『源氏物語 幻』 熊倉千之文学講座
(要旨)
I
テクスト『源氏物語』 「まぼろし」巻 (小学館日本古典文学全集旧版
1974第四巻)
A 動詞・助動詞の「イマ・ココ」1 動詞活用の種類と使われている活用形を洗い出すこと:
(例)見-たまふ→見 [上1段活用動詞「見る」の連用形]→上一段活用動詞の特徴は? その 共通的な意味は?
2 助動詞の機能をとらえること:
(例)
a たまふ[尊敬の助動詞(四段活用形)「給ふ」の連体形]→最終音節に「ふ」がつく動詞・ 助動詞の特徴は? その共通的な意味
b まどひたるやう→「たり」(テ+アリ)[完了(助動詞「ツ」の連用形)した事象の主 体が話者(語り手)の内に「ある」]→「イマ・ココ」性
c 改まるべくもあらぬに
ア べく: (「改まる」)連体形接続(推量)の助動詞「べし」の連用形→「べく+(も) あり」
イ ぬ: (「あら」)未然形接続(否定)の助動詞「ず」の連体形→「あら+ぬ(「イマ・ ココ」のありさまなの)に……」
B 名詞の意味
1 「春の光」→「光」と「光源氏」との関連、「くれまどひ」との関連→春の初め(一年の夜 明け)なのに、もう暮れ惑っている!
2 「春」に始まる一年のテーマを書き出しの一文で暗示する、語りのすばらしさ 3 春(7)夏(6)秋(6)冬(7)という和歌の並べ方(構造)とその意味
II
「きりつぼ」巻
vs.「まぼろし」巻
A 「きりつぼ」巻の歌(9首)との照応関係1「かぎりとて別るる道の悲しきにいかまほしきは命なりけり」(第1:光源氏母更衣) 2「たづねゆくまぼろしもがなつてにても魂のありかをそこと知るべく」(第6:父帝) 3「いときなきはつもとゆひに長き世をちぎる心は結びこめつや」(第8:父帝) 4「結びつる心も深きもとゆひに濃きむらさきの色しあせずは」(第9:葵の父左大臣)
B 「まぼろし」というキーワード
1「もの思ふと過ぐる月日も知らぬ間に年もわが世もけふや尽きぬる」(第26:光源氏) 2「大空をかよふまぼろし夢にだに見えこぬ魂の行く方たづねよ」(第20:光源氏) 3「春までのいのちも知らず雪のうちに色づく梅をけふかざしてん」(第24:光源氏)) 4「千代の春見るべき花といのりおきてわが身ぞ雪とともにふりぬる」(第25:導師)
III
「まぼろし」歌の英訳
1「たづねゆく……」:a And will no wizard search her out for me,
That even he may tell me wherre she is. (E.G.Seidensticker訳) b "O that I might find a wizard to seek her out, that I might then know
at least from distant report where her dear spirit has gone." (Royall Tyler訳) 2「大空を……」:
a O wizard flying off through boundless heavens,
Find her whom I see not even in my dreams. (Seidensticker) b "O seer who roams the vastness of the heavens, go and find for me a soul I now seek in vain even when I chance to dream." (Tyler)
c Maître d'illusion
qui dans le ciel te déplaces va-t'en rechercher
l'âme qui en rêve même
plus jamais ne m'apparaît (René Sieffert)