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ICR
ICR predicted LKG predicted LKG
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⎪ ⎪
⎪
⎩
⎪⎪
⎪ ⎪
⎪
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∂
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∂ =
∂
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∂
∂
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∂
∂
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1
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2
2 2
2 2
1 1
1 1
図:遺伝子型の異なる2種の大腸菌からなる人工共生系()系を構成する2種の大腸菌株と利害関係
()共培養実験における2種菌体濃度0(●) 5(▲) および単独培養から推定された共培養時の 2種菌体濃度0-*3+2)3(○)5-*3+2)3(△)(2) この人工共生系の数理モデル
およびはそれぞれ05 ロイシンおよびイソロイシンの濃度 は各種速度係数または 平衡定数
テムどうしが新たな関係を構築する際の機構の一 つとして 我々は「アトラクター選択」を発展させ た「アトラクター重畳」という概念を提案する
これまで 生物は未知の環境に対して「アトラク ター選択」の原理に基づき適応することが可能で あることを示してきたここで 異なる生物システ ムに遭遇するという変化も未知の環境変化と捉え ると それぞれの生物システムで「アトラクター選 択」が起こり 少なくとも一部のネットワークが同 じ物質を共有する つまり ネットワークが結合し 共通の2)+6+)'(例えば生物では増殖速度)が高い 方へと新たな安定状態をもたらす「アトラクター 重畳」が引き起こされると予想される(図$)こ のような背景のもと 我々は 複数の生物システム が いかに協調関係を生み出し 「アトラクター重 畳」を引き起こすのか解明するために 現存する共 生系の解析ではなく これまで全く遭遇したことが ない生物群からなる新規人工共生系を用いている なぜなら 現存する共生系はすでに「アトラクター 重畳」が完成している状態であり それまで別々に
進化してきたネットワークが どのような環境でど のような変化を伴って「アトラクター重畳」を引き 起こすのかを解明することは出来ないためである アトラクター重畳の概念を具体化するために 我々は最も単純な人工共生系を構築した #そ れは 遺伝子型の異なる2種のアミノ酸要求性大腸 菌変異株(増殖にそのアミノ酸が必須)からなる 系である(図")具体的には アミノ酸の一種で あるイソロイシン生合成に必須な遺伝子を欠損さ せたイソロイシン要求性株(0)および同様に ロイシン要求性株(5)であるそれぞれ 赤色 蛍光タンパク質0およびの遺伝子をゲ ノムに組み込むことにより 蛍光で見分けることが できるように標識されているこれら大腸菌変異株 は 互いにロイシンおよびイソロイシンを供給しあ うことで初めて増殖できる最も単純なモデル生物 である大腸菌のみを用い それぞれ唯一の栄養物質 を供給しあう 最も単純な相利共生系である
ロイシンおよびイソロイシンのどちらも含まな い最小合成培地において 両者を共培養すると協調
して増殖した(図")この系について数理モデ ル(図"2)を作成し解析したところ 以下のよう に興味深いことがわかったまず それぞれの大腸 菌に対し 必要なアミノ酸を供給して単独培養を行 い 単独培養時における数理モデル内の速度係数を 求めたこれら単独培養時における速度係数を用い て共培養を予測すると 共培養の実験結果はこの予 測に比べ 10倍程度増殖が速いことが示された さらに 共培養時の速度係数の中でも5による
0へのイソロイシン供給速度定数(図"2 ¾)が 単独培養時に比べ倍程度大きくなっているこ とがわかった#
ここでみられた 相手に必要なアミノ酸供給量を 上昇させるという大腸菌の表現型変化は 以下の 理由で特殊である通常 生物は増殖率があがるよ う変化したものがその環境を占有し 結果的にそれ が適応的な変化であったといえるこれは自然選択 と呼ばれているしかし この系で観察された変化 は自然選択ではないなぜなら 相手に対して有益 な変化は 結果的には自分の増殖率を上げるが 有 益な変化をしていないものと比較して増殖率が高 いわけではないからである具体的に 例えばある
5が イソロイシン供給が上昇するように変化 する(57とする)ことで0が増殖し 最終的 に57にロイシンが供給されたとしても このと きには変化していないもともとの表現型を示す他 の5も同様にロイシンが供給されるため 変化 した57が変化前の5にくらべて増殖率が高 いわけではないのであるではなぜこのような相手 にとって有益な変化が起こったのか?このような大 腸菌の変化は共培養時にしか見られないため0 と5の間に相互作用が つまりそれぞれの細胞 内生化学反応ネットワークの融合が起こったと考 えられるさらにこの変化は 通常の自然選択では 説明できず 両者の協調を考慮した適応的な変化で あったつまり 上述した「アトラクター重畳」が 起こっていることが示唆される現在は 先述した 遺伝子ネットワーク解析手法を用いて この協調的 な変化における遺伝子ネットワークの変化の解析 を始めている
その他 繊毛虫であるテトラヒメナと大腸菌の人 工共生系においても 数ヶ月ほど継代培養すると テトラヒメナが大腸菌に対する栄養供給速度をあ げるよう変化した結果を得ているこれも同様に
相手に対する栄養供給能を上昇させる変化は自然 選択のみでは説明できず やはりテトラヒメナと大 腸菌の共生系に関しても「アトラクター重畳」が起 こっていることが示唆される以上のように 様々 な生物種を用いた人工共生系において 「アトラク ター重畳」が起こっていることを示唆する実験結果 が得られており 現在はその遺伝子発現ネットワー クの解析を開始している
まとめと展望
生物ダイナミクス領域では 環境変動や他の生物 との相互作用といった予期せぬ状況変化に柔軟に 適応する生物ネットワークが採用している原理を 学び アンビエント情報基盤構築に応用することを 目的として 生物ダイナミクスを解析していく 世紀 にて提唱された生物が未知の環境に適応 的に応答する「アトラクター選択」の原理を発展 させ 与えられた外力に対する変動の大きさを予測 することが可能な「アトラクター摂動」の原理 お よび 異なるネットワークが相互作用し重畳するこ とで互いに適当な状態を形成する「アトラクター 重畳」の原理を創出することを目的として研究を 進めていく本年度までに 自然界に見られる共生 現象の解析ではなく 人工的に共生系を構築する構 成的手法により これらの現象を定量的に観察し得 る実験系を立ち上げ これらの現象が生物システム で再現可能なものとして起こることが確認された また 細胞内の遺伝子の高自由度ネットワークの解 析を高精度で行い得る測定系を開発した今後は これらのシステムを用いて 予期せぬ状況変化に対 して 生物システムが「アトラクター摂動」 「アト ラクター重畳」を重要な原理として採用して駆動 していることを実証することが重要となる最終的 には これらの原理を情報ネットワークに適用可能 な原理として創出し アンビエント情報ネットワー ク基盤における有用性を実証する
参考文献
「ネットワーク共生環境を築く情報技術の創出」
成果報告書文部科学省世紀プログラム 研究拠点形成費補助金 年月
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著堀 道雄I監訳神崎 護幸田正典曽田貞滋I校 閲責任#生態学 個体・個体群・群集の科学 原 著第三版2京都大学学術出版会 年月
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文責:
清水 浩
大阪大学大学院情報科学研究科
4!+(+89:+4)14;92<-アンビエントネットワーク領域
はじめに
アンビエント情報環境において,そのネットワー クに求められる特性は,ユーザを取り巻く情報環 境自体がネットワークリソースを制御することで,
ユーザに意識させることなくユーザの望む環境を 提供できることである.そのためには,センサー ネットワーク技術やネットワーク測定技術を基盤 として,環境の現在の状態をリアルタイムに把握 し,ユーザの時々刻々変化する通信要求に基づい た制御を実現する必要がある .
このような特性を有すネットワーク環境を具現 化するには,従来と根本的に異なるネットワーク のとらえ方が必要となる.つまり,ユーザが望む環 境をユーザ自身が明示的に指定する伝統的なネッ トワークのモデルとは異なり,ユーザとユーザを 取り巻く情報環境との不断のインタラクション自 体を,環境設計に取り入れることが不可欠となる.
この問題を解決するには,工学的な飛躍が要求 される.なぜなら,アルゴリズムの精緻化による 従来の問題解決アプローチでは,次のような根本 的な問題が不可避なためである.
ユーザの求める環境を提供するには,ユーザ の履歴情報をあらかじめ学習する必要があり,
動的な状況で適切な環境をリアルタイムに提 供することが困難である.
ネットワークの性質が既知であることを制御 の前提としているため,故障を含む予期せぬ 環境変動に対応できない.
あらかじめすべての状態とそれに対する動作 を明示的に設計に反映させる必要があるため,
システムが大規模な場合,記述状態が爆発し 実現が困難である.
そこで本研究領域では,生物に関する知見を基 盤とした新しいアプローチを追及する.具体的に は,生物の適応的な振る舞いを参考に,ネットワー ク環境をダイナミカルシステムとしてモデル化す る.このモデル化に基づくことで,ユーザとネット ワーク環境とのインタラクション,さらには,複
数のネットワーク環境間で生じるインタラクショ ンを,理論的に取り扱うことが可能となる.そし て,そのようなインタラクションを包摂したダイ ナミカルシステムとして,情報ネットワーク環境 を制御する技術を開発する.
こうして実現される技術により,環境側がネッ トワーク資源を制御することで,明示的な操作な しにユーザの望む環境を,適応的かつリアルタイ ムに提供することが可能となり,アンビエント情 報環境の実現に必要なネットワーク基盤の確立が 実現できる.
本研究領域では,このようなアンビエントネッ トワーク環境を実現するために,次のような研究 課題に取り組んでいる.
アトラクター選択・摂動・重畳に基づくネッ トワーク制御
創発性・自己組織性を有するネットワーク制御
進化ゲーム理論に基づくネットワーク解析と 制御
分散アルゴリズム的アプローチに基づくアン ビエントネットワーク環境
ディペンダブル情報ネットワークの構築 ここで,アトラクター選択や,アトラクター摂 動,アトラクター重畳とは,人間の動作を含む予 見困難な情報ネットワークの特性を,その不確実 性をも内包したシステムとして記述し制御するこ とを可能にするモデル化手法である.
不断のインタラクションを考慮した場合,ネッ トワークを時間発展するシステムとして取り扱う 必要があるため,自己組織型制御をそのためのフ レームワークとして用いる.進化ゲーム理論は,そ のような創発型制御を取り扱うための,強力な理 論基盤を提供している.
また,オーバーレイ等のバーチャルなネットワー クを考えた場合,アプリケーションに近い分散ア ルゴリズムのレベルでの制御が必須であり,設計 の信頼性(ディペンダビリティ)を保障する工学 技術とともに研究する必要がある.