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PDF 原生動物園 Vol 3 (2012年度号) 原生動物園

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嫌気性繊毛虫トリミエマ原虫に見る三者間共生系

新里尚也 Naoya SHINZATO

原生動物園 Vol. 3 (2012) 19-38. Review.

地球は嫌気の惑星

 私達人間を始め、身近な多くの生物は 酸素が無ければ生きていくことは出来ま せん。しかしながら、地球上で酸素が存 在するのは地上から100 kmまでの大気圏 の範囲であり、地下圏を含めた地球全体 で見れば、酸素の無い環境が大部分を占 めています。また、身近なところでも、 粒径1 mmの土壌粒子の内部はすでに嫌 気条件になっていると言われています。 これは、土壌中に豊富に存在する好気性 微生物が酸素を消費し尽くしてしまうか らです。水圏においても同様に、水の対 流が少ない沼や池の底は酸素の乏しい環 境となっています。このような嫌気環境 にも多くの生物(主に微生物)が存在し ますが、こうした環境では、酸素が利用 できないことによる、エネルギーの獲得 や栄養素の合成において多くの制約があ ります。このような環境では、過酷な条 件を生き抜くために微生物どうしが互い に助け合い、さまざまな型の共生関係を 発達させています。本項では、このよう な例の一つとして、筆者が研究材料とし

用いている嫌気性繊毛虫トリミエマ原虫 において見られる、真核生物、バクテリ ア、アーキアの三つのドメインの共生関 係について紹介したいと思います。

嫌気性繊毛虫トリミエマ原虫

  ト リ ミ エ マ 原 虫 ( C i l i o p h o r a , Plagiopylea, Trimyema)は様々な嫌気環 境に生息しており、バクテリアを捕食し て発酵することにより生育しています。 トリミエマ原虫は排水処理槽より初めて 報告されましたが、その後、淡水のみな らず、海洋や塩湖、熱水噴出口等の様々 な水圏環境に生息していることが明らか となっています[1. Lackey 1925, 2. Augustin et al. 1987,3. Nerad et al. 1995, 4. Baumgartner et al. 2002,5. Cho et al. 2008]。トリミエマ原虫は、形態学的に 以下の様な特徴により定義されていま す。⑴顕著な尾部繊毛(prominent caudal cilium)を持ち、⑵細胞先端部に細胞口 がある。⑶繊毛列は細胞長軸に沿って数 列に並び、斜めの帯を形成している。加 えて、⑷半円形の細胞口繊毛系(oral

Key words :嫌気、原生動物、細胞内共生、種間水素伝達

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ciliature)を持つとされています[2-4]。 形態学的な分類により、これまでに8種 がトリミエマ属原虫として記載されてい ます。

トリミエマ原虫の培養株

 Trimyema compressumは、嫌気の淡水 環境から頻繁に見出される、トリミエマ 原虫の中では最も研究されている種です

(図1)。T. compressumは、合成培地で バ ク テ リ ア と 共 培 養 ( m o n o x e n i c culture)を行うか、もしくは、死滅させ た バクテリアを培地へ添加することで 無菌培養(axenic culture)することがで きます。最初の共培養株、T. compressum  K(Konstanz)株は、旧西ドイツの汚染 された水路から単細胞分離と抗生物質処 理を経て確立されました[6. Wagener and Pfennig 1987]。この株は15∼35℃の範囲 で生育し、至適生育温度である28℃で、

Bacteroidesを として用いた際の倍加時 間は13時間と報告されています。最適条 件下での最大細胞密度は2,100細胞/mlで した。環境中から分離された直後のK株 には、メタン生成アーキアとバクテリア の共生体が確認されていましたが、継代 培養の間に失われています[7. Goosen et al. 1990a]。その後、同様な手法でオラン ダ の 排 水 処 理 場 の 沈 砂 池 か ら N(Nijmengen)株が分離されています [7]。この株においても、細胞内にメタン 生成アーキアとバクテリアが確認されて いましたが、メタン生成アーキアは継代 培養の間に失われています。N株は10∼ 30℃の範囲で生育し、至適生育温度は25

∼30℃とされています。最大細胞密度は 2∼3×103細胞/mlでした。その後、NIES 株とS10株が日本の嫌気スラッジと浄化 槽 か ら 分 離 さ れて い ま す ( 表 1 ) [ 8 . Yamada et al. 1994, 9. Shinzato et al. 2007]。

図1 T. compressumの位相差顕微鏡像(左図)と銀染色像(右図) スケールバー:10 µm

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バクテリアの嗜好性

 トリミエマ原虫は捕食性の原生動物で す が 、 バ ク テ リ ア の 嗜 好 性 が T . compressumについて調べられ、他の捕食 性原生動物と同様にある程度の バクテ リアの選択性があることがわかっていま す。Schulzら[10. Schulz et al. 1990]は、K 株をもちいて、様々な化学合成無機栄養 細菌と光合成細菌を として検討した結 果、グラム陰性菌のみが生育を支持でき ると報告しています。一方で、Yamadaら [8]は、NIES株において、Lactobacillus、 C l o s t r i d i u m、 D e s u l f o v i b r i o 、 Enterobacter、Escherichia、Pelobacter、 Methanoculleus等の様々なバクテリアと アーキアが捕食される一方で、摂取され ない種がいることを見出しました。ま た、最大細胞密度は摂取させたバクテリ ア種により異なり、Desulfovibrioを与え た際に最大の9,300細胞/mlに達するとさ れています。

生育活性化因子

 T. compressumにおける バクテリアの 嗜好性は、その栄養的価値と関係してい る可能性がありそうです。Broersら[11. Broers et al. 1991]は、N株を抗生物質

(アンピシリンとペニシリン)で処理 し 、 熱 失 活 ( 6 5℃、 1 時 間 ) し た Klebsiellaを として無菌培養株を得てい ます。この株の生育は、ガンマ線滅菌し たBacteroidesやKlebsiellaで支持されます が、オートクレーブ滅菌したものでは生 育は支持されませんでした。これは、熱 に弱い何らかの生育活性化因子が関与し ている可能性を示唆するものでした。ま た 、 い く つ か の ス テ ロ ー ル が T . compressumの生育を活性化することがわ かっています。最初の共培養株である、 K株においては、スティグマステロール やスティグマスタノール、エルゴステロ ールのうち、少なくとも一つを生育に必 要とします[6]。スティグマステロールの

株名 培養 採取地・由来 要求性1) 参考文献

株名 培養 採取地・由来

メタン菌 バクテリア 要求性1) 参考文献

K 共培養 汚染水路 2) 2) Wagener and Pfennig (1987)

N 共培養 排水処理沈砂池 2) Goosen et al. (1990a) N 無菌培養 N 2) 2) Broers et al. (1991) NIES 無菌培養 嫌気スラッジ 未検証 Yamada et al. (1994)

S10 無菌培養 浄化槽 Shinzato et al. (2007) S10C 無菌培養 S10 3) Shinzato et al. (2007)

表1 T. compuressumの分離株と由来、共生体の有無、ステロール要求性

1)株の維持におけるステロールの要求性

2)分離直後は存在していたが、その後の継代培養中に喪失 3)スティグマステロールのみで検討

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添加はN株においても生育の活性化に有 効であることが示されていますが、培養 株の維持には必要ありませんでした[7, 11]。このような効果はその後、NIES株 においても確認されています[8]。しかし ながら、N株やS10株においてはステロ ール添加を行わなくても安定して生育す ることが報告されているので、ステロー ルが環境中での生存に必須であるかどう かはわかっていません[7, 9]。ここで述べ たステロールの要求性については、細胞 内共生体の存在と関係している可能性が あるので、このレビューの後半で再度触 れたいと思います。

ヒドロゲノソーム

 これまでに知られている全てのトリミ エマ属原虫は嫌気環境に生息しており、 そのエネルギー代謝は無酸素環境に適応 したものとなっています。トリミエマ原 虫の代謝特性は、T. compressumの共培養 株と無菌培養株を用いて調べられていま す。T. compressumは分離株が得られた当 初から、ヒドロゲノソーム様の細胞内オ ルガネラを持っていることが知られてい ました。ヒドロゲノソームはミトコンド リアを起源とするオルガネラで、ピルビ ン酸を基質レベルのリン酸化と水素生産 を伴った発酵代謝を行います(図4参 照)。水素は、発酵により生じた余剰還 元力を処理するために、ヒドロゲナーゼ の働きにより生産されます[12. Müller 1993, 13. Boxma et al. 2005]。トリミエマ 原虫に限らず、嫌気環境に生息する原生

動物とカビの一部はミトコンドリアの代 わりにヒドロゲノソームを持っているこ とが知られています[14. Hackstein et al. 2008a, 15. Hackstein et al. 2008b]。T. compressumのヒドロゲノソームからは、 組織化学染色と免疫染色によりヒドロゲ ナーゼの活性が検出されています[7, 11, 16. Zwart et al. 1988]。

酸素耐性と利用性

 一方で、T. compressumは最大で0.5 mg/ lという、若干の酸素耐性もあることが 示されています。さらに、微好気環境で は、酸素消費を伴ってギ酸とCO2が主要 な 代 謝 産 物 と して 生 成 さ れ ま す [ 1 7 . Goosen et al. 1990b]。これらの結果は、T. compressumがある程度、酸素も最終電子 受容体として利用できることを示唆する ものです。Goosenら[7]は、T. compressum のオルガネラ(ヒドロゲノソーム)がミ トコンドリアの特徴を併せ持っている可 能性について、ミトコンドリアに特徴的 な酵素活性や、抗生物質、阻害剤に対す る応答を検証しました。その結果、代表 的なミトコンドリア酵素である、チトク ローム・オキシダーゼやカタラーゼの活 性は検出されませんでしたが、スーパー オキサイド・ディスムターゼは活性があ ることを見出しました。さらに、アンチ マイシンAやクロラムフェニコールが、 共生バクテリアを持たないK株の生育に は影響を与えないことも示されました。 その一方で、KCNやNaN3は、好気、嫌 気の両条件でトリミエマ原虫の生育を抑

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制しましたが、これらの阻害剤は発酵代 謝に関係する酵素活性も阻害することか ら、T. compressumの細胞内オルガネラ は、ミトコンドリアの特徴を持たないヒ ドロゲノソームであると結論づけられて います[7]。

代謝産物

 T. compressumの代謝産物の解析では、 バクテリアを発酵を介して代謝するこ とでエネルギーを得ていることが示され ています。Goosenら[17]は、バクテロイ デスを与えたN株において、嫌気条件下 で エ タノール、 酢 酸 、 乳 酸 、 ギ 酸 、 CO2、そして水素を生産することを報告 しています。中でもエタノールは炭素収 支の大部分(44%)を占めていました。 一方で、HollerとPfening[18. Holler and Pfennig 1991]は、N株においてBacteroides を として培養した際に、乳酸、酢酸、 ギ酸が主要な代謝産物で、エタノールの 生産を認めていません。しかしながら、 代謝産物のプロファイルは嫌気条件や、 バクテリアの種や量によって変動する ことが示唆されています。例えば、N株 は微好気環境でエタノールを生産せず、 CO2を伴ってギ酸を主要な代謝産物とし て生産します[17]。HollerとPfening[18] も、酸素が利用できる条件下での著しい 有機酸生産の減少を報告しています。こ のような微好気環境での代謝産物プロフ ァイルの変化は、末端の酸化酵素は同定 されていませんが、酸素を最終電子受容 体として利用していることを示している

と思われます。

代謝産物プロファイルへ影響を与え

る因子

  バクテリア種によっても代謝プロフ ァイルは影響されます。例えば、N株に Bacteroidesを与えた時には乳酸が主要な 代謝産物となるのに対して、Rubrivivax を として培養すると、全体的な有機酸 生成が抑えられ、酢酸生成が主要な代謝 産物となります[18]。このような代謝プ ロファイルの変化は、 バクテリアの消 化効率の違いに影響されている可能性が あります。なぜなら、Rubrivivaxは消化 率が悪いことが報告されているので、実 際に消化されたRubrivivaxの細胞数は Bacteroidesよりも少ないと考えられるか らです[18]。

 培養条件の違いに加えて、共生メタン 生成アーキアの存在も代謝産物プロファ イルに影響することがわかっています。 共生メタン生成アーキアを持つNIES株 とS10株では、嫌気条件下では、酢酸が 主要な代謝産物となり、 かにプロピオ ン酸と酪酸が生成されますが、ギ酸や乳 酸、エタノールは検出されていません[8, 9, 19. Yamada et al. 1997]。Yamadaら[8]は NIES株をもちいて、 バクテリア種と代 謝産物プロファイルの関係も検討してい ますが、プロピオン酸と酪酸の量が若干 変動する程度で、その影響はそれほど大 きくないことを報告しています。これら の結果は、宿主の代謝産物プロファイル が、共生メタン生成アーキアの存在によ

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り大きく左右されることを示していると 思われます。

種間水素伝達

 ヒドロゲノソームから生産される水素 は水素資化性菌を誘引し、生物種間の水 素の受け渡し(種間水素伝達)が、メタ ン生成アーキアと嫌気性真核生物の共生 の基盤となっていると考えられています [20. Embley and Finlay 1994]。プロトン還 元による余剰還元力の処理は水素濃度が 極めて低いときにのみ熱力学的に進行可 能なので、水素濃度を低く維持すること は、安定的な バクテリアの代謝に必要 だと思われます[21. Stams 1994]。このこ とは、先に述べたように、宿主原生動物 の代謝産物プロファイルが、共生するメ タン生成アーキアの存在に大きく影響す ることを意味しています。Yamadaら[19] は、共生メタン生成アーキアが宿主の代 謝 へ 与 える 影 響 を 評 価 す る た め に 、 NIES株において、共生メタン生成アーキ アを失った株とそれらを保持する野生株 の代謝産物プロファイルの比較を行って います。その結果、共生メタン生成アー キアを持たない株は最大細胞密度が80% に減少し、主要な代謝産物が酢酸とメタ ンから酪酸になることを示しました。こ れは、共生メタン生成アーキアが酢酸生 成反応を活性化することで、宿主の発酵 代謝の効率化に寄与していることを証明 する結果となっています。

ヒドロゲノソームの代謝様式

 トリミエマ原虫における詳細な炭水化 物の代謝経路、特にヒドロゲノソームに おける代謝は、これまで生化学的にも分 子生物学的にも検討が行われていないの で、良くわかっていません。従って、唯 一、代謝産物プロファイルがその代謝経 路を推定する手がかりとなっています。 前に述べたように、T. compressumにおい ては、エタノール、乳酸、酢酸、ギ酸、 CO2、水素が主要な発酵産物になりま す。 こ の 代 謝 プ ロ フ ァ イ ル か ら 、 Hacksteinら[14]はトリミエマ原虫の炭水 化物の代謝経路を推定しています(図 2)。T. compressumからギ酸が検出され るので、この経路では、少なくともピル ビン酸:ギ酸リアーゼ(PFL)がピルビ ン酸代謝に関与していると推定していま す。このタイプの代謝は、一部のツボカ ビ類に見られる代謝に似ています[15, 22. Boxma et al. 2004]。

 嫌気性繊毛虫のヒドロゲノソームの代 謝系は、ルーメンに生息するDasytricha ruminantiumと、ゴキブリの消化管に生 息する、Nyctotherus ovalisについて最も 研究が進んでいます。ピルビン酸をアセ チル − C o A へ 代 謝 す る 酵 素 は 、 D . ruminantiumにおいては、ピルビン酸:フ ェレドキシン酸化還元酵素(PFO)であ ることが示唆されています[23. Yarlett et al. 1981,24. Yarlett et al. 1982,25. Yarlett et al. 1985]。生成されたアセチル−CoA の一部は、細胞質へ輸送され、ATP合成 と共役した酪酸生成に用いられます[26,

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Ellis et al. 1991a,27. Ellis et al. 1991b, 28. Ellis et al. 1991c]。一方で、N. ovalis のヒドロゲノソームについても、酵素学 的ならびに放射性同位体をもちいたトレ ーサー実験で詳しく調べられています [13]。N. ovalisのヒドロゲノソームには唯 一ゲノムが存在していますが[13, 29. Akhmanova et al. 1998,30. van Hoek et al. 2000a]、このミッシングリンク・オルガ ネラは、代謝特性やゲノム情報に数多く のミトコンドリアの性状を残していま す。N. ovalisのヒドロゲノソームにおけ るピルビン酸の酸化は、PFOやPFLの遺 伝子が見つかっておらず、ピルビン酸脱 水素酵素(PDH)で行われていると考え られています。基質の酸化で生じる還元 力の処理も、プロトン還元のみではな く、電子伝達鎖を介したフマル酸還元に よっても行われている可能性がありま す。

メタン生成アーキアとの共生

 メタン生成アーキアと原生動物の共生 は、様々な嫌気環境で見ることができま す[31. Hackstein and Vogels 1997]。メタン 生成アーキアは特有な蛍光性補酵素であ るF420を持っているので、それらが発す る青緑色の蛍光により容易に見つけるこ とが出来ます(図3)。メタン生成アー キアの共生はヒドロゲノソームを持つ原 生動物に見られ、そこから派生する水素 がメタン生成アーキアの基質となってい ると考えられています。前にも述べまし たが、プロトン還元と共役したNADHと FADH2の酸化は、水素濃度が極めて低い 場合でのみ熱力学的に進行可能な反応で あるため、メタン生成アーキアは水素の スカベンジャーとして機能することで、 宿主原生動物の代謝に貢献していると考 えられています[21]。そのため、多くの 嫌気性原生動物がメタン生成アーキアを

図2 推定されているトリミエマ原虫ヒドロゲノソームの代謝経路

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共生させていることが報告されています [20,32. Embley and Finlay 1993,33. van Hoek et al. 2000b]。メタン生成アーキア の 共 生 体 は 、 こ れ ま で に 、 M e t h a n o b a c t e r i u m f o r m i c i u mMethanoplanus endosymbiosusが、繊毛虫 とアメーバの細胞質からそれぞれ分離さ れています[34. van Bruggen et al. 1984, 35. van Bruggen et al. 1986,36. van Bruggen et al. 1988, 37. Goosen et al. 1988]。

トリミエマ原虫の共生メタン生成ア

ーキア

  ト リ ミ エ マ 原 虫 に お い て は 、 T . compressumとTrimyema sp.が、メタン生 成アーキアを共生させていることが報告 されています[6, 38. Finlay et al. 1993]。T. compressumは環境中から分離された時点 で例外なく共生メタン生成アーキアを保

持しているので、自然環境中では常にこ の共生関係が維持されていると思われま す[6-9]。共生メタン生成アーキアの大き さは、N株では0.65 µm×1.6∼3.3 µm、 S10株では0.3∼0.4 µm×1.3∼2.0 µmの大 きさと報告されています[9]。K株では、 原生動物1細胞あたり、0∼数百細胞で、 平均で340細胞と報告されています[6]。 一方、S10株では272∼769細胞で、平均 は436細胞となっています。分離直後のN 株とS10株の電子顕微鏡観察から、共生 メタン生成アーキアは、ヒドロゲノソー ムに密接するか、もしくはその中に包埋 されています(図4)。このような共生 メタン生成アーキアとヒドロゲノソーム の密接な関係は、他の嫌気性原生動物で も見られていますが[20]、水素は分子量 が小さく、瞬時に拡散してしまうことか ら、ヒドロゲノソームとの密接なコンタ クトは、水素の取り込み効率を最大化す

図3 T. compressumの圧壊細胞から漏出した共生メタン生成アーキア F420の自家蛍光をBV励起で観察。

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るために有効であると思われます。S10 株の共生メタン生成アーキアの16Sリボ ソーマルRNA遺伝子による分子同定で は、水素資化性メタン生成アーキアであ る、Methanobrevibacter arboriphilusと 97.2%(約1,300bp比較)の相同性で近縁 であることが示されています[9]。一方 で、T. compressumの共生メタン生成アー キアを分離する試みがディープ・アガー 法を用いて行われましたが成功していま せん[6]。

多型性の共生メタン生成アーキア

 トリミエマ原虫の一種であるTrimyema sp.は、イギリスの人工池から分離され、 メタン生成アーキアとの共生関係につい て、電子顕微鏡観察と分子生物学的手法 を用いて研究されました[38]。この株は

形態学的にトリミエマ属原虫として同定 されましたが、繊毛列やキネトソームの 数の違いなどにより、T. compressumとは 別種であるとされています。Trimyema sp.は細胞あたり、約300の共生メタン生 成アーキアを保持していましたが、その 形状は比較的小さく、円盤状で細胞質中 に分散していました。この共生メタン生 成アーキアは形態がヒドロゲノソームと の位置関係により変化し、ヒドロゲノソ ームの近傍にある細胞は顕著に肥大し、 星形の形状となっていました。このよう な形態変化は、細胞の表面積を増大させ ることから、水素の効率的な獲得に有効 であると思われます。16Sリボソーマル RNAによる分子系統では、この共生メタ ン生成アーキアはMethanocorpusculum parvumに近縁であることが示されていま す。M. parvumに近縁な株としては、M.

図4 T. compressumのヒドロゲノソームと共生メタン生成アーキア  共生メタン生成アーキア(黒矢印)はヒドロゲノソーム(白矢印)に密 接、もしくは包埋されて存在しています。

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endosymbiosusが、Metopus contortusから 分離されています[35]。

共生メタン生成アーキアの安定性

 T. compressumとメタン生成アーキアの 共生は、環境中から分離した直後には必 ず見られていますが、比較的不安定で日 和見的である可能性があります。実際、 T. compressumの共培養株と無菌培養株の ほとんどが継代培養の過程でメタン生成 アーキアを失っています。一方で、メタ ン生成アーキアの喪失は宿主の培養条件 により異なっているようです。例えば、 K株では、 バクテリアを豊富に与えた 際に共生メタン生成アーキアを喪失して いますが、これとは対象的に、宿主を飢 餓条件にした場合には、メタン生成アー キアを保持する細胞の割合が増加する傾 向があります[6]。共生メタン生成アーキ アの喪失は、宿主の増殖が活発になった ことで、共生メタン生成アーキアの分裂 速度と一致しなくなった結果である可能 性があります。トリミエマ原虫のみなら ず、共生メタン生成アーキアの喪失は他 の嫌気性原生動物でも報告されていま す。Finlayら[38]は、環境から採取した原 生動物コミュニティーの共生メタン生成 アーキアが低温(10℃)では維持される のに対し、高温条件下(27℃)では失わ れる例を報告しています。この結果は、 生育至適条件において、原生動物の生育 が活性化したことにより、共生メタン生 成アーキアの増殖が追いつかなくなった ことが原因として考えられます。

共生メタン生成アーキアの宿主への

寄与

 このように一見、不安定に見えるメタ ン生成アーキアの共生は、宿主の生育に どの程度の寄与があるのでしょうか?N 株の例では、共生メタン生成アーキアの 喪失は宿主の生育にあまり大きな影響を 与えませんでした[18]。しかしながら、 Yamadaら[39. Yamada et al. 1997]は、共生 メタン生成アーキアを失うことによっ て、宿主の主要な代謝産物が酢酸から酪 酸へ移行し、最大細胞密度も3,300細胞/ mlから2,700細胞/mlへ減少することを示 しました。炭水化物を発酵するような嫌 気的な代謝では、基質をより酸化するこ とで、より多いエネルギーを得る事が出 来ます。したがって、共生メタン生成ア ーキアは宿主細胞内の水素濃度を低く保 ち、基質のさらなる酸化を促すことで、 宿主の得られるエネルギーを増大させる ことができると考えられます。このよう な宿主への寄与は他のヒドロゲノソーム を持つ原生動物、Plagiopyla frontataとM. contortusにおいても、メタン生成反応の 特異的阻害剤であるブロモエンタンスル ホン酸(BES)を用いて実験的に調べら れています。その結果、BESによりメタ ン生成を阻害した株の生育は、共生メタ ン生成アーキアが存在する場合と比較し て30%にまで低下することが確認されて います。

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共生メタン生成アーキアの環境中で

の意義

 筆者の知る限り、T. compressumのS10 株が共生メタン生成アーキアを維持した 状態で、最も長期間、継代培養されてい ます(10年以上)。何故この株におい て、これほど共生が安定に維持されてい るかははっきりとはわかりません。しか しながら、S10株の継代培養は、常に減 衰期(最大細胞密度に達してから10日 後)に行われており、この時期は宿主が 飢餓条件に晒されていると思われます。 減衰期においては、ほとんどの宿主細胞 がメタン生成アーキアと共生状態にある ので、このような飢餓条件下では共生メ タン生成アーキアの存在が宿主の生存に 大きく貢献しているものと思われます。 このことは、 に乏しい自然環境下にも あてはまると考えられます。一方で、も しそうであるなら、 が豊富に得られる 条件では、共生メタン生成アーキアを保 持する意義が薄れ、それらを喪失する可 能性もあると思われます。

宿主原生動物との系統関係

 トリミエマ原虫には、2つのタイプの メタン生成アーキアが共生していること が知られています。1つはT. compressum に見られるMethanobacteriumもしくは Methanobrevibacterに近縁な桿菌のメタン 生 成 ア ー キ ア で す 。 も う 1 つ は 、 Trimyema sp.に見られる多型性の共生メ タ ン 生 成 ア ー キ ア で 、 こ れ は Methanomicrobiales目のM. parvumに近縁

です[38]。このことは、トリミエマ原虫 が異なる種のメタン生成アーキアとそれ ぞれの生息環境で独立に共生を成立させ たことを意味しています[32]。S10株に共 生しているMetahnobrevibacterは、人を含 む動物消化管の主要なメタン生成アーキ アであることから[40. Lin and Miller 1998]、S10株が分離されたような生活排 水を処理する浄化槽では、この種のメタ ン生成アーキアが共生のパートナーとし て最も適当であったと思われます。同じ ように、ゴキブリの消化管に生息してい るN. ovalisでもMetahnobrevibacterが共生 のパートナーとなっています[33]。  系統的に離れたメタン生成アーキアを 共生させている例は、トリミエマ原虫以 外の繊毛虫にも見られます(図5)。海 棲の繊毛虫である、M. contortusには Trimyema sp.に共生している種に近縁 な、不定形のメタン生成アーキアが共生 していますが、ゴミ処理場から分離され たM. palaeformisには、桿菌で変形しない Methanobacteriumの一種が共生していま す[41. Embley et al. 1992]。同じように、 Plagiopyla属原虫からも、系統的に異な っ た メ タ ン 生 成 ア ー キ ア で あ る 、 MethanolobusとMethanoculleusが、共生体 として報告されています[20]。このよう な、宿主と共生体の系統関係の解離は、 メタン生成アーキアとの共生が、繊毛虫 が分化した後に、それぞれの生息環境で 独立的に生じたことを意味していると同 時に、共生体の置換も起きている可能性 を示しています。

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共生体の置換実験

 Wagenerら[42. Wagener et al. 1990]は、 実際に共生体の置換が起こる可能性につ いて、共生体を除いたT. compressum株 と、Metopus striatusとPelomyxa palustris からそれぞれ分離された、M. formicicum の2つの共生メタン生成アーキアの株

(DSM3636ならびに3637)を用いて実験 を行い、外来のメタン生成アーキアによ る新しい共生系を確立することに成功し ています。共生の形成段階において、食 胞に取り込まれたメタン生成アーキア は、細胞膜に被われて食胞より分離され

ます(図6)。新しく形成された共生系 はメタンを生成し、飢餓条件下での生育 が著しく活性化されました。また、この 共生系は バクテリアの過剰供給により 容易に解消されました。共生の再構築実 験が成功したことは、宿主原生動物とメ タン生成アーキアが比較的低い特異性で お互いを認識していることを示してお り、共生体置換が容易に起こり得ること を示していると思われます。この共生の 成立と維持に関与する分子メカニズムは まったくわかっていませんが、メタン生 成アーキアが、食胞へ取り込まれた後に

図5 嫌気性繊毛虫と共生メタン生成アーキアとの系統関係

 近縁の繊毛虫においても系統的に隔たったメタン生成アーキを共生させていることから、共生が独立 に複数回起こっていることがわかります。系統樹はおおよその系統関係。

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選択的に細胞質へ分離される現象は見ら れているので、宿主原生動物において、 メタン生成アーキアを認識し、能動的に 輸送する系が存在することは確かなよう です。

バクテリアとの共生関係

 T. compressumは、これまで述べてきた メタン生成アーキアの共生体に加え、バ クテリアの共生体も保持していることが 知られています。T. compressumのバクテ リア共生体はヨーロッパの異なる地域か ら分離された2つの株(K株、N株)から も報告されていました[7]。このバクテリ ア共生体は0.3∼0.4 µm×0.5∼0.7 µmの大

きさの桿菌で、一つの細胞に20∼100細 胞生息しているのが確認されています。 共生バクテリアは共生メタン生成アーキ アとは異なり、ヒドロゲノソームと近接 することなく、細胞質中に分散して存在 していました。その後、K株の共生バク テリアは継代培養中に失われたことが報 告されています。

 その後、筆者らが日本の浄化槽から分 離したS10株においても共生バクテリア が確認されています(図7)。この共生 バクテリアはTC1と名付けられ、S10株 においては安定的に10年以上維持されて います。TC1は、0.3∼0.6 µm×0.8∼2.0 µmの大きさの両端が円錐形の桿菌で、

図6 T. compressumとメタン生成アーキアの共生の成立過程

 ①摂食による食胞への取り込み、② バクテリアの消化、③細胞質へのメタン生成アーキアの 隔離、④メタン生成アーキアの輸送、⑤ヒドロゲノソーム近傍への配置。⑤のステップは実験的 には観察されていません。

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ヨーロッパで分離された株で見られたの と同様に、ヒドロゲノソームには近接せ ずに細胞質に分散していることが電子顕 微鏡観察で確認されています[9]。また、 TC1は16SリボソーマルRNA遺伝子の解

析と蛍光in situハイブリダイゼーション の 結 果 か ら 、 C l o s t r i d i a l e s 目 の Syntrophomonadaceae科に属するバクテリ ア で あ る こ と が わ か って い ま す ( 図 8)。TC1に最も近縁な分離株は硫酸還

図7 T. compressumの機能未知の共生バクテリアTC1

 共生メタン生成アーキアとは異なり、ヒドロゲノソームへ密接する ことなく細胞質中に分散しています。

図8 T. compressum共生体をFISHで検出した蛍光顕微鏡像

 共生メタン生成アーキアを赤(Cy5)で、共生バクテリアを緑(Cy3)で二重染色して合成。 共生メタン生成アーキアはヒドロゲノソーム近傍に密集して存在するのに対し、共生バクテリア は細胞質中に分散している様子がわかります。

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元菌である、Desulfosporosinus sp. A10株 ですが、相同性は84.3%しかなく、系統 的には非常にユニークなバクテリアであ ると言えます。ヨーロッパで分離された T. compressumについては、共生バクテリ アの分子同定が行われなかったので、こ れらとTC1が同じような系統のバクテリ アであるのかどうかはわかりません。

他の原生動物における三者間共生

 このようなバクテリアとアーキア、原 生動物の3者間共生はT. compressum以外 の原生動物でも見られます。嫌気性の有 スクチカ類繊毛虫(scuticociliate)であ るCyclidium porcatumもメタン生成アーキ アとバクテリアの共生体を持っており、 この場合、共生バクテリアは宿主細胞の 前部にあるヒドロゲノソームと近接して 存在し、共生メタン生成アーキアと共に 密 接 な 複 合 体 を 形 成 して い ま す [ 4 3 . Esteban et al. 1993]。これらはバクテリア とアーキアの特異的プローブによるFISH で検出されていますが、共生体の分子系 統は明らかにされていません。この共生 バクテリアの役割については不明です が、ヒドロゲノソームに密接ししている ので、ヒドロゲノソームから水素もしく は、他の何らかの基質の供与を受けてい ると思われます。また、この複合体で は、ヒドロゲノソームと共生メタン生成 アーキア、共生バクテリアが、ほぼ同じ 比率で維持されているので、それぞれの 分裂が同調していると考えられます。類 似の複合体はP. palustrisにおいても報告

されており、この例では2つの共生体は 胞子にも保持されていることが知られて います[44. van Bruggen et al. 1983]。

共生バクテリアの機能:仮説①ステ

ロール前駆体の供給

 T. compressumの共生バクテリアの宿主 の生育への影響を明らかにすることは、 この共生系を理解する上で非常に重要で す。Goosenら[7]が共生バクテリアを持つ N株とそれらを喪失したK株を用いて、 宿主の栄養要求性と抗生物質への応答を 比較しています。その結果、K株のみが ステロールを生育に要求し、N株だけが クロラムフェニコールに感受性を示すこ とがわかりました。また、Broersら[11] がN株の無菌培養株を、抗生物質処理を 経て得た際も、最大細胞密度が50%にま で減少したことを報告しています。この ような抗生物質による生育への影響は S10株においても見られ、クロラムフェ ニコールで処理したS10C株の最大細胞 密度は30%まで減少しています。これら の結果は、共生バクテリアが明らかに宿 主トリミエマの活発な生育に必要である ことを示しています。

 T. compressumの無菌培養株は、スティ グマステロールやスティグマスタノー ル、エルゴステロール等のC24-アルキル ステロールを生育活性化因子として要求 します。しかしながら、C24-アルキルス テロールの合成には分子状酸素が必要な ため、一般的に嫌気性原生動物はこれら を合成することができません[45. Nes and

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McKean 1977]。一方で、多くのバクテリ アがステロールと構造的に似ているホパ ノイド(ペンタサイクリック・トリテル ペン)を持っています。ホパノイドは合 成の過程で分子状酸素を必要としないの で、嫌気条件下でも合成することが可能 です[46. Rohmer et al. 1979]。このことか ら、原生動物のステロール前駆体として ホパノイドが バクテリア、もしくは共 生バクテリアから供給されている可能性 が示唆されています[6]。このことは、T. compressumが、ステロールやその前駆体 が少ない環境で生きていくためには重要 なことです。しかしながら、ホパノイド が実際にステロールの代わりに嫌気性原 生動物の生育を支持できるかは、まだ具 体的な検証がなされておらず、今後検討 する必要があると思われます。

共生バクテリアの機能:仮説②水素

スカベンジャー

 その他に推定される共生バクテリアの 機能として水素スカベンジャーがありま すが、この場合は共生メタン生成アーキ アの機能をバックアップしていることが 期待されます。Goosenら[7]は、共生バク テリアを持つN株と存在しないK株の組 織化学染色で、N株のみにヒドロゲナー ゼの活性を検出しています。この活性が 水素生産を意味しているとすると、共生 バクテリアが水素消費に関与している可 能性も考えられます。しかしながら、一 方で、K株におけるヒドロゲナーゼ活性 の欠失は不可解です。この場合、共生メ

タン生成アーキアは水素以外の基質、例 えば、ギ酸を資化して生育している可能 性が考えられます。ギ酸は水素と共に、 多くの水素資化性メタン生成アーキアが 基質として利用することができます。嫌 気性原生動物における余剰還元力の処理 は、種間水素伝達以外にもギ酸を介した 種間ギ酸伝達で行われている可能性もあ ります。これは、メタン生成微生物コン ソーシアでは機能していることが示唆さ れています[47. Stams and Plugge. 2009]。

共生バクテリアの機能解明へ向けて

 水素スカベンジャーとしての機能以外 にも、嫌気性原生動物の共生バクテリア の 機 能 と して は 、 ア ミ ノ 酸 合 成 [ 4 8 . Hongoh et al. 2008]や窒素固定[49. Hongoh et al. 2009]、酸素耐性への寄与[50. Sato et al. 2009]の可能が考えられます。上記の 機能のいくつかは、ゲノム情報の裏付け もされています。近年の分子生物学的手 法の発展により、マイクロマイニピュレ ーションやゲノム増幅、パイロシーケン ス等を介することで、細胞内共生体等の 難培養な微生物の全ゲノム解析が可能と なっています。細胞内共生体は、共生に 関与しない遺伝子を欠失する傾向がある ので、共生体と自由生活性の近縁種のゲ ノムを比較することで、共生体の役割を 推定することができます[51. Moran et al. 2009]。したがって、全ゲノムシーケンス は共生体の生理学的役割を明らかにする 上で強力なツールとなります。トリミエ マ原虫の共生バクテリアはその役割が明

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らかとなっていないので、これらについ ても、全ゲノムシーケンスが解読される ことが期待されます。

今後の展望

 共生、特に細胞内共生は、2つの異な る生物システムが融合することで、生物 進化を劇的に加速してきました。これに より、生物は変遷する環境に適応し、地 球上での生息環境(ニッチ)を広げてき ました。細胞内共生の結果生じたミトコ ンドリアは、生物を好気的環境へ適応さ せ、酸素呼吸により宿主が獲得できるエ ネルギー量を著しく増加させました。ま た、同じく共生により獲得された葉緑体 は、生物に光合成能を付与し、光からエ ネルギーを得ることを可能にしました。 こうした共生進化のプロセス(共生の起 源やオルガネラ化の過程)は、長い生物 進化の過程で変遷してきたものであり、 その詳細についてはまだまだ多くが未解 明です。しかしながら、我々は共生現象 の底流にある共通原理を理解するための ヒントを、原生動物でも見られるような 現存の共生系から得ることができるかも しれません。とりわけ、エネルギーや栄

養素の獲得において多くの制約がある嫌 気環境では、過酷な環境を生き抜くため の、さまざまなタイプの共生現象が観察 されます。このレビューで紹介したトリ ミエマ原虫に見られるような共生系は、 真核生物、バクテリア、そして、アーキ アという生物界の三つのドメインの生物 が関わる共生系であり、非常に興味深い 研究モデルであるといえます。しかしな がら、この共生系についても、共生体の 代謝様式や、宿主原虫との相互作用、共 生体の進化、共生の成立や維持に関する 分子メカニズム等、まだまだ多くのこと がわかっていません。近年、シーケンス やその他の分子生物学的手法の進歩によ り、複雑な共生系を構成する微生物につ いて、そのゲノム情報を解析することも 可能になってきました。こうしたゲノム 解析と既存の生理学的研究を組み合わせ ることにより、トリミエマ原虫の共生系 に関する疑問の多くが今後、明らかにな ってくるものと思われます。また、この 共生系の解析をとおして、共生進化にお ける普遍的な原理が垣間見えてくること を期待しています。

学生募集

 私達の研究室では、本稿で紹介したトリミエマ原虫の共生系を研究してくれる学生さん を募集しています。週末は沖縄の海で泳ぎながら楽しく研究をしてみませんか?詳しくは お問い合わせください(新里:naoya-s@comb.u-ryukyu.ac.jp)。

新里尚也

(琉球大学熱帯生物圏研究センター)

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