初出: 「信託251号」, 信託協会, 2012.8 (10頁-58頁)
早稲田大学《企業法制と法創造》総合研究所HPへの全文掲載に関して、著者及び初出論文掲載媒体主催 者である信託協会の同意取得済み。
金融ADRにおける紛争解決のための判断基準
弁護士 簗 瀬 捨 治
*
《目次》
1.はじめに ... 4
(1)問題の所在 ... 4
(2)本稿の要約 ... 5
2.日本の金融ADR制度の紛争解決手続 ... 6
(1)金融ADR制度の発足 ... 6
(2)金融ADRにおいて採用されている紛争解決手続 ... 7
(イ)苦情処理手続き ... 7
(ロ)和解手続き ... 7
(ハ)調停手続き ... 8
(3)金融ADRにおける紛争解決のための判断基準の重要性 ... 8
(4)金融ADR制度関係法における判断基準規定の欠缺 ... 8
(イ)判断基準に関する金商法等の規定 ... 8
(ロ)金融ADR制度創設法の立法趣旨 ... 9
(ハ)金融ADRにおける紛争解決のための判断基準についての課題 ... 9
3.ADR一般における判断基準 ... 10
(1)日本のADRの歴史 ... 10
(イ)江戸時代の「内済」... 10
(ロ)明治時代の「勧解」... 11
(ハ)大正時代以降の「調停」 ... 12
(ニ)2004年ADR促進法制定以後 ... 12
(2)現行の日本法における国内ADRの判断基準 ... 13
(イ)ADR促進法 ... 13
(ロ)民事調停法 ... 14
(ハ)仲裁法による仲裁判断の判断基準 ... 16
(3)外国ADRの日本法が承認する判断基準 ... 18
(イ)外国仲裁判断の承認... 18
(ロ)国際仲裁における判断基準 ... 19
(4)「法の支配」の下でのADRにおける判断基準 ... 20
(イ)法の支配の意義と現代におけるその意義の転換 ... 20
(ロ)ADRにおける「法の支配」... 21
4.英国の金融ADRの判断基準 ... 22
(1)英国FOSのオンブズマンによる紛争解決のための判断基準 ... 22
(イ)英国FOSの沿革と規模 ... 22
(ロ)判断基準と手続きに関する英国の法令の規定 ... 23
(ハ)英国FOSの決定の裁判所による審査(judicial review) ... 25
(2)FIN-NETとINFOネットワーク ... 33
5.日本の金融ADRにおける紛争解決のための判断基準 ... 33
(1)金融ADRの目的... 33
(イ)金融ADR制度の対象金融サービス業法の目的条項 ... 33
(ロ)金融ADR制度創設法案の政府提案理由 ... 34
(ハ)委員会附帯決議および金融ADR制度創設法の附則 ... 34
(2)金融ADR制度の特異性 ... 35
(イ)金融制度の重要性 ... 35
(ロ)金融商品と金融サービスの特異性 ... 35
(ハ)金融制度のインフラストラクチャーとしての金融ADR制度... 36
(ニ)消費者保護の理念の適用について ... 36
(ホ)「行政目的ADR」としての金融ADR制度 ... 37
(ヘ)金融ADRの情報の収集、分析、共有と秘密保持義務の共存の必要性 ... 38
(ト)裁判所との間係 ... 39
(3)金融ADRの判断基準への紛争当事者等の要請 ... 40
(イ)紛争当事者等の要請... 40
(ロ)当事者の納得のいく事実認定の要請 ... 40
(ハ)簡易・迅速・柔軟な判断の要請 ... 41
(ニ)判断の正当性の要請... 41
(4)金融ADRの判断基準の法源 ... 41
(イ)金商法等の紛争解決に関する規定 ... 42
(ロ)ADR促進法 ... 42
(ハ)民事調停法1条、17条および14条の類推適用 ... 44
(ニ)仲裁法36条および45条 ... 45
(ホ)現代法の基本原則 ... 48
(ヘ)ソフトローおよび行為準則(慣習法) ... 48
(ト)金融ADRにおける先例 ... 49
(チ)「条理」の意味 ... 49
(5)判断基準設定のための指導理念 ... 50
(6)小括 ... 51
6.判断のためのチェックリストと今後の課題 ... 51
(1)判断基準のポジティブリスト(積極的要件) ... 52
(2)判断基準のネガティブリスト(消極的要件) ... 53
(3)今後の検討のための問題提起 ... 54
(イ)指定紛争解決機関の課題 ... 54
(ロ)金融サービス業者の課題 ... 55
(ハ)国の機関の課題 ... 55
1.はじめに
(1)問題の所在
日本の金融ADRに用いられているADR(裁判外紛争解決手続)の手法は、和解の仲介(調 停)である。しかしそこで最終的に提示される「特別調停案」は、紛争当事者たる金融サ ービス業者に対して限定的であるが拘束力を有し、また「特別調停案」の集積が日本にお ける金融サービス業の在り方を形成することが期待される。その意味で、「特別調停案」は、 紛争当事者に受諾するかどうかを任せられた和解案にとどまることなく、日本の金融 ADR が示す判断としての重みを持つ。それゆえに、日本の金融 ADR における判断基準を検討す るにあたっては、調停における判断基準を主たる対象とするものの、紛争の終局的な解決 をもたらす仲裁判断の判断基準をも視野に入れて、これを検討するのが適切であると考え る。
ADR(裁判外紛争解決手続)における判断基準を明らかにしようということは、無謀で実 りの期待されない試みかもしれない。ADRにおいては、結局のところ紛争解決にあたる第三 者への信頼が重要で、法がどのように解釈・適用されたかではなく、誰が紛争当事者の主 張を聞いて解決の方向性や解決策を示唆したかが、紛争当事者間の納得を得るうえでの決 め手かもしれないからである。ADRは、公開されず歴史の表通りに出てこなかったために必 ずしも明らかでないが、それを支えてきたのは、それぞれの社会で一目置かれてきた「人 物」だったのであり、それは今日も変わらないと言うべきかも知れないからである。
それにもかかわらず、金融 ADR 制度が日本に発足してそれが動き出しはじめたこの時に あたって、本稿では、金融 ADR における紛争解決のための判断基準をあえて探って、それ を少しでも明らかにすべく試みてみたいと思う。金融 ADR は紛争解決委員への個人的信頼 をその基礎としているわけではない。金融 ADR が紛争解決制度として社会に受け入れられ るには、解決基準の正当性が求められると考えるからである。紛争解決機関の中立性や公 正さだけでは充分でない。
金融 ADR は司法と行政の中間にあって、一方では金融サービス業の顧客の保護という個 別救済を担うとともに、他方では金融サービス業の規制と監督を行う行政当局を助けて健 全な業界慣行を確立する役割を担っている。そのような金融 ADR の位置づけの中で、その 判断基準はどのようなものであるべきであろうか。
金融 ADR で紛争解決委員の提示した「特別調停案」を受諾しない当事者が、同一の請求 について訴訟を提起したとき、裁判所は「特別調停案」をどのように扱うのだろうか。裁 判所は金融 ADR での最終判断を示す「特別調停案」をかえりみることなく、新たな訴訟と して通常通り審理すればよいとの見解もあろう。裁判所は、「特別調停案」に金融に関する 専門的知見が反映されていると認めて、それを何らかの形で考慮すべきだと考えるが、こ の見解を取る場合、裁判所は、どのような手法により「特別調停案」を考慮し、その判断
基準として何を求めるであろうか。
民法、商法、金融サービス業法等制定法とそれらに基づく諸規則が金融 ADR における紛 争解決のための判断基準を提供することは言うまでもない。これらの法令の適用結果をふ まえて、金融ADRにおいてさらに適用すべき判断基準を検討するのがここでの課題である。
(2)本稿の要約
本稿は、金融ADRにおける紛争解決のための判断基準は、制定法や判例の適用結果に拘束 されるか、という問題を検討し、「金融ADRにおける紛争解決のための判断は、金融ADRの 目的に沿って「良識」によってなされるべきであって、そのような判断であれば制定法や 判例の適用結果から離れてよい」、と結論する。そのような判断は、日本法の認めるところ であって、その集積は金融の分野における法の形成を促すものと期待される。
以下では、まず、2.において、日本の金融ADR制度の発足とそこで採用されている紛争 解決手続について概観する。法令の中に、金融 ADR の判断基準を定めるための規定はみあ たらない。
判断規準を定めた規定がないなかで金融ADRの判断基準を明らかにするために、次に3. において、ADR一般に視野を広げて、日本法の下でのADR一般における判断基準を検討する。 民事調停の紛争解決基準は、「条理にかない実情に即した」解決であり、外国ADRの承認制 度は、日本法が外国 ADR の判断基準につき、日本の公序良俗に反しない限り、これを日本 法の認めるものとしている。ADRは「法の支配」を満足するものでなければならないが、現 代の「法の支配」の原則は、ADRの判断基準に広い自由度を与えている。
また、4.において、我が国に先だって金融ADR制度を発展させてきた英国の判例をみて、 英国における金融ADRの判断基準を検討する。英国の2000年金融サービス法は、金融ADR のオンブズマン(手続実施者)は、事案の実情に照らして”fair and reasonable”であると 考えるところを規準として判断する権限があると定め、英国の判例はこの規定の意味する ところは、「常識はずれ」に当たらない限りオンブズマンはその判断に当たって主観的であ ることが許されるとしている。
日本法の下でのADR一般における検討の結果を踏まえ、また4.で明らかにされた英国法 に学びつつ、5.において、日本の金融 ADR における紛争解決のための判断基準を検討す る。そこでは、まず(1)で、金融 ADR 制度の対象金融サービス業法等のなかに金融 ADR の目的を探る。金融ADRの目的は、「金融サービス業の業務の公共性に鑑み、業務の健全か つ適切な運営を期すると共に、取引の公正さを確保することによって公正な価格形成等を はかり、金融サービス業に対する国民の信用の維持と顧客の保護を図ることにある」と解 される。さらに(2)で、金融商品と金融サービスの特異性、金融制度のインフラストラ クチャーとしての金融ADR 制度など金融ADR 制度の特異性を検討する。次に(3)で、金 融 ADR の判断基準に対する紛争当事者双方と金融サービス業者の監督行政機関の要請を検 討する。そのうえで(4)で、先に見た日本法の下での ADR 一般における判断基準を踏ま
えて、金融 ADR の判断基準に適用または類推適用されるべき法源を整理し、さらに(5) で、金融 ADR 制度の発足を促した紛争解決のニーズに注目して判断基準設定のための指導 理念を整理する。そして「(6)小括」で、「金融 ADR における紛争解決のための判断は、 金融 ADR の目的に沿って良識によってなされるべきであって、そのような判断であれば制 定法や判例の適用結果から離れてよい」、と結論する。
最後に6.で、以上を踏まえて、金融ADRにおける判断のためのチェックリストをまとめ、 また今後の検討のための課題を提示する。
2.日本の金融ADR制度の紛争解決手続
(1)金融ADR制度の発足
金融商品取引法(以下「金商法」という。)等の一部を改正する法律(2009 年法律 第58号)(以下「金融ADR制度創設法」ということがある。)により、我が国で金融ADR 制度が創設され、2010 年 10 月1日をもってその事業が開始された
1
第一に裁判外紛争解決制度の重要性の認識である。1950年以降の我が国における紛 争解決制度を見ると、裁判所による裁判や裁判所の関与する和解と調停が広く国民に 受け入れられ、民間の第三者を入れた紛争解決制度としての裁判外紛争解決(ADR)制 度の必要性はそれほど強く認識されてこなかったといえよう。ところが 2000 年以降、 裁判所の負担が増えていることと、紛争の解決に専門的な知識経験を要し訴訟手続に よらない紛争解決がより望ましいと思われる分野の紛争が多数見られるようになって きたこともあって、裁判所外での裁判外紛争解決制度が重要であることが主張される ようになり、それを促進するための法律上の整備がなされてきた。2005 年の仲裁法と 2006年の「裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律」(以下「ADR促進法」とい うことがある。)の制定である。
。ここで金融ADR 制度というのは、金融サービス業者に対する顧客の苦情と両者間の紛争を、訴訟手続 によらず、金商法等に従って内閣総理大臣の指定を受けた指定紛争解決機関の行う裁 判外紛争解決手続により解決を図るための制度である。この制度の発足をもたらした 背景として、日本における二つの法の分野における近年の発展を認めることができる。
第二に消費者保護の要請のたかまりである。2004年にそれまでの消費者保護基本法 は「消費者基本法」と改められて、消費者基本法は、消費者と事業者との間に情報の 質および量並びに交渉力等の格差があることを認識したうえで、消費者に被害が生じ た場合には適切かつ迅速に救済されることが消費者の「権利」のひとつであることを 尊重すべきことを、国、地方公共団体および事業者に求めている(同法1条、2条、 5条)。
訴訟によって紛争を解決しようとすると資金と時間が必要で、少額の苦情を裁判で 解決するのは困難だと指摘されている。法に従った裁判手続は、そのような苦情を裁
判による正義の実現の仕組みの外に放置してきたとの批判もある。金融 ADR 制度は、 金融サービスをめぐる苦情と紛争について、裁判所外での裁判外紛争解決制度を使っ て、顧客に簡易迅速な「救済」を与えることにより、この問題を解決しようとする試 みである。
(2)金融ADRにおいて採用されている紛争解決手続
金融サービス業者は、内閣総理大臣が指定した指定紛争解決機関と、法律に規定さ れた内容の手続実施基本契約を締結する義務を負い(金商法では 37 条の7)、同契約 によって指定紛争解決機関またはその紛争解決委員が開始する苦情処理手続または紛 争解決手続に、正当な理由のない限り、応ずる義務を負う(金商法では156条の44第 2項二号)。また、当事者に提示する「特別調停案」を原則として受諾する義務を負う
(金商法では156条の44第2項五号、第6項)。「特別調停案」はこのように金融サー ビス業者を拘束するが顧客はこれに拘束されない。こうして「特別調停案」は、限定 的であるが、片面的拘束力を有する。同じく裁判外で紛争を解決するための仲裁法に よる仲裁では、仲裁人が両当事者の意思によって選定され、仲裁裁定は両当事者を拘 束するから、金融ADR制度は、これらの点で、仲裁と異なる。
金融 ADR には、(イ)苦情処理手続、(ロ)和解案の作成と受諾を勧告する手続き、
(ハ)特別調停案を作成し理由を付して当事者に提示する手続きという、三つの段階 がある。各段階における指定紛争解決委員の役割とそこで求められる判断の目的ない し内容は異なる。
(イ)苦情処理手続き
ここでは、顧客の問い合わせに対して、迅速に丁寧に解答することが求められる。 紛争の内容をなす苦情については、その内容から将来の紛争解決のための要素とな る事実を聞き取り、正確に記録することが重要である。金融サービス業者への問い 合わせとそれに基づいて顧客に回答し説明することもあろう。金融サービス業者段 階でとられた苦情処理手続きの内容の調査も必要になるであろう。指定紛争解決機 関における紛争解決のためのファイルは、すでにここからはじまる。
この段階では、指定紛争解決機関職員の独自の判断は、重要なことについてはな されないと考えられる。もっとも、職員の顧客に対する対応と説明内容は、指定紛 争解決機関の施策と類似事案についての紛争解決委員の判断の積み重ねによること になろう。したがって、これらについての職員の教育が重要になる。
(ロ)和解手続き
紛争解決委員によるこの手続きは、ADR 促進法にいう「和解の仲介」にあたり、 同法 のいう「裁 判外紛争解決 手続」に含 まれる。これ は、いわゆ る調停、英語 で
mediationまたは conciliationと言われるものにあたる。
(ハ)調停手続き
特別調停案は金融サービス業者に対して拘束力(但し後述する制限に服する)を 有するが顧客に対しては拘束力をもたない。当事者者双方とも同一の請求について 裁判所の判断を求めることができるので、仲裁判断とは異なるが、この特別調停案 にかかる手続きにおける紛争解決委員の判断基準は、この金融サービス業者に対す る拘束力ゆえに、上記(ロ)の手続きにおける判断基準に比べて、より仲裁におけ る判断基準に類似すると解するべきであろう。
(3)金融ADRにおける紛争解決のための判断基準の重要性
紛争解決委員は「特別調停案」の提示に先立って和解案を作成し当事者にその受諾 を勧告する。この和解案は当事者の受諾を待って和解の成立にいたるもので、当事者 が紛争解決委員の意見または判断に拘束されることはない。しかしながら、紛争解決 委員が作成しその受諾を勧告する和解案は、それが受諾されないときに提示される「特 別調停案」とその骨子において整合性のあるものであろうと予想される。そうである からこそ、和解案の受諾勧告は当事者に対してそれを受諾する強力なインセンティブ を与えることになろう。こうして「特別調停案」の判断基準は、金融 ADR 機関の苦情 処理と紛争処理の全過程を通じる判断基準を指導することになろう。
「特別調停案」の判断基準は、金融ADR機関の苦情処理と紛争解決の全過程を指導 する判断基準となるにとどまらないであろう。後に述べるように、紛争当事者たる金 融サービス業者も顧客も、「特別調停案」を受諾しないで紛争解決手続の対象となった 請求について訴訟を提起して裁判所の判断を求めることができる。その訴訟手続は、
「特別調停案」を作成した紛争解決委員の判断を審査するものとはされていない。制 度上は、当該請求が認められるか否かを審理の目的とするもので、先行する金融 ADR 機関による紛争解決手続から切り離された独立の手続きとなっている。しかしながら、 裁判所における審理の実際においては、「特別調停案」で示された判断が、紛争の対象 となっている金融取引についての専門的知見を反映したものでありまた金融 ADR 制度 の持つ行政目的を実現するためのものであることから、裁判所の判断に重要な影響を 与えるものと予想される。その意味で、「特別調停案」の判断基準は、裁判所による承 認に支えられて、金融サービス業のあり方に関する法の形成を促すものとなる可能性 を持っている。
(4)金融ADR制度関係法における判断基準規定の欠缺
(イ)判断基準に関する金商法等の規定
金商法等の金融ADR制度の設立根拠法に、金融ADRのための判断基準を示す一般的 な規定はない。金融 ADR 制度の創設のための各金融サービス業法の改正に際して、各 業法の目的規定(第1条)は改正されていない。指定紛争解決機関に関する一連の規 定が、金融サービス業に関する各業法の改正により盛り込まれたが、金融 ADR 制度の 目的、基本理念、および指定紛争解決機関と紛争解決委員の判断のために与えられる 権限や裁量の範囲や判断基準についての規定は盛り込まれていない。
金商法では、「特別調停案」を提示するための要件を定める156条の44第2項五号 があるにとどまる。このほかに、156条の44 第4項四号は、ADR 促進法6条五号と同 様に法令の解釈適用に関し専門的知識を必要とするときは弁護士の助言を受けられる ようにするための措置を、指定紛争解決機関の業務規定に定めていることを求めてい るが、この措置が判断にどのように機能すべきかを定めた規定はない。
金融ADR制度の一般的な目的は、金融サービス業法のそれぞれの目的条項から、こ れを総合的に解釈することができよう。金融 ADR 制度の具体的な目的、基本理念、お よび指定紛争解決機関と紛争解決委員に与えられた権限と裁量の範囲や判断基準につ いては、金融ADR制度創設法に定めはなく、これらも解釈に委ねられている。
(ロ)金融ADR制度創設法の立法趣旨
金融ADR制度創設法の立法過程で、金融ADRにおける紛争解決のための判断基準は どうあるべきであると考えられていたのであろうか。
金融ADR制度創設法案の政府提案理由と同法律案を可決したときの2009年4月22 日衆議院財務金融委員会の附帯決議および 2009 年6月 16 日参議院財政金融委員会の 附帯決議のいずれも、金融 ADR における紛争解決のための判断基準については、何ら 述べていない。
(ハ)金融ADRにおける紛争解決のための判断基準についての課題
金融ADRにおける紛争解決のための判断の基準をどのように考えるべきかは、紛争 解決委員にとって早急の課題である。「特別調停案」を提示するかどうかまたは提示の 時期については、「和解案の受諾の勧告によっては当事者間に和解が成立する見込みが ない場合において、事案の性質、当事者の意向、当事者の手続追行の状況その他の事 情に照らして相当であると認めるときは、金融商品取引業等業務関連紛争の解決のた めに必要な特別調停案を作成し、理由を付して当事者に提示することができる」(金商 法では156条の44第2項五号)と規定しているが、その内容をどのように決めるべき かについて、金融ADR制度を定めた金商法等は無言である。強いていえば、「紛争の解 決のために必要な」内容であることが求められていると言うこともできようが、これ では何らの指針を示していないと言うほかない。
金商法等が判断基準を明らかにしていないなかで、紛争解決委員は判断を迫られて
いる。紛争解決委員が紛争解決のための「和解案」や「特別調停提案」を作成するた めの判断基準を、指定紛争解決機関がその業務運営のための規則や細則で定めようと したとき、それはどのような規準であるべきであろうか。ADR一般の判断基準まで振り 返り、また金融 ADR 制度の目的を踏まえ、更に金融ADR 実務の積み上げを通して、適 用すべき判断基準を明らかにしていかなければならない。
3.ADR一般における判断基準
金融ADRにおける紛争解決手続は、訴訟手続によらずに第三者が関与して民事上の紛争の 解決を図る手続である。このような手続きは、訴訟手続きにより裁判で紛争を解決する手 続きと区別して、裁判外紛争解決手続(ADR)と呼ばれ、民間の第三者が主催する仲裁およ び斡旋とか調停と呼ばれる和解の仲介が含まれる。その手続主体には国(裁判所)も含ま れ、日本の裁判所が関与して行われるADRには、裁判上の和解と調停がある。
上記2.で述べたように、金融ADR制度創設法のなかには、金融ADRにおける紛争解決の ための判断基準について定めた特定の規定がない。そこで、金融 ADR における紛争解決手 続はADR の一種であることから、はじめに ADR一般に採用される判断基準を検討しよう。 そのうえで、ADR一般に採用される判断基準を基礎として、金融ADRのあるべき判断基準を 明らかにしたいと思う。
(1)日本のADRの歴史
(イ)江戸時代の「内済」
明治維新の後に外国法を継受して整備された一連の制定法により、日本の法制史 は、後述する裁判上の和解の伝統を別として、断絶をみる。
江戸時代(1596 年から 1868年)の公権力の関与しない第三者の関与した紛争解 決がどのようなものであったかは明らかでない。しかしながら、落語や講談には、 横丁のご隠居さんが町内の揉め事を解決していたとうかがわれるような話がよくで てくる。
大岡裁きは南町奉行の大岡越前守忠相
2
によるものであるから、国の関与した紛争 解決における判断である。その判断は、予め定められた法や規則に縛られない柔軟 な判断として、長い間世の賞賛を得てきた
3
。三両を拾った者が落した者にその三 両を受け取れと主張し、落した者はこれを受け取らないといって両者間に紛争があ る。この紛争の内容自体に粋な面白さがあるが、伝えられているところによると、 大岡越前守自ら一両を出して、両者に二両ずつを与える裁定をしている。「三方一両 損」である。法を適用すればその結果は、おそらく三両はお上がこれを貰い受ける ことになったと想像される。この裁定において考慮されている価値は、次のような ものであろう。
① 三両を落としたものの自己の過失を認める潔さ
② 三両を拾ったものの理由なく利得すべきでないという正義感
③ 両者の考え方に対する支持を明示することと、両者の紛争の解決による関係の 回復によってもたらされる平穏さを維持することの価値
落語や講談のねたにしか根拠はないが、日本には杓子定規な判断ではない、柔軟 な判断をよしとする庶民の伝統的な価値観があったことがうかがわれる。そこでは、 法を適用した結果から離れた柔軟な解決が、喝采を受けている。
ADRのうち、国の関与する和解は活発に行われた。民事裁判にほぼ相当する江戸時 代の裁判手続は、刑事裁判に相当する「吟味筋」に対して、「出入筋」と呼ばれたと いう。出入筋においては一般に、公権的・法規的裁断である「裁許」よりも、両当 事者間の互譲によって具体的合意を導く「内済」のほうが、紛争解決の原則的方法 として奨励されたという。私的紛争に関する裁判は為政者の恩恵的行為であると言 う思想も背景にあったという。「内済」の仲介をすることを「扱」といい、仲介者の ことを「扱人」と呼ぶ。親族、町村役人や社寺などのほか、公事宿
4
も扱人として 積極的に活動し、「懸合茶屋」などで交渉にあたったという。当事者間で合意された 和解案は、それを奉行所に提出し、承認の手続きを経ることによって、「出入筋」の 判決である「裁許」と同様の効力が与えられたという。審理の進行中も裁判役人は 常に内済の成立に努めた
5
。幕府は「内済」を奨励し、ときには威嚇あるいは身体 的強制すら用いて、極力当事者間の和解によって紛争を解決させようとしたという
6
。
「内済」の伝統は明治以後も、明治時代の裁判所によって行われた「勧解」、さらに 今日の「調停」の制度に受け継がれた。
(ロ)明治時代の「勧解」
「勧解」とは、明治時代(1868年から1912年)、裁判所によって行われた和解の ことである。裁判所では、和解が勧奨され、和解の勧奨は裁判官の重要な任務であ り、勧解の処理件数は極めて高かったという
7
明治8年以降、勧解について再三にわたって布達がなされているが、そのうち判 断基準に関するものとして、明治17年(1884年)6月24日司法省達丁第23号の 第5条がある。同条は、「勧解ヲ為スニハ勉メテ願人ノ実情ヲ得ルニ注意シ双方ヲ勧 誘調和セシムルコトヲ主トスベシ」と定めている。ここには、現行民事調停法1条 の、同法は、「当事者の互譲により、」条理にかない「実情に即した解決を図る」こ とを目的とするとの規定や、裁判外紛争解決手続の基本理念としてADR促進法3条 が、「紛争当事者の自主的な紛争解決の努力を尊重しつつ、公正かつ適正に実施さ れ、」「紛争の実情に即した」迅速な「解決を図るものでなければならない」と定め ている規定の中に認められる要素と同様の要素が認められる。
。
(ハ)大正時代以降の「調停」
明治憲法下の司法裁判所の構成を定めた裁判所構成法が明治23年に公布・施行さ れた。同じ年に旧民事訴訟法が公布され(1891 年施行)、同法により「勧解」の制 度は廃止され、訴訟中の和解と起訴前の和解の制度が設けられ、仲裁制度が新たに 設けられた。この和解の制度は、従来の「勧解」ほどには利用されなかったという
8
第一次世界大戦後の不況は、民事紛争の増大をもたらした。これに対応するため の施策の一つとして、1922年の借地借家調停法から始まって一連の調停法が制定さ れた。小作調停法(1924年)、商事調停法および労働争議調停法(1926年)、金銭債 務臨時調停法(1932年)、人事調停法および鉱業法中の鉱害賠償規定(1939年)な どである。太平洋戦争開始後に、民事紛争の敏速な解決をはかるため、戦時民事特 別法(1942年)が制定され、戦後に労働関係調整法(1946年)、人事調停法(1947 年)、民事調停法(1951 年)が制定されて、各種の調停法が改革され整理統合され た。現行法の下では、民事調停法、家事審判法、労働関係調整法、労働組合法、個 別労働関係紛争の解決の促進に関する法律(2001年制定)、労働審判法(2004年制 定)等
。 仲裁制度もあまり利用されなかった。
9
に従って、調停が広く行われている
10
。これに対して民間の第三者によるADR は、交通事故などの特定の分野を除いて、一般に活発に行われていない。
(ニ)2004年ADR促進法制定以後
裁判外紛争解決手続の重要性が増している状況にあるとの認識のもとに、2004年 にADR促進法が制定された。同法の対象とする「裁判外紛争解決手続」は、訴訟手 続によらないで、第三者が関与して、民事上の紛争の解決を図ろうとする手続きで あって、これは裁判所の関与する裁判上の和解手続および調停等と、裁判所の関与 しない仲裁および和解の仲介からなっている。ADR 促進法は、このような「裁判外 紛争手続」一般についてその基本理念を定め、手続きを行う者の間の連携と協力お よびADR促進のための国と地方公共団体の責務を定める。それとともに民間事業者 による和解の仲介を促進するために民間紛争解決手続の業務について法務大臣の認 証制度を設けている。
このようにADR促進法は、裁判所の関与しない民間の第三者によるADRの促進を 目的としているが、裁判所の関与する和解が引き続き活発に行われているのに対し て、裁判所の関与しないADRによる紛争解決は、日本において行われる国際的なADR を含めて、一般に依然として活発でない。裁判所における判決または裁判所の関与 する裁判上の和解や調停による和解の数に比べて、極端に少ない。海運集会所や日 本商事仲裁協会、または弁護士会が設置した紛争解決センターなどのADR機関に持 ち込まれる件数は多くない。
日本における裁判所の関与しない裁判外紛争解決は、外国に比べて際だってその
数が少ない。これは、1990年代以降の外国における急速な国際仲裁やメディエーシ ョンの発展に対して、顕著な違いを示している。しかし裁判所での裁判外紛争解決 の数は多く、両者を併せればその件数は他の国の場合と大きな違いはないと思われ る。
(2)現行の日本法における国内ADRの判断基準
裁判所が関与する調停や和解の手続きと調停案や和解案の判断基準については、裁 判所が関与する手続きであることによって、「法の支配」の要請は満たされているとの 推定を受けてきたと思われる。そのために、裁判所が関与する ADR の判断基準につい ての問題が、重要な問題として改めて問われる機会が少なかったのではなかろうか。 例えば、裁判所における和解手続において、裁判官が当事者を交互に呼び込んで当事 者と面談したあとに和解が不調になった後に、同一の裁判官が判決した場合、和解手 続中にとった手続きが手続保障に反している恐れがあるのではないかということはと りたてて問題にされてこなかったようである。
日本でのADRは、裁判所の関与するADRがその大半であったことから、国内ADRの 判断基準に関しての議論は、調停に関する制定法の解釈に集中している。裁判所の関 与しない裁判外紛争解決手続における判断基準については、あまり議論されてこなか ったようである。ここであらためて、日本における ADR の判断基準に関する現行法の 諸規定を概観してみよう。
(イ)ADR促進法
① 1条(裁判外紛争解決手続)
ADR 促進法1条は、同法の対象とする裁判外紛争解決手続を定義して、「訴訟 手続によらずに民事上の紛争の解決をしようとする紛争の当事者のため、公正 な第三者が関与して、その解決を図る手続をいう」と定めている。「公正」でな ければならないという要件を除いて裁判外紛争解決に関与する「第三者」には 制限がなく、これにはいわゆる行政型 ADR を行う国、地方公共団体、調停など の裁判所が関与するいわゆる司法型 ADR を行う裁判所、および民間事業者や単 発的に ADR を行う民間人が含まれる。したがって、仲裁、和解の仲介などの民 間ADRと裁判所の関与する調停などのADRの双方がこれに含まれ、同法はその うち民間事業者の行う和解の仲介について認証制度を定めている。金融 ADR 制 度は、このうちの民間事業者が行う「和解の仲介」による紛争解決を目的とし た制度である。
② 3条1項(裁判外紛争解決手続の基本理念)
ADR 促進法3条1項は、裁判外紛争解決手続の基本理念を定めて、「裁判外紛 争解決手続は、法による紛争の解決のための手続として、紛争の当事者の自主
的な紛争解決の努力を尊重し、公正かつ適正に実施され、かつ、専門的な知見 を反映して紛争の実情に即した迅速な解決をはかるものでなければならない。」 と規定している。この理念は、同法1条に定義されたすべての「裁判外紛争解 決手続」に適用される。
③ 6条(法務大臣の認証の基準)
ADR促進法6条は、民事紛争解決手続を業として行う者がその業務について法 務大臣の認証を受けようとするときに適合すべき諸基準を定め、同条五号はそ のひとつとして、手続実施者が弁護士でない場合に紛争解決手続の実施に当た り法令の解釈適用に関し専門的知識を必要とするときに、弁護士の助言を受け ることができるようにするための措置を定めていることを求めている。
④ ADR促進法案に対する付帯決議
ADR 促進法の審議の過程でなされた衆議院法務委員会における付帯決議第三 項は、「民間団体等が行う裁判外紛争解決手続の開始から終了に至るまでのルー ルに関し、国際的な動向等も視野にいれ、合意が得られない場合の適用原則に ついて、必要に応じ法整備を含めて検討すること。」としている。同様に参議院 法務委員会における付帯決議第六項は、「民間団体等が行う調停、あっせん等の 手続の開始から終了に至るまでの手続ルールに関し、紛争当事者間で合意が得 られない場合の適用原則の法令化について、民間紛争解決手続の多様性も配慮 した上で、今後の国際的動向等を勘案しつつ引き続き検討すること。」としてい る。また、参議院法務委員会の付帯決議第四項を見ると、「手続実施者が弁護士 でない場合において、民間紛争解決手続の実施に当たり法令の解釈適用に関し 専門的知識を要するときに、弁護士の助言を受けることが出来るようにするた めの措置については、公正かつ適正な手続を確保し、裁判外紛争解決手続利用 者の利益を損なうことのないように十分に配慮すること。」としている。これら の付帯決議から、立法者はADR促進法によるADRの促進を図るに当たり、手続 きルールの公正さと適正さを確保するための法整備等の必要性につき引き続き 検討すべきであると考えていたことがうかがわれる。このことから、当面はADR の実務の推移を見るというのが立法者の意図であったことがうかがわれる。
(ロ)民事調停法
民事調停は、裁判所の関与する民亊に関する紛争の解決手続であるが、訴訟手続 によらない紛争解決手続という意味で「裁判外」紛争解決手続である。それは当事 者間の合意による紛争の解決を目指している。調停は、日本において長い間に渡っ て多数の案件を重ねてきた実績を有し、米国や英国の“court-annexed ADR” よりは るかに長い歴史がある
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。民事調停における判断基準は、裁判外紛争解決手続の判 断基準として、おそらく日本において最も真剣に検討され議論されてきたものであ
ろう。
① 1条(判断基準)
民事調停法1条は調停制度の本旨を明らかにした規定で、民事調停は「民事に 関する紛争につき、当事者の互譲により、条理にかない実情に即した解決をは かることを目的とする」と規定している。この規定は、訴訟手続によらず当事 者の和解による紛争解決を目指す ADR における判断基準を示したものであるか ら、この判断基準は、裁判所が関与せずに民間の第三者が関与する同種の ADR の判断基準としても妥当すると理解してよいと考える。
同条は、手続きの基本的在り方は「当事者の互譲」であり、紛争解決基準は「条 理にかない実情に即した」解決であると定めている。紛争の解決は当事者の合 意によるのであるから、その当事者の合意は「条理にかない実情に即した」も のであるべきことになる。調停機関の判断基準は端的に「条理」とされている。 このことから、民事調停の判断基準と実体法との乖離が問題とならざるを得な いが、少なくとも、「条理」が実体法を補うものとして調停の判断を法にかなっ たものとしていると解されよう。こうして民事調停は新しい権利の生成・承認 のフォーラムとして権利形成(創造)機能があると指摘されている
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② 14条(調停の不成立)
。
14条は、調停委員会は、「成立した合意が相当でないと認める場合において」、 裁判所が 17 条の決定をしないときは、「調停が成立しないものとして、事件を 終了させることができる」と規定している。当事者間では合意が成立しても、 その内容が違法であったり、または条理に照らして著しく妥当性を欠き、調停 委員会としては承認し得ないような場合には調停の成立を認めない。調停委員 会による合意内容の相当性の判断を求めていることは、民事調停が裁判所にお ける司法的な紛争解決制度として、正義・衡平の理念の実現に寄与する公的な ものであることを示している。このことから、14条における判断基準は、正義 と衡平であるが、これらは1条の「条理」に包含されよう。
③ 17条(調停に代わる決定)
17 条は調停に代わる決定をする権限を裁判所に付与する規定で、裁判所は、 調停委員会(調停主任(裁判官)一人と民事調停委員二人以上で構成される。) の調停が成立する見込みがない場合において相当と認めるときは、「当該調停委 員会を組織する民事調停委員の意見を聞き、当事者双方のために衡平を考慮し、 一切の事情を見て」、職権で、「当事者双方の申立ての趣旨に反しない限度で、 事件の解決のために必要な決定をすることができる」と規定する。
「当事者双方のために衡平を考慮し」とは、1条の「条理にかない」と同じ趣 旨であり、「一切の事情を見て」とは、同じく1条の「実情に即した解決を図る」 と同じ意味である。決定の規範となるのは、法規そのものはなく、条理自体で
ある
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条理にかなった解決とは3つの場合を総称するというとの見解がある
。即ち、調停に代わる決定に当たって裁判所が拠るべき規範(決定規範) は、調停機関が調停をするに当たって拠るべき規範(調停規範)と異ならない ことになる。それは、1条にいう「条理」にほかならない。
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このうち第2の任意法規の拘束からの解放ということを別の言い方で説明す ると、任意法規の適用結果に拘束されない解決であっても条理にかなった解決 であると言うことができるということになる。さらに言い換えれば、任意法規 を適切と考えるところに従って適用した解決であって、そこでは当該実定法の 解釈が判例による解釈に合致しているかどうかは問われないと言うこと意味す る。
。即ち、 第1に、民商法などの実体法規、または慣習法や判例法をも含めた実定法にか なった解決。第2に、事案に任意法規を当てはめたのでは妥当な解決が得られ ないときに、任意法規の拘束から離れて、事案の実情に応じた妥当な解決。そ こには自由な法創造があるという。第3に、当該紛争を解決すべき実体法規が 欠缺しているときに、直接的に条理そのものを規準として為される解決。法規 等の解釈や信義則や権利濫用などの一般条項の適用によっては妥当な解決が得 られないときである。調停規範ないし決定規範としての条理は、普遍的に存在 する社会通念を意味するとも言えよう。市民の共通感覚からして公正と考えら れるものと言っても良いという。
(ハ)仲裁法による仲裁判断の判断基準
① 36条1項(仲裁判断の判断基準)
仲裁法36条1項は、「仲裁廷が仲裁判断において準拠すべき法は、当事者が合 意により定めたところによる。」と規定したうえで、2項は、この合意がないと きは事案の最密接関係地の法を適用しなければならない旨規定している。その うえで、同法第3項は、「仲裁廷は、当事者双方の明示された求めがあるときは、 前二項の規定にかかわらず、衡平と善により判断するものとする。」と規定して いる。そのうえで、同条4項は、「契約があるときはこれに従って判断し、当該 民事上の紛争に適用することができる慣習があるときはこれを考慮しなければ ならない」と規定している。
上記1項ないし3項の規定によれば、仲裁判断は法を適用してなされなければ ならない。後記②で述べる45条2項の趣旨から、仲裁人による法(強行法規を 除く)の適用は、事案に即して仲裁人が妥当と判断するところによってよい。 当事者の明示された求めがあるときに限って、法適用の結果をはなれて「衡平 と善」により判断すべきものとされている。「衡平と善」の意味については規定 がない。
② 45条2項(仲裁判断の承認拒否事由)
仲裁判断は、仲裁法45条2項に列挙する事由がある場合を除いて、確定判決 と同一の効力を有する(仲裁法 45 条1項)。このことから、現行の日本法は、 仲裁において行われる判断を、仲裁法45条2項の事由がある場合を除いて、法 に従った判断と認めて日本の司法制度のなかでの適正な紛争解決と認めている と理解される。
仲裁法45条2項に列挙する仲裁判断の承認拒否事由は、下記のとおりである。 (ⅰ) 仲裁合意が、効力を有しないこと。(同項一号、二号)
(ⅱ) 当事者が仲裁人の選任手続または仲裁手続において、仲裁地の国の法令に より必要とされる通知を受けなかったこと。(同項三号)
(ⅲ) 当事者が、仲裁手続において防禦することが不可能であったこと。(同項 四号)
(ⅳ) 仲裁判断が仲裁合意または申し立ての範囲を超えていること。(同項五号) (ⅴ) 仲裁廷の構成または仲裁手続が、仲裁地の国の法令の規定に違反するもの
であったこと。(同項六号)
(ⅵ) 仲裁地の国の法令によれば、仲裁判断が確定していないこと、または仲裁 判断がその国の裁判機関により取り消され、若しくは効力を停止されたこ と。(同項七号)
(ⅶ) 申し立てが、日本の法令によれば、仲裁合意の対象とすることができない 紛争に関するものであること。(同項八号)
(ⅷ) 仲裁判断の内容が、日本における公の秩序または善良の風俗に反するこ と。(同項九号)
同項七号にいう仲裁判断の取消事由は、上記の(ⅵ)がないほか上記の事由と実 質的に同一の事由とされている(44条1項)。
上記の拒否事由をみると、(ⅱ)、(ⅲ)、(ⅴ)および(ⅵ)は「手続保障」に関す ることで、(ⅰ)、(ⅳ)、(ⅶ)および(ⅷ)が仲裁判断の内容に関するものである。 これらのうち、仲裁による紛争解決の対象となった紛争についての判断基準に かかわるものは、(ⅷ)に限られているといえよう。
仲裁判断の内容について、それが日本の公の秩序または善良の風俗に反するこ とを除いて、裁判所は当該仲裁判断の承認を拒否しないしそれを取り消さない との規定は、裁判所は、公序良俗に係る法を除いて、仲裁人の法の適用を審査 しないということを意味する。言い換えれば、裁判所は、仲裁人が、公序良俗 に係る法を除いて、自ら妥当と考える法の解釈をすることを認める。仲裁判断 が、公の秩序または善良の風俗に反するときに限って、即ち一般には強行法規 に違反するときに、裁判所は当該仲裁判断の承認を拒否しそれを取り消すこと ができる。
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(3)外国ADRの日本法が承認する判断基準
外国を仲裁地とする仲裁判断は、仲裁法に従った仲裁判断の承認という枠組みによ って、日本法により承認されている。このことをもって、国際仲裁における判断基準 は、日本法が認めるADRの判断基準の一部をなすと考えてよいであろうか。ここでの
「判断基準」を事案に直接適用される判断基準と理解する限り、日本法上のADRの「判 断基準」の一部をなすものではなく、外国仲裁判断の承認という枠組みによって間接 的に、日本法が認める判断基準に含まれる結果となっていると理解すべきであろう。
ちなみに、外国で行われるメディエーションなどの仲裁以外のADRの法的効力は、 当該ADRによって合意された和解契約の日本法上の効力の問題に尽きるから、外国で 行われるかかるADRの承認という形では問題にならない。したがって、かかるADRに ついては、仲裁判断の場合と異なり、一般にその判断基準が日本の法秩序に取り込ま れていると解すべき理由はない。
(イ)外国仲裁判断の承認
上記3.(2)(ハ)②で述べたように、仲裁判断は、仲裁地が日本にあるかどう かを問わず、仲裁法45条2項に列挙する事由がある場合を除いて、確定判決と同一 の効力を有する(仲裁法45条1項)。このことから、現行の日本法は、仲裁地が日 本国内にある仲裁であるかどうかを問わず、仲裁において行われた判断を、仲裁法 45条2項の事由がある場合を除いて、法に従った判断と認めて日本の司法制度のな かでの適正な紛争解決と認めていると理解される。仲裁地が日本国内にある場合に は、その判断基準は上記3.(2)(ハ)①にあるごとく、仲裁法36条によらなけれ ばならない。しかしながら、外国を仲裁地とする仲裁判断(以下「外国仲裁判断」 という。)の判断基準については、日本法は仲裁法45条2項の留保を条件として、 外国の法に任せていることになる。
外国を仲裁地とする仲裁の仲裁判断の承認拒否事由は、上記3.(2)(ハ)②に 列挙した国内仲裁判断の承認拒否事由と同一である。
上記の拒否事由をみると、国内の仲裁判断と同じく、上記3.(2)(ハ)②に列 挙した承認拒否事由のうち、(ⅱ)、(ⅲ)、(ⅴ)および(ⅵ)は「手続保障」に関する ことで、(ⅰ)、(ⅳ)、(ⅶ)および(ⅷ)が仲裁判断の内容に関するものである。これ らのうち、仲裁による紛争解決の対象となった紛争についての判断基準にかかわる ものは、(ⅷ)に限られているといえよう。
日本法は、仲裁法45条2項列挙の事由がない限り、その手続きや実体問題につい ての判断基準を問うことなく、外国仲裁判断が我が国の「法の支配」と権利保護の ための「手続保障」の要請を満たしていると認めていることになると解される。こ のことは、外国実質法の適用結果が、我が国の「公の秩序または善良の風俗」に反
するときはこれを排除する(法の適用に関する通則法42条)とし、それ以外には一 般に外国法の内容を問うことなく外国法を適用する国際私法の法理や外国判決が公 序良俗に反しない限りその承認を認める(民事訴訟法118条)ことと合致している。
(ロ)国際仲裁における判断基準
現行の日本法が、上記のように、その仲裁判断に確定判決と同一の効力を認める 外国仲裁判断の判断基準はどのように考えられているのであろうか。
国際仲裁は1990年代以降急速な発展を示している。国境を越えた事業活動が活発 になり、その対象地域は先進国から経済的発展途上国へ広がってきた。異なる国に ある当事者は、国境を越えた取引に関する紛争の解決を他方当事者の国法裁判所の 判断に任せることに不安を覚えることがあろう。ニューヨーク条約の定める外国仲 裁判断の承認と執行の枠組みにより、国際仲裁は国法裁判所による紛争解決に代わ る紛争解決制度を提供している
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外国の仲裁地のうち国際仲裁のために当事者がよく選択するもののうちからいく つかをあげれば、パリ、ロンドン、ジュネーブ、ストックホルム、ニューヨーク、 シンガポール、香港などがある。
。
外国を仲裁地とする国際仲裁は、仲裁地のある国の裁判所によるその国の法に従 った後見的監督に服するが、仲裁手続きはICC、LCIA、AAAなどの当事者の選択した 仲裁機関の規則に従って実施されることが多い。いずれの国の法でもないこれらの 仲裁機関やIBAのガイドラインなどのソフトローは、現実に実施される仲裁手続きを 決めるうえで重要な役割を果たしている
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国際仲裁の課題は、紛争解決の効率性の追求(迅速で簡易な紛争解決の追求)と 適正手続きの保障(due process)という互いに衝突する要請のなかで、公正な終局 判断をすることにあろう。国際仲裁を取り扱う仲裁機関と法律家団体を含めて国際 仲裁に携わる専門家は、コモンローの国と大陸法の国での裁判手続きで異なる手続 きがとられる証拠収集手続きなどの多くの論点を研究し、またそれらの論点につい て提言をしている。それらは、いずれもこの国際仲裁の困難な課題の解決のための 合意をめざし、よりよき慣行の形成を目指したものといえよう。
。
今や国際仲裁は、私企業の紛争解決手段として広く利用されているだけでなく、 二国間投資保護条約や経済連携協定などの条約において国際仲裁に服する旨約束し た多数の国と当該国において事業を行う外国企業を当事者とする多数の紛争の解決 に使われている。その結果、国際仲裁は私権にかかわるだけでなく公益にも影響を 与えるようになり、そのことは伝統的に国際仲裁のメリットとされてきた非公開性 に対して疑問を投げかけるなどの新たな問題を提起している。後に述べるように最 近多くの国で発足し国際的なネットワークが形成されている金融ADR制度も、公益 的な目的をもったADRである。
我が国と同様に、「法の支配」と権利保護のための「手続保障」という近代法の原 則の下にある国際社会において、国際仲裁による紛争解決を、「法による紛争解決」 とするために、不断の努力がなされている。国際仲裁における判断基準は、当事者 の合意によって選択された判断基準は別として、その多様性と柔軟性ゆえに、これ を抽象的な原則として表現するほかないであろう。あえてそれを試みれば、“fair and reasonable”な判断であろうか。それは、手続きの状況と紛争の内容によって、 さまざまに言い換えられるであろう。
(4)「法の支配」の下でのADRにおける判断基準
(イ)法の支配の意義と現代におけるその意義の転換
明治憲法はドイツ的な意味での「法治国」の概念に導かれていた。現行日本国憲 法は、異論があるものの
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ダイシー
、英米法に由来する「法の支配」の原則を採用している と理解されていると思われる。「法の支配」の原則は、日本国憲法31条(法定手続 の保障)、29条(財産権)、14条1項(法の下の平等)、32条(裁判を受ける権利)、 37条(刑事被告人の諸権利)、76条2項(特別裁判所の禁止)などにより採用され ている。もっとも、日本国憲法は、後述する法の支配の意義の転換を指し示す規定 をも包含している。国民の生存権と国の生存権保障義務を定める日本国憲法25条等 である。
19の法の支配の原則は、第一に「法の適正手続(Due Process of Law)」、 第二に「法による行政と司法国家の原則」である。第一の原則により、訴えられて いる者に、十分に聴聞、弁明の機会を与えることが求められ、訴える者に権利侵害 の事実を厳格な証拠法に従って証明する責任があることとなる。第二の原則により、 行政は法律に従ってなされることを要し、行政が法律に違反した場合に、そのこと の判断と、これに対する救済とを、最終的には行政権によってではなく、もっぱら 司法権によって行わせることになる
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国家も個人も法によって羈束されてのみ存在し活動することが認められるとする ことによって、個人の自由と権利が保障されるという「法の支配」の始源的な意義 の重要性は変わることがない。しかしながら、現代社会では、自由と平等を基礎と した経済体制のうちに個人の「救済」の必要性が認識されるようになっている。こ うして社会が行政的干渉を要求することが強まっている。現代社会での争いの解決 のための手続きは、必ずしも司法裁判と同じである必要はなく、むしろ最も適当な 知識をもって、能率的で公平な解決をする手続きが求められなければならないとい うことが認められている。こうして司法的と言えない行政的な判断が必要な分野が あることが認められ、また専門家の活用により紛争の実情に即した迅速な解決を図 る民間のADRの重要性が増している。
。
(ロ)ADRにおける「法の支配」
英国における「法の支配」における国民の権利の保障は、制定法に定められた権 利として保障されたのではなく、個々の事件について個人の人権を守る判決があり、 その結果として人権に関する一般的原則が確立されたと考えられている。そしてそ こでの法の中には、実定法ばかりでなく、自然法、慣習法も含まれていて、それは、 判決においてその存在が明確になってゆく
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現代の日本法の「法の支配」と権利保護のための「手続保障」の要請は、ADR に おける判断において何を要求するか。
。この英国における「法の支配」の生 成と確立の課程は、ADRの判断基準を探ろうとするうえで重要な示唆を与え、ADRの 手続実施者が判断するにあたり有益なガイダンスを与えてくれる。
仲裁をみてみると、仲裁法36条に定める国内仲裁の判断基準だけでなく、仲裁法 45 条による外国仲裁判断を含めた仲裁判断の承認の要件を総合すると、仲裁法 45 条2項の承認拒否事由に当たらないことをもって、仲裁判断がその手続きにおいて も実質判断においても、これらの要請を満足するものと認めていると解される。ネ ガティブリストが掲げられているに留まり、判断において遵守すべき枠組みを積極 的に示していない。
このような枠組みは、仲裁について多くの国が採用しているものと同一である。 仲裁法は、国際連合国際商取引委員会(UNCITRAL)が1985年に採択した国際仲裁に 関する模範法(UNCITRAL MODEL LAW on International Commercial Arbitration) に若干の修正を加えて制定されたものであり、仲裁法45条にある外国仲裁判断の承 認の枠組みは、同条2項に列挙された承認拒否事由とともに、「外国仲裁判断の承認 および執行に関する条約」(ニューヨーク条約)Article Vに従いUNCITRAL模範法35 条及び 36 条にならっている。ニューヨーク条約は、1958 年に締結され、現在 144 カ国が加盟している
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。その結果、仲裁判断の外国における承認の枠組みは、裁判 所の判決の外国における承認について同様の国際的枠組みがない実情と対照的に、 広く国際的に認められ実施されている
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外国仲裁判断の承認の枠組みは、多数の国の場合と同様に、その判断基準の詳細 を間接的に外国における法令に委ねている。判断において守るべき基準を、日本法 が積極的に定めることをしていない。このことは、日本におけるADRの判断基準に ついて、日本法は柔軟な姿勢を取っていることをうかがわせるが、仲裁法45条は外 国の裁判所の後見的監督の下に外国の法令の許容するところに従ってなされること を条件としていると理解すべきであろう。外国法を通じて「法の支配」が満たされ ていると認めているのであって、日本法における仲裁の判断基準について、この日 本法の枠をこえて仲裁人に任せているわけではない。
。
法制度はそのように理解すべきであるが、外国仲裁判断の承認の枠組みからみて、
日本法が実質的に認めている仲裁人の判断基準の自由度は、非常に広いと理解され る。そのような広い自由度は、仲裁人の判断基準に限られるであろうか。現代の「法 の支配」の原則がそれを許容していることから、これを仲裁に限定し他のADRには 許されないとすべき理由はない。
裁判所を離れて裁判外で紛争を解決しようというADR は、国の主権の地域的限界 を定める国境を越えていくという側面を持ち、また紛争の内容が国際的に共通する ものも多くあるなかで、日本国内でのADRは外国でのADRのプラクティスの影響を 受けることが予測される。こうしたなかで日本国内のADRについていくつかの課題 が認められる。「法の支配」や権利保護のための「手続保障」という各国に共通の原 則は、日本のADRの手続きでどのように満足されなければならないか。「公正」、「適 正」、「紛争の実情に即した迅速な解決」などADR促進法のいう裁判外紛争解決の理 念や、民事調停法が調停規範および決定規範とする「条理」の意味、仲裁法が判断 基準とする「事実に直接適用される法令」の適用における法令の解釈、「衡平と善」 の意味をどう解釈すべきか。外国でのADRも同様の問題を抱えるはずである。この ような状況の下で、外国でのADRの判断基準は、日本国内のADRの判断基準に影響 を与えるはずである。両者の判断基準はADRへのニーズに答えて、同一の方向に発 展するのではなかろうか。
4.英国の金融ADRの判断基準
ここで、2000 年に英国のFinancial Services and Markets Act 2000(以下「2000 年金 融サービス法」という
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英国の金融 ADR 制度は日本の制度とは異なるが、日本の金融 ADRにおける紛争解決のた めの判断をするにあたり、共通の論点も多いであろう。実務での様々な問題点を考えるに あたって参考になることを期待して、若干詳しく紹介する。
。)に従って設立されたFinancial Ombudsman Service Limited (以 下「英国FOS」または単に「FOS」という。)のオンブズマンによる紛争解決のための判断基 準をみてみよう。また、国境を越えた金融サービスに関する紛争を顧客のために効率よく 解決するためのEU諸国における国際協力と、各国の金融オンブズマン制度の経験の交流か ら制度の改善をめざす国際的な取り組みも見てみよう。
(1)英国FOSのオンブズマンによる紛争解決のための判断基準
(イ)英国FOSの沿革と規模
1981年に設立された「保険オンブズマン」を嚆矢として、いくつかの金融サービ ス業界が顧客との紛争を第三者の介入を得て裁判外で紛争解決を図る制度ができて いた。2000年金融サービス法は、その時点での9つの規制機関をFinancial Services
Authority(以下「FSA」という。)に統合するとともに、その時点で存在した8つの オンブズマン制度を統合して、英国FOSを設立した。英国FOSの公表している年次報 告書によると、2011年3月31日に終了した一年間に、英国FOSのCustomer-contact Divisionが解決した問い合わせや苦情の件数は、1,012,371 件、アジュディケータ ーとオンブズマンへ回付された新件の件数が 206,121 件(そのうち51%(104,597 件)が支払保証保険(Payment Protection Insurance(以下 “PPI” という))の販 売に関するもの)、オンブズマンの決定によって解決された件数が17,465件である。 この一年間に英国FOSで解決された紛争は164,899件であった。3ヶ月以内に解決さ れたものは、英国FOSに対して訴訟が提起されているPPI案件 25を除く全紛争案件の 半数に近く、残りの75%が6ヶ月以内に解決されたという。総経費は、1億600万 ポンド(約124億円
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)、スタッフの総数は平均1,300名という規模である。
(ロ)判断基準と手続きに関する英国の法令の規定
① 判断基準に関する2000年金融サービス法の規定
2000年金融サービス法は、Ombudsman Scheme を定める同法SCHEDULE 17 The Ombudsman SchemeのPart XVIで、その目的について、Section 225の(1)は次 のように規定する。
225 (1) This Part provides for a scheme under which certain disputes may be resolved quickly and with minimum formality by an independent person.
そのうえで、英国FOSの強制管轄権に属する紛争の決定に付いて、Section 228 の(2)は次のように規定する。
228 (2) A Complaint is to be determined by reference to what is, in the opinion of the ombudsman, fair and reasonable in all the circumstances of the case.
また、Awardsについて、Section 229の(2)と(3)は次のように規定する。
228 (2) If a complaint which has been dealt with under the scheme is determined in favour of the complaint, the determination may include-
(a) an award against the respondent of such amount as the ombudsman considers fair compensation for loss or damage (of a kind falling within subsection (3)) suffered by the complaint (”a monetary