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第 15 章
金融 (1) :中央銀行と金融政策
15.1 金融政策の目的
日本銀行法: 金融政策の目的は、物価の安定、国民経済の健全な発展、金融システムの安定 具体的な目標: 利子率、マネーサプライ、物価上昇率など
•日本銀行法にある目的を達成するため、利子率などを金融政策の具体的な目標とする 伝統的な金融政策: 利子率とマネーサプライを目標にする
• IS-LMモデルのLM曲線の動きで考えることができる
•金融緩和:マネーサプライ↑、利子率↓ → 景気刺激
•金融引き締め:マネーサプライ↓、利子率↑ → 景気抑制 インフレターゲット: 物価上昇率を目標にする
•中央銀行が目標とする物価上昇率(例えば2%)を示し、その実現のためにマネーサプライをコントロール
•中央銀行は物価安定を目指すべきでそれが景気にも良い影響を与えるという考え方
•一般的なIS-LMのLM曲線の動きでは考えない
量的緩和: 民間銀行の預金準備残高(法定準備以上の水準)を目標にし、中央銀行がマネタリーベースを供給する
• 2001年春∼2006年春、利子率が0%と伝統的な手法を使えなくなったために行われた
• 2008年のリーマン・ショック後のアメリカや2013年以降の日本でも行われる
•一般的なIS-LMのLM曲線の動きでは考えない
量的緩和のねらい: マネタリーベースの供給を通じて、社会のお金の流れを活性化する
•銀行貸出の増加を通じて投資や消費を刺激して、ISを右に動かす
15.2 中央銀行の独立性
独立性の意味: 政府の意図に左右されない
独立性の理由: 政府の圧力により、金融政策が歪められないようにするため
•政府は、中央銀行にインフレ的な経済運営を求める傾向がある → 国全体の経済にとってマイナス –選挙を意識して、過剰な金融緩和を求める
–国債の発行が簡単になるように、中央銀行に国債の購入を求める
独立性の担保: 日本の場合、最高意思決定機関である政策委員会に対する政府関与は限定される
•総裁など政策委員会の構成員の任命は国会の同意を経て内閣が行うが、解任はできない
•政策委員会に対し、政府の代表は議決権を持たない(出席はできる)
明海大学マクロ経済学:影山純二(学生用)
15.3 マネーから見る日本の経済状況
-30 -20 -10 0 10 20 30 40 50 60
Jan-80 Jan-81 Jan-82 Jan-83 Jan-84 Jan-85 Jan-86 Jan-87 Jan-88 Jan-89 Jan-90 Jan-91 Jan-92 Jan-93 Jan-94 Jan-95 Jan-96 Jan-97 Jan-98 Jan-99 Jan-00 Jan-01 Jan-02 Jan-03 Jan-04 Jan-05 Jan-06 Jan-07 Jan-08 Jan-09 Jan-10 Jan-11 Jan-12 Jan-13 Jan-14 Jan-15 Jan-16 Jan-17
(%)
%
M2 2004 3
マネタリーベース、マネーサプライの関係: 理論的にはマネタリーベース(Mb)↑→マネーサプライ(Ms)↑→利子率(R)↓
• 90年代前半まで、Mb↑→Ms↑→R↓。貨幣乗数が安定し、理論通り
• 90年代後半以降、Mb↑→Ms変わらず、Rは低位安定。流動性の罠へ陥る
–バブル崩壊 → 地価下落 → 土地担保の銀行貸出が焦げ付く → 不良債権増加 → 銀行経営悪化 → 信用創造機能低下 → 貨幣乗数低下
1985年プラザ合意と行き過ぎた金融緩和: バブルの原因になる
•プラザ合意:円高、西独マルク高とドル安へ向けた国際協調の合意
•円高圧力緩和に向け日本は金融緩和を行う → 行き過ぎた景気刺激策 → 株式や土地へ資金が流れ込み価格の高騰 → バブル 1990年遅すぎた金融引き締め: バブル崩壊の引き金の1つになる
•バブル経済の認識 →1990年金融引き締め → バブル破裂 → 失われた10年につながる
2001年量的緩和:2001年以降マネタリーベースが増加 → マネーサプライはあまり増えてない(効果ない?) 2006年量的緩和解除:2001年に始まった量的緩和を解除
2008年世界金融危機: 金融緩和へ回帰
2013年量的緩和(黒田バズーカ):2013年以降マネタリーベースが増加 → マネーサプライはあまり増えてない(効果ない?) 2016年マイナス金利: 民間銀行の日銀当座預金にある超過準備に対する金利が−0.1%になる
15.4 課題
(A4、上部に課題番号、学籍番号と氏名、計算過程も記入、読みにくい場合は減点)1. 稀に「高齢者の利子収入を増やして消費を刺激するために、日本銀行は利子率を上げるべきだ」との主張を見る。この主張に 反論せよ。
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