計量経済学#22
内生性と操作変数法
(1)
鹿野繁樹
大阪府立大学
2017年11月更新
Outline
1 内生性問題
2 内生性の発生するケース
テキスト:鹿野繁樹 [2015]、第12.1章・第12.2章。
前回の復習
1 比例的不均一分散
2 加重最小2乗法(WLS)
Section 1
内生性問題
外生性と
OLS
推定量の一致性:再考
講義ノート#19:線形回帰モデル
Yi =α+βXi+ui (1)
に関し、サンプル数がn→ ∞のとき、OLS推定量βˆの確率極限は
ˆ
β =β+ sXu
s2X
確率極限
−−−−→ plim ˆβ =β+Cov(Xi, ui) Var(Xi)
. (2)
外生性の仮定が成立すればCov(Xi, ui) = 0なので
plim ˆβ =β+ 0 Var(Xi)
=β. (3)
∴βˆは係数βの一致推定量。
nが十分多ければ、βˆを未知のβとみなして間違いない。
なぜXiとuiが無相関だとOLSで係数βを一致推定できる?
(1)式に登場する(Xi, Yi, ui)の関係を模式図で表せば、
( Xi ) ... ց
独立な振動 (
Yi )! ... ր ( ui ) (4)
... YiはXiとuiからの「波」を受けて変動。
データとして観測されるのはXiとYiのみ。⇒Xiがuiと独 立に振動していれば、uiを観測せずとも、XiからYiに伝わっ た「波」の大きさを正確に知ることが可能!
uiから来た「波」は、Xiが引き起こしたYiの変動の残余とし て測られる。
内生性バイアス:
OLS
の敗北
外生性が成立せず、Xiとuiが相関するデータにOLSを適用する と?:外生性を満たさない説明変数Xiを、内生変数と呼ぶ。
この場合Cov(Xi, ui)= 0⇒ OLSの確率極限は
plim ˆβ =β+
=0
Cov(Xi, ui)
Var(Xi)
=β+ bias( ˆβ)=β. (5)
βの一致推定量にならない。
ˆ
βとβの漸近的なズレ
bias( ˆβ) = Cov(Xi, ui) Var(Xi)
(6)
を、内生性バイアスと呼ぶ。
Xiとuiが相関⇒βˆは内生性バイアスの分だけ、真のβから 外れた、見当違いの値(過大評価・過小評価)をとる。
Xiとuiの相関によりOLSが失敗する理由。
再び模式図で考えると、
( Xi ) ց
共振 (
Yi )? ր ( ui ) (7)
データとして確認できる「Xi →Yi」の変動は、一部
「ui →Yi」の変動を含んでしまう。⇒純粋に「Xi →Yi」だけ を識別することが不可能に!
内生性バイアスのメカニズムは、除外変数バイアス(この コースの前半)と類似。
Remark 1
内生性バイアスの原因は、説明変数Xiと誤差項uiの相関にあり。
外生性: Cov(Xi, ui) = 0 ⇒ plim ˆβ =β+
=0
Cov(Xi, ui)
Var(Xi)
=β,
(8)
内生性: Cov(Xi, ui)= 0 ⇒ plim ˆβ =β+
=0
Cov(Xi, ui)
Var(Xi)
=β.
(9)
実験データでは、Xiが意図的にランダムに与えられるので、Xiが
uiと相関しない。⇒内生性バイアスは起こらない。
∴内生性は、非実験データ特有の問題。
通常の統計学のテキストは、実験データを前提にしているの で、内生性バイアスに言及しない。
Xiが内生変数ならば、OLSに代わる新たな推定法が必要。⇒
操作変数法(次回)。
いかなる状況で、内生性問題が発生するか?
1 観測不可能な個体属性。
2 同時方程式モデル。
Section 2
内生性の発生するケース
観測不可能な個体属性
内生性問題の例として、次の回帰モデルのOLS推定を考える。
Yi =α+βXi+ai+vi. (10)
aiは個体iが持つ観測不可能な個体属性で、平均的に
E(ai) = 0と仮定。
viは,通常の意味での確率的な誤差。
説明変数Xiはviに関しては外生的だが、aiとは相関する。
Cov(vi, Xi) = E(viXi) = 0, Cov(ai, Xi) = E(aiXi)= 0.
(11)
aiの存在を無視してOLS回帰⇒aiは誤差項に取り込まれ、
Yi =α+βXi+ui, ui =ai+vi. (12)
誤差項uiとXiの共分散は
Cov(Xi, ui) = E(Xiui) = E(Xiai)
=Cov(ai,Xi)
+ E(Xivi)
=0
= Cov(ai, Xi)= 0.
(13)
⇒上式を(5)式に代入すれば、除外変数バイアス発生:
plim ˆβ =β+Cov(ai, Xi) Var(Xi)
=β. (14)
ˆ
βは、aiがYiに与える影響をも拾ってしまうので、XiからYi
への影響βを過大・過小評価。
例:Cov(ai, Xi)>0⇒β > βˆ で過大評価。
もしaiが観測できる変数ならば、aiをコントロール変数に入れ
「aiを一定にした」重回帰をすることで、バイアスを回避可能。
∴除外変数バイアスの問題の本質は、「aiが観測不可能である こと」。
コントロール変数アプローチの限界(講義ノート前半)。
例:教育の人的資本形成に関する実証分析(労働・教育経済学)。
給与所得者の年収wageiを就学年数educiとコントロール変数 群othersi(年齢や性別、業種ダミーなど)に回帰し、追加的
な教育によりiが享受する私的リターンを計測。
wagei =α+β1educi +β2othersi+ai+vi. (15)
ai =個人iの生まれつきの能力:認知能力やコミュニケーショ ン能力、家庭の財力、人間性、etc.
aiはwageiに影響する一方で、educiの選択にも影響。
観測可能な変数群othersiで、aiの影響を完全にコントロール するのは困難。
∴係数β1のOLS推定値βˆ1に、除外変数バイアス!
OLSによる教育のリターン推定をめぐる問題を図示すると、
otheri (コントロール可能)
ւ ց
educi
OLS推定値βˆ1
−−−−−−−−−→
=教育の効果(?)
wagei
տ ր
ai
(コントロール不可能)
(16)
要するに、「教育が賃金を上げるのか、もともとの能力が賃金を上
げるのか区別できない」状況。
類似の問題が多数:補習のテストへの効果、喫煙の健康への 影響、etc.
共通点:効果を評価したい説明変数Xiの量が、個人iの自己 選択で決まっている点。⇒Xiが、iの個人属性aiと相関。
Xiを本人の意思と独立に、ランダムに与える無作為化実験で
は、Xiとaiは無相関。
同時方程式モデル
変数間の相互依存関係が同時方程式モデルを成す場合:
Xi →Yi : Yi =α+βXi+ui, (17)
Yi →Xi : Xi =γ0+γ1Yi+vi. (18)
上式は「Xi →Yi →Xi →Yi → · · ·」という,XiとYi のフィードバック構造のモデル。
実際に観測される標本(Xi, Yi)は、二つの式で同時決定される 均衡点(解)。
簡単化のため、誤差項についてE(ui) = E(vi) = 0、またuiの 分散および(ui, vi)の共分散は
E(ui) = σ2, E(uivi) = 0 (19)
であると仮定。
二本の同時方程式をXiについて解き、整理すると
Xi =
γ0+αγ1
1−βγ1
+ 1 1−βγ1
(γ1ui+vi) = π0+π1(γ1ui+vi). (20)
Xiは、(17)式の誤差項uiを含むため、uiと相関する。
実際にXiとuiの共分散を求めると(テキストp207)
Cov(Xi, ui) = E(Xiui) =
γ1σ2
u
1−βγ1
= 0. (21)
上式を(5)式に代入・整理すれば
plim ˆβ =β+ γ1 (1−βγ1)
σu2 σ2
X
=β, σX2 = Var(Xi). (22)
で、OLS推定量にバイアスが発生!
説明変数と被説明変数の相互依存関係(フィードバック)によっ
て生じるOLSのバイアスを同時性バイアスと呼ぶ。
もしここでγ1 = 0で、(18)による「Yi →Xi」のフィード バックが存在しなければ、(21)式は
Cov(Xi, ui) =
γ1σu2
1−βγ1
= 0·σ
2
u
1−β·0 = 0 (23)
∴Xiは外生。
同時性バイアスは、Xiの変動σ2Xがuiの変動σu2に比して大 きいほど縮小する傾向。
例:「警官数policeiの増加は、犯罪crimeiに対し抑止効果がある か」の実証分析で、次の回帰モデルを推定。
crimei =α+β1policei+β2othersi+ui. (24)
各地域の警官数はランダムか?⇒犯罪の多い地域ほど、警官
が多く配備されているはず。
∴フィードバック(警官への需要)が存在し、
policei =γ0+γ1crimei+γ3othersi+vi (25)
分析者がこの構造に気づかず(24)式をOLS推定すると、推定 値βˆ1に同時性バイアスが発生。
この問題を図示すると、
OLS推定値βˆ1
−−−−−−−−→
=抑止効果(?)
policei crimei フィードバック
←−−−−−−−−
警官への需要
տ ր
othersi
(26)
「警官数をランダムに増減する」実験なら、フィードバック はなくなりOLSでβ1の一致推定が可能。... コレは無理。 同時方程式で描写され得る自然・社会現象は多数存在。
経済学で重要な「市場均衡モデル」も、同時方程式モデルの
一種。⇒詳しくは今後の講義で。
今回の復習問題
次の設問に答えよ。各自用意した紙に解答し、退出時に提出せよ。 講義名、日付、学籍番号、氏名を明記すること。
1 テキスト第12章復習問題12.1。
References
鹿野繁樹. 新しい計量経済学. 日本評論社, 2015.