ジェイムズ・スチュアート『経済学原理』第1編ダイジェスト版
文責 モモモーモ・モーモモ
<0>ジェイムズ・スチュアートって誰?
18世紀に活躍したイギリスの経済学者。スミスよりもやや前の世代。名誉革命の際反革命サイド
=ジャコバンとして活動しており長い亡命生活を強いられた模様。この『経済学原理』も発表当時は 相手にされず後発のスミスの影に隠れちゃってる。また、失礼極まりない現代人には
JS
ミルと勘違い されたり(ミル自身も『経済学原理』という同名の著書を発表している。因みに私もこの本を入手す る際ミルの本だと勘違いしてた。)、<1>経済とは?(序論)
・経済の目的意識
経済の目的は構成員の欲望を充足させるのに必要な物資を与えることと、構成員間に相互関係と依 存の状態が自ら形成されその結果それぞれの個人的な利益に誘導され各々の相互的な欲望を充足しあ う関係を作るべく仕事を与えることである。
・社会の主人に必要な心構え
経済を執行するのはその社会の支配者の仕事である。その上で、支配者としての仕事と執行者とし ての仕事を混同しない必要がある。支配者としては被支配者を制御することが仕事であるが、執行者 としては手際よく処理することと自分自身が定めた規則に束縛されることが求められる。支配者とし ては自由自在に決定できるが執行者としては決定から逸脱しないことが求められる。
・経済という術をい用いる上で考慮すべきこと
経済が持つ様々な作用があるがそれを有益な方向に作用させるためには適用される側の共同体の
「国民」の精神、風習、習慣あるいは慣習に合わせていくことが必要である。その準備を怠ると効果 は失効しかねない。
<2>政治とは?(第1章)
・人間の行動原理とその性質
時代や国や風土に関わらず利己心、便宜、義務、情熱といった原理に基づいて行動する(逆にこれ ら以外の点では時代・国・風土によって違いが現れると云ってもよい)。このように人間の行動の諸 動機は多様な情況を作り出し、他の動物に比べると個体間での違いが甚だしい。また、人間は必要性 およびその性向から社会的な生き物であるといえる。歴史的には彼らの中には一定の支配-被支配関 係が発生している。その形態そのものは多様性が見られるが権威への自発的服従が結果として全体の 利益の増進を意図しているところでは共通している(その全体が何を指すのかということについては 文責者自身は一つ一つ精査していくべきだと考えるが、飽くまで著者自身はどうやら全ての階級への い平等な愛というものが存在するという立場を取っているためこのような結論に至ったのであろ う。)。
・政治を行う上での目的意識
これは凄くシンプルなものである。早い話が政府は常に動きまわり新しい制度がもたらす効果につ いて考えろ、そして過ちは施政上必要とあらばその都度改めろということである。
・政治と基本法
基本法という概念があるが、人間社会においては本質的に不変な法律というものは存在しない。な ぜなら人間自身が最も変化しやすいから。唯一そう呼べるものがあるとすれば「国民の幸福」だがそ れさえも常に相対的なものであることに注意。勿論、統治の上では必要な概念ではあるし動乱期でな ければ不変であると考えることも可能っちゃ可能だろうけど。
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<3>欲望からの貨幣経済社会(第6章)
・奢侈→貨幣→欲望→フリーハンズ→生産剰余
奢侈とは、人間の労働によって生産され、かつ人間の衣食住及び防御上必要ではないものを消費す ることである。
貨幣とは、奢侈の目的を達成しようとする場合にそれに交換できるだけの質量的用途を持たず、か つ人間の意見に基づき価値と呼ばれるものの普遍的尺度になり譲渡されるものの適切な等価物になり うるという評価を得ている財貨(いわば、使用価値は持たないが人間の意見に基づき交換価値が認め られる財貨って言うことだと文責者は考えた。)である。貨幣は、それを発明するだけの才知があり、 それが必需品と同等の交換価値が認められること(言い換えると貨幣を使用することによって自分が 労働することなしに他人の労働や食物などを獲得することができるということ)を共同体の構成員に 理解させ愛好させるだけの力量を持つ人の手中に見出される。
その貨幣は一つの新しい欲望を誘発させる。貨幣を所持する者は先述の通りそれを交換手段として 用いることで労働を課されることなく労働や必需品を入手できることができるため、貨幣を所持した いという欲望が生まれる。
そうして、貨幣を一定所有し労働をせずに生産物を消費する階層(=フリーハンズ)が一定の数だ け存在するようになる。そうなると当初は生産物が不足し需要過多になり生産物を得るために貨幣が 支払われるようになる。そうして貨幣が最上の交換手段となる。そこで、先程の欲望から多くの人が 貨幣を得るために生産活動に勤しみ(=勤勉になり)生産剰余が生まれる。生産剰余を生み出すこと に成功した富者はその剰余を用いて貨幣を得るべくフリーハンズと交換活動を行う。その繰り返しの 結果、生産剰余は増え続ける。この繰り返しの中で住民は労働者とフリーハンズに分離していく。
<4>奴隷制の根拠(第7章)
・欲望とフリーハンズの関係
欲望が少ない時はそれを満たすのに必要な貨幣も少なく結果としてフリーハンズも多く必要ない。 もし欲望が少なくフリーハンズが多い状態である場合、フリーハンズを養うだけの生産剰余が足りず 共同体は滅亡してしまう。つまり、フリーハンズを養える条件は欲望が多くその結果として生産剰余 が多い状態であることである。
・奴隷制の目的意識
共同体全体の欲望が大きく育ってはいない過程ではその小ささに応じて生産余剰も少なく生産者が 養える人間の数も大きくない。しかし、そのような過程にあっても共同体が(もしくは支配者が)フ リーハンズの数を大きくしたいと考えた。王侯は大きな軍隊を欲し、自由国家では自由な市民が多く いることを自分の国の力の源と捉えていた。そこで、共同体全体の欲望が小さい中でも共同体の一部 の人間をそれ以外の人間を養うために無償で働かせ生産余剰を大きくしていくことが奴隷制の目的意 識と言えよう。
・奴隷制の利点
奴隷制の利点は、放っておくとお互いに戦争をするような粗野な人間である場合では捕虜を奴隷に することで無駄に人口が減ってしまうことへの防波堤となる点と全体としてよく統治されかつ欲望が 少ない状況に於いても生産余剰を作ることで人口を増やすことを担保できる点である。
・奴隷制の存在条件
奴隷制の存在条件は人口を増やすのに十分な生産余剰を生み出すだけの欲望が備わっていないこと である。もし、欲望が十分に備わった状態ならば住民は己の欲望に駆られてよく働き生産余剰を生み 出す(このことを己の欲望の奴隷と表現する。また、一般的に資産家でない限り生産余剰を生み出し 貨幣と交換することを生きることの条件とされているが、この状態は後に『賃金奴隷』と呼ばれ る。)ので、生産剰余増大→人口増大のための奴隷制は存在意義を失う。