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考    察

ドキュメント内 は じ め に (ページ 107-128)

近年,カンピロバクターによる食中毒が全国的に多 発し食中毒発生件数の30%以上を占めている。カンピ ロバクター食中毒の原因食品は主に鶏肉とされている が,牛レバーが原因の事例も多い。国内外の研究者に よると鶏肉等からのカンピロバクター検出率は40%以 上,牛レバーからは10%以上であるとされている36。 今回実施した市販鶏肉におけるカンピロバクター汚染 実態調査の結果,菌検出率は鶏肉で54.5%,鶏レバー 91.0%,牛レバー25.0%と,本県においても市販食肉 がカンピロバクターに汚染されていること,また,肉 よりもレバーの方が高率に汚染されていることが確認 された。牛レバーの汚染は胆汁中の菌によると考えら れることから,牛胆汁について菌検出を行った結果,

30検体中6検体(20.0%)からC. jejuniが検出された。

1検体からはC. coliも同時に検出された。

直接塗抹法で算出した食肉中の菌量は,鶏肉で1検 体が50cfu/gで,他の5検体は検出限界以下であった。

鶏レバーは102/gオーダーのものが7検体で全体の 70%を占め,食肉より内臓の方が汚染が高い値を示し た。川森ら11)も,市販食肉から検出される菌数はg当 たり100以下であることを報告しており,食肉の菌汚 染程度は低いと思われた。しかし,胆汁中の菌量は多 く,胆汁中のカンピロバクターは4℃保存で約2週間

図 3  保存温度別消長試験(B)

表 3  浸出液からのカンピロバクター検出

図 1  C.jejuni分離株の血清型別(Penner)

図 2  保存温度別消長試験(A)

検体名 検体数

陽性検体数

検出率(%)

C.jejuni C.coli

ム ネ 肉 7 2 0 28.6

モ モ 肉 11 2 0 18.2

手 羽 肉 10 3 0 30.0

レ バ ー 4 2 0 50.0

32 9 0 28.1

ほどんど菌量変化がないとの報告もあり8,胆汁がカン ピロバクターの汚染源となる可能性が強く示唆され,

と畜場での汚染拡大防止が重要であると思われた。

次に鶏肉からの簡易定性検査法として,食肉包装パ ック内の浸出液あるいは浸出液が浸み込んだ敷紙から の菌検出を試み,32検体中9検体(28.1%)から菌を 検出した。今回,市販鶏肉の少量パックを検査対象と して得られた結果であることから,本検査法は試料が 少ない,もしくは浸出液のみの検体からの菌検出法と して有効であると思われた。

カンピロバクターの血清型別は,Penner型および Lior型で分類されるが,Lior型別用抗血清は市販され ておらず,本研究には市販のPenner型別試験用試薬で 分類した。鶏肉等から分離された69菌株は,44菌株が 16種類の型に分けられたが,25菌株はPenner型では分 類できなかった。血清型はB群,D群が最も多く,と もに10菌株(14.5%)であった。血清型の違いによる 病原性の強さは明らかではないが,B,D群は食中毒 事例から高頻度に検出される血清型である。胆汁から 分離された菌株にはB,D群は少なくB群が2菌株の みで,型不明が72.2%を占めた。通常,細菌性食中毒 の疫学調査では原因菌の血清型別は重要な指標となる が,同一検体から複数の血清型菌株が検出されたり血 清型不明菌株が多数検出される場合のカンピロバクター 食中毒事例においては原因の特定は困難であると思わ れた。さらに,今回のように牛胆汁の1検体からC.

jejuniとC. coliの2種類のカンピロバクターが検出され

る例もあり,カンピロバクター食中毒事例での菌検出 と血清型別による原因究明は慎重にする必要があると 感じた。

カンピロバクターの治療の第一選択剤としてはエリ スロマイシンやニューキノロン系薬剤が推奨されてい る12)。しかし近年ニューキノロン系薬剤に対する耐性 菌の増加が問題となってきており,今回調査した検体

26菌株のうち3菌株(11.5%)がLVFXに耐性を示し

た。しかも,検出した2菌株は市販鶏肉由来であった ことから,今後とも食肉からのカンピロバクター汚染 状況の把握と分離菌のキノロン系薬剤耐性について継 続した調査が重要と思われる。

カンピロバクターは少量菌量で感染が成立するとさ れている8 。カンピロバクターで汚染された食肉は消

費までの流通過程でいかに菌が消滅していくかを,食 肉に菌を添加して低温保存し実験的に調べた。その結 果,PBSに菌を添加した場合は,−20℃では1日目で,

4℃では14日目で菌が検出されなかった。一方,豚レ バー乳剤に菌を添加した場合は4℃および−20℃でも 7日目までほとんど菌の減少は認められなかった。つ まり,食肉中の菌は低温に管理されていても流通過程 や施設での保管中完全に死滅することなく生残し,食 中毒の感染源となる可能性が示唆された。カンピロバ クターによる食中毒防止のためには,食肉の十分な加熱 調理とともに,調理器具や調理者の手指の消毒を行い 二次汚染防止を徹底することが必要であると思われる。

1 )食品衛生研究,9, 62(2004).

2 )齋藤紀行,白取剛彦,山本仁:医学のあゆみ,136

(7),525(1986).

3 )神保勝彦,小久保彌太郎,金子誠二,桐谷礼子,松 本昌雄:東京衛研年報 ,37,129(1986).

4 )大畑克彦,山崎史恵,佐原啓二,大村正美,増田高 志,堀渉,内藤満,赤羽荘資,花村悦男,山口人志,

森田剛史,木村隆彦,山口俊英,興津馨,勝又國久,

久嶋弘,幾島隆雄,長谷川進明,早川敦子,大成幸 男,服部道明,岡村芳静,宮下弘:静岡県衛生環境 センター報告,36,1(1993).

5 )小野一晃,辻りえ,安藤陽子,大塚佳代子,柴田穣,

齋藤章暢,増谷寿彦:日獣会誌,56,103(2003). 6 )小野一晃,齋藤志保子,川森文彦,後藤公吉,重茂

克彦,品川邦汎:日獣会誌,57,595(2004). 7 )宮城県保健環境センター年報,22,177(2004). 8 )坊薗慶信,原智之,小林由紀,沓木力晴:日本食品微

生物学会学術総会抄録,p106(2003).

9 )坂崎利一: 食水系感染症と細菌性食中毒 ,p336

(2000)(中央法規).

10)CHRISTIAN FERMER, EVA OLSSON ENGVALL

JOURNAL OF CLINICAL MICROBIOLOGY, 37, 3370(1999)

11)川森文彦,有田世乃,西尾智裕,三輪憲永,増田 高志,秋山眞人:静岡県環境衛生科学研究所報告,

45,5(2002).

12)三澤尚明:日本食品微生物学会雑誌,20(3),91

(2003).

1  は じ め に

重篤な感染を引き起こすVvは西日本,特に九州地方 の沿岸部に生息し,主に魚介類を介してヒトへ感染す ることが知られている1 )

平成13年度から15年度まで宮城県内の沿岸部汽水域 に調査定点(以下定点とする)を設け,海水・海泥に おけるVvの生息状況と市販魚介類のVv汚染状況を調 査してきた。その結果,Vvは宮城県内の汽水域および 一部の市販生鮮貝類,特にアサリがVvで汚染している ことが明らかになった2,3 )

熊本県の調査によると,河川の影響を受けやすい海 水浴場のVv菌量(MPN値)は高いと報告されている4 )。 Vvは食中毒以外に創傷感染からの重篤な敗血症あるい は中耳炎等の感染症の原因になることから,海水浴に よる感染の危険性が危惧される。そこで,本年度は,

定点でのVvの生息状況,市販生鮮貝類のVv汚染実態 調査に加え,河川の影響を受けやすい県内の海水浴場 についてVvの検出状況調査を,さらに調査定点に生息 する貝類等のVv汚染実態調査を実施することとした。

一方,我々はVv菌液を低温あるいは酸性に保持する と菌数が1日目で急激に減少することを昨年度報告した5 )

Vvで汚染したアサリが市販流通過程で菌数にどのような 変化を受けるかを検証する目的で,Vv汚染アサリのモデ ル実験系を用い,アサリを低温保存した場合にアサリ中 のVvが経日的にどのように変化するかを検討した。

以上についての調査を実施し,得られた結果につい て報告する。なお,4年間の調査結果についても考察 を加えた。

2  方 法 と 材 料 2.1 調査期間

平成16年度の定点での海水・海泥,海水浴場及び市販 生鮮貝類についての調査は,4月から11月まで実施した。

2.2 調査定点と検体入手

宮城県名取市閖上(ゆりあげ)地区の増田川河口の 汽水域を定点とし,海水・海泥と生息生物としてミナ トガイあるいはイソガニを採集し,検査検体とした。

海水浴場は,河川が流入する海水浴場Aを選定し,5 月から10月の毎月(6月は除く)採水し,検査検体と した。市販魚介類は地場産品直売所あるいは量販店か ら検査当日購入した。

2.3 使用培地

VvのMPN値算定用及び増菌用としてアルカリペプト

宮城県内の海水および市販貝類からのビブリオ・バルニフィカスの検出

Isolation of Vibrio vulnificus from Sea Water and Commercial Shellfish in Miyagi Prefecture

キーワード:ビブリオ・バルニフィカス;海水;市販貝類

Keywords:Vibrio vulnificus ; sea water ; commercial shellfish

平成13年度〜16年度までの4年間,海洋細菌のビブリオ・バルニフィカス(Vibrio vulnificus:以下Vvとする)

の生息状況調査を実施し,1 )宮城県内の汽水域にもVvが生息する,2 )Vvは海水温が20℃を超える期間に活発 に増殖する,3 )Vvの汚染調査の対象生物としてアサリが適している,4 )夏季に流通するアサリからVvが高率 に検出される,5 )Vv汚染アサリを低温保存することで菌数は経日的に減少する,6 )分離菌のO血清型はO1,

O4a,O6が高い割合を占める,ことが明らかになった。

齋藤 紀行  山田 わか  渡邉 節 小林 妙子  川野 みち  田村 広子 三品 道子  菅原 直子  佐藤 由美1 畠山 敬  谷津 壽郎  秋山 和夫 川向 和雄2

Noriyuki SAITO,Waka YAMADA,Setsu WATANABE Taeko KOBAYASHI,Michi KAWANO,Hiroko TAMURA Michiko MISHINA,Naoko SUGAWARA,Yumi SATO Takashi HATAKEYAMA,Juro YATHU,Kazuo AKIYAMA Kazuo KAWAMUKAI

1 現 がんセンター  *2 現 食と暮らしの安全推進課

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