初等量子力学演習 (Wednesday August 2, 2017) 期末試験 解答例&解説 1 問題1.次の問題を解け。 (20点)
1-1.次の3つの現象や実験を,光の粒子性を示すものと 波動性を示すものとに分けよ。
•光電効果
•ヤング・テイラーの実験
•コンプトン効果
答.粒子性:光電効果,コンプトン効果, 波動性:ヤング・テイラーの実験
1-2. φ(x, t), χ(x, t) を任意の関数とする。⟨φ, χ⟩ を積分 で表わせ。また,⟨φ, χ⟩と⟨ χ, φ⟩の関係を書け。
答.空間1次元の場合,内積の定義は
⟨φ, χ⟩ =
∫ ∞
−∞
φ∗(x, t) χ(x, t)dx (1) また
⟨ χ, φ⟩ =
∫ ∞
−∞
χ∗(x, t)φ(x, t)dx なので
⟨ χ, φ⟩ = ⟨φ, χ⟩∗. (2)
1-3.一般に,波動関数ψ(r, t)の規格化
∭ ∞
−∞ |ψ(r, t)| 2d3r =
∭ ∞
−∞
ψ∗(r, t)ψ(r, t)d3r = 1 (3) は時刻に依存しない。この結果から何が言えるか? (上 式が時刻に依存しないことは示さなくて良い。)
答.波動関数の規格化(3) が時刻に依存しないので, 任意の時刻に1度だけ規格化すれば,Schrödinger方程 式で時間発展する限り,いかなる時刻でも規格化条件が 成り立つ。よって各時刻毎に規格化する必要は無い。つ まり全確率が保存し,どの時刻においても波動関数の絶 対値の2乗は確率密度と見なせる。これは,Schrödinger 方程式による時間発展が,ユニタリであることに因る。 問題2.波動関数がψ(r, t) = f (t) u(r)と変数分離できる とする。これをSchrödinger方程式に代入し,f(t)およ びu(r) が満たすべき方程式を導け。変数分離で生じる 定数はE とする。 (20点) 答.与えられた波動関数をSchrödinger方程式に代入 すると
iℏ ∂
∂t f(t) u(r) = [
− ℏ
2
2m△ + V(r) ]
f(t) u(r).
両辺をψ(r, t) = f (t) u(r)で割ると iℏ
f(t)
∂ f(t)
∂t = 1 u(r)
[
− ℏ
2
2m△ + V(r) ]
u(r) (4)
となる。ここで左辺はt だけの関数,右辺はr だけの関 数である。いま t と r は互いに独立な変数なので,(4) が任意の t と任意と r とで成立するには,両辺とも定 数でなくてはならない。この定数を E とおいて整理す ると
iℏdf(t)
dt = E f(t), (5) [
− ℏ
2
2m△ + V(r) ]
u(r) = E u(r). (6) を得る。(6)は時間に依らない Schrödinger方程式と呼 ばれ,定常状態の考察に用いられる。
問題3.波動関数ψ(x) = Ne−
α
2(x−b)2+ik xで表される粒子
について調べる。 (30点) 3-1. 規格化条件より N を決定し,規格化された波動関 数を定めよ。
答.規格化の定義とガウス積分の公式より
∫ ∞
−∞
ψ∗(x)ψ(x)dx = |N |2
∫ ∞
−∞
e−α(x−b)2dx
= |N |2
∫ ∞
−∞
e−αy2dy =√ π α|N |
2= 1.
x− b = yと変数変換した。N を正の実数に選べば
N = (α π
)14 従って規格化された波動関数は
ψ(x) = (α
π )14
e−
α
2(x−b)2+ik x. (7)
3-2.確率密度 ρ(x)を求め図示せよ。 答.確率密度の定義より
ρ(x) = ψ∗(x)ψ(x) =√ α π e
−α(x−b)2. (8)
x = bを中心とし,頂点の値 ρ(b) =√ α
π のガウス関数。 3-3.粒子を観測したとき,x > bの範囲に見つかる確率 はどれだけか?
答.図より確率密度 ρ(x)は x = bを境に線対称なの
で,x ≶ bに見つかる確率も半分ずつ。つまり粒子を観
測したとき,x > bの範囲に見つかる確率は 1
2 となる。
3-4.位置の期待値 ⟨x⟩を計算せよ。
答.期待値の定義とガウス積分の公式より
⟨x⟩ =
∫ ∞
−∞
ψ∗(x)xψ(x) =√ α π
∫ ∞
−∞
x e−α(x−b)2dx
= √ α π
∫ ∞
−∞(y + b) e
−αy2dy
= b. (9)
最後は,奇関数を −∞から∞まで積分すれば0になる ことを使った。
初等量子力学演習 (Wednesday August 2, 2017) 期末試験 解答例&解説 2 問題4. x軸上を運動する質量mの粒子に (30点)
V(x) =
{0 (0 ≤ x ≤ L),
∞ (上の範囲外) のようなポテンシャルが作用している。
以下,0 ≤ x ≤ Lの範囲で考える。
4-1.エネルギー E に対応する波動関数をu(x)とし,定 常状態のSchrödinger方程式を書け。
答.定常状態に対する一般のSchrödinger方程式は (
− ℏ
2
2m d2
dx2 + V(x) )
u(x) = Eu(x).
いま0 ≤ x ≤ L の範囲ではV(x) = 0で一定の自由粒子 なので,Schrödinger方程式は
− ℏ
2
2m
d2u(x)
dx2 = Eu(x). (10)
4-2. 境界条件 u(0) = u(L) = 0 を採用し,系のエネル ギー準位 En および線形独立な規格化された波動関数 un(x)を求めよ。量子数nの値を明示すること。E > 0 として良い。
答.(10)の一般解は
u(x) = A sin k x + B cos k x. ただし
k =
√2mE
ℏ . (11)
境界条件より
u(0) = B = 0, u(L) = A sin k L = 0. よって波数k は,整数nを用いて
kn = π
Ln (12)
と表される。これより
un(x) = A sinnπ
L x. (13)
ここで正弦関数の偶奇性から
u−n(x) = −un(x)
なので,u−n(x) はun(x)と独立ではない。また n = 0 は,恒等的にu(x) = 0の自明解しか与えないため,nは 正整数だけに限られる。(11)をE について解けば
En = ℏ
2k2n 2m =
π2ℏ2 2mL2 n
2, n = 1, 2, 3, . . . (14)
となり,離散化されたエネルギーレベルが得られる。 ちなみにE ≤ 0 では与えられた境界条件を満たす非 自明な解が存在しないため,E > 0に限った。
(13)を規格化すると
∫ L 0
u∗n(x)un(x)dx =| A|2
∫ L 0
sin2 nπ L x dx
=L2 |A|2 = 1.
∴ A =
√2 L
ここで Aを正の実数に選んだ。従って規格化された波 動関数は
un(x) =
√2 L sin
nπ
L x (n = 1, 2, 3, . . . ) (15) と決まる。
4-3.波動関数un(x)に対して,運動量の期待値⟨ ˆp⟩を計 算せよ。
答.任意の量子数nの波動関数un(x)に対して
⟨ ˆp⟩ =
∫ ∞
−∞
u∗n(x)ℏ i
dun(x) dx dx
= 2ℏ iL
∫ ∞
−∞
sinnπ L x
d dxsin
nπ L xdx
= 2ℏ iL
∫ ∞
−∞
sinnπ L x cos
nπ L xdx
= ℏ iL
[
sin2 nπ L x
]L
0 = 0 (16)
の通りに,運動量の期待値は0になる。これは,波動関 数(15)を
un(x) = 1 2i
√2 L(e
iknx
− e−iknx) (17)
と書き換えると分かりやすい。(17)は,p = ℏk の波と p =−ℏk の波との同じ割合での重ね合わせなので,正味 の運動量が打ち消されている。いわゆる定常波を作っ ていることになる。
古典的な粒子で例えると,0 ≤ x ≤ L内で xの正方向 に進む粒子が,x = Lの剛体壁で弾性衝突してそのまま 負方向に進み,またx = 0の剛体壁で弾性衝突して正方 向に進む運動をくり返す。よって正方向に進む粒子と 負方向に進む粒子が全く同じ量だけ存在するのである。