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構造改革における規制改革・民営化

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構造改革における規制改革・民営化

江藤勝

要 旨

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1

はじめに

本書は,「バブルの発生・崩壊からデフレ克服までの日本経済」における, 構造問題を対象として分析することになっているが,本稿においては,その なかの「規制改革・民営化」の総論的部分を取り扱う.さらに,本稿で取り 扱う,第 2 節以降の具体的な論題は,以下のとおりである.第 2 節では, 「規制改革・民営化の開始および構造改革を目的とするようになった,経 緯・背景等」,および「構造改革と規制改革・民営化との関係」である.第 3 節では,80 年代から実施された「規制改革・民営化の,最近に至るまでの 手続き・方法・対象分野・進捗実態等の概略と,それらの特徴等」である. 第 4 節では,「規制改革・民営化の実施により生じたとされる,経済的成果 の主要内容」である.第 5 節では,「規制改革・民営化の実施により発生し たとされる諸問題」である.第 6 節では,以上を踏まえて,「結論」として, 「これまでの日本の規制改革・民営化の進捗度・目的達成度・生じた問題」, 「日本の構造改革への貢献度」および「今後の課題等」である(なお,本稿 で対象とする「民営化」には,単に国有企業の民営化のみならず,民間委託 や,その他の民間活用・利用等の形態をとるものも含めている).

2

規制改革・民営化の開始および構造改革を目的とするように

なった経緯・背景等と,構造改革と規制改革・民営化との関係

2.1 規制改革・民営化の開始および構造改革を目的とするようになっ た経緯・背景等

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油危機後の成長率屈折,財政赤字拡大等国内経済の諸問題が発生し,他方で, 米国をはじめとする欧米諸国と貿易・経済摩擦問題が深刻化し,規制の緩和 や国鉄等の民営化や民活事業開始,市場開放の促進等により,国内・国際両 面で,これら諸問題への対応を図る必要に迫られた.このため,「構造調整 の指針」を示した「前川レポート」の作成や,竹下内閣下で初の総合的・体 系的な「公的規制の緩和に関する答申」が作成された.その後,細川政権に よる規制緩和の理念の整理や枠組の設定を経て,村山政権下の 95 年から, 「規制緩和推進計画」の作成・実施による,体系的・制度的・継続的な規制 改革が促進されるようになり,現在に至っている.しかしながら,97 年ご ろまでの「規制緩和推進計画」等における「目的」とされたのは,「民間活 力の助長」,「経済摩擦対策」,「内外価格差の是正による国民生活への利益還 元」,「国際的調和の促進」,「新規産業の拡大」等であった.

もっとも,国際的な視点からすると,欧米先進国においては 60 年代ごろ までは,政府・公共部門の拡大による福祉国家の建設を行い,規制や統制も 戦後の復興・経済発展に寄与したが,70 年代に入ると,低成長経済・イン フレ高進・生産性低下・失業増大・財政赤字拡大・国際収支悪化等の経済成 果の不振が顕著となった.規制自体も,規制をめぐる既得権の発生・規制コ ストの増大・分配面での不公正促進等が批判されるようになった.マイクロ ウェーブ・余熱発電・リース産業拡大等の技術革新やビジネス・モデルの変 化,さらには,コンテスタビリティー理論やプリンシパル・エージェンシー 理論の登場や,規制・統制から自由・競争重視への政策思想の変化もあり, 規制緩和・撤廃や民営化が,停滞にあった経済社会を抜本的,構造的に克服 するものと位置づけられるようになった.そして,フォード,カーター, レーガンの米国,サッチャーの英国等で,70 年代から 80 年代初めにかけて これらが先進的に実施されるようになった.この大きな変化が,当然日本に も直接・間接的に影響し,既述の 80 年代からの規制改革・民営化の開始の 背景にあったことは,否定できない事実である.

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ティション」,および IT 革命下のヒト・モノ・カネ・情報の地球規模での 移動の開始(グローバリゼーションの進行),開発途上国の追上げ等,世界 的な政治・経済環境の変化の意味を正確に理解できず,必要な構造改革の着 手に遅れをとることになった.90 年代後半以降になると,上記開発途上国 の追い上げに加えて,円高による国内産業の空洞化,財政赤字拡大によるマ クロ政策の手詰り・不良債権問題の深刻化,少子高齢化社会の進行にともな う 98 年からの労働力供給の減少,高度成長期以降経験したことのない 5% 台失業率の継続,倒産の急増等,日本経済の危機ともいえる現象が生じた. 一方で,依然規制に安住する鉄のトライアングルの危機対応への無能力化と, 規制官庁スキャンダルの多発等が見られたため,政府の規制・介入政策,お よび公共部門・行政の全分野の抜本的・構造的見直しを行わざるをえないと ころまで追い詰められたわけである.

そして,97 年に作成された,第 2 次「規制緩和推進計画」の,98 年「再 改定版」以降,「規制緩和推進計画」の「目的」において規制改革・民営化 の促進は,「国際的に開かれ,自己責任原則と市場原理に立つ,自由で公平 な社会へ変革する」重要な手段とされるに至った.さらに,上記のような 「社会変革」を実現するための「構造改革」を推進する重要手段として規制 改革・民営化を位置づけ,これを一段と強力に促進したのは,01 年からの 小泉政権であった(江藤[2002]).

2.2 構造改革と規制改革・民営化との関係 構造改革が必要とされるに至った背景・理由

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大による福祉国家の建設を行ってきたが,70 年代には低成長・インフレ高 進・失業増大等の経済成果の不振に直面し,市場メカニズムおよび民間の自 由な活動を重視し,かつ,規制改革・民営化の実施や競争強化を図る方向へ, 転換を始めていた.日本経済は,80 年代初めごろまでに福祉部門の体制整 備や生活水準指標の大半を含めて,目標としていた欧米先進国経済レベルに 到達していたと見られる.しかし,到達した先の欧米先進国経済は,福祉国 家建設までの成長・発展モデルの基軸を,市場メカニズム・民間主体・競争 重視に転換しており,依然として政府主導・公共部門の介入度合が大きい, 日本型成長・発展モデルと衝突することになった.欧米先進国側は,日本に その是正を要求することになり,その典型が日米経済・貿易摩擦の発生であ り,その解決の場としての「日米構造協議」の設定であった.

また,80 年代終わりから 90 年代初めにかけて,ベルリンの壁崩壊後のソ 連をはじめとする旧社会主義計画経済諸国の市場経済国への転換と,世界市 場への新規参入が生じ,これに開発途上国の一段の発展が加わって,日本経 済は欧米先進国との競争のみならず,文字どおり世界大の「メガ・コンペ ティション」に直面することになった.そしてこの「大競争」は,日本・海 外諸国双方における新産業革命の産物ともいうべき,IT を利用した人・モ ノ・カネ・情報の世界大での移動と取引が拡大するなか,すなわち「グロー バリゼーション」と呼ばれる新環境のなかで進行することになった.さらに, 90 年代に日本経済社会の内的環境・条件の変化としてクローズアップされ てきたのは,「少子高齢化社会の進行」であった.この環境・条件の変化は, 経済成長・発展のための重要な要素である労働力人口の 98 年からの減少を もたらし,他方で,高齢者人口増大による,年金・医療・介護制度の維持可 能性に対する不安を高め,対応を急がせることになった.

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型から,グローバリゼーション進行下における世界市場のなかで,IT 等新 技術の活用により,金融や各種サービス分野においても,新産業・新企業の 創出によって,世界レベルでの競争力を有する「大競争」対応可能型への転 換が必要となっていたこと,④人口・若年労働力増加を前提とした「企業経 営」・「雇用・労働市場」・「社会保障体制」から,少子高齢化・人口減少社会 に適応可能なそれらへの転換が急務となっていたこと,である.これらが, 日本経済社会の抜本的「構造改革」を不可避のものとした,環境・条件の変 化である.

構造改革の対象・内容

対象・内容は,日本経済社会そのものの構造改革であり,換言すれば, 「日本経済社会システム」全体の構造改革である.そして,より具体的な構 造改革の対象・内容は,全体としての「日本経済社会システム」を構成する 「部分システム」,すなわち,各種の「サブ・システム」であり,それらは通 常,「企業」・「金融」・「雇用・労働」・「教育」・「社会保障」・「政府・行政・ 公共部門」・「地域開発」・「司法」・「教育」システム等である.このような, 「日本経済社会システム」を構成する各「サブ・システム」は,80 年代初め ごろまでは,それまでの内外の環境・条件のもと,良好な機能を発揮したと 見られる.そして,これら各システムの内容を構成し,かつ,機能させてい た,制度・組織・慣行・社会的規範・ルール等といわれているものを例示す れば以下のとおりである.

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卒等という形式的な資格形成が目的となり,また,教育・試験は応用力・独 創性よりも暗記力を重視」,⑤「地域開発システム」においては,「地方分権 的でない中央集権的開発計画の作成,規模の経済性から見た都市機能・産業 集積の形成よりも分散型開発重視,ソフト・インフラ整備よりハードな公共 事業中心の開発」等である.

さらに,⑥「政府・行政・公共部門システム」においては,「民間の自由 な競争と市場メカニズムを基本的に否定する,各業界所管省庁ごとの規制法 令等に基づく縦割り行政,縦割り行政のなかでの政・官・業のトライアング ル形成による既得権確保・再分配,所管省庁ごとの特殊法人・認可法人等設 置による官僚の天下り先確保と業界監督・業界利益調整の実施,補助金支給 や地方支分局等を通じた中央集権下の地方自治制度,基本的に当初の試験区 分による,能力や成果に基づかない人事制度」等である.

さらにこれら「サブ・システム」を機能させた上記の制度・組織・慣行・ 社会的規範・ルール等は,各「サブ・システム」間で「相互補完性」をもつ ことが指摘されており,このため,1 つの「サブ・システム」が変更される ためには,他の関係する「サブ・システム」のそれらの変更が同時に進行す る必要がある.そのため,変化に時間も要することになる.また,上記制度 等は,日本の歴史のなかで形成されてきた事実から歴史的な「経路依存性」 をもっているため,それらを変化させるために外国の制度を導入しても,外 国の制度がそのままで十分機能するとはかぎらず,また,それまでの日本的 制度も何らかの形で残存する可能性があるとされている(小峰[2006],鶴 [2006],寺西[2003],吉川[2003]).

「構造改革」と「規制改革・民営化」の関係

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革」の具体的対象となる各「サブ・システム」,すなわち,「企業」・「金 融」・「雇用・労働」・「地域開発」・「政府・行政・公共部門」・「司法」等の各 分野の改革すべき事項・内容が,何らかの形で含まれているからである.

そして,「規制改革・民営化」の実施がもたらす,構造改革の期待される 効果は,理論的あるいは政策的に,「経済面で競争導入・強化による価格低 下,生産性上昇,技術革新促進,新製品サービスの提供,産業間資源配分の 効率化を通じたマクロ的成果の改善,成長率上昇に帰結し」(植草[1991]), さらに,「社会面では,社会的安全面を加えた最適社会規制が行われるよう になる」(八代[2000])とされている.もっとも,民間主体・市場メカニズム と競争重視にウェイトがおかれすぎる構造改革となると,分配面の不公正や 環境破壊等の外部不経済の発生も考えられるため,それら問題に対応するた めの制度設計やルール設定等が必要となる.

3

1980 年代から実施された規制改革・民営化の,最近に至るま

での手続き・方法・対象分野・進捗実態等の概略と,それらの

特徴等

3.1 1980 年代から 1990 年代半ばまでの進捗実態

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を設置し,このもとで「規制緩和推進計画」を策定し,規制改革・民営化を 総合的・体系的・継続的に実施していくことになった.こうして,95 年に 開始され,現在まで継続している,閣議決定である「規制緩和ないし改革推 進計画」が 3 年ごとに作成され,1 年ごとの改定・再改定が行われた後,原 則的に,新規名称での新担当組織のもと,次の計画作成が行われ,引き継が れていく方式がスタートした.

3.2 1995 年以降の推進

この推進組織の 95 年からの組織の変遷を見ると,95 年から 98 年初めま でに,2 つの「計画」作成を主導した,上記「行政改革委員会」が,98 年か ら,行政改革推進本部のもとにおかれた「規制緩和委員会」にその任務を引 き継がれた.さらにその後,省庁再編にともない,01 年に内閣府本体に首 相の諮問機関として設置された「総合規制改革会議」のもとで,04 年 3 月 までの,3 回目の「計画」が作成された.その後は,「規制改革・民間開放 推進会議」という新組織に衣替えし,07 年 1 月まで,4 回目の「計画」を担 当し,07 年 1 月からは,「規制改革会議」という新名称の新組織に継承され, 07 年 6 月に 5 回目の「計画」を作成し,08 年 9 月の現在に至っている.こ れらの各会議は,いずれも本委員会のもと,小委員会ないし専門委員会を設 置し,担当時期における主要規制改革等の検討課題やテーマを審議した.そ の結果は総理に答申され,これを総理が最大限尊重することにより,政府・ 関係省庁は,それらを,内容として「計画」を作成し,閣議決定されること になっている.そして,その内容は,上記のように,1 年ごとに「改訂」, 「再改訂」されている.

3.3 規制改革・民営化の対象・内容とウェイト変化,および PFI 事業 の開始等

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ほぼ各「計画」において,20 近い産業ないし分野となっている.「農林水 産」「住宅・土地,公共工事」,「情報・通信」,「流通」,「運輸」,「基準,規 格・認証」,「資格制度」,「危険物・防災・保安」,「法務」,「金融」,「教育・ 研究」,「医療・福祉」,「競争関係」,「雇用・労働」,「エネルギー」,「環境」 等がそれである.

経済的規制の改革は,主として需給調整(参入・退出)規制,価格・料金 規制,商品・サービスの内容規制,投資規制等に関するものであるが,21 世紀に入るころには,これらの規制については,「運輸」,「流通」,「金融・ 証券・保険」,「情報・通信」等の分野で,かなりの緩和・撤廃が進んだと見 られ,また,「エネルギー分野」においても,電力・ガス等の自由化が開始 されるに至り,改革が,全体的に見て後半部分に入っているといえよう.一 方,経済的規制に比べて取組みが遅れていた社会的規制分野では,「雇用・ 労働」,「住宅・土地・公共工事」,「基準・認証」,「資格・環境」,「危険物・ 保安」,「法務」などに加えて,「医療」,「保育・福祉」,「教育」,「環境」分 野等が 20 世紀末ごろから改革の中心とされ,取組みが本格化している.

さらに,85 年に民営化された NTT は,電気通信事業の参入規制等の緩 和も行われたため,競争的市場で経営を行うことになった.その後,データ 通信と移動通信分野を分離した後,99 年には,NTT 東日本・西日本および, NTT 長距離・国際電信電話会社に分離・再編された.また,広義の民営化 といえる,「公共施設等の建設,維持管理,運営等」を民間の資金,運営能 力および技術的能力を活用して行う,「PFI」事業に関する法律が 99 年に成 立し,国・地方公共団体・特殊法人が,00 年以降これを行うことになった.

3.4 21 世紀初頭の,手続上・制度上の改革導入

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3.5 「構造改革特区」創設と,「市場化テスト」導入の検討

2001 年 4 月に成立した小泉内閣下では,「総合規制改革会議」が規制改革 の推進機関となった.ここでは,すでに述べたような社会的規制分野の改革 が主要な目標とされるようになるとともに,新たに,「構造改革特区の創設」 が行われた.地方の発案による,特定地域内での株式会社による農地経営の 解禁,同会社による病院や特別養護老人ホームの経営の解禁等が行われ,規 制改革が全国レベル対応のものにとどまらず,個別地域・自治体レベルにお いても,試行的に,実施されることになった.そして,この推進は,02 年 の「構造改革特別区域法」の成立によって,同「特区推進本部」が担当し, 「地域再生本部等」との協力のもと,拡大が続いており,07 年までの認定件 数は,累計 984 件となっている.これは,サブシステムとしての「地域開発 システム」を地域の主体性に基づく規制改革の新手法で改革せんとする一例 と考えられよう.この規制改革分野の新領域への拡大と並んで,「総合規制 改革会議」は,医療・福祉・教育・農業分野などにおいて,「市場化テスト 導入」等による「官製市場」の民間開放のための見直しの方向を打ち出し, この推進を開始した.

3.6 市場化テスト導入のための,「公共サービス改革法」の制定

04 年に発足した,「規制改革・民間開放推進会議」においては,官製市場 の民間開放による「民主導の経済社会の実現」を目標として掲げた.そして, 上記分野において,対象となるモデル事業の実施や,「市場化テスト」(官民 競争入札制度)導入に向けた取組みを行い,06 年には,「公共サービス改革 法」を制定し,「小さくて効率的な政府」の実現に向けてのさらなる一歩を 踏み出した.また,「規制改革・民間開放推進会議」とは別に,この推進担 当事務局としての「公共サービス改革推進室」や入札等の審査を行う,中立 的専門機関としての「監理委員会」も設置されている.

3.7 「小さな政府創出」への取組みの強化と,格差問題への対応

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れを行うことを目的とするものになった.これは民営化実施と同様に,政府 等の専管領域が縮小し,民間事業者等の市場領域が一段と拡大することを意 味 し,「小 さ な 政 府 創 出」が 進 め ら れ る と い う こ と で あ る.い わ ゆ る 「ニュー・パブリック・マネジメント論」の実践である.それが,日本にお いても開始されることになり,文字どおり,「政府・行政・公共部門システ ム」の抜本的な「構造改革」が進行するといえよう.07 年 1 月に発足し, 08 年 9 月現在の規制改革の推進組織である,「規制改革会議」においては, これら事項のほか,格差問題に対応するための雇用の質的・量的改善や,地 域産業振興に対する阻害要因の除去,さらには,成長率引き上げのための教 育・研究の強化のための規制改革等も取り上げている.

3.8 「行政改革推進本部」による,「民営化」の推進

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ことになった.同時に,日本政策投資銀行と商工中金が完全株式会社化され, 10 年代前半までに,完全民営化されることが決定された.さらに,上記⑵ の独立行政法人となったもののなかでも,6 法人の廃止・民営化,16 法人の 6 法人への統合,および,役職員の非公務員化を行う 2 法人等が,決定され ている.そして,これらの民営化等の実施について,「規制改革会議」も, 「行政改革推進本部」と連携してこれを行うため,07 年からの「3 か年計画」

の重点事項として,「官業の改革」を掲げ,独立行政法人の事務・事業の見 直し等を進め,民営化・民間開放等を進めている.

3.9 これまでの規制改革・民営化努力により,日本の規制は 1995 年 の 4 割程度に低下

最後に,80 年代から始められ,現在まで継続している「規制改革・民営 化」により,日本の規制はどの程度緩和・撤廃されたのかを,国内で行われ た実証分析の結果で,見ておくこととする.

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4

規制改革・民営化により発生したとされる,経済的成果の主要

内容

4.1 はじめに

本稿では,これまでの規制改革・民営化から発生したとされる経済的成果 が,どのようなものであったかを取りまとめることとする.ここでは統計 的・数量的成果の把握が可能な分野・産業を取り上げ,先行研究の分析成果 に加えて,筆者のこれまでの分析結果も合わせて整理することとする.

4.2 分析の枠組み

具体的には,前節で見たこれまでの規制改革・民営化が実施された分野・ 産業のうち,理論的に経済的成果指標として考えられる,参入・退出,価 格・料金,消費者余剰,需要の変化,サービスの変化,生産性・効率性,雇 用,収益等について整理する.

参入・退出

事業者・店舗・販売所・事業所数等レベルの新規参入,あるいは参入・退 出のネット数を,大規模小売店・酒類小売・米小売・医薬品小売・揮発油販 売・貨物自動車輸送・バス輸送・タクシー輸送・電気通信・ケーブルテレ ビ・電力・ガス・銀行・証券・生損保・労働者派遣・有料職業紹介・介護・ 幼稚園・保育所・自動車指定検査場・法曹人口・ビール醸造所・市場開放関 連等で見ることとする.

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の大口小売りへの参入自由化後,25 社参入,労働者派遣および有料職業紹 介所は,94 年度から 12 年間で約 1 万 9,000 および約 7,100 社増加し,総数 が約 3 万 1,000 社および約 1 万社となっている.自動車指定検査場数は,95 年度から 9 年間で,約 5,900 増となっている.

金融分野については,93 年以降,銀行・信託銀行の証券への参入と,銀 行・証券の信託銀行への参入が,96 年までに,それぞれ,17 社および 16 社 生じ,また,地銀本体の信託参入は 17 行,同信託業務参入は 164 行,さら に,生・損保間では,6 社および 11 社が相互参入した.その後,98 年のフ リー・フエアー・グローバルを原則とする「金融ビッグバン」の開始および 不良債権問題と長期景気停滞下での倒産・合併等を経て集約化が進み,主要 銀行の本体の数は,99 年度の 13 行から 06 年度の 3 グループ 9 行に減少し, 地銀も以前の 200 行近い数から 06 年度の 111 行に減少した.しかし,その 後の地銀等の信託代理業務を含む信託への参入は急増し,07 年には 852 社 となっている.証券会社については,96 年以降内外からの参入が増加し, 98 年には 294 社,07 年には 313 社までに増加している.生・損保会社につ いては,海外からの参入も含めて,00 年度に前者は 42 社,後者は 54 社に 増加した後,07 年半ばには,39 社および 42 社とやや減少している.

法曹人口の増加を目標として,98 年に緩和された司法試験合格者数は, 99 年以降約 1,000 人の目標が掲げられていたが,02,03 年には 1,100 人台 を記録した.さらに新司法試験制度が発足した 06 年度には,1,500 人台に 増加している.

介護保険法による訪問介護への民間参入により,事業者は,01 年の約 1 万 1,000 から,06 年の約 2 万 7,000 へと,1 万 6,000 増加している.幼稚 園・保育所関係については,06 年度から開始され,幼保一体化事業として 発足した「認定こども園」は 07 年 4 月で 229 あり,想定された 2,000 に比 べ伸び悩んでいる.幼稚園数は,ここ 17 年間で約 1,400 減少し,07 年で, 約 1 万 3,700,保育所数は,06 年で,93 年に比較しわずか増加し,約 2 万 2,700 となっている.

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率であるが,96 年の 0.7%から 06 年の 2.5%に増加している.

他方,事業者数が減少しているものは,91 年に牛肉輸入の自由化が行わ れた食肉小売りがあり,04 年までに約 1 万 4,000 店減少し,酒類販売業は, 卸小売りを合した販売業者数で見ると,97 年度の約 19 万から,06 年の約 16 万に減少している.さらに,揮発油販売は,96 年の製品輸入自由化や 01 年の石油業法廃止後 06 年までに,1 万余減少(ただし,このなかでセルフ 式のものは,98 年のスタートから 8 年間で約 5,000 店増加),医薬品小売店 は,97 年の再販指定廃止後,99 年までに約 5 万 6,000 店増加したが,その 後急減し,04 年までに 2 万 5,000 店減少し,約 3 万 1,000 店となった.

小括 以上をまとめると,流通業の米小売・大規模小売店・電気通信・ 道路貨物・貸切バス・タクシー・労働者派遣・有料職業紹介・自動車指定検 査場・金融全体・ビール醸造・司法試験合格・介護事業では,激増ないし増 加しているといえよう.また,数的にはこれらと比較してきわめて小さいか, 微増したものとしては,航空・電力・対日直接投資があげられる.一方,規 制改革前に比較して,大きく減少したものは,食肉小売・酒類卸小売・揮発 油販売・医薬品小売があげられる.結論として,規制緩和・自由化が実施さ れた分野・産業では,ほとんどにおいて,参入数が増加しており,この意味 で,新商業機会の拡大が図られたことが確認できる(統計出所は,参考文献 該当書).

価格・料金,需要量,内外価格差および,デフレ継続に与えた影響

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2007 年版」である).

価格料金変化の実態 電気通信産業については,固定電話料金は,電電 公社民営化後から,市外・国際を中心として,21 世紀初頭までに,約 20 分 の 1 に大幅低下した.また 93 年以降の規制緩和や携帯電話機の売切り制導 入で爆発的に利用が拡大した移動体通信分野では,05 年度までに料金が約 60%下落した.運輸分野では,93 年度の割引運賃拡大や,その後の需給調 整規制の廃止等により,国内航空運賃は,92 年度以降 05 年度まで,8.8% 低下した.97 年以降プライスキャップ制やヤードスティック制を導入し, 参入・退出の規制撤廃も行われた鉄道においては,96 年度比 05 年度まで, JR 運賃は 6%の小幅な低下であったが,大手民鉄運賃は約 30%低下した. 97 年度以降,初乗り運賃等の運賃規制緩和が行われたタクシー運賃は,04 年度までに 3%と小幅低下し,参入・需給調整規制等が撤廃された貨物自動 車輸送では,91 年度から 04 年度までに,約 28%の運賃低下が生じた.エネ ルギー分野の電力においては,ヤードスティック制の導入や小売自由化開始 等により,95 年度から 05 年度までに,約 40%料金が低下し,同一制度導入 が行われた都市ガス料金も,同期間約 36%低下した.「特石法」や「石油業 法」の廃止等が行われた石油製品分野では,93 年度から 05 年度までに,ガ ソリンが約 22%,軽油が約 18%,灯油が約 31%価格低下した.金融分野に おいて,92 年以降規制緩和が開始され,99 年に完全自由化された株式売買 委託手数料は,05 年度までに約 73%低下した.米価格は需給実勢反映や流 通自由化施策により,05 年度までの 10 年間で約 18%低下した.酒類につい ては,人口や距離の需給調整基準の緩和が行われ,04 年度までの 13 年間で ビール類が約 12%,清酒が約 9%,果実酒が 14%と,それぞれ低下した. 再販指定の廃止により,05 年度までの 9 年間で,化粧品は約 10%,医薬品 は約 12%の価格低下を見ている.

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ルギー分野では,電力・ガスが 94 年度からの 11 年間で約 19%および約 25%増,ガソリン・軽油・灯油が,93 年度から 12 年間で,それぞれ,約 5%,約 3%,6%増加した.金融分野では,株式売買委託が 93 年度から 12 年間で約 13 倍増,飲食料品分野では,米が 94 年度から 11 年間で約 2%, ビール・果実酒がそれぞれ 91 年度から 13 年間で約 12%および 22%増加し た(ただし,既述のように,清酒はこの間に約 2%減少).再販指定商品で は,化粧品・医薬品が 96 年度から 9 年間でそれぞれ,約 5%,約 12%増加 している.そして,全体から見ると,移動体通信と株式売買委託における需 要拡大がきわめて大きかった.

内外価格差への影響 対米格差を考える場合,これは 80 年代半ばから 90 年代半ばまでの円高が基本的に大きな要因であった.内閣府の物価レ ポートによれば 95 年の 1.59 倍をピークに,90 年代後半以降の円安と日本 のデフレの継続により,98 年以後,基調的に格差は縮小し,07 年度の「年 次経済財政報告」は,06 年度には,その解消に近づいたとしている.これ には,日本の CPI 低下,デフレ長期継続による購買力平価の低下,日本の 単位労働コストの低下等が寄与したと見られる.そして次に見るように,規 制改革による物価低下も一因として寄与している.

バブル崩壊後のデフレ長期継続と規制改革による物価低下の関係 そこで, バブル崩壊後 90 年代半ばから約 10 年間に及ぶ基調的な消費者物価の小幅下 落に,これまで見た,継続的な規制改革関連分野の商品サービス価格の低下 が,どのように影響を与えたかを見ることにする.まず,90 年代以降の生 鮮食料品を除いた消費者物価指数の動向を見ると,バブル崩壊後の 92 年ご ろから,対前年同月比で,上昇率が 3%台半ばから低下が始まり,94 年ごろ から 96 年終わりごろまでは,0%台から 1%台の下落となった.その後一時 的な景気回復と消費税率の引き上げの影響で,97 年前半にかけてプラスの 上昇率を示したものの,97 年後半から再びマイナスを記録し,基本的に資 源価格等の上昇が始まる 07 年度まで,マイナスないし横ばい基調を脱却で きなかった.この間の規制改革関連品目の価格下落の CPI 品目全体の価格 変化に対する寄与度を,内閣府の 97 年と 99 年の「物価レポート」で見ると, 後者の 96 年度から 98 年度までの前年度比下落率が−1.1%,−0.7%,

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%,−0.38%寄与したとされている.これら各年の下落率を単純に平均する

と,規制改革が CPI 下落の約 3 割をもたらしたことになる.さらに,04・ 05・06 年度の『年次経済財政報告』の分析によると,規制改革が 01 年度か ら 03 年度半ばごろまでと,04 年度後半から 05 年度の消費者物価に対する 引き下げ要因となったとしている.具体的には,規制改革関連品目の消費者 物価引き下げ寄与度は,消費者物価のそれぞれ各年度間の,ほぼ 0.8%台お よび 0.2%程度の下落に対して,0.1%台および 0.2%台のマイナス要因とし て寄与したと見られる.以上から判断すると,規制改革関連品目の価格下落 は,バブル崩壊後の 90 年代半ばごろから 10 年程度のデフレの継続に対して, 全期間においてではないものの,一定のデフレ促進ないし継続要因として寄 与したと考えられる.

小括 以上を総じて見ると,規制改革関連分野・産業の価格・料金は低 下している.とくに,移動体通信・エネルギー等の低下が大きく,需要量の 伸びは,同じく移動体通信・民鉄・株式売買委託・電力やガス等のエネル ギーおよびビール・果実酒等が大きかった.また,内外価格差はほとんど解 消しており,バブル崩壊後の基調的な CPI 下落には,規制改革が一定の引 き下げ要因として寄与した.

消費者余剰等

既述の規制改革関連分野・産業の価格・料金低下と需要量の変化の推計を 利用した,内閣府の試算による計測対象最終年までの累積消費者余剰額を見 ると,以下のとおりである(計測の対象年も,既述のとおりである).

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目国民所得比率は 5.0%,同年度までの国民 1 人当たりの消費者余剰累積総 額は,14 万 4,000 円と試算している(これとは別に,実質ベースでの消費 者余剰として,電力とガスで,89 年から 96 年,96 年から 03 年に,それぞ れ 9,814 億円と 9,951 億円および 3,526 億円と 973 億円の累積があったとの 推計がある)(八田・田中[2007]).

小括 これら試算から見ると,電力,トラック,移動体通信,石油製品, 車検,酒類販売,米販売,株式売買委託,鉄道,都市ガスの順で,消費者余 剰の発生が大きかったことがわかり,最終的には,国民 1 人当たり消費者余 剰累積額として,14 万 4,000 円が配分されたといえる.

生産性・効率性

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効果が大きく,その他,農業,エネルギーでも効果が見られたとしている. これらの結果を用いて試算すると,95 02 年の間の TFP の伸びのうち,規 制改革効果によるものが,全業種平均で年率 0.39%あったとされ,全業種 の累積的な 7 年間の規制改革の TFP 伸び率に対する引き上げ効果は, 7.99%に及んだと分析している.また,そのうち非製造業の寄与が 6 割,製 造業が約 4 割であった.さらに,8 割以上規制が減った電気通信分野では, 全経済における付加価値シェアが上昇し,逆に,2 割程度しか減少しなかっ た建築業や農業のそれらは低下したことを確認している.また今後 2 年の間 に規制を半減させると,毎年 0.11%ずつ TFP が上昇し,とくに,医療・農 業では,それぞれ,年 0.12%ポイント,0.24%ポイントの上昇効果があり, とくに金融業では規制を毎年 1 割ずつ減らせば,3 年後には生産性を 0.64% ポイント上昇させ得るとの予測試算結果も示している.

小括 以上を整理すると,90 年代から計測されている TFP 生産性,効 率性等に対する規制改革効果は,規制改革が進んだ産業ほどこれが大きい. TFP 生産性の大きい伸びは,金融・保険,不動産等で見られ,効率性につ いては,エネルギー,小売で確認される.電気通信分野では,全経済におけ る付加価値シェアが上昇した.また,21 世紀に入り非製造業の方が製造業 より高い TFP 生産性の伸びを示したため,その全体の伸びにもより貢献し ており,さらに,今後は,金融・医療・農業の規制改革による TFP 引き上 げ効果が大きい.

雇用等

(23)

があったが,後者の構造失業率押し下げ効果は,90 年代前半の 0.2%から後 半の 0.3%に上昇し,しかも 90 年代を通じて効果をもったとしている.

この分析手法を利用して試算を行っている,02 年の内閣府編「構造改革 評価報告書」によると,99 年から 01 年までの,規制改革の進展による開業 にともなう雇用創出は,年間 200 万人程度あり,他方,既存事業所では,90 年代後半以降,雇用は減少したとしている.また,開業にともなう雇用増加 率は,同期間に,前者の 5.0%に対し,後者は 3.2%であったと試算してい る(ただし,廃業にともなう雇用減少率についても,前者が 4.3%,後者が, 4.1%と前者の方が大きい).以上の実証によれば,規制改革産業による 90 年代以降の雇用改善効果は生じているが,90 年代後半以降 02,03 年ごろま では,全体の雇用情勢がきわめて悪化した時期であった.そのために,集計 的分析とは別に個別産業レベルで改めて見ると,規制改革・民営化実施産業 もネットとしての雇用増加と雇用減少した産業に二分される.これらの実態 については,以下のとおりである.

まずこの期間に雇用の増加した産業数は少ない.小売業は全体として見る と,90 年代後半をピークに,その後,04 年までに約 20 万人程度減少したと 見られるが,そのなかで,規制改革関連産業で増加したものは,化粧品販売 が大きく,約 9 万 2,000 人,さらに石油販売の約 6,000 人であり,これに加 えて運輸業の貨物運送が 7 万 5,000 人増,タクシー等が 1 万 6,000 人,貸し 切りバスが 8,000 人,それぞれ増加している(合計 19 万 7,000 人増).一方, 酒,食肉,米小売では,それぞれ 16 万 5,000 人,4 万 4,000 人,4 万 2,000 人減少している(合計 25 万 1,000 人減少).さらに,上記分析で除外されて いる金融・保険分野では,銀行,信託,証券,生保,損保で,それぞれ 46 万 6,000 人,1 万 2,000,20 万 8,000 人,3 万 9,000 人減少している(合計 72 万 5,000 人減少).これらのほか,電力・ガス・鉄道・航空・乗合バス・ 電気通信・自動車整備では,それぞれ,2 万 7,000 人・1 万 3,000 人・8 万 3,000 人・4,000 人・9,000 人・9 万 9,000 人・1 万 6,000 人減少している (合計 25 万 1,000 人減少).

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とも,その後バブル崩壊後の長期停滞が終わる 02 年,03 年ごろを底に,雇 用状勢も最悪期を脱し,改善が進むことになる.これに貢献したものとして は,00 年からの規制改革を含む介護事業分野の構造改革による雇用拡大が 考えられる.事業所・企業統計調査によれば,老人施設・介護事業の従業者 数は,01 年の 51 万 4,000 人から 04 年の 61 万 8,000 人へ約 10 万人増加し た後,06 年には約 92 万人となり,01 年から約 40 万人増加している.さら に,厚労省統計による,労働者派遣事業会社の常用雇用派遣労働者数(換算 後)は,01 年度 61 万 2,000 人から,05 年度の 123 万 9,000 人へと約 63 万 人増加し,倍増した.停滞からの脱却に,これら規制改革関連の両産業が, 103 万人の雇用数増大で果した役割は大きかったと思われる.

最後に,以上の雇用のほかに賃金について簡単に述べれば,全体的に賃金 も 90 年代後半から伸びが減少し,停滞が続き,05 年ごろに改善の兆しを見 せたものの,その後も依然低迷が続いている.90 年代の規制改革関連 4 産 業の規制緩和実施後から 99 年度までの名目賃金・実質賃金の動きを分析し た著者等の結果を紹介すると(江藤ほか[2003]),名目では,改革実施後,賃 金が全産業平均や製造業平均を上回って上昇したのは,「鉄道」のみであり, 他の「道路貨物」,「旅客運送」,「保険」は,いずれもこれら平均を下回った. 実質では,4 業種すべて年平均伸び率がマイナスとなっており,いずれも上 記業種の年平均伸び率より,低下している.

(25)

商品・サービスの内容等の改善

鉄道,航空,道路運送(トラック,バス,タクシー),電気通信,米,酒, 医薬品販売,銀行,証券,保険等の商品・サービスの多様性や利便性の向上 については,多様性は,価格や各種情報開示等が豊富化,多様化するととも に,IT 利用等によるアクセス面での時間短縮等の利便性向上が広く見られ る等の評価が多い.

民営化の成果 最後に,80 年代に民営化された国鉄・電電公社・専売公 社の,民営化後の成果を整理する.05 年度の「年次経済財政報告」でこの 分析が行われている.まず,効率性,収益性について,従業員 1 人当たりの 経常利益で見ると,民営化新年度に比べ 04 年度・04 年度・02 年度において, NTT・JT・JR がそれぞれ約 8 倍・約 5.5 倍,約 3 倍となっており,1 人当 たり生産性は約 3 倍・2.5 倍・約 1.5 倍程度まで増加した.売上高は,JR・ JT はともに横ばいないし微増で推移し,NTT は 2 倍強に増加した.従業員 数は,NTT・JR は約 3 割,JT は 5 割以上減少した.さらに,3 社の市中株 式売却額は,累計で約 4 兆円・約 4 兆円・約 1 兆円に達し,財政収入拡大に 寄与した.一方,政府等保有分を除く株式総額は,資本市場のそれぞれ, 1.1%・1.2%・0.3%を占め,市場の拡大に貢献した.国内市場を独占して いた JT のシェアは,海外からの参入増加により,03 年度までに 72.9%へ 低下した.他方,国内でタバコ事業以外にも参入し,また,海外市場へも進 出している(また,同報告によれば,3 社に加え,広義の民営化事業として の「民間開放事業」において実施された,07 年の「国民年金保険料収納業 務」の「市場化テスト」の入札実施結果を見ると,これまでの経費に比べて, 民間業者がそれを行えば 6 割低下することが判明したとされている.また, 01 年度から特殊法人等から,より民間の性格をもつと考えられる独立行政 法人となったもののうち,01 年度から 03 年度までの経年変化が比較可能な 53 法人の統計で見ると,「運営交付金」はわずかに減少し,他方,01 年度か ら 04 年度までの 53 法人の「受託収入および自己収入」は増加している).

5

規制改革・民営化の実施により,発生したとされる諸問題

(26)

の整理に続いて,その実施により発生した諸問題について整理する.

5.1 分析の枠組み

規制改革は最近まで,多数の分野・産業で進行したが,ここでは,その改 革の実施が直接・間接に発生の原因となったとされている事件・事故等を取 り上げ,それらの規制改革の実施内容との関係,その問題性等について簡単 に整理する.また,民営化ケースについては,JR を取り上げることとする. さらに,具体的な事件・事故等の問題事例のうち,個別の事件・事故等につ いては,やや詳しく整理し,それ以外のものについては,基本的に分野・産 業等全体として,どのような事件・事故等の問題が発生したかを概略的に整 理する.内容は主として,これらに関する『日本経済新聞』および『朝日新 聞』の報道記事のポイントを要約・整理したものであり,これら記事は,き わめて多数に及ぶため,出所・日付等は原則省略させていただく.ただし, とくに出所を記すべきものはそれを示し,その他の資料は参考文献のなかに 入れさせていただくことをお断りしておく.

5.2 事件・事故等の問題事例 耐震偽装事件

(27)

安全基準を満たさない建築確認不可能な建築物として表面化し,購入者に多 大な損害を与えることとなった.

この事件の背景には,多数の確認件数に対する有資格者の「建築主事」や 「確認検査員」数の不足,なれ合い的な現場での検査実態等があったとされ ているが,直接的には,「建築基準法」の規制緩和を契機として,民間の関 係者により起こされた事件であった.しかし,この問題は全国的に見れば氷 山の一角とされたため,国土交通省が今後の対応策として,「建築基準法」 の緩和と逆方向の規制強化の改正法案を国会に提出し,07 年 6 月に施行さ れた.この内容は,第 3 者が構造計算を改めてチェックする二重審査制の導 入と,審査期間の大幅延長,罰則強化であった.このため,必要書類・図 面・人・時間が増加せざるをえず,建築確認作業が以前より大幅に長期化し, コストも増大するものとなり,結果として 07 年度の住宅着工数が 41 年ぶり の低水準となり,悪化しつつある景気をさらに低迷させる要因となった.こ の二次的問題の発生については,規制強化により発生するコストとベネ フィットを慎重に評価する「規制影響分析(RIA)」が,専門的・中立的機 関の不存在により,十分に行われなかったことが,大きな原因になったとい えよう.

ライブドア事件

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た.関連会社とともに,03 年から株式交換制度を利用して多数の企業を買 収することを公表し続け,証券市場に大きな衝撃を与えた.ライブドア株の 株主は増加したが,実際の新株交付まで時間を要したため,株価は上昇し, 株式時価総額は約 7,000 8,000 億円に達したといわれている.しかし,その 裏側では,合併・買収の際に実質的にライブドアの支配下にある投資事業組 合を介在させることにより,株式交換名目で発行した自社株を買収先に割り 当てず,その売却益を還流し,さらには,すでに買収していた企業を株式交 換で完全子会社化すると虚偽公表する等を行っていたことが明らかになった. 経営者等は刑事責任を問われることになった.

この事件については,急速な各種規制緩和・撤廃を実施した拙速さへの批 判の声と,自由市場への移行と同時に市場の透明さの確保や不正発生を防止 する,基本的な規律を示すルールや制度が設置されていなかったという指摘 が多い.また,会計監査制度のいっそうの改革や証券市場の監督者である証 券取引等監視委員会の増員をはじめ,独立性確保や準司法機能付与等による 体制や罰則の強化を検討していくべきだという指摘がある(上記に関連する ものとして,『朝日新聞』06 年 1 月 27 日付社説,『日本経済新聞』06 年 2 月 22 日 付社説,06 年 2 月 22 日付,『日本経済新聞』「経済教室」のハーベイ・ピット論文 がある).

介護事業「コムスン」等の不正請求等事件

(29)

所で,事業所の指定に際し不正な虚偽申請を行い,また,介護報酬の不正請 求を行っていたことが判明した.このため,厚生労働省はコムスンの指定の 更新を行わせないよう都道府県に通知し,さらに,4 年間同社の新規事業所 の開設・更新を認めないよう通達を出した.この結果,グッドウィル・グ ループは,介護事業から撤退せざるをえないことになった.

この事件に象徴されるように,これら不正行為が全国的に発生してきた原 因として,介護保険制度の当初の制度設計を誤り,受給者の見込みが過少で あったため,本人負担 1 割を除く保険料と税金から支出される民間業者への 介護報酬が低いものとなり,従業員に対する賃金も低水準になったことがあ げられる.このため,今後も介護に人も事業も集まらなくなる可能性がある とされ,撤退させられる事業者を利用している受給者の受け皿の確保も重要 な課題となっている.結論として,この事例を見ても,規制改革を行う際に は拙速に走らず,十分なコスト・ベネフィットの推計を行い,これに基づい た慎重,的確な制度設計と,管理・監督制度の強化とを合わせて行い,かつ, 事業者のコンプライアンス意識を高め,公正・適切な事業推進を図るインセ ンティブを与えるようなルールを構築していくことが必要であることがわか る(この点に関する新聞記事として,『朝日新聞』2007 年 6 月 21 日付の,柳川範 之東京大学準教授による「コムスン事件」がある).

派遣事業の規制緩和・自由拡大による請負偽装事件

(30)

このような状況のなかで法令違反が増加し始め,06 年には,偽装「請負」 が大きな問題となってきた.製造業において,企業が請負会社に仕事を発注 すると,請負会社は労働者を募り,企業の工場に送り込む.企業はこれら労 働者を直接に指示して自社業務に従事させるが,派遣業からの受け入れでな いため,形式上は安全管理や直接雇用努力の必要はない.請負会社の方は, 製造業企業の発注を受けて請け負った業務を,自社従業員を管理して仕上げ, 納入する必要はなくなり,実質的には派遣業務を行っていることになる.こ れは,「職安法」や「派遣業法」違反になり,「偽装請負」と呼ばれる理由で ある.厚労省は 05 年に調査した各業界企業のうち,6 割を超える 974 社で この「偽装請負」を確認して指導した.

この偽装請負問題と並んで問題となったのは,99 年の改正で同じく認め られた,「軽作業派遣」,別名「スポット派遣」または「日雇派遣」と呼ばれ る派遣である.これは,軽作業的仕事が生じたときだけ派遣会社から連絡を 受け,仕事のある企業の現場に赴き,指示に従って従業し,それが 1 日で終 了すれば派遣会社員の身分も 1 日で終了する.働きたい仕事や日時等を選べ る面もあるが,生活を支えるには低賃金で,かつ日雇労働保険の被保険者資 格もなく,何よりも安定性のないことが問題となる.07 年 8 月には,日雇 派遣大手のフルキャストが,「派遣法」で禁止されている港湾業務に派遣し たとして,316 事業所の 1 カ月ないし 2 カ月の業務停止命令を受けた.この 結果,同社の日雇派遣労働者のうち約半分近い 6,000 人近くが失業するとい われた.また,同 8 月には,同じく日雇派遣大手のグッドウィルが,給料か ら不透明な天引きをしていた問題で,派遣労働者組合から過去の天引き分の 全額返還を求める訴訟を提起されている.

日雇派遣に関しては,「二重派遣」問題も発生している.二重派遣は,派 遣労働者を受け入れた企業が,別の企業に偽装請負等の形で労働者を送るも のであり,2 社以上が間に入る多重派遣といわれるものもある.これは,07 年 2 月にグッドウィルから東和リースに派遣された男性が,さらに請負業者 を経て三井倉庫で港湾業務に従事していた際に,労災事故にあって表面化し た.

(31)

発生に対して厚労省は,08 年 6 月に日雇派遣の原則禁止も視野に法改正の 検討に入り,与党も派遣制度見直しの基本方針をまとめている.派遣事業の 規制緩和・自由拡大にともなう請負偽装をはじめとする問題の発生は,当然 法律違反を犯す事業者個々の道義的責任およびコンプライアンス意識の欠如 があげられなければならないが,一方で,規制緩和・自由拡大に際して,脱 法や違反行為の発生可能性の予測やその抑止方法を含めて,適切な制度設計 を慎重に検討しなければならなかったと指摘できよう(これらの点に関連す る記事としては,『朝日新聞』06 年 10 月 13 日付,「三者三論」,同 10 月 21 日付, 「耕論」,『日本経済新聞』07 年 8 月 17 日付夕刊,「根強い『正社員ノー』」等があ

る).

運輸業の規制緩和・自由化拡大により発生した問題

航空業では,93 年以来参入規制緩和・需給調整規制撤廃・運賃届出規制 の緩和等がなされたが,05 年から 06 年にかけて,日本航空で整備・点検ミ スから生じた安全上のトラブルが続発し,05 年 2 月,国交省からの業務改 善命令を受けた.その後もトラブルが続いたため,06 年 1 月に再度国交省 から業務改善命令を受けた.さらに,新規参入会社であるスカイマークエア ラインも,06 年 3 月以降チェック体制の未整備から安全上のトラブルが続 き,4 月に業務改善命令を受けた.

(32)

協せざるをえず,営業収入は減少し,運転手賃金や安全管理も低下・不十分 になることが指摘されている.05 年に,全国のバス事業所で,トラックと 同様な「改善基準告示」違反で厚労省から行政指導を受けたものは 70 と なっている.

料金低下による消費者余剰は拡大しても,他方で法令違反の長時間労働や 安全管理が横行することが,無視されるわけにはいかないであろう.規制緩 和は参入の規制は緩めても,問題が生ずれば事後の確実な対応が前提である. にもかかわらず安全問題についての事後的チェック体制が十分に確保されて いない実態が指摘されている.国交省の自動車運送分野の監査担当職員数は 全国で 166 人で,貸し切りバス事業者約 3,700 社に加えて,トラック・タク シー事業者約 7 万社を担当する.貸切バスの監査実態件数は,03 年度から 05 年度までの年度平均で 585 件,単純に計算すると全社の監査終了には, 6.3 年を要することになる.安全確保がきわめて重要である運輸産業の規制 緩和実施の前提条件としてのインフラ整備が十分であるかどうかや,監督体 制強化のコスト増加の試算実施等,事前のルールや制度設計についての,よ り慎重な準備が必要であったと思われる.

銀行・保険・証券の規制緩和・自由化により生じた問題

(33)

100 件余りから,05 年度 228 件へ急増した.06 年度には減少したものの 152 件に上った.これらの処分対象等を見ると,銀行では,みずほ,三井住友, 三菱東京 UFJ,(個人情報漏洩,優越的地位の乱用,不適切取引),生損保 では,明治安田,日本,損保ジャパン,三井住友,生保 10 社(いずれも, 保険金の不払いや支払い漏れなど),証券では,大和,野村(インサイダー 取引関連)等である.さらに,07 年には公取委から,新生銀に公告の不当 表示の排除命令も出ている.

きわめて多数の,かつ,3 分野の主要メンバーがその対象として処分され ていることは,もちろん当事者のコンプライアンス意識の欠如を示すもので あるが,さらに難航する不良債権処理と長期停滞経済のもとで新規ビジネス モデルの形成に遅れ,国際競争力向上に遅れをとったことを示すものであっ たとも考えられよう.今後はこれらを教訓として,グローバル化に適応した 業界への変身が要請されるであろう.その後,金融庁も行政手法を転換し, 金融機関の自主的経営改善をうながす手法を取り始め,また,金融機関側も 法令順守体制の整備を進めている.08 年度に入り,金融庁はすべての金融 機関が守るべき基本原則を新たに作り,業界全体を含め自主的ガイドライン を作成させ,自主的な改善をうながすことにした.

教育分野における問題の発生

(34)

いる.この事後評価は既存の大学を含め,数百大学を対象としているため, 実際には 7 年に 1 度しか評価が行われないことになり,また,どれだけ厳密 な評価が行われるか,必ずしも明確でない.さらに,本件は特区制度に基づ いて設立されたものであるため,地方公共団体の主体的責任や取組みがより 明確になっていなければならなかった.加えて,地方公共団体の申請を認め る国の審査や事後評価制度も強化される必要がある(これについては,07 年 5 月の政令改正により,従来は設置された特区の効果のみを検証していた, 第三者からなる「評価委員会」が,提案段階でも審査・評価できる機能をも つことになった).(本件に関する新聞記事として,『日本経済新聞』2007 年 2 月 26 日付「教育欄」の井上紘一教授によるものがある).

民営化分野で生じた問題

旧国鉄民営化後の,JR の問題点として,今世紀に入って目立って取り上 げられていることは,運航上のトラブル発生によるサービスの質や利便性の 低下と安全問題であろう.とくに,JR 東日本では,05 年から 06 年にかけ て通勤時間帯でのトラブルが多発した.両年合わせて 10 件発生し,総計 108 万人が影響を受けた.最新の ATC の故障や,特許を取った工事技術の ミス等が原因であった.さらに,08 年 4 月には同じ JR 東日本の変電所火災 で,約 50 万人が影響を受けている.そして,最大の事故は,05 年に JR 西 日本の福知山線で発生した脱線事故であり,107 人が死亡し,562 人が重軽 傷を負った.JR 西日本では,91 年にも「信楽高原鉄道事故」を発生させ, 42 人が死亡している.福知山線事故についての国土交通省の事故調査委員 会の報告は,運転手の速度超過運転の背景に,競争激化・効率優先からの余 裕時分の全廃を行った過密ダイヤ,日勤教育実施,さらに ATS 設置への投 資の遅れがあったとしている.国交省自体は,04 年および 05 年の事故発生 まで,運転手の資質向上策や速度制限順守装置の設定を定める法令を改正・ 公布していたが,これらが十分に実行されず機能しなかった.安全確保投資 は事故発生後大幅に増加したが,遅すぎたといえよう.

(35)

線で,同約 2,000 件程度から同約 3,900 件程度に倍増している.この 05 年 度の件数のうち,37%は鉄道会社側に責任があったとされている.また,こ の発生率は大手私鉄の約 6 倍になる.この背景には先に述べた背景のほか, 社員数削減のもとでの現場の技術力の低下や,保線業務等の外部委託による 委託先ミスが原因との指摘もある.その後 07 年 8 月には,福知山線事故に ついて JR 西日本が,新型 ATS 設置でこの事故は防げたと不備を謝罪し, 同年秋以降,社長等役員の刑事責任追及が始まっている.民営化成果の確認 の一方で,安全確保面での努力や対応が不足していたことが明らかになった といえよう.

安全問題とは別に,民営化された旧国鉄跡地の優良地がバブル崩壊後低水 準の価格に達する 97 98 年まで売却されず,その結果,売却主体の国鉄清算 事業団の収入が減少し,結局は国民負担の軽減度合が減少したとの批判があ る.また,これに関連した民間建設会社に対する民事訴訟も提起されている. 民営化の目的の 1 つには,民営化後の株式売却や関係資産の処分による収入 を国庫に納め,財政の赤字を縮小し,結果として国民負担の軽減に資すると いうこともあるため,多角的視点からの評価も必要であろう.最後に,民営 化に際して決定され,現在まで行われている,三島三社に対する支援をどこ まで継続し,また,いつ株式を上場できるのか見通しが立っていないことも, 大きな問題であることを指摘しておきたい.

規制緩和と格差問題

以上の各分野・産業における問題とは,やや次元を異にする問題として, 規制緩和と所得や賃金格差拡大の関係,すなわち,規制緩和が所得等の分配 上の格差・不公平を拡大させているかについて見ておこう.まず,日本の所 得や賃金格差が近年どのように変化してきたかを,これまでの研究者の実証 分析や 06 年度および 07 年度の「年次経済財政報告」等の分析結果のポイン トを要約してみると,以下のとおりである.

(36)

所得分配はやや不平等化ないし格差拡大していることになる.そして,この 格差拡大の要因として,高齢化社会の進行による,もともと同年齢層内の格 差が他の年齢層より大きい高齢者世帯比率の上昇がある.しかし,年齢層別 格差について見ると,99 年から 04 年にかけて 25 歳未満の若年層でジニ係 数が上昇し,格差が拡大している.また,「就業構造基本調査」統計により, 個人単位で雇用者が得た 1 年間の収入である「労働所得」のジニ係数を計測 すると,97 年以降 02 年にかけてすべての年齢層で上昇し,とくに 20 歳代 の若年層の上昇が大きく,この統計分析によっても若年層での格差が拡大し ていることが示されている.

さらに,以上のような全体としての格差の拡大の要因や背景としては,高 齢化要因のほか,日本経済のデフレと低成長の長期継続,金融や IT での技 術革新の進行,教育投資の差(学歴の差),成果主義賃金の導入などがあげ られているが,規制緩和は必ずしもこれらの要因と同列には論じられていな い.しかし,上記のように,若年層における格差拡大の要因として,派遣業 をはじめとする「非正規雇用」と呼ばれる新規雇用形態を生み出した,規制 緩和があるという指摘がある.この非正規雇用の拡大が問題であるという見 解に対しては,一般的に見て,低賃金で雇用の安定性のない職業ではあるが, 不況期に失業せずに新規雇用形態を利用するものが増加し,結果的に若年層 の格差拡大が一段と著しいものになるのを防いだという反論がある.しかし, それでもなお,それを超えて,若年層において格差自体の拡大は発生したわ けである.規制緩和は所得・賃金格差拡大問題について,全年齢層のそれと は別にして,少なくとも若年層において,その要因となったといえよう.

6

結論

以上の第 2 節から第 5 節までの分析結果等からの結論は,以下のとおりで ある.

6.1 「規制改革・民営化」の進捗度・目的達成度について

(37)

るものに質的変化を遂げた.最初に,「規制改革・民営化」の「進捗度・目 的達成度」について結論的に述べれば,双方とも長時間をかけてではあるが, かなりの進展があったといえる.「規制改革」の対象・内容となった分野・ 産業・具体的事項は,日本経済社会の広範な領域に及び,文字どおりその 「経済」と「社会」の各領域に存在する双方の規制を対象とした.「経済」で は,流通,運輸,金融,情報通信等において,前世期終わりごろまでに多く の面で改革が実施された.その後改革の重点は「社会」に移り労働・福祉・ 教育等におかれてきている.また 01 年以降は,規制改革が地域自治体レベ ルにおいても発案・実施される「構造改革特区方式」を導入し,分野・対象 がさらに広まっている.

また,「民営化」は,80 年代後半の,国鉄・電電公社・専売公社の民営化 実施,その後の新生 NTT の 99 年までのさらなる分離再編が行われた.00 年には広義の民営化である「PFI 事業」も開始された.医療・福祉・雇用等 分野において,これまで公共部門が専管的に提供してきた「サービス」を民 間企業等に開放する,06 年の「公共サービス改革法」が実施され,「市場化 テスト」がスタートし,民営化・民間化の領域が一段と拡大した.日本にお ける「小さな政府」創出の試みが開始されたといえる.これらに加えて,議 論はなお残るが,今世紀に入って始められている「行政改革本部」による新 たな「行政改革」によって,「道路公団」や国営事業の「郵便」をはじめと する特殊法人・認可法人,およびその見直し後の新生「独立行政法人」並び に「政策金融機関」・「公益法人」等が民営化され始めている.この行革分野 の諸機関についても,「規制改革会議」が連携・協力して,「公共部門」の民 営化・民間化を進めている.

以上のような「規制改革・民営化」の進展により,95 年時点の規制の強 さは,全産業平均で見て,05 年には 4 割程度まで減少している.とくに経 済的規制の減少が大きい.一方で,社会的規制は減少程度が小さいか,増加 しているものもある.製品市場の規制の強さを国際比較すると,日本は 98 年から 03 年の間に約 3 割程度減少し,30 カ国中の下から 11 番目に位置し ており,その強さもかなりの程度弱まっている.

(38)

化」の達成すべき経済的目的について見よう.まず,需給調整規制の緩和・ 撤廃等により,流通・運輸・電気通信・金融・労働・介護等の分野・産業で 参入が激増し,商業機会の拡大に寄与するとともに,産業構造のサービス 化・高度化を促進したと考えられる.また,価格・料金も低下しており,と くに移動体通信・エネルギー等での低下が大きく,価格低下によると見られ る需要増加率は,移動体通信・株式売買委託・電力・ガス・ビールなどで大 幅であった.

内外価格差はほとんど解消したが,一方で,本来は高物価の引き下げに貢 献することになるはずであった規制改革関連価格の低下が,バブル崩壊後の 基調的な CPI の下落,すなわち,デフレ促進の一要因として寄与したと見 られる.

消費者余剰は,電力・トラック輸送・移動体通信等で大きく発生し,累積 総額は,10 数年間で,18 兆円程度に達したと見られ,消費者に恩恵をもた らした.

生産性・効率性については,TFP 生産性の上昇率は,規制改革が進んだ 金融・保険,不動産等で大きく,また今世紀に入り,非製造業の伸びが製造 業のそれを上回るようになり,効率性の改善は 90 年代のエネルギー・小売 業で確認されている.

雇用は,90 年代後半から 02,03 年ごろにかけて,規制改革関連産業で約 100 万人減少したが,20 世紀末から今世紀初頭にかけて,規制改革にともな う開業により約 200 万人の雇用創出があった.さらに 02 年以降の回復過程 で,介護・派遣の両部門で約 100 万人の雇用を生んだと見られる.

商品サービスの内容の多様化や改善等も見られた.また,民営化された, 旧国鉄・電電公社・専売公社の経常利益・1 人当たり生産性は,3 社とも増 加し,株式売却益も多額に達し,従業員数は約 3 割から 5 割以上減少した.

6.2 規制改革・民営化の実施により発生したとされる諸問題について

参照

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