ソーシャルメディアにおける限界効用逓減の効果
Effect of Diminishing Marginal Utility on Social Media
三浦雄太郎
1∗大阪健吾
2鳥海不二夫
3菅原俊治
2Yutaro Miura
1Kengo Osaka
2Fujio Toriumi
3Toshiharu Sugawara
21
早稲田大学情報理工学科
1
Department of Computer Science and Engineering, Waseda University
2
早稲田大学大学院情報理工学専攻
2
Department of Computer Science and Communications Engineering, Waseda University
3
東京大学大学院工学系研究科
3
Graduation School of Engineering, The University of Tokyo
Abstract: We investigate the conditions in which cooperation is dominant in social media using the models of evolutionary games of public goods games with diminishing marginal utilities and attempt to clarify the mechanisms of prosperity of social media and effect of diminishing marginal utilities. Cooperation dominant situation corresponds to that in which social media thrives, i.e., posting articles and taking reactions by comment lead to more benefits result than do nothing as free-riders. A number of studies examined what mechanism contributes to maintain cooperation dominant situation by using evolutionary game, but their models don’t include the effect of di- minishing marginal utility. Thus, we developed an abstract model of social media using utility function with diminishing marginal utility and we experimentally investigated the effect of dimin- ishing marginal utilities in the meta-rewards and SNS-norms games. The result showed that the games with diminishing marginal utility could model real SNS activities more suitably than those without it.
1 序論
近年,LINE,Twitter,Facebook,Instagram など 数多くのソーシャルメディアが流行し、人々に利用され るようになった.テレビや新聞のような従来のメディア ではコンテンツを提供する側は運営者であり,利用者 はコンテンツを消費するだけという構造であった.そ れに対して現在のソーシャルメディアでは基本的にコ ンテンツの作成や提供はユーザ自身が行っており,多 数のユーザの自発的参加によりソーシャルメディアが 成立している.このようなソーシャルメディアの場で, コンテンツの消費により効用を得ることは自明である が,コンテンツの作成や提供を自発的に行わせる仕組 みは明らかではない.
基本的に情報の作成や提供には時間とコストがかか るため,そのコストに見合った報酬が得られる仕組み が誘因として必要となる.この誘因がなければ,情報の 作成や提供は行われず,ただ情報を得ることだけに時
∗連絡先:早稲田大学基幹理工学部情報理工学科 〒 169-8555 東京都新宿区大久保 3-4-1 E-mail: [email protected]
間を費やす者 (フリーライダー) が増加し,ソーシャル メディアへの自発的参加が減少していく.そこでソー シャルメディアでは,提供された情報へのコメント機 能や「いいね!」ボタンなどの機能を構造に取り入れる ことで,情報提供への報酬を表現している.以上のこ とから,ソーシャルメディアへの自発的参加のメカニ ズムや多数の提供が継続して行われる,つまり流行す る条件を分析し明らかにすることが大切であり,今後 のソーシャルメディアの設計や運営に役立てることが できる.
これらの観点からソーシャルメディアの分析をした 研究は数多く行われている.ソーシャルメディアが流行 するメカニズムを分析した研究として,ソーシャルメ ディアの抽象モデルを用いた研究がある [Toriumi 12]. ここではソーシャルメディアに公共財の特徴を適用し, 公共財ゲームの構造を用いて流行のメカニズムを分析 している. また,このモデルにユーザ個人間の互恵性 を加えた研究がある [Osaka 17].ここでは,ユーザ同士 が互いを識別し過去のやりとりを記憶できる状況では, 互恵性によって協調行動が促進されると述べている.
しかしこれらのモデルでは情報を提供することによっ
て得られる報酬に対して限界効用逓減の法則を考慮し ておらず,報酬の増加が線形的である.つまり,コメ ントや「いいね!」を貰えば貰うほど情報提供に対する 報酬が増加していき,繋がりが多いユーザは過剰な効 用を得る.現実ではコメントを多く貰うことで全体の 効用は増加するが,一つのコメントで得られる限界効 用は減少するはずである.実際にソーシャルメディア においてコンテンツの消費で得る報酬に限界効用逓減 の法則を適用した研究があり,限界効用を表す関数が 非線形で特に対数的であるとき,フリーライダーが減 少しコンテンツの消費と生産の両方を行うユーザが増 加すると示している [Huaxia 09].
そこで本研究では,既存のソーシャルメディアの抽 象モデルを拡張し,限界効用逓減の法則を適用しユー ザがコメントによって得られる報酬を対数的に増加さ せ,より現実に近い環境で実験を行う.また,様々な シミュレーション条件で実験を行い,新たに提案した モデルが協調の促進にどのように影響するかを明らか にする.これにより,現実のソーシャルメディアが流 行する条件が明らかになり,ソーシャルメディアの設 計指標にもなる.
本稿の構成は以下の通りである.第 2 章では,関連 研究について述べ,第 3 章で公共財としてのソーシャ ルメディアについて説明する.第 4 章では 限界効用逓 減の法則を適用したソーシャルメディアのモデル化を 行う.次に第 5 章で本研究において実施する実験とそ の結果について説明する.第 6 章で実験の考察を示し, 最後に第 7 章では結論を述べる.
2 関連研究
ソーシャルメディアの分析を行った研究として,デー タマニングを用いたアプローチからソーシャルネット ワークにおける有益な分析アルゴリズムを提案したもの や [Karamon 08],ネットワーク構造の観点から Twitter における人気ユーザを分析したものがある [Saito 13]. 他にも,[三浦 08] では社会心理学的アプローチとして, 質問紙調査によって Q&A コミュニティにおける参加 動機を調査した.その結果,回答投稿の参加動機とし て,(1) 援助的動機,(2) 互報的動機,(3) 社会的動機, (4)報酬的動機,の 4 つの因子の存在を明らかにした. また,ソーシャルメディアを抽象的に表しその特徴 を調査した研究がある [Toriumi 12].鳥海らはソーシャ ルメディアが公共財の性質を持つと考え,公共財ゲーム を用いてソーシャルメディアの流行の条件を調べた.こ こでは Axelrod のメタ規範ゲーム [Axelrod 86] をソー シャルメディア用に拡張し,協調行動に対する報酬を与 える報酬ゲームや,その報酬に対して報酬を与える仕 組み,つまりメタ行動を取り入れたメタ報酬ゲームを
提案した [Toriumi 12].その結果,ソーシャルメディア において協調支配的な状況,つまり流行するためには このメタ行動が必要だと示した.さらに,コメントの利 得がコメント投稿のコストを上回ることが必要だと示 した.鳥海らが提案したモデルを複雑ネットワーク上 で実験した研究もある [Hirahara 16][Hirahara 13].こ こでは,SNS の構造に即した SNS 規範ゲームを提案 し,現実のソーシャルネットワークに近い構造を持つ WSモデルや BA モデル,CNN モデルを用いることで, ネットワークにおけるハブユーザが協調の促進に重要 な役割を果たすことを示した.また [Osaka 17] では鳥 海らのモデルを拡張し,ユーザ同士を識別しやりとり を記憶するモデルを提案し実験を行った.その結果,互 恵性のあるユーザに対しては積極的にやりとりを行い, 他のユーザに対してはフリーライダーとして振る舞う ことによって,報酬とコストのバランスがとれ協調が 促進されることを示している.
しかしこれらの研究では、報酬はコメント数に応じ て線形に増加するとしており、人間の感覚と乖離する 部分がある。そこで本研究では協調行動に対する報酬 に限界効用逓減の法則が適用されると考え,報酬が対 数的に増加していく仕組みを取り入れたモデルを提案 し,ソーシャルメディアの流行の条件を明らかにする.
3 公共財としてのソーシャルメディ
ア
ソーシャルメディアには以下の3つの特徴があると 考える.
1. ユーザが情報を提供しあうことで成立する. 2. 情報提供には時間や労力のコストがかかるが,そ
の対価として他のユーザからのコメントが報酬と して得られる.
3. 情報提供をせず,ただ読むだけのフリーライドも 可能である.
これらの特徴から,ソーシャルメディアは,多くの人 の協力により維持できる公共財として考えることがで きる.[Toriumi 12] では,そのソーシャルメディアが持 つ公共財の性質を利用し,公共財への貢献を促進する メカニズムとしてソーシャルメディアへの自発的参加 を説明した.Axerlod が提唱した規範ゲーム,メタ規 範ゲーム [Axelrod 86] は公共財への貢献の仕組みを取 り入れたゲームで,n 人囚人のジレンマのゲーム構造 を持つ.このゲームは,非協調者に懲罰を与えるとい う行動原理を導入することで協調を促進させるモデル である.このモデルではフリーライダーに懲罰を与え る仕組みを持たず,報酬によって規範を促進する公共 財とは合致しない.
図 1: 報酬・メタ報酬ゲームのモデル.
そこで,ソーシャルメディアを公共財ゲームで表現 するために,メタ規範ゲームを拡張させたものが一般 化メタ規範ゲームである [Toriumi 12].このゲームで は非協調者への懲罰の双対行動として,協調者への報 酬を与える仕組みを加えたものである.このモデルか ら懲罰の仕組みを取り除くことで,ソーシャルメディ アを表現するモデルとして図 1 に示す報酬ゲーム,メ タ報酬ゲームを提案している.協調に対する報酬のみ では協調支配的な状況にはならないが,報酬に対する メタ報酬を与えることで協調が促進されることが示さ れている.
4 ソーシャルメディアのモデル化
4.1 公共財ゲーム
4.1.1 エージェント集団の作成
ソーシャルメディアに対応する公共財ゲームとして, 協調者に報酬を与えて規範を促進する報酬ゲームやメ タ報酬ゲーム,SNS 規範ゲームがある.これらのゲー ムは一般化メタ規範ゲームにおいて報酬のみに注目し たモデルである.メタ報酬ゲームは報酬ゲームの拡張 であり,報酬に対する報酬,つまりメタ報酬が追加され ている.また SNS 規範ゲームは,メタ報酬ゲームを拡 張し,記事投稿へのコメントに対するコメントは最初 に記事投稿をした者が行うという傾向を考慮している.
エージェントの集合を A とする.エージェントのネッ トワークは,A をノードとするグラフ G=(A, E) とし て表現する.ここで,E はエッジの集合であり,エー ジェント間の友人関係を表す.本研究では単純化のた めに完全グラフを用いてネットワークを表現する.ま た,エージェントはソーシャルメディアにおけるユー ザを現す.公共財ゲームでエージェントは協調または 裏切りの行為を選択するが,エージェント i (∈ A) が 持つ 2 つの学習パラメータ,協調する確率(記事投稿
表 1: メタ報酬ゲーム・SNS 規範ゲームの実験パラメータ
パラメータ 値
エージェント数 N 20 記事投稿のコスト F −3.0 記事購読よる利得 M 1.0 コメント投稿のコスト C −2.0 コメント購読による利得 R 9.0
率)Biと報酬を与える確率(コメント投稿率)Liに よってこれを決める.学習パラメータは後で述べる遺 伝的アルゴリズムの遺伝子表現を想定し,離散的な値 0/7, 1/7,…, 7/7 をとる [Axelrod 86].図中のパラメー タ S (0 < S < 1 の一様乱数) は発見率を表し,記事投 稿の有無の判断,および記事投稿とコメントへの気づ きの判定に用いる.図 1 のモデルで使用したその他の パラメータは表 1 に示す.
4.1.2 報酬ゲーム・メタ報酬ゲーム・SNS 規範ゲーム 報酬ゲーム,メタ報酬ゲーム,SNS 規範ゲームの全 体の流れは以下の通りである.
ゲーム t において,エージェント i にはコメント発見 率 Sit(0 ≤ Sit< 1)が与えられる.もし 1 − Bi≤Sit
を満たせばエージェントは記事を投稿し,そうでなけ ればエージェントは記事を投稿しない.記事を投稿し た場合,エージェント i は記事投稿コスト F を支払い, iに隣接するすべてのエージェントは記事を購読するこ とで利得 M を得る.記事の投稿が公共財ゲームでの協 調に相当する.
エージェント i が記事投稿を行った場合,次に i に隣 接するすべての各エージェントが,i に報酬を与えるか を確認する.隣接するエージェント j は Sjtの確率で 当該記事に気付く.当該記事に気付いた場合,j はコメ ント投稿率 Lj にしたがってコメントコスト C を支払 いコメントを投稿する.コメントをもらったエージェ ント i はコメント利得 R を得る.ここまでが報酬ゲー ムの流れである.
メタ報酬ゲームでは上記の流れの後にメタ報酬のフ ローがある.j の隣接エージェント k は Sktの確率で j が行ったコメントに気づく.気づかなければフロー終 了だが,気づいた場合コメント投稿率 Lkに従いメタ コメントを行う.メタコメントをもらったエージェン ト i はコメント利得 R を得る.これがメタ報酬ゲーム の流れである.
SNS規範ゲームでは,メタコメント行動は記事投稿 を行ったエージェント i に限定している.そのため自 分に対するコメントを見逃さないと仮定し,メタ報酬
のフローにおける Sktを 1 とする.ここで記事投稿を 行ったエージェント i のみがコメント投稿率 Liにした がってメタコメント投稿を行い,メタ報酬のフローを 終了する.
各エージェントは上記の行動を順に行い,これを 1 ゲームとする.4 回のゲームで 1 世代とし,世代の完 了後に各エージェントの利得の合計を求め,当該利得 を各エージェントの適応度とする.
4.2 エージェント進化フェーズ
各世代後に遺伝的アルゴリズム (GA) を用いてエー ジェントの戦略を進化させる.遺伝的アルゴリズムと は,親としてエージェントを2体選択して交叉させ,1 体の子を作り,突然変異を起こさせるというフェーズ である.選択にはルーレット選択を,交叉には一様交 叉を採用する.
4.2.1 親の選択
各エージェントは,隣接するエージェントおよび自分 自身から適応度に応じたルーレット選択により,エー ジェントを 2 体選出する.具体的にはエージェント i が 選択される確率 Π を以下の式で決定する.
Πi= ∑ (vi−vmin)2
j∈Ni(vj−vmin)
2 (1)
ここで Niは,自分自身と及び隣接するエージェント の集合である.viはエージェント i の適応度,vminは Niの中で最も低い適応度を持つエージェントの適応度 である.
4.2.2 交叉
選出した 2 体のエージェントの遺伝子を一様交叉さ せ,新たな遺伝子を得る.エージェント i は,交叉で 得た新たな遺伝子を自分自身の遺伝子とする.一様交 叉では2種類の遺伝子を得るが,そのうちの一方をラ ンダムに選択し用いる.
4.2.3 突然変異
遺伝子を更新した後,0.5%の確率で各遺伝子座の値 をランダムに反転させる.各エージェントは合計 6 ビッ トの遺伝子を持つので,例えばエージェント数が 100 体であった場合には,そのうちの 3 つのビットが反転 することとなる (100 体× 6 ビット× 0.5%=3 ビット).
以上の操作で新しい世代のエージェントを生成し,再 び報酬ゲームフェーズに入る.
図 2: 対数化によって得られる利得.
4.3 限界効用逓減の法則
効用とは主観的な概念であり,財を消費したり,用 益を受けることによって充足される満足のことである. 物を購入したり,飲食したりするのもすべて主観的な 満足を得るためでありそこには効用が存在し,財の消 費を重ねるほど効用は増加する.経済学では,さらに 一つの財を消費したときに得られる追加分の効用を限 界効用と定義しており,財の消費量が増加するにつれ て限界効用の増加割合は減少する性質をもつ [徳重 76]. この性質を限界効用逓減の法則とよぶ.ソーシャルメ ディアにおいてコメントを貰ったときに効用を得るこ とができるとする.従って,得られるコメントには限 界効用逓減の法則が適用される.一つの投稿に対して 貰えるコメントによる利得の限界効用を逓減するため に以下の式を効用関数として用いる.
利得 = (ln(コメント数) + 1) ∗ R (2) 例として,あるエージェントが二回記事投稿を行い, それぞれに 3 つと 5 つのコメントを貰ったときのコス トと利得の合計は以下の式で表せる.
2 ∗ F + (ln(3) + 1) ∗ R + (ln(5) + 1) ∗ R (3) 効用関数を表すのにしばしば自然対数が用いられる ため,ここでも自然対数を用いて定義する.また,SNS 規範ゲームのようにメタコメントが一つしかない場合 得られる利得が R となるように自然対数に 1 を加えた. これ以降この (2) 式を用いてモデル化したものを対数 化されたモデルと呼び,既存研究のように単純に線形 和としたものを線形的なモデルと呼ぶ.この式を用い たときに得られる利得を対数化前と比較したものを図 2に示す.
本稿ではコメントを貰ったときの報酬に着目し,メ タコメントの仕組みを持つメタ報酬ゲームと SNS 規範 ゲームに限定して実験を行う.
5 実験
5.1 メタ報酬ゲームにおける対数化の効果
まず初めにメタ報酬ゲームにおける対数化の効果を 調査した.線形的なモデルを用いたゲームをメタ報酬 ゲームと呼び,対数化されたモデルを用いたゲームを Logメタ報酬ゲームと呼ぶ.これ以降特に断りがない 場合全て 100 回試行の平均結果である.図 3 と図 4 に メタ報酬ゲームと Log メタ報酬ゲーム上での平均記事 投稿率と平均コメント投稿率の推移を示す.メタ報酬 ゲームでは平均記事投稿率が 0.8 から 0.9 を上下して おり,平均コメント投稿率はほぼ 1.0 であった.また Logメタ報酬ゲームでは,平均記事投稿率が 0.9 付近 であり,平均コメント投稿率はほぼ 1.0 であった.これ らの結果を比較すると,対数化によってわずかに平均 記事投稿率が上がったが,大きな変化は起きなかった ことがわかる.また,人数の推移による影響を調査す るためにエージェント数を 20 人から 100 人まで 10 人 ずつ推移させて実験を行った.それぞれの実験におけ る 10000 世代目の平均投稿率をまとめたものを図 5 と 図 6 に示す.メタ報酬ゲームでは人数が推移すること によって大きな変化はなく,平均記事投稿率は 0.8 付 近であり,平均記事投稿率はほぼ 1.0 であった.一方 Logメタ報酬ゲームでは平均記事投稿率は 0.9 付近を 常に維持しているが,平均コメント投稿率は人数が増 加するにつれて減少している.
5.2 SNS 規範ゲームにおける対数化の効果
次に,SNS 規範ゲームを行い対数化の効果を調査し た.SNS 規範ゲームと LogSNS 規範ゲーム上での平均 記事投稿率と平均コメント投稿率の推移をそれぞれ図 7と図 8 に示す.これらの図を比較すると,SNS 規範 ゲームでは平均記事投稿率が 0.9,平均コメント投稿率 がほぼ 1.0 である.LogSNS 規範ゲームでは平均記事 投稿率が 0.8 から 0.9 を上下しており,平均コメント投 稿率はほぼ 1.0 である.エージェント数 20 の完全グラ フ上では対数化によってあまり大きな違いは得られず, どちらも高い平均記事投稿率であり流行している.メ タ報酬ゲームと同様に人数推移を行った結果を図 9 と 図 10 に示す.LogSNS 規範ゲームではエージェント数 が増加すると平均記事投稿率が減少し崩壊が起こるこ とがわかる.同様に平均コメント投稿率も減少してい るが,平均記事投稿率よりゆるやかである.図 10 から エージェント数が 100 のとき 10000 世代目では崩壊が 確認できたため,崩壊の経緯を見るための実験を行っ た.エージェント数 100 で LogSNS 規範ゲームを行っ た結果を図 11 に示す.この図から,記事投稿の崩壊は 急激に起こりその後ゆるやかに上昇し 0.1 付近に収束
図 3: 完全グラフメタ報酬ゲーム.
図 4: 完全グラフ Log メタ報酬ゲーム.
図 5: メタ報酬ゲームにおけるエージェント数と投稿率 の関係.
図 6: Log メタ報酬ゲームにおけるエージェント数と投 稿率の関係.
図 7: 完全グラフ SNS 規範ゲーム.
図 8: 完全グラフ LogSNS 規範ゲーム.
したが,平均コメント投稿率は 1.0 から 0.0 に向かって ゆるやかに減少していることがわかった.
6 考察
完全グラフ上での実験の結果では,対数化を適用し たときエージェント数の増加に伴い平均投稿率に変化 が起こることを示している.どちらのゲームでも,コ メントによる報酬が線形であるとき,人数によらずコ メントをたくさんすることが最善な戦略であり,より たくさんのコメントを貰うためには記事投稿をするこ とが最善戦略であることがわかる.しかし対数化を適 用すると,コメントを貰うために記事投稿は行うが,コ メントには一定のコストがかかるものの,効用には限 界効用逓減が存在するため,次数が増えても適当な頻 度でコメントを行うことがメタ報酬ゲームにおいて最 善な戦略となることがわかる.一方 SNS 規範ゲームで は,人数が多い状況では記事投稿をしないことが最善 な戦略となる.
コメントによる報酬が対数的であるとき,線形時と 同じ数のコメントを貰っても得る報酬は少なくなるが, 同じ数のコメントを行ってもコストは変わらない.つ まりエージェント数が増加するとその分コメント対象 が増加するため,コメントをしすぎるエージェントは 支払う総コストが総報酬を上回り損をすることになる. その結果,適度な頻度でコメントを行うエージェント
図 9: SNS 規範ゲームにおけるエージェント数と投稿 率の関係.
図 10: LogSNS 規範ゲームにおけるエージェント数と 投稿率の関係.
が高い適応度を持ち親に選ばれやすくなる.
SNS規範ゲームはメタ報酬ゲームと比べるとコメン トを行う機会が圧倒的に少なく,記事投稿を行うエー ジェントにはコメント返しの機会があるため記事投稿 を行わないエージェントよりコメント回数が多くなる. 人数が多い状態では記事投稿者がコメント返しを行う 際の総コストが膨大になる.そのため,記事投稿を行わ ず適度な頻度でコメントを行い一定の報酬を得るエー ジェントが高い適応度を持つ.また,記事投稿が活発 でない状態で,突然変異により記事投稿をするがコメ ント返しを行わなかったエージェントは報酬が高くな るため,適応度が高く親に選ばれやすい.このような 行動をとるエージェントは他のエージェントより投稿 率が低い傾向があるため平均コメント投稿率が次第に 減少していく.
これらの現象をソーシャルメディア上で考えてみる. 新たに生まれたソーシャルメディアでは物珍しさに皆 が記事投稿やコメント,メタコメントを行う.LogSNS 規範ゲームのように,記事投稿をした者だけがメタコ メントをする場合,コメントとして受け取る利得に限 界効用逓減の影響で頭打ちになることに加え、コメン トをもらうために必要なコメント返しにもコストがか かり,その疲れから記事投稿をしなくなってしまう.そ の結果記事投稿がなくなり,次第にコメントも行われ
図 11: 完全グラフ SNS 規範ゲーム (N=100).
なくなり完全に崩壊する.しかし,Log メタ報酬ゲー ムのように記事投稿者以外のメタコメントが存在し活 発なやりとりが行われるソーシャルメディアは崩壊す ることなく流行が維持される.つまり,記事投稿者が 大量のコメント返しを行うことによるコメント疲れが 記事投稿率の低下を引き起こすが,第三者からメタコ メントがもらえる仕組みがあると崩壊は起きず記事投 稿は促進されることを示している.
限界効用逓減を導入していない線形的なモデルでは, 次数が増加しても記事投稿やコメント投稿を積極的に 行うことが常に最善戦略となり,協調支配的な状況が 生み出された.しかし現実のソーシャルメディアを考 えると,メタ報酬ゲームのように友達全員が記事にコ メントをし,友達全員がそのコメント全部にメタコメ ントを行う状況は,規模が大きくなればなるほど自然 とは言えない.また,SNS 規範ゲームのように,自分 の記事に友達全員がコメントをし,そのコメント全部 にコメント返しを行う状況は,記事投稿者のコメント の労力を考えると自然とは言えない.投稿のやりとり を行う友達が増加した場合,投稿頻度を調節して報酬 とコストのバランスを取ることが必須である.限界効 用逓減の法則を適用したモデルでは,そのバランスが 適切に表現されており,線形的なモデルと比べてより 自然なモデルであると言える.
7 結論
本研究では,ソーシャルメディアを抽象化したメタ報 酬ゲームと SNS 規範ゲームにおいて限界効用逓減の法 則を適用しより現実に近い形で実験を行うことで,協 調の促進にどのような影響が出るのかを調査した.過 去の研究ではコメントによる報酬が線形的に増加する モデルであったのに対して,自然対数を用いることで 限界効用逓減を表現する新たなモデルを提案した.メ タ報酬ゲームにおける実験の結果から,人数が増加す ると過度なコメント投稿をせずとも記事投稿による協 調が維持される状態が生まれることがわかった.一方 SNS規範ゲームにおける実験の結果から,コメント返
しをする相手が増加することによって発生するコメン ト疲れが崩壊の原因となることがわかった.これらの 結果から,限界効用逓減を考慮したモデルではコメン ト返し疲れによる崩壊が説明でき,第三者によるメタ コメントの重要性も再確認できた.
今後の課題としては,より現実的なネットワークモデ ルを用いての調査があげられる.本研究の実験でエー ジェント数が増加したときに大きな変化が現れたよう に,エージェントによって友達の数 (次数)が異なる ネットワークモデルの場合,限界効用逓減の効果が大 きく現れると予想できる.スケールフリー性を持つネッ トワークでは,他のエージェントより次数の高いエー ジェントが少数存在する.これらのエージェントが協 調の促進にどのような影響を及ぼすか調査していくつ もりである.
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