労働経済学 2 (第 2 回)
広島大学国際協力研究科
川田恵介
報酬設計
• 組織の構成員に対する報酬をどのように設定するか、 という問題は、組織の問題の中で、特に大きな関心を 集めてきた問題の一つである。
• 現実には、さまざまな報酬体系が存在し、事例研究も 積み重なっている。
• 組織の特性や状況に応じて、どのような報酬設計が望 ましいのであろうか?
なぜ企業は報酬を支払うのか?
多くの組織において、報酬システムを適切に設計すること で、 を行っている。
効率賃金モデル:労働者がさぼった場合解雇する。
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より多様な報酬システムが存在する。
労働経済学1の議論:労働力を労働市場から購入するた めに報酬を支払う。
本授業の目的
(注意1)報酬は金銭的なもの以外を考えることも可能
(注意2)企業組織だけではなく、教育、家庭など、多くの ケースにおいて応用可能
• 労働者の努力を以下に上手く引き出すか、という観点 から、報酬の在り方について、 「契約理論」をもとにし た考察を行う。
プリンシパルーエージェントモデル
• 2人の主体(プリンシパルとエージェント)からなる組織を 考える。
自身の利得最大化を目指して、契約を労働者に提示する。
自身の利得最大化を目指して、組織への貢献水準を選択 する。
契約
経済実験 (段取り)
1. 各自が配られた記録用紙に(プリンシパルとして)、成 果報酬額と固定報酬額をそれぞれ記載する。
2. 記録用紙を他者と交換する。
3. 交換した記録用紙に(エージェントとして)、その契約を 受け入れるかどうか、受け入れるならばどの程度貢献 するかを記入する。
4. プリンシパルとエージェントの利得を記載し、プリンシパ ルに返却する。
経済実験
• プリンシパルの利得=総利得-報酬(退出された場合0)
• エージェントの利得=報酬ー貢献費用(退出した場合0) 報酬契約
報酬=成果報酬+固定報酬
成果報酬:総利得の内、エージェントに支払う割合
固定報酬:総利得と関係なく、エージェントに支払う額 最適報酬契約とは?
問題の構造
• プリンシパルの戦略を報酬の設定、エージェントの戦略 を貢献水準の決定、としたシュタッケルベルクゲームに なっている(プリンシパルがリーダー)。
• プリンシパルとエージェントの間で目的が異なっている。
• 自身の目的を達成するためには、相手の行動が重要
⇒プリンシパルは、報酬契約を用いて、上手くエージェント の行動を する必要がある。
IC条件、IR条件
プリンシパルによって提示された契約に応じて、決定される エージェントの貢献水準
エージェントやプリンシパルが、組織に留まる条件=利得 が外部機会以上になっている。
外部機会:組織から出た場合に得られる利得(今回は0)
本実験におけるIR、IC条件
IR条件:
IC条件:貢献水準は、エージェントの利得を最大化するよう に決まる。
• 限界報酬>限界貢献費用ならば、努力水準を
• 限界報酬<限界貢献費用ならば、努力水準を
(注意)固定費用は貢献水準に
本実験におけるIC条件
• 限界収入=100×成果報酬割合
• 限界費用は、1から2:55、2から3:65、3から4:75、 4から 5:85、5から6:95、6から7:105、 7から8:115、8から9:125、 9から10:135
(組織の)総余剰
プリンシパルの利得+エージェントの利得
=総利得-貢献費用
総余剰最大化を達成するような貢献水準が達成されてい る状態=組織が、潜在的に生み出しうる最大の価値を生 みだいしている状態
本実験における均衡報酬契約
• IR条件を統合で見たす必要がある。よって固定報酬は、
• プリンシパルの利得に代入すると、
• よって を最大にするよう に成果報酬は設計される必要がある。
プリンシパルの利得を最大にするような報酬契約は?
⇒IR、IC条件を満たす必要がある。
本実験における均衡報酬契約
• 貢献水準が
• IC条件より、 を達成するには、成果報酬と して が選択される必要がある。
• IR条件満たす必要があるので、
直観的理解
• によって組織の総余剰は、コントロールできる。
• によって総余剰の、プリンシパルとエージェン ト間の分配をコントロールできる。
• IC条件に従って、 を最大にするように を選び、IR条件を満たす水準まで によって余剰をプリンシパルに分配している。
エージェントのプリンシパル化
• IR条件を代入したプリンシパルの利得は、
エージェントの利得は、
• 、とすることで、目的が一致する。
頑健性チェック ( その1 )
• 労働者の外部機会が0よりも上昇したらどうなるか?
• 市場競争の激化、組合との交渉、利他性
• エージェントの外部機会が300まで上昇した。
• は、変化しない。
• は、エージェントの利得=300
⇒
頑健性チェック ( その1 )
• IR条件をプリンシパルの利得に代入すると、
• 、なので総余剰 を最大化する貢献水準は 、この努力量を達成する成 果報酬は 割(外部機会0の場合と変化せず)
固定報酬は、
まとめ
• インセンティブを高めるために、成果報酬の割合を高 める必要がある。
• 今回の実験では、成果報酬の割合が極めて大きくなる。
• フランチャイズ制など、現実の事例もいくつかあるが、 ここまで強い成果報酬制度を取っている例は多くない。
• なぜか?⇒