The 28th Annual Conference of the Japanese Society for Artificial Intelligence, 2014
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脳における記憶想起とのアナロジーによるコミュニティ局所検出
Local community detection by an analogy to memory recall in the brain
岡本
洋
*1 *2
Hiroshi Okamoto
*1
富士ゼロックス(株)研究技術開発本部
*2
理化学研究所 脳科学総合研究センター
†
Research & Technology Group, Fuji Xerox Co., Ltd. RIKEN Brain Science Institute
近年の脳科学により解 明されつつある記憶想 起の神経機構 をモ デルに,ネットワークからコミュニ ティを局所検出する 方法を構築 し た.ネットワークを構成する個々のノードをニューロン に,個々のリンクをシナプスに見立て,手掛かり刺激に応じて特定のセルアセンブ リが活性化される過程―短期記憶想起―としてコミュニティを検出する.ベンチマーク課題を用いて,競合に設定した活性拡散法に対 して提案方法が優位であることを示す.
1.
はじめに
近年の神経生理学研究は,ある記憶アイテムの想起がこのア イテムをコードするニューロンの持続的活性化で表現されること を明 らか に し た[1,2]. セ ル ア セ ン ブリ 仮 説 は , 同 じア イテ ム を コ ードするニューロンが密に相互結合したグループ(セルアセンブ リ)を形成すると 主張する[3].セルアセンブリに局在化された反 響 ( リカレ ン ト) 活 性 伝搬 が, こ のセ ルア セ ンブリ を構 成す るニ ュ ーロンの持続的活性化を生成すると考えられている.
脳は多くの記憶アイテムを保持する.異なるアイテムは異なる セルアセンブリでコードされ る. これは,記憶想起 を記述す る脳 内ニューラルネットワークダイナミクスが多安定である(多アトラク タを持つ)ことを意味する[4, 5].手掛かり刺激を表すニューロン 群の 初期活 性化 が, ど の安 定状 態(アトラクタ) を選ぶ かを決め る.これが手がかり刺激依存的な記憶想起の神経機構である.
一 方 , ネ ッ ト ワー ク科 学 で は , ノー ド が密 に 繋が っ た か た ま り 部分のことを「コミュニティ」と呼ぶ[6, 7].コミュニティ構造は実世 界 にお け る 様々 な ネッ ト ワー クの一 般 的性 質で ある . ネッ ト ワー クか ら効 果 的・ 効率 的 に コミ ュニ テ ィ 構造 を検 出す る ア ル ゴ リ ズ ムの開発は,最近のネットワーク科学の中心テーマである.
す で に多 くのコミ ュ ニテ ィ 検出 アル ゴ リズ ム が提 案さ れて いる
[6, 7].その多くは,ネットワークに存在するコミュニティをくまなく
探そ うとするも のであ る. しかしながら,このような方 針による コミ ュニ テ ィ検 出 は , ネ ッ トワーク の サ イズ が巨 大 にな る と 実 行が 難 しくなる.
そこ で,別の方針によるコミュニ ティ検出を考える.ソースノー ドを定め,ソ ースノードが属 する コミュ ニティだけ に注目してこれ を検出することを試みる[8-10].ソースノードを起点としてリンクを 辿りながらネットワークを探索し,ある基準が満たされるまで探索 の範囲を拡げる.探索した範囲あるいはその一部をソースノード が属するコミュニティと判定する.この方針の下では,検出コミュ ニテ ィ付 近 の 情 報 ( 局 所 情報 ) だけ が用 い られ , ネ ッ ト ワーク 全 体あるいは他のコミュニティについては知る必要がない.
我々は,記憶想起の神経機構をモデルに,ネットワークからコ ミュニティを局所検出する方法を構築した.この方法によるコミュ ニテ ィ検 出は , 原パタ ン を劣化パタン か ら修 復 する 過程[4]と み なすことができる.ベンチマーク課題を用いて,この方法が競合 に設定した従来方法に対して優位であることを示した.
2.
方法
ネ ッ トワーク ( 簡 単の ために, リンク には 方 向がな いと す る) の 隣接行列 を
nm
A
A とする. ノー ドnとノードmとが繋 がって い
る な ら ば 1
nm Amn
A , そ う で な い な ら ば 0
nm Amn
A で あ る .
個々のノードをニ ューロン に,個 々のリンクをシナプス結合に対 応さ せる.ニューロンnの時刻tにおけ る膜電位および活性(発 火率)を,それぞれ,
n
p t および
n
f t とする.両者の関係を
n n n
f t p t p t (1)
で与える.ただし,x0ならば
x 1,x0ならば
x 0で ある.
n
p t の時間発展を次式で記述する:
1 1
1
nn nm m
N m
f t p t T f t F t
F t
. (2)た だ し ,
1 , 1
N N
nm nm l lm n n
T A
A F t
f t で あ る . 右 辺 第 一項 は ニ ュ ーロ ンnへ の こ れ に シ ナ プ ス 結 合 す るニ ュ ー ロン か ら の活 性 伝 搬を , 第 二 項は 抑 制 性 介在 ニ ュ ー ロン の活 性 化 によ って起こる興奮性ニューロン間の競合を表す[11].
コミュニティをセルアセンブリに,与えられた複数のソースノー ドを手 がか り刺 激で 初期 活 性化さ れ るニュ ーロ ン 群 に対応 さ せ る. 記 憶想 起 の神 経 機 構 を 記 述 す るダ イナ ミ クス(2)を用 いて , 手掛かり刺激依存 的な記憶想起とのアナロジーとして, コミュニ ティを検出するこ とを試 み る.こ れらのソ ースノードを要素とす る 集合をSとする.Sは,検出されるべきコミュニティCのメンバー ( 「 真 」 メ ン バ ー ) の 一 部
. .
, お よ び ,Cの メ ン バ ー で は な い も の
....
( 「 偽 」 メ ン バ ー ) か ら な る .
S
p S C と し ,
F
r F S と す る . た
だし,FはSが含む「偽」メンバーの数である.
ソースノード集合Sが与えられたとき,これに対応するコミュニ テ ィCの 局 所 検 出 を , 以 下 の 手 続 き で 実 行 す る . ダ イ ナ ミ ク ス
(2)の初期条件を次で設定する:
1 00
if node ; otherwise.
n
n S S
p
(3)
式(2)の 繰 り 返 し 計 算 に よ り , 電 位 の 定 常 状 態 分 布 を 求 め る :
(stead )lim n n
t p t p . (stead )
n
p を ノ ー ドnのCへ の 帰 属 度と す る .
ノ ー ド を 定 常 状 態 電 位 の 値 の大 き い 順 に 並 べ た と き , 上 位C
番目までのノードがすべてCの「真」メンバーであれば ,局所 コ ミ ュニ テ ィ検 出 は パーフ ェクトで あ る. こ のよ うにしてSからCを 局所検出する過程を,劣化パタン(S)からの原パタン(C)の修 復[4]とみなすことができる(図1).
連絡先:岡本洋,富士ゼロックス(株)研究技術開発本部, 〒220-8668神奈川県横浜市みなとみらい 6丁目 1 番. E-mail: [email protected]
†客員研究員
The 28th Annual Conference of the Japanese Society for Artificial Intelligence, 2014
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図1:劣化パタンから原パタンを修復する過程としてのコミュニティ局所検出.
点線で囲った部分が検出されるべき .....
コミュニティ.(左)色ノードはソースノー ド.青は「真」,赤は「偽」.(右) 黒ノードが検出された
...
コミュニティを示す.
コミ ュ ニテ ィ 構造 が既 知のネ ッ トワーク を用意 し,ソ ース ノー ド 集合
k
S を設定し,それからどれだけ正しくコミュニティ
k
C が再現
できるかを調べ る.そのた めに, ランク付けを伴 う文書検索の性 能評価に広く用いられている指標であるmean average precision
(MAP)を導入する.MAPは次式で定義される:
1
1 1 1
( )
( )
1 1
MAP 1
K N i
k i
k i
j j k
k z
z
K C i
. (4)ただし,i番目に大きな定常状態電位を持つ ノードがコミュニテ ィ
k
C のメンバーであるならば
( ) 1 k i
z ,そうでないならば
( ) 0 k i
z で
ある.0MAP 1 である.MAP値が高いほどコミュニティ検出は 正しい.特に MAP=1にとき,コミュニティ局所検出(劣化パタン からの原パタン修復)はパーフェクトである.
提案方法以外で,上に述べたようなパタン修復としてのコミュ ニティ局所検出を試みることができる方法としては,活性拡散法
[12]( パー ソ ナ ライズ ドペ ージ ラン クア ル ゴ リ ズ ム[13]) が 代表 的
で あ る . そ こ で , こ れ を 性 能 評価 の た め の 競 合 に 設 定 す る . 活 性拡散法における活性
n
p t の時間発展は次式で記述される:
1 1 1
0 1
Nn m nm m n
p t
T p t b (5)1 0
if node ; otherwise.
n
n S S
b
(6)
式(5)の右辺第一項は,活性が 割合1でネットワーク内 をリン クに沿って拡散するこ とを, 第二項は,任意のノードにおける活 性が割合でソースノードにショートカットで移動することを表わ す . 第 二項 がバ イア ス と して 働 き, 活 性 が一 定 割合で 常 にソ ースノードに引き込まれる.従って,定常状態においては, 活性 はコミュニティC付近に局在すると期待される.
3.
結果と議論
コミ ュニテ ィ構 造 が既 知 のネ ッ ト ワーク を用 いて , 提 案 方法 と 活 性 伝 搬 法と を MAP で 比 較 し た .Lancichinetti et al.の 方 法
[14]を用いて30個のコミュニティ(これらを正解とみなす)を持つ
ノード数N1000の人工ネットワークを合成した.最初に,
S
p の
値を 1に固定し,それぞれの方法による MAPを
F
r の関数とし
て求めた(図2a).次に,
F
r の値を0.3に固定し,それぞれの方
法によるMAPを
S
p の関数として求めた(図2b).提案方法によ
る MAP 値は,活性拡散法によるものよりも常に大であった.
F
r
が増加すると,活性拡散法による MAP は速やかに減少するが,
提案方法によるMAPは, 0.7
F
r (ソースノードの~70%が「偽」)
においても高い値(~0.9)に留まる(図 2a).
S
p を増加させると,
提案方法によるMAPは,活性拡散法によるものよりも速やかに 最大値1に漸近した(図2b).
同様な比較を,実社会ネット ワークであるアメリカンフ ットボー ル試合ネットワーク[15]について行った.このネットワークの個々 のノードは個々の大学のフットボールチームである.各チームは
11個の連盟のいずれか一つに属する.同じ連盟のチーム同士
は , 他 の連 盟 のチーム と よりも 頻繁 に試 合 を行うの で ,より 密 に
繋がる.11個の連盟を正解コミュニティとみなした.人工ネットワ ークの場合と本質的に同じ結果が得られた(図3a, b).
人工ネットワークおよび実社 会ネット ワークを用いて行った比 較評価の結果は,提案方法がコミュニティ局所検出に有効であ るこ と を示 す . と こ ろ で , こ れ まで に 提案 さ れ たコ ミ ュニテ ィ局 所 検出アルゴリズム[8-10]はほぼ全て,ただ一個 のソース ノードが 属するコミュニティを検出するものとして設計されており,本研究 で 想 定 したような , ソ ース ノー ドが 複数 あ って そ の中 に「 偽 」 メ ン バーが含まれるような場合には適用できない(これに対し,提案 方法はソースノードがただ一個の場合でもコミュニティ局所検出 を実行できる.data not shown).しかしながら実社会においては, 本研究で想定したような場合がしばしばある.例えば,あるコミュ ニテ ィのメ ン バー の一 部 を知っ て いる がそ れ には 間 違 いも 含ま れ てお り , その ような 状 況の下で, こ のコミ ュニテ ィの全て のメ ン バー を知ろ うと す る場 合で あ る. 脳 にお け る記 憶想 起 の過 程を モ デル に構 築した提案の 方法は ,こ のような コミ ュ ニティ検出を, 劣化パタンからの原パタンの修復として実行することができる.
謝辞:本研究はJPSJ科研費23500379, 23300061の助成を受けた.
0.00.10.20.30.40.50.60.70.80.91.0 0.0
0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 0.8 0.9 1.0
M
A
P
r
Fa
0.00.10.20.30.40.50.60.70.80.91.0 0.0
0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 0.8 0.9 1.0
M
A
P
p
Sb
図 2:人工ネットワーク.提案方法(○)および活性拡散法( ●)による MAP 値.(a) 1.0
S
p . (b) rF0.3.
0.00.10.20.30.40.50.60.70.80.91.0 0.0
0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 0.8 0.9 1.0
M
A
P
r
Fa
0.00.10.20.30.40.50.60.70.80.91.0 0.0
0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 0.8 0.9 1.0
M
A
P
p
Sb
図3:アメリカンフットボール試合ネットワーク.提案方法(○)および活性拡散 法(●)によるMAP値.(a) 1.0
S
p . (b) rF0.3.
参考文献
1. Funahashi, S., Bruce, C.J. & Goldman-Rakic, P.S. J Neurophysiol 61, 331-349 (1989)
2. Churchland, A.K., Kinai, R. & Shadlen, M.N. Nature Neurosci 11, 693-702 (2008)
3. Hebb, D.O. (1949). The Organization of Behavior. New York: Wiley 4. Hopfield, J.J. Proc Natl Acd Sci USA 79, 2554-2558 (1982) 5. Wang, X.-J. Curr Op Neuobiol 22, 1-8 (2012)
6. Fortunato, S. Phys Rep 486, 75-174 (2010) 7. Newman, M.E.J. Nature Phys 8, 25-31 (2013)
8. Bagrow, J.P. & Bollt, E.M. Phys Rev E 72, 046108 (2005) 9. Clauset, A. Phys Rev E 72, 026132 (2005)
10. Lancichinetti, A., Fortunato, S. & Kertesz, J. New J Phys 11, 033015 (2009)
11. Rabinovich, M. et al. Phys Rev Lett 87, 068102 (2001) 12. Collins, A.M. & Loftus, E.F. Psychol Rev 82, 407-428 (1975) 13. Page,L., Brin, S., Motwani, R. & Winograd, T. Stanford Digital
Library Technologies Project (1998)
http://google.stanford.edu/~backrub/pageranksub.ps 14. Lancichinetti et al. Phys Rev E 78, 046110 (2008)