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進歩性/非自明性について ~KSR事件を契機とした非自明性の議論及び特許の質の観点から~

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(1)

1 . はじめに

「特許の質」への関心が、近年特に高まっている。特に

米国においては、質の低い特許が競争を阻害しイノベー

ションを減退させているという指摘がいくつかの報告書

でなされている1 )

。いわゆるパテントトロール2 )

の暗躍と

の文脈で語られることも多く、現在も続く議会での特許

改革法案の議論の契機ともなった。質の低い特許の観点

から最も問題視されるものの一つが非自明性の特許要件

である。自明な発明に特許が与えられることにより、訴

訟・出願コストの負担が増大しているとの指摘である3 )

米国最高裁判所は、約2 年にわたり米国内外の注目を

集めているK S R 事件 4 )

について審理を行っている 5 )

。非

自 明 性 の 判 断 手 法 に つ い て の 連 邦 巡 回 区 控 訴 裁 判 所

(C A F C )の判断が誤りであったかどうかが問われた事

件である。「当業者が先行技術を組み合わせる「教示・

示唆・動機」についての証明がないため、クレーム発

明は自明であるとはいえないとした C A F C の判断」が

焦 点 と な っ た 。 米 国 最 高 裁 が こ の 事 件 の 上 訴 を 受 理6 ) した背景には、先に述べたいくつかの報告書において、

C A F C や U S P T O で の 非 自 明 性 の 判 断 手 法 へ の 懸 念 が

示されたことがある。

一方、我が国においても進歩性に対する関心が高ま

って久しい。我が国では米国と文脈が異なり7 )

、進歩性

のない発明に特許が与えられているのではないかとの

懸念より、むしろ、特許庁、裁判所の進歩性判断が今

までよりも厳しくなっているのではないか、との産業

界を中心とした指摘である 8 )

。「知的財産推進計画2 0 0 6 」

においても、統一的かつ安定的な特許権の付与が行え

るよう、進歩性判断についての一層の客観化と明確化

について、国際的な運用統一の観点も踏まえて検討す

べきとの指摘がされていた 9 )

これら国内外の関心の高まりを受けて、平成1 8 年度

の産業財産権制度各国比較調査研究のテーマの一つと

して、「進歩性等に関する各国運用等の調査研究」(「進

歩性調査研究」)を行った

1 0 )

。この研究では、進歩性/

非自明性の国際的な制度・運用の実態について調査す

る こ と を 目 的 と し て 、 主 に 各 国 の 制 度 ・ 運 用 の 比 較 、

米国の判例分析、日米欧の出願人・代理人へのヒアリ

ングが行われた。日米欧の進歩性/非自明性の判断手

法について詳細に整理されたととともに、K S R 事件を

含む米国の判例等が紹介された。また、ユーザーヒア

リングでは、国内 4 2 者、欧米1 8 者に面談方式でヒアリ

ン グ を 行 い 、 日 米 欧 の 進 歩 性 / 非 自 明 性 の 審 査 基 準 、

運用等について率直な意見が収集された。

進歩性/非自明性をテーマとして、裁判所、産業界、

学者、特許庁を挙げて、これだけ深くまた数多く議論

が交わされることは希少な機会であり、裁判所が示す

結論は去ることながら、こうした議論の端々から示さ

れるメッセージにも価値の高い示唆が数多く含まれる。

これらを通じて我々の審査や審査基準を省みることは

有意義であり、また、冒頭触れた「特許の質」の観点

からも改めて検討を付しておくべきであると考える。

本稿は、筆者が調整課審査基準室在籍中に、「進歩性

調 査 研 究 」 に 参 加 し 、 K S R 事 件 を 中 心 と し た 非 自 明

性 / 進 歩 性 に 関 す る 米 国 内 外 で の 議 論 に 接 し た 中 で 、

我々の審査や審査基準を改めて振り返り感じたことを

綴ったものである。

2 . 米国における非自明性についての議論

本稿のテーマの中心となる米国での非自明性要件に

特許審査第一部ナノ物理(ナノ光学)

南 宏輔

進歩性/非自明性について

∼K S R 事件を契機とした非自明性の議論及び特許の質の

(2)

関 す る 議 論 を 整 理 す る 。 議 論 の 契 機 と も な っ た 米 国 の

研究報告書を紹介した上で、最高裁、C A F C の判決の

歴史、 K S R 事件、そしてその中で展開された利害関係

者の議論の内容に触れる。

連邦取引委員会の報告書

K S R 事 件 の 最 高 裁 へ の 上 訴 が 受 理 さ れ た 背 景 に は 、

非 自 明 性 要 件 を め ぐ る 懸 念 に 言 及 し た 米 国 連 邦 取 引 委

員会(F T C ) 1 1 )

と全米科学アカデミー( N A S )による

研究報告書がある。

特に、 F T C の報告書1 2 )

は、非自明性要件の抱える問

題 点 に つ い て 、 詳 細 な 分 析 を 行 っ て い る 。 な か で も 非

自明性要件の適用手法について、「本願発明の構成要素

が 複 数 の 文 献 に ま た が っ て 記 載 さ れ て い る 場 合 に は 、

先 行 技 術 の 中 に そ れ ら を 組 み 合 わ せ る こ と の 「 示 唆 、

教 示 、 動 機 」 が 示 さ れ て い な け れ ば 、 本 願 発 明 は 自 明

で あ ると は い え な い」 と 述べ た C A F C の I n r e

D e m b i c z a k 1 3 )

を特に引き合いに出し、「C A F C は、先

行 技 術 の 中 に 、 組 み 合 わ せ る こ と の 具 体 的 で 決 定 的 な

動 機 が 示 さ れ て い な け れ ば な ら な い と の 厳 し い 基 準 を

採用している」 1 4 )

、「C A F C は、具体的な示唆を求める

あまり、多くの人が一見して自明だと思う発明であって

も非自明であると判断する」 1 5 )

、「C A F C は、 U S P T O

に 対 し て も 、 具 体 的 で 決 定 的 な 動 機 を も と め る た め 、

審 査 官 が 有 す る 技 術 常 識 に す ら 頼 る こ と が で き ず 、 非

自明性の判断の弊害になっている。」

1 6)

との証言を紹介

している。

また、「示唆等は先行技術に明確に示されている必要

はなく、当業者の知識や、解決すべき課題の性質から、

黙 示 的 に で も 示 さ れ て い れ ば よ い 」 と の 柔 軟 な 考 え 方

を 示 し た C A F C の I n r e Ko t z a b 1 7 )

に 言 及 し つ つ 、

「C A F C は一律に硬直的な基準の適用をしているわけで

は な い が 、 実 際 の 運 用 に は そ の 考 え 方 は 反 映 さ れ て い

ない印象がある」 1 8 )

との指摘を紹介した上で、現在の

非 自 明 性 の 判 断 は 「 当 業 者 」( a p e r s o n h a v i n g

or di n ar y sk i l l i n t h e ar t (P H O S IT A ))の視点が軽

視 さ れ て い る の で 、 当 業 者 が 有 す る 創 造 性 、 課 題 解 決

能 力 を 十 分 考 慮 し 、 具 体 的 な 示 唆 ・ 動 機 に 限 ら ず 、 当

業 者 の 知 識 や 、 解 決 す べ き 課 題 が 本 来 的 に も つ 性 質 か

ら黙示的に示されるものも含めて判断するべきである、

との提言を行っている 1 9 )

さ ら に 、 商 業 的 な 成 功 を 出 願 人 ・ 特 許 権 者 に 有 利 に

評 価 す る 二 次 的 考 慮 事 項 に つ い て も 言 及 し 、 発 明 の 技

術的事項との関連性( n e x u s )を要求しながら、実質

的 に は 「 成 功 し た 」 と い う 事 象 の み が 評 価 さ れ 、 裁 判

所 は 二 次 的 考 慮 事 項 に 安 易 に 依 拠 し て い る と の 指 摘 を

紹 介 し て い る 。 そ し て 、 商 業 的 成 功 の イ ン セ ン テ ィ ブ

は、特許制度がなくても十分機能するものであるから、

競 争 政 策 上 そ の 安 易 な 適 用 は 特 許 制 度 を 歪 め る 可 能 性

が あ る と し て 、 発 明 の 技 術 的 事 項 と 商 業 的 成 功 と の 関

連 性 を 見 極 め 、 証 明 責 任 は 出 願 人 ・ 特 許 権 者 が 負 う こ

と と す る な ど 、 二 次 的 考 慮 事 項 の 慎 重 な 評 価 を 求 め て

いる。

F T C の報告書に続く、全米科学アカデミー(N A S )

研究評議会の報告書 2 0 )

においても、 F T C と同様の結論

を 導 い て お り 、 特 に ビ ジ ネ ス 方 法 関 連 発 明 に つ い て は

周 知 技 術 や 技 術 水 準 に 関 す る 公 知 文 献 が 少 な い 状 況 の

中 で 、 先 行 技 術 の 具 体 的 な 箇 所 を 指 摘 す る 場 合 で な い

限り組み合わせるべきではないとの基準は、 U S P T Oに

過度の負担を強いていると批判している 2 1 )

裁判所の非自明性の考え方

(1 )最高裁判所

米国において、「非自明性」の概念が特許法条文上導

入されたのは1 9 5 2 年である(3 5 U .S .C . § 1 0 3(a)) 2 2 )

非 自 明 性 に つ い て 議 論 さ れ る 場 合 に 頻 繁 に 引 用 さ れ る

1 9 5 2 年以降の主な事件を簡単に紹介する。

最 高 裁 判 所 が 特 許 法 1 0 3 条 の 非 自 明 性 に つ い て 示 し

た基本判例は G r a h a m 判決2 3 ), 2 4 )

である。その中で、最

高裁は、非自明性の判断は、「先行技術の範囲と内容」、

「先行技術とクレームの相違点」、「関連技術分野におけ

る当業者のレベル」 2 5 )

という3 つの事実に基づいて行わ

れ る も の と し た 。 し か し 、 こ れ ら の 事 実 の 認 定 と 、 具

体 的 な 非 自 明 性 の 結 論 と の ギ ャ ッ プ を 埋 め る 具 体 的 な

手 法 は 示 さ れ ず 、 結 局 は 「 ケ ー ス バ イ ケ ー ス で 判 断 す

べ き も の 」 と し て 、 最 高 裁 も 非 自 明 性 の 判 断 の 難 し さ

を認めている。

その後、A n d er son ' s-B l a c k R oc k 事件 2 6 )

において、

「本件発明は既存の要素の組み合わせであり、便利であ

る と は い え る も の の 、 新 規 又 は 異 な る 効 果 ( n e w o r

d i f f er en t f u n c t i on )を奏さない」、「要素の組み合わ

(3)

な け れ ば な ら な い と こ ろ 、 本 件 発 明 は そ の よ う な 相 乗

的な結果(sy n er g i st i c r esu l t )が示されていない」の

で無効であると判示した。また、S a k r a i d a 事件 2 7 )

にお

いては、A n d er son ' s-B l a c k R oc k 事件を引用しつつ、

「本件発明は、利用可能な知識の総和に何ら加えるもの

で な く 、 こ の よ う な 古 い 要 素 の 組 み 合 わ せ は 機 械 分 野

の 当 業 者 に と っ て 自 明 で あ る 。」 と し た 。 こ れ ら は 、

“ S y n er g y t est ” と一般に呼ばれているものであり 2 8 )

最高裁が K S R 事件においても一手法として改めて言及

する可能性があるといわれているものである2 9 ) 。

(2 )C A F C

一方、 C A F C は、非自明性の判断に内在する後知恵

(h i n d s i g h t )による判断をいかに回避するかとの観点

か ら 、 ど の よ う に し て 発 明 の な さ れ た 過 去 に 遡 り 、 本

願 の 発 明 を 「 忘 れ る 」 か に 頭 を 悩 ま せ 、 そ の 手 法 と し

て、先行技術の組み合わせ発明を自明とするためには、

これを教示( t e a c h i n g )、示唆(s u g g e s t i o n )、または

動機づけるもの( m o t i v a t i o n )が先行技術に存在しな

ければならないとする、いわゆる「T S M テスト」の適

用を展開してきた3 0 ) 。

C A F C はその設立まもなく、最高裁が判例の中で言

及する“ sy n er g i st i c r esu l t s” の要求は、条文上の根

拠 が な く 、 ま た 「 組 み 合 わ せ 発 明 」 と そ の 他 の 発 明 を

区 別 す る こ と に な る 基 準 は 採 用 す べ き で な い と の 理 由

に よ り 、 非 自 明 性 が 認 め ら れ る た め の 要 件 と は な ら な

い と の 見 解 を 示 し 3 1 )

、 先 行 技 術 の 組 み 合 わ せ に は 動 機

づ け や イ ン セ ン テ ィ ブ が 必 要 で あ る と の 考 え 方 を 示 し

て い る3 2 )

。 そ し て 、 先 行 技 術 を 組 み 合 わ せ る 示 唆 や 動

機 づ け が あ る か ど う か の 判 断 の 際 に 参 照 さ れ 得 る 対 象

は、(1 )先行技術文献そのものだけでなく、(2 )ある

文 献 や 文 献 中 の 記 載 が 特 に 重 要 な 意 味 を 有 す る と 判 断

することができる「当業者の知識」、(3 )当業者であれ

ば あ る 文 献 を 参 照 し よ う と 考 え る 「 課 題 の 性 質 」 も 含

ま れ る と し 3 3 )

、 こ れ ら は 、 先 行 技 術 に 明 確 に

( e x p l i c i t l y ) 示 さ れ て い る 必 要 は な く 、 黙 示 的

(i m p l i c i t l y )であってもよいとの見解を繰り返し述べ

ている 3 4 ),3 5 )

このように C A F C は当初より T S M テストを採用しつ

つ も 、 必 ず し も 先 行 技 術 文 献 に 明 示 的 に 記 載 さ れ て い

る 必 要 は な い と の 見 解 を 示 し て い る が 、 い く つ か の 事

件 の 判 示 内 容 を み る と 、 実 際 に は 文 献 に お け る 明 示 的

な 記 載 の み が 参 照 対 象 と さ れ て い る の で は な い か と の

印象を得る。

例えば、I n r e D em b i c z a k では、「h i n d s i g h t に基づ

い て 自 明 で あ る と 判 断 し て し ま う 誘 惑 に 対 す る 最 善 の

解 決 策 は 、 先 行 技 術 を 組 み 合 わ せ る 示 唆 、 動 機 を 示 す

ことを求めるT S M テストの厳格な適用であり」、「その

証 拠 を 示 す こ と な く 先 行 技 術 を 組 み 合 わ せ る こ と は 、

特 許 性 を 否 定 す る た め に 、 完 成 し た 発 明 を 設 計 図 と し

て 先 行 技 術 を つ な ぎ 合 わ せ た だ け に す ぎ ず 、 こ れ が ま

さに h i n d s i g h t の 本 質 的 な 問 題 点 で あ る 。」 と 述 べ 、

T S M テ ス ト の 有 効 性 を 強 調 し た 。 そ し て 、 示 唆 ・ 動 機

づ け の 判 断 の た め に 参 照 さ れ 得 る 対 象 が 先 行 技 術 文 献

だ け で は な い こ と を 改 め て 指 摘 し つ つ も 、 文 献 以 外 で

あ っ て も 立 証 を 明 確 に 特 定 し て 行 わ な け れ ば な ら な い

ことに変わりはなく、「組み合わせることは自明である」

と の 一 般 的 な 断 定 は 証 拠 と な ら な い と し た 。 さ ら に 、

T S M テストを採用すれば、(1 )審査官・審判官の意見

が明確になり、(2 )出願人と審判官との間の争点が特

定され、(3 )控訴審における審査(r e v i e w )に役立つ

と い う 重 要 な 目 的 に も 寄 与 す る と の 考 え を 展 開 し た 。

(3 )の控訴審における審査への言及は、米国行政手続

法 3 6 )

を根拠にしたものであり、行政庁の事実認定、決

定 が 恣 意 的 で あ っ た り 、 実 質 的 証 拠 に 基 づ か な い 場 合

に は 、 連 邦 裁 判 所 は そ の 決 定 を 破 棄 し な け れ ば な ら な

いとする司法審査の原則 3 7 )

の観点から指摘したもので

ある。

I n r e L e e 3 8 )

においても、C A F C はこの点に明確に言

及し、行政庁の決定は結論のみならず、その結論へ至る

手続きが適正でなくてはならず、事実認定は記録に残さ

れる客観的な証拠に基づくものでなくてはならない点を

改めて指摘した。そして、周知技術や技術常識といった

一般的な断定だけでは、実質的な証拠に基づいていると

はいえず、「非自明性の判断は先行文献における具体的

な示唆を示すことなく技術常識に基づいて判断すること

ができる」とした審決を誤りであるとした 3 9 )

その後、例えばI n r e B ea sl ey4 0)

においても、I n r e

L e eを引用して、同様の結論を導くなど、実質的には文

献 に お け る 明 示 的 な 記 載 の み が 参 照 対 象 に な る と の 印

象をあたえた。 K S R 事件の原審であるT e l e f l e x 事件4 1 ) に お い て も 先 行 技 術 文 献 中 の 具 体 的 な 記 載 を 求 め て お

り、これらが F T C の報告書や K S R 事件の意見書等で批

(4)

一方、このような批判にさらされる中、 C A F C は非

自明性の問われた 2 0 0 6 年のいくつかの事件 4 2 )

の判示の

中 で 、 そ の 考 え 方 を 改 め て 整 理 し 、 批 判 に 対 す る 誤 解

を 解 く 努 力 を 行 っ て い る 。 な か で もD y s t a r 事件では、

F T C やN A S の報告書にも言及し、C A F C の判断に批判

的 な 意 見 が 頻 繁 に 引 用 す る I n r e D e m b i c z a k 、 I n r e

L ee、R u i z v . A .B . C h an c e C o.4 3 )

を採り上げ、各事件

毎に、C A F C の「真意」の釈明を行っている。

I n r e D em b i c z a k に関しては、動機づけ等の証拠は

先 行 技 術 文 献 そ の も の に 見 出 す 必 要 は な く 、 周 知 な 考

え 方 や 周 知 な 課 題 解 決 手 法 等 を 説 明 す る こ と に よ っ て

も示すことができると前置きした上で、 C A F C が先行

技 術 文 献 中 の 明 示 的 な 示 唆 を 求 め た の は 、 審 判 部 が 先

行 技 術 を 組 み 合 わ せ る 示 唆 が 文 献 中 に あ る こ と の み を

主 張 し た か ら で あ り 、 組 み 合 わ せ る こ と が で き る こ と

の 議 論 に 終 始 し 、 組 み 合 わ せ の 示 唆 、 動 機 に 関 す る 情

報の提示を怠ったからであると説明した。

また、In r e L eeに関しては、C A F C は「自明の判断

は 、 文 献 中 に 具 体 的 な 示 唆 を 示 す こ と な く 、 当 業 者 の

周 知 技 術 や 技 術 常 識 に 基 づ い て 行 っ て も よ い 」 と の 主

張 に 異 議 を 唱 え た の で は な く 、 そ の 依 拠 し た 周 知 技 術

や 技 術 常 識 に つ い て の 説 明 が な い た め に 審 判 部 の 判 断

を 覆 し た の で あ り 、 自 明 で あ る と の 断 定 的 な 主 張 で は

な く 、 な ぜ 技 術 常 識 に よ っ て 当 業 者 が 先 行 技 術 を 組 み

合 わ せ よ う と し た の か の 説 明 を 求 め た の だ と し 、 こ れ

までの C A F C の 分 析 手 法 を 具 体 的 に 説 明 し た4 4 ) 。そし

てさらに、一般的な「改良」や、より強く、安く、早く、

軽く、小さく、効率よくといった、より望ましい結果へ

の 指 向 に つ い て も 、 そ れ が 黙 示 的 な 動 機 ( i m p l i c i t

m o t i v a t i o n )になることを繰り返し指摘してきたと述

べ 、 そ の 場 合 で あ っ て も 、 先 行 技 術 文 献 中 の 示 唆 は 必

要 な く 、 当 業 者 が そ れ ら の 先 行 技 術 を 組 み 合 わ せ る だ

けの知識や技能といった能力(c a p a b i l i t y )を有して

いたかどうかが焦点となるとの見解を示した。

2 0 0 6 年のC A F C の判決は、 F T C 等の報告書が公表さ

れた後、 K S R 事件の中で多くの意見書により批判され

る中で出されたものであり、「後知恵による釈明」との

そ し り を 受 け る か も し れ な い4 5 )

。 し か し 、 こ れ ら の 判

決 を 通 し て 過 去 の 判 示 内 容 を 改 め て 考 察 す る と 、

C A F C の考え方は一貫しているように思う。複数の文

献 に 開 示 さ れ た 発 明 を 組 み 合 わ せ る 示 唆 ・ 動 機 は 、 文

献 中 に 明 確 に 記 載 さ れ る 必 要 が あ る と せ ず 、 当 業 者 の

知 識 や 、 解 決 す べ き 課 題 の 性 質 か ら 導 か れ る も の も 考

慮 さ れ る と の 立 場 を 繰 り 返 し 述 べ て い る 。 た だ し 、 一

般 的 ・ 断 定 的 な 主 張 は 証 拠 に な ら ず 、 な ぜ 組 み 合 わ せ

る こ と が 自 明 な の か 、 組 み 合 わ せ の 示 唆 に 関 す る 情 報

の 提 示 が 必 要 で あ る と し 、 そ の 情 報 は 具 体 的 な 発 明 の

内 容 に 沿 っ た 審 査 官 に よ る 説 明 で も 可 能 で あ る こ と を

指摘しているのである。例えば、In r e B at t i st on 4 6 )

や、

I n r e N y l e n 4 7 )

等においては、先行技術文献における

具 体 的 な 示 唆 等 な し に 、 当 業 者 の 通 常 の 知 識 に 基 づ く

説 明 や 、 解 決 す べ き 課 題 の 性 質 か ら 導 か れ る も の を 根

拠に拒絶したU S P T O の判断を、実質的証拠があるもの

と し て 支 持 し て お り 、 逆 に そ う い っ た 説 明 を 怠 っ た 主

張 は 退 け て き た 。 自 明 性 の 判 断 に つ い て の 説 明 責 任 、

具 体 的 理 由 を 示 す 手 続 き 的 観 点 か ら み れ ば 、C A F C の

考え方は一貫しているのである。

K S R 事件

次にK S R 事件について紹介する。K S R 事件では、高

さ 調 整 可 能 な ペ ダ ル と ペ ダ ル の 踏 込 量 検 知 用 の 電 子 的

セ ン サ ー を 備 え た ア ク セ ル ペ ダ ル に 関 す る 特 許 の 非 自

明性が焦点となった。本稿は、K S R 事件を契機とした

非 自 明 性 の 判 断 基 準 に 関 す る 議 論 に 焦 点 を 当 て る も の

で あ る の で 、 特 許 発 明 や 先 行 技 術 の 具 体 的 な 技 術 内 容

には踏み込まず、事件の経緯、原審4 8 )

のC A F C 判決の

ポ イ ン ト 、 最 高 裁 に 提 出 さ れ た 意 見 書 の 内 容 を 中 心 に

整理する。

(1 )事件の経緯

K S R 事件は2 0 0 2 年、ペンシルベニア州に拠点を置く

T e l e f l e x 社が、K S R I n t er n a t i on a l 社(カナダ・オン

タ リ オ 州 ) 製 造 の ア ク セ ル ペ ダ ル に 対 し 、 自 社 の 特 許

権を侵害しているとして提訴したもの。地裁は、T 社特

許 の ア ク セ ル ペ ダ ル の 位 置 調 節 と 踏 込 量 セ ン サ ー と の

組 み 合 わ せ は 自 明 な も の で あ っ て 特 許 無 効 で あ る と の

K S R 社 の 主 張 を 認 容 。 他 方 、 控 訴 審 で あ る C A F C は

2 0 0 5 年1 月、こうした「組み合わせ」を自明とするた

め に は 、 こ れ を 教 示 、 示 唆 、 ま た は 動 機 付 け る も の が

先行技術に存在する必要があるとして(T S M テスト)、

地裁に差し戻した。これを不服としたK S R 社が最高裁

(5)

争われることとなったものである 4 9 )

(2 )C A F C 判決

C A F C は、発明者と同じ課題に直面したときに、ク

レ ー ム 発 明 を 知 る こ と な し に ク レ ー ム の 態 様 ( i n t h e

m a n n er c l a i m ed )となるよう先行技術を組み合わせ

る 理 由 に つ い て 、 具 体 的 な 認 定 が 必 要 で あ り 、 複 数 の

先 行 技 術 文 献 が そ の 正 確 な 課 題 に 言 及 し て い る 必 要 が

あるとした上で、本件特許発明 5 0 )

の目的は、より小さ

く 、 よ り 簡 単 で 、 よ り コ ス ト の か か ら な い 電 子 ペ ダ ル

を 設 計 す る こ と に あ る と こ ろ 、 先 行 技 術 文 献 の 発 明 は

「踏込力とペダルの位置」に関する課題解決に向けられ

た も の で あ る の で 、 先 行 技 術 文 献 は 十 分 な 動 機 を 示 し

ているとはいえないとした。また、 K S R 側の証人の証

言 に つ い て も 「 特 許 発 明 の 構 成 の よ う に 組 み 合 わ せ る

ことができた(c ou l d h av e been )」と述べるだけでは

不 十 分 で あ り 、 特 許 発 明 が 自 明 で あ る と は い え な い と

結論づけた。

(3 )裁判所への意見書(“ a m i c u s b ri e f ” )

C A F C の判決を受けて、K S R は最高裁判所に上告を

し た 。 最 高 裁 の 要 請 を 受 け て 訟 務 長 官 が 上 告 を 受 理 す

べきとの意見書を提出したことを考慮し、2 0 0 6 年6 月

に 最 高 裁 は 上 告 を 受 理 。 そ の 際 に も 、 最 高 裁 は 「 当 業

者 が 先 行 技 術 を 組 み 合 わ せ る 「 教 示 ・ 示 唆 ・ 動 機 」 に

つ い て の 証 明 が な い た め 、 ク レ ー ム 発 明 は 自 明 で あ る

とはいえない、とした C A F C の判断が誤りであったか

どうか」 5 1 )

について、さらに一般に意見を求めた。

米国の訴訟制度では、社会的・経済的に影響のある

事件において利害関係者が裁判所に意見書(“ a m i c u s

br i ef ” (アミカスブリーフ))を提出することができる。

K S R 事 件 に お い て も 、 最 高 裁 判 所 に 対 し て 米 国 政 府 、

産業界、代理人団体、大学教授らから上訴受理後に3 0

を 越 え る 意 見 書 が 提 出 さ れ た 。 内 容 は 上 告 人 ( K S R )

を支持するもの、被上告人(T e l e f l e x )を支持する意

見 書 の 数 が 均 衡 し 、 ま た 、 ど ち ら も 支 持 し な い 中 立 的

な 立 場 と し て の 意 見 書 も 提 出 さ れ る な ど そ の 内 容 は 分

か れ た 。 米 国 内 で の 非 自 明 性 に 関 す る 意 見 が 集 約 さ れ

たものといえるので、意見書の内容を整理して紹介する。

(i)上告人支持(K S R支持)

主な上告人支持者は、米国政府(U S P T O の見解が反

映 さ れ た も の )、 及 び I n t e l C o r p . , e t a l . 、 C i s c o

S y st em s In c ., et al .、B u si n ess S of t w ar e A l l i an c e等

のIT ・ソフトウエア産業である。

その意見は、(1 )T S M テストを非自明性判断の唯一

の 手 法 と す る こ と は 最 高 裁 の 判 例 に 沿 う も の で な い 。

既 存 の も の の 組 み 合 わ せ 発 明 は 、 最 高 裁 が 示 し て き た

手法で判断すべきである、(2 )T S M テストを唯一の判

断 手 法 と す る と 、 被 疑 侵 害 者 が 特 許 無 効 の サ マ リ ー ジ

ャッジメント(su m m a r y j u d g m e n t )を得ることが

困 難 と な り 、 特 許 権 の 強 さ と 制 度 コ ス ト の バ ラ ン ス が

保てない、(3 )技術分野によっては、先行技術文献化

されていない技術が数多く存在するので、「当業者の知

識」を重視すべきである、という点に集約できる。

米国政府は、 T S M テストは妥当な判断手法であると

しても、それが唯一の判断手法であるとする C A F C の

立場は支持できないとし、「当業者の通常の能力を大き

く超えた発明にのみ特許を付与する」とする G r a h a m

事件で構築した考え方(“ G r a h a m f r a m e w or k ” )を

再 認 識 す べ き と し 、 既 存 の も の の 組 み 合 わ せ 発 明 に つ

い て は 、 新 規 で 既 存 の も の と 区 別 さ れ る 機 能 を 提 供 す

る も の で な い 限 り 自 明 で あ る と す る 最 高 裁 の 判 決

( A n d e r so n ' s-B l a c k R o c k , S a k r a i d a ) を 支 持 し た 。

ま た 、 特 に 先 端 技 術 分 野 に お い て は 、 当 業 者 に と っ て

自 明 で あ る こ と が 明 白 で あ る に も か か わ ら ず 、 示 唆 、

動機を特定して示すことが難しい場合があることから、

既 存 の 技 術 の 単 な る 転 用 発 明 に 対 し て も 、 特 許 を 付 与

することになる懸念があるとしてT S M テストを批判し

た。さらに、 T S M テストは h i n d s i g h t の回避に有効で

あ る と す る C A F C の 見 解 は 、 裁 判 所 や U S P T O の

h i n d s i g h t を排除する能力を過小評価していると批判し

5 2 )

、U S P T O に 示 唆 や 動 機 に つ い て の 不 必 要 な 証 拠 調

査 の 負 担 を 強 い る よ り 、 U S P T O の 技 術 常 識 を 含 め た

専門性に委ねるべきである点を強調した 5 3 )

I n t el C or p., et a l .は、特許法の目的はイノベーショ

ン の 促 進 で あ り 、 非 自 明 性 の 判 断 基 準 は 、 日 常 的 に 繰

り 返 さ れ る 技 術 的 進 歩 と の 区 別 で な く て は な ら な い と

こ ろ 、 当 業 者 の レ ベ ル に 焦 点 を あ て 、 特 許 権 と イ ノ ベ

ー シ ョ ン と の 関 係 に つ い て バ ラ ン ス の 取 れ た

“ G r a h a m f r a m e w o r k ” を 改 め て 肯 定 す べ き で あ る

とした。また、先行技術文献等において具体的なT S M

が存在するかどうかという事実問題が重視されすぎて、

(6)

断 に 委 ね ら れ る 事 実 問 題 に す り 替 わ り 、 事 実 審 を 経 な

い で 法 律 問 題 だ け で 裁 判 官 が 迅 速 に 判 断 を 行 う こ と の

できるS u m m a r y J u d g m en t の請求が、事実上排除さ

れ て い る と 指 摘 し た 。 そ し て 我 々 ( I n t e l , M i c r on 等 )

は 、 明 ら か に 自 明 な 特 許 に つ い て 、 発 明 が 自 明 で あ る

とのS u m m a r y J u d g m en t を得るのに困難を極めてお

り 、 本 来 研 究 開 発 に 利 用 す べ き 資 源 が 特 許 性 の 疑 わ し

い特許を有する会社 5 4 )

からの侵害訴訟への対応に利用

せざるを得ないとの問題点を強調した 5 5 )

( i i)被上告人支持(T eleflex 支持)

一方、主な被上告人支持者は、I P O (知的財産権所有

者協会)、A I P L A (米国知的財産権法協会)、A B A (米

国 弁 護 士 協 会 ) 等 の 出 願 人 、 代 理 人 団 体 、 3 M C o., e t

a l .、P h a r m a c eu t i c a l R esea r c h a n d M a n u f a c t u r er s

of A m er i c a 、B I O (バイオ産業協会)の化学・薬品等

の産業界である。

その意見は、(1 ) h i n d s i g h t の排除、判断の客観性

の 担 保 の た め 、 T S M テストを維持すべきである、(2 )

T S M テストは文献における明示的な記載を求めるもの

ではなく柔軟に適用されてきた、(3 )半世紀にわたり

採用されてきたT S M テストを覆すことは特許制度の安

定 性 ・ 信 頼 性 を 損 ね る 結 果 と な る 、( 4 ) S y n e r g y

t e s t は 適 切 な 判 断 手 法 と は い え な い 、 と い う 点 に 集 約

できる。

I P O は 、 先 行 技 術 文 献 に 明 示 的 な 示 唆 等 を 求 め る 硬

直的運用(I n r e D e m b i c z a k 等)は支持しないが、示

唆 や 動 機 は 技 術 文 献 や 当 業 者 の 知 識 等 の 先 行 技 術 を 全

体 と し て 捉 え て 認 定 す る こ と が で き る と す る 柔 軟 な 適

用(In r e K ot z ab, In r e K ah n 等)をする限りにおい

て T S M テ ス ト を 支 持 す る と し た 。 そ し て こ の よ う な

T S M テストは、発明時点に遡った視点から当業者がど

の よ う に 問 題 を 解 決 す る か を 問 う も の で 、 特 許 法 及 び

最高裁の判例の考え方にも整合するものである、また、

い わ ゆ る 「 相 乗 効 果 」 は 、 非 自 明 性 を 判 断 す る 際 の 必

要要件とすべきでないとの見解を示した。

A I P L A は、事実上すべての発明は既存の要素の組み

合 わ せ で あ る 中 で 、 ク レ ー ム 発 明 は 、 個 々 の 要 素 に 分

解 す べ き で な く 、 全 体 と し て 評 価 す べ き で あ る と の 一

般的な考えを示し、T S M テストは発明ごと技術分野ご

と に 分 析 的 に 柔 軟 に 適 用 で き る も の で あ る 点 を 強 調 し

た。また、S y n er g y t est は、当業者にとって自明であ

っ た か ど う か と い う 判 断 を 迂 回 し て 後 知 恵 的 に 結 果 の

みを評価している点、また、「組み合わせ発明特有の判

断 基 準 」 を 設 定 す る こ と に な る こ と は 特 許 法 の 条 文 か

らも適切でない点 5 6 )

を問題点として指摘した。

( i i i)中立意見

I B M は、両当事者を支持することなく、特許権保有

者 と し て の 地 位 、 及 び 製 品 ・ サ ー ビ ス 提 供 者 と し て の

地 位 を と も に 確 立 し て い る 中 立 的 な 立 場 か ら 、 非 自 明

性 の 考 え 方 に つ い て 新 た な 提 案 を 行 っ た 。 C A F C の厳

格な T S M テ ス ト は 些 細 な 発 明 に 特 許 権 を 与 え 、 一 方

K S R や米国政府が主張する意見は、明確性・予見可能

性 に 欠 け 、 い ず れ も 適 切 で な い と し た 上 で 、 組 み 合 わ

せ る べ き 先 行 技 術 が “ A n a l o g o u s a r t ” (類似技術)

の 範 囲 内 の も の で あ れ ば 、 組 み 合 わ せ は 自 明 で あ る と

の 反 証 可 能 な 推 定 を す る と い う 新 た な テ ス ト を 提 案 し

た。A n a l og ou s a r t の範囲はこれまでの運用の中で画

定 さ れ て き て お り 、 ま た 出 願 人 が 自 ら そ の 範 囲 を 出 願

手 続 き の 中 で 画 定 さ せ る こ と も で き る と す る 。 ま た 、

こ の 推 定 は 、 組 み 合 わ せ が 技 術 的 に 実 現 困 難 で あ る と

か、組み合わせを阻害する理由(t ea c h i n g a w a y )が

ある等の証明により覆すことができるとするものである。

意見書提出期間の当初は F T C の報告書の影響もあり、

T S M テストを批判する意見が多かったが、In r e K ah n 、

I n r e D y st a r の判決が出された後は、T S M テストを支

持する意見が相次いだ。しかしT S M テストを支持する

意 見 で あ っ て も 、 文 献 上 の 明 確 な 記 載 を 求 め る 硬 直 的

な 運 用 を 支 持 す る も の は な く 、 当 業 者 の 知 識 を 重 視 す

る 柔 軟 な 運 用 を 指 向 す る 点 で は い ず れ の 意 見 も 共 通 し

ているといえる。粗っぽくいえば、 h i n d s i g h t の排除と

いう疑いようのない命題に対して、その排除をT S M テ

ス ト と い う 規 範 を 一 律 に 適 用 す る と の 立 場 を 示 す こ と

で表明しているかどうかの違いで、I n r e D y st a r での

釈 明 を み て も 、 両 者 の 間 に 実 質 的 な 差 異 は な い の で は

ないだろうか。

そうであるなら、「示唆・動機づけが存在するかどう

か 」 と い う 表 現 は 、 先 行 技 術 文 献 を 対 象 と す る 場 合 に

は 適 切 な 表 現 で あ る が 、 当 業 者 の 知 識 を 対 象 と し た と

き に は 適 切 な も の と は い え ず 、 む し ろ 硬 直 的 な 運 用 を

示唆しかねない「T S M テスト」という表現は用いるべ

(7)

I n r e L e e で 指 摘 さ れ た よ う に 、 T S M テ ス ト は 、

h i n d s i g h t の回避とともに、意図の伝達、控訴審におけ

る審査(r e v i e w )という重要な目的に寄与するための

も の で あ る 。 こ の こ と か ら も 、 な ぜ 当 業 者 に と っ て 自

明 で あ る か に つ い て の 説 明 ま た は 情 報 の 提 示 と い う 手

続 き 的 観 点 か ら の 検 討 を 付 す こ と が 実 務 上 も 実 益 が あ

り、条文の表現にも沿うものである。

I B M の提案は興味深い内容であるが、ほとんどすべ

て の 発 明 は 既 存 の も の の 組 み 合 わ せ で あ る 5 7 )

中 で は 、

証 明 責 任 を 転 嫁 し て い る こ と に 等 し い と い え る 。 そ し

て 自 明 で は 「 な い こ と の 証 明 」 を さ せ る こ と に よ り 過

度 の 負 担 を 出 願 人 に 負 わ せ る 結 果 と な り 、 ま た 条 文 上

も 解 釈 が 困 難 な の で は な い だ ろ う か 。 し か し 、 社 会 的

コ ス ト の バ ラ ン ス へ の 配 慮 、 と り わ け 特 許 性 に 深 く 関

わ る 中 心 的 な 情 報 が 出 願 人 側 に こ そ 存 在 す る 分 野 や ケ

ー ス も あ る 中 で 、 裁 判 所 が こ の 提 案 に ど の よ う な 関 心

を示していくのか興味深い。

(4 )最高裁判決の予想

ラ ン ド ー ル ・ レ ー ダ ー ( R a n d a l l R . R a d e r ) 判 事

(C A F C )は、研究会 5 8 )

において、最高裁がどのような

判 断 を 示 す か に つ い て 、 次 の よ う な い く つ か の 可 能 性

を示した 5 9 )

。 こ の 中 で も 特 に 、 ③ の 結 論 が 最 も 可 能 性

が高いとのコメントを述べた。C A F C の判断の是非が

問われる継続中の事件についての現役の C A F C 判事が

行うコメントとして興味深い。

①相乗効果テストを復活させる。

② 新 し い テ ス ト を 提 示 す る ( 例 え ば 、 米 国 政 府 の 意 見

書中で述べられた「“ e x t r a o r d i n a r y ” c o n t r i b u t i o n

t o ar t s” テスト」の採用)。

③T S M テストを破棄し、代替するテストは C A F C に委

ねる。

④T S M テストは唯一のテストでなく、相乗効果テスト

な ど 、 組 み 合 わ せ 発 明 の た め の そ の 他 の テ ス ト を 適

用することができるものとする。

⑤T S M テストが「法律問題」であることの再認識(先

行 技 術 も し く は 当 業 者 の 知 識 か ら の 具 体 的 な 引 用 を

要求する「事実問題」になってしまっている)6 0 )

ま た 、 米 国 の 多 く の 実 務 家 は 、「 T S M テストは唯一

の テ ス ト で は な い と い う 判 断 」 で あ ろ う と 述 べ 、 新 た

なテストについては「s y n e r g y テストに注目する可能

性もある」「新たなテストについては言及しないかもし

れ な い 」 と い う 点 を コ メ ン ト し て お り 6 1 )

、 例 え ば 、 特

許に関する最高裁判所の事件のトップ1 0 を選んで定期

的に分析・発表しているウェグナー弁護士 6 2 )

は、次の

ような可能性を示している6 3 ) 。

①T S M テストは唯一のテストではないとする(T S M テ

ス ト を 維 持 し つ つ も 「 二 次 的 考 察 」 と 同 様 裁 判 所 が

利用できるテストの一つとする)

②少なくとも“ i m pl i c i t m ot i v a t i on ” を示す必要があ

るとするK ah n テスト支持

③K a h n テ ス ト の 否 定 ( 最 高 裁 口 頭 審 理 に お け る

「T S M テスト、さらには“ i m pl i c i t m ot i v at i on ” は、

法 律 家 が 使 い が ち な 難 解 用 語 の 一 つ で 意 味 が 不 明 で

ある」との判事の指摘から)

3 . 我が国の進歩性の審査基準

米 国 で の 非 自 明 性 の 議 論 を 概 観 し て き た と こ ろ で 、

我 々 の よ く 知 る 、 我 が 国 審 査 基 準 に つ い て も 、 そ の 作

成・改訂の経緯を簡単に振り返っておく。

進 歩 性 の 現 在 の 審 査 基 準 は 平 成 5 年 に 作 成 し た 「 特

許・実用新案 審査基準」が元となっている。平成5 年

の 審 査 基 準 に お い て は 、 進 歩 性 の 判 断 は 、 引 用 発 明 の

内 容 に 、 請 求 項 に 係 る 発 明 に 対 し て 起 因 な い し 契 機

(動機づけ)となりうるものがあるかどうかを主要観点

として行うこととされた。その後、平成6 年改正特許法

で 明 細 書 の 記 載 要 件 を 見 直 し 、 出 願 人 の 責 任 の 下 で よ

り自由な表現形式で発明を記載することを認めた結果、

ク レ ー ム の 適 切 な 範 囲 は 、 先 行 技 術 と の 関 係 で ( 進 歩

性 の 判 断 に よ っ て ) 決 ま る べ き も の と さ れ 、 一 方 進 歩

性 の 判 断 に お け る 先 行 技 術 中 の 動 機 づ け の 考 え 方 が 必

ず し も 適 切 で な か っ た こ と に よ り 、 広 す ぎ る ク レ ー ム

が許容されるかのような運用となった。

こ の よ う な 運 用 上 の 問 題 点 や 、 審 査 に 関 し 、 サ ー チ

が 不 十 分 で あ る こ と 、 判 断 に ば ら つ き が あ る こ と 、 進

歩 性 の 判 断 が 甘 い こ と 等 に つ い て の 産 業 界 か ら の 厳 し

い 指 摘 が な さ れ て い た こ と を 受 け 、 進 歩 性 の 判 断 に つ

い て は 、 審 査 官 に 課 さ れ た 過 度 の 指 摘 責 任 の 適 正 化 等

の 観 点 か ら 、 直 接 的 な 動 機 づ け に 加 え て 、 設 計 変 更 ・

単 な る 寄 せ 集 め と い っ た 、 種 々 の 観 点 、 広 範 な 観 点 か

ら 論 理 づ け を 行 う こ と が で き る 点 を 明 確 に す る 審 査 基

(8)

づけの具体例として、(1 )最適材料の選択・設計変更、

単 な る 寄 せ 集 め 、 及 び ( 2 ) 動 機 づ け と な り 得 る も の

(①技術分野の関連性②課題の共通性③作用、機能の共

通性④引用発明の内容中の示唆)を列挙した 6 4 )

このような経緯で策定されている進歩性の審査基準

に 対 し て は 、 冒 頭 に 述 べ た よ う に 、 そ の 判 断 が 今 ま で

よ り も 厳 し く な っ て い る と の 指 摘 が な さ れ て お り 、 後

に 紹 介 す る 出 願 人 ・ 代 理 人 に 対 す る ヒ ア リ ン グ 結 果 に

お い て も 、 進 歩 性 の 判 断 が 厳 し い の で は な い か と の 指

摘がなされている。

審査基準上、「後知恵」に関する言及はないが、後知

恵 的 な 判 断 を 防 止 す べ き こ と は 当 然 の 命 題 で あ る こ と

か ら 、 触 れ ら れ て い な い も の と 思 わ れ る 。 ま た 、 進 歩

性 の 判 断 に つ い て 、 種 々 の 観 点 、 広 範 な 観 点 か ら 論 理

づ け を 行 う こ と が で き る こ と は 、 論 理 づ け の 説 明 責 任

を 免 除 す る も の で は な い こ と は 明 ら か で あ り 、 種 々 の

観 点 か ら 行 っ た 論 理 づ け を 、 記 載 す る ま で も な い な ど

の 事 情 を 除 い て 、 拒 絶 理 由 通 知 書 に よ り 説 明 を 行 う 必

要がある点には留意しなければならない。

4 . 特許の質の観点から

冒頭、特許の質への関心の高まりに触れた。昨年 1 1

月 の 三 極 ユ ー ザ ー ズ 会 合 、 長 官 会 合 に お い て も 幹 部 が

口 を そ ろ え て 特 許 の 質 の 向 上 に 言 及 し た こ と は そ の 証

左 で あ る 。 そ こ で 、 少 し 視 点 を 変 え て 、 特 許 の 質 の 観

点から進歩性/非自明性を概観する。

特許の質とは何か

特許の質 6 5 )

に対する関心が高まっているものの、特

許 の 質 と は 何 か 、 と の 問 い に 対 し て 答 え る こ と は 難 し

い6 6)

。E P O は、「顧客の要望を把握し、その要望に応え

る プ ロ セ ス を 確 立 す る こ と 」 が 基 本 的 な 要 素 で あ る と

し て い る6 7 )

。 こ れ は 、 顧 客 要 求 事 項 、 顧 客 満 足 度 を 重

視する品質管理の国際標準I S O 9 0 0 1 の考え方を反映し

たものである。 J P O も4 月に「品質監理室」を設置した

が 、 そ こ で も 、 E P O や I S O の考え方を参考にしながら

検 討 が 進 め ら れ る で あ ろ う 。 国 際 標 準 に お け る 品 質 の

要素は、(1 )顧客満足度と、(2 )品質管理体制の第三

者による評価であるといえる 6 8 )

(1 )顧客満足度

出 願 人 の 「 顧 客 満 足 度 」 の 向 上 は ど の よ う に 図 る こ

と が で き る か 。 顧 客 の 要 望 を 把 握 す る こ と が 品 質 管 理

の 基 本 要 素 で あ る と の 考 え 方 か ら は 、 特 許 制 度 ユ ー ザ

ーの声は重要な要素となる。「進歩性等に関する各国運

用等の調査研究」では、国内4 2 者、欧米 1 8 者に対して

ヒアリングを行った。進歩性/非自明性という観点で、

こ れ だ け の 規 模 の 面 談 ヒ ア リ ン グ が 行 え た の は 貴 重 な

機会であった。代表的な意見を紹介する 6 9 )

(i)日本

○ 拒 絶 理 由 と し て 十 分 な 論 理 付 け が 示 さ れ る こ と な く

通知されることがある。

○ 論理付けはもっと丁寧に記載してほしい。

○ 相 違 点 に つ い て 、 周 知 ・ 慣 用 技 術 や 設 計 事 項 で あ る

と し て 容 易 で あ る と い う 場 合 、 具 体 的 に 文 献 を 挙 げ

ることなく指摘されるため、反論が困難である。

○ ど の よ う な 点 が 周 知 ・ 慣 用 技 術 あ る い は 設 計 事 項 で

あ る と さ れ て い る の か が 判 然 と せ ず 、 対 応 に 困 る こ

とがある。

○ 引 用 例 の 組 み 合 わ せ に よ り 、 本 願 請 求 項 の 構 成 要 件

が 揃 う と 、 技 術 分 野 や 機 能 が 同 一 で あ れ ば 論 理 付 け

を 問 う こ と な く 阻 害 要 因 な し と し て 、 進 歩 性 な し と

判断しているのではないか。

○ 数 値 限 定 や 材 料 の 選 択 を 有 す る 発 明 に つ い て 格 別 な

効 果 や 臨 界 的 意 義 が 厳 し く 要 求 さ れ て い る よ う だ 。

(いずれも多数意見)

( i i)米国

○ 最 近 の 進 歩 性 の 判 断 が 厳 し す ぎ な い か 、 主 観 的 な 判

断 に 陥 っ て な い か と い う 点 に 懸 念 が あ る 。

(M i c r osof t )

○ 拒 絶 理 由 に お け る 説 明 が 足 り な い 。 審 査 官 が 何 を 考

え て い る の か 分 か ら ず 、 反 論 が 困 難 。 組 み 合 わ せ な

い 理 由 の 立 証 を 出 願 人 が 負 う こ と に な る 。 後 知 恵 で

はないか。(S A P L abs U .S .)

○ 日 本 で は 、 組 み 合 わ せ の 容 易 性 に つ い て 出 願 人 に 意

見 を 求 め て く る 。 相 乗 効 果 の 有 無 を 出 願 人 に 求 め る

場 合 も あ る と の 背 景 も 理 解 す る が 、 拒 絶 理 由 通 知 に

は 、 そ う し た 説 明 が 十 分 に さ れ て お ら ず 、 何 が 問 題

で あ り 、 何 を 意 見 す れ ば 良 い の か が 理 解 し づ ら い 。

(9)

(F or d G l obal T ec h n ol og i es)

○日本の2 0 0 0 年の審査基準は主観的な面があり、より

厳 し い 基 準 に な っ て い る よ う に 思 う 。 技 術 分 野 や 発

明 の 対 象 に か か わ ら ず 当 業 者 の 知 識 が 適 用 さ れ る な

ど、理由付けについてU S P T O より容易に適用できる。

ま た 、 な ぜ 容 易 に 発 明 で き た か の 判 断 に つ い て 主 観

的 な 基 準 と な っ て い る 。 日 本 で は 文 献 を 引 用 し な く

て も 、 当 業 者 の 知 識 を ベ ー ス と し た 理 由 付 け に よ り

進 歩 性 を 否 定 す る こ と が で き る 。 日 本 の 審 査 官 は 拒

絶 理 由 通 知 に 説 明 を 詳 細 に 記 載 す べ き で あ る 。 と り

わ け 複 数 の 引 用 例 を 用 い る 場 合 に は 、 な ぜ そ れ ら を

組 み 合 わ せ る の か そ の 関 係 を 詳 細 に 記 載 す べ き で あ

る。(S t eph en G . K u n i n 氏(元P T O 副長官))

○ 日 本 で は F タ ー ム な ど の サ ー チ ツ ー ル が 充 実 し て お

り、サーチの質が高く、結果の質も高い。(S t e p h e n

G . K u n i n 氏)

○ 日 本 で は 組 み 合 わ せ る 理 由 が 先 行 技 術 に 書 い て い な

い の に 拒 絶 す る 。 日 本 で は 同 じ 分 野 に あ れ ば 進 歩 性

が否定される。O l d E l e m e n t R u l e に近いのではな

いかと感じる。(U w e S z i p l 氏 (A I P L A 日本部会共

同会長))

○ 日 本 の 拒 絶 理 由 書 は 短 く て 、 審 査 官 の 本 当 の 考 え 方

が 分 か ら な い 。 組 み 合 わ せ る 理 由 を 書 く べ き だ 。 審

査 の 大 半 は 先 行 文 献 を 読 む 時 間 で あ っ て 、 拒 絶 理 由

書 を 書 く 時 間 は 短 い か ら 、 詳 し く 拒 絶 理 由 を 書 い た

としても、審査の遅延には影響はないだろうと思う。

(U w e S z i pl 氏)

( i i i)欧州

○ 動 機 付 け あ る い は 示 唆 の 欠 如 だ け で は 文 献 が 組 み 合

わ せ ら れ な い と は い え な い 。 具 体 的 で 明 示 の 動 機 付

け や 示 唆 を 求 め る の は 、 現 実 的 で は な い 。 正 し く な

いと思う。(V ossi u s & P ar t n er )

○ 日本の審査プラクティスは不可思議である。例えば、

三つの文献を自由に組み合わせて拒絶を掛けてくる。

(V ossi u s & P ar t n er )

○ 米 国 で は 、 見 つ か ら な い 特 徴 を 「 当 業 者 」 が 埋 め る

ような取り扱いをしない。「スキル」が重要な役割を

果たさない。(R ober t B osc h G m bH )

○ 日 本 に お い て は 、 シ ス テ マ チ ッ ク な ア プ ロ ー チ が な

い の で 、 組 み 合 わ せ る と い う 拒 絶 理 由 に 対 し て 、 反

論 が 難 し い 。 ま た 、 ク レ ー ム 中 の 限 定 要 素 の 一 つ が

先 行 技 術 に な い 場 合 で も 拒 絶 し て く る 。 こ う い っ た

拒絶理由には反論しにくい。(R ober t B osc h G m bH )

○ 日 本 の 審 査 結 果 に は ほ ぼ 満 足 し て い る 。 最 も 重 要 な

の は 先 行 技 術 調 査 で 、 日 本 の 特 許 庁 は し っ か り し て

い る 。 た だ 、 日 本 の 拒 絶 理 由 通 知 の 説 明 は 短 い の で

反論が難しい。(W u est h of f & W u est h of f )

特 に 米 国 ヒ ア リ ン グ に お い て ほ ぼ 共 通 し て 聞 か れ た

のが、「日本の審査・審査基準は主観的である」との言

葉 で あ る 。 審 査 基 準 に 主 観 的 な 判 断 で も よ い と の 記 載

は も ち ろ ん な い 。 む し ろ 論 理 づ け を し っ か り と 行 う こ

と が そ の 本 質 で あ る し 、 証 明 責 任 が 審 査 官 に あ る こ と

も 明 確 に 述 べ ら れ て い る 7 0 )

。 そ れ で も 、 主 観 的 で あ る

と批判される背景には、「日本の拒絶理由通知書の記載

が 不 十 分 で あ り 、 進 歩 性 が な い と 判 断 し た 理 由 が 理 解

できない。」「 論 理 づ け が 拒 絶 理 由 通 知 書 中 に 表 現 さ れ

て い な い 」 と の 指 摘 が あ る 。 こ の よ う な 批 判 を 踏 ま え

る と 、 審 査 に 対 す る 満 足 度 は 、 出 願 人 が 自 分 の 意 見 を

伝 え 、 ま た 審 査 官 が そ の 意 見 を 十 分 踏 ま え た こ と が 伝

わ る よ う な 形 で そ の 判 断 の 結 論 と 理 由 が 示 さ れ て い る

こ と に よ り 維 持 さ れ 、 さ ら に 審 査 全 体 に 対 す る 信 頼 を

確 保 で き る の で は な い だ ろ う か 。 こ の 意 味 で 顧 客 満 足

度とは端的にいえば出願人の納得感であるともいえる。

審 査 の 結 果 が 実 体 上 正 し い の か ど う か は 誰 に も 量 る こ

と は で き な い 。 そ の 中 で は 、 結 果 の 正 し ら し さ を 、 そ

の 結 果 に 決 定 し た 手 続 き を 保 障 す る こ と に よ り 担 保 す

る し か な い 。 審 査 の 質 と は 、 言 い 換 え れ ば 手 続 き の 質

であるといえる。

(2 )品質管理体制の第三者による評価

4 月に特許庁内に「品質監理室」が設置された。具体

的 な 品 質 管 理 の 手 法 と し て 、 決 裁 者 以 外 の 評 価 者 に よ

る 品 質 管 理 の 評 価 も 検 討 さ れ て い る よ う で あ る 。 管 理

職による決裁後に、決裁者以外の者(品質監理者)が、

そ の 内 容 を サ ン プ ル チ ェ ッ ク す る 手 法 が 想 定 さ れ る 。

チェック対象としては、例えば E P O では「拒絶理由の

内 容 や 記 載 の 仕 方 」 や 「 サ ー チ 対 象 」 等 が 含 ま れ て い

るようであるが、このチェックに h i n d s i g h t 防止の観点

は 考 慮 で き な い だ ろ う か 。 例 え ば 、 品 質 監 理 者 が 、 ク

レーム発明も拒絶理由通知の内容にも接することなく、

引用例のみを読み、出願時の技術水準を把握した上で、

(10)

え つ い た い く つ か の 発 明 の 中 に 、 ク レ ー ム 発 明 と 同 じ

も の が 含 ま れ て い れ ば 、 拒 絶 理 由 の 結 論 は 妥 当 と 判 断

す る 手 法 で あ る 。 な ぜ そ の 引 用 例 に ア ク セ ス し た か と

いう点でのh i n d s i g h t が排除できない点を回避するため

には 7 1 )

、 本 願 の 従 来 例 と 解 決 す べ き 課 題 の み に 接 し た

上 で 、 当 業 者 の 視 点 か ら ど の よ う に 解 決 す る か を 思 考

する手法も考えられるかもしれない。

興 味 深 い 実 験 を し た グ ル ー プ が あ る 。 品 質 管 理 の 視

点ではないが、h i n d s i g h t の影響度を測定しようとする

実 験 で あ る 。 K S R 事 件 に 関 心 を 持 っ た 米 国 A l b a n y

l a w sc h ool の教授が、陪審を想定して一般市民4 0 0 人

を 集 め 、 非 自 明 性 が 争 点 と な っ た 実 例 に 基 づ く 仮 想 事

例を用いてh i n d s i g h t が判断にどの程度影響があるのか

実 験 を 行 っ た の で あ る 。 本 願 発 明 を 予 め 見 る グ ル ー プ

( h i n d s i g h t g r o u p ) と 見 な い グ ル ー プ ( f o r e s i g h t

g r o u p ) に 分 け 、 本 願 発 明 を 見 る グ ル ー プ を さ ら に 、

T S M テ ス ト を 用 い る グ ル ー プ ( TS M g r o u p ) と 、

G r a h a m テストを用いるグループ(G r a h a m g r ou p )

に 分 け て 、 引 用 例 か ら 本 願 発 明 は 自 明 で あ る か ど う か

を 判 断 さ せ た の で あ る 。 結 果 は 、 自 明 で あ る と 答 え た

人の割合が、h i n d si g h t g r ou pはf or esi g h t g r ou pの2

倍弱であった。h i n d si g h t が判断に与える影響は強い

といえる。しかし、T S M g r ou p とG r a h a m g r ou p に

ついては、それほど結果に差はなかったようで、T S M

テストもG r a h a m テストもh i n d s i g h t の改善に寄与する

ものではないと結論づけている7 2 ) 。

実体要件的な観点からは進歩性の判断は“ f or esi g h t ”

に 行 わ れ る べ き で あ る が 、 審 査 官 ・ 裁 判 官 の 進 歩 性 の

判 断 は 本 願 発 明 を 理 解 し た 後 に 行 わ ざ る を 得 ず 、 こ の

意味で進歩性の判断は、 1 0 0 %「h i n d s i g h t の環境」の

中で行われる。A l b a n y l a w sc h ool の実験から、また

我 々 の 直 感 か ら も 、 ど の よ う な 判 断 手 法 を 採 用 し て も

“ f o r e s i g h t ” と“ h i n d s i g h t ” の溝は埋められないであ

ろう。「h i n d s i g h t の排除」は理想ではあるが、実際的

な 問 題 解 決 に つ な が る 命 題 で あ る と は い え な い 。 特 許

の質の要素が「顧客の納得度」であり、「ばらつきがな

い こ と 」 が 審 査 の 基 本 的 な 課 題 で あ る と す れ ば 、

「h i n d s i g h t の排除」は理想命題として掲げるにとどめ、

いかに出願人との手続きを充実させて納得感を得るか、

そ し て 公 平 に 対 応 で き る か と い う 視 点 か ら 考 え る こ と

が 実 務 上 実 益 あ る も の と 考 え ら れ る 。 そ の 結 果 自 明 で

あると判断されたものが、仮に“ f o r e s i g h t ” の視点か

ら は 「 進 歩 性 あ り 」 と 判 断 さ れ た と し て も 、 そ れ が 進

歩性判断の考え方として妥当なのである。

5 . おわりに

∼我が国の審査基準・審査を振り返って∼

米国の研究報告書、裁判例、及びK S R 事件をめぐる

議 論 、 そ し て 特 許 の 質 の 観 点 か ら 、 非 自 明 性 / 進 歩 性

の 判 断 に つ い て 概 観 し て き た 。 い ず れ の 観 点 か ら も 、

審 査 を 進 め る 際 の 手 続 き が 本 質 的 に 重 要 で あ る こ と が

分 か る 。 K S R 事 件 を 契 機 に 研 究 報 告 書 で 指 摘 さ れ た

「誤解」が、 C A F C 自らの釈明によって解かれたあとに

は 、 実 質 的 な 証 拠 が 具 体 的 事 件 と 当 業 者 の レ ベ ル の 関

係 の 中 で 見 出 さ れ る か 、 と い う き わ め て 実 質 的 な 判 断

基 準 が 、 意 見 の 共 通 項 と し て 抽 出 さ れ る 。 そ れ は 、 対

象 と な る 技 術 の 複 雑 さ や 成 熟 度 、 適 用 の 一 般 性 、 当 業

者 の 範 囲 等 に も 依 存 す る 扱 い が 必 要 と な る こ と を 意 味

す る 。 技 術 の 内 容 が 高 度 で 複 雑 で あ る と 同 時 に 、 細 分

化された研究分野に属する特徴を有する発明であれば、

他 の 分 野 に 属 す る 技 術 の 適 用 の 可 能 性 は 制 限 さ れ 、 当

業 者 が 自 明 と 判 断 す る 理 由 は よ り 具 体 的 で 分 析 的 で あ

る べ き と い う こ と に な る で あ ろ う 。 文 献 上 の 明 示 的 な

記 載 を 提 示 す る こ と が よ り 好 ま し い も の と も な る 7 3 )

そして一方、この反対の理屈も成り立つ。

し か し 、 技 術 の 適 用 可 能 な 範 囲 や 当 業 者 の レ ベ ル は

最 も 意 見 の 対 立 し や す い 点 で も あ る 。 現 在 の 審 査 基 準

もこの点に配慮している。例えば、「コンピュータ・ソ

フトウエア関連発明」の審査基準7 4 )

は、当業者の通常

の創作能力の発揮に当たる例として、(1 )他の特定分

野への適用、(2 )周知慣用手段の付加又は均等手段に

よる置換、(3 )ハードウエアで行っている機能のソフ

トウエア化、(4 )人間が行っている業務のシステム化

(5 )公知の事象をコンピュータ仮想空間上で再現する

こと、(6 )公知の事実又は慣習に基づく設計上の変更、

の6 つを列挙している7 5 )

。「設計上の変更」に関する(6 )

については、「請求項に係る発明と引用発明との相違点

が 公 知 の 事 実 又 は 慣 習 に 基 づ く も の で あ る 場 合 、 そ の

相 違 点 が 、 他 の 公 知 の 引 用 発 明 、 技 術 常 識 、 及 び 一 般

常 識 ( 顕 著 な 事 実 を 含 む ) 等 を 考 慮 し た 上 で 、 本 来 当

業 者 が 適 宜 取 決 め る べ き 性 格 の も の で あ っ て 、 か つ 組

(11)

違 点 は 当 業 者 が 必 要 に 応 じ て 定 め る 設 計 上 の 変 更 に 過

ぎず、当業者の通常の創作能力の発揮に当たる。」との

説 明 も 付 記 さ れ て い る 。 当 業 者 の 能 力 ・ 範 囲 を 予 め 公

表 す る こ と に よ っ て 、 予 測 可 能 性 を 高 め る と 同 時 に 、

審査官が、文献上の具体的な記載に依拠することなく、

こ れ ら の 理 由 の み に 言 及 し て 拒 絶 す る こ と を 一 定 範 囲

内で許容するものでもある。

周知慣用技術の取り扱いも、争点になりやすい。審査

官は、周知・慣用技術の調査のための負担や、周知・慣

用技術であることが争点となる可能性を常に考慮する。

周知・慣用技術であることが確かであるにも関わらず、

特許文献などに記載されることが少ない等の理由で文献

を例示するための調査負担が非常に大きくなる可能性が

高い場合は、文献を提示することなく拒絶することもあ

る。こういった共通の理解の上で、出願人と審査官の意

見の交換が行われることが適切である。

ユ ー ザ ー の 声 の 中 で 頻 繁 に 聞 か れ た 審 査 官 と の コ ミ

ュ ニ ケ ー シ ョ ン に つ い て は 、 審 査 官 側 か ら 積 極 的 に 求

め る 手 段 の 活 用 も 望 ま し い 。 特 許 法 1 9 4 条はその一手

段である 7 6 )

。 米 国 で は 、 出 願 人 側 が 宣 誓 書 や デ ク ラ レ

ー シ ョ ン を 提 出 す る こ と に よ っ て 拒 絶 を 回 避 す る 手 段

が あ る 7 7 )

。 審 査 官 が 宣 誓 書 を 提 示 す る 手 段 7 8 )

も あ る 。

し か し 、 そ の よ う な 制 度 の な い 我 が 国 に お い て は 上 記

の よ う な 手 段 に よ り 、 出 願 人 の 主 張 を 十 分 反 映 さ せ る

ことが望ましい。

一 方 で 、 判 断 を 行 う 当 業 者 と し て の 特 許 庁 審 査 官 ・

審 判 官 の 役 割 も ま す ま す 重 要 と な る 。 進 歩 性 判 断 の 重

要 な 要 素 で あ る 先 行 技 術 調 査 の 評 価 が 高 い こ と はJ P O

の強みである7 9 )

。 精 度 の 良 い 先 行 技 術 調 査 か ら 導 き 出

さ れ た 判 断 を 出 願 人 に 伝 達 す る 手 法 が 評 価 さ れ な け れ

ば、審査そのものの信頼も低下する結果となる。「審査

官 の 技 術 常 識 は 具 体 的 な 証 拠 に 取 っ て 代 わ る も の で な

い」という C A F C の指摘は、審査官の専門的知識に信

頼 性 が な い こ と を 指 摘 し た も の で は な く 、 審 査 官 の 主

観 に 依 存 す る 実 務 習 慣 に 向 か う こ と へ の 懸 念 、 警 鐘 で

あ る と み る こ と が で き る 。 審 査 官 は 常 に 主 観 的 、 裁 量

的 と の 批 判 を 受 け う る 立 場 に あ る こ と に 気 を 配 り な が

ら審査をすすめたい。

本来なら裁判例は具体的な技術の内容にも踏み込ん

で 分 析 す べ き で あ ろ う し 、 ま た 、 欧 州 の 裁 判 例 や 審 査

1)T o Promote Innovation: T he Proper B alance of C ompetition and P atent L aw and P ol i c y , F eder al T r ade C ommi s s i on (F T C ) R eport (Oct. 2003);A Patent System for the 21st C e n t u r y ,T h e N at i onal A c ad e mi e s of S c i e nc e ( N A S ) (A pr . 2004); U . S . P atent and T r ademar k O ffi c e:

T ransforming to M eet the C halleng es of the 21st C entury,

N ational A cademy of P ublic A dministration (A ug . 2005);

T he 21st C entury Strategic Plan, U SPT O (A pr. 2003) 2) 価 値 的 な 意 味 を 伴 わ な い “ P atent L i c ensi ng C ompany ” ,

“ P atent H olding C ompany ” という用語を用いることも多 い。

3)前掲 F T C 報告書、N A S報告書

4)K S R International C o. v. T eleflex Inc., N o. 04-1350 5)脱稿時(2007年4月26日)現在

6)米国では、最高裁への上訴受理は、我が国のように上訴人 の権利ではなく、裁判所の裁量に委ねられている。最近の 特許訴訟では、 e B a y 事件や、 M e d I m m u n e事件が上訴受理 されている。

7)我が国においてパテントトロールが少ない理由について、 Y asuo Ohk uma, M iyuk i Sahashi, et al.“ Patent T rolls in the U S, J apan, T aiwan and E urope(D igest)” 特技懇2007 J A N . N o244 P73 参照

8)例えば、特許第2委員会第5小委員会「審決取消事例に見 る進歩性の判断についての考察」 知財管理 5 5巻 1 1号1 6 0 9 頁(2005)

9)知的財産推進計画2006 第2章知的財産の保護  2 .知的財産 権の安定性を高める(1)特許性の判断基準を統一する 10) 社 団 法 人 日 本 国 際 知 的 財 産 保 護 協 会 ( A I P P I ・ J A P A N )

「進歩性等に関する各国運用等の調査研究報告書」特許庁 委託 平成 1 8年度産業財産権制度各国比較調査研究等事業 (2007年3月)

11)米国独占禁止法の執行機関

12)本報告書(“ T o Promote Innovation: T he Proper B alance of C ompetition and P atent L aw and P olicy” )はF T C と司法省 が行った一連の聴聞会に基づいている。多数の関係者から 聴聞会において意見を聴取した結果をまとめた上で、競争 政策の観点から特許制度に関する提言を行っている。非自 明性要件を含む特許要件、異議申立制度、特許有効性の推 定 規 定 、 審 査 官 と 出 願 人 と の コ ミ ュ ニ ー シ ョ ン に 関 す る U S P T O 規則への提言等を含む二百数十頁にわたる包括的 な内容となっており、現在審議中の特許法改正法案への影 響力も大きい。 U S P T O 幹 部 、 知 的 財 産 権 法 教 授 等 も 証 言

基 準 に も 目 を 配 れ ば 、 よ り 興 味 深 い 比 較 が で き る で あ

ろう。 K S R 事 件 に つ い て は 、 3 月 末 に は 判 決 が 出 さ れ

る と の 有 力 な 情 報 も あ り 、 本 稿 で も そ の 内 容 が 紹 介 で

き る も の と 考 え て い た が 残 念 で あ る 。 関 心 高 く 待 つ こ

参照

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