近年,カンピロバクターによる食中毒が全国的に多 発し食中毒発生件数の30%以上を占めている。カンピ ロバクター食中毒の原因食品は主に鶏肉とされている が,牛レバーが原因の事例も多い。国内外の研究者に よると鶏肉等からのカンピロバクター検出率は40%以 上,牛レバーからは10%以上であるとされている3)〜6)。 今回実施した市販鶏肉におけるカンピロバクター汚染 実態調査の結果,菌検出率は鶏肉で54.5%,鶏レバー 91.0%,牛レバー25.0%と,本県においても市販食肉 がカンピロバクターに汚染されていること,また,肉 よりもレバーの方が高率に汚染されていることが確認 された。牛レバーの汚染は胆汁中の菌によると考えら れることから,牛胆汁について菌検出を行った結果,
30検体中6検体(20.0%)からC. jejuniが検出された。
1検体からはC. coliも同時に検出された。
直接塗抹法で算出した食肉中の菌量は,鶏肉で1検 体が50cfu/gで,他の5検体は検出限界以下であった。
鶏レバーは102/gオーダーのものが7検体で全体の 70%を占め,食肉より内臓の方が汚染が高い値を示し た。川森ら11)も,市販食肉から検出される菌数はg当 たり100以下であることを報告しており,食肉の菌汚 染程度は低いと思われた。しかし,胆汁中の菌量は多 く,胆汁中のカンピロバクターは4℃保存で約2週間
図 3 保存温度別消長試験(B)
表 3 浸出液からのカンピロバクター検出
図 1 C.jejuni分離株の血清型別(Penner)
図 2 保存温度別消長試験(A)
検体名 検体数
陽性検体数
検出率(%)
C.jejuni C.coli
ム ネ 肉 7 2 0 28.6
モ モ 肉 11 2 0 18.2
手 羽 肉 10 3 0 30.0
レ バ ー 4 2 0 50.0
計 32 9 0 28.1
ほどんど菌量変化がないとの報告もあり8),胆汁がカン ピロバクターの汚染源となる可能性が強く示唆され,
と畜場での汚染拡大防止が重要であると思われた。
次に鶏肉からの簡易定性検査法として,食肉包装パ ック内の浸出液あるいは浸出液が浸み込んだ敷紙から の菌検出を試み,32検体中9検体(28.1%)から菌を 検出した。今回,市販鶏肉の少量パックを検査対象と して得られた結果であることから,本検査法は試料が 少ない,もしくは浸出液のみの検体からの菌検出法と して有効であると思われた。
カンピロバクターの血清型別は,Penner型および Lior型で分類されるが,Lior型別用抗血清は市販され ておらず,本研究には市販のPenner型別試験用試薬で 分類した。鶏肉等から分離された69菌株は,44菌株が 16種類の型に分けられたが,25菌株はPenner型では分 類できなかった。血清型はB群,D群が最も多く,と もに10菌株(14.5%)であった。血清型の違いによる 病原性の強さは明らかではないが,B,D群は食中毒 事例から高頻度に検出される血清型である。胆汁から 分離された菌株にはB,D群は少なくB群が2菌株の みで,型不明が72.2%を占めた。通常,細菌性食中毒 の疫学調査では原因菌の血清型別は重要な指標となる が,同一検体から複数の血清型菌株が検出されたり血 清型不明菌株が多数検出される場合のカンピロバクター 食中毒事例においては原因の特定は困難であると思わ れた。さらに,今回のように牛胆汁の1検体からC.
jejuniとC. coliの2種類のカンピロバクターが検出され
る例もあり,カンピロバクター食中毒事例での菌検出 と血清型別による原因究明は慎重にする必要があると 感じた。
カンピロバクターの治療の第一選択剤としてはエリ スロマイシンやニューキノロン系薬剤が推奨されてい る12)。しかし近年ニューキノロン系薬剤に対する耐性 菌の増加が問題となってきており,今回調査した検体
26菌株のうち3菌株(11.5%)がLVFXに耐性を示し
た。しかも,検出した2菌株は市販鶏肉由来であった ことから,今後とも食肉からのカンピロバクター汚染 状況の把握と分離菌のキノロン系薬剤耐性について継 続した調査が重要と思われる。
カンピロバクターは少量菌量で感染が成立するとさ れている8 )。カンピロバクターで汚染された食肉は消
費までの流通過程でいかに菌が消滅していくかを,食 肉に菌を添加して低温保存し実験的に調べた。その結 果,PBSに菌を添加した場合は,−20℃では1日目で,
4℃では14日目で菌が検出されなかった。一方,豚レ バー乳剤に菌を添加した場合は4℃および−20℃でも 7日目までほとんど菌の減少は認められなかった。つ まり,食肉中の菌は低温に管理されていても流通過程 や施設での保管中完全に死滅することなく生残し,食 中毒の感染源となる可能性が示唆された。カンピロバ クターによる食中毒防止のためには,食肉の十分な加熱 調理とともに,調理器具や調理者の手指の消毒を行い 二次汚染防止を徹底することが必要であると思われる。
1 )食品衛生研究,9, 62(2004).
2 )齋藤紀行,白取剛彦,山本仁:医学のあゆみ,136
(7),525(1986).
3 )神保勝彦,小久保彌太郎,金子誠二,桐谷礼子,松 本昌雄:東京衛研年報 ,37,129(1986).
4 )大畑克彦,山崎史恵,佐原啓二,大村正美,増田高 志,堀渉,内藤満,赤羽荘資,花村悦男,山口人志,
森田剛史,木村隆彦,山口俊英,興津馨,勝又國久,
久嶋弘,幾島隆雄,長谷川進明,早川敦子,大成幸 男,服部道明,岡村芳静,宮下弘:静岡県衛生環境 センター報告,36,1(1993).
5 )小野一晃,辻りえ,安藤陽子,大塚佳代子,柴田穣,
齋藤章暢,増谷寿彦:日獣会誌,56,103(2003). 6 )小野一晃,齋藤志保子,川森文彦,後藤公吉,重茂
克彦,品川邦汎:日獣会誌,57,595(2004). 7 )宮城県保健環境センター年報,22,177(2004). 8 )坊薗慶信,原智之,小林由紀,沓木力晴:日本食品微
生物学会学術総会抄録,p106(2003).
9 )坂崎利一: 食水系感染症と細菌性食中毒 ,p336
(2000)(中央法規).
10)CHRISTIAN FERMER, EVA OLSSON ENGVALL
:JOURNAL OF CLINICAL MICROBIOLOGY, 37, 3370(1999)
11)川森文彦,有田世乃,西尾智裕,三輪憲永,増田 高志,秋山眞人:静岡県環境衛生科学研究所報告,
45,5(2002).
12)三澤尚明:日本食品微生物学会雑誌,20(3),91
(2003).
1 は じ め に
重篤な感染を引き起こすVvは西日本,特に九州地方 の沿岸部に生息し,主に魚介類を介してヒトへ感染す ることが知られている1 )。
平成13年度から15年度まで宮城県内の沿岸部汽水域 に調査定点(以下定点とする)を設け,海水・海泥に おけるVvの生息状況と市販魚介類のVv汚染状況を調 査してきた。その結果,Vvは宮城県内の汽水域および 一部の市販生鮮貝類,特にアサリがVvで汚染している ことが明らかになった2,3 )。
熊本県の調査によると,河川の影響を受けやすい海 水浴場のVv菌量(MPN値)は高いと報告されている4 )。 Vvは食中毒以外に創傷感染からの重篤な敗血症あるい は中耳炎等の感染症の原因になることから,海水浴に よる感染の危険性が危惧される。そこで,本年度は,
定点でのVvの生息状況,市販生鮮貝類のVv汚染実態 調査に加え,河川の影響を受けやすい県内の海水浴場 についてVvの検出状況調査を,さらに調査定点に生息 する貝類等のVv汚染実態調査を実施することとした。
一方,我々はVv菌液を低温あるいは酸性に保持する と菌数が1日目で急激に減少することを昨年度報告した5 )。
Vvで汚染したアサリが市販流通過程で菌数にどのような 変化を受けるかを検証する目的で,Vv汚染アサリのモデ ル実験系を用い,アサリを低温保存した場合にアサリ中 のVvが経日的にどのように変化するかを検討した。
以上についての調査を実施し,得られた結果につい て報告する。なお,4年間の調査結果についても考察 を加えた。
2 方 法 と 材 料 2.1 調査期間
平成16年度の定点での海水・海泥,海水浴場及び市販 生鮮貝類についての調査は,4月から11月まで実施した。
2.2 調査定点と検体入手
宮城県名取市閖上(ゆりあげ)地区の増田川河口の 汽水域を定点とし,海水・海泥と生息生物としてミナ トガイあるいはイソガニを採集し,検査検体とした。
海水浴場は,河川が流入する海水浴場Aを選定し,5 月から10月の毎月(6月は除く)採水し,検査検体と した。市販魚介類は地場産品直売所あるいは量販店か ら検査当日購入した。
2.3 使用培地
VvのMPN値算定用及び増菌用としてアルカリペプト
宮城県内の海水および市販貝類からのビブリオ・バルニフィカスの検出
Isolation of Vibrio vulnificus from Sea Water and Commercial Shellfish in Miyagi Prefecture
キーワード:ビブリオ・バルニフィカス;海水;市販貝類
Keywords:Vibrio vulnificus ; sea water ; commercial shellfish
平成13年度〜16年度までの4年間,海洋細菌のビブリオ・バルニフィカス(Vibrio vulnificus:以下Vvとする)
の生息状況調査を実施し,1 )宮城県内の汽水域にもVvが生息する,2 )Vvは海水温が20℃を超える期間に活発 に増殖する,3 )Vvの汚染調査の対象生物としてアサリが適している,4 )夏季に流通するアサリからVvが高率 に検出される,5 )Vv汚染アサリを低温保存することで菌数は経日的に減少する,6 )分離菌のO血清型はO1,
O4a,O6が高い割合を占める,ことが明らかになった。
齋藤 紀行 山田 わか 渡邉 節 小林 妙子 川野 みち 田村 広子 三品 道子 菅原 直子 佐藤 由美*1 畠山 敬 谷津 壽郎 秋山 和夫 川向 和雄*2
Noriyuki SAITO,Waka YAMADA,Setsu WATANABE Taeko KOBAYASHI,Michi KAWANO,Hiroko TAMURA Michiko MISHINA,Naoko SUGAWARA,Yumi SATO Takashi HATAKEYAMA,Juro YATHU,Kazuo AKIYAMA Kazuo KAWAMUKAI
*1 現 がんセンター *2 現 食と暮らしの安全推進課