[学会サイトから可能] CV 草薙邦広のページ 025 シンポジウム①草薙邦広

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全文

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1 はじめに

 たとえば,英語におけるtake off やheavy rain,またはon the other handなど, ふたつ以上の単語からなる表現(ここでは総称として複単語表現とよぶ)をあ らわす用語には,実にさまざまなものがある(e.g., collocations, conventional phrases, formulas, formulaic language, formulaic sequences, idioms, lexical bundles,

prefabricated pattern, sentence builders, etc.)。しかし,研究者の間でもこれらの用 語の定義に十分なコンセンサスがあるわけではない。とくに,外国語教育に関 わる諸分野(e.g., 第二言語習得研究)は極めて学際的である。そのため,同じ ような事象を対象とする場合であってもさまざまな理論や手法上のアプローチ が並び立ち,またその複合体をなすようなさまをみせるときもある。しばしば このような学際性がさきほどのような用語の数々を生むのであるが,ときに物 事の本質を掴むことをむずかしくもする。

 複単語表現とはなにか,一体どのようなものか,それを理解するためには, 複単語表現に関する研究者の関心がさまざまな側面に複雑にまたがっている, ということを理解する必要がある。そこで本稿では,まず,テキスト的現象と しての複単語表現,心理的現象としての複単語表現,そして言語的現象として の複単語表現を明確に区別したうえで,それらを複眼的にとらえる必要性があ ることを主張する。その後,複単語表現に関するいくつかの研究事例を紹介し, テキスト,心理,言語,それぞれの側面が実際の研究の上でどのように捉えら れるか示していく。

2 三つの連合

2.1 テキスト的連合

 その名前からもあきらかなように,複単語表現はその構成素(単語)が複数 である。複数の構成素には,研究者が対象とするようななんらかの連合

草 薙   邦 広

名古屋大学大学院 日本学術振興会特別研究員

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(association)の強さがあると考える。まず,テキスト的連合(textual association) について取りあげる。テキスト的連合をあつかう研究分野には,コーパス言語 学(ないしコーパスを用いた言語研究),自然言語処理,語用論,会話分析,レ トリック分析や言語教育工学などがある。テキスト的連合は,話者の言語知識 それ自体ではなくて,言語使用をあらわすものであり,実際に起きたできごと でもある。また,そのために,直接的に観察することができる(e.g., 大名, 2009)。

 テキスト的連合の強さをあらわすもっとも単純な基準は,あるテキストにお いて複数の構成素の組みあわせが高頻度(回数),高共起傾向(確率)であるこ とである。電子的な処理技術をもちいてこのような傾向を評価するためには,(a) 生起回数,(b)頻度,(c)遷移確率,(d)相互情報量,(e)t-score,(f)対数尤 度比,(g)dice係数,(h)ベイズ確率などがもちいられる。たとえば,英語の man and woman という表現において,man and のつぎにwoman が共起する確率 が高い,またはman and womanという表現が,それぞれの構成素からみて期待 すべき確率以上に生起する傾向がある,といった具合である。

2.2 心理的連合

 一方,心理的連合(psychological association)を対象とする研究分野は,心理 言語学,実験心理学,認知科学,神経科学などである。心理的連合の強さは, 心内での言語知識のあり方や,表象のネットワークの強さ,言語を処理する仕 組みのあり方などによる。人間の認知に一般的な特徴として,複数の構成素か らなるものを,ひとつとしてまとめて記憶したり(chunking),処理したりする ことがある。複単語表現に関わる場合,複単語をひとつの語彙的単位(lexical unit)として心的に表象することを,単単位表象(single-unit representation)とよ ぶ。また,構成素を分解することなく,順次的にではなく,全体的に,ひとつ の語彙的単位とおなじように処理することを全体処理(holistic processing)とよ ぶ。心理的な側面では,このような表象および処理のされ方が複単語表現の特 性であるととらえる(e.g., Pawley & Syder, 1983; Wray, 2002)。

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ンなどがその指標としてもちいられる。心理的に単単位表象および全体処理さ れる複単語表現(仮にman and woman)は,そうでないもの(仮にwoman and man)よりも時間的にはやく処理されると考えられる。このような現象の観測が 心理的連合の強さの証拠となる。しかし,これはあくまでも相対性にもとづく ものであることを忘れてはならない。また,予測的処理や頻度効果といった現 象もあるが,これらと全体処理を容易に同一視してはならない。

2.3 言語的連合

 言語的連合(linguistic association)を扱う研究分野は,言語学である。言語的 連合の強さは言語使用や行動データによって示されるものではなく,あくまで も個別言語(a language)の言語知識や言語体系(language system)のありかた による。

 言語的連合は,個別言語の体系としての(a)構文,パターン,素性,構造, 制約による必然性,(b)言い換え可能性,(c)意味的透明性,(d)部分的言い 換え可能性,(e)通時的証拠,(f)言語変化などの証拠によってあらわされる。 たとえば,さきほどから例に出しているman and woman は,and で等位接続さ れた名詞の組であり,統語的にはwoman and man もまったくもって文法的であ る。しかし,このような句はirreversible binomialsとよばれ,個別言語においてそ れぞれ固定的な順序があるとされる。この現象の場合では,Me First Principle(e.g., Cooper & Ross, 1975)のような意味的および音韻的な規則があるとされている。 このような観測は,あるコーパスにおいてman and woman がwoman and man よ り多数生起するとか,man and woman woman and man より速く読まれるとか, そういった単純な証拠とはある程度異なるものである。もうひとつ例をあげる。 日本語を母語とする英語学習者が産出する傾向が強いdo a mistakeというような 表現は,確かに母語話者はこのような句を読むときに読解の遅れが生じ(Millar, 2011),母語話者のコーパスではかなり低頻度である。しかし,そういった観察 とは独立して,doが目的語に取りうる語の特性(意味素性など)と,名詞 mistakeがもつ特性がマッチしないともいえる。

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2. 4 まとめ

 外国語教育研究といった学際的な研究分野では,これらひとつの側面にこだ わるのではなく,むしろ複眼的な見方で複単語表現をとらえる必要性がある。 たとえば,テキスト的連合が極めて高いis aof theといった表現それ自体は, 研究の対象になりにくい。言語学的には,確かに名詞句のdeterminer(a)が copula(is)に後置されることはまったく自然であるが,これらの構成素のみで 句をなすことはなく,意味的なまとまりをもつこともない。よって,テキスト 的連合は強くとも言語的連合が強いとはいえない。

 頻繁に「学習者はコロケーションを全体処理しているか」といった研究テー マを聞くときがある。しかし,これはある意味で,ナンセンス,または循環論 法に近いとおもえるときがある。心理的連合としてみる場合,そもそも全体処 理されていないものはコロケーションではないはずである。これは,「学習者は <テキスト的連合から定義した場合での>コロケーションを<心理的連合の証 拠である>全体処理しているか」という意味であろう。つまり,テキスト的連 合の情報を独立変数として,従属変数を心理的連合(行動データなど)として 複単語表現を調べているのである(e.g., Ellis, Simpson-Vlach, & Maynard, 2008)。 このように,それぞれの証拠の関係(連合の連合)を追求していくことは,複 単語表現の研究における重要な方針である。しかしその前にどのような側面に おいて,複単語表現またはコロケーションなり定型表現をとらえているかを, 自らの研究のなかで明示的にする必要がある。

 テキスト的連合の情報は,自然言語処理技術の発達やコーパスを用いた研究 の隆盛によって,外国語教育研究者にとっても非常に得やすいものとなってき ている。また,心理言語的手法も広く受け入れられるようになってきている。 そうした背景もあってか,近年ではテキスト的連合と心理的連合の関係につい ての研究が数多い。しかし,テキストによる側面だけではみえない現象も数多 い(e.g., 大名, 2009)。これからの複単語表現の研究には,より言語学的知見を 踏まえた見方が必要であるようにおもえる。

3 外国語学習者における複単語表現の知識と処理:

複眼的な見方から

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方が必要になるケースについて取りあげる。

3.1 学習者が産出する不自然なコロケーション

 Millar(2011)は,学習者が産出する不自然なコロケーション(malformed collocation)を母語話者がどのように処理をするか実験をおこなった。日本語を 母語とする学習者の作文コーパスを用いて,best partner,do a mistake といった, 非文法的ではないものの,目標言語的および慣習的な表現とは異なる複単語表 現(不自然なコロケーション)を抽出し,その目標言語的な言い換え(ideal partner make a mistake)とのペアを作成した。それらを実験材料として,母語 話者を対象に自己ペース読み課題(self-paced reading task)をおこなったところ, 学習者が産出した不自然なコロケーションは,その言い換え表現よりも有意に 遅く読まれることがわかった。

 Kusanagi, Leung, Bando, Fukuta and Sugiura(2013)は,Millar(2011)と同様の 実験材料をもちいて,眼球運動計測をもちいた読解課題および自己ペース読み 課題を,日本語を母語とする英語学習者に対して実施した。その結果,母語話 者の結果(Millar, 2011)とは異なり,学習者は両方の複単語表現をほぼ同じ程 度の時間で読むことがわかった。これは,不自然なコロケーションおよびそれ に対応する自然な表現の心理的連合が,学習者にとっては同程度であったこと を示している。また,学習者の産出に多くみられる,つまり,テキスト的連合 としては強いと考えられるこれらの複単語表現も,心理的連合としてはその証 拠を欠く,と言い換えることもできる。さらに,言語的連合の観点では,do a mistake といった表現では,doがもつ目的語の制約といった言語知識を学習者は もっていない,というようにも考えられる。

3.2 Irreversible BinomialsとPrenominal Adjective Orders

 例に何度かあげているような,man and womanといった等位接続された名詞句 は,非常に慣習的で固定的な語順の制約がある。テキスト的連合の観点からみて, woman and manというような逆順の句は極めて低頻度であり,もちろん確率的に も稀である。また言語的連合といった観点からも逆順の句は意味的ないし音韻 的な規則を逸脱する場合があるため(e.g., Cooper & Ross, 1975),その連合は強 くないといえる。

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ある名詞 and 名詞表現を抽出し,それをそのままの順番で提示する条件,およ び逆順で提示する条件を設けたフレーズ性判断課題を英語母語話者および学習 者に実施した。母語話者の結果では,逆順提示によって反応時間は遅れ,フレー ズ性の判断率が低減したが,学習者の場合ではこのような効果はみられなかっ た。このことから学習者は,man and woman というような慣習性の強い表現を 単単位表象および全体処理しておらず,さらに irreversible binomials に関わる意 味的および音韻的な知識を欠いていると考えられる。

 おなじように,名詞前位形容詞にも固定的な順序がある(prenominal adjective orders)。たとえば,a little white cat とa white little cat やa Japanese beautiful girl a beautiful Japanese girl の間には頻度と共起確率に大きな差がある。テキスト 的連合からみて,固定的な順序の表現はその連合が強いといえるし,言語的連 合に関しては,言語学者が名詞の組み合わせによる意味的制約を扱っているよ うに(e.g., Langacker, 2008),その連合は強いと考えられる。

 Kusanagi(2013b)は自己ペース読み課題を,Kusanagi and Fukuta(forthcoming) は文レベルのプライミングつき読解課題をもちいて,当該の表現をどのように 学習者が処理するか調査した。いずれの課題においても,母語話者の結果とは 異なり,正しい順序および逸脱した順序の読解および反応時間などには差がな かった。この結果はかならずしもテキスト的連合と言語的連合が強い複単語表 現が(学習者において)強い心理的連合をもつわけではないことを示している。

4 総括

 このように,複単語表現の中には言語的制約と切りはなせないものが多くみ られる。学習者の言語知識は,得られたインプットやそれらの確率的組み合わ せによって習得される側面もあるが(language sampling; e.g., Ellis, 2002),学習 者はテキスト的連合を心理的連合に反映させる単純な機械ではないし,言語の 習得はそのようなものでは決してない。しかしながら,これまでの複単語表現 研究には,言語的制約や言語に関わる社会文化的側面について取りあつかって いるものが多いとはいいにくい。今後,こうした視点も踏まえた複眼的なとら え方がより重要になるとおもえる。

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育実践をもとめる独自の方向性を見出していくことであろう。

引用文献

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Kusanagi, K., Leung, C. Y., Bando, T., Fukuta, J., & Sugiura, M. (2013). L2 learners’ online insensitivity to malformed collocations: A study using eye tracking and

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参照

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