ミクロ経済学
講義資料
第2章 需要と供給の均衡分析
unit 3 需要と供給
需要曲線(1)
数学とは異なり,経済学では伝統的にタテ軸からヨコ軸へと読む慣わし
150 100
12 20 リンゴ価格
太郎君のリンゴ需要量
太郎君の個別需要曲線
財の価格と財の需要量の関係を需要関数といい,
需要関数のグラフを需要曲線という
個別需要曲線を消費者の数だけヨコ軸方向に足し合わせると
市場需要曲線が得られる
+ =
x x x
p p p
D 1 D 2 D 1 + D 2
需要曲線(2)
「需要が変化した」という場合
を区別する必要がある(教科書図3-3)
需要曲線上での点の移動は価格の変化による
例:リンゴが豊作で価格が下落したためリンゴの需要が増加した
需要曲線そのもののシフトは価格以外の要因の変化による
例:テレビ番組でリンゴダイエットが紹介されブームになったため リンゴの需要が増加した
需要曲線上での点の移動であるか 需要曲線そのもののシフトであるか
需要の変化
以上で需要に関して説明したことは供給にもそのまま当て
はまる(ただし,供給曲線は右上がり)
供給曲線,供給の変化
unit 4 価格弾力性
需要の価格弾力性(1)
価格が変化したときに需要がどれだけ変化するかを測るための概念
が需要の価格弾力性(price elasticity of demand)である
価格と需要の変化方向は通常逆であるため,弾力性の値がマイナス
にならないよう弾力性の定義にマイナスの符号が付いている
リンゴ価格が 4%上昇したとき,リンゴ需要が 6%減少したとする
と,需要の価格弾力性はいくつか?
需要の変化率 (%) 価格の変化率 (%) 需要の価格弾力性 =
−
需要の価格弾力性 > 1 → 弾力的な需要
(elastic demand)
需要の価格弾力性 < 1 → 非弾力的な需要
(inelastic demand)
需要の価格弾力性 = 1 → 弾力性1の需要
(unit elastic demand)
需要の価格弾力性(2)
需要の価格弾力性の式は以下のように変形できる
需要の変化率 価格の変化率 需要の価格弾力性 ( εp ) =
−
=
−
変化前の需要量 ( x ) 需要の変化分 ( Δx )変化前の価格 ( p ) 価格の変化分 ( Δp )
=
×
=
× 1
需要の価格弾力性(3)
−
−
変化前の価格 ( p ) 変化前の需要量 ( x )
需要の変化分 ( Δx ) 価格の変化分 ( Δp ) 変化前の価格 ( p )
変化前の需要量 ( x ) 需要曲線の傾き
すなわち,同一点で計るなら
需要曲線の傾きが緩やかなほど需要の価格弾力性は大きい 需要曲線の傾きが 急 なほど需要の価格弾力性は小さい (教科書図4-1参照)
価格弾力性の大きい財(需要曲線の傾きが緩やか)
→ 価格が少し変化しただけで需要が大きく変化する財 → 代用品の多い財(外食産業、スナック菓子など)
価格弾力性の小さい財(需要曲線の傾きが急)
→ 価格が大きく変化しても需要があまり変化しない財
→ 習慣性の強い財(酒、タバコ),必需財(主食としての米、電気、ガス、 水道、医療サービスなど)
需要の価格弾力性(4)
価格 価格
需要 需要
価格弾力性が大きい 価格弾力性が小さい
傾きが緩やかな需要曲線 傾きが急な需要曲線
需要の価格弾力性(5)
価格
需要
販売額
需要曲線
確認事項
単価
販売数量
原点と需要曲線上の点を対角頂点とする長方形の面積は販売額を表す
需要の価格弾力性(6)
価格 価格
需要 需要
価格を下げた方が 販売額が大きくなる
価格を上げた方が 販売額が大きくなる
価格弾力性が大きい財 価格弾力性が小さい財
需要の価格弾力性(7)
より厳密に言うと,
需要の価格弾力性 > 1 → 価格を下げれば販売額が増える 需要の価格弾力性 < 1 → 価格を上げれば販売額が増える
なぜか?
販売額 = 価格 × 需要量
これより
需要量が一定なら,販売額の変化率=価格の変化率 価格 が一定なら,販売額の変化率=需要の変化率
(例)価格が200,需要量が100のとき,価格のみが10%上昇すると販売額は何%増加するか? また,需要量のみが5%増加すると販売額は何%増加するか?
(*)
需要の価格弾力性(8)
変化幅が小さければ,それぞれの変数はほぼ一定と見なせるので,両変数 が同時に変化した場合,(*)が同時に起こって
販売額の変化率 = 価格の変化率
+
需要量の変化率 がおおよそ成り立つ(例)価格が200,需要量が100のとき,価格が1%上昇して需要量が2%減少したとする。
このとき厳密な販売額と上式により求まる販売額とを比較せよ
上式の両辺を「価格の変化率」で割れば 販売額の変化率
価格の変化率
= 1 + 需要量の変化率 価格の変化率
= 1 − 需要の価格弾力性
需要の価格弾力性(9)
以上より
需要の価格弾力性 > 1 →
→ 価格と販売額の変化方向が反対 → 価格を下げれば販売額が増える
需要の価格弾力性 < 1 →
→ 価格と販売額の変化方向が同じ → 価格を上げれば販売額が増える
販売額の変化率 価格の変化率
<
0
販売額の変化率 価格の変化率
> 0
需要の価格弾力性(10)
これより,需要曲線が直線で同一需要曲線上で計るなら
左上に行くほど需要の価格弾力性は大きい 右下に行くほど需要の価格弾力性は小さい
これを以下で図解する[教科書の確認問題 check4(p.56-57)]
需要の価格弾力性(補1)
需要の価格弾力性
= ×
変化前の需要量 変化前の価格
需要曲線の傾き
− 1
点Aにおける需要の価格弾力性
需要の価格弾力性(補2)
需要曲線
x p
A
O B C
p/x
価格弾力性は需要曲線の中点で 1
右下から左上に行くほど大きい値になる
需要の価格弾力性(補3)
x p
O
価格が変化したときに供給がどれだけ変化するかを測るための概
念が供給の価格弾力性(price elasticity of supply)である
価格と供給の変化方向は通常同じであるため,需要の価格弾力性
のようにマイナスは付かない
供給の変化率 (%) 価格の変化率 (%) 供給の価格弾力性 =
供給の価格弾力性(1)
供給の価格弾力性の式は、需要の価格弾力性の場合と同様にして、次の ように変形できる
これより、同一点で計るなら
供給曲線の傾きが緩やかなほど供給の価格弾力性は大きい 供給曲線の傾きが 急 なほど供給の価格弾力性は小さい (教科書図4-4参照)
変化前の供給量
×
変化前の価格
供給曲線の傾き 供給の価格弾力性 =
1
供給の価格弾力性(2)
供給の価格弾力性の大きい財(供給曲線の傾きが緩やか)
→ 価格が少し変化しただけで供給が大きく変化する財 → 生産設備があまり大掛かりでない財に多い
供給の価格弾力性の小さい財(供給曲線の傾きが急)
→ 価格が大きく変化しても供給があまり変化しない財 → 生産工程に時間の掛かる財、土地
供給の価格弾力性(3)
unit 5 完全競争市場と市場均衡
ミクロ経済学では、価格の機能を理解するために理想的な市場,すなわち 完全競争市場を考察の対象とする。これは以下の三つの条件を満たす市場で ある。
情報の完全性
取引費用ゼロ
プライステイカー
完全市場
完全競争市場
市場で取引される財に関して、その性質や価格など取 引に必要な情報がすべての経済主体によって共有され ている
市場での取引のためにいかなる費用もかからない
取引主体が非常に多数存在するため、個々の経済主 体は価格支配力を持たず、需要と供給によって市場で 成立する価格を所与と見なす
完全競争市場(1)
完全競争市場の例
生鮮食料品市場、外国為替市場、株式市場など(あまり多くない)
「プライステイカー」の仮定を満たさない市場、すなわち価格支
配力を持つ主体が存在する市場は不完全競争市場と呼ばれる
価格支配力を持つ供給者がただ1人存在する → 独占市場 価格支配力を持つ供給者が少数存在する → 寡占市場
(ビール市場、携帯市場、家電市場、自動車市場などさまざまな財・サービスの 市場が該当する)
完全競争市場(2)
完全競争市場の条件を満たす市場は現実にはあまり存在しない
が、理想的な状態において市場がどのように機能するかを解明す
るための分析対象として重要である。
完全競争に対する理解があれば、それとの対比によって現実の市
場がどのように機能するか、どのような問題を抱えているかなど
を分析することができる。
完全競争市場(3)
完全競争市場では以下のようなメカニズムが働く
取引に参加する主体はすべてプライステイカーなので、市 場で決まる価格に基づき自らの需要量や供給量を決める
個々の経済主体の需要量と供給量が市場で集計されて市場 全体の需要と供給になり、これらが等しくなるように市場 の価格が決まる
市場均衡(1)
市場で需要量と供給量が釣り合っている状態を市場均衡という
市場均衡で成立している需給量を均衡需給量、価格を均衡価格と
いう
市場均衡は需要量と供給量の調整がなされて落ち着いた状態
調整の過程を考慮せず、調整されて落ち着いた状態を分析するこ
とを均衡分析という(第1章参照)
均衡需給量や均衡価格の計算方法については教科書 p.61∼62 を
熟読せよ
市場均衡(2)
市場均衡が達成される仕組みは市場によって異なる。最も代表的なものは 需要と供給の差を埋めるように価格が調整される仕組み。 これをワルラス的価格調整過程という
超過供給(売れ残り)
超過需要(モノ不足) x
p
p*
D S
p1
p2
x*
Léon Walras
市場均衡への調整過程(1)
需要価格
供給価格
x p
p*
D S
p1
p2
これ以外にも、マーシャル的数量調整過程がある。これは価格の調整より も供給量の調整が遅い市場に関するもので、売り手の売りたい価格(供給 価格)と買い手の買いたい価格(需要価格)とが等しくなるように数量が 調整される
x* x1 x2
Alfred Marshall
市場均衡への調整過程(2)
さらに、蜘蛛の巣調整過程というものもある。これは、供給計画から出荷 までにある程度長い時間を要する農畜産物市場に見られる。生産者は今期 の価格に見合う量を供給するよう来期の生産計画を立てるが、来期に出荷 量が需要量と一致しないため価格が変動する
市場均衡への調整過程(3)
今期の価格
x p
p*
D S
p1
p2
x1 x2
今期の供給量 来期の供給量 来期の価格
unit 6 比較静学
外的な条件が変化したときに市場均衡がどのような影響を受けるかを分析し てみよう
外的な条件が変化すると需要曲線や供給曲線がシフトする
[本レジュメのスライドNo.5を参照]
外的な条件が変化がしたとき、変化の前と後の均衡状態に着目し、変化の効 果を分析することを比較静学と呼ぶ
「静学」とは調整過程が落ち着いた状態のみを考察対象とする分析方法のこと
比較静学とは、外生変数が変化したときに内生変数が変化の前と後でどのよ うな影響を受けるかを分析する
比較静学とは
需要曲線のシフト(1)
需要曲線がシフトする要因
1. 他の財の価格の変化
ビールの需要曲線は、発泡酒の価格が上昇すれば右側にシフトし、 下落すれば左側にシフトする
2. 消費者の所得の変化
ビールの需要曲線は、消費者の所得が増えると右側にシフとし、 減ると左側にシフトする
3. 消費者の嗜好の変化
ビールの需要曲線は、ビールブームになると右側にシフトし、 焼酎ブームになると左側にシフトする
x p
O
需要曲線がシフトする場合、シフト前の市場均衡もシフト後の市場均衡もともに 供給曲線上にある
したがって、均衡価格や均衡需給量がどのように変化するかは供給曲線の傾き、 すなわち供給の価格弾力性の大きさに依存する
需要曲線のシフト(2)
x p
O x
p
O
需要曲線が同じ幅だけシフトした場合、
•
供給の価格弾力性が大きいときは、均衡価格はあまり変化しないのに対して、均衡需給量 が大きく変化する•
供給の価格弾力性が小さいときは、均衡価格が大きく変化するのに対して、 均衡需給量 はあまり変化しない供給の価格弾力性が大きい 供給の価格弾力性が小さい
需要曲線のシフト(3)
需要曲線のシフトの効果(点Eから点Fへの移動)を分解して考える
需要曲線が左にシフトした場合、変化前の均衡価格のもとで超過需要が発生する
(点Eから点Gへの移動)
ワルラス的価格調整過程が働いて、超過供給を解消するように価格が pE から pF まで下落 する(点Gから点Fへの移動)
→ 均衡価格が下落するために、需要曲線がシフトした幅(線分GE)よりも均衡需給量の変化する 幅(線分xF xE)は小さくなる
x p
O
G E
F
xF xE pE
pF
需要曲線のシフト(4)
このように分解することによって以下の結論が得られる
(スライド8の図を参照)
需要の価格弾力性あるいは供給の価格弾力性のいずれかが大きけれ ば、均衡価格はあまり変化しない[図①、③、④]
供給の価格弾力性が需要の価格弾力性より大きければ、均衡需給量は 大きく変化する[図③]
供給の価格弾力性が需要の価格弾力性より小さければ、均衡需給量は あまり変化しない[図④]
需要曲線のシフト(5)
p p
x p
x O p
O
需要の価格弾力性:大
供給の価格弾力性:大 需要の価格弾力性:小供給の価格弾力性:小
需要の価格弾力性:小
供給の価格弾力性:大 需要の価格弾力性:大供給の価格弾力性:小
① ②
③ ④
需要曲線のシフト(6)
供給曲線がシフトする要因
1. 原材料費の変化
ビールの供給曲線は、原料である大麦や水の価格が上昇すれば 左側にシフトし、下落すれば右側にシフトする
2. 生産技術の変化
技術進歩により低コストで生産できるようになれば、ビールの供 給曲線は右側にシフとする
供給曲線のシフト(1)
需要曲線がシフトした場合の分析結果(スライドNo.4∼6)が同様に当てはまるこ とを、各自図を描いて確認せよ
供給曲線がシフトした場合、
• 需要の価格弾力性が大きいときは、均衡価格はあまり変化しないのに対して、均衡需給量 が大きく変化する
• 需要の価格弾力性が小さいときは、均衡価格が大きく変化するのに対して、均衡需給量は あまり変化しない
供給曲線のシフトの効果を分解すれば
• 供給曲線が左にシフトした場合、変化前の均衡価格のもとで超過需要が発生する
• ワルラス的価格調整過程が働いて、超過需要を解消するように価格が上昇する
→ 均衡価格が下落するために、需要曲線がシフトした幅よりも均衡需給量の変化する幅は 小さくなる
供給曲線のシフト(2)
比較静学を応用して課税の効果を分析する
問題:ある財に間接税(従量税)を課す場合、内税方式と
外税方式とで効果に違いがあるか?
間接税が課されれる場合、消費者が実際に支払う金額(税を含む) を消費者価格、生産者が手取りで受け取る金額(税を含まない)を 生産者価格と呼ぶ
内税方式:財の表示価格に税金を含める方式 外税方式:財の表示価格に税金を含めない方式
応用:課税の効果(1)
内税方式の場合
税額20円分供給曲線が上方にシフト
課税前と比較すれば、消費者の負担額 = 50 − 40 = 10円
生産者の負担額 = 40 − 30 = 10円
x p
O
E F
50 40 30
150 200
税額20 課税前 課税後
消費者価格 →
生産者価格 →
D S′
S
応用:課税の効果(2)
x p
O
E
G
50 40 30
150 200
税額20 課税前
課税後 消費者価格 →
生産者価格 →
外税方式の場合
税額20円分需要曲線が下方にシフト
課税前と比較すれば、消費者の負担額 = 50 − 40 = 10円
生産者の負担額 = 40 − 30 = 10円
S D′
D
応用:課税の効果(3)
応用:課税の効果(4)
内税方式では供給曲線が上方にシフトする
外税方式では需要曲線が下方にシフトする
課税後の需給量、消費者価格、生産者価格、消費者と生産
者の税負担額は、いずれの方式においても同じである
課税方式にかかわらず、間接税(従量税)の課税の様子は
下図のように表される
x p
O
50 E
40 30
150 200
税額 課税後の
消費者価格 →
課税後の 生産者価格 →
課税前の均衡
S D