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③ 電気学会論文誌Cpdf 最近の更新履歴 ホルン 平野剛 Horn Hirano Takeshi

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(1)

Vol.131 No.10 pp.1775–1785 DOI: 10.1541/ieejeiss.131.1775

論 文

金管楽器演奏動作の上達に向けた練習指標の提案

— アンブシュアの形状を一定の状態に保つということ —

非会員

伊藤 京子

,∗∗ 非会員

平野

∗∗∗ 非会員

能任 一文

∗∗ フェロー

西田 正吾

∗∗ 非会員

大築 立志

∗∗∗∗

A Practice Indexes for Improving Facial Movements of Brass Instrument Players

— To Keep the Embouchure Formation Unchanged during Performance —

Kyoko Ito∗,∗∗, Non-member, Takeshi Hirano∗∗∗, Non-member, Kazufumi Noto∗∗, Non-member, Shogo Nishida∗∗, Fellow, Tatsuyuki Ohtsuki∗∗∗∗, Non-member

(2011年4月4日受付,2011年6月17日再受付)

Two experimental studies have been conducted in order to propose practice indexes for the improvement of the embouchure of French horn players, two experimental studies have been conducted. In both studies, the same task was performed by advanced and amateur French horn players. The first study investigated the activity, while performing the above-mentioned task, of the 5 facial muscles (levator labii superioris, zygomaticus major, depressor anguli oris, depressor labii inferioris, and risorius muscles) on the right side of the face by surface electromyography, and the facial movement on the left side of the face by attaching two markers above each muscle and using two high-speed cameras simultaneously. The results of the study showed that it is possible for the four markers around the lower lip to practice indexes. The second study evaluated whether the above-mentioned markers are appropriate as practice indexes using a 3-D tracking system and questionnaires. The results showed that both the advanced and the amateur players assessed that the markers were suitable as practice indexes for improving the embouchure. This set of approaches could be useful for selecting practice indexes and developing scientific practice methods not only for the French horn but also for other instruments and other fields.

キーワード:アンブシュア,金管楽器,練習指標,筋電図,動作解析

Keywords: embouchure, brass instrument, practice indexes, electromyogram (EMG), motion analysis

大阪大学コミュニケーションデザイン・センター

〒560-0043 大阪府豊中市待兼山町1-16

Center for the Study of Communication-Design, Osaka University

1-16, Matikaneyama-cho, Toyonaka, Osaka 560-0043, Japan

∗∗大阪大学大学院基礎工学研究科

〒560-8531 大阪府豊中市待兼山町1-3

Graduate School of Engineering Science, Osaka Uni- versity

1-3, Matikaneyama-cho, Toyonaka, Osaka 560-8531, Japan

∗∗∗大阪大学大学院医学系研究科予防環境医学専攻運動制御学 講座

〒560-0043 大阪府豊中市待兼山町1-17

1. はじめに

複数の楽器がともに音を奏でる場面に実際に出会う体験 は,日本では多くの場合小学校や中学校のクラブ活動であ る吹奏楽によって導かれる場合が多い。楽器の演奏に興味 を持ち実際に演奏に携わるために,クラブ活動は主要な入

Graduate school of Medicine, Osaka University 1-17, Matikaneyama-cho, Toyonaka, Osaka 560-0043, Japan

∗∗∗∗東京大学大学院総合文化研究科

〒153-8902 東京都目黒区駒場3-8-1

Graduate School of Arts and Sciences, The University of Tokyo

3-8-1, Komaba, Meguro, Tokyo 153-8902, Japan

(2)

Fig. 1. The embouchure formation for the brass in- strument (French horn) player.

り口となる。吹奏楽部で対象とする楽器は,金管楽器と木 管楽器を中心に打楽器が加えられる(1)。木管楽器と打楽器 は,息を吹き込む,打つ・叩くことによりそれぞれ音を出す ことができ,初心者の導入が比較的容易であるが,金管楽 器は奏者自身の口唇の振動数を変化させて音の高さを変え ることから,他の楽器に比べて音高の調節が困難である(2)

音楽を奏でる楽器は音を出す振動源と共鳴体より構成され るが,金管楽器は音を出す際に楽器は共鳴体となり,振動源 である口唇と合わせてはじめて完結する(3)。振動源である口 唇周りの状態は「アンブシュア」と呼ばれ,口唇,舌,歯,顎, そして表情筋の状態を示し,より詳しくいえば金管楽器演奏 のための機能を働かせる際の口唇周りの状態を示す(4)∼(6)。 金管楽器演奏は振動源が口唇であるため,音域や音色 が奏者のアンブシュアの状態に大きく依存すると考えられる。

金管楽器演奏は,姿勢,呼気パターン,アンブシュア,運指 などが統合的に機能することで実現されるが,音を作り出す という点においては振動源であるアンブシュア(Fig. 1)が重 要な要素となり安定したパフォーマンスにつながる(7)。クラ ブ活動などの練習の場で経験のある金管楽器演奏者が指導に あたる場合は多くはなく,教則本などの情報をもとに練習を 続けることが中心となっている。ここで,どのような場合に どのようなアンブシュアが適切であり現状でどの点が自分に 不足しているかを,初心者が理解することは容易ではない。 さらに,不適切な練習はアンブシュアジストニアと呼ばれる 管楽器演奏者の障害(8)∼(10)につながることが懸念される。 以上の背景より,本研究では金管楽器演奏の上達に向け てアンブシュアに着目し,適切な練習指標を提案すること を目指す。アンブシュアを構成する口唇周りの形状は,練 習指標として目で見ることができる。ここで,アンブシュ アを構成する要素には,口唇だけでなく,舌,歯,顎が含 まれるが,振動源として考えた際に特に重要な要素として 形状をつくるための筋肉の働きがある。筋肉の働きは目で 見ることはできないが,適切な筋肉の働きに基づく口唇周 りの形状を練習指標として提案することにより,上達に向 けた有効な練習につながることが期待される。

金管楽器は,日本では小・中・高等学校の吹奏学部を中 心に多くの人がその演奏に関わっている楽器である。中学・ 高校では約1万の団体が吹奏楽コンクールに参加し,上達

を目指した活動が行われている。適切な練習指標の提案は, これらの練習の有効なツールになるとともに,不適切な練 習による障害を避ける有用な方法となることが期待される。

2章では,金管楽器演奏の練習指標の提案に向けて,ア ンブシュアの特徴を見出すための方法論を検討し,本研究 の着眼点を述べる。3章では,練習指標の抽出に向けて,金 管楽器演奏者を対象とした実験に関して,その方法,結果 を述べ,練習指標を提案する。4章では,提案した練習指 標が実際の練習に役立つかどうかを確認するために,金管 楽器演奏者を対象とした評価実験の方法,結果を述べる。5 章では,3章,4章の結果をもとに,提案した練習指標の可 能性を考察し,6章でまとめを述べる。

2. 金管楽器演奏動作の上達に向けた練習指標の検討

21〉 アンブシュアの定義と機能 アンブシュア(em-

bouchure)は元来フランス語で「河口」や「開口部」を意味

する言葉であるが,管楽器演奏に関わる分野では,管楽器 の演奏における口唇の適切な形状を指す言葉として使用さ れる。(11)。小浦方は,工学分野のアンブシュアの研究にお いてアンブシュアを「管楽器を演奏するために整えられる 口唇周辺の形態や筋活動状態」と定義している(12)。アンブ シュアジストニアを研究しているFruchtらは,アンブシュ アを「音を鳴らす際に必要不可欠な要素で表情筋の活動に より口唇周りの形状を決定するもの」と捉えている(8)。本 研究ではアンブシュアを「金管楽器演奏時に整えられる口 唇周りの形状および表情筋の活動状態」と定義する。特に

「アンブシュアの形状」と記した場合は,「金管楽器演奏時 に整えられる口唇周りの形状」のみを表すこととする。

金管楽器演奏におけるアンブシュアは,音を構成する要 素である音量,音高,音色などに直接影響を及ぼす「振動 源」の機能と,肺からマウスピースまでの空気の通り道の

「形状を決定する機能」の2つの機能が考えられる。アンブ シュアの振動源の機能に対して,演奏される音高と振動す る唇の質量と張力の関係をあらわした数式モデルが提案さ れている(13)。これによると演奏される音の周波数は,振動 する唇の質量と表情筋の筋張力によって決定され,振動す る唇の質量(m)と筋張力(T )が独立な関係にあるとき,音 の周波数(f )は次の式で表される。

f ∝

T m

アンブシュアの形状を決定する機能に対しては,研究が ほとんど行われていない。

22〉 アンブシュアの測定 アンブシュアの測定に 関して,金管楽器演奏者の表情筋の活動を計測した先行研 究では,バイオメカニクスの手法が用いられている。バイ オメカニクスとは,力学,生理学,解剖学などの知識に基 づき,時間に伴って変化する身体部位の位置や筋活動など の生理学的な指標を計測し,人間の身体運動のしくみを明 らかにする学問領域である(14)。バイオメカニクスの手法に

(3)

は,人間の身体の動きに着目したキネマティクス,動作を 引き起こす力やエネルギーに着目したキネティクス,筋を 動かす時に必要となる神経活動に着目した筋電図的手法な どがある。時間に伴って変化する身体部位の位置や生理学 的な指標を計測・解析することで,人間の運動制御,運動 学習,運動計画の理解の手助けになると考えられている。 WhiteとBasmajianは,トランペット奏者を熟達度に よって熟達者群と初心者群の2つの群に分け,演奏時の上 口輪筋,下口輪筋,口角挙筋,口角下制筋の4つの表情筋の 活動を計測している(15)。その結果,両方の群で音量が大き い場合と音高が高い場合に筋活動が高いこと,また高度な 演奏において,初心者群の上口輪筋と下口輪筋の活動強度 に違いはみられず,熟達者群の上口輪筋の活動強度は下口 輪筋の活動強度に比べて小さいことを報告している。すな わちトランペット演奏時には,音量や音高によってアンブ シュアを構成する表情筋の活動が異なること,高度な演奏で は熟達度によってアンブシュアを構成する筋活動に違いが みられることを示している。またHeuserとMcNitt-Gray は,音出しが困難な奏者を対象としてトランペット演奏時 の大頬骨筋と口角下制筋の活動を計測し,練習による筋活 動の変化の様子を観察している(16)。その結果,音出しが改 善されたときに計測された筋活動は,熟達者の筋活動と似 たものになることを報告している。すなわち,アンブシュ アを構成する表情筋の活動は,演奏の熟達度,すなわちパ フォーマンスに大きく影響することを示している。

一方で,表情研究などで顔の皮膚表面の動きを計測した 研究は存在するが,アンブシュアの形状を計測した研究は ほとんど存在しない。

23〉 アンブシュアの改善に向けた練習方法とその課 題 小・中・高等学校のクラブ活動における金管楽器演奏 の練習の中で,個人の演奏技術を高めるための練習は,演 奏可能な音量や音域の幅を広げることと多彩な音色の演奏 ができる能力を獲得することを目的としており,具体的に はアンブシュアなどの改善を行う(17)

アンブシュアの改善を行うために,大きく2つの方法が 考えられる。1つは,クラブ活動の顧問や上級生またはプロ の奏者から直接アンブシュアの形状に対する指導を受ける 方法である(6)。クラブ活動の顧問や同じ楽器を演奏する上 級生が比較的身近にいることから指導を受ける機会や時間 が多いと考えられる。もう1つは,練習生が自ら金管楽器 演奏の教則本を読んで理解し,それを実践する方法である。 書籍に書かれている代表的な練習方法として,鏡を使って自 らのアンブシュアの形状を書籍に載っている手本となるア ンブシュアの形状にまねる方法が提案されている(3) (5)∼(7)

手本となるアンブシュアの形状は口唇を引っ張りすぎず微 笑んだときに見られるような口唇の形状であること,様々 な音量,音高の演奏に対してもアンブシュアの形状を変え ないことが記されている(18)。この記述は,同じ楽器(マウ スピースを含む)を用いている範囲を対象にしていると考 えられる。

両者の方法の問題点を挙げる。前者の方法では,演奏経験 のない顧問や上級生の場合,指導法に関する知識の不足や 演奏経験の浅いことなどから,必ずしもそれぞれの練習者 にとって適切な練習方法の提案ができるとは限らない。ま たプロの奏者による指導は適切な練習方法の提案が期待で きるが,金銭や時間などの制約から頻繁に指導を受けられ ないことが予想される。後者の鏡を利用する方法は,直接 指導を受ける方法に比べて手軽に実行できる。ここで初心 者のアンブシュアの形状はさまざまな部位で動くことが予 想され着目すべき部位が多くなること,また顔の動きは小 さいため自ら判断することに困難を伴うことが考えられる。

これらの問題点を踏まえ,両者の利点を活かして問題点 に対応した練習方法の開発が期待される。具体的には,熟 達した奏者からの指摘に類する適切なアンブシュアに向け ての着目点が指摘されること,鏡を使用して練習をする場 合と同様に目指すべき状態が明確になり練習生のペースで 練習ができることなどが考えられる。これらの特徴を有し た練習方法は,練習生が練習の中で不足している点への気 づきを得ることや,上達のために行う練習方法を自分自身 で考え出すきっかけを得ることにつながると期待される。

24〉 着 眼 点 本研究では,教則本に示されてい る「アンブシュアの形状を一定の状態に保つこと」に着目 する。教則本に示されているだけでなく,演奏中にアンブ シュアの形状を一定の状態に保つようにすることはプロの 奏者の間で暗黙の了解であり,プロの奏者が生徒に直接指 導にあたる際にはアンブシュアの形状を一定の状態に保つ ように指導する。しかし,演奏中にアンブシュアの形状を一 定の状態に保つことがよりよい演奏につながることは,学 術的に証明されていない。

アンブシュアの形状を一定の状態に保つ演奏は,演奏の 滑らかさと安定性の観点から,演奏者にとって有益である と考えられる。演奏の滑らかさに関して,アンブシュアの 形状を一定の状態に保つことは,口腔内の圧力変化率と関 係する。演奏時に音量が変化する場合には口腔内の圧力が 変化するが,アンブシュアの形状を一定の状態に保てば口 腔内体積は一定となる。口腔内体積が変化する場合と比較 して口腔内圧力の変化は滑らかになり,音量の変化が滑ら かに,すなわち演奏が滑らかになる。また演奏の安定性に 関して,筋肉疲労の抑制と関係する。音高を変化させる場 合には表情筋の活動が変化し,主に口輪筋の活動は振動す る口唇の張力の調節に関与することになると考えられる。 また口輪筋に付着する表情筋の活動は,口輪筋とは反対の 方向に収縮力を発揮することで張力の力学的なつりあいを 形成し,唇の張力の調節に間接的に関与することになると 考えられる。これより,口輪筋と口輪筋に付着する表情筋 から発揮される張力の力学的なつりあいが大きく崩れると きに,アンブシュアの形状が大きく変化すると考えられる。 アンブシュアの形状の大きな変化は,口輪筋に付着する表 情筋が過度な筋活動を発揮している可能性が考えられ,こ の筋活動は長時間にわたる演奏で疲労を引き起こす原因に

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なると考えられる。一方で,アンブシュアの形状を一定の 状態に保つことは口唇周りの疲労抑制につながり,長時間 にわたる安定した演奏が期待される。

本研究では,「アンブシュアの形状を一定の状態に保つこ と」を利用して,初心者をはじめとする練習者に対して上 達に向けた練習指標を提案することを目指す。ここで,書 籍に記されているアンブシュアの記述と同様に,本研究で は同じ楽器(マウスピースを含む)を用いている状態を対象 とする。提案に向けたアプローチとして,まず,個々の練 習者が視覚的に確認可能な指標の提案を検討する。そして, アンブシュアは筋活動と密接に関わることから,表面的な 観点だけでなく,筋活動の影響を踏まえた指標を提案する こととする。さらに,上達に向けた指標を抽出するために, 熟達者と未熟達者の差異に基づき,指標を検討する。以上 より,指標の提案に向けた検討点をまとめる。

視覚的に確認可能

筋活動との関連を分析

•熟達者と未熟達者の差異を利用

指標の抽出に向け,バイオメカニクスの手法を用いて金 管楽器演奏時のアンブシュアの形状と筋活動の計測を行う。 その際,熟達者群と未熟達者群の両者を対象とした比較実 験を実施し,両者の差異が見出される部位を練習指標とし て検討する。ここで,熟達者の方が未熟達者と比較して「ア ンブシュアの形状を一定の状態に保つこと」の傾向を有す る可能性に着眼して分析を行う。

研究の流れとして,練習指標を検討した後,検討した練 習指標を用いた評価に関して,計測実験の参加者とは異な る演奏者を対象として,検討した練習指標を利用する評価 実験を実施する。評価実験の結果に基づき提案した練習指 標の有効性を検討する。さらに,計測実験と評価実験の両 者の結果を踏まえ,本研究で提案した練習指標の可能性と その抽出方法を検討する。

25〉 関連研究 金管楽器動作の解析に向けて,筋 電図を用いた演奏動作の解析(15)や演奏による顎への負荷の 解析(19),歯頬面接触圧力による金管楽器奏者のアンブシュ ア制御パラメータの同定(20),熟達者と初心者の比較による 演奏の巧みさの解明の試み(21)がなされてきたが,いずれも 練習に向けた具体的な指標の提案には至っていない。

他方,情報技術を用いた熟達の支援を目指して身体動作 の可視化を行った研究として,ドラムを対象に演奏フォー ムとリズムのずれを提示する研究(22),人体センシング情 報の可視化提示法を提案してボウリング・ゴルフへ適用し た研究(23)がある。また,AR(拡張現実感)を用いた演奏動

作の生成(24) (25)や自身の身体動作の提示(22) (26)がなされて

いる。生成された演奏動作の提示のみ,または自身の動作 の提示のみでは,上達に向けた具体的な練習指標としてそ れらの提示情報を活用することは特に初心者には容易では ない。

本研究では,練習指標の提案に向けてバイオメカニクス の手法に基づいた分析を行った結果を利用することとする。

3. 練習指標の抽出に向けた実験

31〉 方 針 本研究では,バイオメカニクスの 手法を用いて,アンブシュアの形状および筋活動を同時に 計測し,上達に向けた練習指標の抽出を試みる。以下,実 験に向けて計測対象,参加者,課題を検討する。

表面筋電計を用いてアンブシュアを構成する表情筋の活 動を計測する。アンブシュアは,口唇周辺のさまざまな表 情筋の活動で形成されることから,表面筋電図で計測可能 な表層に位置する異なる収縮方向をもつ上唇挙筋(LLS), 大頬骨筋(ZYG),笑筋(RIS),口角下制筋(DAO),下唇

下制筋(DLI)の筋活動を右顔から計測する。上唇挙筋,大

頬骨筋,笑筋,口角下制筋,下唇下制筋はそれぞれ主に上 唇を上へ挙げる,口角を斜め上へ引っ張る,口角を後ろへ 引く,口角を下げる,下唇を下げるときに活動がみられる。 また高速カメラを用いてアンブシュアの形状の変化を検討 するために,表面筋電計で計測される表情筋に位置する左 顔の皮膚表面にマーカーを2個ずつ貼り付け,アンブシュ アの形状の変化を記録する。なお,本研究では楽器を演奏 するときの表情筋の活動および皮膚表面の動きは左右で同 じであると仮定する。演奏する楽器は金管楽器の中で最も 広い音域が必要とされるフレンチホルンとする。

アンブシュアの形状を一定の状態に保つことに着目して 上達に向けた練習指標の抽出を試みるために,実験参加者 としてアンブシュアの形状を一定の状態に保つ能力を有す る奏者と,基本的な演奏の技術を身につけてはいるがアン ブシュアの形状が演奏中に変化することが予想される奏者 の2群を選択する。具体的には,ホルン演奏の専門的な教育 を受けている音楽大学の学生を中心とする熟達者群と,ホ ルン演奏の専門的な教育を受けておらずサークル活動でホ ルンを演奏している大学生を中心とするアマチュア群の2 群を用意する。

課題は表情筋の活動および皮膚表面の動きに熟達者群と アマチュア群に差が生じると予想される演奏を設定する。

32〉 方 法 本実験は東京大学大学院総合文化 研究科におけるヒトを対象とした実験研究に関する倫理審 査委員会の承認を得て行われた。

参 加 者 熟達者群12名,アマチュア群10名の合計 22名(男性10名,女性12名)の参加者を実験対象者と する。

課 題 音高をF3(1stF3),F4,F3(2ndF3)の順番 にスラーで演奏する演奏課題(オクターブ課題)を設定す る。1stF3を1.5秒間吹いた後,音を切らずにF4を1.5秒 間吹き,再び音を切らずに2ndF3を3秒間吹く。音量はmf (82-84 dB)とし,テンポは80bpmに設定する。オクター ブ課題の譜面をFig. 2に示す。

測定方法 音量の測定には,音量計NL-22(リオン社 製)を用いる。音量計と音源の距離を一定に保つため音量 計固定機を考案して利用する。音量計固定機はホルンのベ ルの縁に取り付けて音量計を固定する(Fig. 3)。楽器との

(5)

Fig. 2. The octave-tone task performed by the subjects.

Fig. 3. The retainer of the sound level meter at- taching the French horn bell.

Fig. 4. The position of the EMG electrodes and typical EMG signals.

接触部は発泡スチロール製でベルの半円をゴムで挟み込む 格好とし,さまざまな直径のサイズのホルンに対応できる。 外側は木製,重さは約800 gとする。

以下,表情筋の活動と皮膚表面の動きの測定方法をそれ ぞれ述べる。

(I)表情筋の活動 表面筋電位計(EMG-AMP04,原 田電子工業製)を用いて,表情筋の活動を表面双極誘導で 導出する。表面筋電図記録用の電極は,直径10 mmの銀/ 塩化銀のディスポ電極(ビトロードF,日本光電製)を用 いる。顔の表面積は狭いため,電極を必要最小限の大きさ に加工して電極間の中心間距離を20 mmとする。導出部 位は右顔の上唇挙筋,大頬骨筋,笑筋,口角下制筋,下唇 下制筋の5つの表情筋とし不感電極は同側の鎖骨に設定す る(Fig. 4左)。電極は,Lapatki et al. (2003)(27)の先行 研究を参考に位置を推定して装着を行う。装着された電極 が独立した表情筋の活動を記録していることを確認するた めに,特定の表情筋を上手に分離して活動させることので きる参加者を用いて予備実験を行った。その結果,大頬骨 筋と笑筋から導出される筋活動の波形は似ているものの, 他の筋の筋活動は独立した信号を導出していることが確認 できた(Fig. 4右)。導出される筋活動の波形はA/D変換

Fig. 5. Diagram of the pointed markers on the face.

機(MP150,BIOPAC社製)を用いてサンプリング周波数 1000 HzでAD変換し,波形解析ソフト(AcqKnowledge, BIOPAC社製)によってノート型パソコン(FMV-BIBLO MG70W(CPU:インテル Core2 Duo T7100・1.8 GHz, メモリ:1 GB),富士通社製)に取り込み保存する。

(II)皮膚表面の移動距離 高速カメラ(HAS-220, DI- TECT, Tokyo, Japan)を2台用いて,参加者の正面と左 斜め約90から50 Hzで10秒間撮影し,演奏による皮膚表 面の移動距離の測定を行う。取得する2台のカメラからの 画像データと表面筋電図のデータは同期させてパソコンに 保存する。皮膚表面につけるマーカーは直径約1 mmのス チールビーズを用い,皮膚とマーカーの接着には両面シー ルを用いる。得られた画像データは動作解析ソフトウェア (DIPP Motion Pro, DITECT, Tokyo, Japan)によって

DLT法(28) (29)を用いて3次元座標に変換する。マーカー

は表面筋電計で計測される各筋の「唇に付着する部位」と

「起始と停止の中央」の2点に貼り付ける。Fig. 5は,上唇 挙筋(点1,点6),大頬骨筋(点2,点7),笑筋(点3,点 8),口角下制筋(点4,点9),下唇下制筋(点5,点10) に対してマーカーを貼る位置を示している。

33〉 解析方法

(I) 表情筋の活動 参加者が演奏する 1stF3, F4,

2ndF3のそれぞれの音高に対して,四分音符の長さに相

当する750ミリ秒区間の音量の標準偏差を時系列で解析し, 音量の標準偏差が最も小さな区間を解析対象区間とする。 参加者間の筋活動を比較するために,解析対象区間から得 られる各筋活動を全波整流し50 Hzのローパスフィルタを かけて,平均振幅をBb3演奏時の筋活動の平均振幅に対す る割合を求めて正規化し,百分率で表したものを%EMGと 定義する。

(II)皮膚表面の移動距離 皮膚表面の各マーカーの空 間座標は,筋活動の解析区間と同じ時刻を記録した画像か ら算出する。ただし画像は50 Hzで記録を行うため,筋活 動の解析区間の真ん中の時刻にあたる画像を解析対象画像 とする。以下,口唇の赤い部分である口唇紅部の縁と筋線 維の方向に着目した2つの解析を行う。

(6)

Fig. 6. The mean and S.D. values of %EMG at all muscles examined for the advanced () and amateur () groups.

(A)口唇紅部の縁に着目した皮膚表面の移動距離 口唇紅部の縁に着目して,1stF3画像,F4画像,2ndF3 画像それぞれにおける点1と点2の距離(No.1 - No.2),点 2と点3の距離(No.2 - No.3),点3と点4の距離(No.3 - No.4) ,点4と点5の距離(No.4 - No.5)をそれぞれ算 出する。

(B)筋線維の方向に着目した皮膚表面の移動距離 筋線維の方向に着目して,1stF3画像,F4画像,2ndF3 画像における上唇挙筋の距離(No.1 - No.6),大頬骨筋の距 離(No.2 - No.7),笑筋の距離(No.3 - No.8),口角下制筋 の距離(No.4 - No.9),下唇下制筋の距離(No.5 - No.10) をそれぞれ算出する。なお,参加者ごとに各筋の上に貼ら れるマーカー同士の距離は異なるため,アンブシュアを形 成し演奏する直前の無表情におけるマーカー同士の距離を 100%として各個人ごとに正規化し,演奏中のマーカー同士 の距離を百分率で表したものを%Lengthと定義する。

34〉 統計処理 表情筋の活動,皮膚表面の移動距 離のそれぞれに対して,SPSS(Version 11.5J)を用いて 統計処理を行う。

(I) 表情筋の活動 熟達度(skill)と音高(pitch)を独 立変数,筋活動を従属変数とする繰り返しのある2要因の 分散分析をそれぞれ5つの表情筋の活動に対して行う。熟達 度は熟達者群とアマチュア群の2水準,音高は1stF3,F4, 2ndF3の3水準である。

(II) 皮膚表面の移動距離 口唇紅部の縁に着目して, No.1 - No.2,No.2 - No.3,No.3 - No.4,No.4 - No.5の それぞれに対して熟達度と音高を独立変数,距離を従属変 数とする繰り返しのある2要因の分散分析を行う。熟達度 は熟達者群とアマチュア群の2水準,音高は1stF3,F4,

2ndF3の3水準である。また同様に筋線維の方向に着目し

て,No.1 - No.6,No.2 - No.7,No.3 - No.8,No.4 - No.9, No.5 - No.10のそれぞれに対して,熟達度と音高を独立変 数,距離を従属変数とする繰り返しのある2要因の分散分 析を行う。熟達度は熟達者群とアマチュア群の2水準,音 高は1stF3,F4,2ndF3の3水準である。

35〉 結 果 全参加者に対し,本実験の目的と 手順についてあらかじめ書面で説明し,十分な理解の上で 参加の同意を得た。考案した音量計固定器は,多少の重さ はあるものの演奏には支障はないと参加者から評価を受け た。Fig. 6は5つの筋の%EMGの2群の平均値と標準偏 差,Fig. 7は隣り合った2点の%Lengthの2群の平均値と 標準偏差,Fig. 8は5つの筋の%Lengthの2群の平均値と 標準偏差を示している。なおFig. 6∼Fig. 8において,▽ はアマチュア群の平均値,●は熟達者群の平均値を示して いる。

(I) 表情筋の活動 上唇挙筋,大頬骨筋,笑筋はF4 の演奏時にアマチュア群が熟達者群よりも高い筋活動を示

した(Fig. 6)。熟達度と音高を独立変数とする繰り返しの

ある2要因の分散分析の結果,すべての筋でMauchlyの 球面性検定が有意であったため,Greenhouse-Geisserテス トを行った。その結果,上唇挙筋(F(1.31, 26.13)=22.45, p < .001),大頬骨筋(F(1.54, 30.80)=13.26, p < .01), 笑筋(F(1.23, 24.52)=4.09, p < .05)で熟達度と音高の交 互作用が認められた。さらに単純主効果の検定を行ったと ころ,F4の演奏時の筋活動に関して,上唇挙筋(F(0.65, 13.06)=8.38, p < .05)と大頬骨筋(F(0.77, 15.40)=5.80, p < .05)にアマチュア群と熟達者群の間で有意な差が認め られた。また口角下制筋と下唇下制筋で音高の主効果が認め られた(p < .01)。さらにBonferroni法を用いて多重比較 を行ったところ,口角下制筋と下唇下制筋は1stF3,2ndF3

(7)

Fig. 7. The mean and S.D. values of %Length between two adjacent points examined for the advanced () and amateur () groups.

Fig. 8. The mean and S.D. values of %Length at all muscles examined for the advanced () and amateur () groups.

を演奏した際の筋活動よりも,F4を演奏した際の筋活動が 有意に大きかった(p < .01)。

(II) 皮膚表面の移動距離 キャリブレーション誤差 は,x軸方向に0.28 mm,y軸方向に0.14 mm,z軸方向 に0.31 mmとなった。

(A)口唇紅部の縁に着目した皮膚表面の移動距離 No.4 - No.5は,2ndF3でアマチュア群が熟達者群より も高い値を示した(Fig. 7)。熟達度と音高を独立変数とす る繰り返しのある2要因の分散分析の結果,No.4 - No.5

に熟達度と音高の交互作用が認められた(F(2, 40)=4.21, p < .05)。さらに単純主効果の検定を行ったところ,2ndF3 演奏時のNo.4 - No.5にアマチュア群と熟達者群の間で有意 な差が認められた(F(1, 20)=6.12 , p < .05)。他の筋では 熟達度,音高の主効果および交互作用は認められなかった。

(B)筋線維の方向に着目した皮膚表面の移動距離 下唇下制筋の距離(No.5 - No.10)は,音高に関わらず アマチュア群が熟達者群よりも短い距離を示した(Fig. 8)。 熟達度と音高を独立変数とする繰り返しのある2要因の

(8)

分散分析の結果,下唇下制筋の距離で熟達度の主効果が認 められた(F(1, 20)=6.45, p < .05)。また大頬骨筋(F(2, 40)=4.08, p < .05)と笑筋(F(2, 40)=13.33, p < .01)で 音高の主効果が認められた。さらにBonferroni法を用いて 多重比較を行ったところ,笑筋では1stF3と2ndF3を演 奏したときに比べて,F4を演奏したときの%Lengthの値 は有意に小さかった(p < .01)。

36〉 練習指標の提案 筋活動の結果から,F4演奏 時のアマチュア群の上唇挙筋の筋活動は,熟達者群の筋活 動に比べて高かった。また動作解析の結果から上唇挙筋の 距離(No.1 - No.6)は,アマチュア群と熟達者群に差がみ られなかった。このことからアマチュア群は熟達者群に比 べて,上唇挙筋の筋長を変化させずに筋張力を大きく変化 させることで上唇の張力を変化させ,音高の制御を行うこ とが示唆された。またF4演奏時のアマチュア群の大頬骨筋 と笑筋の筋活動は,熟達者群に比べて大きかった。動作解 析の結果から,両群とも笑筋の距離(No.3 - No.8)はF4 の演奏時に比べて1stF3,2ndF3の演奏時は短かった。こ のことからアマチュア群は熟達者群に比べて,笑筋を大き く活動させて口角を横へ引っ張り,振動する唇の質量を変 化させて音高の調節を行うことが示唆された。また大頬骨 筋も口角に付着していることから,笑筋と協同的に活動し て振動する唇の質量を変化させたと考えられる。2ndF3演 奏時の点4と点5の距離(No.4 - No.5)は,アマチュア群 は熟達者群に比べて長かった。口角下制筋と下唇下制筋の 筋活動に群間の違いはみられず,上唇挙筋と大頬骨筋と笑 筋の活動に違いがみられた。このことからアマチュア群で は上唇挙筋と大頬骨筋と笑筋の活動によって口角全体が引 き上げられ唇の形状に変化が生じ,2ndF3になって点4と 点5に熟達者群との距離の差が現れたと考えられる。

これまでの考察から,熟達者群は練習によって演奏中の アンブシュアの形状を一定の状態に保つことができる能力 を獲得したと考えられる。さらにアマチュア群は熟達者群 に比べて,頬に存在する上唇挙筋と大頬骨筋と笑筋の活動 が大きいため,点4と点5の配置が大きく変化したと考え られる。また下唇下制筋の距離(No.5 - No.10)にアマチュ ア群と熟達者群に違いが認められ,すべての音高に対して アマチュア群は熟達者群に比べて下唇下制筋の距離は短かっ た。このことからオクターブ課題において皮膚表面の点4 と点5,点5と点10の間の距離を調べることで,金管楽器 演奏の熟達度の評価が可能であると考えられる。さらにこ の3点を用いて演奏中のアンブシュアの形状を一定の状態 に保つように練習を行うことで,金管楽器演奏の上達につ ながると考えられる。なお下唇下制筋の皮膚上の距離の変 化を視覚的に追いやすくするため,筋の線維方向を考慮し て点5と点10の延長上に新たな点を追加する。延長上に 加える新たな点は,下唇下制筋の起始点にあたる位置とす る。以上より,点4,点5,点10に下唇下制筋の起始点を 加えた合計4点を上達に向けた練習に有効な指標として検 討する。

4. 提案した練習指標の評価実験

本章では,3章で提案した指標が実際の練習において有効 に利用される可能性を検討するための実験に関して,実験 の設定,実験システムの準備,実験の方法と結果を述べる。

41〉 実験の設定 提案した練習指標の上達に向け た有効性を確認するために,アマチュア群を対象として提 案指標が練習で利用可能かどうかを確認する。実際にオク ターブ課題を演奏してもらい,提案指標を参加者が利用で きる場を設定する。そして演奏終了後に提案指標に関して オクターブ課題演奏時の変化を見ることにより,自身の課 題に気づくことや,その気づきに基づき練習に反映するこ とが可能かどうかを確認する。本実験では,実験参加者が 主観的にどのように感じるかを確認するために,質問紙を 利用する。まず,金管楽器演奏におけるアンブシュアの位 置づけに関する実験参加者の意識を確認するために,実験 参加者が演奏や練習に関連してアンブシュアをどのように 捉えているかを予め尋ねる(事前アンケート)。そして,提 案した練習指標に関して,その妥当性や有効性を提案指標 を利用した後に尋ねる(事後アンケート)。さらに,熟達者 が提案指標をどう捉えるかを確認するために熟達者にも同 様の実験を行い,アマチュアと比較して総合的に提案指標 の有用性を判定する。

42〉 実験システムの準備 提案した練習指標の有 効性を確認するために,立体的に演奏動作を確認できて提 案指標が演奏時にどのように変化するか(変化しないか)を 閲覧するための実験システムを作成する。実験システムは, 頭部の動きに関わらず提案指標の変化を追従することが必 要となる。また追従した指標の軌跡を閲覧し演奏者がそれ を認識できる機能を要する。演奏者には,3章で提案した 指標(4点)に関して顔面にマーカーを貼ることとする。そ して2台のカメラを用いて演奏時のアンブシュアの形状を 撮影する。3次元座標の復元にはDLT法を用いる(28) (29)。 撮影後に演奏者に演奏中の4点の軌跡(アンブシュアの形 状の変化)を閲覧してもらう。作成した実験システムの画

面をFig. 9に示す。演奏中の演奏者のアンブシュアの形状

の変化(正面,横)を動画で閲覧可能となっている。

43〉 実験の流れ 実験の流れを以下に示す。

(1) 事前アンケート

(2) 演奏(オクターブ課題)

(3) 閲覧(アンブシュアの形状の変化)(Fig. 9)

(4) 事後アンケート

事前アンケート(X01∼X07)ではアンブシュアに関連し て練習に関する内容を尋ねる。事後アンケート(Y01∼Y04) では提案した練習指標の妥当性と有効性を尋ねる。事前ア ンケートと事後アンケートの質問項目を以下に示す。回答 は,7段階評価(+3:そう思う∼-3:そう思わない)とする。

X01 (アンブシュアの重要性)「演奏において,アンブシュア (唇周辺の 状態) は重要である」

X02 (アンブシュアの振り返りの重要性)「アンブシュアを振り返ること は演奏の上達において重要である」

X03 (アンブシュアの注目点の絞り込みの必要性)「アンブシュアを振り

(9)

Fig. 9. A screenshot of the displayed emboushoure formation movie.

Fig. 10. Experimental setting.

返る際に,どこに注目するべきかを絞り込む必要がある」

X04 (アンブシュアの注目点の絞り込みの可能性)「アンブシュアを振り 返る際に,どこに注目するべきかを絞り込むことができる」

X05 (アンブシュアの注目点の絞り込みの実践の有効性)「上記で答えて いただいたことをすることで,どこに注目するべきかを絞り込むことがで きる」

X06 (アンブシュアの指針の把握の必要性)「アンブシュアを振り返る際 に,自身の動作を検討するための指針が必要である」

X07 (アンブシュアの指針の把握の可能性)「アンブシュアを振り返る際 に,自身の動作を検討するための指針を知ることができる」

Y01 (指針の妥当性)「上達に向けたアンブシュアの振り返りに関して, アンブシュアの一部を「動かさない」ということは演奏をよりよくするた めの方向性を考える指針として妥当である」

Y02 (唇下 4 点の選択の妥当性)「今回提示したマーカー点 (唇の下の部 分 4 点) は,音高変化においてポイントである点である」

Y03 (マーカー点の有効性)「今回提示されたマーカー点 (唇の下の部分 4点) に着目することで,自身のアンブシュアをどのように変更するか考 えることができる」

Y04 (マーカー点によるアンブシュアの表現の可能性)「マーカー点 (マー カーを貼り付け,移動を提示した点) の移動は,アンブシュアの動作を表 している」

44〉 実験の結果 アマチュア群20名,熟達者群4 名の計24名を対象に実験を行った。実験の様子をFig. 10 に示す。事前と事後のアンケート結果をそれぞれFig. 11,

Fig. 12に示す。事前アンケートにおいて,アマチュア群は,

アンブシュアが重要である(X01,平均2.2),アンブシュア を振り返ることが重要である(X02, 平均2.2)と回答して いる。アンブシュアを振り返る際に注目点の絞り込みがで きる(X04, 平均-0.7),指針を知ることができる(X07, 平

均-0.1)に関しては,他の項目と比べて評価値が低い。一方,

熟達者群は,アンブシュアを振り返る際に注目点の絞り込み

Fig. 11. Results of the questionnaire before the task.

Fig. 12. Results of the questionnaire after the task.

ができる(X04,平均0.5),指針を知ることができる(X07, 平均1.5)に関しては,平均値が正の値となっている。

事後アンケートにおいて,アマチュア群は,指標が妥当で ある(Y01,平均1.7),4点が妥当である(Y02,平均1.2), 4点を利用してアンブシュアの変更を考えることができる (Y03,平均1.4),4点はアンブシュアの動作を表している (Y04,平均1.9)と回答している。一方,熟達者群4名の Y02(4点が妥当である)に対する回答は,3,3,1,0となっ た。3名は4点の練習指標の有効性に関して妥当であると 回答理由に記し,0と回答した1名は唇下の部分は重要で あると記した。

アマチュア群によるアンブシュアに対する回答は,経験 の不足などから曖昧である部分があることが予想される。 ここで,その他の回答の平均値と異なり,X04,X07に対 する回答の平均値が0より小さいことより,アンブシュア の注目点を絞り込むこと,そのための指針を知ることに関 して「できない」と回答している傾向が見受けられる。こ れより,熟達度の不足はあるものの,アンブシュアの位置 づけに関して,自分なりの判断をしている様子が窺える。 一方,熟達者群は,実験の様子とアンケートへの回答結果

(10)

から,ホルン演奏に関して包括的かつ詳細に検討している 様子が窺えた。さらに,それぞれの演奏へのこだわりや音 楽に対する方針を持っている様子が窺えた。

以上より,アマチュア群のアンケート結果から提案指標 を利用できる可能性が示唆された。また,熟達者群の評価 により,唇下の4点に着目することの練習指標としての可 能性が示唆された。

5. 「アンブシュアの形状を一定の状態に保つ」とい

うことの練習指標の可能性

バイオメカニクスの手法を用いて練習指標の抽出を行っ た実験と,その抽出された練習指標を評価した実験から, オクターブ課題において練習指標の有効性が確認された。 これまでクラブ活動の練習で生徒がアンブシュアの改善を 行うには,クラブ活動の顧問や上級生またはプロの奏者な どによるアンブシュアの形状に対する直接的な指導方法と, 鏡を用いて手本となるアンブシュアの形状をまねる方法が あった。これらの方法に加えて,アンブシュアの改善に向 けた新たな方法として本研究で提案した練習指標に着目す るシステムを利用する方法が期待される。

本研究で使用したシステムは,カメラを2台とパソコン 1台で操作できることから,一人で練習に取り組むことが可 能となる。システムを利用することで,クラブ活動の顧問 や上級生またはプロの奏者の指導による時間が軽減される と考えられる。また自分の都合の良い時間に合わせてシス テムを利用できることから,個人の練習時間を有効に活用 できる。さらに練習指標に着目して軌跡を追うことは,鏡 を用いた方法に比べてアンブシュアの形状の注目点の絞り 込みが容易であることから,アマチュアが利用しやすいと 考えられる。またこの練習指標は上達に対する気づきを与 えられる可能性があり,システムを利用した奏者が日常の 練習で積極的にアンブシュアの形状の改善に取り組み,そ の結果パフォーマンスが向上してより楽しく演奏活動を行 えることが期待される。以上のことから本研究で使用した 練習指標に着目するシステムを利用する方法は,時間が軽 減される点,絞込みが容易な点,気づきを与えられる点,上 達につながる可能性のある点から,アンブシュアの改善に 向けた新しい練習方法の1つとなり得る。

また本研究では金管楽器演奏の練習指標の提案に向けて, 従来から練習者の間では暗黙的に伝承されている「アンブ シュアの形状を一定の状態に保つ」という点に着目した。そ して,バイオメカニクスの手法を用いて練習指標を抽出し, その練習指標を実際にアマチュアが使用して有用性を確認 した。本研究で行った金管楽器演奏の練習指標の提案に向 けたアプローチは,他の楽器演奏の練習指標の提案,さら にスポーツなどの他分野の練習指標の提案に向けて利用す ることが期待される。具体的にはそれぞれの楽器やスポー ツの中で暗黙的に伝承されているにも関わらず実態がつか みにくいとされる,いわゆる「コツ」に着目する。そして, バイオメカニクスの手法を用いて科学的に指標の定量化を

試み,熟達者とアマチュアの差を抽出して個々の練習者に 気づきにつながる練習指標の提示を行う。これより,暗黙 的な熟達の知が科学的知見につながることが期待される。 さらに本研究で対象とした口唇周りの動きと表情筋の活動 の関係は,楽器演奏のみならず外国語の発音練習への応用 などが考えられる。

6. おわりに

本研究では,金管楽器演奏動作の上達に向けて,練習指 標を提案するために「アンブシュアの形状を一定の状態に 保つ」という点に着目して実験を行った。本研究ではアン ブシュアを「金管楽器演奏時に整えられる口唇周りの形状 および表情筋の活動状態」と定義し,特に「アンブシュアの 形状」と記した場合は,「金管楽器演奏時に整えられる口唇 周りの形状」のみを表すこととした。アンブシュアの形状 を一定の状態に保つことが重要であることは,経験論的に は語られても,どこにどのように注意を向けるべきかを示 す適切な練習指標となる知見は見出されていなかった。本 研究では,バイオメカニクスの手法を用いてフレンチホル ン演奏時のアンブシュアの形状および筋活動を同時に計測 し,練習指標となりうる4つの点を含む部位を抽出した。 抽出した部位が実際に練習指標となるかどうかを確認する ために,熟達者とアマチュアを対象として練習指標の有効 性を確認するための実験を行った。結果として,提案した 練習指標はアンブシュアを振り返るための有効な指標とな る可能性が示された。

今後の課題として,提案した練習指標を用いて,実際の 練習に活用できるトレーニングシステムを開発することが 考えられる。また,今回の分析方法を外国語学習の発音練 習などに適用し,自身の口唇周りの動きを適切に振り返る 指標を抽出できる可能性が期待される。

文 献

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伊 藤 京 子 (非会員) 1999 年 3 月京都大学工学部電気電子 工学科卒業。2004 年 3 月同大学大学院エネルギー 科学研究科博士課程修了。同年 4 月大阪大学大 学院基礎工学研究科助手。2005 年 4 月より大阪 大学コミュニケーションデザイン・センター助手

(基礎工学研究科兼任)。現在,同助教。ヒューマ ンインタフェースなどの研究に従事。博士(エネ ルギー科学)。

平 野 剛 (非会員) 2009 年 3 月東京大学大学院総合文化 研究科広域科学専攻生命環境科学系修士課程修了。 同年 4 月大阪大学大学院医学系研究科予防環境医 学専攻運動制御学講座博士課程に進学。現在,同 博士課程学生。ヒトの随意運動の神経制御特性に 関する研究に従事。学術修士。

能 任 一 文 (非会員) 2008 年 3 月大阪大学基礎工学部シス テム科学科卒業。2010 年 3 月同大学大学院修士課 程修了。2010 年 4 月より富士通株式会社に勤務。

西 田 正 吾 (フェロー) 1974 年 3 月東京大学工学部電子工 学科卒業。1976 年 3 月同大学大学院修士課程修 了。同年 4 月三菱電機 (株) 入社。1995 年 4 月大 阪大学基礎工学部システム工学科教授。その後, 大阪大学大学院基礎工学研究科システム創成専攻 教授。システム技術,ヒューマンインタフェース 技術,メディア技術の研究に従事。工学博士。

大 築 立 志 (非会員) 1981 年 9 月東京大学大学院博士課程 終了。奈良女子大学講師,助教授を経て,1994 年 4 月東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻 教授。現在,東京大学名誉教授。ヒトの随意運動 の神経制御特性に関する研究に従事。教育学博士。

Fig. 1. The embouchure formation for the brass in- in-strument (French horn) player.
Fig. 4. The position of the EMG electrodes and typical EMG signals.
Fig. 6. The mean and S.D. values of %EMG at all muscles examined for the advanced (●) and amateur (▽) groups.
Fig. 7. The mean and S.D. values of %Length between two adjacent points examined for the advanced (●) and amateur (▽) groups.
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参照

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