パルス中性子ビームで原子の世界を照らす

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パルス中性子ビームで原子の世界を照らす

大学院工学研究院 准教授

木野

き の

幸一

こ う い ち

(工学部機械知能工学科機械システムコース)

専門分野 : 中性子工学

研究のキーワード : 中性子, 放射線, 加速器, イメージング, リチウムイオン二次電池

HP アドレス : http://www.eng.hokudai.ac.jp/labo/hulinac/

パルス中性子ビームとは?

中性子と聞かれて何を思い浮かべますか?エネルギーに関心のある人は原子力発電を、 天文学に興味のある人は中性子星を挙げるでしょう。どちらにしても、中性子のビームは 想像するに難しいかもしれません。確かに中性子ビームは、X線ビーム等に比べて、作る ことも操ることも大変です。しかし、私たちは中性子ビームを作り出し、サンプルに照射 し、散乱や吸収を観察することで、原子の世界を覗いています。それは、中性子ビームに は優れた特性があるからです。X線では原子番号が小さい原子は、ほとんど反応しないた め見る事ができませんが、中性子は水素やリチウムのような軽い原子も見る事ができます。 中性子は透過力が強いのも魅力です。X線では鉄のような重い原子のサンプルは表面しか 観察できませんが、中性子は内部を観察する事ができます。また、パルス中性子ビームと は、25〜50Hz程度の周期でパルス状に出される白色(いろいろな波長の混ざったもの) の中性子ビームです。一度にいろいろな波長で観察できるので、得られる情報が多い点で 優れています。

私たちは、このパルス中 性子ビームを、加速器で作 られる電子や陽子のビーム をもとに作り出しています。 図1(左)は、北大が所有 する電子線加速器です。小 型なため様々なアイデアの 実験に容易に対応ができる

のが特徴です。図1(右)は、J-PARCという陽子線加速器施設で、世界最高強度•性能の パルス中性子ビームを使うことが出来ます。

どんな実験をしていますか?

中性子は粒子であるとともに、ド•ブロイ波と呼ばれる波としての性質も持っています。 この波長が結晶の原子間隔に近いときにはブラッグ回折が起きます。これは、結晶格子面 で散乱された中性子の経路差が波長の整数倍の時には干渉して強く、波長の半整数倍の時 には干渉して弱く観測される現象です。逆に波長や結晶への入射角度を変えながら測定し てやれば、結晶構造を知る事ができます。広く行われているのは、この回折された中性子

出身高校:岐阜県立大垣北高校 最終学歴:東北大学大学院理学研究科

原子・分子

図1 左:北海道大学の45MeV 電子線形加速器。 右:茨城県東海村の J-PARC。 物質・生命科学実験施設でパルス中性子ビームが利用できる。

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を検出、解析する手法です。しかし私たちは、図2のようにサンプルを透過した中性子を 検出する手法を活用しています。回折されなかった中性子の2次元イメージが得られます。 さらに、中性子の飛行時間を計測することで、個々の中性子の波長を知る事ができます。 このようにして結晶構造をイメージングする手法は、急速に発展中です。最近では、結晶 子(結晶の向きのそろった粒)の向きや、

大きさについて情報が得られるように なっており、金属を溶接した部分や折り 曲げた部分のイメージングができるよう になりました。これは、我々の周りの金 属加工物の安全性や性能向上に貢献が期 待されます。また、日本刀などの金属製 文化財に適用することで、歴史・文化的 研究にも貢献しています。

今一番に目指している研究対象は何ですか?

リチウムイオン二次電池のパルス中性子 ビームによるイメージングを狙っています。 これは、実用化されている二次電池で最も性 能が高く、電気自動車の性能向上のキーとな るデバイスです。さらに東日本大震災以降、 家庭用蓄電池としても注目されています。し かし、現在のリチウムイオン二次電池の性能 は理論値には達していません。これを克服す るためには、個々の材料の研究のみならず、 組み上がった電池の内部でどのような事が起

こっているかを観察することが重要です。図3は、負極にグラファイト、正極にLiCoO2 の各結晶を用いたリチウムイオン二次電池の模式図です。電池内部でLiイオンがグラファ イトの層間とCoを囲むOの八面体でつくる層間を行ったり来たりすることで、充放電が行 われます。この際に結晶に伸び縮みが生じます。これを2次元で観察すれば、電池を破壊 する事無く、充放電反応のイメージングがで

きると考えています。図4は、北大にて行っ た正極材料LiMn2O4結晶の透過スペクトル 実験データです。ブラッグエッジと呼ばれる ギザギザ構造がほぼ計算通りに現れています。

J-PARCを使う事によってよりシャープなブ

ラッグエッジをもったイメージング画像が得 られると考えています。本研究がエネルギー 社会の変革に貢献する事を願っています。

図2 パルス中性子透過法の概念図。

図3 リチウムイオン二次電池の概念図。

図4 LiMn

2

O

4

正極材料の中性子透過スペクトル。

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参照

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