第 5 章 乱流モデル 91
5.2 Baldwin-Lomax モデル
ここでは,0方程式モデルの代表例ともいえるBaldwin-Lomax モデル(1978)(74)(114)について述べ る.0方程式モデルとは,乱流の生成と散逸が等しい平行モデルのことで,流線型物体の高レイノル ズ数流れで剥離がなく圧力勾配が小さい場合は,他の高次モデルよりも信頼性が高いといわれている.
Baldwin-LomaxモデルはCebeci-Smithモデル(1974)に修正を加え使い易くしたものである.具体 的に言うと,Cebeciのモデルにおいてはµtを求めるために乱流境界層(turbulent boudary layer)外 縁を定めなければならなかったが,Baldwin-Lomaxモデルでは渦度(vorticity)を利用(乱流スケー ルを境界層内の渦度分布から計算する)することでその必要を取り除いている.Cebeciのモデルと
Baldwin-Lomaxモデルはかなり類似しているが,違いは外層での速度スケールの取り方で,Cebeci
のモデルは速度に,Baldwin-Lomaxモデルは渦度に基づいている.
Baldwin-Lomaxモデルでは,境界層を内層(inner layer)と外層(outer layer)に分けて渦粘性係数 を近似する.いわゆる混合長理論(mixing length theory)に基づいた代数乱流粘性モデルである.ま た,平板に対するモデルながら広範囲の高速流体現象に適用が可能である.
本章では,初めにその0次方程式の基礎理論として壁法則(wall-law)について述べる.そして,そ れの応用である実際計算で使用した渦粘性係数の導出方法について述べる.
5.2.1 壁法則(壁関数)
壁面近くの流れは,そこで重要な役割をする物理量の密度ρ,動粘性係数ν,壁面からの垂直方 向距離yn,壁面摩擦応力τw により支配されている.この流れ全体にかかる量であるレイノルズ数 Re=ud/νには無関係であると推測される.前者のうち壁面摩擦応力τwと密度ρから次式の速度次 元の量を導く.
uτ = τw
ρ (τw =µ∂¯u
∂y|w)
これを壁面摩擦速度(friction velocity)と呼ばれ,壁面近くの流れの代表速度とみなす.
これを使いレイノルズ数と同様な無次元パラメータy+をもとめる.
y+= uτyn
ν
このy+によって壁面近くの速度分布が決められる.これをPrandtlの壁法則(law of wall)とい う(101).
¯ u(y)
uτ
=fn(y+)
乱流境界層の壁近くには上記の壁法則の普遍速度分布u+ = ¯u/uτ が存在する.壁面近くの速度分 布を次の3層モデル(壁関数)として考える.
粘性低層 : 0≤y+≤5 : u+=y+
遷移層(バッファー域) : 5≤y+≤30 : u+= 5.0lny+−3.05
乱流層 : 30≤y+ : u+= κ1lny++ 5.0
但し,
カルマン定数κ= 0.41, u+= u uτ
, y+= uτyn ν したがって,これより,渦動粘性係数は,
粘性低層 : 0≤y+≤5 : ννt = 0 遷移層 : 5≤y+≤30 : ννt = y5+ −1 乱流層 : 30≤y+ : ννt =κy+−1
5.2.2 渦粘性係数(乱流粘性係数)の導出
この章の始めに述べたが,このモデルでは渦粘性係数を求めるのに,境界層の内層(inner layer)と 外層(outer layer)に分けて次のように考える.
内層 : Prandtl-Van Driestの公式 外層 : Clauserの公式の改良
ここでは,乱流モデルの主問題となる渦粘性係数の導出の方法を説明する.
乱流の影響は,渦粘性係数(turbulent viscosity) µt の項において評価され,輸送方程式の粘性項 における粘性係数は,混合長理論より,µl+µtに置き代える事ができる.
Baldwin-Lomax モデルでは渦粘性係数µt を次の2層領域に分け考えられる.
µt=
(µt)inner yn≤ycrossover (µt)outer ycrossover < yn
但し,ynは壁からの垂直方向の距離,ycrossoverは,内領域(inner)外領域(outer)の各式から得ら れるそれぞれの値が一致するときのyn の最小値である.
内層
内領域ではPrandtl-Van Driestの公式が使われる.すなわち,
(µt)inner= ¯ρl2|ω| 但し,
l=κynf
f = 1−exp
−y+ A+
lは混合距離,fは壁面補正(減衰関数)を,またA+は定数,κはカルマン定数を示している.更 に,|ω|は渦度の大きさで,
|ω|=∂˜u
∂y −∂˜v
∂x
また,y+ はいわゆる壁法則(law of the wall)である.すなわち,
y+= ρ¯wuτyn µw =
√ρ¯wτw
µw yn (uτ = τw
¯ ρw)
但し,添字w は壁の値を表わし,uτ は摩擦速度(friction velocity)である.
外層
次に外領域ではClauserの公式をKlebanoffの間欠関数(intermittency function)FKLEB(yn) で補 正した次式が用いられる.
(µt)outer=KCCP·ρ¯·FWAKE·FKLEB(yn) (5.2) 但し,KはClauser定数,CCPは補正定数を示している.FWAKEは次式となる.
FWAKE= min
ymaxFmax , CWK·ymaxUDIF2 Fmax
(5.3) ymaxとFmaxは次式の最大値より決定される.即ち,
F(yn) =yn|ω|{1−exp
−y+ A+
} (5.4)
Fmaxとは,ある縦断面で発生するF(yn)の最大値のことであり,ymax とは,その時のyn の値を 表す.伴流域(wake area)において,式(5.4)の輸送項は零にセットされる.
また,間欠関数FKLEB(yn)は次式のように与えられる.
FKLEB(yn) =
1 + 5.5
CKLEB ymax yn
6−1
UDIFはその縦断面における速度の最大値と最小値の差である.即ち,
UDIF= ((u˜2+ ˜v2)max−((u˜2+ ˜v2)min
UDIFの第2項は,伴流域を除いて通常零とする.外領域の公式(5.2),(5.3)は,境界層に続く領域 および隔てた領域のみならず伴流域にも用いることができる.
要するに,渦度の分布が長さ決定のために使われることになる.従って,境界層(または伴流域)
外縁を定める必要がなくなるわけである.
なお,渦粘性係数の導出の諸関係式に現れる定数を次にまとめて示しておく.
κ = 0.41
A+ = 26.0 CCP = 1.6 CKLEB = 0.3 CWK = 0.25
K = 0.0168
CMUTM = 14.0
5.2.3 基礎方程式の変形
このBaldwin-Lomax モデルにおいて,圧縮性流体解析の基礎方程式は次のように変形される.
混合長理論より,応力項での各応力テンソルにレイノルズ応力が加算される式は,単純に次のよう における.ここでは,粘性応力τij−lとレイノルズ応力を合わせて全体の応力τij とする.
τij =τij−l−ρu”v” = (µ, l+µt)(∂u-i
∂xj
+∂u.j
∂xi −2 3δij
∂u.k
∂xk
)
このことより,基礎式は以下の様になる.また,各物理量でρ, pはレイノルズ平均値,その他u, T に関してはファーブル平均値である.
連続の式
∂ρ
∂t +∂(ρu)
∂x +∂(ρv)
∂y = 0 運動量の式
[x 方向] ∂(ρu)
∂t +∂(p+ρuu)
∂x + ∂(ρuv)
∂y = ∂τxx
∂x +∂τxy
∂y [y方向] ∂(ρv)
∂t + ∂(ρuv)
∂x +∂(p+ρvv)
∂y = ∂τyx
∂x +∂τyy
∂y エネルギーの式
∂(ρe)
∂t + ∂
∂x((ρe+p)u) + ∂
∂y((ρe+p)v)
= ∂
∂x(uτxx+vτxy+cp
/ µl P rl
+ µt P rt
0∂T
∂x) + ∂
∂y(uτxy+vτyy+cp / µl
P rl + µt P rt
0∂T
∂y)
この式を,無次元化・一般座標変換を行う.一般座標変換は,乱流モデルの有無に関わらず,変わ りなく,規則通り変換される.無次元化も特に注意すべきことなく,新たに出てきた物理量渦粘性係 数µtの影響は,全くない.
また,圧力を全エネルギーから求める際,必要な1/2u,iui(=k)は,このBaldwin-Lomaxモデル でのRijのモデル化は,ρ¯u,iui = 0となる.つまりk= 0であるため,乱流モデルの無い場合の圧力 の導出方法のまま使用される.
このように,乱流モデルを組み込んだことによる,無次元化の変更個所は全くなく組み込み前の場 合と同じになる.ここで,唯一の新たな物理量である渦粘性係数µtの無次元化は,まず全ての物理 量を有次元にし,有次元で計算を行い算出する.その後,算出されたµtを代表粘度µ0で除算し無次 元化を行う.