バイリンガルの言語接触開始年齢と脳賦活様態:
ブレインイメージング手法による一考察
立命館大学大学院 言語教育情報研究科
田浦秀幸
htaura@fc.ritsumei.ac.jp
May 14, 2011@4th BiL1
1 先行研究・RQ
2 fNIRS: 機能的近赤外分光法
3 第1実験
VFT: 言語流暢性検査
4 第2実験
BST: バイリンガルストループテスト
5 総合考察
Outline
1 先行研究
1.1 ブレイン・イメージング研究
1.2 言語習得臨界期研究
1.3 バイリンガルの定義
Kim et al. fMIR (1997) Nature誌
early (child) bilinguals vs late (adult) bilinguals
ブローカ野 ウェルニッケ野
1.1 ブレイン・イメージング研究
1) Hernandez, 2009: S-E early bilinguals対象(N=12) 絵命名タスク結果: 単言語タスク < 2言語タスク 前頭前野背外側部や上頭頂小葉 2) Gandour et al., 2007: 中英lateバイリンガル(N=10大学生) 2言語レベル同等 = プロソディーでは同部位賦活
3) Halsband, 2006: F-E late bilinguals 賦活部位異なる
4) Sakai, 2005: 日本手話・日本語バイリンガル文章理解同じ部位 5) Emmnorey et al., 2002: ASLタスクにより左脳・両脳賦活 6) Weber & Nerille, 1996: 11才以降のL2は左脳以外賦活大
対象バイリンガル・使用タスクにより
L1/L2 neural network結果混在
バイリンガル対象fMRI研究
i) 言語接触開始年齢
ii) (優位脳内での比較でなく) 前頭前野の
ブローカ野・その右脳相当部・中央部賦
活状態の比較
Halsband (2006)
1) 言語習得様態
年齢・自然習得か教室学習・第2言語レベル
2) タスク
単語なら情動を含むかどうか
1.2 言語習得臨界期研究
結果混在
(1) 支持: DeKeyser (2003), Dekeyser & Larson-Hal(2005), Hyltenstam & Abrahamsson (2001, 2003)
(2) 不支持: Bialystok (2001), Birdsong (2005), MacWhinney (2005)
(3) sensitive period: Singleton (1989, 2001), Scovel (2000) *Chiswick & Miller (2008): 生涯を通して徐々
*Long (1990, 2005) 音韻は6才で統語形態素は15才
1.3 バイリンガルの定義
第1言語としてのバイリンガル定義
(1) McLaughlin (1984), Koppe (1996) 3才以下
(2) Chin & Wigglesworth (2007), Meisel (2003) 出生時
(3) De Houwer (2009) 出生時+常に2言語接触
(胎児: 5ヶ月血流・心音、7ヶ月イントネーション識別)
Research questions
RQ 1: L1/L2言語接触開始年齢(特に
OA=0才)と言語使用時の脳賦活に関連性
RQ 2: 関連性があるのなら、前頭前野の
ブローカ野・その右脳相当部位・中央部
のどの部位か?
*個人反復検査 < グループ検査 (Ehlis et al., 2008)
2 ブレイン・イメージング装置
fMRI
利点: 空間分解能が高い
欠点: 身体拘束・騒音の為言語タスクに向かない
時間分解能が低い・高価
同じ血流計測で非侵襲性であり、子供対象に言語
タスク可能で、安価な装置? fNIRS
近赤外光
・可視光線より波長が長い
・fNIRSでは700∼900nm
(1cm=10,000,000 nanometers)
・無害
(1) 萩原, 2011小学生 N=80 (2) Dresler et al., 2009
小中学生N=90
機能的近赤外分光装置
(fNIRS: functional Near Infrared Spectroscopy)
視覚・聴覚情報 → ニューロン・シナプス
・酸素化ヘモグロビン(oxy-Hb)酸素供給
・近赤外分光法でリアルタイムに脳活動の
カラーマッピング
感覚情報は、約1000億個存在するニューロンがシナプスを介して伝達・処理。その際、酸素化ヘモ
グロビン(oxyHb)が酸素供給を行う。 近赤外光イメージング装置は、近赤外分光法を用いてその
反応(脳表面の酸素状態)を捉え、脳活動状態をリアルタイムにカラーマッピング表示する装置。
計測原理
近赤外光
・大脳皮質: 散乱/吸収進行
・ヘモグロビン: 近赤外光 吸収率は酸素の有無次第
・近赤外光が頭皮に戻る
・電気信号に変換後、 酸 素化ヘモグロビン、脱酸 素化ヘモグロビンの変化 量を算出
光路長 ヘモグロビン変化量を130msごとに計測 単位はmol/L・mm
近赤外光は、光ファイバを用いて入射します。入射された近赤外線は大脳皮質で散乱、吸収されなが
ら、一部が頭皮上に戻ります。これを受光部の光ファイバ で検出します。検出した光は、電気信号
に変換後、 変形ランバート・ベール則に沿って酸素化ヘモグロビン、脱酸素化ヘモグロビンの変化
量を算出します。
体の中は、光を透過させる性質と、光を吸収・散乱させる性質があります。この吸収・散乱の程度
は光の波長と生体を構成している成分により異なります。特に 血液成分のヘモグロビンによって、
近赤外光が吸収されますが、そこに酸素がついていると、その吸収の度合いが変化します。NIRSは
近赤外線によりその度 合いを測定し、酸素化ヘモグロビン、脱酸素化ヘモグロビン(deoxyHb)の
変化量を測定する方法です。
なぜ近赤外光?
可視光: 生体内吸収率高く1mm進むのに光強度1/10減衰
近赤外光: 約10倍進む波長の長い赤外光: 吸収率大きい
可視光(400∼700nm)はヘモグロビンやその他 の生体構成物質での吸収率が大きく、光の強度が
1/10に減衰するまでに進むことのできる距離が1mm以下。近赤外線よりも長い波長域の光は水 で
の吸収率が大きいため、生体内をほとんど進むことができない。一方、近赤外線は生体内での吸収
率が少なく約10倍の距離を進むことができ、より深い所の情報を得ることができる。
oxy-Hb, deoxy-Hb, total-Hb
酸素化 脱酸素化 総ヘモグロビン
神経活動時: deoxy-Hb濃度低下
=MRI (blood oxygen level dependent, BOLD) 信号上昇
島津製作所FOIRE-3000
(42チャンネル)
国際式10-20法
脳波計測のときに、センサーを頭部に配置する場所を決める国際標準の方法です。まず、頭部の中心
を決めます。これは、鼻根(ナジオン)と、後頭部の骨の 出っ張り(イニオン)を結ぶ線の二等分
点と、左と右の耳介前点を結ぶ線の二等分点の重なる点で、Czと呼びます。これが頭部の中心とな
り、脳表では中心回 と大脳縦裂の交点付近です。次に、Czとナジオンを結ぶ線およびCzとイニオン
を結ぶ線を5等分します。また、左右耳介前面点とCzを結ぶ線を5等分しま す。同じ等分点を結べ
ば、等高線ができます。その交点近傍に名称がついています。
実験内容
タスク 1: 言語流暢性検査 VFT
(単語連想:文字・範疇流暢性)
30秒レスト・60秒タスク繰返
タスク 2: バイリンガルストループ検査 BST
(認知的 藤: 色命名タスク)
30秒tapping・self-paced繰返
タスク 3: インタビュー (J/E/CS)
各1分間
3 第1実験
言語流暢性検査(Verbal Fluency Task: VFT)
Ss: 139-8=131 (プローブ外れ・エジンバラ検査)
保護者・本人同意書及び立命館大学研究倫理審査 intensive
年齢差tapping
言語流暢性検査
Blocked design + PC controlled
文字流暢性 範疇流暢性
言語流暢性検査 (J-rest task)
!
+ !
!
あ、い、う、え、お !
言語流暢性検査 (J-文字流暢性)
き !
言語流暢性検査 (E-rest task)
!
+ !
!
A "! B " C "!#"!$!
言語流暢性検査 (E-範疇流暢性)
!""#$
言語流暢性検査
トレンドグラフ
37.8万セル/人
oxy-Hb (酸素化ヘモグロビン)を代表値
Ciftci et al. (2008) Stroop study
42チャンネルを13チャンネル
Oxy-Hbで3Hbデータの代表値
37.8万セル → 3.9万セル
データ抽出法: 事象関連電位
fNIRS vs 簡易脳波計
データ抽出法: rest - task差分算出
(苧阪, 2010)[例] J文字流暢性タスク
1) rest5回の平均値からピーク10秒抽出
2) タスクのピーク10秒抽出
3) タスク値・レストタスク値の差分
baseline dataとの差分=純粋なタスク値
0 0 .0 1 0 .0 2 0 .0 3 0 .0 4 0 .0 5 0 .0 6 0 .0 7 0 .0 8 0 .0 9
0 1 0 2 0 3 0 4 0 5 0 6 0 7 0
系列1
- 0 .0 1 0 0 .0 1 0 .0 2 0 .0 3 0 .0 4 0 .0 5 0 .0 6 0 .0 7
0 1 0 2 0 3 0 4 0 5 0 6 0 7 0
系列1
データ抽出法
最初と最後の5秒含めない 刺激語切替を跨がない
5レスト平均値 最初と最後の5秒含めない
3部位13チャンネル10秒抽出データ
タスク遂行時 レストタスク時
78 x 3=234セル
1人分の1タスク
(VFT:J文字)値が
求められた
1) 10秒抽出作業(レストとの差分計算)を残りの
3タスク(J範疇・E文字・E範疇)に対しても行う
2) 131人全員に対してタスク値を求める
↓
各群から無作為に4人抽出し(N=24)
各群の平均値算出した
3) 群内(部位間)比較:
2元配置分散分析 (4タスク・3部位)
4) 群間比較:
3元配置分散分析 (4タスク・3部位・6群)
VFT実験結果1: 被験者全員の傾向
i) 3元配置分散分析 (6群 4タスク 3部位) 1) 6群間: F(5,5599)=83.615, p<.001
2) 4タスク間: F(3,5599)=439.871, p<.001 3) 3部位間: F(2,5599)=180.765, p<.001
E文字>E範疇>J文字>J範疇 中央 > ブローカ野 > 右脳
多重比較 (Bonferroni)
ii) 行動データ
J文字 = E文字 (15) < J範疇 = E範疇 (23)
0 5 1 0 1 5 2 0 2 5 3 0
語
系列1 1 5 .2 6 7 2 1 5 .0 6 8 7 2 3 .3 7 4 2 3 .8 2 4 4
日本語文字タス ク 英語文字タス ク 日本語意味タス ク 英語意味タス ク
VFT実験結果2: 群間比較
i) 大きな差: G1-3 vs G4-6
ii) G5/6では左右脳ともにE > J
iii) G1-3に着目
1) ブローカ野: 接触開始年齢差無し
2) 右脳: G1 < G2 < G3 (J範疇以外)
VFT実験結果3
右脳
J範疇課題以外の3課題(J/E文字・E範疇)
1群 (出生前) < 2群 (2才まで) < 3群 (3-6歳)
英語文字課題遂行時
出生前・2歳・6歳
4 バイリンガルストループ検査
協力者: 生徒・教職員94名と大学生45名 - 12
(N=127)
バイリンガルストループ検査
Continuous + self-paced
Color-naming J-E Congruent J-E Incongruent J-E
!"
色玉・日本語
あか
!"
色玉・英語
red
Congruent 文字音読 日本語
みどり
みどり !
blue
!"#$%
Congruent 文字音読 英語
あか
Incongruent 文字色 日本語
くろ !
blue
Incongruent 文字色 英語
!"##$%&
バイリンガルストループ検査
Color-naming J-E Congruent J-E Incongruent J-E
Color-naming E-J Congruent E-J Incongruent E-J
データ抽出法: 差分算出
Congruentタスク・英語
1)文字音読・英語10秒ピーク値抽出
2) 文字音読・日本語10秒ピーク値抽出
3) 英語日本語の差分=純粋文字音読英語
*counter-balanced dataより日本語算出
データ抽出法: 差分算出
Incongruentタスク・英語
1)文字色音読・英語10秒ピーク値抽出
2) 文字色音読・日本語10秒ピーク値抽出
3) 英語日本語の差分=純粋文字色英語
*counter-balanced dataより日本語算出
データ抽出法: 差分算出
ベ ー ス ラ イ ン デ ー タ
0 0 .0 1 0 .0 2 0 .0 3 0 .0 4 0 .0 5 0 .0 6 0 .0 7 0 .0 8 0 .0 9
0 1 0 2 0 3 0 4 0
タ ス ク
- 0 .0 1 5 - 0 .0 1 - 0 .0 0 5 0 0 .0 0 5 0 .0 1 0 .0 1 5 0 .0 2 0 .0 2 5 0 .0 3 0 .0 3 5 0 .0 4
0 1 0 2 0 3 0 4 0
タスク最初と最後5秒含めないピーク10秒
1) 3タスクそれぞれ、差分を算出
2) 6群それぞれから
6名無作為抽出
(日英3人・英日3人の合計36名)
群内と群間比較を行った
BST結果: 行動データ
(例) 日本語incongruent
1) タスク遂行時間:
F(5,121)=1.17, p>.05 ( 全群27-31秒)
2) 正答率:F(5,121)=1.97, p>.05 ( 全群97%以上)
3) タスク遂行時間 正答率:
F(5,121)=44.04, p>.05
一切グループ間の差無し
BST結果: fNIRS値・右脳1
1. Congruent 文字音読タスク:
1群 J-E 右脳 2群 J-E 右脳
!"#$%
1群 = 2群 < 3-6群
$ $$$&$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$'$$()*+
群BST結果: fNIRS値・ 右脳2
2. Incongruent 文字色タスク:
1群 J-E 右脳 2群 J-E 右脳 3群 J-E 右脳
!"#$+
1群 = 2群 = 3群 < 4-6群
&$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$&$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$',*+ 群
5. 総合考察
1) VFT・BST行動データにOA差一切無し 2) ブローカ野差なし・右脳での賦活差判明
3) 言語流暢性課題 0才 < 2才 < 6才 < 小学校入学以降 4) バイリンガルストループ検査 2才(音読)と6才 (認知 藤)
RQ
1) 年齢と脳賦活
賦活がOAにより増大: 2才・6才
2) 賦活部位
VFT・BSTでは左脳賦活差無し
右脳(タスク・言語により中央部も)
改善点:
1) 対照群 (モノリンガル)の欠如
2) 各群の無作為抽出平均値→全個別分析
3) 言語接触年齢 vs 言語能力 (cf.自己評価/TOWL-3 scores)
進行中:
1) 全協力者別分析
2) インタビューデータの分析-$CS時の前頭前野中央部の賦活 3) 自己評価/TOWL-3 scoresをfNIRS値分析に
4) 対照群データ収集の可能性
5) fNIRS値とIBVA値(δ/θ/α/β/γ波)の相関性