担当:鹿野(大阪府立大学)
2014
年度前期
はじめに
前回の復習
多次元の確率分布:同時分布h(x, y)。
(X, Y)に依存するW = s(X, Y)の期待値。
今回学ぶこと
確率変数の共分散と和の分散。
資産運用への応用:ポートフォリオ選択。
テキスト該当箇所:7.1章、7.2章。小暮・照井(2001)『計量ファイナンス分析の基礎』 も参照。
1 確率変数の共分散と和の分散
1.1
確率変数の共分散
共分散:同時確率分布h(x, y)に従う確率変数(X, Y)について
Cov(X, Y) = E [(X − E(X))(Y − E(Y))] (1)
を 、XとY の (covariance)と 呼 ぶ 。こ こ で 右 辺E(·)の ウェイ ト は 同 時 分 布 h(x, y)。
⊲ (x − E(X))(y − E(Y)) > 0 ⇔期待値を軸に、実現値(x, y)が に動く。⇒平 均的にこの傾向が強いと、Cov(X, Y) > 0。「XとYは の相関。」
⊲ (x − E(X))(y − E(Y)) < 0 ⇔期待値を軸に、実現値(x, y)が に動く。⇒平 均的にこの傾向が強いと、Cov(X, Y) < 0。「XとYは の相関。」
⊲ ∴二次元データの共分散(講義ノート#03)と同じ発想で、実現値の共変動を測る。
共分散の別表現:Cov(X, Y)は、次式でも計算可能。 Cov(X, Y) =
| {z }
積の期待値
−
| {z }
期待値の積
. (2)
元々の定義(1)式よりも、上式のほうがCov(X, Y)を計算しやすい場合が多い。 1
⊲ 証明:(1)式右辺を展開すると
Cov(X, Y) = E(XY − E(Y)X − E(X)Y + E(X)E(Y))
= E(XY) − E(X)E(Y) − E(X)E(Y) + E(X)E(Y)
= E(XY) − E(X)E(Y). (3)
例:次の同時分布h(x, y)に従う確率変数(X, Y)の共分散は?(実現値はx = 1, 3、y = 2, 4。) h(x, y) Y = 2 Y = 4 f (x)
X = 1 0.5 0.1 0.6
X = 3 0.0 0.4 0.4
g(y) 0.5 0.5
f (x)、g(y)はXとYの周辺分布。
⊲ 積の期待値E(XY) =PxPyxyh(x, y)は上の表から
E(XY) = (1 · 2)h(1, 2) + (1 · 4)h(1, 4) + (3 · 2)h(3, 2) + (3 · 4)h(3, 4)
= 2 · 0.5 + 4 · 0.1 + 6 · 0 + 12 · 0.4 = . (4)
⊲ 周辺分布 f (x)、g(y)より、X、Yそれぞれの期待値は
E(X) = 1 · 0.6 + 3 · 0.4 = , E(Y) = 2 · 0.5 + 4 · 0.5 = . (5)
⊲ ∴共分散の別表現(2)式を使えば
Cov(X, Y) = E(XY) − E(X)E(Y) = 6.2 − 1.8 · 3 = >0. (6) (X, Y)に正の相関。
1.2
確率変数の和の分散
確率変数の和:XとYの和をW = aX + bYと置き、分散Var(W) = Var(aX + bY)を考える。
⊲ 準備:Wの期待値はE(W) = aE(X) + bE(Y)(講義ノート#12)⇒Wと期待値の差は W − E(W) = aX + bY − (aE(X) + bE(Y)) = a(X − E(X)) + b(Y − E(Y)). (7)
確率変数の和の分散:W = aX + bYの分散は
Var(W) = Var(aX + bY) = . (8)
∴単にa2Var(X)とb2Var(Y)の和ではなく、さらに が加わる。
⊲ 証明:Wの分散は、定義上
Var(W) = Var(aX + bY) = Eh(W − E(W))2i. (9)
(7)式に注意して上式の右辺を展開・整理すると、 Var(aX + bY) = Eh{a(X − E(X)) + b(Y − E(Y))}2i
= E
ha2(X − E(X))2+ 2ab(X − E(X))(Y − E(Y)) + b2(Y − E(Y))2 i
= a2E
h(X − E(X))2i
| {z }
=Var(X)
+2ab E [(X − E(X))(Y − E(Y))]
| {z }
=Cov(X,Y)
+b2E
h(Y − E(Y))2i
| {z }
=Var(Y)
= a2Var(X) + b2Var(Y) + 2abCov(X, Y). (10)
Remark:W = aX + bYの期待値・分散を公式としてまとめると
1. E(aX + bY) = aE(X) + bE(Y)。(←講義ノート#12。)
2. Var(aX + bY) = a2Var(X) + b2Var(Y) + 2abCov(X, Y)。(←(8)式。)
2 資産運用への応用:ポートフォリオ選択
2.1
ポートフォリオの選択問題
ポートフォリオ:異なる複数の資産(投資対象)を組み合わせて形成される資産総額を、
(portfolio)と呼ぶ。
⊲ 例:1000万円を、定期預金200万円(20%)、不動産700万円(70%)、株100万円
(10%)で持つ。三資産への配分の仕方はイロイロ。⇒どんな配分がベストか?
⊲ ポートフォリオ選択: (経済学・統計学・経営工学の応用分野) の、基本的な問題。
二資産のケース:簡単化のため、二つの資産AX、AYでポートフォリオAWを作る問題を 考える。(A = asset)。
⊲ AXの保有比率をr、AYの保有比率を(1 − r)と置く。各資産の収益率を確率変数(X, Y) で表せば、このポートフォリオのリターン(収益)は
W = rX + (1 − r)Y. (11)
⇒資産保有者(個人or投資信託会社)が、比率rを自由に決める。
⊲ 個別資産のリターンX、Yの期待値・分散・共分散を
µX = E(X), µY = E(Y), (12)
σ2X = Var(X), σ2Y = Var(Y), (13)
σXY = Cov(X, Y) (14)
と置く。(必ずしも正規分布ではないので、注意。)
期待リターンとリスク:Wの期待値E(W)を期待リターン、分散Var(W)をリスクと呼ぶ。
⊲ Wの期待リターン:確率変数の和の期待値なので
µW = E(W) = rE(X) + (1 − r)E(Y) = . (15)
∴単に、二つの資産のリターンの加重平均。
⊲ Wのリスク:確率変数の和の分散(8)式より σ2W = Var(W) = Var [rX + (1 − r)Y]
= r2Var(X) + (1 − r)2Var(Y) + 2r(1 − r)Cov(X, Y)
= . (16)
∴資産同士の共分散σXY に依存。二つの資産のリスクの加重平均にはならない!
Remark:期待リターンとリスクをまとめると
資産 AX AY → ポートフォリオAW(AX の比率r)
リターン X Y → W = rX + (1 − r)Y
期待リターン µX µY → µW = rµX+ (1 − r)µY リスク σ2
X σ
2
Y → σ
2 W = r
2σ2X+ (1 − r)2σ2Y+ 2r(1 − r)σXY
⊲ rを調整すれば、二つの資産AX、AYからさまざまなポートフォリオを作れる。⇒ど んなrが望ましいか?
平均・分散基準:次の基準に基づくポートフォリオ選択を、 と呼ぶ。
⊲ 保有比率rの異なる二つのポートフォリオAW(リターン= W)、AW′(リターン= W
′
) について
1. :「σ2W = σ2W′で、µW > µW′」⇒Wを採用。 2. :「µW = µW′で、σ2W < σ2W′」⇒Wを採用。
⊲ ファイナンス理論の創始者ハリー・マーコヴィッツ(ノーベル経済学賞受賞者、テキ ストp141)による、古典的な基準。
⊲ ミクロ経済学の期待効用理論(リスク回避行動と選好の分析)とも、密接な関係。 2.2
ポートフォリオリスクの最小化
簡単化のため、µX = µY= µで、二つの資産に期待収益上の差が無いとする。
⊲ このとき期待リターンはµW = rµ + (1 − r)µ = µで、比率rに依存 。(∴r をいくら操作しても、リターンは改善しない。)
⊲ 資産保有者が考えるべきこと⇒どんなrに設定すれば、リスクσ2
Wを小さくできる
か?(平均・分散基準)
リスク最小化の条件:ポートフォリオのリスクσ2
Wは、次の保有比率で最小化される。
r∗= = σ
2 Y− σXY
(σ2X − σXY) + (σ2Y− σXY). (17)
これを (minimum variance portfolio)と呼ぶ。リスク最小化の「黄金律」。
⊲ ポートフォリオリスクを最小にするためには、個別資産のリスクσ2
X、σ 2
Yだけでな
く、資産同士の共分散σXY にも注意が必要。
⊲ 現実には、各資産のリターンのデータから分散と共分散s2
X、s2Y、sXY を求め、σ2X、
σ2Y、σXY の推定値とする。
⊲ 証明:σ2W = v(r)と置き、導関数を求めると
v′(r) = 2rσ2x+ (−2 + 2r)σ2Y+ 2(1 − 2r)σXY
= 2r(σ2X+ σ2Y−2σXY) − 2(σ2Y− σXY). (18)
最小化の一階条件v′(r∗) = 0を解けば
r∗(σ2X+ σ2Y−2σXY) − (σ2Y− σXY) = 0 ⇔ (17)式. (19)
Remark:MVPの条件(17)式から分かること
⊲ 仮にσ2X < σ2Yであっても、r = 1(総資産を全てAXで保有)は望ましくない。∴(17) 式は、いわゆる「 (diversified investment)」の科学的根拠。
⊲ マーコヴィッツ曰く「卵を全て一つのバスケットに入れるのは危険である。」... リス ク管理の基礎。
⊲ 注意:本来は「一定の期待リターンを獲得する」という制約条件の下で、ポートフォ リオリスクの最小化問題を解く。
まとめと復習問題
今回のまとめ
確率変数(X, Y)の共分散Cov(X, Y)と和の分散Var(aX + bY)。
応用:ポートフォリオ選択。分散投資。
復習問題
出席確認用紙に解答し(用紙裏面を用いても良い)、退出時に提出せよ。
1. 前回の復習問題で登場した、以下の同時分布Pr(X = x, Y = y) = h(x, y)を考える。 h(x, y) Y = 0 Y = 1 f (x)
X = 0 0.4 0.3 0.7 X = 1 0.2 0.1 0.3
g(y) 0.6 0.4
f (x)、g(y)はX、Yの周辺分布である。前回の計算結果より、E(X) = 0.3、E(Y) = 0.4。 (a) 積の期待値E(XY)を求めよ。
(b) 共分散Cov(X, Y)を求めよ。(ヒント:共分散の別表現を使うと、計算がラク。)
2. ある一定額の予算を、期待リターンが同一の二つの投資プロジェクトAX、AYに振り分け たい。AX の配分比率をrと置く。
(a) 各プロジェクトのリターンX、Yの分散がσ2
X = 10、σ 2
Y = 6、共分散がσXY = 4であ
るとする。投資総額のリターンの分散Var(W)を、rの式で表現せよ。
(b) Var(W)を最小にする配分比率、r
∗
はいくらか?