第2 9回 北 海 道 都 市 問 題 会 議
農 業 を 軸 と し た 新 し い 都 市 の 創 成 ~ 新 農 業 都 市 の 提 案
北海道都市問題会議は、10月6日(水)、7日(木)の両日にわたって、深川市で行われた。今回の テーマは北海道に多くみられる農業地域の中にある都市のあり方を考えようという問題意識から「農業 を軸とした新しい都市の創成ー新農業都市の提案」が選ばれた。
第一日は、講演とシンポジウムが行われた。北海道都市地域学会の淺川昭一郎会長から簡単なテーマ の解説があった。田園都市などの例を挙げながら、北海道には農業を主たる産業とした都市があり、そ うした都市を例として取り上げ、農村と都市の融合、新しい農業都市という概念を確立することが重要 だと述べた。
その後に北海学園大学経済学部の太田原高昭教授の基調講演があった。太田原教授は、効率性重視の 社会の見直しや農業の持つ外部性を重視することが重要である。大規模な農業や広域的な流通ばかりで なく、地産地消などもすすめ、中小企業や小農の育成をはかることが必要であり、それは内発的発展に もつながる。またスロー・フード運動にみられるような安全性や文化も重視しなくてはいけない。また、 食教育により子供の食を考える必要があると述べた。
続いて午後にシンポジウムが開催され、まず深川市長の河野淳吉氏から深川市の現状と取り組みが簡 単に紹介され、米作りを中心とした農業を中心にまちづくりを行う「ライスランド深川」構想やグリー ンツーリズム、「元気村夢の農村塾」のことなどが紹介された。
続いてコーディネーターの都市再生機構顧問の太田清澄氏からテーマの解説があり、①北海道の地域 自立のために不可欠な主産業である農業について、後継者不足・耕作放棄地の無秩序な増大等の課題が 顕在化している。このシンポジウムは、これまでの議論とは明らかに異なる視点、すなわち都市サイド に た っ て、 都 市・ 地 域 が 持 続 可 能 な 自 立 を し て い く た め の 視 点 に 立 っ た 議 論 を 展 開 さ せ た い。 ② 今 日、 農業(田園)と都市は「対立の時代」から「交流の時代」へと変化したといわれている。この証左の1 つとして、法制定以来の農業振興法と都市計画法の改正内容のターニングポイントについて俯瞰すれば 明らかである。③持続可能な都市・地域の自立のためには「交流」の概念を更に超えた「融合」の概念 と 仕 組 み が 必 要 で は な い か。 具 体 的 に は 農 業 振 興 法 と 都 市 計 画 法 の 個 別 法 の 隘 路 を「 ま ち づ く り 条 例 」 等の条例で補完している。法制度の側面においてすら融合がなされなければならない。シンポジウムは この「農業(田園)と都市の融合」を仮説的テーマとして議論を展開させたい、という説明があった。
まず深川市の拓殖短大の橋本信教授から深川市でのグリーンツーリズムの実践例が報告された。農業 生産ばかりでなく、プラスアルファが必要であるという観点から地元の代表と「アグリ工房まあぷ」を 立ち上げ、収穫やカヌーの体験、組立ログハウスなどの試みが行われた。それがさらに本業に跳ね返り、 短大の環境学科にグリーンツーリズム概論という科目を開講するまでになった。
続いて地元の「元気村夢の農村塾」の渡辺滋典氏からその取り組みが紹介された。市から援助も得て、
��� �
北海道都市地域学会
ニュースレター
第2号
TOPICS
★第29回 北 海 道 都 市 問 題 会 議
「農業を軸とした新しい都市の創成 ~ 新農業都市の提案」 特 集 号
農業体験を農家が行った例を紹介した。農業を体験した高校生が心の癒しを得た例などが紹介された。この ほかに他地域から農業に就農した方の経験などが語られた。また食育教育の重要性も指摘された。
続 い て フ リ ー キ ャ ス タ ー の 林 美 香 子 氏 か ら、 ス ラ イ ド を 用 い な が ら グ リ ー ン ツ ー リ ズ ム の 紹 介 が あ っ た。 またスロー・フード運動について、単に食べる運動ではなく、地域を愛し、地域を育てる運動であり、都市 と農村の交流というだけでなくそれ以上のものを目指していると述べられた。また農村景観を大事にしてほ しいと述べられた。
掛川市の小松正明助役は、農業を考える場合に、農地、農民、農業、農村、農家、農協という観点から考 え な く て は い け な い、 農 業 を 助 け る た め に は 個 性 化 を 行 う 必 要 が あ り、 農 家 と 農 民 と い う 点 で は 規 模 拡 大、 また担い手が少ない現状では、協業化が必要である。また生産消費地化や、農地の公有化が考えられなくて はならないと述べた。
北 海 道 大 学 の 加 賀 屋 誠 一 教 授 か ら は 農 業 都 市 の あ り 方 に つ い て 循 環 型 シ ス テ ム の 考 え 方 を 紹 介 が あ っ た。 また現在、都市は都市計画法、農地は農振法で規制されているが、都市と農村を同じ法律で考える必要があ るのではないかという主張が展開された。
こののち、議論が行われたが、一つの中心的な議論は、都市は都市計画法で規制され、農地は農振法で規 制されており、この二つを統一的に計画し、自立できる地域を構築するために農地にも都市と一体となった ゾーニングの概念を導入し、都市と農村を融合できないかというものであった。しかしもう一方の主張として、 急激かつ外圧的なゾーニングの導入では無く、地域の人材の育成や意識改革が根幹であるというものがあっ た。コーディネーターからは両方の考え方は当然必要であるが、時間軸を考慮した時、大胆なブレークスル ーが求められるのではないか,又具現化に隘路があり過ぎるというのであれば、あくまでも都市再生モデル としての位置づけで、先ずどこかでひとつでも試みてみる必要があるのではないかという総括があった。 第二日は、今回初めて行われた北海道都市地域学会セミナーであり、北海道大学の佐藤馨一教授と札幌学 院大学の河西邦人助教授の講演があり、約80名の聴衆が集まった。佐藤教授からは、「農業都市における生 活交通の確保方策とその課題」というテーマで講演があり、農村地域における生活交通の確保が難しく、そ れをどのように確保するかという観点から講義がなされた。また河西助教授からは「農業におけるコミュニ ティビジネスの可能性」というテーマで講演があり、様々な実例が述べられ、農村におけるコミュニティビ ジネスの展開可能性について講演がなされた。
今回の都市問題会議は、「農業都市」という新たな視点を求めたテーマと、「北海道都市地域学会セミナー」 という新たな企画が行われ、有意義な大会であったといえる。
(北海道都市地域学会 企画委員会 ) ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
新 農 業 都 市 に お け る 生 活 交 通 の 確 保 方 策 と そ の 課 題
佐 藤 馨 一
(北海道大学 大学院 工学研究科 教授 北 海 道 都 市 地 域 学 会 副 会 長)
1.はじめに
わ が 国 は 人 口 停 滞 期 に 入 り、 今 後、 減 少 し て い く こ と は 確 実 で あ り、 こ れ に 伴 い ス プ ロ ー ル 化 を 防 ぐ 市 街 化調整区域が存在意義を失いつつある。さらに都市施設の再配置やゾーニングの見直しが必要となり、都市 計画の枠組は大幅に変えて行かなければならない。本文は北海道における人口減少下のまちづくりのために
「新農業都市」のコンセプトを提案し、そこにおける生活交通の確保について考察したものである。 2.新農業都市のコンセプト
都市の成立要因として「交通結節点」や、「防衛拠点」であったことが知られている。これらの都市は成立 時から第三次産業的であり、食糧品や建設資材などは他地域から運ぶことを前提にしていた。これまで都市
と農村が区別されてきたのは、食糧生産が農地=農村のみで行われ、農業は都市機能に付随するもので はないと考えてきたことによる。しかしヨーロッパの都市と異なり、日本の都市は農村とのしきりが明 確でなく、城壁のような境界線は存在しない。
北 海 道 の 都 市( 市 政 執 行 ) の 多 く は 農 業 が 主 要 産 業 と な っ て お り、36.1万 人 の 人 口 を 有 す る 旭 川 市 の 工 業 出 荷 額 は2300億 円 で あ り、 こ れ に 対 し て 農 業 生 産 額 は1631億 円( 平 成13年 度 ) に 達 し て い る。 ま た 人 口2.7万 人 の 深 川 市 の 工 業 出 荷 額 は108億 円、 農 業 生 産 額 は127億 円 で あ り、 主 産 業 が農業であることを示している。
都 市 計 画 の 用 途 地 域 に 商 業 地 域、 工 業 専 用 地 域 は あ る が、 農 業 専 用 地 域 は な い。 ま た、 市 街 化 調 整 区 域で農業活動をすることは認められているが、そこでは宿泊施設等の立地は認められていない。この制 約が都市計画法と農業地域振興法の法律によるものならば、人口減少下社会の実態に合わせて法律を変 える必要がある。
宗教活動の本拠地を有し、それを支える人々が住む都市は宗教都市と呼ばれ、市域内に大規模な工場 用地を持つ都市は工業都市と呼ばれている。この論理を推し進めると農業を主産業とし、農業に従事す る人の生活を支え、医療や教育などの都市機能を充実させた都市は、「新農業都市」と呼ぶべきではなか ろうか。
3.サポート交通システムによる生活交通の確保
地方都市における公共交通機関、とくにバス交通の利用者は大幅に減少しており、平成15年度から 施行された規制緩和政策によって不採算路線の休廃止が進んでいる。これまでバス交通に関して数多く の実態分析や採算性に関する研究が行われてきた。しかしバス交通が起死回生する妙案はなく、なかで も農業を中心産業とする地域では住民の減少と高齢化、自家用車の普及のためにバス交通の持続はほと んど絶望的である。
このため筆者らは、新農業都市における生活交通を確保する方策として次図に示す「サポート交通シ ステム」を提案してきた。
(1) サポート交通システムの仕組み
サポート交通システムは「サポートする人(送迎してあげる人)」、「サポートされる人(送迎してもら う人)」、「運営団体(コーディネーター)」によって構成される。サポートを希望する人は目的地と時間 を運営団体へ連絡し、それを受けた団体はサポートのできる人を探し出し、サポート交通の依頼を行う。 サポートするが了解したとき、サポートされる人にそれを連絡する。
サポート交通システムは以下の原則に基づいて運営される。 [サポート交通システムの基本原則]
・サポートされる人はふだん自家用車を利用出来ない人とする。
1.「都市学研究 42」研究論文投稿のご案内
現在、「都市学研究42」の研究論文の投稿を受け付けております。会員の皆様からの活発な投 稿をお願いします。詳しくは同封の論文委員会からのお願いおよびホームページをご覧下さい。 ホームページのアドレスは、http://wwwsoc.nii.ac.jp/haus/ です。
2.電子メールアドレス登録のお願い
事務局からの迅速な連絡等を行うために、電子メールアドレスの登録をお願いします。まだ登 録されていない方は、ホームページの送信フォームからお名前と電子メールアドレスを送信して 下さい。事務局に御自身の電子メールアドレスが登録されているかどうかは、「北海道都市」巻 末の会員名簿で確認できます。
3. 学会事務局連絡先
〒 060-8589 札幌市北区北9条西 9 丁目
北海道大学 大学院農学研究科 園芸緑地学講座内 北海道都市地域学会事務局 (庶務担当理事 愛甲哲也) TEL 011-706-2452(直通)
・送迎に際して、直接的な金銭の授受は行わない。
・サポート交通の対象は買い物や通院などの交通とし、通勤や娯楽目的の交通は取り扱わない。
・サポート交通システムは同一生活圏内(原則として自治体)で運営する。 (3) サポート交通システムの課題
平成15年11月、士別市においてサポート交通に関する意識調査を行った。その結果、以下に示す 問題点のあることが明らかになった。
・他人の車に乗ること、または他人を自分の車に乗せることのわずらわしさ
・相手のマナー(喫煙など)が悪いおそれがある
・急にキャンセルすることや遅刻するおそれがある
・突然の予約に対応できるか、という心配
・何かトラブルに巻き込まれるのではないか、という心配
・交通事故の発生による責任問題
・料金が無料であることへの抵抗感 4.終わりに
士別市における意識調査と需要推計を行った結果、参加意思のある人が多数おり、サポート交通シス テムの成立する可能性は十分ある。このとき実費程度の費用負担することが成功の鍵となる。サポート 交通システムを運営するためにマネジメント組織の設立が必要であり、ボランティアやNPOとの連携 が不可欠である。また事故が起きたときの補償制度も十分に整備しなければなければならない。
生活交通の確保はサポート交通の経費を誰が負担するかにかかっている。地域住民や交通事業者の負 担はもはや限界に達しており、国土交通省のバス事業補助金では新農業都市の生活交通を維持できない。 それゆえ国土交通省の補助金のみならず、農水省の補助金を新農業都市の生活交通確保のために活用す ることも検討する必要がある。道州制の実現によって省庁間の壁が取り除かれたとき、そこには新しい 都市が、すなわち新農業都市が誕生していることを夢みたい。
北海道都市地域学会の今年度の事業計画・会員名簿 の更新・ホームページなどについてお知らせします。