統計力学演習 (Wednesday February 8th 2017) 期末試験 解答例&解説 1
解答
1.
次の小問に答えよ。 (20点)1-1. ある系におけるミクロカノニカル分布の熱力学的
重率をW(U, δU)とする。系のエネルギー固有値 Ei に
属する固有状態i に与えられる確率 p(iMC) をW(U, δU) を用いて表わせ。
ミクロカノニカル分布では,許されるエネルギー固有 状態の全てに, 同じ確率を与えるので
p(iMC) =
{ 1
W(U, δ), U−δU < Ei ≤U が成り立つとき
0, それ以外
(1)
と書ける。
1-2. ある物理量 fˆに対して,統計力学で計算した期待
値⟨fˆ⟩とそのゆらぎσ[fˆ]との間にσ[fˆ] ≪ fˆが成り立
つとき,⟨fˆ⟩についてどんなことが言えるか。
大数の法則より,期待値 fˆは,多数の試行を行ったと
きの測定値の算術平均に一致する。1回の測定値は必ず
しも期待値には一致せず,期待値の周りに分布する。こ
の分布の広がりを定量的に表したのがゆらぎσ[fˆ]であ
る。大雑把に言えば,各測定値は fˆ±σ[fˆ]の範囲に入 ると期待される。
今,σ[fˆ] ≪ fˆが成り立つならば,測定値の分布が極
めて狭いことを意味する。従って1回の測定値が,ほぼ
確実に fˆに一致すると期待される。理論値として,幅
を持たずシャープに fˆを予言することになる。
1-3. カノニカル分布の分配関数Z(β)から,エネルギー
の期待値⟨Hˆ⟩及びヘルムホルツの自由エネルギーF(β)
を導くための関係式を書け。 それぞれ
⟨Hˆ⟩ =− ∂
∂ β logZ(β), (2)
F(β)=−1
βlogZ(β). (3)
解答
2.
N 個の独立な調和振動子 (30点)系の全エネルギーは
E(M,N)= N
2ℏω+Mℏω (4) と書ける。ここで量子数M は,非負整数(0,1,2, . . .)で ある。この系の熱力学的重率W(M,N)は
W(M,N)= (M+N −1)!
M!(N−1)!
と計算できる。以下,N ≫ 1とする。
2-1. 系のエントロピーS を求めよ。仮定が必要なら,
理由を述べた上で用いて良い。
ボルツマンの関係式より
S = klogW = klog(M +N−1)!
M!(N −1)! (5)
N ≫1, M ≫ 1とし,スターリングの公式を使えば
S ≃ klog(M+N)!
M!N!
≃ k
[
(M +N){log(M+N) −1}
−M(logM−1) −N(logN−1) ]
≃ k
[
(M+ N)log(M+N) − MlogM−NlogN
] . (6)
問題よりN ≫ 1なので,(4)でM がノンゼロの値とし
て意味を持つのは M ∼ N のとき。そのため M ≫ 1と
した。
2-2. 系の全エネルギーE を温度T の関数で求めよ。
SとE,T の関係より
1
T =
∂S
∂E =
∂M
∂E
∂S
∂M = ℏ1
ωk [
log(M+N)+1−logM−1
]
(7)
これより
ℏω
kT = βℏω =log
M+N
M =log
( 1+ N
M
)
eβℏω =1+ N M
∴ M = N
eβℏω−
1
ここで逆温度 βを用いた。これを(4)に代入すれば
E(T,N)= Nℏω
[ 1 2 +
1
eβℏω −1
]
(8)
= N ℏω
2 coth βℏω
2 (9)
と求まる。最後の変形で双曲線関数の公式
coth x 2 =
ex/2+e−x/2 ex/2−e−x/2 =1+
2e−x/2 ex/2−e−x/2
=1+ 2
ex−1 (10)
を用いた。(8)と(9)は,表記の違いに過ぎない。
グラフの概形を知るため,低温・高温におけるU の
振る舞いを調べる。低温 βℏω ≫ 1 で,eβℏω ≫ 1なの
で(8)より
E ≃Nℏω
[ 1 2 +e
−βℏω
] −−−−→
T→0 N
2ℏω. (11) これはゼロ点振動のエネルギーに対応し,量子効果を反
映している。(8)はゼロ点振動のエネルギーを見やすい
統計力学演習 (Wednesday February 8th 2017) 期末試験 解答例&解説 2
一方,高温βℏω ≪ 1では,cothx ≃ 1 x +
x
3 +O(x3)と
(9)より
E ≃ Nℏω 2
[ 2 βℏω +
βℏω
6 ]
≃ N β [
1+ (β ℏω)2
12 ]
−−−−→
T→∞ N kT (12)
と な り ,古 典 論 の 結 果 に 一 致 す る 。高 温 で は 量 子 効 果 N
2ℏω が 隠 さ れ ,高 温 か ら 温 度 0 に 外 挿 し て も 切 片 の 存 在 は 分 か ら な い 。グ ラ フ は 下 の 通 り*1。
1 2
0.5 1 2 E Nhω
kT hω
量子数nに上限が無いことに対応して,Eにも上限は
無い。
【補足】(8)から高温極限(βℏω ≪ 1)を考える場合,
E ≃ Nℏω
[ 1 2 +
1 1+ βℏω−1
]
= Nℏω
[ 1 2 +
1
βℏω +. . .
]
(13)
とするのは不正確。通常このように書くのは,. . . 以下
が前の2項より明らかに小さい場合である。しかし今,
βℏω ≪ 1なので第1項より第2項がはるかに大きい。
そのため,上で . . . と記したテイラー展開の高次の項
に第 1項と同程度の大きさの項が現れる可能性がある。
実際この例では次に −1
2 が現れ,第1項と相殺する。2
つの項の大きさのアンバランスさと,展開の変数 βℏω
の逆数が現れたことに注意して欲しい。
2-3. 熱容量C(T)= ∂E(T,N)∂T を計算せよ。
(8)および ∂T∂ = −kβ2∂β∂ より
C(T)= ∂E
∂T = −kβ 2∂E
∂ β
= −kβ2Nℏω −
ℏωeβℏω
(
eβℏω −
1)2
= N k(βℏω)2eβℏω
[ 1
eβℏω −
1 ]2
= N keβℏω
[ βℏω eβℏω
−1 ]2
(14)
= N k(βℏω)2
[
2 sinh β
ℏω
2 ]−2
. (15)
低 温 と 高 温 で の 振 る 舞 い を 調 べ る 。低 温 kT
ℏω ≪ 1
(βℏω ≫ 1)のとき,eβℏω ≫1なので(14)より
C(T) ≃N k(βℏω)2e−βℏω −−−−→
T→0 0 (16)
となり,急激に0に近づく。これは量子効果を表してい
る。エネルギーはℏω単位でやり取りをし,それより小
さな量の移動は出来ない。そのため温度が下がり kT が
ℏω よりも小さくなると,熱の形によるエネルギーの移
動が出来なくなり,熱容量が急に小さくなる。
一方,高温 kT
ℏω ≫ 1(βℏω ≪ 1)では
C(T) ≃N k
[
1− (βℏω) 2
12 ]
−−−−→
T→∞ N k (17)
となり,温度に依らずN k に漸近する。有限系と違い減
衰しない。エネルギー準位に上限がないことを表してい
る。これは,U(T)のグラフが高温で有限の傾きを持っ
た直線に漸近することからも分かる。
1 2
kT hω 3
Nk C
解答
3.
一様な磁場H の中に置かれた互いに独立なN個のスピン系のエネルギーは (40点)
E(σ1,σ2,...,σN) = N
∑
j=1
(−µHσj) (18)
と書ける。ここで µは磁気モーメント。σj は j 番目の
スピン変数 σˆj の固有値で,上向きなら+1を,下向き
なら−1を取る。また各スピンは固定されているので,
スピン同士の入れ換えは考えなくて良い。
3-1. 上の式から分かるように,この系ではスピン1つ
あたり−µHσ のエネルギーを持つ。1 つのスピンから
なる系の分配関数Z(β,H,1)を求めよ。 分配関数の定義より
Z(β,H,1)=
∑
σ=↑,↓ e−βEσ
=eβµH+e−βµH
=2 cosh(βµH). (19)
3-2. スピン1つの期待値⟨σ⟩ˆ を計算せよ。
統計力学演習 (Wednesday February 8th 2017) 期末試験 解答例&解説 3
期待値の定義より⟨σ⟩ˆ は
⟨σ⟩ˆ β,H = 1 Z(β,H,1)
∑
↑,↓
σie−βEi
= (+1)e βµH
+(−1)e−βµH eβµH +e−βµH
=tanh(βµH) (20)
と計算できる。
3-3. 互いに独立な N個のスピンからなる系の分配関数
Z(β,H,N)を計算せよ。
各スピン系は互いに独立,かつ全て等しいので
Z(β,H,N)= [Z(β,H,1)]N
= 2NcoshN(βµH). (21)
3-4. 磁化mˆ := N1 ∑Nj=1µσˆj の期待値⟨mˆ⟩を計算し,グ
ラフで表せ。
期待値の定義より
⟨mˆ⟩= ⟨
1
N N
∑
j=1 µ0σˆj
⟩
= µ0 N
N
∑
j=1 ⟨
ˆ σj
⟩
= µ0
N Ntanh(βµH)
= µ0tanh(βµH) (22)
である。1行目の変形では,期待値の線形性を用いた。
また,磁化の定義と(18)を比べるとmˆ = −N H1 Hˆ が
成り立つことがわかる。よって期待値の線形性より
⟨mˆ⟩= − 1
N H ⟨
ˆ
H ⟩= + 1 N H
∂ ∂ β log
{
2NcoshN(βµH)}
= µtanh(βµH) (23)
と求めても良い。 グラフにすると
3-5. 磁化率 χ(β):= ∂∂H⟨m⟩ˆ
H=0
を計算せよ。磁化し易い
のは,低温と高温のどちらか?
定義より
χ(β)= ∂
∂Hµtanh(βµH)
H=0
= βµ2 1
cosh(βµH)
H=0
= βµ2= µ
2
k T
−1. (24)
χ(β)はT に反比例するので(Curie’s law),低温ほど磁