在価値化したものをWと定義する.

地代についての仮定

現行の生産緑地制度および過去の長期営農制度のもとで,相続税が免除さ れるためには,農業を営んでいることが確認されなければならないが,実際 には,そこでの農業所得は低く,農業地代はきわめて低い水準にある.以下

では,農業地代はゼロであると仮定する11)

同じく宅地の場合でも,現行の借地借家法のもとでは,土地を賃貸するこ とは非常に不利である.したがって,土地の保有者は土地を賃貸せずに,土 地を遊休化させることが合理的である.この意味で宅地の地代もきわめて低 い水準にあると考えられる.以下では,宅地の地代もゼロであると考え る12)

しかし,この仮定には注意が必要である.Kanemoto[1996]や Yamazaki [1996]で証明されたように,地代がゼロのとき,土地譲渡所得税は凍結効果

11) 農林水産省『生産農業所得統計』各年を参照.

(19)

をもたない.したがって,以下の分析では,凍結効果を無視している13)

この意味で,ここでの議論は前節の分析と補完的な関係にある.

さらに,土地譲渡所得税が総合課税される時点では,税額を計算する際に 一般の所得についてのデータも必要である.宅地の保有者については東京都

勤労者世帯平均収入(総務庁『家計調査報告』),農家については東京都農家

農業所得(農林省『農業経営動向統計』)を得ているものと仮定する.

期待形成についての仮定

次に,家計がどのような期待を形成するかについて述べておこう.どのよ うなポートフォリオを選択するかは,現在から 50 年間に土地の価格や金利, そして税制がどのように変化するかについての期待形成に依存している.以 下では,税制の影響に焦点を当てるために,他の変数の影響をコントロール しなければならない.つまり,価格の上昇率や利子率はなるべく中立的な影 響をもつように設定する.そのために,家計は,地価の上昇率は,過去 3 年

間の名目利子率の平均値に等しいものと期待していると仮定する14)

土地の地代(インカム・ゲイン)はゼロと仮定しているので,税制の影響 を除くと,金融資産の収益率と土地の期待上昇率は等しくなる.すでに述べ たように,これは税制の効果を見るための戦略的な仮定である.もちろん, 現実には,過去の地価の平均上昇率は名目利子率を大きく上回ってきた.し かし,これを前提にすると,地価の上昇率が高かったために,金融資産より も土地が有利であり,それが地価の上昇を招いたという結論が導かれる危険

性がある.したがって,利子率=地価上昇率という仮定は現実的ではないが,

同義反復に陥らないために,あえてこうした仮定を用いることにする15)

13) 凍結効果の実証研究は,Yamazaki and Idee[1997]を参照.

(20)

さらに,家計はポートフォリオを決める時点の譲渡所得税および相続税制 は 50 年間にわたって維持されるものと仮定する.すなわち,父の世代は, 限界的な 100m2を売却するかどうかを決める時点の税制が,今後 50 年間継

続されるものと予想する.

また,ブラケットクリーピング(地価の上昇による資産価値の増大が累進 課税率表にそって税率の増大をもたらすこと)を避けるために,各限界税率 の所得の幅も地価の上昇率と同じようにスライドしていくものと仮定する. つまり,税制にインフレ・インデクゼーションが施されているものと仮定す る.このように仮定をしなければ,50 年間という長期の地価上昇を考える と,相続財産価値が増大する結果,適用される税率は容易に相続税率の上限 に張り付いてしまう.

さらに,以下では固定資産税の影響は無視する.すでに指摘したように, 実際に山崎・浅田[2008]によれば,実効税率はきわめて低いために,この効 果は無視できるほど小さい.

宅地と農地の相続税評価

相続税における宅地の課税標準は,宅地価格の 6 割とする.農地について も,1975 年に導入された長期営農制度以前の農地の課税標準は農地価格の 6 割とする.しかし,75 年以後は,農地の相続税評価は,農家の相続人が農 業継続を表明すれば,当該土地の農業収入をもとに評価されるようになった. その結果,実質的に相続税は免除されるようになった.

4.5 土地所有者の節税額(供給価格)の推移

それでは,土地を限界的に売却しない場合のポートフォリオの現在価値で あるWと限界的に 100m2を当初に売却するケースの現在価値Wを求めて

みよう.ここで,追加的な 100m2の土地を売却する際の供給価格(1 m2

たり)と市場価格の差をQとしてみよう.

WとWの差は,当初に 100m2を売却して金融資産で一部を相続してい

(21)

く場合と,いっさい土地を売却しないですべて土地で相続していく場合の資

産価値の差である.この資産価値の差を,いま定義した変数Qによって示

してみよう.Qは限界的な土地に対して,市場価格に上積みしてどれだけの

金額を農家に補償すれば,農家が土地を売る気になるかという最低の金額と 定義される.すなわち次式が成立する.

W+ (1−t) (1−τ) (1−τ) (100Q) =W (2.11)

左辺と右辺が等しくなるときに,農家は限界的に土地を売却しても売却し なくても無差別になるはずである.τは 1 度目の相続税の限界税率である.

τは 50 年後の相続時の限界税率である.tは当初に 100m2を売却するとき の譲渡所得税の限界税率である.したがって,(1−t) (100Q) は限界的な 土地を売却した場合の土地譲渡価値であり,それを金融資産で運用して 2 度 の相続を経た後の税引き後の現在価値が,(2.11)式の左辺第 2 項である.

左辺は,限界的な 100m2を売却した場合に得られる 50 年後の総資産の現

在価値と,追加的にいくらの金額の土地を上乗せしたら農家が土地を売る気 になるかという金額の合計値を示している.右辺は,すでに明らかなように,

100m2を当初に売却しない場合の 50 年後に得られる総資産の現在価値であ

る.

このQを求めると,次式が得られる.

Q= W−W

(1−t) (1−τ) (1−τ)

(2.12)

Qの値がもし正であれば,これは供給価格が市場価格を上回る結果,売却阻

害効果が発生していることを意味する.逆にQがマイナスであれば,供給

価格が市場価格を下回ることになり,土地を売却するインセンティブが発生 していることを意味する.

いい換えると,この値Qに市場価格を加えると,土地所有者の供給価格

が得られる.したがって,Qを地価で割ると,市場価格に対する供給価格の

プレミアム率が求められる.以下では,この比すなわちQを地価で割った

比率を見ていくことにしよう.

(22)

の限界税率と相続財産に適用される限界税率τ,τを求める必要がある.

それらは実際に適用される税率から求めることができる.また,WとW

の計算のためには,当初に保有している土地面積Xと地価,そして地価上

昇率(利子率)さらに税率のデータが必要である.したがって,すでに述べ た仮定の下でWとWを計算することが可能である.

大規模農家の供給価格

まず,東京都内に 2,000 10,000m2の農地を保有する農家の節税額と市場

価格の比をそれぞれ求めてみよう16).図表 2 1 は,過去の税制のもとでの

節税額と市場価格の比を求めたものである.図表 2 2 は表の一部を図にした ものである.その結果は,非常に興味深いものがある.1950 年代から 60 年

代の後半にかけては,4,000m2以上の農地所有者については,プレミアム率

は驚くべきことに,負の値を示している.

その後,その値は次第に上昇し 90 年から 92 年にかけてピークに達し,そ の割増率は 8,000m2以上の農地所有者では,市場価格の約 11 倍以上にも

なっている.地価がかなりの程度下落した 98 年においてさえも,その値は 依然として 8,000m2で 5.43 倍,1,000m2で 5.56 倍という数字を示している.

2007 年時点では,その値はさらに低下し,10,000m2でも,3.43 倍である.

いい換えると,1968 年までは,4,000m2以上の農地を所有する農家に

とって,それは負の値を示しており,こうした農家が常に限界的な土地を市 場価格以下で売却するインセンティブをもっていたことを意味している.つ まり,供給価格は市場価格を下回っていたために,買い手のオファーする価 格が市場価格より低くても,この時期には土地は売却されたと考えられる. 実際に,この時期(50 60 年代)には,相続税制において農地は宅地とほ ぼ同じように評価されていた.その結果,当時の農家にはそれ以後の農家と 比較すると,相対的に重い相続税負担があったと考えられる.

同時に,譲渡所得税も総合課税の下で累進構造になっていた点に注意しな ければならない.当初に,土地を売却しなかった農家にとってみれば,金融 資産をもっていないために,25 年後の相続時点でより多く土地を売却しな

16) 東京都によれば,2,000 10,000m2の農地を保有する人の割合は,東京の区部において 60%に

(23)

2土

57

年次 2,000m2 4,000m2 8,000m2 10,000m2 農地地価

(千円/m2) 年次 2,000m2 4,000m2 8,000m2 10,000m2 (千円/m農地地価2)

1950 0.068 −0.012 −0.182 −0.404 0.45 1979 1.245 2.226 3.834 5.031 93.69 1951 0.183 −0.378 −0.493 −0.676 0.49 1980 1.149 1.943 3.209 4.121 128.01 1952 0.036 0.113 −0.067 −0.103 0.72 1981 1.847 3.050 5.100 6.698 147.71 1953 0.020 0.057 −0.336 −0.102 1.47 1982 2.421 3.595 7.661 7.771 150.66 1954 0.141 −0.472 −0.261 −0.371 1.45 1983 2.640 3.606 7.674 7.780 154.38 1955 0.036 −0.046 −0.072 −0.095 5.45 1984 2.678 4.055 7.754 7.857 156.45 1956 0.041 −0.007 −0.159 −0.273 4.54 1985 2.459 3.678 7.020 8.213 184.14 1957 0.022 0.006 −0.084 −0.154 4.82 1986 2.761 4.495 7.676 10.413 202.58 1958 0.106 −0.106 −0.143 −1.105 5.23 1987 2.385 3.848 8.769 8.853 264.05

1959 0.110 −0.097 −0.094 −0.176 5.68 1988 1.992 3.293 5.654 5.713 399.13 1960 0.100 0.024 −0.062 −0.125 7.97 1989 3.963 7.466 11.825 11.895 389.97 1961 0.087 −0.050 −0.202 −0.308 9.32 1990 4.100 6.828 9.155 12.357 365.10

(24)

ければならない.売却必要面積が増加するために,総合課税下の累進税制の 結果,当初に土地を売却した場合に比較すると,より多額の譲渡所得税を支 払わなければならない.

またそのためには,いっそう大きな土地を売却して,相続税支払いの資金 を調達しなければならない.その結果,当初に土地を売却した方が有利にな る.これがこの時期に供給価格を市場価格よりも低下させた理由である.く り返すと,その基本的な原因は土地譲渡所得税の累進構造にある.

1969 年に譲渡所得税が総合課税から分離課税に変更になり,それにより 税負担が大きく緩和された.これを反映して,供給価格はマイナスからプラ スの値に変化する.

割増率が急激に上昇するのは,1975 年である.75 年からは長期営農制度, 後の生産緑地制度が導入されることによって,農家の保有する農地保有分に ついては,実質的に相続税が免除されるようになった.この特例によって, 供給価格は急激に上昇する.10,000m2以下の農地保有者で 1974 年に 5

20%であった増額率は,1975 年には 99 406%にまで上昇する.農家にとっ ては,この制度のおかげで,相続財産としての農地の価値が飛躍的に高まっ た.農地を保有する限り,相続税が免除されるという特例は,このようにし

−2.0 0

50 100 150 200 250 300 350 400 450 500

0.0 2.0 4.0 6.0 8.0 10.0 12.0 14.0

2,000m2 4,000m2 10,000m2 農地地価

(対市場地価割増率) (地価:1,000円)

1950 55 60 65 70 75 80 85 90 95 2000 05(年)

図表 2 2 農地の対市場価格割増率

(25)

て農地の供給価格を著しく高めたのである.

もちろん,農地の価格が上がれば上がるほど,この値が大きくなることは 容易に理解されるであろう.農地の価格が上がれば,相続財産の価値が大き くなり,税率も上昇する.したがって,この特例により相続税を免除すると いう効果が大きくなるからである.

実際に,1975 年以降,供給価格のプレミアム率は着実に上昇し,92 年に は 2,000 10,000m2の農地所有者については,4 12 倍という高い値をつける

ことになる.この変化は,実際の地価の上昇を反映したものである. つまり,これは市場価格の 9 11 倍の価格を提示しなければ,農家は土地 を売ろうとしないことを意味している.地価の上昇は供給価格の上昇を通じ てさらに,地価を上昇させる効果をもっている.この意味で,これらの税制 は地価の変動を不安定化させる大きな要因であったと結論づけることができ る.

その後,1990 年代に入ると地価は急激な低下を見せることになり,これ を反映して農地の供給価格はより大きく低下し始める.しかしながら,93 年の税制改正によって,相続税を支払うために売却した土地の譲渡所得税は 免除されることになった.つまり譲渡所得から相続税額が控除されるように なり,相続税支払いのために土地を売却する場合には,土地譲渡所得税を支 払う必要がなくなった.

したがって,この改正は相続時点での土地の売却を有利にした.逆に,当 初に土地を売却するインセンティブを阻害した.その結果,供給価格の低下 は市場価格の低下ほど急激なものではなくなった.2003 年から,大規模農 家を中心に,さらにプレミアム率が低下するのは,同じ時期の税制改正に

よって,相続税の累進構造がよりフラット化するからである17)

図表 2 1 からすぐわかるように,保有する農地の規模が大きくなればなる ほど,プレミアム率の絶対値は大きくなる.これはまさに,75 年以降は相 続財産としてより大きな農地を保有することが有利であることを反映したも のである.逆に,規模が小さくなるにつれて,その有利さは低下する.いず れの所有規模の下でも,時系列的な変化は同じである.

(26)

4.6 宅地所有者の供給価格

次に,東京の郊外に 500 1,500m2の宅地を所有する家計を考えてみよ

う18).いままでと同じ想定のもとで,供給価格のプレミアム率を計算した

のが図表 2 3 である.ここからわかるように,税制は無視できない影響を宅 地の供給価格に及ぼしていることが明らかである.

しかし,その相対的な大きさは農地の供給価格よりもはるかに小さい. 1991 年のピークでさえ 1,000m2の宅地保有者で土地保有の節税額は,宅地

価格の約 41%という値である.700m2の宅地保有者のそれは約 54%,500m2

の宅地保有者のそれは約 69%となっている.したがって,宅地価格よりも この比率分の割増価格を提示されないかぎり,宅地の所有者も土地を売却す るインセンティブをもたなかった.

農地の場合と異なり,宅地の場合には跛行性が見られる.時系列的な変化 がシンクロナイズしていなかったり,ピークの時点が微妙に異なったりする のは,税制の非線形的な効果によるものと思われる.譲渡所得税の控除や相 続課税時の累進構造がこのような跛行性をもたらしていると考えられる.

したがって,そのために,宅地の場合には規模ごとにそれぞれ異なるプレ ミアム率が時間的にも観察されるのである.これに対して,農地の場合には 1975 年以降は実質的な相続税負担がなくなったために,プレミアム率は地 価の変化や規模の変化に対して,単調に変化する.

図表 2 3 の一部を描いた図表 2 4 を時系列的に観察すると,1950 年代前 半にはほとんどの所得規模について節税額がゼロであったことがわかる.50 年代後半以降,節税額はプラスに変化する.

1950 年代,60 年代を通じて譲渡所得税には総合課税制度と相対的に大き な宅地に対する特別控除が認められていた.そのために大規模な宅地所有者 にとってはむしろ土地を分割して譲渡した方が,譲渡所得税を節約できたの である.これが 60 年代,70 年代を通じて大規模な宅地所有者の節税額を小 さくした原因である.

1975 年になると,変化が起こる.まず 75 年に相続税の基礎控除の大幅な

引き上げが見られた.これは,700m2以下の土地所有者に対して,宅地所有

18) 東京都[2000]によれば,500 2,000m2の宅地を保有する面積の割合はおよそ 20%に上ってい

(27)

2土

61

年次 500m2 700m2 1,000m2 1,200m2 1,500m2 宅地地価

(千円/m2) 年次 500m2 700m2 1,000m2 1,200m2 1,500m2 宅地地価(千円/m2)

1950 0.659 0.659 0.659 0.659 0.659 0.10 1979 0.125 0.156 0.217 0.200 0.264 125.73 1951 0.000 0.000 0.000 0.000 0.097 0.17 1980 0.190 0.235 0.222 0.249 0.300 133.25 1952 0.000 0.000 0.000 0.000 0.000 0.33 1981 0.248 0.270 0.269 0.313 0.248 154.85 1953 0.000 0.000 0.000 0.000 0.000 0.44 1982 0.293 0.309 0.327 0.366 0.177 196.26 1954 0.043 0.043 0.043 0.043 0.119 0.61 1983 0.307 0.313 0.338 0.357 0.098 236.09 1955 0.138 0.138 0.229 0.273 0.193 0.88 1984 0.316 0.313 0.355 0.335 0.063 263.16 1956 0.075 0.129 0.161 0.160 0.148 1.76 1985 0.293 0.260 0.305 0.245 0.017 278.25 1957 0.158 0.197 0.239 0.153 0.108 2.89 1986 0.260 0.249 0.233 0.093 −0.081 288.30 1958 0.151 0.195 0.232 0.225 0.121 3.49 1987 0.506 0.372 0.005 −0.062 −0.037 302.06

(28)

者の供給価格を引き下げる原因となった.75 年の相続税に見られる基礎控 除の引き上げは,比較的規模の小さい土地所有者の有利性を削減したのであ る.その結果,土地を保有していなくても,相続税の基礎控除の引き上げに よって相続税負担を免れることができたからである.土地で保有しても金融 資産で保有しても大差がなくなってしまった.しかし,こうした基礎控除の

引き上げは,1,000m2以上の土地所有者にたいしては,ほとんど影響を及ぼ

さなかった.

さらに,これに拍車をかけたのが,1976 年に導入された譲渡所得税の総 合課税化である.相続税の基礎控除の引き上げが相対的に規模の小さな宅地 所有者の節税額を引き下げたのに対して,76 年の譲渡所得税の総合課税化 は規模の大きな土地所有者の供給価格を引き下げることになった.

それは,譲渡所得税の総合課税化によって,投資家が 50 年後に土地を譲 渡するときに,税率が著しく上昇してしまうことを恐れて,現在時点で土地 を売却して,土地を分割譲渡した方が譲渡所得税を節約できると考えたから である.これらが 75 年と 76 年に起こった事柄である.

図表 2 4 にあるように,1975 年と 76 年の宅地所有者のプレミアム率は低 下していることがわかる.農地の場合と比較すると,長期営農継続農地制度

−0.4 0

200 400 600 800 1,000 1,200

−0.2 0.0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0

500m2 1,000m2

1,500m2 宅地地価

(対市場地価割増率) (地価:1,000円)

1950 55 60 65 70 75 80 85 90 95 2000 05(年)

図表 2 4 宅地の対市場価格割増率

(29)

が導入された 73 年以降の供給価格の上昇と対比してみると,この点は大変 興味深い.75 年,76 年当時,農家に対しては土地所有に大きなメリットが あったのに対して,宅地の所有者に対しては,逆に土地所有に対する顕著な ディスインセンティブが働いていた.

その後,1985 年に譲渡所得税率の累進性が緩和された結果,次第にプレ ミアム率は上昇することになる.その後の急激な地価の上昇は,資産価値を 高め,土地保有の有利性を増大する.

逆に 94 年には,これとは逆のことが起こった.相対的に土地所有規模の 大きな宅地所有者と小さい宅地所有者の節税額が急激に低下する.それは 93 年以降の地価の下落に原因がある.地価の低下によって総資産価値の低 下がすべての土地所有者に生じることになるが,相続税の基礎控除を前提に すると,土地所有規模の小さい宅地所有者にとって土地の有利性がより大き く失われる.

地価の下落によって相続資産のほとんどが基礎控除以内に収まってしまえ ば,土地で保有しても,金融資産で保有しても差がなくなるからである.同 様に,規模の相対的に大きな土地所有者にとっても資産価値の低下は大きく 相続税率を低下させる.これは同様な理由から,土地の有利性を失わせる結 果となった.これらが各土地所有の規模ごとに,供給価格の跛行性をもたら している原因であろう.

2000 年以降,譲渡所得税と相続税は,地価の低下を観察した当局の判断 で,以前よりも累進度が緩和された結果,いずれの土地所有規模についても, 宅地のプレミアム率は低下し続けている.700 1,500m2のそれらは,約 12

20%とほとんど差がない点は興味深い.両税制の累進性が,規模の違いによ るプレミアム率の変化をもたらしていた点は,こうした点からも理解される であろう.

いずれにしても,相続税制と譲渡所得税制は,地価に対して不安定な作用 を及ぼしていることは明らかである.

5

結論

(30)

で,固定資産税と土地譲渡所得税が地価の水準およびその変動にどのような 影響を及ぼすかに焦点を当てて分析した.

その結果,第 1 に,固定資産税は地価の水準を低下させるとともに,地価 の変動を低下させる結果,地価の安定化に貢献する効果をもっていることが 明らかになった.しかし,日本では事業用の固定資産税を除いた実効税率は きわめて低いために,これらの効果に大きな期待はできないことが明らかに された.

第 2 に,土地譲渡所得税は地価を高めるとともに,地価の変動を増幅する. 現状では,地価の変動は土地譲渡所得税が存在しない場合よりも,およそ 1.56 倍大きくなっている.また,買い換え特例は,この土地譲渡所得税の 効果を緩和する機能をもっている.

しかし,1980 年代の後半に地価の上昇が著しくなった時点で,買い換え 特例は廃止された.それと同時に,さまざまな金融引締め効果が働いた結果, 割引率は大きく上昇した.これは土地譲渡所得税のもっている地価変動を増 幅させる効果をさらに大きくした19)

人々の期待が下方に修正されたときに,その効果をよりいっそう大きくし たのは,土地譲渡所得税とさまざまな金融引締め政策であったと考えられる. 90 年代は,弱気の期待が支配的であり,実勢以上に将来の予想が悲観的に なっていたと考えると,土地譲渡所得税のもとでは,地価は下方にオーバー シュートしている可能性が高い.

次に,土地譲渡所得税と相続税に焦点を当てて,それらが日本の土地価格, とりわけ東京都の市街化区域の地価にどのような影響を及ぼしているかにつ いて分析した.いくつかの単純化のための仮定のもとで,次のような結論が 得られた.

第 1 に,1950 年代ならびに 60 年代を通じて,日本の農地および宅地保有 者の節税額がゼロないしマイナスの値をとったという点である.いい換える と 50 年代,60 年代のこの時期に,農地および宅地の所有者には市場地価よ りも低い価格で土地を売却するインセンティブが働いていたことを示してい る.

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第 2 に,このような売却インセンティブが失われたのは,70 年代以降で ある.とりわけ 75 年に農地に導入された長期営農継続農地制度は,農地の 供給価格に著しい影響を及ぼした.この制度は後に生産緑地制度となって継 承されていくが,この制度によって,実質的に市街化区域内農地の相続税負 担はゼロになった.その結果,農地保有のメリットは飛躍的に上昇し,農地 には顕著な売却阻害効果が観察された.

第 3 に,宅地については 1975 年以降,供給価格は低下する.この点は, 農地とまったく対照的である.その結果,長期間にわたる土地保有のメリッ トは 75 年から 80 年にかけて減殺されたということができる.この理由は, 70 年代の初めに生じた地価の上昇をコントロールするために,土地譲渡所 得税が総合課税化された点に求められる.しかし,80 年以降総合課税が改 正され,累進度が緩和されると,再び宅地の供給価格は上昇することになり, 92 年にピークを迎える.

第 4 に,農地については,先に述べた長期営農継続農地制度が大規模農地 の保有に対して顕著な影響を及ぼしている.規模の大きな農地ほど,その便 益を享受することができる.これに対して,宅地の場合には,ある土地税制 の変更が,規模の大きな土地保有者ほど有利あるいは不利になるということ は必ずしもあきらかではない.それは,譲渡所得税制および相続税制がもっ ている非線形性のためと思われる.税率の累進構造や基礎控除制度のために, 宅地の供給価格には跛行性が見られる.

このような結果から,従来の土地譲渡所得税および相続税制は地価の上昇 や下落に対して無視できない影響を及ぼすと同時に,地価を不安定化させる 大きな原因の 1 つと結論することができる.

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付録 1 土地譲渡所得税制の変遷

譲渡所得税についての制度がどう変わってきたかについて説明しておこう. 政府は地価の変化に対してどのように対応してきただろうか.付表 1 にある ように,土地譲渡所得税もひんぱんに変更されてきた.まず,1950 年から 52 年にかけては,土地の長期譲渡所得は変動所得として扱われ,平均課税 されていた.平均課税の仕方は,所得を 5 年間で平均することによって,1 年当たりの平均所得を求め,それに適用される税率で課税されることになっ た.しかし 53 年に 2 分の 1 総合課税制度に移行することによって,この平 均課税制度は廃止された.

その後,この制度は 1964 年まで続くが,65 年に譲渡所得を短期の譲渡所 得と長期の譲渡所得に分離するという新たな制度が設けられた.ここで長期 と短期の譲渡所得は,保有期間が 3 年を超えるか否かによって区別された. 短期の譲渡所得については投機的な利益と判断され,全額課税されるのに対 して,長期譲渡所得は 2 分の 1 総合課税とされた.

さらに,1967 年に控除額が 30 万円に引き上げられた.その後 69 年に分 離課税制度が導入されることになった.表にあるように,各年ごとにその税 率は上昇していった.この分離課税制度は 75 年まで続くが,地価の上昇を 受けて,76 年からは総合課税が復活した.2,000 万円までは 20%の税率で 課税されるが,2,000 万円を超えるとその額に対して 4 分の 3 総合課税が適 用された.このとき 2,000 万円までは,住民税は 6%であった.

ここで,とくに注意したいのは,1973 年から,特定市街化区域内の農地 を譲渡した際に適用される軽減税率制度が導入された点である.付表 1 にあ るように,この年に市街化区域内農地を売却した場合の譲渡所得税率は,国 税が 10%,地方税が 4%という水準であった.この税率は一般の長期所得税 率よりも,およそ 6%低い水準にあった.76 年以降も 2,000 万円以下の譲渡 所得については,市街化区域内の農地を売却した場合と,宅地を売却した場 合とでは 6%の差があった.譲渡所得税が 2,000 万円を超える場合には,農 地と宅地の税率の差はより大きなものであった.

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8,000 万円までは 2 分の 1 総合課税,さらに 8,000 万円を超えた場合には, 4 分の 3 総合課税が適用されることになった.

この間,市街化区域内農地を売却した場合の税率は,より累進度の低い税 率が適用された.4,000 万円までは住民税を含めて 20%,4,000 万円を超え た場合には 26%の税が課されていた.

宅地については,82 年からは若干累進度が低くなり,88 年に至っている. 89 年の税制改正によって,分離課税が再び採用された.4,000 万円までは住 民税を含めて 80 年から変わらず 26%であるが,4,000 万円を超えた場合に は,32.5%の税率が長期譲渡所得に対しては適用されている.

その後,地価の鎮静化を受けて,1992 年には引き続き分離課税が採用さ れ,39%という定率の課税制度が導入された.地価が下落した 95 年の改正 では,再び累進的な分離課税にしたうえで,4,000 万円までは 32.5%という 低い税率を適用するようになった.その後税率は次第に低下し,現在に至っ ている.2008 年現在,一律 20%の定率課税となっている.

ここで,特別控除額を見てみると,1969 年に,居住用の土地・建物を売 却した場合には,1,000 万円の特別控除が認められることになった.その控 除額は 73 年に 1,700 万円に引き上げられ,さらに 75 年からは 3,000 万円に 引き上げられた.この制度は現在も続いている.

付録 2 土地の相続税制度

相続税制は,何回かの抜本的な改正を経て現在に至っている.この変遷過 程は付表 2 に示されている.同表にあるように,何回となく細かな改正が実 施されているが,そのなかでも最初の抜本的な改正は 1958 年にあった.58 年以前の相続税制は,シャウプ税制のもとで米国の制度を基礎にしている. この制度のもとでは,相続税は贈与税と一体化されており,生前の贈与と死 後の寄贈がまったく同一に取り扱われた.

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