熱力学演習 (Wednesday August 12th 2015) 期末試験 解答例 & 解説 1 問 題 1. 理 想 気 体 の Helmholtz の 自 由 エ ネ ル ギ ー
F[T;V, N]は
F[T;V, N] =−N RTlog (
( T T∗
)c V v∗N
)
+N u (1)
で あ る 。こ れ を ル ジ ャ ン ド ル 変 換 し て エ ネ ル ギ ー
U[S, V, N]を求めよ。 (20点)
U[S, V, N]の独立変数であるエントロピーSは
S(T;V, N) =−∂F[T;V, N] ∂T
=cN R+N Rlog (
( T T∗
)c V v∗
N )
. (2)
よって
T(S, V, N) =T∗(v ∗
N V
)1/c
ecN RS −1 (3)
=T∗(v ∗
N V
)1/c
exp( S
cN R −1 )
. (4)
また (1), (2)よりF = −T(S−cN R) +N uであるこ とを用いれば
U[S, V, N] =F(T(S, V, N);V, N) +T(S, V, N)S
=cN R×T(S, V, N) +N u
=cN RT∗(v ∗
N V
)1/c
ecN RS −1+N u. (5)
問題 2. Kelvin の原理から最大仕事の原理を導け。 (20点)
任意の等温準静操作(T;X1 iq
−→ X2)において系が外
界に行う仕事をW(T;X1 −→iq X2)とする。これと共通 の始状態・終状態を持つ任意の等温操作(T;X1 −→i X2) における仕事を W(T;X1 −→i X2) とし,これら2つの 仕事の大きさを比較する。
(
T,X
1)
iq
i
W
(iq)
W(i)
(
T,X
2)等温準静操作は逆行可能なので(T;X2 −→iq X1)が実 現できる。それを (T;X1 −→i X2)と組み合わすと等温 サイクルが出来る。
i
iq
W
(i)
W'
(iq)
(
T,X
2)
(
T,X
1)
Kelvinの原理より,等温サイクルで系が外界に行う 仕事は正ではない。
W(T;X1 −→i X2) +W
′ (T;X2
iq
−→X1)≤0 (6)
一方,等温準静操作を逆行させたとき,系が外界にする 仕事は大きさが同じで符号が逆なので
W′ (T;X2
iq
−→X1) =−W(T;X1 iq
−→X2) (7)
(6)と(7)より
W(T;X1 −→i X2)≤W(T;X1 iq
−→X2) (8)
従って,最大仕事Wmax(T;X1 →X2)は,任意の等温 準静操作(T;X1
iq
−→X2)のときに実現する。
問題3. N モルの理想気体を用いたOttoサイクル
(T′
H;V1, N)
i’ −−→
(A) (TH;V1, N) aq −−→
(B) (T
′
L;V2, N)→
i’ −−→
(C) (TL;V2, N) aq −−→
(D) (T
′
H;V1, N) (9)
をT-V 図で表わせ。V1 < V2, T
′
H < TH, T
′
L > TL とす
る。またその効率ηO を計算し,ηO < ηCを示せ。ηCは
カルノーサイクルの効率である。 (20点)
(A)と(C)の広義等温操作は定積変化なので,吸熱量
はエネルギー変化に等しい。
QH =U(TH, V1)−U(T
′
H, V1) =cN R(TH−T
′
H). (10)
(C)も同様に
QL =cN R(T
′
L−TL). (11)
従って
ηO = 1−
QL
QH
= 1− T
′
L−TL
TH−T
′
H
= 1− T
′
L
TH
1− TL
T′
L
1− TH′
TH
. (12)
(B)と(D)の断熱準静操作におけるPoissonの関係式
(T′
H)
cV
1 =TLcV2, T
c
HV1 = (T
′
L)
cV
2 (13)
から
T′
H
TH
= TL
T′
L
. (14)
(12)に代入すれば
ηO = 1−
T′
L
TH
(
= 1− TL
T′
H
)
(15)
と求まる。題意よりT′
L > TL (T
′
H < TH)なので
ηO <1−
TL
TH
=ηC (16)
問題4. 示量変数がX0,熱容量が一定値C0の理想化し
た固体と,N モルの理想気体のエントロピーは(20点)
S(T;X0) =S0+C0logT,
熱力学演習 (Wednesday August 12th 2015) 期末試験 解答例 & 解説 2
である。この複合系のエントロピー S(T;X0, V, N) を 求めよ。結果を用いて,断熱操作,断熱準静操作が可
能な条件を具体的に書け。また,固体の示量変数X0 を
固定したまま,断熱的に温度を下げられることを説明 せよ。
問題 5. Helmholtz の自由エネルギー F[T;V, N]につ
いて,Eulerの関係式を導け。またEulerの関係式を用 いて Gibbs-Duhemの関係式を導け。熱力学関数の独
立変数について,Gibbs-Duhemの関係式から何が言え
るか? (20点)
F[T;V, N]は示量変数なので,系全体をλ倍すれば,
F[T;V, N]もλ倍される。
λF[T;V, N] =F[T;λV, λN] (17)
これをλで微分し,λ = 1とおけば
F[T;V, N] =V ∂F[T;V, N]
∂V +N
∂F[T;V, N]
∂N
=−V P(T;V, N) +N µ(T;V, N) (18)
となり,Eulerの関係式が得られる。
次に上式の両辺の全微分をとり,整理すれば
−SdT −P dV +µdN =−P dV −V dP +µdN+N dµ
SdT −V dP +N dµ = 0 (19)
と な り Gibbs-Duhem の 関 係 式 が 導 け る 。 Gibbs-Duhem の関係式から,微分 dT, dP,dµ が線形独立
でないことが分かる。すなわち,示強変数の組T, P, µ
は独立に変化させることは出来ない。従って熱力学関
数の独立変数として,示強変数だけの組T, P, µは選べ
熱力学演習 (Wednesday August 12th 2015) 期末試験 解答例 & 解説 3 問題1. 理想気体のエネルギーU[S, V, N]は
U[S, V, N] =cN RT∗(v ∗
N V
)1/c
ecN RS −1+N u (20)
である。これをルジャンドル変換して Helmholtz の自
由エネルギーF[T;V, N]を求めよ。 (20点)
F[T;V, N]の独立変数である温度T は
T(S, V, N) = ∂U[S, V, N]
∂S
=T∗(v ∗
N V
)1/c
ecN RS −1 (21)
よって
S(T;V, N) =cN R+N Rlog (
( T T∗
)c V v∗N
)
. (22)
また(20), (20)より
U(S(T;V, N), V, N) =cN RT +N u (23)
であることを用いれば
F[T;V, N]
=U(S(T;V, N), V, N)−T S(T;V, N)
=cN RT +N u−cN RT −N RTlog (
( T T∗
)c V v∗N
)
=−N RTlog (
( T T∗
)c V v∗N
)
+N u. (24)
問題2. 最大仕事の原理を要請として,Kelvinの原理を
導け。 (20点)
最大仕事の原理から,任意の状態(T;X)を始・終点と
する等温サイクルが外界に行う仕事Wcyc(T;X →X)
i
W
cyc(T
;
X
→
X
)
(
T,X
)
の中で,等温準静サイクルが行う仕事
iq
W
max(
T
;
X
→
X
)
(
T,X
)
が最大である。
Wcyc(T;X →X)≤Wmax(T;X →X). (25)
一方,等温準静サイクルを逆行させると,準静操作の 逆行についての性質から,外界に行う仕事の符号が変 わる。
iq
-
W
max(
T
;
X
→
X
)
(
T,X
)
しかし,その逆行も等温準静サイクルを成すので,その 仕事も最大仕事に他ならない。
−Wmax(T;X →X) =Wmax(T;X →X), (26)
∴ Wmax(T;X →X) = 0. (27)
(25)と(27)より任意の等温サイクル(T;X →X)に対 して,Kelvinの原理
Wcyc(T;X →X)≤0 (28)
が導かれる。
問題3. van der Waals状態方程式 (20点)
P(T;V, N) = N RT
V −bN − aN2
V2 (29)
に従う気体のエネルギーU(T;V, N)は
U(T;V, N) =cN RT − aN 2
V +N u (30)
で あ る 。微 小 な 断 熱 準 静 操 作 (T;V, N) −→aq (T +
∆T;V + ∆V, N) したときの断熱仕事を,力学的にま
たはエネルギーU の差から求めよ。その結果を用いて,
この気体の断熱曲線を求めよ。 力学的に求めると
∆Wad =P(T;V, N)∆V +O((∆V)2)
= N RT
V −bN∆V − aN2
V2 ∆V (31) 次にエネルギー保存則から求めると
∆Wad =U(T;V, N)−U(T + ∆T;V + ∆V, N)
=cN RT − aN 2
V +N u
−(cN R(T + ∆T)− aN 2
V + ∆V +N u )
≃ −cN R∆T − aN 2
V2 ∆V. (32)
(31)と(32)を等号で結んで整理すれば
cN R∆T + N RT
V −bN∆V = 0
c∆T T +
∆V
V −bN = 0. (33)
∆V →0 (∆T →0)の極限をとって積分すれば
Tc(V −bN) =一定 (34)
これがvan der Waals 状態方程式に従う気体の断熱曲
線である。理想気体の断熱曲線 TcV = 一定と比べる
と,V 軸の正方向にbN 平行移動したものだと分かる。
問題4. 示量変数の組がX0,熱容量が一定値C0 の理想
化した固体のエントロピーS(T;X0)は
熱力学演習 (Wednesday August 12th 2015) 期末試験 解答例 & 解説 4
で あ る 。こ の 固 体 が 2 つ あ り ,そ れ ぞ れ 平 衡 状 態
(T1, X0), (T2, X0)にある。系全体を断熱壁で囲み,外 界に仕事をしない断熱操作
{(T1;X0)|(T2;X0)}−→ {a (Tf;X0),(Tf;X0)} (35)
を行った。この熱的接触操作におけるエントロピー変 化を求め,これが不可逆であることを確かめよ。またこ
の系にN モルの理想気体を組み合わせることで
{(Tf;X0),(Tf;Vα, N),(Tf;X0)}
a
−→{(T1;X0)|(Tf;Vβ, N)|(T2;X0)} (36)
なる断熱準静操作が可能であることを示せ。1 つの理
想固体と理想気体からなる系の断熱曲線が,c′
= C0
N R
として,Tc+c′V = 一定と書けることを用いて良い。
(20点)
S は相加性を持つので,終状態のエントロピーは
2S(Tf;X0)である。よってエントロピー変化∆Sは
∆S = 2S(Tf;X0)−(S(T1;X0) +S(T2;X0)) = 2C0logTf −C0logT1−C0logT2
=C0log Tf2
T1T2. (37)
ここで
Tf =
T1+T2
2 (38)
を代入すれば
∆S =C0log
(T1+T2)2
4T1T2
≥0. (39)
従って,熱的接触によって2つの金属が同じ温度になる 現象は,不可逆である。
次に,これとN モルの理想気体を組み合わせ,3 つ
の部分系からなる {(Tf;X0),(Tf;Vα, N),(Tf;X0)} が
等温Tf で熱平衡状態になっている。この複合系に,次
に示す一連の断熱準静操作を行う。
{(Tf;X0),(Tf;Vα, N),(Tf;X0)} (40)
aq
−→{(T1;X0),(T1;Va, N)|(Tf;X0)} (41)
aq
−→{(T1;X0)|(Tf;Vb, N)|(Tf;X0)} (42)
aq
−→{(T1;X0)|(T2;Vc, N),(T2;X0)} (43)
aq
−→{(T1;X0)|(Tf;Vβ, N)|(T2;X0)}. (44)
ここで各断熱準静操作における断熱曲線は
Tfc+c′Vα =Tc+c
′
1 Va, (45)
T1cVa =TfcVb, (46)
Tfc+c′Vb =T2c+c′Vc, (47)
T2cVc =TfcVβ. (48)
辺々をかけて整理すれば
Tf2c′Vα =Tc
′ 1 Tc
′ 2 Vβ,
∴ Vβ =
Tf2 T1T2
. (49)
(40)から (44)への一連の操作によって,2つの理想固
体のエントロピー変化は,(37)または(39)の符号を変
えたもの
∆Sf→1,2 =−C0log
Tf2 T1T2
. (50)
一方,理想気体に関して最終的に変化があるのは体積だ
け。よって理想気体のエントロピー変化∆Sgas は
∆Sgas =N Rlog
(Vβ Vα
)
=N Rlog ( T2
f
T1T2
)c′
=C0log Tf2
T1T2. (51)
(50) と (51) は完全に打ち消すので,全系のエントロ
ピー変化は0となる。よって,(40)から(44)への一連
の操作は,断熱準静操作として実現できる。
問題 5. Gibbs の自由エネルギー G[T, P;N] につい
て Euler の関係式を導け。またそれを用いて Gibbs-Duhemの関係式を導け。熱力学関数の独立変数につい て,Gibbs-Duhemの関係式から何が言えるか? (20点)
G[T, P;N]は示量変数なので,系全体をλ倍すれば,
G[T, P;N]もλ倍される。
λG[T, P;N] =G[T, P;λN] (52)
これをλで微分し,λ = 1とおけば
G[T, P;N] =N∂G[T, P;N] ∂N
=N µ(T;V, N) (53)
となり,Eulerの関係式が得られる。
次に上式の両辺の全微分をとり,整理すれば
−SdT +V dP +µdN =µdN +N dµ
SdT −V dP +N dµ = 0 (54)
と な り Gibbs-Duhem の 関 係 式 が 導 け る 。 Gibbs-Duhem の関係式から,微分 dT, dP,dµ が線形独立
でないことが分かる。すなわち,示強変数の組T, P, µ
は独立に変化させることは出来ない。従って熱力学関
数の独立変数として,示強変数だけの組T, P, µは選べ