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(1)

統計力学演習 No.3 (November 13, 2013) 11

3

統計力学の基礎

3.1

等重率の原理

マクロな熱力学の体系と整合するように,ミクロな(量子)力学に確率モデルを導入したものが統計力学で

ある。以下,単一の物質からなる体積V,粒子数Nのマクロな系を考察する。経験則として,エネルギーU

およびV,Nによって,この系の平衡状態のマクロな性質が完全に決まることが知られている。

マクロな量子系 熱力学で扱うマクロな系も,ミクロな視点からは相互作用し合う無数の粒子(分子)からな る量子系である。このような視点から記述したマクロな系をマクロな量子系と呼ぶ。

許される量子状態 マクロに見たエネルギーがUである状況を再現するミクロな量子状態の集まり。エネル

ギーが,Uのまわりの微小幅の範囲内に入る全てのエネルギー固有状態とその線形結合(重ね合わせ)を許さ

れる量子状態とよぶ。

マクロな系の基本的な性質 マクロな量子系では,ある平衡状態に対して許される量子状態のほとんど全てが

(マクロな物理量の測定で比較する限り)区別できない。言い換えると,「許される量子状態」の圧倒的大多数

が,マクロに見ればそっくりである。この大多数のそっくりな状態を「典型的状態」と呼ぶ。

平衡状態についての基本的な仮定 ある系の熱力学的な平衡状態の様々な性質は,対応する「許される量子状 態」の中の「典型的状態」が共通に持っている性質である。

⇒全ての「許される量子状態」について”平均”してしまえば,共通の性質が現れる。

平均(期待値)を求めるとき,どの様な確率分布を用いればよいのか?

等重率の原理 「許される量子状態」が全て等しい確率で出現するという確率モデルを採用する。

3.2

ミクロカノニカル分布

体積V,同種粒子N個からなる系に対してマクロな平衡状態(U, V, N)を実現するミクロ状態を調べる。

まずU を含むエネルギーの範囲を指定する。系のエネルギー固有値をEi (i= 1,2, . . .)として,この範囲は

• その幅の中に,十分に多くのエネルギー固有値Eiが入る程度に大きく

• その幅の中のほとんど全てのエネルギー固有状態はマクロに見ればそっくりである程度に小さい

とする。ここではδ >0なる微小量をとり,(U−V δ)∼Uの間を考える*12。

ミクロカノニカル分布(小正準分布) 系のエネルギー固有状態i= 1,2, . . . の中から,エネルギー固有値Ei がU−V δ < Ei≤Uを満たすものを全て拾い上げ,それらを「許されるエネルギー固有状態」と呼ぶ。ミク

ロカノニカル分布では,許されるエネルギー固有状態の全てが,等しい確率で出現する。

この確率モデルにおいてエネルギー固有状態iが出現する確率をp

(MC)

i とすると,

p(MC)i = { 1

W(U,δ), U −V δ < Ei≤Uが成り立つとき

0, それ以外

(3.1)

と書ける。W(U, δ)は,U−V δ < Ei≤Uを満たす状態の数を表し,熱力学的重率と呼ばれる。(3.1)式の確 率分布p(MC):= (p

(MC)

i )i=1,2,...をミクロカノニカル分布または小正準分布と呼ぶ。他にもミクロカノニカル アンサンブルあるいは小正準集団とも言うこともある。

*12エネルギーは示量性なので体積V に比例する。便宜上,V に依らないエネルギー密度の次元を持つδを導入した。V δをまとめ

(2)

12 3 統計力学の基礎

3.3

ミクロカノニカル分布と熱力学との関係

ミクロカノニカル分布におけるエントロピーを

S(U, V, N) :=klogW(U, δ, V, N) (3.2)

と定義することで,熱力学と関連付ける。ここで次元を一致させるために導入した定数kはボルツマン定数

k= 1.380 65×10−23 J K−1 (3.3)

である*13。熱力学の関係式より,系の温度と圧力は次のとおりに決まる*14:

1

T =

∂S(U, V, N)

∂U , (3.4)

P T =

∂S(U, V, N)

∂V . (3.5)

問題6. エントロピーSと状態数Ωとの関係を

S(E, V, N) =klog Ω(E, V, N) (3.6)

とし,3次元でのN 個の自由粒子の系(前節の例題2)における温度T とエネルギーEの関係を求めよ。ま

た,状態方程式を導け。

問題7. 角振動数ωを持つ1つの調和振動子のエネルギー準位は

ε= 1 2ℏω,

3

2ℏω, . . . , (

n+1 2

)

ω, . . . (3.7)

で与えられる。互いに独立なN 個の調和振動子からなる系の全エネルギーは,M を非負整数として

E= N

2ℏω+Mℏω (3.8)

である。量子数M はエネルギーに対応する。

7-1.この系の熱力学的重率W(M, N)を求めよ。

7-2.エントロピーSを計算せよ。N ≫1, M ≫1としてスターリングの公式を用いる。

7-3.系の温度T を用いエネルギーをE(T, N)として表せ。またE(T)のグラフを書け。

問 題8. 可 能 な エ ネ ル ギ ー 固 有 状 態 が2つ だ け の 系 を 二 準 位 系 と 呼 ぶ 。各 部 分 系 が 取 り 得 る エ ネ ル ギ ー 固 有 値 が±ε (ε >0)で あ るN 個 の 独 立 な 二 準 位 系 を 考 え る 。+ε,−εの エ ネ ル ギ ー を 持 つ 系 の 数 を そ れ ぞ れ

N+, N−とし,全エネルギーをE=M ε(Mは−N≤M ≤N の整数)と書く。

8-1.熱力学的重率W(M, N)を計算せよ。

8-2.エントロピーSをN+とN−とで表せ。またS(E)のグラフを書け。スターリングの公式を用いる。

8-3.全エネルギーを温度TとNを用いてE(T, N)のように表せ。またE(T)のグラフを書け。

8-4.熱容量C(T, N) =

∂E(T ,N)

∂T を計算し,Tの関数としてグラフで表せ。

8-5.全体のうち±εのエネルギーを持つ状態の比

N+

N および

N−

N を計算せよ。

*13ボルツマン定数の記号kは整数や波数を表すこともあるので,kBと書く教科書もある。

(3)

3.4 カノニカル分布 13

3.4

カノニカル分布

ミクロカノニカル分布はエネルギーU(またはE),体積V,粒子数N を用いて熱平衡状態を記述する。そ

のとき系を孤立させ,U を一定に保ったまま熱平衡状態を実現させる。一方,温度が一定の熱浴と接触させ,

系と熱浴とのエネルギーのやり取りを許した状況でも熱平衡状態は実現できる。このとき,系のエネルギーが

変化する代わりに,温度T が一定に保たれる。エネルギーの代わりに温度を用いた(T, V, N)による記述法

がカノニカル分布である*15。

カノニカル分布において,注目する系のエネルギー固有値がEiである状態の確率は

p(C)i (β, V, N) = e

−βEi

Z(β, V, N) (3.9)

と与えられる*16。ここでβは

β= 1

kT (3.10)

で定義される逆温度であり,分母の規格化定数

Z(β, V, N) :=∑

i

e−βEi (3.11)

は分配関数と呼ばれる。またe−βEi は,エネルギーと確率的な重みの関係を与えるものでボルツマン因子と

呼ばれる。ボルツマン因子から,エネルギーが低いほど確率的な重みが大きいことが分かる。

(3.9)式と期待値の定義より,カノニカル分布における任意の物理量fˆの期待値

⟨ ˆ

f⟩は

⟨ ˆ

f⟩:=∑

i

fip(C)i =

1

Z(β, V, N) ∑

i

fie−βEi (3.12)

で与えられる。ここでfiは,エネルギー固有状態iにおけるfˆの値を表す。

問題9. エネルギーに対応する量子力学的演算子ハミルトニアンHˆに関して以下の問いに答えよ。

9-1.エネルギーの期待値⟨Hˆ⟩を分配関数Z(β)を用いて表せ。

9-2.エネルギーのゆらぎσβ[ ˆH]を分配関数Z(β)を用いて表せ。

9-3.N, V を一定とした熱容量C(T) := d⟨Hˆ⟩

dT とゆらぎσβ[ ˆH]の関係を求めよ。

問題10. 系1と系2という互いに独立な2つの量子系がある。系1のエネルギー固有状態をi= 1,2, . . . で,

系2のそれをj= 1,2, . . . で表し,各固有値をE

(1)

i , E

(2)

j とする。すると全系のエネルギー固有状態は(i, j)

の組で表され,その固有値はE

(1)

i +E

(2)

j となる。

10-1.全系の分配関数Z(β)を,各系を単独に扱ったときの分配関数Z1(β)とZ2(β)を用いて表せ。

10-2.全系の状態(i, j)に対する確率p

(C)

(i,j)を,各系を単独に扱った確率p

(C;1)

i とp

(C;2)

j を用いて表せ。

問 題11. 問 題10をN個 の 系 に 拡 張 す る 。互 い に 独 立 なN 個 の 部 分 か ら な る 量 子 系 が あ り ,各 部 分 系 に

j = 1,2, . . . , N と 名 付 け る 。系jの エ ネ ル ギ ー 固 有 状 態 をij = 1,2, . . . と し ,対 応 す る 固 有 値 をE

(j)

ij と

表 す 。こ の と き 全 系 の エ ネ ル ギ ー 固 有 状 態 はN 個 の 変 数 の 組i = (i1, i2, . . . , iN)で 表 さ れ ,そ の 固 有 値 は

Ei=∑Nj=1E

(j)

ij となる。この系全体の分配関数Z(β)と状態iに対する確率p

(C)

i を求めよ。

*15正準分布,正準集団,カノニカルアンサンブルと記する場合もある。

*16ミクロカノニカル分布でも述べたように,カノニカル分布における確率p

(C)

(4)

14 3 統計力学の基礎

3.5

カノニカル分布と熱力学との関係

温 度 を 指 定 し た 熱 力 学 的 系 の 完 全 な 情 報 を 含 む ヘ ル ム ホ ル ツ の 自 由 エ ネ ル ギ ーF(T, V, N)は ,分 配 関 数

Z(β, V, N)と以下の関係で結びつく:

F(β, V, N) =−1

βlogZ(β, V, N). (3.13)

また粒子系では,粒子を区別しないことに起因して,分配関数Z(β, V, N)と物理量fˆの期待値は

Z(β, V, N) = 1

N! ∑

i

e−βEi (3.14)

⟨ ˆ

f⟩= 1

Z(β, V, N) ∑

i

fie−βEi (3.15)

となる。また(3.13)より,カノニカル分布においてエントロピーSは,次式で与えられる:

S(β, V, N) =−∂F(β, V, N)

∂T . (3.16)

問題12. 熱力学とカノニカル分布の関係(3.13)が,熱力学の関係式と整合することを確認する。

12-1.熱力学で知られるギブス・ヘルムホルツの関係式

U(T, V, N) =−T2 ∂ ∂T

(

F(T, V, N)

T

)

(3.17)

が成立することを確かめよ。ただしミクロに計算したエネルギー⟨Hˆ⟩とU が等しい,U =⟨Hˆ⟩とする。

12-2. ハ ミ ル ト ニ ア ン がHˆ(V)と 書 け る 場 合*17,そ の 固 有 状 態 をi = 1,2, . . .,エ ネ ル ギ ー 固 有 値 を

Ei(V)とする。系を外界から孤立させ,固有状態iのままV をゆっくり変化させたとき,固有状態iの圧力

が以下の通りに書けることを示せ:

Pi =−

dEi(V)

dV . (3.18)

12-3.(3.18)よりマクロ系の圧力P(T, V, N)は

P(T, V, N) =−

dHˆ(V)

dV

(3.19)

で与えられる。(3.13)と(3.19)とを用いて,次の熱力学関係式を導け:

P(T, V, N) =−∂F(T, V, N)

∂V . (3.20)

12-4.熱力学で知られるF =⟨Hˆ⟩ −T Sが,カノニカル分布の体系でも成り立つことを確かめよ。

12-5.エントロピー(3.16)をカノニカル分布(3.9)で表わせ。

問題13. 各エネルギー固有値がE1, E2である二準位系があり,∆E=E2−E1>0とする。

13-1.1個の二準位系の分配関数Z(β,1)を求め,それぞれのエネルギー固有状態に対する確率p

(C) 1 ,p

(C) 2

を計算せよ。また低温β∆E≫1と高温β∆E≪1での振舞いを説明せよ。

13-2.互いに独立な二準位系がN個ある。N個の部分系のうち,状態1にNˆ1個,状態2にNˆ2個あると

する。N ≫1の場合,

ˆ

N1

N と

ˆ

N2

N を求め,その意味を説明せよ。

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