労働経済学1(第 8 回)
広島大学社会科学研究科 特任助教
川田恵介
前回の続き
• 最低賃金の強化の影響を考察する。
• 完全競争市場において、最低賃金を強化すると、企業 の余剰は低下する。
• 労働需要が低下し、失業が発生する。
• 一般に、効率性を低下させる。公平性への影響は微 妙。
需要独占のケース
地域に1社しか企業がなく、
生産関数は直線とする(限界収入一定)。
⇒需要の賃金弾力性が極めて大きい。
収入
� × �(�)
雇用量L
完全競争市場の場合
賃金
完全競争時の 均衡賃金
限界収入
最低賃金の効果
賃金
雇用量
適切な設定によって、 が増える。
独占賃金 最低賃金
独占の弊害と政策
企業は低い賃金をつけることで、雇用量は減る代わり に、労働者一人当たりからの利潤を高められる。
家計の労働供給が効率的な水準に比べ過少になる。
最低賃金を設定することで、家計の労働供給を増大さ
効率性と公平性
社会余剰は政策目標として適切か?
⇒ の効率性に依存
再分配政策が低コストで行える環境(家計の所得を政 府がよりよく把握している等)ならば、効率性を高める政 策によって、損害を被った家計に再分配を行うことで、 経済全員の効用を高められる。
再分配政策
まとめ
• 完全競争的な労働市場は、効率性を達成できる。
• 公平性ではない可能性がある。
• 特に労働市場において、市場の失敗は深刻であると 考えられる。
労働市場の実情に即した政策を行う必要がある。
賃金格差
• 賃金の格差は、ときに極めて大きな政治的、社会的問 題となる。
• なぜ労働者間で賃金が異なるのか?
• 賃金の差を生み出す要因とはなにか?
反格差デモ(ウィキペディア より)
賃金分布(月給、平成16年)
厚生労働省 賃金構造基本統計調査より
0 2 4 6 8 10 12 14
~ 119.9
120.0
~ 139.9
140.0
~ 159.9
160.0
~ 179.9
180.0
~ 199.9
200.0
~ 219.9
220.0
~ 239.9
240.0
~ 259.9
260.0
~ 279.9
280.0
~ 299.9
300.0
~ 319.9
320.0
~ 359.9
360.0
~ 399.9
400.0
~ 449.9
450.0
~ 499.9
500.0
~ 599.9
600.0
~ 699.9
700.0
~ 799.9
800.0
~ 899.9
900.0
~
男 女
%
千円
賃金格差
賃金w
需要に対して供給が少ない 需要に対して供給が多い
賃金格差の要因
• 完全競争市場においては、賃金は労働者の を反映している。
• 賃金が高い労働者は限界生産性が高い。
• なぜ限界生産性に違いが生まれるのか?
複数労働市場(摩擦なし)
賃金w
高技能労働者 通常労働者
労働移動
賃金格差が縮小しない要因
• 労働者が労働市場間を自在に移動できる場合は、賃 金格差は(長期的には)存在しえない。
• 労働市場間を移動するためには、コストがかかる。 例)地域間移動費用、学費、初期訓練費等
複数労働市場(移動費用 C )
賃金w
高技能労働者 通常労働者
大卒と 高卒間の賃金格差( 男性)
労働経済学117 1 1.1 1.2 1.3 1.4 1.5 1.6 1.7 1965
1966 1967 1968 1969 1970 1971 1972 1973 1974 1975 1976 1977 1978 1979 1980 1981 1982 1983 1984 1985 1986 1987 1988 1989 1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006
20~24
50~54 縦軸:
厚生労働省賃金構造基本統計調査より
大卒と 高卒間の賃金格差( 女性)
労働経済学1 厚生労働省賃金構造基本統計調査よ 1 1.2 1.4 1.6 1.8 2 2.2 1973
1974 1975 1976 1977 1978 1979 1980 1981 1982 1983 1984 1985 1986 1987 1988 1989 1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006
大卒と高卒間の賃金格差
• 20歳から24歳に関しては近年、男女とも賃金格差は 増大している。←近年生じた技術革新が若年の高学 歴労働者への需要を拡大した(技能変更的技術革新)
• 男性の50歳から54歳に関しては、男性に関しては賃 金格差が縮小した。←大卒労働者増大による労働供 給の増大
ミンサー型賃金関数
• 賃金に影響を与える様々な要因が、それぞれがどの 程度賃金を押し上げるのか?
• 賃金に影響を与えると考えられる個人の属性(教育、 経験年数)で、労働者の賃金の違いがどの程度説明 できるか?
教育年数の効果
• 教育年数が、賃金に与える影響を推定する。
• 川口(RIETI 2010)によると、教育年数が1年増大する ことは、賃金を10パーセント引き上げる。
• 標準的なミンサー型賃金関数を用いると、労働者間で の賃金格差の代替40パーセント程度説明できる。
• 残りの60パーセントを決定する要因は?
ビューティープレミアム Biddle and
Hamermesh, (1998)
卒業写真から調べたアメリカのロースクール卒業生の
「 Beauty 度」が、その卒業生の賃金に与える影響を調べ た。
能力、就いている職種がよく似ているグループにおいて も、男女とも「 Beauty 度」が高いほど、賃金が高くなる傾
賃金を決めるほかの要素
• 近年、個々人の「 」が賃金に与える影響が注目 を集めている。
• 問題は、「 」をどのように測定するか。
アンケート&実験経済学
• 個人の「性格」がわかるような質問項目を盛り込む。 例)夏休みの宿題はいつやったか、降水確率が何パーセ ントであれば傘を持っていくか等(大阪大学 GCOE)
• 実験室の中で、被験者にゲームをしてもらう。
アンケート調査
実験経済学
神経経済学
Samuel M. McClure, et al. (Science 2004) より
遺伝子経済学
内分泌液経済学
ウィキペディアより
• 唾液や粘膜等に含まれる化学物資と個人の「性格」と の間には、相関が存在することが知られている。
例)男性ホルモンであるテストスタロンの量は、瞬間的な 判断力や筋肉量に影響を与える。
内分泌液経済学
• 唾液などをまともに調べると、お金がかかる。
• は、テスタスタロンの量との間に 相関がある(薬指が相対的に長い人ほど、テスタスタ ロンが多い)
内分泌液経済学
サ ッ カ ー ( M a n n i n g & Ta y l o r ( 2 0 0 1 E v o l u t i o n and Human Behavior))やラグビー(Bennett et al (2010 Journal of sports science))において、一流の選手はそうで は な い 選 手 に 比 べ 薬 指 が 相 対 的 に 長 い 。
オ ー ケ ス ト ラ の 演 奏 者 に つ い て 、 男 性 奏 者 に つ い て は 地 位の高い奏者ほど、薬指が相対的に長い(manning 2002)。
内分泌液経済学
成功している証券トレーダーほど、薬指が相対的に長い
(Coates (2009, PROCEEDINGS OF THE NATIONAL ACADEMY OF SCIENCES OF THE UNITED STATES OF AMERICA ))。
大竹文雄 「競争と公平感」や「経済学的思考のセンス」
(ともに中公新書)に詳しいサーベイが載っている。
Tamiya et al (
2011, Evolution and Human Behavior)
手形をもとに相撲取りの、人差し指の長さ/薬指の長、を 調べた。
まとめ
• 借入制約等で十分に技能訓練が行なえていない労働 者について、公的支援を行うことで賃金格差は縮小す る。
• 企業や労働者の属性以外の要因の重要性について も、多くの議論がある。
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