公共経済学 第 20 講 講義ノート 1/ 2
20 政策決定の問題点 3 : 公債の役割と世代間負担
20.0 今回のアウトライン
A. 公債の様々な考え方と、問題点を理解する
20.1 財政政策の帰結としての公債
A. 相次ぐ景気対策で世界的にも類を見ないほど膨らんだ政府債務 1. 公債の妥当性:公債は発行して良いものなのか
2. 維持可能性と財政再建:財政の健全性、世代間の財政負担の是正 B. 公債における立場としての広義の公債管理政策
1. 均衡財政主義:財政赤字は原則的に出すべきでないという立場
2. ケインズ主義:景気安定化のためには積極的に財政赤字を捉える立場 3. 無税国家志向:赤字ではなく黒字を出して政府支出の原資とすべき 4. 最適課税志向:税率変更は超過負担を生むので税率固定のため赤字是認 5. 最適成長志向:過剰な貯蓄など動学的非効率解消のために赤字是認
→裏返せば、非効率解消を超えて、本来民間投資に向かうべき資金を安全資 産の政府債務が吸収している可能性も (民間投資の吸収)
C. 公債償還に関する満期の期間構成による狭義の公債管理政策
1. 景気の安定化:短期公債を用いて景気の良いときなどに集中的に返済 2. (1) :低金利なら長期公債、高金利なら短期公債を発行
20.2 財政収支と維持可能性
A. 財政の赤字とは歳入と歳出の差である基礎的財政収支 (プライマリバランス) 1. 公債金収入 (借入) と、公債の利払いと元本返済である国債費の差と同じ
公債金収入 を除く歳入
(税収など)
国債費を除く歳出
(社会保障など) 国債費
(利払+元本) 公債金収入
(元本のみ)
財政赤字
Ver. 1.7 Masumi Kawade, 2017
公共経済学 第 20 講 講義ノート 2/ 2
B. 財政破綻しない条件とは単純に考えれば政府債務が雪だるま式に増えないこと C. GDPの名目成長率 n 分の n · Btを新たに借金できる:ドーマー条件1
1. 政府債務には名目利払 i · Btが必要 Bt+1
Yt+1
= (1 + it+1) (1 + nt+1)
Bt
Yt
≈(1 + it+1−nt+1)Bt Yt
(20.1)
2. 名目利子率 i と名目成長率 n だけに着目:どちらが大きい?
D. 財政収支の調整を加え、政府債務の総生産比が維持される条件:ボーン条件2 Bt+1
Yt+1
= (1 + rt+1−gt+1)[ Bt Yt
+( GEt Yt
−GRt Yt
)]
(20.2)
E. 今後高齢化で GDP が減少することが予想 → 厳しい財政再建が必要
20.3 公債と世代間負担
A. 財政再建に必要な増税をいつ誰が引き受けるのか
A. 財政支出で便益を得た家計に増税すれば問題ない:リカードの中立命題 B. 高齢者が自身と同様に将来世代を考えれば問題ない:バローの中立命題
20.4 財政再建の方向性
A. 財政再建は歳出削減と歳入増加:高齢化と経済の成熟で歳出削減も限界 B. 財政再建は長所も短所もある:難しくなる財政運営
1. 財政再建によって財政規律の回復と将来世代の安心確保 2. 消費税増税は高齢者世代や低所得者層にも負担
20.5 確認問題:次の文章の正誤について答えなさい
A. 最適課税の考え方に基づけば一時的な財政赤字は許容される
B. ドーマー条件から、財政破綻回避には利子率が経済成長を上回ればよい C. リカードの中立命題が成り立てば、全額公債調達による家計への政府の補助金
は将来の増税のための貯金になる
1Domar, E.(1944) ”The ‘Burden of the Debt’ and the National Income,” American Economic Review, Vol. 34, p.798-827
2Bohn, H. (1998) ”The behaviour of U.S. public Debt and deficits,” Quarterly Journal of Economics, Vol.113 pp.949-963
Ver. 1.7 Masumi Kawade, 2017